ケルベロス新年会~集え!音楽を愛する者たちよ!

作者:宮下あおい


●新年最初のご挨拶!
「皆さん、あけましておめでとうございます」
 アーウェル・カルヴァート(シャドウエルフのヘリオライダー・en0269)は、集まったケルベロスたちに対し一礼した。
「2017年は世界の危機を何度も経験し、その数だけ世界が救われるという、素晴らしい年でした。それもケルベロスの皆さんの活躍によってなされたことです。全ての人々を代表して感謝いたします」
 再び丁寧に会釈し、顔を上げたアーウェルは、普段事件などの説明に使うホワイトボードにぺたりと1枚の紙を貼る。
 その紙には、『ケルベロス新年会――集え! 音楽を愛する者たちよ!』とタイトルが書かれている。
「その感謝の印に皆さんには秘密でしたが、世界中の人々が自主的にケルベロス新年会募金を行い、ケルベロスの皆さんに楽しんでもらう新年会の予算を集めてくださいました。全国11か所の会場を貸し切って、盛大に行おうと思います。とはいえ、ただ新年会を行うだけでは面白くありません」
 アーウェルは、コホン、と咳ばらいをした。
「世界中の皆さんに、新年会を楽しむケルベロスの映像をプレゼントしましょう! 一般の方が実現できない、ケルベロスのケルベロスによる、ケルベロスのための新年会。そんな新年会になることを期待しています。もちろん、ケルベロスの皆さんが楽しむことが1番ですから、思いきり楽しんでくださいね」

●新年会への誘い
「新年会の会場は、ホテルの大広間。とても大きなところだよ。一般客はいない、ケルベロスだけ。配膳とか、そういうのはちゃんとスタッフがいるから、気にしなくていい。飲み物も含め、料理はバイキング形式で、立食でもいいしイスもある。和洋折衷なんでも揃えてくれるって聞いてるよ」
 続いて説明に立ったのは、相沢・創介(地球人のミュージックファイター・en0005)だ。
 当たり前ではあるが、何でもあるからとはいえ、お酒は20歳になってから。
 あまりにも珍しいものはさすがにないだろうが、たいていのものはテーブルになくとも、スタッフに言えば対応してくれるらしい。
「それから、この新年会はジョブが指定されている。僕が案内するのは、ミュージックファイターの皆が参加できる新年会にになる。自分と同じジョブのケルベロスと親交を含め、有意義な新年会……とは言ってるけど、結局のところ、なんか楽しそうだからというのが本音だろう。皆が楽しんでいる映像を世界中の人に届けよう」
 そこへ突然のドラムロール。
 創介がちらりと視線を向ければ、端でアーウェルがプレイヤーを操作していた。
「それじゃあ、ここで新年会の企画説明だよ。題して新年コンサート! 自作の歌を披露するんだ。ただ人数が多くなるだろうからメドレーで、サビの部分だけ繋げて歌うことになる」
 小刻みに体が自然と揺れるような、明るく軽快な曲が後ろで流れている。
「歌うのは1人でもデュエットでも、グループでもいい。複数ならダンスやパフォーマンスに徹する側と、歌う側に分けるというのもありだよ。もちろん1人だけどダンスのほうがいい! とかなら、そういうのもオッケー。ホテルの大広間のステージだから、本当のライブ会場とまではいかなくても、マイクやある程度の音響設備もあるから、楽器を弾きたい人も遠慮しないでね」
 一通りの説明が終わったところで、創介はケルベロスたちを順に見回した。
「世界中の人々の好意、皆が楽しむことが1番だよ。そしてまた、この1年皆で頑張ろう」


