初詣の乱入者!

作者:宮下あおい

●予知
 新年、初詣で賑わう昼間の神社。屋台も並び、美味しそうな匂いが立ちこめる。友人同士のお喋りや商売繁盛を願う人々、親子連れ。振袖を来た女性も多い。
 境内では七草粥も振舞われていた。
 そこへ突然巨大な牙が突き刺さる。その牙は、鎧兜まとった竜牙兵へと姿を変える。
「グラビティ・チェインをヨコセ!」
「フハハハハ! マツリか。ワレらもクワえてもらオウ!」
 竜牙兵は、周囲の人々を無差別に殺戮を始めた。
「ワレらにムケタ、ゾウオとキョゼツはドラゴンサマのカテとナルのだ!」
 新たな年の幕開けに、竜牙兵の言葉が響いていた。
●急行
「ボクの予感が当たったんだね」
 月岡・ユア(月歌葬・e33389)の一言に、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は頷いた。
「はい、ユアさんだけでなく、他の皆さんも同様に警戒や注意してくださったので、いち早く察知することができました」
 ある神社で竜牙兵が現れ、人々を殺戮することが予知された。
 基本的なことは前回と一緒だ。竜牙兵が出現前に、周囲に避難勧告すると竜牙兵は他の場所に出現してしまい、事件を阻止することが出来なくなってしまう。
「同じように避難誘導とかは、警察に任せてしまっていいってことだねぇ」
 ユアは片手を顎に当てた。
「出現する竜牙兵は3体。魔力によって武装化したオーラを装備しているようです。それから今回は、分かっていることがもうひとつあります。中衛が2体、それ以上は不明です」
 実際の戦場では走り回っているわけだが、戦闘には攻撃手、支援役、回復役というような役割も必要だ。中衛というと、おおよそ支援役であることが多いだろうか。
「周辺の状況は、参拝客も多く、屋台も多数出ています。避難誘導の必要はありませんが、皆さんとの戦闘が始まった後は、竜牙兵の撤退はありません。そういえば、この神社では七草粥を振舞っているそうですね」
 セリカは地図を広げ、神社の場所を指し示す。
「新年早々悲しい思いをする人が出ないよう、皆さん、竜牙兵による虐殺を今回も止めましょう!」


参加者
ロゼ・アウランジェ(アンジェローゼの時謳い・e00275)
ディークス・カフェイン(月影宿す白狼・e01544)
深緋・ルティエ(紅月を継ぎし銀狼・e10812)
天音・迅(無銘の拳士・e11143)
シュヴァーン・シルト(盾を掲げし騎士の血脈・e15378)
イヴリン・アッシュフォード(アルテミスの守り人・e22846)
月岡・ユア(月歌葬・e33389)

■リプレイ

●戦闘開始!
 神社の境内。社務所や小さいながら庭園もあり、普段は静かな場所であると想像がつく。
 石畳は各所への道案内のように敷かれている。普段の道と違い、コンクリートが少なく土埃が立ちやすい。
 そんな神聖な場所は、竜牙兵たちが暴れ、見るも無残に代わっていた。
「神の御前です。――戦神楽を奉じましょう」
 ロゼ・アウランジェ(アンジェローゼの時謳い・e00275)は踊るように、見えない地雷をばらまき、一斉に起動させた。
 爆発。爆風と砂埃が舞う。これで2体は、しばらく足止めができるはず。
「……皆、あいつからだ!」
 深緋・ルティエ(紅月を継ぎし銀狼・e10812)が3体中、少し前方にいたある1体を指さす。それに応じて、皆が立ち位置を変えた。同時にルティエは走り出す。獣化した手足に重力を乗せ、重量のある一撃を放つ。
「グアアアア! キサマら、またケルベロスか……っ!」
「新年早々から……ご苦労だな」
 葬造拳肢。――ソウゾウゲンシ。
 ディークス・カフェイン(月影宿す白狼・e01544)がひと息に間合いを詰める。奪命の連打術は、尾の一撃が加わり更に強力になる。
 続けざまにイルルヤンカシュ・ロンヴァルディア(白金の蛇・e24537)が、アームドフォートの砲身を竜牙兵に向けた。サーヴァントである、ライドキャリバーのライドオンも側についている。
「祭りに喧嘩は付きものだけど、憎悪と拒絶なんてものは必要ない! 何の役にも立てずにここで散れ!」
 高速演算で、構造的弱点を見抜き、痛烈な一撃を放つ技。砲撃音が響き、境内の木々が倒れた。
「度が過ぎちゃ、何事もいけねえよな」
 妖しく蠢く幻影が天音・迅(無銘の拳士・e11143)に付く。攻撃の際、与える効果を増やせる。
 イヴリン・アッシュフォード(アルテミスの守り人・e22846)が弓を構えた。新年の初詣らしく、着物をまとい袖はたすき掛け。動きにくそうに思えるが、彼女は上手く裾を捌いて立ち回っている。放たれたエネルギーの矢は、心を貫く。
「穏やかな年始の風景、邪魔はさせない!」
「やれやれ~、初詣にわざわざ来るなんて…キミ達、実は寂しがり屋か何か? 遊んであげるから…大人しく堕ちろよ?」
 矢を受けた竜牙兵が背をのけ反らせ、そこを狙って月岡・ユア(月歌葬・e33389)が星型のオーラを敵に蹴り込んだ。
「まずは皆を支援しないとね」
 シュヴァーン・シルト(盾を掲げし騎士の血脈・e15378)の全身の装甲から光り輝くオウガ粒子が放出され、味方の超感覚を覚醒させる。
 竜牙兵の咆哮が響く。
「ジャマを、するナーーー!!!」
「まだ終わりませんよ」
 先程のばらまいた見えない爆弾、あの一部が竜牙兵の身体に貼り付いていたのだ。
 爆発。竜牙兵が体勢を崩した。
 間をおかずに、舞う土埃の中でオーラの弾丸が竜牙兵を襲った。
「――これからが正念場といったところか」
 1体目の竜牙兵が消えた。

