冬の山には生き物の気配が乏しく、静けさだけが漂っているように思えた。
それでも、懸命に生きる生命の囁きは、耳を澄ませば聞こえてくる。
川のせせらぎの狭間に流れる、木々のざわめき。微かな声は小鳥のものか、それとも虫の羽音だろうか。
「…………」
ひとりの青年が、そんな環境を味わおうと山に足を踏み入れていた。それほど険しい道のりという程ではなく、登山道もそれなりのものがある。
存分に山の景色を堪能し、夕暮れまでには十分下山できるはずだった。
――何も起きなければ。
青年の目に留まったのは、静かで穏やかな景色の中に突然現れた、鮮やかな黄色の花。蝋梅だ。
じっと黙り、青年は花を見つめ続ける。
するとそこに、きらきらと輝く粉のような何かが飛んできた。いつの間にか青年の背後には、鬼百合を身に纏ったかのような少女が現れており、輝く粉は、その少女から振り撒かれているようだった。
「な……」
青年が何かの行動を起こすより先に、粉を浴びた蝋梅が動き出す。激しく枝をくねらせて、青年の身体に絡みつき、引き寄せる。
「わ、わ、うわーっ!」
蝋梅は青年を幹に押し付けるようにし、そのまま体内へと取り込んでしまった。
「よーし、いい植物になったね。それじゃ、景気よくいっちゃおー。山を降りて自然を破壊してきた文明とか、ドッカーンって破壊してきてね!」
少女……『鬼百合の陽ちゃん』はそう言って攻性植物と化した青年を見送り、満足そうに去っていくのであった。
「お疲れさんです! それじゃあ早速、事件の話を始めますね」
黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)はそう言って、集まったケルベロスたちを労いつつ、予知の内容を話し始める。
「群馬県のある山中に、植物を攻性植物に作り替える謎の胞子をばらまく、人型の攻性植物が現れたみたいなんす」
その名も『鬼百合の陽ちゃん』。ひょっとしたら、見聞きしたことのある人もいるかもしれないっすね。とダンテは付け加えた。
「その胞子を受けた植物……。今回は蝋梅っていう、黄色い花をつける木みたいなんすけど、その蝋梅が攻性植物に変化して、ちょうど登山に訪れていた青年に襲いかかったみたいっす」
青年はどうなったのか? ケルベロスたちは、ダンテに先を促した。
「……残念ながら、青年はその蝋梅の攻性植物の宿主にされてしまったっす。これ以上の被害が出る前に、急いで現場に向かって、青年を宿主にした蝋梅の攻性植物を倒してほしいっす」
ダンテはそう言って、周囲の状況などの詳しい説明を始める。
「蝋梅の攻性植物は人里を目指して移動しているみたいっすけど、今ならまだ、山の麓あたりで食い止めることができるみたいっす」
被害の広がる前に倒すべきだと、ダンテは言う。
「敵の攻性植物は1体のみで、配下なんかは居ないみたいっす。枝をツルクサみたいな触手に変形させ、絡みつき締め上げる攻撃や、黄色の花に光を集め、破壊光線を放ってきたりするみたいっすから、注意してほしいっす」
ただ、普通に倒すだけならば、苦戦を強いられるということもないだろう。十分に対策を立てて、対等に戦える筈だ。今回の問題は、相手の強さではない。
「あと、取り込まれた人は攻性植物と一体化していて、普通に攻性植物を倒すと一緒に死んでしまうみたいっす。相手にヒールをかけながら辛抱強く戦えば、戦闘終了後に救出できる可能性があるみたいっすね」
そう、敵の体内には、取り込まれた一般人の青年がいるのだ。
彼を助けるには、敵にヒールをかけ続けなければならない。それは敵の傷を癒し、こちらの攻め手を減らす行為に他ならない。
「……攻性植物に取り込まれた青年を救うのは、非常に困難っす。けど、可能性があるならば、助け出してあげて欲しいっすよ」
彼はただ、冬の山を楽しんでいただけなのだ。それなのにこんな悲劇に巻き込まれるなんて、あんまりだとダンテは訴えかける。
