失伝救出~光を求めて

作者:柊暮葉


 ループ。

 チチチチ……。
 生い茂った木陰から鳥の声が聞こえる。燦々と降り注ぐ太陽の光。修行中の子供達の掛け声。勇ましく修行する子供達を暖かく見守る大人達。
 いつもの平和な光景だ。
 大侵略期とはいえ、この隠れ里の山寺にまではデウスエクスの魔手は届いていない。
 彼は、そう信じていた。
 しかし、ループは繰り返される。
 ある日突然、その山寺に3体のエインヘリアルが襲ってきたのであった。
 エインリアルはまずは弱い子供達に襲いかかった。当然、大人達が前に飛び出て庇い、子供逃がそうとする。その大人達を、エインヘリアルはルーンアックスで血に染めた。
「やめろーッ!!」
 彼と、修行仲間達は、エインヘリアルへと特攻で突っ込んで行った。
 デウスエクスを相手にかなう訳がない--そう思った瞬間、彼は覚醒した。彼は光輪拳士であったのだ。
 爆発的な力でエインヘリアルを押していく彼。しかし、3体が相手では善戦虚しく、やがて彼も凶刃の前に倒れ伏した。血を吐きながら、ただ平和を願った。

 気がつくと、彼は寺の境内で仲間と雑魚寝をしていた。
(「夢だったのか……」)
 そう思い、仲間を起こして一緒に子供達の修行を見に行く。そこでは鳥が鳴き、光が降り注ぎ、明るい掛け声に満ちている。
 そこに現れるエインヘリアル。ループされる惨劇。
「ああ、彼らがいてくれれば……」
 彼は戦いに赴く仲間に呟いた。
「彼ら? なんのことだ?」
「……いや、なんでもない」
 彼は自嘲した。そうだ。デウスエクスに対抗出来る手段など地球上にはない。ないはずなんだ。それなのに何故、そんなことを思ったのだろう……。ああ、平和が恋しい。


「寓話六塔戦争勝利、おめでとうございます」
 ソニア・サンダース(シャドウエルフのヘリオライダー・en0266)が集めたケルベロス達に説明を開始した。
「この戦いにより、囚われていた失伝ジョブの人達が救出されました。また、救出出来なかったジョブの方々の譲歩も得る事が出来ました。得られた情報と、ヘリオライダーの予知により、失伝ジョブの人々は、ドリームイーター『ポンペリポッサ』が用意した、特殊なワイルドスペースに閉じ込められています」
 ソニアは珍しく真剣な顔になった。
「囚われた人々は、ワイルドスペースの中で、大侵略期の残霊達により、延々と悲劇を繰り返させられています。現実を誤認、錯覚している人々には現実の事です。これは、失伝ジョブの人々を絶望で闇に落とし、反逆ケルベロスとするための作戦と思われます」
 ソニアは目に強い光を宿す。
「しかし、寓話六塔戦争に我々は勝利しました。それにより、彼らが反逆ケルベロスになる前に、救出する事が可能です。是非、この特殊なワイルドスペースに乗り込み、繰り返される悲劇を消し去って、閉じ込められた人々を救出してください。我々は可能性を手にしているのです」


「まず、特殊なワイルドスペースは、失伝ジョブの人々以外の人間は出入りする事が不可能であるようです。そのため、この作戦に参加できるのは、失伝ジョブを持つケルベロスだけとなります」
 ソニアはケルベロス達に資料を配り始めた。
「ワイルドスペースは、隠れ里の山寺を模した空間になります。山寺の中には避難してきた人々が身を寄せ合っています。そして彼らを守るために、庭で戦っている光輪拳士達がいます。彼らが救出対象者になります。他にも何名かの光輪拳士や修行中の子供もいますが、彼らは残霊となります。他のエインヘリアルも、避難民達も、残霊ですね」
 ソニアは重い表情で頷いた。
「エインヘリアルは3体ですが、相手は残霊ですので、実際のエインヘリアルよりも弱体化されていることが予想されます。仲間になったばかりの皆さんでも勝利可能と思われますが、油断はしないでください」
「また、ワイルドスペースに長時間とどまると、我々もまたワイルドスペースに囚われてしまう危険があります。戦闘を終えた場合は、その場で調査などはせず、速やかに救出対象者を連れて逃げてください」
 それからソニアはエインヘリアルの資料を配った。 
 今回の獲物はルーンアックスである。

