コンパクトでインパクト

作者:砂浦俊一


 家電量販店の福袋を購入した男性が、さっそく道端で中身をチェックしていた。
「電動ハブラシに電気シェーバー、これは良いな。こっちは……CDプレーヤーかあ。今時なあ。せめてMP3プレーヤーだったらなあ」
 彼は気に入ったものだけ自分の鞄に移すと、残りは福袋ごと道端に捨ててしまう。
 その福袋の中へと蜘蛛に似た姿の小型ダモクレスが這い寄り、忍び込む……。

「コンパクト・ディスゥゥゥゥク!」
 翌日、ダモクレス化したCDプレーヤーが市街地を襲撃した。ポータブルCDプレーヤーそのものの胴体から手足と頭部が生えたロボットといった姿で、建造物の破壊や一般人の虐殺を繰り広げている。
「コンパクト・デ・インパクトォ!」
 胴体のCDプレーヤーの蓋が開き、灼熱のバスタービームが逃げ惑う人々へと拡散放射される。強烈なビームの奔流に人々は呑まれ、路面に黒々とした焼け跡を残すのみ。
「ナニガMP3プレーヤーダ! スマホダ! CDプレーヤーコソ、サイコウ! コンパクト・デ・インパクトォ!」
 更なる直線状のビームで、ダモクレスは街を焼き払っていく。


「捨てられた福袋の中に入っていたポータブルCDプレーヤーがダモクレス化する事件が発生するようです」
 シャドウエルフのヘリオライダー、セリカ・リュミエールが話を切り出した。
 携帯できるミュージックプレーヤーとなると、近年ではMP3プレーヤーやスマホから聴くのが主流だ。CDプレーヤーとなると売り場は縮小の一途、大手メーカーも新製品の開発や販売から撤退した、というニュースもある。
 おそらくは在庫処分で福袋に入れられたのだろうが、中身が災厄をもたらすとは。これでは福袋どころか不幸袋だ。
「敵は身長3メートル強、ポータブルCDプレーヤーから手足と胴体が生えた形状です。攻撃の際は『コンパクト・デ・インパクトォ!』と叫び、CDプレーヤーの蓋の部分が開いて、中のレンズからビームを発射します。これはバスターライフルと同等の威力があります。また単体狙いで威力の高い直線状のビームと、威力に劣るものの列狙いの拡散放射、この二種を使い分けます」
 確かにインパクトのある攻撃方法ではある。きっと携帯できるCDプレーヤーが初めて発売された当時も、インパクトのある出来事だったのだろう。
 バスターライフルと同等の威力があるのなら油断は禁物だ。しかし胴体の蓋が開かねばビームを撃てないのなら、ここに勝利の鍵があるはず。またMP3プレーヤーやスマホにも敵愾心を持っている様子、そこを挑発するのも有効だろう。
「福袋の中身が災厄を起こすとは不幸な出来事です、見過ごすわけにはいきません。暴走するCDプレーヤーの撃破をお願いします」
 セリカが丁寧に頭を下げ、ケルベロスたちは出発する。


参加者
楠・牡丹(スプリングバンク・e00060)
エリオット・シャルトリュー(イカロス・e01740)
木戸・ケイ(流浪のキッド・e02634)
ノイア・ストアード(記憶の残滓・e04933)
ルピナス・ミラ(黒星と闇花・e07184)
瀬入・右院(夕照の騎士・e34690)
皇・晴(猩々緋の華・e36083)
根住・透子(炎熱の禍太刀の担い手・e44088)

