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緑の炎が、和室いっぱいに広がった。
炎が焼いたのは部屋の中央にいた男性のみ。男性の手にしていたカタナごと炎に包まれて、男性は人間としての命を終える。
――代わりに得たのは、エインヘリアルとしての生命。
「中々良い装備じゃない」
袴にカタナを携えた侍のような格好のエインヘリアルを見て、シャイターン『緑のカッパー』は満足そう。
「後で迎えに来るわ。それまでに、一人前のサムライになりなさい」
そう言い残して立ち去る『緑のカッパー』へと、新たに生まれたエインヘリアルは頭を垂れるのだった。
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今回、緑のカッパ―が作りだしたエインヘリアルはサムライ気取りだと、高田・冴(シャドウエルフのヘリオライダー・en0048)は告げる。
「金に物を言わせて刀剣を集めるコレクターだったようだ」
かなり強引に刀を買ったこともあるらしく、その筋の人からの評判はあまり宜しくない人間だったようだ。
「エインヘリアルとなり、金だけでなく腕力にも物を言わせられると喜んでいるようだ」
己の力の誇示、そしてグラビティ・チェインを奪う為に、このエインヘリアルは街中へと向かおうとしているらしい。
「刀剣収集家を探してもらっていなかったら、被害が出た後で気付いたかもしれない……本当に、タイミングが良かった」
刀剣収集家についての情報を集めてくれた伏見・万(万獣の檻・e02075) に礼を述べてから、冴は状況を伝える。
「エインヘリアルとなってしまった男性は、坂の上に屋敷を構えていた。今は坂を下って、市街地へ向かっている最中だ」
周辺に人はそう多くないはずだが、まったくの無人でもないことが予想される。
怪我人を出したくないのであれば、簡単にでも対策を打った方が安心だろう。
「見た目としては、サムライのような姿にカタナを持っているから、一般人と間違えることもないだろう」
武器として得たカタナの切れ味を試そうとするかのように好戦的な性格だ、と冴は付け加え。
「放っておけば、被害はどこまで拡大するか分からない。そうなる前に、みんなの力を貸してほしい」
参加者 | |
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ヴィットリオ・ファルコニエーリ(残り火の戦場進行・e02033) |
伏見・万(万獣の檻・e02075) |
夜刀神・罪剱(星視の葬送者・e02878) |
デレク・ウォークラー(灼鋼のアリゲーター・e06689) |
シャイン・ルーヴェン(月虹の欠片・e07123) |
中野・美貴(刀槍鍛冶師・e16295) |
燈家・彼方(星詠む剣・e23736) |
ユーナ・シャムロック(一振り・e44444) |
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閑静な住宅地にある坂道へ、金属のぶつかり合う不快な音が響いた。
「……ム?」
そんなエインヘリアルは足を止めたのは、行く手を遮るように、道の中央を歩む者の姿が見えたから。
ずんずん進むエインヘリアル、ゆったり歩むユーナ・シャムロック(一振り・e44444)。
どちらも正面を譲らず、ユーナはぶつかる寸前で立ちどまる。
「わたしはユーナ・シャムロックと申します。立派な刀ですね。ひとつ、わたし達とお手合わせ願えませんか」
ユーナがそれとなく示す刀は二本。いずれも鞘に納められたままだったが、その刀を見つめるエインヘリアルの眼差しに薄暗い光が宿る。
「ほぅ……勝てばその刀、貰い受けることが出来るのか?」
問いに、勝てるのであればとうなずくユーナ。
そんなやり取りの間にエインヘリアルの手元を品定めしていた中野・美貴(刀槍鍛冶師・e16295)も口を開く。
「貴方のやり方では、手に入れた刀が泣いているわ……私には聞こえる。持ち主の所に戻すべきね。私は相州伝を受け継ぐ刀鍛冶、美貴よ。貴方の得物、私の作品と渡り合えるかしら?」
美貴の手にあるのは業物刀とフランベルジュ。
どちらもエインヘリアルの興味を惹くには十分だったのか、エインヘリアルの顔が喜悦に歪み。
「ならば――どんな手を使ってでも、オレのモノにしてやろう!」
歯茎までむき出しにする獰猛な笑いと共に、エインヘリアルは飛びかかる。
