ミッション破壊作戦~猟犬の魂燃ゆ、俺らに正月は無い

作者:ほむらもやし

●ブラック依頼
「新年あけましておめでとう。で、早速で恐縮なのだけど、またグラディウスが使えるようになっていたから、ミッション破壊作戦を進めよう」
 ケンジ・サルヴァトーレ(シャドウエルフのヘリオライダー・en0076)は約6秒で年始の挨拶を終えると、依頼についての話を始めた。
「作戦はいつもの通り、シンプルな作戦だから、未経験の君でも大丈夫。まず、これがグラディウス。通常の武器としては使えないけれど、『強襲型魔空回廊』を攻撃できる武器になる。使い方はバリアに刃を接触させるだけだ。後は撤退。速やかに撤退を阻もうとする敵を倒し、敵勢力圏から離脱する」
 作戦は魔空回廊への攻撃と、撤退戦の二つの段階からなる。前者は個人的な思いが、後者は仲間との連携や既に分かっている知見をどのように生かすかも重要になる。
 今回、向かうのは、攻性植物のミッション地域のいずれか。具体的な行き先は皆で相談して決められる。
「簡単な依頼なんだね、安心したよう」
「だが油断は禁物。撤退に時間を掛けすぎれば、全滅する危険がある。もし戦いの最中に新手が来援を許せば万事休すだ。敵の占領地域である以上、特に時間には厳しく行かないと、命に関わる」
 とはいえ、敵はグラディウスの攻撃の余波である爆炎や雷光、同時に発生する爆煙(スモーク)に視界を奪われて大混乱に陥っている。これが少人数の奇襲でも、時間さえ掛けなければ1回の遭遇戦で撤退可能と見通せる最大の要因である。
「スモークが有効な時間はグラディウス攻撃を終えてから十数分程度。向かった場所やその日の状況で多少の違いはあるようだけど、何十分も持つものでは無いことだけは覚えておいて欲しい」
 時間に限りがあること強調したが、今までミッション破壊作戦中に、ケルベロスが死亡した事例は無い。
「あと、グラディウスは使う時に気持ちを高めて叫ぶと威力が上がる。君の熱い叫びがミッション地域を人類の手に取り戻す力になるのだから、恥ずかしいとか言わずに頑張って欲しい」
 攻撃を掛けるのはミッション地域の中枢にあたる、強襲型魔空回廊。
 中枢であるが故にヘリオン以外の手段で、そこを目指せば、遭遇戦の連続が確実。従って消耗による撤退が不可避である。また敵にとってもグラディウスは重要なアイテムで、これを奪われる危険を考えれば、行うべきで無い。
「次に叫びはグラビティを高める為の手段だけど、何をもって強い叫びとされるかは解明されていない」
 ミッション破壊作戦では、何度も攻撃を繰り返して、ダメージの蓄積による強襲型魔空回廊の破壊を目指している。
 過去に1回、2回の攻撃で破壊に至った事例もあるが、こ極めて幸運なケースだ。
 だから1回の攻撃で過大な戦果は要求されていないし、それよりも無事の帰還を重視して欲しい。
 ミッション地域は、日本の中にあっても、人類の手が及ばない敵の占領地。
 日々ミッション地域へ攻撃を掛ける有志旅団の力を持ってしても、防備の固い中枢近くまでは、手が届かない。
 敵の傾向は、既に明らかになっている情報を参考にできる。だから速やかに撤退できるようプランを描き、皆で実行しよう。
「デウスエクスは皆が遊んでいる間にも、ミッション地域を拡大し続けている。皆が正月休みを堪能している間にも、新たな強敵が攻め込んで来て、どこかの街を制圧するかも知れない」
 その街は見知らぬ街かも知れないし、あなたの身近な土地かも知れない。
 今、目の前に見える世界が、平和だとしても、侵略を受けている日常は危機だ。
 そして、この危機を救い得る力を持つのは、あなた方ケルベロスだけだ。


参加者
アリス・ティアラハート(ケルベロスの国のアリス・e00426)
シルフィディア・サザンクロス(ピースフルキーパー・e01257)
