失伝救出~果てる刻まで、狂い咲く

作者:黒塚婁

●さだめ
 悲鳴が上がる――肉片を振り払うべく掲げられた太刀が、血に染まって鈍く光る。
 襲撃者の表情はうつろだ。だが眼光はぎらぎらと輝いている。
 ゆらりゆらりと歩く姿は幽鬼のようでいて、実際の足取りは確りとしている。そして、獲物を認めるや否や、一足にて追いすがる――そんなものが此処には何体もいた。
 逃げ惑う人々に対抗する術はなく、一刀にて斬り伏せられる。
 辺り一面、死屍累々の地獄絵図。血で咽ぶようなその場所へ、彼らは駆けつけた。
「間に合わなかったようですね……」
 太刀を佩く剣士が小さく呟く。声音に宿るは、悔いよりも憐憫。襲撃者へ向ける眼差しも、どこか悲しげだ。
「悠長なことを。いくぞ」
 ひとりが叱咤するのへ応えるように――次のひとりが、鯉口を切り、進み出る。
「呪詛に狂うは我らが運命。いずれ俺もそうなるだろうが――先に逝け」
 自嘲を浮かべたまま地を蹴り、血にまみれた剣士へと臆せず斬りつける。
 一閃、二閃――たちまち周囲を取り囲む妖剣士のなれの果てたちと死合う。
「貴方は未来の私。だから斬る。いずれ私も仲間に斬られ……それが応報となるでしょう」
 狂気に支配された友を、屠ることもまた妖剣士の運命か――返り血を浴びながら、その臭いと心地よさに酔いしれ、彼らは躍り続ける。

●救援の手
「まずは寓話六塔戦争の勝利、見事だった」
 雁金・辰砂(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0077)は短く、ケルベロス達を労った。
 戦争の勝利により、失伝ジョブの人々を救出、及び情報を獲得でき――彼らの救出に向かうことが可能となった。
 彼らは『ポンペリポッサ』の特殊なワイルドスペースに閉じ込められており、大侵略期の残霊によって引き起こされる悲劇を繰り返させられている。
 これこそ、失伝ジョブの人々を絶望に染め、反逆ケルベロスとする為の作戦だったのであろうが。
「仕組みが解ったならば、こちらの打つ手は決まっている。疾く、彼らを救出してもらいたい」
 ただ、ひとつ。
 問題がある、と辰砂は金の目を細めて言う。
 この特殊ワイルドスペースには、失伝ジョブの人々以外の人間は出入り不可能――つまり、この作戦に参加できるのは、失伝ジョブを持つケルベロスのみということになる。
「幸い、敵は残霊。数はいるが、さほどの脅威でもない。新参の貴様らでも充分に戦える」
 辰砂はそう言い、ワイルドスペースの状況について説明を始める。
 ワイルドスペースの内部は、どこかの市街地――既に周囲は廃墟と化し、道は血に染まり、いたるところに屍が転がる地獄のような場所だ。
 一般人を襲った狂気に染まった妖剣士たちへ、数人の妖剣士が対峙している状況の中に飛び込むことになる。
 この中では、救助対象の妖剣士たち以外は――無論、犠牲となる一般人すら――すべて残霊なのだが、厄介なことに彼らは『敵である妖剣士を仲間』であると認識しているということだ。
「大切な仲間であるからこそ、自らの手で決着をつけようと戦い続けている……よって、ここで貴様らが残霊を殺せば、救出対象である妖剣士たちは貴様らを憎み、襲いかかってくるだろう」
 単純に反撃してしまうと、彼らは本当に死んでしまう――ゆえに、戦いながらケルベロス達が敵では無いこと、同時に彼らの絶望を打ち払う説得が必要となる。
 そこで絶望を振り払う事ができたもののみ、救うことができる。
「難しい説得は必要ない。戦い続ければいずれ狂ってしまうという絶望に、ただ希望を与えてやれば良い」
 ここまで語り、辰砂はつと最後に付け足す。
「この舞台はよく出来ている……貴様らも狂気に駆られぬよう、早々に戻ることだ」
 その時により多くの仲間と帰還できることを祈っている――その言葉で締めくくり、彼は説明を終えるのだった。