■リプレイ

●プロローグ
 有名ホテルの大広間。毛足は短いものの絨毯が敷き詰められ、大きな丸いテーブルがいくつもあり、様々な料理が並ぶ。スピーカーが四方に設置され、ステージの頭上ではこの新年会のタイトルが書かれた垂れ幕がかかっている。
 ホテルのスタッフらしき女性が、ステージの端に立ち、マイクを手に企画の案内を始める。
「ケルベロスの皆さん、ようこそお越しくださいました。本日は心行くまでお楽しみください! こちらは当企画にご協力いただくアーティストの皆さんです。どうぞ、拍手をお願い致します」
 ステージ上で会釈をしたり手を振ったりしているのは、幕間や曲の繋ぎ、時にはケルベロスたちの歌やパフォーマンスに協力する演奏家の人たちだ。
 ひとしきり拍手が鳴りやめば、演奏家たちは各々準備に戻っていく。
 すると続いて、スタッフたちが1枚の紙と飲み物が注がれたグラスを配り始めた。
「現在、事前にご相談いただいたものを元に、演奏順をリスト化したものをお配りしております。皆さんもそれに合わせ、ご準備などお願い致します」
 目を落とせば、演奏順に名前やグループ名、曲名など必要な情報が載っており、誰がいつ歌い自分がいつステージ脇に行けば良いか、これで迷うこともない。
 ひとしきり配り終えたのを確認すると、司会の女性が再び口を開く。
「それでは、最初に皆さんとともに乾杯したいと思います。――よろしいでしょうか? では、2018年の幕開けに、乾杯!」
 あちこちで、グラスを傾けカツンと当たる音が響き、新年会はスタートした。

●スタートはアゲていくぜ!
 最初に流れたのは、とても明るく、アニメのオープニングのような、勢いのある曲だ。
 ギターを演奏し、メイド服を改造した、白と青のパフォーマンスウェア。
「On your mark! 哀しみに「サヨナラ」告げて、Get set!
 勇気を胸に 灯火掲げ 駆け抜けよう。
 輝くRunway 僕らが願うPeaceful world 目指してGO、GO、GO!!」
 ――神楽火・みやび(リベリアスウィッチ・e02651)『BRAVE WORLD』

 ベースの井上・浩史(よいどれコンポーザー・e05773)は黒いスーツ。目立たず、しかし低音を支える大事なパートだけあって彼の腕は一流だ。
 ドラムのアルメイア・ナイトウィンド(e01610)はフリルブラウスにコルセット、軍帽。髪は括らずドラムパフォーマンスは、派手に見える。
「よう! お前らのアイドルの登場だ! 盛大に迎えてやってくれよ!」
 キーボード兼ボーカルは愛柳・ミライ(e02784)。世界初公開の曲、ドミノ倒しのように、幸せの連鎖は止まらない。
「karan karan! 今伝播(はし)りだした虹色のDouble Six。
 誰もがスピナー 両手広げて 君を 待ってる。
 Train Train! 追いかけよう終着駅(ゴール)はまだ見えないけど。
 この足跡が軌跡(奇蹟)になると信じてるから」
 ――MT『明日へのドミノ論』

「新年早々、魂燃やせエ!」
 ヘヴィメタル。
 低音のギターリフ、派手なギターソロとシャウト、ミラボールが忙しなく色を変える。
「Burn Up! Burn Up! Burn Up! Burn Up!

 Rebellion 襲い来る魔の手を振り払え!
 Rebellion 不埒な誘惑を蹴り飛ばせ!
 Rebellion 無機質な悪意をぶち壊せ!
 Rebellion 未来は己の手の中に、他の誰にも渡さないぜ!

 Rebellion 咆哮と炎に焼かれても!
 Rebellion カミサマ気取りに虐げられても!
 Rebellion 例え闇に囚われてしまっても!
 Rebellion 未来は己の手の中に、他の誰にも渡さないぜ! Shout!!」
 ――レヴォルト・ベルウェザー(叛逆先導アジテーター・e00754)『叛逆のアジテーター』

 ロック調の激しい歌。ギターを演奏しながら、歌うのは10歳の少年。
 年齢に似合わぬ歌詞は、どこから来たのか。ケルベロスとして、経験した戦場の過酷さだろうか。
 それとも……事実は彼しか知りえない。
「この世に生まれてきたのなら 生老病死一揃え どうあろうとくぐらにゃならぬ。
 所詮この世は 地獄の手前 それなら死ぬまで 踊ろじゃないか。
 Danse Macabre! 生者と死者が 輪になって 死の舞踏を踊ろうよ。
 Danse Macabre! 昨日の生者が 今日は死者。どこに止まるか 運命の輪。
 誰の目にも 見えないけれど 誰もの首に 死神の鎌が 触れている。
 Memento Mori! どうせ死ぬしかないのなら 誰かの手のひらで 踊り明かそう!
 Memento Mori! 調子外れの歌を歌って 死神なんか追い払え!
 みんなどうせ いつかは地獄行き」
 ――セラフィ・コール(姦淫の徒・e29378)

