慶事の空に竜牙が走る

作者:baron

 柏手を打つ音と鈴の音が何度も何度も聞こえて来る、人通りの多い神社。
 そんな平和な光景が突如、暗転した。
「ん? うわあー!?」
 ドゴーン!
 神社の一角に巨大な牙が突き刺さり、籤を引いている人もお神酒をいただいている人もそちらを見た。
 そこからはガシャガシャと鎧兜の音を立てながら、骸骨の様な姿がやって来たのである。
『オマエたちの、グラビティ・チェインをヨコセ!』
 こうして竜牙兵による大虐殺により、境内は血で染まったのである。


「千葉県の神社に竜牙兵が現れ、人々を殺戮することが予知されました」
 急ぎ、ヘリオンで現場に向かって、凶行を阻止してください。とセリカ・リュミエールは申し訳なさそうに伝えて来た。
 何しろ予知できていながら、竜牙兵は他の場所に出現してしまう為に避難勧告が出せないのだ。
「皆さんが戦場に到着した後ならば、竜牙兵は戦闘に専念しますし避難誘導は警察などに任せられるので、こちらも戦闘に専念できます」
 セリカが言うには、竜牙兵は一度戦闘を始めると決して撤退しないので、後は戦うだけで良いらしい。
「敵は五体ですが、強力過ぎる様な敵は居ません。ですが連携を行ってきますし、怪我をしている者から狙うような知恵もあるので油断はできません」
 セリカはそう言いながら、敵は大鎌を持っている者が三、剣使いが二であると教えてくれた。
「竜牙兵による虐殺を見過ごす訳には行きません。どうか、討伐をお願いします」
 セリカはそういうと、頭を深々と下げて出発の準備を始めるのであった。


参加者
ジークリンデ・エーヴェルヴァイン(幻肢愛のオヒメサマ・e01185)
ファルケ・ファイアストン(黒妖犬・e02079)
月見里・一太(咬殺・e02692)
ホワイト・ダイヤモンド(面倒臭がりな妖刀持ち・e02709)
コスモス・ブラックレイン(レプリカントの鎧装騎兵・e04701)
リィンハルト・アデナウアー(燦雨の一雫・e04723)
湯川・麻亜弥(大海原の守護者・e20324)
ブラック・パール(豪腕一刀・e20680)

■リプレイ


「おめでたい新年になんてことをしてくれるんだ。これは確実に止めないと、ね」
 戦闘を行くファルケ・ファイアストン(黒妖犬・e02079)は柵を越えて近道しながら、片手で帽子を押さえた。
 神社で無作法は避けたい所だが、人々でごったがえす道では仕方が無い。
「でもまー、目立だっちゃダメ巻き込んじゃダメって言うより、対応は楽な方よね。避難も任せられるし」
「警察の方にお願いしておけば良いですしね」
 後方のブラック・パール(豪腕一刀・e20680)と湯川・麻亜弥(大海原の守護者・e20324)は警察に説明をした後、急いで仲間達を追い掛ける。
 予め警察にだけは大凡の事を伝えてあるし、自分達はどこで迎撃するかと言うだけなのでそれほど時間は掛らない。
 問題があるとすれば、ここが人ごみ溢れる神社であり、直前まで参拝が続けられてしまうことだ。
「よりによって神社にあらわれるとか。こういうの、ふとどきものって言うのかな。神聖な場所をけがすやつらに天罰くだしてやらなきゃ、ね」
 変転する空を見上げながら、リィンハルト・アデナウアー(燦雨の一雫・e04723)は小走りにペースを変えた。
 警察の声に従って流れる人々にぶつからないように、そして敵が現れた時に対応できるようにする為だ。
「神社で暴れ出すなんて、とんでもないんだよ。ここで被害なんて絶対ださせないんだからっ」
 ドーンという音と共に神社その物へ落着する。
 神主だか禰宜だが判らないが責任者が最後に出て来るのとスレ違い、リィンハルトはお互いにペコリと頭を下げあった。