参加者
黎薄・悠希(憑き物の妖剣士・e44084)
トール・オーディン(レプリカントの甲冑騎士・e44101)
名雪・玲衣亜(不屈のテンプレギャル・e44394)
クオン・エクレール(血桜紅月・e44580)
ペル・ペル(黒兎のギフト・e44763)
刻杜・境(融けた龍血結晶・e44790)
ゴルガーダ・ギヌスローン(ドラゴニアンの甲冑騎士・e44856)
ゲンティアナ・オルギー(蒼天に咲くカンパーナ・e45166)

■リプレイ

●血
 血の臭いがする。同時に、饐えた臭いと焦げた臭いが混じるが、より強いのは生々しい血のそれ。
 周囲には朽ちた市街地の残骸、息絶えた人々の亡骸が転がる。これらが残霊と知っていてもなお――刻杜・境(融けた龍血結晶・e44790)は目を細めた。
「これは過去の残響、きっと……過去の何処かでこの光景があったのよね。過去に囚われている姿は……本当に可哀そう」
「おう、早く解き放ってやれと神もいっておられる!」
 言うというよりは言い放つというのが相応しいような、地を響かせる声量で、ゴルガーダ・ギヌスローン(ドラゴニアンの甲冑騎士・e44856)は、そのままガハハと笑う。
 ワイルドスペースに突入するなり、市街地のただ中に放り出された形であるが、目指すべき場所は明らかだ――血の強く臭う場所。
 ――悲鳴が聞こえる。ケルベロス達は駆けているが、それは徐々に少なくなっていく。
 彼らの視界に、今にも衝突せんとする妖剣士達の姿を見た。
 どちらも服装こそ現代人のそれと同じだが、片方はべったりと――まるで頭から血を被ったように全身を朱で染めている。抜き身の太刀を所持していることから、これが残霊のそれであろう。
 冷静に見極め、ゲンティアナ・オルギー(蒼天に咲くカンパーナ・e45166)は前置きも無くいきなり仕掛けた。
 無数の黒鎖が妖剣士達を狙い、扇状に放出される――足をとめた救援対象の妖剣士たちへ、そう、そのまま邪魔をしないでと裡で零し、後続する仲間達に進路を譲る。
 対峙するそれらの中心に、凄まじい剣風が吹く。大雑把な剣閃は空を掻いたが、妖剣士達は反射的に距離をとる――その間に立ち塞がるように、トール・オーディン(レプリカントの甲冑騎士・e44101)が山のように構えた。
 更に巨大な黒影が横に並んで、更に壁となる。
「そこまでよ。あなた達の剣は、その人達に向けるものじゃないわ。……いいえ、あなた達にとっては、つけるべき決着かもしれないわね。でも、それだけが全てではないはずよ」
 黎薄・悠希(憑き物の妖剣士・e44084)がクロマの背から声をかけると、豪快な哄笑が響く。
「よくぞ持ちこたえた小童ども! ここはワシに任せよ! 徒に狂気を積み増すでないぞ!」
 ゴルガーダが守りを固めながら、妖剣士達へと声をかけた。
「そ。そんな鬱になんなくてダイジョーブ」
 重ねるように、名雪・玲衣亜(不屈のテンプレギャル・e44394)が、不敵な笑みを見せた。