それと同時に、夜刀神・罪剱(星視の葬送者・e02878)は、ゾディアックソード『罪影の凜華』を握り締めてエインヘリアルの背後から飛び出した。
(「……刀剣なんか、集めるだけにしておけば良かったものを」)
隠密気流によって身を隠していたから、エインヘリアルは気付かない――背後から罪剱らケルベロスが迫っていることに。
「――永劫、嘆いていろ」
刃は背中へと。突然斬りつけられたエインヘリアルが低い声を漏らすのとほぼ同時に、ライドキャリバー『ディート』とヴィットリオ・ファルコニエーリ(残り火の戦場進行・e02033)も飛び出した。
「全てを焼き付くせ、燃え盛る炎の不死鳥よ!」
ヴィットリオの背後から二股に裂ける炎は双翼を思わせる。戦場一円を包むように燃え広がった炎の熱さに鼓舞されて、シャイン・ルーヴェン(月虹の欠片・e07123)は即座にエインヘリアルとの距離を詰める。
ディートのタイヤがエインヘリアルの足を轢き潰し、敵の動きがわずかに止まる。その隙をついて、シャインは軽やかなステップを踏む。
「私と共に踊れ!」
翻るロングドレス、銀髪。
長く伸びた脚が舞うさまは蠱惑的で、しかし刹那でも見惚れれば死に至る。
エインヘリアルの顔面を間近で見るシャインは、戦いの中であっても冷静に思う。
(「救いようのない人間、いや今では『人ならざるもの』か……」)
それが幸か不幸かは、シャインにはわからなかった。
「このっ……お前らァ!」
「剣を抜いたからには、ぶった斬られる覚悟はしてンだろ?」
伏見・万(万獣の檻・e02075)がわざとらしく日本刀を見せびらかすと、エインヘリアルの首から上がどす黒く染まる。
「一方的に切り刻みたい? そりゃァ我儘ってモンだ」
地を蹴ってあっという間に接近――迫撃。
こめかみに浮かんだ血管めがけての斬撃はあと僅かのところでかわされてしまったが、エインヘリアルの額は赤く濡れた。
視界も赤く汚れたのだろうか、エインヘリアルの振るう刃は荒っぽく、精度が低い。
そのゾディアックソードを見つめるのは燈家・彼方(星詠む剣・e23736)だ。
(「僕も戦ってみたかったですが……」)
彼方は今日は愛刀を置いてきている。
剣の蒐集をしていたこのエインヘリアルと戦ってみたかったという気持ちはあるが、今はやるべきことを為すのみ。
天へ掲げたゾディアックソードを起点として広がるのは星座の輝き。後ろから前へ、煌めきはゆっくりと広がっていく。
「悪ィがこちとらサムライの流儀にノってやる義理はねえんだわ」
ゾディアックソードを構える手首を狙って蹴撃を放つデレク・ウォークラー(灼鋼のアリゲーター・e06689)。
持つ手が緩むがエインヘリアルはゾディアックソードを取り落すことなく、剣でケルベロスたちに立ち向かう。
「――狂い咲け。血桜」
じわり、ユーナの喰霊刀『血桜』からは薄紅が広がる。
花の咲いて枯れるまでのように優美に漂う血――それを軌跡として、血桜は新たな鮮血で刃を満たした。
シャーマンゴースト『ジーク』は黒い爪に炎を宿してエインヘリアルへ跳びかかり、美貴自身は刀へと巫術の力を与える。
「来ないでっ!」
弧を描き、足元をかすめる刃。
それにエインヘリアルの動きが鈍るのを見て取ると、美貴は告げる。
「ふふん、私の刀を欲しがるとはね。欲しければ力尽くで獲りにいらっしゃい」
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交錯する刃は時に清廉に、時に忌まわしき音を立てる。
「刈り取ってやらぁ、その魂をよォ!!」
瞬く間に密着したデレクはエインヘリアルを追い越し、刹那のうちに腱を断裂させていた。
容赦ない、迷いもない斬撃は美しい断面を残し、また清廉とした音を響かせる。
鈍くひずんだ音はディートがエインヘリアルの攻撃を受け止めた音。
硬い装甲でもってしても殺しきれない衝撃――ジャリ、と砂を噛んだタイヤが押し負ける。
膠着しかかる状況を打破するのはシャインの蹴り。
跳躍による上空からの奇襲は完全にエインヘリアルの虚を突き、尻餅をついたエインヘリアルの顎に爪先を押し当て、シャインは涼しげに笑む。
「腕に自信があるなら私の首をとってみろ」
「っ生意気な――!」
エインヘリアルの太い腕がシャインを捕まえようとするが、既にシャインはエインヘリアルから遠ざかっている。
その代りにとばかりに接近するのは、ディートに騎乗するヴィットリオだ。