「無禮に罰を。注げ、懲の禮雨」
 リィンハルトは祈りを捧げると血の様に赤い雨を降らせた。
 それは神社の軒先を赤く染め上げ、人々を追い掛けて来た竜牙兵を苛んで行く。
「こっち優先って話だけど……信用できねえからな。これでもくらっとけ」
『オノレ、ケルベロスか!』
 ホワイト・ダイヤモンド(面倒臭がりな妖刀持ち・e02709)が回し蹴りを浴びせるが、横から滑り出た大鎌に舌打ちした。
 強襲そのものには成功したが、相手の盾役が割って入ったのだ。
 グラビティを込めた爪先が、回転する柄に巻き込まれて力が半減する。
「ったく、面倒くさい」
 ホワイトは絡めた足に力を入れる事で大鎌を拘束すると、その隙を仲間に窺わせる。
「年明け早々からご苦労なこったな骸骨共! 地獄から番犬が年玉やりに来てやったぞ!」
 月見里・一太(咬殺・e02692)は大剣を振り降ろしながら迫り、肩をぶつけるようにして体当たりを掛ける。
「遠慮しないでいいから……有難く受け取って砕け散れ!!」
 そして牙をむいて唸りながら、敵が居た場所を奪い取る様に押し出したのである。


「ホワイト、作戦ちゃんと覚えてる?」
「へいへい。後衛狙いね、わかったわかった」
 ブラックは白刃にデウスエクスへの呪いを載せて剣圧として放った。
 姉の言葉にホワイトはうんざりした表情で、掌をプラプラとさせる。
『ココで貴様ラヲ始末してくれヨウ』
 そんな中で敵も応戦を始め、怨霊やら氷の波が押し寄せて来た。
 いや、迎撃するのはこちらなので応戦というよりは、改めて進撃して来たというべきだろうか。
「現れましたね、私達が相手してあげますよ。さて……」
 麻亜弥は視線を動かして全体を見据え、先ほどの猛攻の痕を確認した。
 攻撃に対して全てを防ぐのは無理であり、カバーだって100%割りこめる訳ではない。
 状況に応じてよりベターな選択で対処すべきなのだ。
「こっちで手伝うよ。本当は攻撃したい所だけどね」
「すみません。では協力をお願いします。……生きる事は素晴らしい事です、必ず、生きて帰りましょう」
 ファルケが最も傷の深い仲間に気力を移すと、麻亜弥は小康状態に戻すべく全体を治療する事にした。

 幸いにも敵は壁役はともかく攻撃役が少なく、こちらの先制攻撃もあって敵も万全では無かったからだ。
 完全に治療するのは無理だが、少なくとも峠を越えることはできる。
「新年早々ご苦労ね。けれど誰も死なせないわ。代わりに私がお前ら全員ぶっ潰してやる」
 死なせ無いと言う言葉には、一般人だけでなく攻撃を引き受けてくれる仲間も入っている。
 大切な仲間達に向けられた殺意に対し、ジークリンデ・エーヴェルヴァイン(幻肢愛のオヒメサマ・e01185)は里の仲間を滅ぼした敵を思い出しながら溢れかえる憎しみを束ねて行く。
「私は愚かなお姫様。王子は居らず獣の叫びに耳を貸す。悲鳴を聞かせて下さない? 嘆き悲しむ貴方の声で私の世界は輝くの。心にて射抜く……!」
 グツグツと煮えたぎる憎悪がベクトルを形成。
 次第に増す憎しみの深度は、後でハタと我に帰った時に復讐は愚かな行為であると自嘲するのかもしれない。
 だが今は決して止められない! 秘めるつもりもない思いが、グラビティによって炎となって顕現した。
「今はそのままにしておいた方が良いようですね。鎮静剤は後で使うとしましょう」
 コスモス・ブラックレイン(レプリカントの鎧装騎兵・e04701)は冷静にコスモスが憎しみを制御して居るのを見て頷いた。
 炎は予定通りに後衛へ向かっているからだ。
 コンテナを開いてミサイルを発射しつつ、砲撃態勢に入った。
「とっとと、クタバレ」
(「それよりもホワイトですね。普段ならブラックも私に任せて放っているのですが」)
 ホワイトがイライラしながら慣れない闘気を放って居るのを見ながら、コスモスは先ほどブラックが珍しく忠告したのを思い出した。
 近くで見てそうとうにストレスを溜めているのだろうなと気が付いたのだろう、さっさと終わらせようといつもより攻撃を多めに割り振った。
 仲間達の攻撃に合わせて機関砲を構え治療役狙いを続けた。