 特に大きいわけではない彼女の声は、戦場の喧噪に掻き消されることもなく、不思議と強く耳に届いた。
「妖剣に狂う剣士なんて時代が古いわよ。わたしたちはケルベロス、自らの呪いに打ち勝ち戦うものよ!」
 満月のようなエネルギー球を手に、ペル・ペル(黒兎のギフト・e44763)が凄絶な美貌をもって、美しい笑みを浮かべる。
 ここでようやく、妖剣士達は闖入者達の目的を認識できたようだ。
「――悪いが、これは我らの問題……」
 ひとりが声をあげようとしたとき、寄声をあげながら、敵が斬りかかってくる。
 進路へ割り込み、境が無造作に腕を広げる。巻き付けてあった包帯がはらりと解け、竜の双腕があらわになった。
 刃ごと抱き留めるように、彼女は妖剣士を庇う――斬りつけられた箇所は浅いが、流れる一筋の血――混沌の水が落ちていく。
 あっ、と思わず声をあげたのは妖剣士であろう、だが、クオン・エクレール(血桜紅月・e44580)は平静に、音も無く地を蹴った。真紅の鮮血装が涙を零す。
「貴殿らに守りたい者はあるか?」
 短く問いながら、無数の霊体を纏わせた漆黒の妖刀を、狂気にのみこまれた剣士へと振り下ろす。
「あるならば、狂気に、呪いに流されそうな時はその者の笑顔を思い出せ」
 彼女の言葉は淡淡と、表情一つ動かない。
 仕留めきれなかった剣士の頭部を、竜砲弾があっさり砕く。
 うわ、グロ……とドラゴニックハンマーを不器用に抱きかかえつつ、玲衣亜は思わず呟く。
 今まで戦いには無縁だった彼女は、未だ武器の扱いや戦場そのものに慣れないのだが――その気配には、本能で気付いて、ハンマーを盾に血塗れの刃を受け止めた。
「ちょっ、待った待った! 近いってーの!」
「五ノ刻、黎明。十七ノ刻、薄暮。始り、終わりの交わり、来たりて――――宵闇、瑠璃斬!」
 ワイルドスペースの中であろうが、世界の時間をねじ曲げ、黎明時と薄暮時の異なる時刻が混じり合う。
 瑠璃色に包まれた世界からの神速の一刀――放つ刃もまた瑠璃色、悠希は玲衣亜を襲うそれを背後から斬り伏せる。
 決まれば一撃で討ち取れる強烈な一閃だったが、手応えは浅かった。
 狂気に染まれど、苦痛は感じるのだろうか。敵は傷を庇いながら、距離を取る。
「悠希サンキュ! それヤバくね? マジ卍」
 軽いが素直に賞賛に悠希は思わず笑みを浮かべたが、妖剣士達を振り返り、言葉を掛けた。
「何を目的に、あなた達は戦う? 死した仲間のため? それとも、自身の誇りのため? ――もしくは、別の理由?」
 青い瞳でひたと彼らを見つめ、続ける。
「でもね、どんな理由であれ、戦うべき相手はその人達ではないわ。死した仲間を思うのなら、更なる犠牲を生まない為に戦いなさい。自身の誇りに掛けて戦うなら、仲間を手に掛けるのをやめなさい。あなた達は、剣士である以前に、人なのだから。大切なもののために守るべき力を、そんなことに使わないで。共に、本当の敵と戦いましょう?」

