ユエの誕生日と温故知新

作者:baron

「「明けましておめでとうございます」」
「昨年は御世話になりました。本年もよろしうお願いしますえ」
 ユエはジュースや御神酒を用意した後、会場に皆を案内した。
「お誕生日。おめでとうございます」
「ありがとさんです。寒かったでしょう。中は温かいですし、御煙草吸われる方には外に火を焚いておりますけ」
 座敷は温かな光に包まれ、障子戸の向こうには松明か何かの炎が赤く揺らめいているのが見えた。


「今年はこおゆう趣向を凝らしてみたんですわ。どないでしょう」
「デジカメとパソコン?」
「こっちにはプリンターとハサミ?」
 テーブルの上にはPC一式と安価ながら無数の記録媒体、そして工作可能なハサミやノリがあった。
「福笑いゆう昔の遊びを知っとりますか? それを今風にしよう思いまして。ただ、顔を切られたり笑われたりせんように、服装とか小物だけ取り換えます」
「なんかアバターみたいだね。面白そー」
「他にも色んな格好したい人も居るし、大きい一枚の顔だけ抜いて観光地のアレみたいにしたら色んな服を着た写真作れて楽しいかもね」
 デジカメで撮った写真を使って福笑いなどのゲームをしようという企画らしい。
 遊びとしてはシンプルであり、デジカメを使ったり顔を見て笑われない様な配慮をしているのが今風に思えなくもない。
 話を聞いた中には、カードゲームや凧などを作ろうと言う者も現れる。
「もちろんモデルになるだけで、御酒を呑まれたり煙草喫んでゆっくりされるだけでも構いませんえ。皆で愉しめたらそれでええですけ」
 ユエはそう言って、自分を使った写真をパシャリと映した。


■リプレイ


「そろそろだよ」
「そろそろだね」
 子供達は御屋敷が見えたので、顔を見合わせて頷きました。
 その日は折り良く晴天で、外に出るのも良いかと思えます。
 でも二人が吐く息は白く、もし先客が居たり後からくるお客様が来ても寒い寒いって思うでしょう。
 だから子供達はちょっとした相談をしたのです。
「おれが知らせるから」
 エドワウ・ユールルウェン(夢路の此方・e22765)は片方の眼を閉じて、ネットに接続。
 本日訪問するお相手はパソコンしてるので、きっと電子の妖精さんが伝えてくれるでしょう。
 相棒である箱竜のメルが、『お使い行こーか』みたいなことを言ってくれました。でも……。
「じゃあ僕が声を送りますね」
 地留・夏雪(季節外れの儚い粉雪・e32286)は寒い手をこすりながら、ホーホーと梟のようにメルの手を温めてあげました。
 オコサマーズはそれが良いね、それが良いよと分担作業。
 二人にとっては始めて訪れる場所はいつだって冒険です。もちろん子供達を食べちゃうような悪い魔女はいませんけどね。
『玄関まであと一分くらい』
 とエドワウがメールを送れば。
『着きました。ベルを鳴らしますね』
 と夏雪が声を屋敷の中に送ります。

 するとどうでしょう。
「ようおこしやす。寒かったでしょお。まずは火で温まってくださいな」
「「はーい」」
 ユエ・シャンティエが微笑みながら入口に置いた篝火へ御案内。
 その前まで歩くと一緒に居たメルが、プルプルと震えてワンコの様に雪を振り落とします。
 二人も帽子をはたいて身軽になります。雪に重さは有りませんけどね。
「「ユエさん、お誕生日おめでとうございます……! あ、あけましておめでとうございます」」
「あけましておめでさんです。それと、お祝いありがと」
 三人で一緒になって、あけましておめでとう。
 今年に入って何度も繰り返した言葉ですが、『おめでたい』という言葉は何度使っても良いモノですからね。