 爆発により、細かなダメージは与えたはず。しかし1体に集中していた隙に残る2体の竜牙兵はまとうオーラを溜め、回復にかかっていた。
「……行けーーー!!」
 イヴリンが矢を放った。妖精の加護を宿し、対象を自動的に追尾するもの。ロゼのサーヴァント、テレビウムのヘメラも援護に加わり、凶器攻撃を仕掛ける。
 1体の竜牙兵が真横から矢と凶器攻撃を受け、がくりと膝をついた。1体とはいえ、回復の邪魔はできたはず。そう見えた。
 すかさずもう1体が2回目の気力溜めを使ったのだ。放たれたオーラが、竜牙兵を包む。
「……全快まで回復したってわけじゃなさそうだね」
 注意深く敵を観察していたユアが確認のように呟く。それに気を取られてしまったのか、竜牙兵が放ったオーラの弾丸に気づくのが遅れた。2回目の気力溜めを使った竜牙兵が、土埃に紛れて仕掛けてきたのだ。
 ユアが目を閉じる。痛みと衝撃を覚悟した。その時、弾丸とユアの間に滑り込む影があった。
「必殺! キャリバーシールド!」
 イルルヤンカシュがライドオンを投げたのだ。見事にユアの盾となった。
「ありがとう! ――さあ、お返しだよ!」
 ライドオンに駆け寄り礼を告げた。仇を睨み据えた後、竜牙兵の間合いへと踏み込み、ブラックスライムを捕食モードへと変形させた。
 竜牙兵を丸呑みにしようと蠢くそれが、敵を捕らえる。逃れようと暴れるものの、簡単に離してなどやらない。
 ルティエのナイフの刀身に映るそれは、敵が忘れたいと思っているトラウマ。それが具現化し、竜牙兵は混乱に陥る。
「こんなハレの日に憎悪なんてもってのほか! さっさと退場してもらう!」
「タイジョウするのは、キサマらのほうダ!!」
 もう1体の竜牙兵が、気力溜めを使おうとしている。ブラックスライムに捕まっている竜牙兵を助ける気だろうか。
「助け合おうって精神かな? それは称賛するが、邪魔させてもらうよ!」
 シュヴァーンのライトニングロッドが光った。杖からほとばしる雷は、竜牙兵を打ち轟音が響く。地面が少し焼け、石畳の石が割れた。
 すかさず迅が時空凍結弾を精製した。軽装で駆けまわり、折れた木を足場に高く飛んだ。狙いはブラックスライムに捕縛されている竜牙兵。
「こいつで押し切る!」
 迅が放った複数の物質の時間を凍結する弾丸は、竜牙兵に命中し跡形もなく消えた。

「あとはおまえだけだ!」
 2体目が消えるのを確認する間もなく、ディークスが槍を構え、雷撃に打たれた竜牙兵へ踏み込む。高速の回転斬撃。竜牙兵は飛ばされ、更に境内の木々を倒す。
「観念しな。狩られるのはお前らだって教えてやるぜ」
 迅が構えた如意棒から、降魔の一撃が放たれる。その後を追うように、イヴリンがドラゴンの幻影を放った。
「……しまった! 動けたか!」
 竜牙兵はドラゴンの幻影を避け、拳を振り上げる。狙いは1番近くにいた迅だ。
「させません!」
 シュヴァーンの精神操作の鎖が伸びていく。しかし振り下ろされるほうが早い。
 迅が殴り飛ばされ、宙を舞った。駆け寄ったのは、イルルヤンカシュとルティエのサーヴァント、ボクスドラゴンの紅蓮だ。
「光を掴む……!」
 光の腕――レヒト・アーム。味方を大きな腕の形の光で握り込むことにより、対象を癒すグラビティ。
 シュヴァーンの精神操作の鎖が竜牙兵の後方から忍び寄り、今度こそ捕まえた。
「全く、往生際が悪いとはこのことですね!」
「オノレ……ッ! ジャマをするナト、オナじことをイわせルナ!!」
 鎖がぐいぐいと竜牙兵を締め上げる。同時にルティエが、敵の生命力を喰らう地獄の炎弾を放った。
「あとひと息! ユアさん!」
「了解!」
 ルティエの声に応じて、ユアが駆け出す。日本刀を納刀状態から、一瞬に抜刀し竜牙兵をたちどころに斬り捨てる。
 歌が聞こえた。華やかに可憐で、絢爛な歌声。
「運命紡ぐノルンの指先。来たれ、永遠断つ時空の大鎌ーーあなたに終焉を」
 ノルニルの鎮魂歌――ヨトゥンヘイム・レクイエム。光をまとう終焉の大鎌は、永遠の命すらも断ち切る。その一閃は銀河の煌きを残し、淡く儚く、まるで敵への弔いのように、鎮魂歌を奏で消える。同じくして、3体目の竜牙兵も消えた。

