ケルベロス新年会～吉と凶は紙一重の力場巡り

■リプレイ

●そこにあるもの
　ケルベロス達はあちこちに奔走する都合で細やかな立食パーティを済ませた。サーシャなどを含めた裏方と一緒に、これから弾丸ツアーの開始だ。
　大いに楽しませてもらった半沢・寝猫が、募金の規模に改めて苦笑した。どこに向かうかは自分で決めてこなかったけど、巫女の自覚はあって千影に提案する。
「千影ちゃん、島根は神ノ国って言うやろ？　縁結びのエエところあるなら最初にいってみようか♪」
「それでは、まずは出雲大社に参りましょう」
　各地の力場を巡る前に寄っておけば御利益があるだろうか。
　寝猫は出雲大社に着くと、娘達の良縁を……授業のような千影の解説後に願った。
　次に赴いたのは同じく島根の名所で、似鳥・朗がしめ縄に結ばれた２対の石柱を映してもらって解説を始める。
「島根といえば、黄泉比良坂も有名だ。イザナギとイザナミの話を知っている人は多いと思う。あの世は根の国と呼ばれることもあり、島根という名の元になったという説があるな」
　石柱は長年雨風に晒されていて不気味に感じるかもしれない。静けさに惹かれる者なら落ち着くことができそう。心霊スポットにもパワースポットにもなりうるとは紹介し甲斐がある。
「はるか昔に想いを馳せることができるスポットではないか」
　自身がイザナギのように再会を望みたい相手は……過去に我が身を呈して『暴走』から救ってくれた妹。
（「いや、イザナミのように姿を見るなと言われるのがオチかもな」）
　つい自嘲気味になりかけた時、誰かに優しく呼ばれた感覚がした。それは強く想ったせいだと解っていても、やはり悪い気分はしない。
　一旦本州を離れて、大移動でやってきたのは九州の熊本だ。柿原養鱒場まで少し歩く山道の付近で貸し切りバスを降りた。普段の場合も路線バスを利用できる。
　御子神・宵一は正装と考えて纏ったケルベロスコートをはためかせながら、場内の『お手水』と呼ばれる湧き水の側に皆を案内した。
「名前は阿蘇の神様が手を洗った事に由来する。県内各地で無数にある阿蘇の伏流水の一つです」
　無表情ではあるものの、心の機微は耳と尻尾にちゃんと反映されている。解説に緊張しているのかまでは視聴者にも判別しかねるけど。
「初代熊本藩主の加藤清正公は遠乗りの際よく此処に来ていたそうで、ご本人も後年神として祀られています。伝承の中では龍神、水怪、稲荷神などと縁の深い方ですね」
　解説を締めるために、軽く拝んで湧き水をいただいた。
「夏の養鱒場は家族連れで賑わうんです」
　現在は冬季休業中につき、名物の鱒を食べられない。そこはかとなく耳と尻尾が元気を失った。残念がっていることがバレちゃっただろうか？
　再び本州に戻ると、奈良にある平城京の大極殿の前に辿り着いた。
　学校で習いそうな事柄については割愛した上で、月宮・朔耶が早速本題に移る。
「日本には地図で繋げると一本の線になるレイラインと言われる場所が多く存在する」
　オルトロス『リキ』と杖からコキンメフクロウの姿になっている『ポルテ』ことポテさんは、パネルをくわえてお手伝い。
「淡路島の伊奘諾神社、伊勢の伊勢神宮、熊野の熊野大社、元伊勢、伊吹山を繋げると五芒星のレイラインが完成する。その真ん中にあるのが……平城京なんだ」
　単語がいっぱい挙げられて若干勉強のようになってきたけど。果たして、まだ子供は聞いてくれているのか。
「此処を飛鳥京、平安京、熊野大社、若狭彦若狭姫神社と繋げてみても綺麗な線になる。しっかりした測量技術がないはずの当時行われていた、この不思議。面白いと思わない？」
　ミステリー好きな者達は歴史ロマンを味わっていそうだ。児童に関しては最後の方だと……朔耶の真っ白い仲間達に夢中だったかも？
　イズナ・シュペルリングは絶対にお参りや絵馬が奉納できるように、複数の大社や神宮を簡潔ながらも解説していった。
「大きな神社って、みーんなパワースポットなんだよね？　龍脈っていう大きな気が通ってるんだったかなぁ」
　手水舎で手を清めたり、賽銭を入れてから鈴を鳴り響かせて二拝二拍手一拝したり、各所の作法に則っている。
　出雲大社では番号だったゆえ、寝猫が引けずにいた吉凶を占うおみくじに挑む。
「大凶とらんと始まらん」
　もはや意地の最悪狙いだが、それで当たりはしない……はずだった。
　寝猫の起こした奇跡に驚きを隠せない千影。
「ま、まさかっ」
「人はな……色んな星の元に生まれるんや」
　大凶の星は派手に輝いたらしい。あるいは変な方向に御利益が働いたのか。
　自分の目的も達成できそうだからと、イズナが皆に呼びかける。
「みんなで絵馬を奉納しよう？」
　それから、『今年もデウスエクスに負けずにみんな元気にがんばろう』という願いで奉納。ふと目が合った千影を緋色の瞳で見つめる。何か勘違いして内容を教えてくれた彼女の絵馬には、『地球平和』の字が書かれていたようだ。
　アリッサム・ウォーレスは遠慮するつもりだった心霊スポットも兼パワースポットみたいで安心していた。日本の力場を満喫できて、今度は彼女の番となる。一人旅じゃないから方向音痴のせいで迷うことなく、長野の諏訪大社に到着した。
「諏訪大社は日本最古の神社の一つと言われていて、夫婦の神様を祀っているそうです」
　カメラマンに頼んで解説の合間に周辺を撮影してもらう。
（「お諏訪様のお力で、運命の方と素敵なご縁が結ばれたりしないかな……」）
　そんな風に思って、カメラが風景を撮っている今のうちに微苦笑した。実は結構な食いしん坊のアリッサムだけど。ちょっぴり天然で穏やかな彼女ならば、それも魅力になってくれるはずだ。
「諏訪大社は四社に分かれています。恋愛運や仕事運、事業運など、様々なご利益があるパワースポットらしいです」
　良き一年となってくれるように、全ての社を回って念入りに祈願していく。
　最後に紹介するのは……『パラディオンの者達がドラゴンと戦った大聖堂』の場所たる可能性を秘めた荒れ地だった。
　あくまで、彼方・悠乃が予想した地点のため、証明になる物は一切見つかっていない。それは仮説を否定できないわけでもある。参拝は調査後だったとはいえ、縁の力に期待したいところ。
「その命を代償として『聖王女』の奇蹟を顕現させた人々が生きていた場所……。それほどのパワースポットを、私は他に知りません」
　過去の者達に手を差し伸べられないのは重々承知している。でも、現在の悠乃達だからこそできることもあるのだ。
「今を生きる私たちが未来を掴むためには、過去に学ぶことが必要でしょう」
　一度は失われてしまった力が現代に甦った。それを大切にする限り、思いだけは天にも届いてくれるだろう。
　皆は全ての力場に足を運び終えて、終着点である新年会の会場を目指した。
「皆さん、お疲れ様でした」
　全員がバスの自席に座ってから深々と一礼した千影が、真摯な眼差しで訊いてくる。
「古今東西の力場はいかがでしたか？」
　その問いかけに、ケルベロス達は何かしらの力を得たような気持ちで帰路につくのだった。

作者：森高兼	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2018年1月16日 難度：易しい 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 0／感動した 0／素敵だった 1／キャラが大事にされていた 3
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