ケルベロスたちはその声を受け止めて、戦いへと挑むのだった。
参加者 | |
---|---|
篁・メノウ(紫天の華・e00903) |
鈴代・瞳李(司獅子・e01586) |
エリヤ・シャルトリュー(影は微睡む・e01913) |
ロストーク・ヴィスナー(庇翼・e02023) |
辰・麟太郎(臥煙斎・e02039) |
霧島・絶奈(暗き獣・e04612) |
真上・雪彦(狼貪の刃・e07031) |
サロニ・ヘスケス(上京しました・e42387) |
冷たい風が、微かに流れた気がした。
そこは冬の山を見上げる登山道の入り口あたり。車両も通れる道路からしばらく、駐車場にも使えそうな砂利の広場が続いていた。ただし、今の季節は山を訪れる人は少ないのか、停められている車などは見当たらない。
「『自然を破壊してきた文明を破壊』ですか。一理あるのかもしれませんが、この方法では所詮破壊の大義名分でしょうね」
ヘリオンから降下した霧島・絶奈(暗き獣・e04612)は小さく呟き、どこか作り物じみた笑みを口元に張りつける。
(「あれが攻性植物……何かに寄生する特性を持つデウスエクス。絶対に駆除しなきゃいけない類の奴だ」)
サロニ・ヘスケス(上京しました・e42387)は登山道の方へ視線を向けて、胸中だけで呟いた。
ゆっくりと近づいてくるのは、鮮やかな黄色い花。一見、ただの蝋梅のようにも見える。しかしただの蝋梅が、歩いて山を降りてくる筈などない。
「これまたえらい風貌になった……。でも、きっと大丈夫」
青年を取り込んだ攻性植物を見据えつつ、サロニは自分に言い聞かせるように言って、武器を構えた。
「これだけの人が、たった一人を助けようと躍起になって動いてるんですから……!」
降下したケルベロスたちが、一斉に攻性植物へと駆け出してゆく。デウスエクスを滅ぼすために。
――そして、寄生された青年を助け出すために。
「鬼百合の……、またあの娘か」
思う所があるのか、鈴代・瞳李(司獅子・e01586)は油断せずに蝋梅の動きを警戒しながら、黒漆塗りの小物入れを開く。
「――厄介な事ばかり仕出かしてくれる」
闘気をその身に纏いながら、シャーマンズカードを手の中に構え、瞳李は敵との間合いを詰めていった。
「やれやれ。攻性植物もいろいろいるな……」
戦いの口火を切ったのは、篁・メノウ(紫天の華・e00903)だった。敵の周囲に刀剣を生成し、暴風と共に射出する!
「破壊されちゃかなわないし、悪いけど摘み取らせてもらおう」
刃と風とが蝋梅の幹や枝に突き立てられるが、思ったより重量があるのか、それとも根で地面を掴んで踏ん張ったのか、蝋梅が吹き飛ばされるまでは至らない。
真上・雪彦(狼貪の刃・e07031)は首や関節を、順にコキコキほぐしていた。
「聞こえてっかァ? 今からアンタを救出する。痛ェかもだが、少しだけ我慢してくれよ」
言いつつ抜刀する雪彦だったが、取り込まれた青年からの返事はない。
「少し痛いだろうけれど、ちゃんと助けるからそれまで我慢してもらえるかな」
ロストーク・ヴィスナー(庇翼・e02023)も青年へと呼びかけながら、エアシューズを使って加速していく。
意識の有無も、本当に救出できるのかどうかも分からない。
しかし僅かな可能性であっても、ケルベロスたちはそれに賭けたかった。
「気をしっかり持っていてくれ」
加速の勢いをつけて放ったロストークの蹴りが、蝋梅の幹をみしりと軋ませる。
「うっ……」
青年の呻くような声が、聞こえた気がした。
「春の色したきれいな梅の花も、それを見る人もめちゃくちゃにするなんて」
エリヤ・シャルトリュー(影は微睡む・e01913)は少しだけ悲しそうに、鮮やかな蝋梅の花へと目を向けていた。
その眼に浮かぶ蝶の魔術式が、エリヤの意志に応えて羽ばたき始める。