「お返しだよ!」
エインヘリアルへ突撃するディート――飛び上がって斬りつけたヴィットリオはすぐにディートに飛び乗って、惑わすように外周を走り続ける。
走り続けるライドキャリバーの隙を縫って美貴は滑り込み、ジークの放った原始の炎に燃えるエインヘリアルの肉体へと刃を差し込む。
物欲しそうなエインヘリアルの視線は、美貴の得物に価値がある証左。それがなんとなく嬉しいから、美貴の攻撃も鋭さを増す一方だった。
「刀が好きなだけでは、刀を振るう資格などありません」
品性のない、助平さすら感じられるエインヘリアルの視線に嫌悪を覚えつつ、彼方は言う。
彼方の手にあるのは九尾扇。優しい手つきで扇を揺らせば、あやかしの力が癒しの力へと変わった。
「良い刀ですね。使い手に恵まれなかったのが残念です」
ユーナのつぶやきに宿るものは失望か。
振り回すばかりの刃、使うのは剣ばかり……剣士だからといって、剣で戦うのみではないということを、この者は知らないのだろう。
(「ただの愛好家でなければ、当然ですが」)
胸のうちで呟いてから、ユーナは斬撃を浴びせかける。
肉を裂く喰霊刀の柄が熱くなるような感じがした――魂を啜られたエインヘリアルの瞳から一瞬だけ光が消え、すぐに取り戻される。
返り血がユーナを濡らしても微笑が絶えることはない。返り血を顎から滴らせるユーナに、万は目を歪めることで笑みを作り。
「イイ顔じゃねェか。俺の喰う分は残ってるか」
「どうでしょうか、多分……少しは」
自信なさげに首を傾げるユーナと入れ替わりで接近した万は、日本刀で傷を更に深める。
「そんなに好きなら、大事にしまい込んで只管磨いてりゃよかったのによ」
狙うは目玉、駄目ならカタナを握る手首か指。
斬りかかろうとカタナを振り上げた姿勢のエインヘリアルの鼻へと万は切っ先を押し当て、斬り上げる。
血煙が辺りを埋め尽くす――五感のほとんどを奪われているような有様のエインヘリアルは背後へ数歩よろめいて、それでも目の前にいるはずの万に向かってカタナを。
「……どんな時も背後に気を付けた方が良い」
カタナを、取り落した。
仲間のケルベロスすら虚を突かれた表情をしていた――くずおれるエインヘリアルの背後にいたのは、気配を消していた罪剱。
「――貴方の葬送に花は無く、貴方の墓石に名は不要」
動かなくなったエインヘリアルへの最期の贈り物は、罪剱のそんな言葉だった。
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「武具に必要なのは技と愛情、正しき心ね」
涼しげな風に髪をなびかせて呟くシャインは、皆の無事を確認して安堵の微笑をこぼす。
「家は、この坂の上なのよね」
美貴が気にしているのは、このエインヘリアルがまだ人間だった時の住まい。
そこに眠っているだろう刀剣の中には、強奪に近い形で買い取られたものもあると聞いている。
それらを回収して刀商人や刀鍛冶に声をかければ、元の持ち主に返すことも可能なはず……美貴は、頭の中でそれらの算段をつける。
「いつかまた機会があるのでしょうか」
彼方は周辺のヒールをしながら、そう独りごちる。
刀使いとして今回の敵と戦えなかったのは残念だったから、再戦をと願う気持ちはある。
しかし、またエインヘリアルが生まれるということは炎彩使いの暗躍を許すということでもある――難しい表情で沈黙する彼方のそば、デレクは独りごちる。
「……刀に囲まれて満足しときゃアまだ幸せだったろうによ」
今回の敵に思いを馳せるのは、ヴィットリオも同じ。
「高田さんに聞いた限りじゃ、サムライというより悪代官のほうが似合ってそうな人だけど」
悪代官というよりは山賊に近いだろうか、と思い悩むヴィットリオの隣、ディートは小さく駆動音を鳴らしている。
「次の命では剣士として会いたいものですね」
エインヘリアルの消え去った辺りへ声をかけて、ユーナは己の刀を納める。
万はスキットルに蓋をして、坂を下って街へと向かう。
――平和なままの街へと、ケルベロス達の姿は溶け込むのだった。
作者:遠藤にんし |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年1月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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