 バックステージから聞こえるギターの音。軽快なテンポの良いリズム。
 さっきまでのロックやヘヴィメタルほど激しくはないくとも、明るく楽しい曲調が響く。
 次なる出演者の準備が整うまでの幕間を引き受けたのは狼獣人。
 春先のウキウキした気分、暖かく心地よい陽射し。さあ、出かけよう。
 ――牙国・龍次(狼楽士の龍・e05692)

●大切なあの人へ
 加西・裕香(言霊写し・e40803)は狼の耳のついた帽子と狼の形をしたマスクを着用していた。
「大丈夫大丈夫……ゆ、じゃなくて……アイラは皆に歌を届けるんだ……」
 初めて自分の歌を披露するとなれば多少の緊張があるのも当然。
 さあ、出番。今宵こそ、あの人は会いに来てくれるでしょうか。
「ああ、早く会いたい。なんで早く会いに来てくれないのですか。
 こんなにも貴方のことが好きなのに、好きなのに……。
 私を早く連れ去ってください。私の手を引いて連れ去ってください」
 ――アイラ『手紙』

「今年もこの歌がきみと、きみの愛する人に届きますように」
 誰もが持つ孤独に寄り添い、共に生きる。
 Raison d’etre(レゾンデートル)が送る新曲、エモーショナルなミディアムロックバラード。
「大好きなきみの孤独な心に、惜しみない愛を降り積もらせたい。
 大好きなきみの決意の気持ちに、身を尽くした歌を贈りたい。
 怖がらないで、『その場所から 少しでも前に進めるように』
 僕がいつだって、そばにいるから――」
 ――イブ・アンナマリア(原罪のギフトリーベ・e02943)『Stay with you』

 普段はグラビティの祈りのところ。アクアアッシュと翡翠の瞳が真っ直ぐ前を見据えた。
 陽だまりのなか舞った花弁が、温かな紅茶の香りに惹かれ引き寄せられる。
 私たちは誰もひとりじゃない。誰でもひとりはさびしいもの。ひとつになったら、何も怖くないよね?
「傷ついても私がそばにいよう おそれないで 私たちはひとりじゃない いっしょだよ」
 ――ヴァニラ・イプリース(月下の紫陽花・e21418)『冬の陽だまり 花のうた』

 二胡奏者は、茜色のナイトドレス、赤水晶のペンダント、紅弁慶の簪で髪をまとめている。
 ピアノ奏者は黒のナイトドレス、髪を編み込み、アップスタイルにまとめ、コサージュのように咲いた白い紅弁慶が目を引く。
 両者がアイコンタクトをとる。
「幾億もの星が瞬く空の下 行く宛もなく僕はずっとさ迷っていた。
 そんな世界の片隅で、君に会えたのは偶然じゃないと信じてる」
 ――二胡、リィン・シェンファ(蒼き焔纏いし防人・e03506)
「1人なら手が届かなかった場所も 2人なら何処までも高く遠く 空の彼方だって行けるよ」
 ――ピアノ、烏羽・光咲(声と言葉のエトランジェント・e04614)
 最後は2人、綺麗なハーモニーが世界の向こうへ導く。
 感謝の気持ちを、この歌と旋律に込めて。
「だから何時か二人で見よう 誰も知らない世界の向こう側」

●宵闇に祈るは
 ブルースハープの静かな音色。けれどどこか温かな曲。徐々に盛り上がり、けれど不安定に。
 口元から離したら、アカペラにて言葉を紡ぐ。
「運命の紡ぐ意図、変えられないものはたくさん、たくさん。
 それでも諦めたくないから、それを変えようという想いを多くの方が紡げるように。
 今はただ、変えられなかったものの為に祈る歌――明日のために祈る歌」
 ――十夜・泉(地球人のミュージックファイター・e00031)

 穏やかな曲が流れる。ゆったりと揺り篭の中にいるような安堵感。
 グラビティで使うもの。けれどたまにはこうして、夜空の竪琴を弾き、普通の歌として披露するのも悪くない。
 深い深い闇の中、たゆたう安らぎが誘う眠りは甘美な夢を指し示す。
「――おやすみなさい、良い夢を」
 ――レリエル・ヒューゲット(小さな星・e08713)『闇の精の子守歌』