「光の盾よ、仲間を癒す力となって下さい」
『シネイ!』
 麻亜弥がこちらの攻撃役の前に精神力を束ねて盾を作ると、敵は治療の遅れている盾役を狙った。
「あーもう、どうしようもないな。せめて一人くらいは落ちてくれないと駄目か」
 次々に降り注ぐ刃にヘキヘキとしながら、ファルケは下がったりワザと喰らいに前に出ることで威力を半減させている。
 こちらの攻撃に合わせて敵も治療して居るので、前回よりも攻撃密度が薄いのが幸いだ。
 それでも盾役一人で攻撃役四人を庇い切れる訳でもなく、攻撃役の仲間を治療したことで、自分が攻撃するチャンスも失われてしまった。
「折角新年でおめでたい時なのに、しかも連携してくるなんて、いつも以上に気が抜けない、ね」
 リィンハルトは鋭い踏み込みで敵中衛に突進。
 とてとて一生懸命走りながら牽制攻撃を掛けようとしたのだが、それを相手の壁役に防がれてしまったのだ。
 あれが成功して居れば、相手の攻撃力や妨害能力もさげられたと思うのだが……。
「きらいきらいっ。次こそなんとかするんだから」
 ぷんすか言いながら、チャンスを待って我慢の子である。
「とはいえなんだ。連中の思考回路を考えるとそう時間は掛らねえ気もするがな」
 一太は他人事のように血を吐き出して意気(息)を整えた。

 それほどこだわりも無いので良く覚えていないが、竜牙兵が回復を繰り返したイメージはあまりない。
 実際に竜牙兵はケルベロスほど仲間を大事はしないし、回復のローテーションなども行わないことが多かった。
 このまま攻撃を続ければ、その個体は放置して攻撃を重視するように成るだろう。
「と言う訳だ。死んどけ」
 そうして一太は体を巡る炎を飛ばす。
 足から肩を通して巡る闘気が体全体を伝わるように、炎は敵を焼いた後で彼の元に戻ってくる。
 炎と共に与えたグラビティよりもより大きな力が、敵から奪われて一太の元に戻って行った。
 さながらその姿は、火で出来た触手や鞭を操っているかのようであった。
「後ちょっとかしらね? みどもが先に行くから、倒せなかったらお願いね」
「へいへい。任せとけって」
 ジークリンデが炎に包まれたまま棍を伸ばすと、後方の竜牙兵を串刺しにする。
 骨と骨の間に棍を挟んだまま、ホワイトの方にスイング。
「結局、オレがやるのか。仕方ねえなあ」
 今回の敵は数が多く、回復はあくまで前衛に向けている。
 ゆえに倒し易かったのだがそれでも倒しきるには至らない。ホワイトはナイフを抜いて鏡の様に映し出したのであった。
 落下して来る竜牙兵は、彼女の元に至るまでに内側からヒビが入って砕け散ったと言う。
「殴りたいのに悪いわね。お願いおねーちゃん♪ って言ってくれたら変わっても良かったんだけど」
「……今更おせえよ。つか、死んでも言うか」
 ブラックは放って居た刀の霊気を納め、鋭く稲妻のように踏み込んだ。
 苦手な遠距離攻撃でふてくされた妹を宥めながら、先ほどから庇っている盾役に切り込んで行く。
 二体居る内の、より傷の深い方へ切りつけて一撃離脱で飛び抜けて行った。
「これでようやく僕も攻撃できるね。もっとも、集中攻撃じゃなくてこっちだけどさ」
 ファルケは苦笑しながら、緩みそうになる帽子をかぶり直す。
 そして速射により敵の攻撃役を狙い、全力を出せなくする為に大鎌の持ち手を狙い撃ったのである。


「あと三体。ですがもう一体を倒すのも遠いことではありません。順次陣形を立て直して包囲戦に移りましょう」
「そうね。そろそろ連中は回復を止める筈よ」
 コスモスはレーザー砲撃の後、再び回復を兼ねて鎮静剤を撒く準備を始める。
 それを受けてジークリンデは溜息ついて落ち着きを取り戻した。
 だが燻る憎しみの炎はそう簡単には消えてくれないのだ。既に五分くらい延々と戦っているが、時間が経ったくらいで怒りが消えたりはしない。
「さぁ。とことんやってやろうじゃないの。最後まで愉快に踊りなさい」
 ジークリンデは再び炎を放ち、凍りついた敵を赤々と染め上げて行く。
 繰り返せば外れる事もあったが、今度は命中して最初の時のように景気良く敵の体力を削って行ったのである。
「やっぱ防がれないと気分いいな」
「まーな」
 一太とホワイトは肩を並べて竜牙兵へ切り込んだ。
 大剣で思いっきり殴りつけ、黒刀で強打して切ると言うよりは殴りつけると言わんばかりの勢いである。
 言葉こそ少なかったがホワイトは満更では無く、近距離での打撃戦を好むがゆえに傍目には判り難いが御機嫌だった。
「……ねえ、あなたディフェンダーじゃなかったっけ?」
「良く覚えてねえ。記憶にない」
 ブラックは彼女にしては珍しく、猫撫で声で一太に声を掛けた。
 妹と仲良くなった様に見える(単にストレスとイライラが消えただけだが)彼に青筋を立てつつ、斬撃まで放った。
 彼が一撃離脱で抜けるのに合わせて放っただけで、別に味方を狙ったわけではない。
 しかし万が一にでも遅れていたら、ぶった斬っても良いかなーと言うくらいには今度はお姉さんがイライラしていた。
 そして刃が通り抜けた時、倒れたのは当然ながら竜牙兵であった。