 ルーンディバイド頑健近単破壊+【服破り】ルーンを発動させ、光り輝く呪力と共に斧を振り下ろします。
 スカルブレイカー理力近単破壊+【プレッシャー】高々と跳び上がり、ルーンアックスで敵を頭上から叩き割ります。
 ブレイクルーン頑健遠単ヒール+【破剣】味方に「破壊のルーン」を宿し、魔術加護を打ち破る力を与えます。
 ダブルディバイド頑健近単破壊+ジグザグ2本のルーンアックスを高く掲げ、敵の両肩を狙ってクロスに斬りつけます。


 最後にソニアは言った。
「こんな、悲劇を乗り越えて戦い続けてきた、失伝ジョブの先達の為にも、必ず救出してあげてください」


参加者
今・日和(形象拳猫之形皆伝者・e44484)
霧島・辰馬(断魔の業身・e44513)
ブランシュ・スノードロップ(甘きブランネージュ・e44535)
霧島・光牙(護光機人と緑茶な仔龍・e44784)
烏賊流賀呑屋・へしこ(の飲む独活の緑茶は苦い・e44955)
鵤・道弘(チョークブレイカー・e45254)
燎・月夜(雪花・e45269)
風穴・湊(レプリカントの妖剣士・e45288)

■リプレイ


 ドリームイーターによって作られた、魂の牢獄で、彼ら--二人の青年が、心を折られかかっていた。

 ワイルドスペースで作られた山寺の境内。
 ルーンアックスの凶刃が閃く。
 鈍い輝きを放つ星霊甲冑(ステラクロス)を纏い、エインヘリアル達は次々と人々を屠っていく。
 そこで二人の青年は、人々を守るために抗う。
「抗神拳ッ!」
 輝きを放つ拳でエインヘリアルを殴り飛ばす。
 驚愕するエインヘリアル達の前で、仲間と背中合わせになり、必死の抗戦を仕掛けていく光輪拳士達。
「同門を……子供達を……殺させはしないッ!!」

 しかし、なんといっても数の差があった。3対2ではどうしても押されてしまう。まして相手は手練れであり、光輪拳士達は覚醒したばかりの未熟な存在であった。血塗れになり、傷つきながらも、気力を振り絞って抗う二人。
「しぶといガキどもめ、大人しく死ねッ!!」
 背後に泣いている子供を庇いながら倒れそうになっているる二人に、トドメの一撃が振り下ろされる--。

「出来るだけ早く行かないと、子供達が殺されちゃう。急ごう!」
 今・日和(形象拳猫之形皆伝者・e44484)は、全速力で空を飛んでいる。
 山寺の山門をくぐり抜けて前に出た瞬間、惨殺されんとする光輪拳士達の姿が目に飛び込んできた。
「させるもんかあ!」
 宙を飛びながら日和は、エインヘリアルの1体へ縛霊撃で特攻をしかけた。
 縛霊手で殴りつける瞬間に、網状の霊力を放射して捕らえる。
 今にも倒れ伏しそうになっていた光輪拳士二人が驚愕の表情を見せる。
 翼を広げながら日和は振り返った。
「ボク達が来たから、もう大丈夫。一緒に戦おう!」
「だ、誰だ……」
 戦いに疲弊していた光輪拳士はすぐには目の前の光景が信じられない。震える声でケルベロス達を誰何する。
 その隙に襲いかかってくるエインヘリアル2体。
「危ないッ!」
 そこに烏賊流賀呑屋・へしこ(の飲む独活の緑茶は苦い・e44955)が滑り込んできた。
 ペイントラッシュでエインヘリアル1体に塗りつぶしの追撃を仕掛けていく。
「光輪拳士の旦那方ァ!! あっしらの後ろまで後退してくだせェ!!」
 へしこは自分が前に出ながら光輪拳士達へと叫んだ。
 鵤・道弘(チョークブレイカー・e45254)、燎・月夜(雪花・e45269)、ブランシュ・スノードロップ(甘きブランネージュ・e44535)達も続々と山寺の庭に駆け込んできて、光輪拳士達を庇い、前に立った。

「お待たせー! 『彼ら』って、ボク達の事かな? ボクも光輪拳士。皆さんのおかげで、ボクも光輪拳士として戦えるんだ。だからガンバって。ボクも一緒に戦うから!」
 日和が明るい笑顔を見せてそう言った。
 光輪拳士達は、その笑顔を眩しそうに目を細めて見る。
「味方……?」
 ずっと二人だけで戦い続けて来た精神には、その存在が、何よりもありがたかった。