エリヤが彩光の邪眼を開く一瞬前に、『柔らかく暖かな力』がその身に降りてきていた。
ロストークのボクスドラゴン『プラーミァ』が、自身の熱をインストールさせていたらしい。
友の温かさを頼もしく思いながら、エリヤは癒しの光を蝋梅へと解き放つ。
取り込まれた青年を助けるには、攻性植物にヒールをかけながら戦わなければならないのだ。
「……!」
回復した蝋梅が枝を振るい、鞭のように変形させながらロストークの身体に巻き付いてくる。徐々に力が加えられて、皮膚を破りそうな勢いで肉に食い込でいく。
「……ま、やれるだけのことはするつもりさね」
辰・麟太郎(臥煙斎・e02039)が紫煙を振り切り、一足飛びで蝋梅の目前まで踏み込んだ。
同時に放たれた超高速の拳が、ロストークを縛る枝をぶっちぎって振り抜かれる。音速を超えているせいか、僅かに遅れてパァン! と小気味良い音が響いた。
「そのおにーさんも、持ってかれるわけにもいかないから」
すかさずメノウが治療の術で枝に魔力を注ぎ込む。その間にロストークは僅かに下がり、体勢を立て直した。
「蝋梅は先見の花言葉も持つが、これ以上の厄介事の走りでない事を祈るばかりだな」
瞳李はグラビティで編み上げた弾丸を放ちながら、敵の側面に回り込むように走っていた。常に、狙い、撃てるように。鋭い視線で蝋梅を見据え、瞳李は呼吸を整える。
「蝋梅の花言葉は『慈しみ』でしたか」
絶奈は静かに、眼前に魔法陣を多重に展開していく。そこから現れる輝きが、槍のような鋭さを見せ始め、絶奈の顔に狂的な笑みが生まれていった。
生命の根源を思わせるような槍が、蝋梅の幹に突き立てられる。ばきんと乾いた音を響かせながら、木片が地面に散った。
「せっかく咲いた春の先触れだ、惜しいけれど……」
ルーンアックスを握り締め、ロストークが跳んだ。ダメージに苦しみながらも、蝋梅は見上げるようにして枝を展開し、防御の姿勢を取る。
「彼を、返してもらわないとね」
だがロストークは構わずに、全力で刃を振り下ろした。無数の枝をぶった切り、寄生された青年の頭が見えるギリギリまで、斬撃をめり込ませる。
「がっ、あぁ……」
弱々しく、呻くような声が聞こえた気がした。
「さあ、生物にとって最も強い本能、貴方の『早く家に帰りたい』感情を信じるのです!」
サロニが急いで近づいて、傷口を見る。木の仕組みはそこまで詳しくないものの、細かく裂けた部分は切開の要領で切り落とし、魔術縫合でくっつける。治療の魔力を一気に注ぎ、自身が攻撃される前にとサロニは後退った。
黄色の花に光が集まり、熱を帯びながら解き放たれる。
瞳李の腿が熱線に掠められて燃え上がるが、構わずにカードを取り出し、【暴走する殺戮機械】のエネルギー体を召喚した。
「聞こえるか? ツラいだろうが自分の意思を強く持ってくれ」
殺戮機械が敵の枝と組み合い、動きが止まった間にも瞳李は呼びかけ続ける。
――彼の意識が、デウスエクスの侵食に少しでも抗えるように。
「さぁ、張り切って……」
ふた振りの刀を携えて、メノウが駆ける。襲い来る枝の悉くを避け、払い、断って幹へと迫る。
敵の形状からして、青年が捕らわれているのは恐らく幹の中央辺りだろう。ならば――、そこを抉り取るように、弧を描いて斬撃を刻み付ける。
「攻性植物、わるい事するよね……。人にも、植物にも」
エリヤがその攻防を、視ていた。
「がんばって、止めなくちゃ」
ローブに織り込まれた魔術回路を介し、エリヤの眼から光の蝶が出現する。その一群が斬られた部分へと集い、損傷を塞ぐように力を与えていった。
「…………」
雪彦は微かに目を細め、敵の様子を窺っていた。恐らく青年はまだ、生きている。だが、それもいつまで保つかは分からない。
「随分メーワクな真似をしてくれるぜ。さくっと被害者救ってやりますかァ」