●離別
「私の剣にて悪を斬る!」
 トールのバスタードソードが唸る――妖剣士はそれを己の刃で受け止めた。受け止めたものの、豪快な一撃に、ぐらりと揺らぐ。
 仲間が討ち取られ、更に危機に陥っている。
 その状況に、ひとりの剣士が鞘をぎゅっと握り、前に出た。
「待ちなよ」
 気付いた玲衣亜が咄嗟に進路を阻む――邪魔をするな、吼えるように抜刀し、斬りつける。
 相手を制止しつつも、彼女は怯まない。ガジェットを展開し、受け止める。巧くいかずに血が流れたことに内心憤慨しつつも、
「アイツらは助けられなかったけど、アンタらはきっと狂気に飲み込まれずに済むよ。だってホラ、そこで戦ってるヤツ、アンタらと同じ妖剣士っしょ? ま、難しい話はアタシ分かんないけど……今はその同胞? をしっかり見てみなよ」
 ただ真っ直ぐな言葉を向ける。
 彼女の強気な光を湛えた瞳は、この悲壮で彩られた世界の中で、一層輝いて見えた。ほら――彼女が顎で示した先で、唱うは、クオン。
「我が剣よ。刹那の刻すら喰らえ。」
 間合いを測って抜刀の構え、鍔鳴り――認識できるのは、そこまでだ。
 瞬く漆黒は視認すること能わず。
 端からかの妖剣士は、トールと鍔迫り合いをしている間に、突如両断され崩れ落ちたように見えただろう。
「ガハハ! 見事! ワシも負けん!」
 豪快に発し、ゴルガーダがナイフを振るった。その刀身に浮かぶ、狂気に陥ったもののトラウマ――ただもやもやとした血の塊がおぞましく蠢く。人ほどの大きさに膨れあがったそれを見た妖剣士は、血走った目を更に見開き、呻きながら蹲る。
 そこへ、水晶の炎が容赦なく放たれる。
 ゲンティアナの冷めた視線は既にそれを見ていない――残る一体へ、青い髪が翻って、ヴェールと躍る。
 敵はケルベロス達の攻撃をかいくぐろうと走り出したが、
「鈍い!」
 悠希が一喝する――説得を行った際の穏やかな口調は、戦闘の愉しさの前に消えていた――クロマを鋭い槍として、駆ける足を貫いた。
 敵は丁度、喰霊刀を正面に構え、突きの姿勢で跳躍していた。彼女の一矢で体勢が不安定となり、獣のような前傾姿勢から繰り出された一撃となったが――それは境の肩を巧く捉え、赤黒い刃が彼女の背から顔を覗かせた。
 だが彼女はそれを厭わない――零れる血色の混沌の水が、白い服を汚そうとも。
 ふと気がつけば、傷の大きさに似合わぬ夥しい量の血が溢れていた。足元に血溜まりができるほど――。
「赤色の混沌よ、我が血を喰らいてその枷を外せ。我が血潮たる血龍よ、思うがままに喰らい尽くせ。」
 色の薄い唇が、そっと、詛を唱える。
 戦場にばらまかれた彼女の血が、幾匹もの蛇龍となって妖剣士に食らいつく。無数の赤い蛇龍は気儘に敵を喰らうと、境の身体へと戻っていく――実際に汚れるわけではないとはいえ、己が厭うものが汚れる感覚に、僅かに瞼が震えた。
 厳しいとはいえぬが、傷を負った仲間達を見咎め、ペルが手をわきわきと動かした。
「流血沙汰は良くないわね。わたしがしっかり塞いであげる♪」
 唄うように囁いて、尋常ならざる美貌で、天使の笑みを浮かべる。
 それだけで仲間達へ強制的に活力を与えるのだから、まさに尋常ならざるものであろう。
「元気になった? 境ちゃん顔色悪いから……」
「……ありがとう」
 少々思うところはあったが、彼女はひとまず礼を告げた。
「攻撃に参加できなかったのがちょっと残念だけど……ごめんね、わたしたちが間に入って……ここは敵ドリームイーターが仕掛けたあなたたちを洗脳させる罠よ」
 くるりと振り返り、ペルが妖剣士達へ手短に、事情を告げた。
 だが、ワイルドスペースの世界に幻惑されている相手は、その言葉を鵜呑みにできないようだった。
「よくも……!」
 刃は、白銀の鎧が弾いた。
「戦い続ければ、いずれ狂う……あなた達の武士道はそれで終わらないはず! 私の騎士道もここで終わるわけには行かない。あなたたちは前を進むべきです!」
 トールは武器をとらず、そう主張した。だが妖剣士達は構わず、飛びかかってきた。