●お化け!ではなく…アイドル!ワンだふる!
 エレキヴァイオリンの音が響く。奏者は目元を黒い竜の仮面で覆い、顔が分からない。
 弓を用いず打楽器のごとく指を使う、ピチカ―ト奏法メインの可愛らしい楽曲が流れる。先程までの緩やかなリズムとも異なり、まるで小さな子どもが見せる笑顔のような、小さなお姫さまが笑った振り返ってくれたような錯覚。
 ――SPECTRE『magic hour』

「あたしらの歌を聞けぇ~!!」
 明るく元気に、本格的にアイドルデビューを目指す少女は、今日も歌う。第二の故郷、ご当地正統派アイドルになるために、皆に元気になってもらうために。
「つらい時 苦しい時 どうしょもなくなっちゃった時。
 大丈夫 ケルベロスが あたしがついてるかんにゃ。
 そんな時はただひとつ あたしにはこれしかないかんにゃ。
 あたしの歌を聞けぇ~!!」
 ――アイクル・フォレストハリアー(ラディアントクロスオーバー・e26796)

「今日は、僕とはるはるの歌、聴いていってね!」
 犬耳に尻尾も装備し、少女2人がステージ立つ。
 伴奏が始まると白い髪の少女が笑顔で挨拶をした。
「わん わん わん 今日も吠えるよ 星の番犬。
 わん わん わん 匂い辿るよ 正義の闘犬。
 さぁ 準備はいいかい? (おやつは持ったよ)
 毛並みととのえて (いつでもどうぞ)
 スリー ツー ワン (わん わん わん)
 ケルベロス!」
 ――春花・春撫(e09155)、燈家・陽葉(光響射て・e02459)『戌年の歌』

●鮮やかに、艶やかに、そして最後は…
 普段と変わらぬ格好で、ピアノの鍵盤に触れる。軽快な音色、ジャズ特有のスウィングのリズムが混じった曲だ。もちろん、楽譜など見ていない。
 少し大人なバーの雰囲気、カクテル、シャンパン、バーテンダーがシェイカーを振る音が聞こえてきそうだ。
 さあ、Ladies&Gentleman! 夜はこれから。盛大に楽しみましょう。
 ――相沢・創介(地球人のミュージックファイター・en0005)

 呉羽・楔(謳騙の夢・e34709)と呉羽・律(凱歌継承者・e00780)。ウィッグにカラコン、メイクに衣装も全て整え、律は城の王子、楔は姫の衣装。
 背景のセットはない。けれど見る者は錯覚さえ覚える。
 ここは城の大広間。皆様は招待された貴族。踊りましょう、歌いましょう。煌くシャンデリアに、豪華な装飾、艶やかに着飾るお嬢様と凛々しいいでたちの貴公子たち。
 姫と王子の伸びやかな歌声が響く。これは始まり、四季を彩る歌劇団が皆様を物語の中へ招待いたします。
 ――歌劇団SESONS、冬季特別公演『眠り姫』より。

 マジシャン風ドレスをまとう神崎・ララ(闇の森の歌うたい・e03471)、黒のエレキギターを派手にかき鳴らせば、幕開けの合図。
 4人揃ってシルクハットに燕尾服を、和洋折衷それぞれにアレンジした衣装だ。
 ロゼ・アウランジェ(アンジェローゼの時謳い・e00275)が微笑みひとつ。
 さあ、新年の幕開けに今1度、私たちの始まりの歌を!
「新たな夜明けに、希望の華を。銀鱗躍動(ぎんりんやくどう)、歌いましょう!」
 ロゼがシルクハットを2回叩くと、テレビウムのヘメラが花を撒く。
「新たな道に、希望の恵を。熈祥煌春(きしょうこうしゅん)、照らしましょう!」
 ヴィヴィアン・ローゼット(色彩の聖歌・e02608)が曲に合わせ、ターンを決め、シルクハットを掲げた。中からポンットと登場したのはボクスドラゴンのアネリー。
「新たな年に希望の笑を 一陽来復(いちようらいふく)、春来たり!」
 ララが歌うと同時に、シルクハットからウイングキャットのクストが飛び出してくる。
 遠之城・鞠緒(死線上のアリア・e06166)、肩には白ねずみ藍音の紅音を乗せ、シルクハットをくるりと振れば、中からぴょんとウイングキャットのヴェクが、音楽に合わせて会場を飛び回る。鈴のような歌声が響いた。
「新たな夢に、希望の歌を。麟子鳳雛(りんしすうほう)、駆け廻れ!」