「あの、これ誕生日プレゼントです。どうぞ」
 エドワウは花束を。
「僕が出来るおしゃれなプレゼントはこの位です……」
 夏雪はお香の詰め合わせを。
「「改めて、おめでとうございます」」
「こちらこそ改めて。ありがとさんです」
 二人が一生懸命考えて送ってくれた品を受け取って、ユエはニコニコ。
 袂に仕舞ったり、飾っていた壺を花瓶代わりに飾り直した。
「本当はお酒やジュエリーの方がもっとおしゃれかな……? と思ったのですが、僕の歳では買えないので……」
「気にせんでええよ。高価なんもらうわけにもいかんしね」
 夏雪は帽子を抱えながら、はにかんだ。
「でも、ユエさんが好きそうな香りを選んだつもりです……!」
「もっかいありがとうな。大切にするけ」
 夏雪が照れながら言い切ったところで、エドワウが引き継いだ。
「去年はケルベロス活動のサポート、ありがとうございました。また、今年も、おせわになります」
「お互い様やけ、こちらも助かりました。本年もよろしうお願いしますえ」
 お返しにポチ袋(お年玉)をあげたり御礼を言われたり。
 こうして挨拶が一通り終わった後で、ユエはテーブルへ案内する。
「まずはお料理食べましょか。同じもんあるけど、最初は別々のもん食べてな」
「「???」」
 二人は料理を受け取って目をパチクリやった。
 エドワウはお雑煮で、夏雪は大根おろしを使ったミゾレ餅だ。
 同じ物がお客様に一つずつ用意してあるのに、なんでだろう?
「はい。アーンしてキャンセル。はい、チーズ」
 パシャ。
 首を傾げて二人が食べ始めた所で、ユエはデジカメで写真を取った。
 そしてパソコンをいじると、待機させていたディスプレイを立ち上げる。


『ケルベロス・ブレイド!』
 アイキャッチが立ちあがって他のお客様が入力した音声の後、三人と一匹の姿が映し出される。
「あ、おれの写真。あとメルのも」
「僕のもあります。あとユエさんのも」
 画面には二人が食事をし、メルが剥いて無い大根っをクンクンしている姿が映し出された。
「今日のお遊びは、これをな、ちょいちょいってするんよ」
 マウスで矢印動かし、まる描いてチョンチョンチョン。
 御雑煮とみぞれ餅と大根をクリックすると、それぞれ小物として登録。
 それらを入れ換えると……。
「あ、僕が御雑煮食べてます」
「おれは大根かじってるね。しかも箸でつまんでる……」
 器用だねーと言ってると、メルはみぞれ餅をクンクンしていた。
 つまり、コレは写真の中で指定した物。この場合は食べ物を入れ換えたのだ。
 もちろんパソコンの中だけなので、みんなが食べている物が変わってる訳ではない。

「これって他のこともできるんですか?」
「そや。お二人の服を入れ替えたり、メルちゃんに着せたり。まあサイズやら何やら弄る必要あるけどな」
 夏雪が尋ねるとユエは次にお互いの服を選んで入れ換えたり、既に登録してある服を着せて行く。
 その中には紋付袴に始まって、日本の鎧やらエインヘリアルの甲冑。
 あるいはメイド服に大正ロマンスな娘袴などもあった。
「印刷も出来るんだ……。おれはメルを凧にしてみたいな。……食べる方じゃないよ」
 エドワウは自分の顔がメルの胴体にくっついたり、顔が小さいザイフリート王子になったりしても特に顔色を変えない。
 しかし、やっこ凧にしようか、それとも三角形のカイトにしようか悩み始めるのを見てると……。
 無表情ではあるが、どうやら愉しんでくれているようだ。
「あ、これ踊るやつとか車を操縦するやつですよね。せっかくなので、これで遊んでみませんか……?」
 夏雪は褐色になったりボイーンになったりする自分の姿を見ながらあたふた。
 色々触って見て、ゲームを見付けだしたらちょっとだけホっとする。
 エドワウは大きくなったメルに乗って、夏雪は螺旋大伽藍に載って、ユエは狐モードでレースというのを想像してみた。
 悪くはなさそうだがゲームは取り合いで喧嘩したくないので、あまりやったことがない。
「踊るのはどうでしょう? 駄目ですか?」
「ええよ。でも、ちっと待ってな。綺麗になるように加工するけ」
 夏雪がお願いすると、ユエは慣れた手付きでパソコンの中のデータを加工する。
 得意なんですかと聞こうとしたが、良く考えたら依頼の資料を整理するのにパソコンや画像を弄れた方が簡単だろう。
 普段は巻き物の資料を見せてもらっているが、あれは単にまとめた結論や過去貼なのである。
 みんなに口する前の段階で弄っているのであろう。


