火を抱えし闇の影

■リプレイ

●影跡遺し
　岩手県の海岸線に広がるは、広大なリアス式海岸。
　闇の帳が落ちた深夜の刻……そこには、多くの人の闇、廃家電製品達が転がっているという。
「不法投棄、て。やつかね」
　と霖道・悠（黒猫狂詩曲・e03089）がぽつりぽつりと言葉を紡ぐと、源・那岐（疾風の舞姫・e01215）と麻生・剣太郎（ストームバンガード・e02365）、アンナ・クドリン（マーグメルドのドルイダス・e43395）の三人も。
「うーん……いつも思うのですが、古くなったからといって捨てるのは何年経っても理解出来ませんね……」
「ええ。冷蔵庫にテレビ、洗濯機……かつて高度経済成長の時代に三種の神器と言われたこれらは、今や当たり前の様に家庭にあって、そして、当然のように捨てられていく……この事件も、そんな当たり前の引き起こした事の一つなんですかね……？」
「そうですねー。家電を買い換えるのはわかりますが、何故、こんなところに捨ててしまうのでしょうかー。うーん、捨てにくる方が大変なのに、私にはわかりませんねー」
「ええ。捨てられてしまった可哀想な冷蔵庫……その放つ冷気が、一般人に及ぶ前に止めてあげないといけませんね……」
「そうですねー。何はともあれ、人里に向かう前に眠らせてあげましょー」
　と、そんな仲間達の言葉に対し頷きつつ、暁月・ミコト（地球人のブレイズキャリバー・en0027）は。
「ええ……寒風吹きすさぶこの時期に冷蔵庫と冷凍庫のダモクレスというのも、中々に厳しい物ではありますね……」
　と瞑目。
　それに明空・護朗（二匹狼・e11656）とミント・ハーバルガーデン（眠れる薔薇姫・e05471）二人も。
「この季節に冷蔵庫って……さむっ。攻撃、なるべく当たりたくないな……」
「ええ。冷蔵庫ですか……この寒い季節に冷蔵庫とは、ますます寒くなってしまうではないですか」
　と、ミコトの会話に加わる。ミコトはこくりと頷きつつ。
「ええ……何やら氷り漬けにさせる寒風も吹きすさぶ様ですし……寒さ対策はしっかりしないといけませんね」
　……と言いつつ、その視線をチラリと愛宕・幸（空気を読まない無貌のヒト・e29251）へ。
　幸の格好は、褌にネクタイという奇抜な格好。そしてヘリオン上ではずっと座禅を組み、精神を研ぎ澄まし……薄目で、ミコトをじーっと観察していた。
　無論、ミコトはその視線に気づいていたものの……はっきりとはしていないから、言葉にはしなかった訳で。
　……でも、ずーっと、じーっと……。
「……ほ～ら、ミコトちゃん。こっちこっち」
　と手を惹きつつ、幸の後頭部へ振り向きざまに、バスターライフルのストックをフルスイング。
「ぬごっ！？」
　そのままヘリオンの床に突っ伏す幸、ミコトが。
「あ、え……だ、大丈夫でしょうか……？」
　心配するも、鞍馬・橘花（乖離人格型ウェアライダー・e34066）は。
「大丈夫大丈夫。ほらほら、作戦はしっかりと打ち合わせとかないとね？」
「そ、そうですね……」
　額に汗するミコト、そんな仲間達の動きをぼんやりと見つめながら優は。
「まァ、処理すんのにも。手間が掛かる、ちゃ掛かるケド。だからって、棄ててコトにはなンねェもんなァ。人間の勝手で棄てられンのに、申し訳無いケド。寒いし、足場も悪いし。ささと終わらせましょー、か。ね」
　懐から取り出した携帯式カイロを手でもみほぐし……そして。
「ええ。こういうダモクレスは、さっさと倒してしまいましょう」
　とミントの言葉に皆も頷いて……そして、その海岸線上空へ到達。
「では、行きましょう」
　と、次々と上空から降下していくのであった。