■リプレイ


 ダモクレスの出現に備え、ケルベロスたちは付近にキープアウトテープを張り巡らしつつ見回りを行っていた。事前の避難も順調に進んだのか、今のところ逃げ遅れた住人は見当たらない。
「新しい物が出れば古い物が廃れていくのは仕方ないと思うんだけど……ダモクレスになっちゃうのはなぁ。というか道ばたに捨てちゃうってどうなのよ」
 楠・牡丹(スプリングバンク・e00060)が頬を膨らませる。いくら不要な物だからといってもマナーがなってない、と彼女は思わざるをえない。
「ポータブルCDプレーヤー自体は悪くないと思うんだけど、福袋に入っていたら……確かにがっかりかもしれないな。でも捨てるぐらいなら人に譲ったりすれば良かったのに。未使用の新品なんだし」
「近年の科学技術の進歩は目まぐるしい物がありますが……破棄される側からしたら可哀想ですね」
 瀬入・右院(夕照の騎士・e34690)とルピナス・ミラ(黒星と闇花・e07184)は顔を見合わせてしまう。不法投棄が減ればダモクレス化する家電製品も減ってくれるのだろうが、そこは人の意識が変わらぬ限りはどうしようもない。
「いらんからといって不法投棄も困るが、捨てたもんが敵意の塊になるのも困るねぇ」
 エリオット・シャルトリュー(イカロス・e01740)は持参したMP3プレーヤーのイヤホンを耳に挿す。敵が出現すれば、これが挑発になるだろう。仲間たちも彼と同じようにMP3プレーヤーやスマホの音楽アプリを起動させる。何人かはそのまま音楽を流しているが、敵の出現をすぐに察知できるよう音量は控えめだ。
 ノイア・ストアード(記憶の残滓・e04933)は相棒のミミックにMP3プレーヤーとスピーカーを載せ、ケーブルを接続する。
「アラン、購入したスピーカー等の費用分は働いてくださいね。頼みますよ?」
 準備を終えた彼女は、相棒へと念を押す。
「俺も外出時はスマホで聴くが……実は家だとレコードなんだ。MP3やCDは何だか味気なくってさ」
「木戸先輩はレコード派ですか。そういえばCDだけでなくレコードでも新曲を出すアーティストが昨今増えていると聞きますね」
「へへっ、レコードも良いもんだぜ」
 話に乗ってきた皇・晴(猩々緋の華・e36083)へと、木戸・ケイ(流浪のキッド・e02634)がニッと笑ってみせる。
 と、その時。
「コンパクト・ディスゥゥゥゥク!」
 遠くから聞こえてくる奇怪な叫びが、ケルベロスたちの耳に突き刺さる。
「現れたようですね。さすがに緊張してきましたが……精一杯、頑張らせていただきます」
 根住・透子(炎熱の禍太刀の担い手・e44088)は愛刀を鞘から抜く。そして万が一にも一般人が戦場に迷い込まぬよう、妖気解放を行う。
「ノー・ミュージック、ノー・ライフ! CDプレーヤー、最高ォ!」
 獲物を求めるダモクレスの叫びも徐々に近づいてくる。


 目視できる距離まで近づいた敵は、まさにポータブルCDプレーヤーそのものの胴体から手足と頭部が生えたロボットだった。ユーモラスな外見とは裏腹に、胴体の蓋の向こうにはバスターライフルと同等のビームを放つ凶悪なレンズが潜んでいる。油断は禁物だ。
「効果があるといいんだけど……遅延の棘スリサズよ、敵を捕らえよっ」
 普段は騎士道精神溢れる紳士として振る舞っているものの、いざ戦闘となると右院は言葉の端に芯のヘタレさを滲ませてしまう。が、それでも彼は前に出てソーンの石を放つ。
「ナンダ? コノ邪魔ナモノハッ」
 生成された魔法の茨が絡まりダモクレスが動きを止めた隙に、ケルベロスたちは距離を詰めて囲んでしまう。
「まだ回復の必要はありませんね。行きますっ」
「福袋の中身が福を呼ぶどころじゃなくなる前に、きっちり片づけようかっ」
 左右から晴とエリオットがダモクレスを挟撃する。一撃を与えた後、晴は後衛の位置まで下がり、エリオットは前衛の盾役として敵正面に陣取る。
「ムッ。貴様ラ、音楽ヲ聞イテイルナッ。ソレハCDプレーヤーカ、否カッ!」
 攻撃を受けつつも、ダモクレスはケルベロスたちが耳に挿すイヤホンに興味を示した。
 しかしケルベロスたちが見せたのはMP3プレーヤーないしスマホである。
「揃イモ揃ッテ! 貴様ラ皆殺シニシテヤル!」
 憤激するダモクレスが、アスファルトの地面を荒々しく踏み鳴らした。
「流石に今の情報化社会ではスマホが不可欠ですよね。色んな機能が気軽に使えて便利ですし、もちろん音楽を聴くのだって」
「CDプレーヤーならゴキゲンなBGMくらい流してほしいもんだね。ポヨン、みんなのサポートを頼むぜっ」
 敵へと跳躍したルピナスのスターゲイザーに続き、ケイの斬撃。ダモクレスはガードを固めつつも、バスターライフルの射撃体勢に入ろうとする。
「攻勢イメージファイルをダウンロード……完了、対象を蹴り落とします」
 役目を終えたインストール用USBメモリを握り潰した後、ノイアが部位破壊を狙ってダモクレスの胴を蹴る。CDプレーヤーの蓋が開かねば敵も攻撃できないだろうが、果たしてどうか?
「ブローラ、ディフェンダーについて。新年のおめでたいものから生まれたものなんだし、悲しいことは起こさずにきっちり片付けるよっ」
 サーヴァントに指示を出しつつ、牡丹が前衛にブレイブマインをかける。
「コンパクト・デ・インパクトォ!」
 その叫びはバスターライフル発射の合図。CDプレーヤーの蓋が開こうとする。
「強化受けとりました、ビームは撃たせませんっ」
 透子の放つ武器封じのサイコフォースが、ダモクレスを襲う。