●無病息災
 破壊してしまった箇所のヒールを終え、怪我人などの回復も済んだ頃。神社で振舞われていた七草粥を食べて帰ることとなったケルベロス一行。
 周囲も人々が戻り、お参りや屋台、七草粥に舌鼓を打つ人と活気が戻ってきていた。
「皆大きな怪我もなくて、ひと安心だよ。ルティエさんに傷を残そうものなら、弟に怒られそうだしね」
 シュヴァーンが冗談めかして告げた。
 キリの良いところで、修復や手当から離れ、お参りに向かったユアとルティエも戻ってきた。
「――お参りもしてきましたし、七草粥を頂きましょう!」
「お正月を皆と過ごすって初めてだなぁ」
 ルティエは辺りに漂う七草粥の良い匂いを思いっきり嗅ぐ。一方、ユアは満面の笑みで言葉を紡いだ。
「んじゃ、折角だからご馳走になって行こうぜ」
 迅もテーブルに着く。
 それぞれの前に七草粥と温かなお茶も用意されている。
「セリ、ナズナ、ゴギョウ……」
 ロゼは七草を覚えようと、ひとつずつ口に出している。
「……いつも、綺麗だよな。その姿も似合うぞ」
 イヴリンがロゼの隣に座る。少しばかり緊張しているのか、どことなく落ち着かないのは、ロゼが歌手であるからだろうか。イヴリン自身にはファン、と言えるかどうかは分からない。
 少なからず、彼女をとても綺麗な人だと思っていることは間違いない。
「ふふっ、ありがとうございます。皆で頂くと尚更美味しいですね」
「それに食べやすいから、すいすいとなくなって……5、6杯は行けそうだ」
 イルルヤンカシュは時折、粥を掬った匙に息を吹きかけたりしているが、そのペースは『すいすいなくなる』と本人が言うだけあってだいぶ早い。
 ディークスはゆっくりと匙を進める。
「お節で疲れた胃を休める為に作られたらしいが……――仕事後は染みるな……」
 七草粥は無病息災を祈って願って食べるもの。それだけではなく、ケルベロスたちには優しい味が戦闘後の疲れを癒すものでもある。

●彼のお相手とは? 
「ユア、今回はよくやったな」
 他愛無い会話が飛び交う中、迅の言葉にはふはふと幸せそうに粥を頬張り、ユアは一層の笑みを浮かべて機嫌よく尻尾を振る。
 美味しそうに食べるユアの隣でイヴリンが笑みを浮かべ見守っていた。ふいにディークスへと視線を向けた。
「ディークス、お参りは行かなかったのか?」
「ああ、また後日にしようかと」
「ふーん、だれか一緒に行きたい相手でもいるのか?」
 迅は面白そうに笑みを浮かべつつ問い、ディークスはのらりくらりとかわしながら茶を啜る。
 吐く息が白くなるが、粥と茶、周囲にストーブもあり、身も心も暖かい。
「からかおうって魂胆なら、他を当たることだな」
「せっかく一緒の依頼になった仲間なんだ。親睦を深めようとしてるだけじゃないか」
「――ほら、そろそろ粥がなくなるそうだ。お代わり、行かなくていいのか?」
 炊き出しをしている白いテントを指さし、助け舟をだしたのはシュヴァーンだ。視線をそちらへ向ければ、終了の時間を書いてある看板をもった女性が、並ぶ行列を整理していた。
「マジか。行ってくる!」
 それに真っ先に反応したのは、迅でもイヴリンでもなく、イルルヤンカシュだ。彼女の後にユアとルティエが続いた。
「私ももう1杯だけ!」
「あ、待ってよ。ルティエ、ボクも!」
「それじゃあ、私ももう少しだけ頂こうかしら。ヘメラが食べられないのは残念ね」
 ロゼは側にいるヘメラの頭を撫でた後、腰を上げ3人の後を追いかけた。

 こうして新年の初詣、七草粥を堪能し、ケルベロスたちは帰路へつく。
 新たな1年も戦闘とは切り離せないだろう。それでも穏やかな年であるように。あるいは、大切な人を守れるように。平和を取り戻せるように。
 それぞれの願いや思いを抱えながら、2018年、新たな年が始まる――。

作者:宮下あおい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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