クリームヒルデ・ビスマルク(自宅警備ヒーラー天使系・e01397)
ステイン・カツオ(剛拳・e04948)
板餅・えにか(萌え群れの頭目・e07179)
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)
村雨・柚月(黒髪藍眼・e09239)
夢幻・天々奈(封印されし禁忌の少女・e36912)

■リプレイ

●執念の叫び
「お正月だろうがクリスマスだろうが、人々の危機を見過ごさないのがアテナ様なのよ!」
 夢幻・天々奈(封印されし禁忌の少女・e36912)は当然のように言った。
 他の生き物を苗床にして無限に繁殖できる侵蝕生命体、板餅・えにか(萌え群れの頭目・e07179)が、その脅威を知ってから4ヶ月が経過していた。
「正月の挨拶もなしに商売続けられちゃーこっちも困るもんでね。そろそろ落とし前つけてもらいましょうか」
 白狼の耳を動かしつつ、えにかが窓の外を見遣れば、澄んだ青空の下に雪を頂く屋久島の山並みが見える。
「及ばなかった、それでも、今度こそ、遅くなった、長くなった……」
 クリームヒルデ・ビスマルク(自宅警備ヒーラー天使系・e01397)の様子は、まるで悪夢にうなされるよう。
「だから、今……やらないと」
 いつまで攻撃を繰り返せば、戦いが終わるのか、焦燥が心を蝕み始めている。
 無念の怨嗟から湧き上がる怒り、啜り泣くような呟きから漂う緊張感は、数え切れない程のケルベロスを運んできたヘリオライダーの心を抉る。
 到着を告げるランプが灯り、ロックの外れる音と共に、ヘリオンの扉が開く。
 戦陣を切ったのは、ステイン・カツオ(剛拳・e04948)であった。
「ぜってぇ割ってやる、こんちくしょう。屋久杉喰い潰しちまってねえだろうなぁ、こんちくしょう!」
 自身でも三度目の攻撃。この後何度繰り返さないといけないかは――わからない。
 十回程度の攻撃なら壊せるという話も聞く。そう仮定するなら、まだ攻撃は折り返し地点と言うこと。
(「冗談じゃ無い。そんなに時間が掛けてられるか」)
 彼女だけでは無い。この空に飛び出してくる者は皆、概ね似たような思いを抱く。
「アンタらに故郷を奪われている誰かがいる。それは違いない。それが気に食わない。これで最後だ。アンタらが居座るのも、私が誰かの故郷の森を焼くのも」
 一分でも早く打ち破りたい。ステインは満身の力を込めてグラディウスの小さな刃を振り下ろす。
「だからぶち壊す! 島を取り戻す! ぶち抜けろぉ!!」
 声が轟くと同時、太陽を隠すほどの閃光が爆ぜて風景は白と変わる。続けて天地を貫く轟音と共に、色彩が戻った空に橙と黒の爆炎が立ち上がり、地上のありとあらゆる物が上空に吸い上げられるような強風が渦巻いた。
「今のは、何なのですか?」
 衝撃波にも似た風の塊を抜けると同時、シルフィディア・サザンクロス(ピースフルキーパー・e01257)は、背筋に悪寒を感じた。
「度し難い執念だね——」
 落下速度を抑制しないままに、ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)は、シルフィディアを追い越して、真っ直ぐに目標に突っ込んで行く。
「此処を野放しにしたら、被害は世界中に広がるんだ。そしたら人々の平穏、笑顔が奪われる様を見ることになる。…そんなの悲劇を見るなんてこりごりだ!」
 頭の中に守りたい者たちの姿、幸せな営みを思い浮かべ感情を高める。ケルベロスとして戦う上で誰もが抱くであろう、最も大切な感情のひとつ。
「だからもう、これ以上、汚させはしない。侵略者を、今、ここで退けてこの地域を取り返してみせるんだ! だからこんな魔空回廊なんて壊れてしまえ!」
「いけ、そのまま壊れてしまえ!」