獣の力を拳に集め、雪彦が幹を殴り付ける。直後に左右から枝が巻き付きに向かってくるが、雪彦は右の枝を刀で払い、そちらに跳んで窮地から抜け出した。
枝が断たれたことで、敵に対して僅かに攻めやすい角度が生じていた。そこにロストークが踏み込んで、流星のように鋭い蹴りを打ち込んだ。
「ぐ……」
衝撃に幹がひび割れて、そこから微かに血が流れ出る。
「人型の植物だか知らんが、文句があんならテメェの拳を上げるのが筋ってモンだ」
麟太郎は紫煙を吐きながら、稲妻を纏う突きと共に蝋梅の幹へと踏み込んだ。
「雪うち透す、と詠われた蝋梅を足で使うなんざ。粋じゃねぇ」
ちらりと後ろを肩越しに見て、麟太郎が後退る。得物の槍を引き抜いて傷口を、サロニが見えるようにするため、スペースを空けたのだ。
「……そこですね!」
サロニが傷口に手を突っ込んで、強引に治療術を注ぎ込みながら引き抜いた。微かに人の血流にも似た液体の流れが感じられた。その管という管を繋ぎ合せつつ、サロニは治療を続けようとする。
「同族に対しての慈しみだけでは、不毛な破壊が繰り返されるだけ」
絶奈がとん、と。サロニを庇うように背中合わせに立った。そこにはサロニの背中を狙っていた、鋭い枝が伸びてきている。
「まあ、言っても無駄でしょうけれど」
呟きと同時に、絶奈の身に纏うブラックスライムが捕食モードへと変形する。親愛と苦痛、悪意と救いを含んだデウスエクスの残滓が、枝を喰らって消滅させていった。
戦いは、長時間に及んだ。
傷付け、癒し、傷付けられ、癒し……。痛みと疲労が思考を阻み、次第に身体が重くなっていく。
なんのために戦って、誰が敵で、誰が味方か?
自分が癒しているこの樹を傷付ける者は、敵ではなかったか……?
黄色い花がそこら中に散りばめられ、ぼんやりと、甘い香りに視界が霞がかっていくような気がする。
(「……いけない!」)
乱された思考の中で、メノウの心に何かが引っかかった。甘く漂う香りの中で、小さな香水瓶を手にしている。
手の中に、微かな金柑の花の香りを握り締める。メノウは癒しの力を雨に変え、戦場へと振り撒いた。
「やれやれ……、っと」
軽く頭を振って敵を確認し、雪彦は蝋梅と向き直る。自らの身を空にして、自然な動きで右手の刀を振り放つ。
霊力を帯びた斬撃は幹の亀裂を切り広げ、雪彦は不敵な笑みと共に間合いを取り直した。
「絶対助けるから、今少しの辛抱だよ」
エリヤの眼から放たれる瑠璃色の光が、その傷を癒す。傍らでは絶奈のテレビウムが応援動画を流し始め、戦意を鼓舞していた。
「……今此処に顕れ出でよ、生命の根源にして我が原点の至宝。かつて何処かの世界で在り得た可能性。『銀の雨の物語』が紡ぐ生命賛歌の力よ」
絶奈が異世界から、輝ける槍を引き出していく。その過程で深く、深く、戦いを愉しむような微笑みが強くなって、絶奈の瞳に熱が込められた。
撃ち出されるように放たれた『DIABOLOS LANCER=Replica』と、蝋梅の熱線が交差する。その身を炎に包まれてもなお、絶奈の笑みが消えることはなかった。
「大丈夫だ。私たちはここにいる。だからキミも、負けるな」
瞳李が振り回される枝を掻い潜りながら蝋梅に近づき、蹴り抜きざまに呼びかける。
変わらず返事は無いが、最後まで諦めずに最善を尽くす。きっとそれが、希望に繋がると信じて――。
突き出された枝を、メノウはひらりと避け、流れるような足運びで間合いに滑り込む。移動に掛かる力と斬撃とを繋げ、切り抜けるように走り抜けた。
「続きます!」
サロニがボクスドラゴンと共に、その後に続いた。属性の力を体に感じながら、サロニは癒しの力を刀傷に注ぎ込んでいく。
気の抜けない戦いが、連続して続く。サロニは緊張感に負けぬよう汗を拭い、相棒と共に蝋梅へと向き直った。
「ローシャくん。……僕、がんばるよ」