「蓋ノ展開ガ遅イ……? クッ!」
 射撃を妨害されたダモクレスが焦りを滲ませる。この間に前衛組から集中攻撃をくらい、ダモクレスは射撃までの時間を稼ごうとケルベロスたちとの距離を開けようとする。
「時間稼ぎはさせませんよ」
 後退は中衛のルピナスが許さない。彼女は敵の背後に回り込む。
「さぁ、どんどん蝕んであげます」
 いっそ凍りついてしまえ。ルピナスが達人の一撃で斬った部位から、氷結がダモクレスの内部まで侵食していくが、ついに胴体の蓋が開いた。
「今度コソ、コンパクト・デ・インパクトォ!」
 ダモクレスの胴体のレンズ部分からビームが拡散放射される。それは新品でありながらも在庫処分同然に福袋へ入れられ、あげく使われることなく捨てられた怨念の光か。
 拡散放射は威力には劣るというが距離が近い。前衛組はシャワーのようなビームを避けきれず、防御態勢をとるので精一杯だ。ノイアの相棒であるアランも、スピーカーから音楽を流しながら盾となった。
 流れ弾は付近の建造物も破壊した。後衛組は崩れ落ちてくるそれらを避けつつも、敵から目を逸らさず反撃の機会を待つ。
「見タカ、我ガビームノ威力!」
 周囲の惨状にダモクレスは満足げな顔だが、胴体の蓋は開いたまま。ビームの発射口であるレンズ部分も露出している。
「最新機器のアランにあなたが勝てるわけないと思いますよ」
「蓋が閉じる前にっ」
 全身から煙を立ち昇らせながらも無事な相棒の姿に安堵したノイアと、盾役の陰から飛び出た透子が、ダモクレスの懐へ駆ける。狙うは、露出したままのレンズ。両者のスパイラルアームと喰霊殲神剣が繰り出され、ギイン、と硬い音が響いた。
「……ククク。弱点ヲ、イツマデモ晒シテイルト思ウナヨ」
 不敵に笑うダモクレス、レンズ狙いの攻撃は閉じられた蓋の装甲によって阻まれた。だが、仲間たちの回復の時間は稼いだ。
「さあ彼岸、皆さんの支援です」
 相棒の彼岸とともに晴は前衛組の回復に回り、ケイは敵の胴へぶつかる勢いで突撃する。
「何がコンパクトだ。そりゃレコードと比べた話だろ? CDは嵩張るんだよ。今はちっこいメモリに何千曲も入るんだぜ? コインより小さくて軽いMP3プレーヤーがあるって知ってて言ってんの?」
「CDプレーヤーヲ侮辱シタナ! CDヲスグニ聴ケルCDプレーヤーコソ、最高ナノダ!」
 バスターライフル用のエネルギーのチャージには時間を要するのか、ダモクレスはケルベロスたちを近づけまいと両手を振り回す。
「なんつーかさ……ビルシャナみてぇなこと言う奴だよなぁ」
「うんうん、買ったCDをその場で再生できるっていうメリットはせっかちさんには大きいと思う! だからあんまり怒らないで、大人しく倒されて欲しいかな?」
 エリオットからのメタリックバーストで受け取った右院が駆け、月光斬の一撃。
「ソレハ聞ケナイ相談ダ!」
 斬撃に装甲と金属片を散らしながらも、ダモクレスの眼が一際強烈に輝いた。
「チャージが終わった……?」
 敵の眼光に不気味なものを感じた透子の予測は、正しい。
 チャージ終了、再びダモクレスの胴体の蓋が開いていく。
「蓋が開くと想像以上に気持ち悪かったからね。もう開かせないし、撃たせないよっ」
 腕にオウガメタルを嵌めた牡丹が、蓋の開閉部分を思いっきりぶん殴った。
「ア、アレ?」
 これまでの被弾と牡丹の戦術超鋼拳の衝撃で開閉機能に障害が起きたのか、蓋が中途半端な位置で止まってしまう。
「コレデハビームヲ撃テナイ!」