「「わいるどすぺぇす」てェのは厄介なもんですなァ。まだまだ囚われの戦士がいらっしゃるってんだからねェ」
 へしこはドリームイーターが作り上げた異空間の中をしげしげと眺め回してため息をついている。

「下らん、残霊となってまでも、弱者を虐げることにしか興味がないとは……勇者とは、嬲ることしか出来なくなった、屑の成れの果てなのか?」
 霧島・辰馬(断魔の業身・e44513)は死にきれなかった後悔とデウスエクスへの怒りを胸に、零式鉄爪を敵へと向ける。

「敵も大概悪趣味だよね……皆の救出が最優先だけど、この相手もここで倒しておかないと」
 ブランシュ)は、生クリームを塗る巨大なフォークを掲げている。

「もしかしたら捕まってたのは俺等かもしれねぇんだ、助けねぇ理由はねぇな。ループなんぞから抜け出して、新しい道を示してやろうじゃねぇか!」
 道弘は亡くなった妻の事を思い出しながら叫んだ。

「囚われの同胞達ですか……私達もケルベロスに救ってもらった身、次は私達がケルベロスとして彼らを救ってみせましょう」
 月夜は喰霊刀を握り締め、背後の光輪拳士達を振り返る。
「ケル……ベロス……」
 光輪拳士達は、その名を口にした。目尻に微かに涙が浮かんだ。
 ケルベロス。その名は、彼らにとって正しく希望。この呪われた牢獄を脱出する可能性。

「ケルベロスとしての初めての依頼だね。緊張はするけど同じ失伝継承者が助けを求めているのなら助け出してみせるよ!」
 風穴・湊(レプリカントの妖剣士・e45288)は、友への誓いを思い出しながら、ドラゴニックハンマーをエインヘリアル達へと突きつけた。

 霧島・光牙(護光機人と緑茶な仔龍・e44784)は、ボクスドラゴンのやぶきたとともにエインヘリアルを見据えていた。
『俺を導いてくれた人の為にも、強くなりたい』
 導いてくれた人は--失伝者の一族であった。
 ケルベロス達は皆、傷つき疲れた失伝ジョブ光輪拳士達を背に、3体のエインヘリアルへと立ち向かう。

「ふん、虫けらが多少増えたところで、状況は変わらない」
 エインヘリアルのDf1はルーンアックスの刃を輝かせて呟く。
「貴様らの先にあるのは絶望の地獄のみ」
 Df2はせせら笑うとルーンアックスを高々と掲げる。
「ケルベロスどもよ、貴様らも牢獄に捕らえられ、絶望と屈辱に喘ぐがいい!」
 Mdが後列から猛々しく叫んだ。

「威勢だきゃあよろしいようですな! ですが攻撃が望み通りに通ると思わない事ですな!」
 人間達を見下した言葉に対して、へしこがそう怒鳴り返した。
「臆病な輩ほど、人を見下し攻撃的になるものです」
 穏やかに、だが冷ややかに光牙がそう言った。
 そして道弘が青ざめている光輪拳士達を振り返った。
「助けに来たぜ、シャキッとしやがれってんだ!」
 エインヘリアル達の顔色がさっと変わる。
「黙れッ!!」
 Df達が一斉に斬りかかってきた。
 Mdは後ろからブレイクルーンを使い始める。Df達に「破壊のルーン」を宿し、魔術加護を打ち砕く力を授けた。
 Df1はルーンを発動させると、呪力で輝くルーンアックスをへしこへと振り下ろした。
「ぐっ……」
 ペイントブキで受け止めながら、力に押されて後退するへしこ。
 Df2もまたルーンディバイドを振るい、光牙を吹っ飛ばそうとする。光牙は必死に阿頼耶識の輝きでダメージを半減させるが、衝撃に身を震わせ、崩れ落ちそうになった。
 やはり残霊とはいえエインヘリアル。強い。