 バランスを崩し、地面に叩きつけられたステインが上を見上げれば、白と灰と黒の入り交じった爆煙が巨大な茸の傘を青空に描く様が見え、視線を身の回りに移せば数え切れない程の、蠢く攻性植物の群れの中にいることを知る。
「敵?!」
 膨れあがる殺意の矛先が自分に向けられていると直感して握り締めたままのグラディウスを胸元に構え、最期を意識するステイン。誰だよ。大丈夫、なんて言ったのは。
「気色悪い雑草共が……ぶっ潰してやりますよ! ここにはとても豊かな自然があり、千歳を超えた大きな木が残る貴重な場所なんです……。そこに貴様らのような屑がウジャウジャと……、寄生のため? ふざけるなカスが!」
 次の瞬間、シルフィディアの叫びとと共に大地が鳴動し、渦巻く風が奇怪な攻性植物の群れを宙高く放り上げて行く。
「だから貴様らに終わりをくれてやりますよ……犯してきた命の痛み、その身で味わえ。地獄で詫びろ。ゲートごと死に絶えろ!!」
 爆発、噴き上がる火炎と迸る雷光が煌めく龍の如くに姿を変え、宙に舞い上げられた異形を次々と粉砕し、火炎の絨毯はグラディウスを手にしたステイン、着地したばかりのミリム避けるようにして地を舐めて行く。
「ミッション破壊作戦は何度目かになるけど、何時になってもコレは慣れそうにないね」
 グラディウス攻撃の余波である雷光や爆炎が、グラディウスを持たぬ者に襲いかかることを理解していても気持ちは複雑だ。
(「しぶとく耐えやがって! まだこの地を汚すつもりか!」)
 衝撃波に揺さぶられ、雪を冠していた山々の白が消し飛んでいた。攻撃を掛ければ敵だけでは無く、周囲にも被害をもたらす。それは当たり前の事実。だがもっと大きな害悪を取り除く為、村雨・柚月(黒髪藍眼・e09239)は刃を突き出す。
「お前らがいる限り、人々の心から悲しみは消えない。生み出される破壊と恐怖は計り知れない」
 彼が最初のミッション破壊作戦に征ってから4ヶ月が経過していた。オウガの女王ラクシュミの他、有志の旅団、個人による攻撃により、今は敵の増殖は限られた地域に封じ込まれている。その均衡がいつまで保てるかは、誰にも分からない。
「お前らのような奴を、野放しにするなんざ1000%あり得ねぇ! させてたまるか! だから俺はまた刃を叩きつけに来た!」
 爆ぜる閃光と衝撃波。続けて、バリアを通った稲妻の軌跡に沿って、樹枝状の裂け目が広がってゆく。
「いよいよ決着の時か?」
「このまま崩れてくれれば良いのですが……」
 柚月は着地すると、すぐにシルフィディア、ミリム、ステインらと背中合わせに敵を警戒した。爆炎と雷光に蹂躙されてなお周囲に満ちる敵意は消えることはなく、一刻も早くこの場を立ち去りたくなる。
「魂に刻まれたピルグリムの惨劇は、いまだ消えず。奴らを本当に滅ぼすその時まで、何度でも剣を取ろう」
 噴き上がる緑の火焔の如くに髪を靡かせて、一筋の槍となったえにかがバリアに突き刺さって止まると同時、同心円状に広がる業火が爆ぜた。
「ここは地球、不死の神様でも宇宙の侵略者でも、よそ者にデカい顔させるわけにゃーいかんもんでサ」
 橙の光が世界を満たす中、逆さに突き刺さったまま、えにかの身体は微動だにしない。
「ここに来るのも2度目、既に火蓋が切って落とされたなら、雌雄はただ剣にて問うのみ! 我が叫びが星の厄災を打ち砕く!」
 続く叫びが紡がれると同時、グラディウスから噴き出す光は再び加速を生み出して、遂にバリアを貫通する。
「やった……のかしら、なら、あとはすたこらさっさでサー」
「まだだよ。結構効いているみたいだけど、落ちていない」
 ミリムは飄々とした調子のえにかに一カ所に固って待とう呼びかけつつ、ツッコミも入れる。
「この敵意は尋常ではありませんね……、前もこうでしたか?」
