失伝救出~ループを止めて

作者:柊暮葉


 終わりのない悲劇を少年は辿る。
「こんな時、彼らがいてくれればデウスエクスなんて……」
 そう呟いてから少年は気がつく。彼らとは、誰の事だ。
「いや……、デウスエクスに勝てるものなんて居る筈が無い。俺がしっかりしなければ」

 始まりの光景はいつも明るい。
 山奥の寺で、元気な子供達が修行をしている。拳を突き出したり、木の板に蹴りを当ててみたり。それを見守る師僧の表情も明るく、慈愛に満ちている。
 ここは隠れ里。デウスエクスの襲撃から逃れた人々の最後の栖。
 そこに、ある日--。
 襲ってきたのは三体のエインヘリアルであった。
 師僧は真っ先に戦いに赴き、少年は子供達を連れて逃げるように言われた。しかし、育ててくれた師僧を見殺しになど出来ない。たちまちエインヘリアルの集中攻撃を受けて真っ赤に染め上がる師僧。
「離れろーッ!!」
 少年は全身の勇気をかきあつめてエインヘリアルに突っ込んで行く。
 その瞬間、覚醒した。少年は光輪拳士であったのだ。目覚めた力によって血塗れの師僧を庇い、エインヘリアルを打ち倒す少年。
 しかし、その体が燃え上がっていく。制御出来ない力が暴走して、少年は自らを焼き尽くして死んだ。

 眠りから覚める。そこは山寺の奥の部屋。雑魚寝している子供達。表から師僧の声が聞こえる。
「夢だったのか……」
 少年はほっとして外に出た。そこでは師僧が子供達を暖かく見守りながら、修行をさせていた。突き出される拳。蹴りを入れられる木の板。
 そして、その山奥に、三体のエインヘリアルが現れる……。
 ループ。終わりのない、悲劇。これを終わらせる事が出来るのは、誰なのか……。


「寓話六塔戦争の勝利、おめでとうございます。今回の依頼は、この戦いで情報を入手した失伝ジョブ、光輪拳士の救出になります」
 ソニア・サンダース(シャドウエルフのヘリオライダー・en0266)が説明を開始した。
「救出対象者は一名。まだ若い少年で、ドリームイーター『ポンペリポッサ』の特殊なワイルドスペースに囚われています。光輪拳士は、ワイルドスペースの力により、自分を大侵略期の人間と錯覚しています。ポンペリポッサの目的は、彼を絶望により闇に落とし、反逆ケルベロスとして利用する事ではないでしょうか」
 ソニアは説明を続ける。
 だが、寓話六塔戦争の勝利で、パラディオン達の救出が可能となった。今回の作戦では、ワイルドスペースに潜入し、繰り返される悲劇を終わらせ、男性達を救出することが使命である。
「このワイルドスペースは特殊な空間で、失伝ジョブの拾得者でなければ潜入出来ません。内部は隠れ里の山寺で、光輪拳士は仲間を守るために、自分を犠牲にいて戦っています。空間内では大侵略期の悲劇が延々と繰り返されていますが、全てが残霊で生身の存在ではありません。囚われた光輪拳士をワイルドスペースから救出するには、エインヘリアルの残霊を撃破し、彼らの心から絶望の闇を払う必要があるんですね」


「少年の光輪拳士は隠れ里の山寺の庭で戦っています。既に満身創痍で満足に戦える状態ではないので、前線には立たせない方が無難でしょうね」
「敵となるエインヘリアルのポジションはクラッシャーで、獲物はルーンアックスです」

 ルーンディバイド頑健近単破壊+【服破り】ルーンを発動させ、光り輝く呪力と共に斧を振り下ろします。
 スカルブレイカー理力近単破壊+【プレッシャー】高々と跳び上がり、ルーンアックスで敵を頭上から叩き割ります。
 ブレイクルーン頑健遠単ヒール+【破剣】味方に「破壊のルーン」を宿し、魔術加護を打ち破る力を与えます。
 ダブルディバイド頑健近単破壊+ジグザグ2本のルーンアックスを高く掲げ、敵の両肩を狙ってクロスに斬りつけます。