 ダメージを受けた光牙とへしこ。
 しかし、光牙はすかさず爆破スイッチを押して背後にカラフルな爆炎を巻き起こす。士気が高まり、体が回復されていく。
 続いてやぶきたが主人へと属性インストールを入れた。
「いくよー! 回復は任せて!」
 ブランシュはゾディアックソードで地面に守護星座を描き、その輝きで仲間達を守る。
「デウスエクスが3体か。残霊とはいえ相手はデウスエクス、油断はできないね。僕一人ではまだまだ打ち勝てない脅威だろうと皆と一緒なら大丈夫。彼らに希望を見せるためにも頑張ろう!」
 湊はドラゴニックハンマーから竜砲弾を撃ち出し、Mdを攻撃した。
「さァさ、あっしのブキ捌き、篤とご覧あれ!」
 回復を受けたへしこは、ペイントブキで「ラクガキの怪物」を作り上げる。現れた巨大な犀はMdへ猛突進し、角でその胸を突き上げた。

 そこで傷ついた光輪拳士達が動いた。
 互いに呼吸を合わせながら、同時に敵の「気」を掴むと、遠くへと投げ飛ばす。
 遠気投げでMdを攻撃して、ケルベロス達へ加勢しようとした。
「俺達だって……!!」
 しかし、傷ついた体では遠距離攻撃すらも辛かった。
 攻撃の後に、二人とも、咳き込みながらその場に膝をついてしまう。

「む、無理はしないでくだせぇよっ! 下がって!!」
 へしこが目を剥いてそう叫んだ。

 その彼らを庇い、道弘は零式鉄爪により空間を切り裂く真空波を作り上げる。
 裂帛の気合いで真空波を撃ち放ち、エインヘリアルMdを引き裂いていく。
 真空の刃がMdの喉に命中し、切り開く。鮮血を噴き上げてMdは脳天から後ろに倒れ、動かなくなった。

「何っ」
 エインヘリアルのDf達に動揺が走る。
「バカな……我々が!?」
 しかし、よそ見をしている暇はなかった。
「貴様らが、暴虐を幾度とも繰り返すのならば!!!  儂(オレ)は、この怒りを以て、貴様らを蹂躙してやろう!!!」
 辰馬がエアシューズに嵐のような暴風を纏い、Df達に駆け寄ると、猛烈な回し蹴りを見舞った。荒れ狂う暴風が、エインヘリアル達のブレイクルーンの加護までも吹き飛ばしていく。
「えーい、切り裂けっ!」
 日和は続いて電光石火の如き蹴りで敵の膝関節を蹴り上げ、麻痺させた。
 そして月夜は二振りの喰霊刀を操り、その力を暴走させていく。
 喰霊刀究極奥義、喰霊殲神剣。二振りの刃がDf1を屠ろうとする。

「あ--ありえない。虫けらごときが、我々をっ……」
 峻烈な波状攻撃を受けながら、Df達は喘ぐ。
「貴様らには敗北が似合う、勝利などありえないのだ!」
 Df1は醜いぐらいの猛烈さでルーンアックスを振り回した。
 瞬間、高く跳躍すると、Df1は、斧を振り回しながらへしこを頭上から狙い、脳天を叩き潰そうとする。
 Df2もまたスカルブレイカーでジャンプしながら辰馬を狙う。辰馬の頭蓋骨を叩き割る勢いで振り下ろされるルーンアックス。辰馬は零式鉄爪で受け止めようとするが、震動で大きく後ろに下がる。

「私を忘れちゃ困るね!」
 ブランシュは再びスターサンクチュアリを使い、仲間を守り、へしこと辰馬を回復していく。
 光牙は光り輝く掌をかざして、へしこを遠隔から回復していく。
 主人の真似をするかのように、光牙もへしこへ属性インストール。
 辰馬は零式鉄爪を鋭く掲げると、そのまま独楽のように大回転しながらDf1とDf2を攻撃する。切り裂かれていくDf達。
 湊は流星の煌めきと重力を利用し、エアシューズでDf1に跳び蹴りを入れる。
「これはキミを呪い殺す鏡。よーく見なさいっ!」
 日和はDf1を降魔真拳でタコ殴りにした。
「余裕が出てきやしたなァ。さっさと片ァ付けやしょうかねェ!」
 立ち上がったへしこは、再びラクガキファントムで落書きの鵺を召喚し、Df1を攻撃した。
 道弘はバスターラーフルから凍結光線を発射する。
 痛めつけられ弱っていたD1はみるみるうちに凍り付いていき、氷像となって破裂し、トドメを刺された。