 シルフィディアの問いに、ステインもえにかも首を横に振る。嫌な気配は相変わらずだが、襲いかかろうとする敵の影は雷光と炎に次々と打ち払われて、傷つく者は誰も居なかった。同時に視界を覆うように広がってゆくスモークは次第に濃くなって、敵の目から5人の姿を隠して行く。
「もうこれ以上、ここを戦場にする訳にはいきません……」
 雪を頂いていた山々の峰は全て濃い緑色になっていた。僅かに積もった雪が消えるぐらいならば影響は無視できるが、戦いの舞台の状況を変えてしまうほどにグラディウスを行使する影響は大きい。だからこそ、アリス・ティアラハート(ケルベロスの国のアリス・e00426)は、この戦いに終止符を打ちたいと望む。
「もう苗床にもさせないです……! ラクシュミさんも、旅団の方々も、私たちも……、だからもう終わらせなきゃ……!」
 願いを込めた、アリスの刃が崩れかけたバリアに衝突する。巻き上がる風が、山並みを覆う程に、茸雲を巨大に成長させて、不規則に枝を伸ばす雷光が舞い上げられた異形の影を次々と貫いて行く。
「ひょっとして、もう壊れちゃってるんじゃないの?」
「そのようですね。ですが、此処は念入りに破壊しましょう」
 背中の羽根を広げて攻撃のタイミングを計っていた、天々奈、そしてクリームヒルデは、崩壊を始めたバリア、そして強襲型魔空回廊との距離を詰めて行く。
「これまで犠牲になった命のために、新たに芽生える命のために、解放と自由を願う魂のために、忌まわしき巡礼者の手から、この地を解放する!」
「ひゃっはー! 今年最初の回廊破壊とか超カッコいいじゃない! 魔空回廊よ! アテナ様の伝説の糧となって砕け散りなさい!!」
 浮遊する半球状のバリアに左右から接近する天々奈とクリームヒルデ。直後、グラディウスから溢れ始めた光は二人の身体を、その瞳と同じような紫と赤の光で包み込む。
「お願いします……!」
「行けっ! しくじったらタダじゃおかねえぞ!」
「まー、流石に壊れるんじゃないかしらー」
 アリス、シルフィディア、ステイン、えにか、ミリム、柚月の6人、それからこの日、ミッション攻略を実施していた、ケルベロスたちにも見守られて、
「いけるか……グラディウス! 足りないと言うなら、私の命も持って行け! これが……命と願いの力だ!」
「超必殺! 夢幻究極迅雷無双剣改!!」
 彗星に如くに光の筋を伸ばして飛翔する2人は、叫びと、空を裂く金属音を残して、バリア、そして魔空回廊を貫いた。瞬間、風景が麻痺したように、ありとあらゆる物が動きを止めたように見えた。
 そして大気と大地が音を立てて揺れた。崖は雪崩のように崩れて、業火が谷を舐める。再び全てを宙に吸い上げるような強風が渦を巻く中、魔空回廊は爆発し、津波のような衝撃波が森を薙ぎ倒しながら流れて行った。
 この日、魔空回廊を壊滅せしめた叫びの力は、これまでのグラディウス攻撃の中でも最大級のものであった。

●生きるための戦い
 上空は薄墨を流したような雲に覆われて、スモークに覆われた谷間は夜のような暗さを感じるほどになった。
 降り始めた雨が頬に当たると、墨汁で引いたような黒い筋が出来る。
「大きな火事の後には雨が降るというのは本当なんだね」
 ミリムの呟きに頷くと、当初の撤退プランの通りにしようとアリスは呼びかけた。
「こちらのようです。急ぎましょう……!」
 一行は撤退を開始する。山肌の崩落は地形を変える程に感じられて、足取りを鈍らせる。一方で命の危険を感じさせるほどに満ちていた殺気は、焼き払われてしまったのかのように、感じられなくなっていた。
「この泥の山を越えれば、後は森を抜けるだけでございますが……」
 このまま逃げ切れるなど甘いことは考えていない。パズルの1ピースが抜けているような不吉さを感じつつ、ステインは進もうとする。直後、ミリムの警告が飛んできた。
「下だよ!!」
 衝撃と共に土砂が宙に舞い上がり、ギガンティック・スター・ピルグリムが現れる。