 これで残るは後二体。それも範囲攻撃や牽制攻撃で傷付いている。
 こちらの結界を剣で斬り割き、大鎌を投げつけて来るが……これまでのような危険性は随分と減っていた。
『許サン。許サンゾ!』
「そう言われてもねぇ。これも戦いなんだし、お互い様なんじゃないかい?」
 ファルケは空の弾倉を回転させながら、弾丸の代わりに気合いを込める。
 そして精神力をグラビティで固めて放った。それは敵が投げた鎌に当たる直前で炸裂し、攻撃力を削り取るのであった。
「今だよ。ふーちゃん、やっちゃって!」
 リィンハルトは再び氷の精霊にお願いして、燃え続ける竜牙兵を氷で覆い始めた。
 それでも戦おうとしたが、少しずつ動きを止めて崩れ落ちたのである。
「これが最後の治療でしょうか? ……いえ。最後まで気を抜かずに戦いましょう」
 麻亜弥は歌を唄いあげ、仲間達の治療に当たった。
 残るは一体で既に包囲体勢だ。次は治療するよりも攻撃する方が早いと思わなくはないが、それでも油断は禁物である。
「そうだな。そうするか」
「時間を掛けるつもりはないけどね」
 一太は大鎌を投げつけ、ジークリンデは棍を伸ばして叩きつけた。
 まるで羽子板の様にグラビティが飛び交うが、その殆どはケルベロスの物だ。
「トドメをお願いします。逃がさない様に」
「出来るもんなら逃げて見れば面白いけどな。まあ逃がさないけど」
 コスモスが放つミサイルの雨の中、ホワイトは足を止めたまま連続で斬り付けた。
 時々足をひかっけ、エルボー決めて態勢を崩しながら、頬に触れる爆風など気にもせずに斬りつけ、あるいは殴り続ける。
 やがて敵は動きを止め、ピクリともしない。

「ハハッ……新春初笑いかしら?」
 清々したとは言わない。
 敵を数体倒した程度ではジークリンデの心は晴れない。
 それでも敵を倒したことで、少しは和らいだのかどこからか笑う声がする。それにつられて彼女も微笑みだけは浮かべて見せることにした。
「いやー死ぬかと思った。まあなんとかなるとは思ってたけど」
「その時は俺も治療に回るぜ。そうすりゃタゲが移るだろ」
 ファルケと一太はハイタッチしながら、戦場を眺めて溜息をついた。
「ヒールすっか」
「神社の修繕ねぇ……グラビティで直すと微妙に元通りってわけにいかないのが難点ね。ほっとくわけにもいかないけど」
 やれやれと言いながら一太やブラックは修復を開始。
「おや、今日は何時になく積極的ですね。良い傾向です」
「人が多いのは苦手なんだ」
 コスモスが薬剤をまきながら、ホワイトを宥めた。
 さきほどまでイライラして居た彼女も、最後の方は乱打戦に移行したので悪くない気分らしい。
 それはそれとして苦手なのは確かなので、残骸整理やら積極的に手伝ってさっさと帰るつもりのようである。
「こんなものでしょうか。何人か残って見回れば問題無いでしょう」
「これならば行事の再開も早そうですね」
 麻亜弥が歌を切り上げて周囲を見渡したが、特に戦場の痕はない。
 その言葉に頷きながらコスモスはブラック達の元に向かった。
「そ-だっ。おみくじで今年の運試し、どう?」
「いいねぇ」
 リィンハルトが神社の脇にある施設を指差すと、ファルケ達は何人かが頷いた。
 そうして希望者はおみくじを引いてから、内容に一喜一憂したそうである。

作者:baron 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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