●氷点下の魔物
　そして、廃棄家電がゴロゴロと転がる、リアス式海岸の岩場に降り立つケルベロス達。
　……周りを見渡すなり、剣太郎は。
「こんな場所にも、家電の不法投棄があるんですね。バレなければ何をしてもいいと言う姿勢も気に入りませんが……仮にも今迄頑張って働いていた家電製品に対する感謝というか……そういうものが欠片にもないのが許せませんね……」
　と、苦言を呈する。
　剣太郎の言葉の通り、家電製品に対する感謝……というのは、中々実行している人も居ない事だろう。
　ただ、その結果今回の様に、ダモクレスが産まれてしまった……と言えなくもない。
　そして、被害がない様、周囲から人を遠ざける為。
「流石に周囲に人気がありませんので、大丈夫だとは思いますが……念のため、人気払いをしておきましょう」
　と、那岐が殺界形成を周囲に展開し、人気を避ける。
　更に足元の状況を再確認……かなり滑りやすい状況なのを確認すると、ミントが。
「やはり、滑りやすい様ですね……用心の為に持ってきた滑り止めが役に立ちそうです」
　と皆に滑り止めや、ブーツを差し出し、滑らないように工夫。
　そして……廃家電製品の山の中を進んで行くと、程なく……ダモクレスがその廃家電製品の山の中からむくり……と起き上がる。
『……』
　言葉は無いが、ウウウウウ、と低い稼働音がケルベロス達を威嚇する様に鳴り響く。
　そんなダモクレスの正面に対峙し、構える剣太郎。
　じっと真っ正面から見据えるも、ダモクレスに目立った反応はないが……。
「壊すのは忍びないですが……悪く思わないでくださいね」
　と一言謝罪の言葉を紡ぎ、ブレイブマインで仲間達に壊アップを付与すると、ミントも。
「全く、寒いのはやはり苦手ですね。冷気に対しては……炎です！」
　と、戦端を築くグラインドファイアを放つと、同列の那岐も旋刃脚の一線を放つ。
　頭上から叩き込む一撃で、ダモクレスにパラライズ効果を叩きつけ、更に剣太郎のライドキャリバーと幸も。
「鉄騎、宜しくお願いします。幸も……宜しく頼みますよ」
「おう！」
　と呼応する様に声を掛け合い、鉄騎が至近距離に接近してのキャリバースピンと、幸のダブルスパイラルバンカーを用いた達人の一撃で嗾ける。
　……そんなケルベロス前衛陣の攻撃を経て、対するダモクレスは。
『……ブゥオオオ……』
　と、冷蔵庫のドアを明けて、超寒風を吹きすさび、ケルベロス達を寒さに包む。
「っ……」
　咄嗟にカバーリングするのは幸……一際寒そうな彼の身体に霜がついていく。
「……大丈夫？」
　と最後衛から護朗がメタリックバーストで回復し、氷り付けを解除。
　そして、ジャマーの悠、そのボクスドラゴンのノアール、そしてアンナの三人が続く。
　悠はグラインドファイアで燃やし上げると、ノアールは仲間に対し属性インストールでBS耐性を付与。
　そしてアンナはドラゴニックミラージュで敵への炎効果を付与していく。
　更に後衛のミコト、橘花、護朗のウイングキャットのタマが。
「ミコトさん、続きましょう」
「あ、はい！」
　と声を掛け合い、橘花がダモクレスの足元を狙ったバスタービームを放ち、動きを鈍らせると、更にミコトもブレイズクラッシュで攻撃。
　そしてタマは、パイロキネシスで勇猛果敢に炎効果を付与した一撃を叩きつけていく。
　……流石に、そんなケルベロス達の猛攻を受けて無傷では居られないダモクレス。
「ほら、どうした？　来ないのかい？」
　と、手をくいくいっ、として更なる挑発を与える幸。
　左右のフラッシュ・ストレンジを展開し、デッドエンドインパクトの一撃を叩きつける幸に、剣太郎はライドキャリバーと連携し、サイコフォースとキャリバースピン。
　更に那岐が黒影弾の一閃を放つと、更にミントも。
「その機動力を奪ってあげますよ、この跳び蹴りを受けてみなさい」
　とスターゲイザーの一蹴。
　そしてジャマーの悠がホーミングアローで射抜き、ノアールはボクスブレス。
　続きアンナがケイオスランサーで攻撃為、橘花のフォートレスキャノン、そしてタマがソードスラッシュで斬り付け、ミコトも猟犬縛鎖。
　……一方、そんなケルベロス達に反撃するダモクレスは、冷蔵庫の寒風に加え、更に冷凍庫のドアを明けて、極寒の寒風を吹き付けていく。
　かなりの寒風は、本当に厳しい。
　が……そんな寒風を耐え続ける幸……すぐに護朗が背後からエレキブーストやメタリックバーストで回復してくれるから、というのもあるが、どうにか耐えきっていく。
　そして、コツコツとダメージを積み重ねていき、経過する事十数分。
　冷蔵庫のドアはかなりボコボコで、穴が大量に空き始めている。
　そして、そんなダモクレスの状況を見て。
「そろそろ……終わり？」
　と護朗の言葉に頷く悠。
「ん……そう、だネ」
　短く頷いた後、悠がグラインドファイアで攻撃すると……一気に火が燃え上がる。
　そしてその炎に包まれる中、更に剣太郎がデッドエンドインパクト、ライドキャリバーのキャリバースピンを続けて放つ。
　その二撃に、ダモクレスの冷凍庫側のドアが完全に破壊。
　冷気が垂れ流しになった状態、そして更に那岐が。
「さて披露するのは我が戦舞の一つ。必殺の銀色の剣閃！！」
　と『風の戦乙女の戦舞・銀』にて、容赦無く斬り刻むと……更にもう一つのドアを破壊。
　……そして。
「そのまま痺れて動けなくなってしまいなさい」
　とミントのスターゲイザーが完全に撃ち貫くと……ダモクレスはその場に完全に破壊されるのであった。