 新たな年の始まりに、新たな夢と挑戦に、quatre☆etorir(カトル☆エトリール)からエールを。
 ――quatre☆etorirデビュー曲、『華と笑と☆歌と恵と NEW YEARver』

「若生めぐみ、『ヘリオライト』歌います。――皆さん一緒に歌いましょう!」
 若生・めぐみ(めぐみんカワイイ・e04506)は、ショルダーキーボードを肩にかけ、ステージに立つと、丁寧に一礼した。
 スタッフが各所に設置しておいたマイクを、近くのケルベロスたちに渡す。
「ヘリオライトが僕を照らすように、君の未来へ届くように、強く光を放てたら。
 欠けた地球が僕を笑っても、それでもずっと輝いて、ちぎれそうな空の隙間に、虹をかけるよ」
 会場の皆で、最後に歌うならやはりこれだ。曲が終わると、めぐみは同じく一礼し、挨拶をする。
「ありがとうございました」
 ステージの左右にあるくす玉が割れ、色とりどりの紙吹雪が舞う。スタッフたちも事前に用意していたクラッカーを鳴らし、盛大な拍手とともにステージは幕を閉じた。

●アーティストたちの素顔
「……好きな音?」
「そうです、創介君の好きな音です。前から1度訊いてみたかったんですよ」
 料理を堪能したり、感想を言い合ったり、他愛無い会話を交わす。泉も創介も、それは例外ではない。
「それぞれ好きだよ。今日新年会に来ている皆の音も、それぞれ良さがある。……って、これじゃあ答えにならないか」
 好きな料理をとり、椅子のあるテーブルでゆっくり食事中に隣同士となった。
 目の前の皿には、パンや卵焼き、サラダ、唐揚げなど色々と乗っている。
 創介は箸を止め、少し思案するような素振りを見せ、ゆっくりと口にした。
「誰しもそうだと思うけど、自分が弾ける楽器の音色は好きだね。――あとは、雨音や波の音」
「何の話かしら? ここいい?」
 そこへ同じく食事のために、光咲が2人の向かい側の席に歩み寄り声をかけてきた。泉にも創介にも断る理由はない。
 一方、他のテーブルでも同じように、あまり縁のない者同士が会話に花を咲かせていた。
「盛大に終わったな」
 スプーキー・ドリズル(亡霊・e01608)は、ギターケースを片手に凝りをほぐそうと首を回す。何か飲もうかと適当なテーブルに歩み寄れば、先に観客に回っていた龍次は、食後のミルクティーを堪能していた。
「お、お疲れさん。伴奏でギター弾いてたのか?」
「ああ、君もだろう? バックステージで弾いていたのを見たよ。同じギタリストとして、ぜひ話を聞きたいね」
 そんな会話が交わされる隣のテーブルではアイクルは並ぶ料理に夢中のようだ。
 ステージに立った楽器演奏者は、他の曲で伴奏に参加した者も多い。楽器の片付けをしている者もいる。
 他の曲に参加したのは、泉がブルースハープ、スプーキーがエレキヴァイオリン、竜次がギター、レリエルが夜空の竪琴、創介がピアノ。確か他にもいたはずだ。
 そこかしこから、様々な感想が聞こえる。
「きゃー、アンナ様ー!! らびゅー!! とっても素敵でした!」
「楔、ステージ降りたらはしゃぐんじゃない」
 呉羽姉弟の言葉。
「……これ、美味しいのかな」
「あ、それ、美味かったな。食べてみるといい」
 裕香が食べてみるか悩んでいるところに通りかかったリィンが呟いた。
 すると顔を上げた裕香が、声の主を視界に収めると歌の感想を返す。
「ハーモニー、とても綺麗だったよ」
「聴いてくれたのか、ありがとう。裕香の歌は詞が切なく、胸に響くものだった」

 2018年もまた、戦いの幕が開ける。けれどその前に、たくさんの音と笑顔に溢れたひと時を。
 こうして、新年会の楽しい時間は過ぎていくのだった。

作者:宮下あおい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月16日
難度:易しい
参加:25人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 0
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