小さく呟いたエリヤの顔にも、疲労の色が滲み始めていた。幾多の攻防で土や砂が舞い、肌や髪、服は汚れ、敵の攻撃で傷も負っている。
それでもエリヤは彩光の邪眼を発動させ、幸せを運ぶ蝶を喚び続けた。
「エーリャが一緒なんだ。絶対に、だいじょうぶ」
ロストークが純白の手袋越しに、ルーンアックスを握り締める。高く掲げたその2本の刃を真っ直ぐに振り下ろし、蝋梅の枝を一気に斬り落とした。
「ぎ……」
枝の伸びてくる速度も、戦闘開始直後よりは遅くなったように感じられる。
「終いだ、花言葉どおり奥ゆかしく散りやがれ」
ゆらりと雪彦が歩き出す。独特の歩法は戦闘中とは思えぬほどの穏やかさでありながら、移動の速さはさほど変わっていない。
「目ェ凝らせよ」
敵の視界から消え去ると同時に、雪彦の攻撃は終わっていた。
捉えられない斬撃が深々と幹を斬り裂き、ばかっと大きな木片が落ちる。
そこからは、青年の左肩の辺りが見えていた。
――引っ張り出せる?
僅かな逡巡すら許さずに、残っていた枝が雪彦の身体を撃ち、地面に叩き付ける。
「へぇ、もうひと押しってところかねぇ!」
麟太郎が気を吐き、蝋梅へと向かう。迎撃に振るわれた枝と槍とがぶつかって、鍔迫り合いになるかと思われた。
「どっこい、こっちが本命よぉ!」
麟太郎は槍を手放し、手刀に闘気を纏わせ突き出していた。
「巡りて染まれ、一輪花」
一撃は樹の生命力を奪い取り、麟太郎の闘気が緋色に染まっていく。
メノウが青年の手を掴み、癒しの力を注ぎ込む。しかしまだ……、抜けはしない。
(「助ける。誰の為? 彼の為に。私の為に」)
絶奈がブラックスライムを展開し、樹の部分を喰らっていく。ばごんと右肩側も見えて、雪彦がそちらを掴んで支えた。
「ぐ……、う」
弱々しい吐息ではあったが、まだ、生きている。
「そう、大丈夫だから……。ここだよ」
彼に届くように、少しでも安心できるように、エリヤは彩光の蝶を飛ばす。その身に集い、光で傷を癒すようにと祈りを込めて。
「……その命を救いたいと願う。だから私は、戦おう」
瞳李が縛霊手を広げ、光弾を生み出す。メノウと一瞬だけ視線を交わしてから、御霊殲滅砲が発射された。
光が、攻性植物を消滅させていく。崩れ落ちるその体内から、メノウと雪彦が青年を引っ張り出し……、三人がどさりと、崩れ落ちるように地面に倒れた。
「怖い想いをさせてしまって申し訳ない。でも、登山や植物を嫌いにはならないで欲しい……。できればでいいから」
瞳李が青年に上着を貸して、静かに語りかける。まだ虚ろな表情ではあったが、青年は微かに頷いた。
「良かった、本当に……」
サロニは安堵からか、その場にへなへなと座り込んでいた。
「ふわ……ごめん、ほっとしたら、眠くて」
安堵した様子でエリヤも、小さく呟く。
「それじゃあ、救急車を呼んでおくよ」
メノウはアイズフォンを起動させながら、改めて青年の身体に癒しの力を浴びせかけている。
「にぃちゃんが無事なら万々歳、これにて落着ってな」
麟太郎も青年が救出できたことを喜び、うんうんと頷いていた。
ほどなく救急車が到着し、青年は搬送されていった。やや衰弱していたものの、数日休めば良くなるであろう。
「そうだね、ちょっとハイキング気分もいいかもしれない」
戦いを終え、メノウが周囲を見回しながら歩き始め、ロストークも枝を拾い、蝋梅を眺める。確かに感じられた春の気配にゆるりと笑みが零れる。
「……」
一方で瞳李は何か情報が無いかと視線を走らせていた。これ以上の凶事を、止めるために。
作者:零風堂 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年1月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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