「戦闘が長引いてワイルドスペース内に長時間とどまると、ワイルドスペースに囚われてしまう危険があります。敵を撃破したら、光輪拳士を連れて迅速に離脱してください。そうでないとミイラ取りがミイラになっちゃいます」


 最後にソニアは言った。
「こんな、悲劇を乗り越えて戦い続けてきた、失伝ジョブの先達の為にも、必ず救出してあげてください」


参加者
大道寺・悠斗(光と闇合わさりし超者・e44069)
オーロラ・トワイライト(怪奇探偵・e44452)
トート・アメン(サキュバスの土蔵篭り・e44510)
パスカル・マフタン(ドワーフのゴッドペインター・e44602)
萌葱・紫苑(魔導騎士・e44769)
死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)
桂城・子子(ウェアライダーの零式忍者・e44912)

■リプレイ


『ポンペリポッサ』の手に落ちた失伝ジョブの光輪拳士の少年--。
 彼をワイルドスペース内部から救出するのが、今回のケルベロス達の任務であった。

(「ああ、まただ……また、始まる……」)
 突然のエインヘリアルの凶行。目の前で血に染められていく育ての親の師僧。
 どうしても逃げるなんて出来なくて飛び出る自分。何度も、何度も、息絶えそうな師僧を庇って前に出て、拳を振り上げる。
 突如、体中に新しい力が漲る。覚醒。その偉大なる新しい力を振るって、ルーンアックスを振るう戦士達に立ち向かう。
「お師匠様! ここは任せて先に行って下さい! 子供達を助けて……」
 新たなる荒ぶる力を駆使しながら覚醒した少年は叫ぶ。この力は、大切な人を守るために、ただそれだけのためにあるのだから。
 苦戦を強いられながらも必死に抗う少年。だが、彼の力は安定していない。
 突きつけられる斧に対して次第に暴走していく……。

(「ああ、まただ……このままでは、このままでは……!!」)
 自分は力に振り回されて、滅びる……。誰の死ももう見たくないから戦う。自分も死にたくないから戦う。それなのに、その自分の力によって自滅する。その悪夢を一体何回繰り返した事だろう。

 繰り返される『死』に、心が絶望に屈しそうになる。今にも、意識が暗転しそうになりながら、拳を振り上げ抗う少年。

 ルーンアックスが彼の頭蓋を砕かんと振り下ろされた時、そのエインヘリアルの体を低い位置から組み付いて横転させた者がいた。すんでのところで少年は息を吹き返す。
「まさかお師匠様ッ……」
 師僧の身を案じる彼の前に颯爽と立ち上がったのは、全く見た事のない少女であった。
 魔導制服でブラックスライムの剣を携えた萌葱・紫苑(魔導騎士・e44769)は、打って変わって優しい微笑を浮かべて彼に話変えてきた。
「私たちはケルベロス。あなたを助けに来ました。ここは私達に任せて下がってください」
 そして、彼を背中に庇い、前に出てデウスエクスどもに名乗りを上げた。
「さぁ、ここからは私たちが相手になろう。かかって来るがいいッ!」

 エインヘリアル達に動揺が走る。この閉ざされた空間に、異質な人間達が登場したのだ。

 呆然とする彼に、駆けつけてきたトート・アメン(サキュバスの土蔵篭り・e44510)が語りかけた。
「見事だ。よくぞここまで孤独なる戦いを生き続けた。だからこそ余らは来た……後は任せるが良い」
 トートは威風堂々と敵と彼の間に立ちはだかり、血染めの包帯を振りかざした。

「皆行くのである。残霊に囚われた同朋を救出に行くのである」
 大道寺・悠斗(光と闇合わさりし超者・e44069)が素早く駆けつけてきた。死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)も現れ、心配そうに光輪拳士の顔をのぞき込んだ。
「戦線離脱をお奨めしますが……」
 控えめに刃蓙理はそう言って、少年に後ろに下がるように目で勧めた。

「任務開始」
 続いて現れた桂城・子子(ウェアライダーの零式忍者・e44912)はエインヘリアルと少年の間に割り込むと己の拳を打ち合わせる。彼は任務中なので猫の面を被った人型になっていた。
「終わりの時が来た、好き勝手に蹂躙してきたお前らの時間が終わるときがな」
 エインヘリアルに宣告すると、子子は光輪拳士を振り返った。
「そして光輪拳士、お前には次の始まりが目の前にある、そのためにも生き抜け」