●寒空の下
　そして……ケルベロス達は、どうにか廃棄家電のダモクレスを退治。
　消え失せるダモクレスへ、静かに那岐が。
「今迄ご苦労様。ゆっくり休んで下さいね……」
　と手を合わせ、ダモクレスの冥福を祈る。
　……勿論、ダモクレスに意思があるか無いかは解らないし、冥福を祈る意味があるかどうかも分からないが……。
「……せめて、存在した証ぐらいはあってもいいでしょう。機械は生きてないから？　魂がないから？　……本当に、そうなんでしょうか。僕たちが気がつかない、見えないだけではないのでしょうか……最近、よくそう思います」
　と剣太郎が言うと、ミコトも。
「そうですね……人が愛し、使うモノには魂が宿る、と言います。恐らくここにある廃棄家電製品も……人に愛され、使われ……棄てられた物なのでしょうね……」
　と言うと共に、冥福を祈る。
　……そして、皆がダモクレスへの祈りを捧げた後……。
「さーてと。ヒールで家電製品が治らないかしらー？」
　と、アンナが早速ヒールグラビティを使い、修復を始めると一方、幸は……やっぱり褌とネクタイに、スラスター型偽翼を背負った姿に、インカム、バイザー型情報投影機を装着するという……かなり独特な姿で海岸線掃除を始める。
　……そんな姿に、額に汗を浮かべるミコト……触れてはならない、と判断し、再度視線を外す。それに橘花が。
「ねえねえミコトちゃん。ミコトちゃんはおしゃれとか、スキンケアとかには気を使っているのかしら？」
　と意識を引き離す様に言葉を掛ける。
「え、えっと……そうですね、そういった所には、余り興味が無くて……」
「え？　それはダメよ。戦に身を浸せど、女子の心得を忘れてはならないわ。おしゃれはいかなる時代であれど、女子の心を洗わす鏡なのだから、ね？」
「あ、はい……肝に銘じます！」
　力強く頷くミコトに苦笑する橘花……そして、その後も色々と壊れた所の掃除などを行い……終わり次第。
「さて……それでは、そろそろ帰りましょうか」
　とミントの言葉に皆も頷き、そしてケルベロス達は帰路へつくのであった。

作者：幾夜緋琉	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2018年1月16日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 0／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 3
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