「おれは後で踊るから」
「なら僕が先に踊って、時間があったらユエさんと一緒に踊りますね」
 エドワウはメルの画像を何枚か選んで、にらめっこしながら一番良い写真を拡大印刷。
 彼がチョキチョキしている間に、夏雪は練習で踊って見た。
 シートの右に一歩動くと、何故か右手が軽快に動く。
 右左と反復横飛びしてみると、右手と左手がリズミカルのスイングしているではないか。
「不思議ですね。僕、あんまり得意じゃないのに、画面の中ではちゃんと踊れてます」
「画像を張り付け取るだけやけ、コンピューターの中の妖精さんが踊るんよ」
 前後左右の九マス分を、間違えずに動くと『こう踊っている筈だ』という順序で手や頭が動くらしい。
 三面画像にすると、デフォルメされたSD夏雪や八頭身の大人夏雪が一緒に踊るのがこそばゆくみえる。
 でも良く見るとSDは可愛らしく踊れているのに、八頭身が少しぎこちないのは無理して画像を引きのばして居るからだろう。
「前・前・後ろ後ろ、左右左右、AB。ふう……ちょっと大変です。ケルベロス用で空を飛ぶとか無くて良かった」
 ふうふう言いながら夏雪は汗をふく。
 こんなに動いたのは、敵を探して右往左往する依頼以来じゃないだろうか。
「流石にそれは発売ようせんやろねえ。あったら面白いんやけど」
「カチューシャは判りますけど、尻尾にも何か?」
 今度はユエが練習する番なのだが、何故か尻尾にゴム製の重りを付けていた。
 そして曲が始まると……。
「おれ、尻尾でボタン押す人始めて見た」
「僕もです。良く練習しましたね……」
 なんとユエは二本の足だけでは無く、お尻フリフリ、器用に尻尾も使って踊り始める。
 途中で片方の足をシートの外に出し、代わりに尻尾でもう片方の場所へ重りをドスン。
 おかげで普通にやったらありえない方向に本体の方が踊っていた。
 それでも画面の中では夏雪と同じポーズなので、なんとも不思議である。
「これなら、うちだけが慣れとるゆうことはないやろ?」
「ですね。でもユエさん、よってません?」
「うん。他のお客と一緒にお酒飲んでた」
 酔って無い! というときは大抵酔っているものである。
 しかし夏雪とエドワウはそんな事は知らないので、気にしないことにした。
 まずは夏雪が一緒に踊り、凧上げの練習した後でエドワウがやる手はずである。
「ここは俺が撮っておくから、後でカルタか何かで使って」
「うん。そうしておきます」
 エドワウがユエの写真を取って、休憩に入る夏雪が加工する予定です。

「写真が少し重いから、やっぱり大きな凧になっちゃった」
 そうしてエドワウは風が吹くのを待って御庭で凧上げを始めるのですが……。
「強い風だから、おれごと飛ばされてしまいそう……。メルはそこで待ってて」
 エドワウがそう言ったので、メルは焚き火の側で休んでおくことにしました。
 気が付いたらスーヤすや。
 夢の中でエドワウとメルは一杯御話しします。『こんにちはおれの友達』『今日は一緒に空を飛ぼう』うん、そうしよう。
 メルの夢の中ではきっと、二人は合体して空を飛んだのかもしれないですね。
「起きなきゃだめだよ。もう帰るから」
「鞄に入れて帰ったらどうかな?」
 楽しい時間もそろそろ終わり。
 メルが起こされた時、二人はお揃いの帽子とお揃いのマフラー付けて帰り仕度をしてました。さっきまで別々の物を付けた写真だったのに、これは不意打ちです。
 なんでも写真を入れた記録媒体やみんなの写真を使ったトランプと一緒にもらったそうです。
「気ぃつけてなー。さいなら、また今度」
「はい、また今度です」
「ありがとうございました」
 良かったね良かったね。
 踊ったりレースしたりトランプしながら一日が過ぎ、二人と一匹は名残り惜しそうに帰ることにしました。

作者:baron 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月14日
難度:易しい
参加:2人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
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