「生き……る……」
 少年はかさぶたになった唇を自分の拳で拭った。
(「ケルベロス……」)
 彼の瞳を支配しいてた絶望が和らぎ、希望の光がほのかに輝く。

「貴様らは何だ!」
 苛立ったエインヘリアルが怒鳴った。
「我輩達はケルベロスのガジェッティア(クルゥクルウゥ~)…大道寺・悠斗(シュピン)!!」
 呆気に取られている少年の前でポーズを取る悠斗。
(「我輩たちも一歩誤ればこのような惨劇に取り込まれてたと思うと背筋が凍る思いなのである。きっと、救助するぞ」)
 いくらか正気に返ったものの、まだ生気の感じられない光輪拳士を背中に庇い、悠斗は心の中で呟く。
「失伝ジョブの人々は必ず助けてみせるわ」
 リルベルト・ウィルベルヴィント(黒将・e44173)は淡々としながらも固い決意を見せた。そして少年に向き直る。
「できれば戦線から下がってもらえれば一番だけど、無理そうなら掩護をお願いしたいわね。むやみに攻撃して敵に狙われるのは避けたいところね」
「これで二回目だけれど、相変わらず悪趣味だね。一刻も早く、この悪夢から連れ出してあげるとしようか」
 オーロラ・トワイライト(怪奇探偵・e44452)はクールビューティ然とした頬を歪めてそう言った。
 彼も少年の事を気にする。
「先生を連れて下がっていなさい。大丈夫、私たちは君の味方だよ」
「は、はい……」
 そこまで言われて少年は師僧の遺体とともに後ろに下がった。
「無限の楽しさなら歓迎じゃが無限の苦しさはノーセンキュー。苦しんでちゃワシのアートも楽しんでくれん。彼を助けてアートを楽しんでもらうかのぉ」
 一方、パスカル・マフタン(ドワーフのゴッドペインター・e44602)はあくまで自由を追求する様子である。

「我らに逆らう愚者がまだいるとは……」
「地球の人間などに何が出来る!」
 ケルベロス達の数に一瞬、飲まれそうになったエインヘリアル達だったが、たちまち体勢を立て直した。彼らは一斉にルーンアックスを構えてケルベロス達に突きつけてきた。
「我らデウスエクス・アスガルド! 神々すらも滅ぼした最強の種族! 貴様らちっぽけな虫けらどもに、本当の恐怖を教えてやろう!!」
 星霊甲冑(ステラクロス)を武者震いに振るわせながら一人のエインヘリアル--Cr1が鋭く刃を光らせながら、襲いかかってきた。

 Cr1は斧のルーンを発動させる。ルーンの光を輝かせながら呪力とともに紫苑へと斧が振り下ろされる。紫苑の制服が衝撃に破ける。
 Cr2は己に「破壊のルーン」を宿し、魔術加護を打ち破る力を手に入れる。
 同じくCr3もブレイクルーンで己の力を高めていく。