「ウ、動ケ、動ケ動ケ! 早ク開ケ!」
 狼狽するダモクレスは両手で胴の蓋を掴み、無理矢理こじ開けようとする。ケルベロスに囲まれた状況も忘れて必死に蓋を開けようとするその姿は、どこか滑稽でもある。
「その手の動きも、封じてあげますよ」
「下着、見えちゃわないようにしないと……」
 蓋は開けさせない。ルピナスと透子の飛び蹴りが連続で浴びせられ、ダモクレスの両腕が粉砕される。さらに衝撃が蓋の開閉部分も破壊し――胴体から外れて地面へと落ちた。
「アアッ、腕ガ壊レタ! 蓋マデ落チタ! デモ、コレナラビームガ撃テル……ハハハハハ! ビームガ撃テルゾオオオオ!」
 狼狽から一転、勝ち誇ったようにダモクレスが笑い、レンズに強烈な輝きが収束していく。
「それ、弱点が丸出しですよ」
「さっき自分でも弱点がどうのって言ってたよね?」
 敵は両腕とともに、弱点を保護する蓋すら失った。
 再度ビームを撃たれる前に。露出した敵の内部構造やレンズ部分めがけて、ノイアと牡丹が攻撃を集中させる。
「コッ、コンパクトォ……」
 防御の要を失った胴体が小爆発を起こし、ダモクレスが悲痛な叫びをあげる。だが両脚を踏ん張り、ビームの射撃体勢は崩さない。レンズには亀裂も走っている。撃てたとしても、せいぜい一発が限界だろう。
 放たれるビームは次も拡散放射か、それとも直線状か。
「こっちだ、俺を狙え!」
 ダモクレスの正面でエリオットが叫び、地獄の炎を纏わせた足で大地を蹴る。
「後悔スルナヨ! コンパクト・デ・インパクトォ!」
「青炎の地獄鳥よ、我が敵をその地に縛れ!」
 直線状のビームと幻創像・蒼翼のレイニアスがぶつかり合った。
 巻き起こる爆発、ケルベロスたちは爆風と粉塵に呑まれる。
 粉塵が収まった時、正面から爆炎と爆風に晒されたエリオットは傷つき地面に膝をついていた。だが彼の口元には会心の笑み。
 満身創痍のダモクレスは両脚を青炎の杭で貫かれ、レンズ部分も消失している。もはやビームは撃てない。
「もう一息ですね。さぁ、咲かせましょうか。満開の花を」
 晴が咲かせる菖蒲色の花、その舞い散る花弁が戦友たちの傷を癒やしていく。
 両脚の自由も奪われたダモクレスを右院の絶空斬が裂き――そしてケイの烈風散華が放たれた。
「念仏を唱えな。それとも、辞世の句でも詠んでみるかい?」
 鋭い居合いの一閃。中身が機械ならば電子回路までも焼き尽くそう――桜吹雪が炎となって燃え上がり、ダモクレスを包み込んだ。
「ウウウ……CDモCDプレーヤーモ……モハヤ時代遅レ……ナノカ……?」
 炎の中からダモクレスの嘆きの声が聞こえてくる。
「そんなことないって、ダウンロード販売じゃディスクへの印刷に唸ったりできないし、ポスターとか握手券みたいなCDだけの特典も付かないじゃん。慰めにならないかもしれないけど……成仏してほしい、かな」
「CDというものが世にある限り、それを聴く機器もどこかで誰かが必要としているはずです」
 その右院とノイアの言葉はダモクレスに届いたか。
 炎の中で焼け落ちるダモクレスは、最期に微笑んだかのように見えた。

作者:砂浦俊一 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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