「虫けらの犬っころが……いい気になるなよ……!!」
 Df2は、二本のルーンアックスを交差させながら構え、吼える。
「貴様らには敗北しかない! 貴様らには絶望しかない!! 虫けらに、明日などありえないのだ! この罪の牢獄で死ね!!」
 Df2は二本のルーンアックスを交差させながらへしこの両肩へと斬りつけていく。十字に抉られていく筋肉。噴き上げる鮮血。倒れるへしこ。

「ゆる……せない……!」
 光輪拳士達は唇を震わせると、立ち上がり、再び、エインヘリアルへ遠気投げを始めた。
「小癪な、虫けらどもめ、死ねぇえ!」
 怒りの形相でエインヘリアルが怒鳴る。だが、光輪拳士達は遠気投げをやめなかった。仲間のために。明日のために。

 光牙はすかさず黄金掌でへしこを回復していった。
 やぶきたも属性インストール。
「まってて、今終わらせるから」
 ブランシュはへしこの体にかっこいい英雄の紋章を描き上げ、彼女を智勇する。
「絶望は僕達の力で断ち切ってみせるよ!」
 湊は喰霊刀に無数の霊体を憑依させると、思い切りDf2に斬りかかった。傷口から汚染されていくDf2。
「そこっ、スキだらけだよっ!」
 日和は指先でDf2の気脈を絶ち、石化させていく。
 月夜はブラックスライムを操り捕食モードにすると、Df2を丸呑みにさせて捕縛した。
 辰馬は、捕らえられたDf2を「零の境地」を乗せた拳で殴打し、さらに石化させていく。
 道弘はDf2の弱点を見抜くと、痛烈な一撃で装甲を撃破した。
 そこに、へしこがペイントブキで襲いかかった。
 遠隔から凶悪なるデウスエクスに塗料を飛ばす。飛ばす。飛ばしまくる。そして塗りつぶす。
「あっしァ泥水啜ってでも生き残るんでさァ!」
 明るく豪快にへしこは叫んだ。絶望の悪魔を塗りつぶしながら。
「死!? 絶望!? 敗北!? 明日はない!?!? そんなものは、この通り、全て塗りつぶしてごらんにいれやす!! 生! 希望! 勝利! 明るい日々へとねェッ!!」
 ラッシュ! ラッシュ!! ラッシュ!!!
 Df2は完全にペイントで塗り潰され、息もつけずにのけぞりながら倒れていった。
 戦いは、終わった。


「みんな大丈夫?  動けるかなっ? はやくここから脱出しよう! またエインヘリアルが来ちゃうよ! 今まで殺されたりした人達の分も、ボク達が戦わないとね!」
 日和が呆然と立ち尽くしてる光輪拳士達に駆け寄った。
「悲劇は去った。が、また始まらないとは限らない」
 辰馬が光輪拳士達に話しかけた。
「俺達は救う為の手は差し伸べるが、どうしても不可能は出てきてしまう。残霊は『刻まれた事実』だという。過去の事実は覆すことは出来ん。だが、俺らという存在が、彼らにとっての光であるなら、絶やしてはならない」
「過去の事実……」
 光輪拳士は涙に目を潤ませる。
「残霊である彼らは取り戻せないかもしれません。ですが、俺達がこうして、今この場所に居るのは、彼らが護ったことによって未来が護られたという事実に他なりません」
 坊主である光牙は山寺の庭に倒れ伏す被害者の遺体に手を合わせた。
「ここは過去を模した、無限のループです。彼らも、未来の希望を、過去に囚われたままにすることを、望まないでしょう。一緒に行きませんか」
 その言葉を聞いて、光輪拳士達は静かに涙を流しながら、被害者達へと己も手を合わせた。
「さっさとズラかりやすぜ!!こんな所に長居は無用でさ!」
 それを見届けてへしこが言った。
「ちょいと信じられねぇかもしれねぇが、幻想からおさらばする時間だぜ!」
 道弘は、光輪拳士達を連れてワイルドスペースからの離脱をはかった。
「さあ、もうあなた達も自由の身です。帰りましょう。仲間が待っています」
 月夜は穏やかに告げた。そして、残霊の仲間に涙を流す光輪拳士達の心へ、かすかにだがぬくもりを感じた。
「長時間留まるのは危険なようなので注意しなくてはいけないね」
 湊が光輪拳士達を連れて、駆け出した。

 呪いの牢獄から光輪拳士達は脱出した。
 繰り返される敗北の惨劇から抜け出し、明日へと。希望の世界へと、踏み出したのだった。

作者:柊暮葉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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