 悠斗は魔導金属片を含んだ蒸気を噴き出し体に纏い、自らの防御力を上げていく。
 刃蓙理はネクロオーブで紫苑の事を占う。
「健康運……最強」
 次第に回復していく紫苑。
『わしの世界に招待しよう』
 そこでパスカルが絵の具を噴き出す刀を振り回して完全絶対領域(パーフェクト・ワールド)を開始した。エインヘリアルも含めて戦場全体をファンタスティックに塗り替えていくパスカル。
「ハッハー! さあわしのアートに釘付けになるといい!」
 たちまち辺りは子供が大好きな遊園地のような光景になり、大まじめな顔をしたエインヘリアルもその一部に……。
「ふざけるなーッ!」
 怒り狂うエインヘリアル達。
「見て欲しいのは絵であってわしじゃないんじゃがのぉ」
 ぶうたれるパスカル。
『ここからが本気だ。行くぞ、着装ッ!』
 その頃、紫苑は装甲変身(トランスフォーム)を行っていた。破けた制服を指輪の中に仕舞い、中に格納していた魔導鎧を展開し、魔力光に包まれるように装備するのだ。自然と回復して力を高める紫苑。
「どうなっても知らないわよ」
 リルベルトは手の爪を超硬化するとCr1に襲いかかり、胸を貫いた。
「瞬間的な火力は脅威だけれど……固まってくれているおかげで、私の仕事もやりやすい」
 オーロラは「深空」を歌い上げて、エインヘリアル達の攻撃の手を封じ込めていった。
 トートは黒い魔力の弾丸を撃ち出してCr1を悪夢へと誘う。
(「中々に面白いな。こうして余達はずっと秘されていた。それでも尚、見つけられて開いてみればこうも多くの同胞が居る! つまりだ……世界とは実に秘密と神秘に溢れているという事だ!」)
 戦いながらトートはワイルドスペースや残霊達を観察していた。
「さあ、潰す、お前らの思い通りになんぞ出来るものか」
 子子は音速を超える拳でCr1を弾き飛ばした。
 宙を飛んだエインヘリアルは境内の地面に強く叩きつけられ、大きく痙攣した後、そのまま動かなくなった。

「ち、地球の人間が……我らを……」
 Cr2は怯んだような声を立てる。しかし、それも一瞬の事だった。怯えた事を恥じるようにCr2は叫ぶ。
「まぐれでいきがるなッ! 貴様らが我らに勝つ事などありえない!」
 Cr2はルーンアックスを振りかぶった。
「貴様らゴミ虫に……我らが敗北する事など……!!」
 Cr3もまた斧を手にケルベロス達へと殴りかかる。
 Cr2は天高く跳躍すると、ルーンアックスでパスカルを頭上から叩き潰そうとした。
 Cr3もまた高く飛び上がり、落下の勢いを借りてルーンアックスでパスカルを狙う。
 しかし、ほぼ同時にディフェンダー達が動いた。
 Cr2の刃を紫苑が、Cr3の斧を子子が受け止める。落下の重力の衝撃をもろに受けて、その場に膝を突く二人。

「魔器着装ッ!」
 紫苑は装甲変身の力で再び自分を回復していく。
「明後日の晩御飯は……ハンバーグです。頑張って」
 刃蓙理はネクロオーブを駆使してバトルプロフェシーを行い、子子の傷を癒やした。
 悠斗はガジェットを「拳銃形態」に変形、魔導石化弾を射出してCr2を狙う。
 敵の攻撃をくぐり抜けたパスカルは空中高く飛び上がると、虹を纏いながらCr2の脳天に急降下、蹴り下ろした。
「踏むなーッ!」
「んーっ! そんなに見られるとわし感じちゃう、逝っちゃうー♪」
 リルベルトはガジェットを「回転衝角形態」に変形させるとCr2を貫いた。
「こんな物を振り回せるのも、ケルベロスになったから、か…」
 オーロラはガトリングガンで銃弾を雨霰と撃ちだし、ばらまいていく。
 子子は怒りの力を轟雷に変化させ、Cr2へと撃ち出した。
『死は終焉ではない。沈んだ日が昇る様に命もまた死を迎えまた再生する。恐れる事はない。心静かに光を受け入れよ』
 トートは太陽の導き(ラーノミチビキ)を使った。
 超小型の太陽の如き火の玉を召喚して敵に打ち込む。劫火に焼かれた残霊Cr2は魂を浄化され死と再生の絶え間ない輪廻へ落ちて行った。
 Cr2を倒した。

「くっ……」
 口惜しげにCr3が歯がみをする。
 ただ強気な視線でケルベロス達を睨み付け、何も言わずに二本のルーンアックスを振り上げた。
「ウォオオオ!!」
 怒号と言うのもおこがましい咆哮を上げながらCr3は突進してくる。
 咄嗟に前に出た子子だったが間に合わない。
 Cr3が高々と掲げたルーンアックス--それは、猛烈な勢いで振り払われた。
 二本の斧はパスカルの両肩を十字に切り裂いていく。
 血を吐くパスカル。
「ぬあああ……」
 喉から怒声を絞り出し、エインヘリアルは凄まじい形相でパスカルを睨み付け、叫ぶ。
「畏れよ! ひれ伏せ! 絶望しろ! 愚かなるウジ虫どもよ!! 貴様らに未来などない、希望などない!! 死の絶望から逃れる日など来ないのだ!!」