 長く伸ばされた産卵管が、アリスに突き刺さるかに見えた瞬間、伸びきろうとする管にステインが横から体当たる。奇声を上げて、跳んだ巨躯は焼け焦げた身体を擡げるようにして、8人を見下ろした。
「ちっちっちっ、そんなせこい手に引っかかるわけにゃーい!」
 軽く握った如意棒を左右に動かしながら、えにかは小さな胸を張り、正月返上のお返しとばかりに言い放つ。顔を向ける巨大な影、好機とみたミリムは巨大なドラゴニックハンマーを構えて跳び上がった。
 次の瞬間、噴射したドラゴニック・パワーの加速と共に飛び込んだミリムは敵の後方に飛び抜ける。続くシルフィディアの蹴りは、避けようとした巨体を強かに打ち据えて、星の如き煌めきを散らす。
「手強いじゃないか、こいつ」
 続いて繰り出した縛霊手が空を切り、希望的観測だけで戦う怖さを柚月は思い知るが、次は外さない手応えも感じていた。
 命中率だけで判断すれば怪光線、だが当たる可能性を重視すれば気咬弾。地裂撃は論外。ステインが逡巡している間に距離を詰めた、えにかが漂うスモークの中に漂う炎で巨大な影を包囲する。その姿にステインの迷いは霧散する。
「これが、飛んで火に入る正月の虫でサー!」
「こっちだボケ!」
 次の瞬間、光の矢が巨体に突き刺さっていた。一見して無造作に放たれる攻撃にも、次に誰が何をするかを意識されていれば、パーティのとしての戦闘力は大きく変化する。
「ピルグリムさんとの戦いも……終わらせます!」
 ケルベロスチェインが泥を打つ音と共に描かれた魔方陣の輝きが、黒い雨の降り続く戦場を清らかな光で照らし、盾の加護を広げる。アリスは願う。この戦いが一刻も早く終わることを、そして望む、ラクシュミに会いたいと。
 クリームヒルデは泥濘に膝を着き手を合わせる。
「祈りましょう、明日のために。願いましょう、人の子等の安寧を。唱いましょう、天上に響く高らかな凱歌を」
 仲間の傷は全て癒したい。願いを乗せたソプラノの響きが、殺し合う場に儚くも清らかな気配をもたらす中、空の上から敵意に満ちた、高い声が響き渡る。
「良いこと? おデブさん。——あなたのようなチートな敵は、このアテナ様が全力で叩きつぶしてあげるわ!」
 上昇から降下へと転じた人影は、足元から輝き始め、間も無く流星の如くに敵に衝突する。
 早く倒さなければ帰れない。
 島を危機から救いたい。
 その願いを乗せた蹴りは確かに敵の動きを鈍らせて、ウイングキャットが広げる清らかな羽ばたきは居並ぶ前衛に確かな加護を重ねた。
 無茶苦茶に繰り出された鋏にウイングキャットが吹き飛ばされる。一瞬遅れて動いたステインの放ったオーラの弾丸が巨体に食らい付く。樹の根のような敵の足が暴れて、不安定だった斜面の泥が音を立てて崩れ始める。
 だが、相応に体力を消耗している巨体の動きは鈍く、此方の優勢が変わることはない。
 唯一恐れるのは時間の経過だけだが、スモークは充分な濃度を保っており、援軍の気配も無い。
 果たして、猛攻の末、ギガンティック・スター・ピルグリムが天々奈の解き放った禁忌の封印のつもり、その幻影の生み出す一閃に落ちた。
 激しい戦いに勝利を収めた一行は、焦土に別れを告げ、只管に進む。
 健やかな緑の息づく森は瑞々しかった。
 叫びも戦いも、全てはこの命を未来に繋ぐためのものだったと気づけば、疲れも吹き飛ぶ。
 破壊をもたらし、命も奪ったが、それよりもずっと多くの、遍く命の未来を救ったのだ。

作者:ほむらもやし 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 19/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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