●決別
 この状況であっても表情を変えぬクオンは冷静に、挑んできた妖剣士の刃をいなして問いかける。
「貴殿らに誇りはあるか?」
 応えは無い。だが、そのまま淡淡と続ける。
「あるならば、己の誇りに掛けて狂気を、呪いを打ち払え。そして狂気を、呪いを喰らい尽くし、己の牙と成せ。それが我ら妖剣士だ。狂気に、呪いに敗れ、心失いし同胞の者には心の安らぎと永遠の眠りを与えてやるのだ」
 ――我らがその手を貸そう。
 強く弾かれ、剣士は数歩下がる。流している血の涙は、戦おうとしているからだろうか。
「なるほど、あなた方は強い……だが、我々は……」
 妖剣士は、ケルベロスの強さを素直に賞賛した。苦悩の声音とは裏腹に、その瞳には怒りの色は消えず揺らめいている。
 彼らの表情は一様に暗い――その剣から呪詛の力が彼らに流れ込んでおり、これに強靱な精神のみで耐えているからだろう。
「この苦痛に耐えて人を守った友を、斬った相手を憎むなというのか!」
 苛立ち混じりに、踏み込んできた相手の刃を、金属音が弾いた。
「――いい加減にして」
 やや下方、正面から不機嫌な言葉が飛ぶ。
「わたしには分からないわ、何の為に剣を持ったのか。そんな弱い気持ちのまま剣を振るうものに言う言葉は、わたし持ち合わせていないもの」
 沈黙を守ってきたゲンティアナは腹立たしさに負け、言い放つ。
 彼女の言葉は刃そのものよりも鋭い。
「その剣を技をもって信念を持てないなら――剣を捨てなさい」
 ネクロオーブではなく、喰霊刀で相手の剣戟を弾き、刃先を喉元へ向けた静かな構えを見せる。
 ひとりで戦い続け、その技に誇りをもつゲンティアナにとって、彼らの惑いは――原点から、理解が出来なかった。
「いずれ、とか、もしかしたら、なんて。いつまでも先の事ばかり考えて今が疎かになったら本末転倒……違うかしら?」
 妖剣士達の目に、迷いが浮かんだ。
 その煮え切らぬ逡巡の様子は、ワイルドスペースの影響もあるのだろう。
 ――そうであった、ゴルガーダはそれを思い出し、
「惑わされるでない! こんな世界、あんな姿は貴様らのゴールでも何でもないわァ! ワシを見よ! そして共に来い! 本当の未来をみせてやろう!」
 一喝する。空気が震えるほどの大声量だ。
 もう大侵略期は終わり、ケルベロスとなれば狂気を克服できる。
 何より、彼らは残霊なのだ。過ぎさったもの――今を生きている彼らにとって、本当の仲間でさえない。
「でも、彼らのことはごめんね」
 わかっているが――悠希は詫びた。こうするしか、あなた達を救う術がなかったの、と。
 語る彼女の様子は真摯なものだった。
 何より、今ケルベロス達が一度たりとも本気で攻撃を仕掛けていないことに、先の戦いを見ていた妖剣士たちは気付いていた。
 そこに軽い調子の問いかけが、ぽんと飛ぶ。
「つーか、みんな過去重くね?」
 髪を指でいじりつつ、玲衣亜が零す。何となく偶然ケルベロスになった彼女は、あっけらかんとしたものだ。
 そして、戦闘中にやりあった相手に、素直な視線を向ける。
「でさ、どう? みんな、狂気も、絶望も。どっちもないっしょ」
「……っ」
 剣を握る腕が、震えた。
 確かに、ケルベロスの妖剣士に、呪詛に苦しむものはひとりもいなかった――。
 ややあって――ひとりの妖剣士が脚を止め、剣を下ろした。その手を、そっと取ったのはペル。
「逝ってしまった仲間のために生きてほしい……私の妹も剣を握っている。でも立派に戦っている絶望しないで。あなたたちの力が必要なのよ」
 大丈夫、一緒に戦おうと、優しく声をかける。
「山の頂上をは限りなく遠い。狂気や呪いに捕らわれている場合では無いな。鮮血に染まる紅き月を見る度思い出せ」
 漆黒の鋒を天にかざすように構え――クオンは彼らを一瞥した。
 返る視線に、戦意は既にない。彼らは何のために狂気に陥ったのか。何のために悲壮な覚悟で戦うのか。
 ケルベロス達が問い、ケルベロスが答えを見せる。
「我らが剣は絶望さえも喰らい尽くす」
 そのままするり納刀し、クオンが踵を返す。
「抗う力を持たない人の為に狂ったのあれば、最後までその意義を通してほしいと願う」
 自らの竜の腕に触れながら――境は、最後にそう囁いた。
 刃が大地に落ちる鈍い音が響き合う。妖剣士達は静かに血の涙を流しながら、ケルベロス達の言葉に頷いたのだった。

作者:黒塚婁 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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