「それは違うッ!」
 全く思いも寄らない声が飛んだ。
 驚き振り返るケルベロス達の後ろから、光輪拳士の少年が掌をかざす。鮮やかな光輝が放たれ、パスカルの両肩の傷を癒やしていく。
「違うッ! 違うッ!」
 両目から涙を流しながら、少年はパスカルを癒し続ける。
 それを受けてパスカルはひょっこりと起き上がった。
「シリアスだけじゃとバランス悪いからの! ちょっとお馬鹿に振る舞っただけじゃ」
 傷だらけながらニカッと笑ってみせるパスカルであった。

『穢れた円環……Dirty Loop』
 刃蓙理は禁断の処方箋(ダーティーループ)を用いてパスカルを全快に持っていく。泥の治癒術が成体パーツを補い、パスカルは完全に自然治癒していった。
 悠斗は見えない「虚無の球体」を放ち、Cr3を消し去ろうとする。
 ケルベロス達に追い詰められていくCr3。
 しかし、そこで元々虚弱体質の悠斗は血を吹いて前のめりになる。
「ト、トマト……」
 誤魔化す悠斗。
 紫苑は卓抜した技量の一撃、ヒルコの剣に氷の粒子を纏わせて切り裂く。
「遅いぞッ!」
 凍てついてくCr3。
 立ち直ったパスカルは絵の具の出る刀を振り回し、ラクガキでキメラを描き上げる。そしてそのキメラをCr3へと襲いかからせた。
「誰か一人を狙えるような装備ではないのだけれどね。そういうのは皆に任せるよ」
 オーロラは絶対零度の手榴弾を投擲し、Cr3をさらに凍結させていく。
 子子は喰霊刀に無数の霊体を憑依させ、そのままCr3を斬りつける。たちまち汚染されていくCr3。
 みるみるうちに弱らせられるCr3。
 トートはエゴを具現化させた暗黒の鎖を操作し、Cr3を縛り上げる。
『あなたの魂を冥界へ送り帰してあげるわ! 受けなさい! 烈火死霊斬!』
 リルベルトは高速でガジェットを振るった。武器は大気中で激しい摩擦を起こし、焼け焦げたような匂いを残す。
「悪夢はここまでで充分。死はデウスエクスに。あなたは生きるのよ!!」
 そのあまりの速度に高威力を放つ斬撃が、Cr3を真っ二つに叩き割り、トドメを刺した。


 戦闘が終わった。ケルベロス達は背後の光輪拳士の少年を振り返った。
「あ、ありがとう……」
 少年はそう呟いて、涙を拭った。
「我輩達はケルベロスである。思い出せるか? 少年よ」
 悠斗がそう尋ねると、少年は一つ頷いた。ケルベロス。その希望を示す名の存在を。少年は事情を大体把握したようだった。このワイルドスペースは精神の牢獄だったのだ。
「そういえばそなたの名前を聞いてなかったな。問おう……唯一人で戦い続けたそなたの名を。余はトートだ」
「お、れは……」
 絶望から解き放たれた少年は、声を詰まらせている。
「積もる話もあろーがまずは抜け出さないとヤババだぜぃ。こんなトコからはスタコラサッサじゃ」
 パスカルがそうさえぎった。任務中なのだから仕方が無い。
「さて、急いで引き上げよう。最後まで気を抜かずにね?」
 オーロラもそう言った。
 ケルベロス達は少年を連れて、脱出ルートを走り出した。
「終わったんやったら、次が始まるまでのんびりしよか」
 隣を走る少年にそう子子が話しかけた。
 囚われの牢獄から解放されようとする少年は、歳相応のはにかんだ笑みを子子に向けた。

 悪夢のループが終焉を告げる。
 一筋の光がケルベロス達を照らし、少年はその輝きへとひたすらに走って行った。
 もう、振り向く事はなく。

作者:柊暮葉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。