イーグルロボの脅威!

作者:baron

『ヒーン!』
 高い音を立ててナニカが急降下して来る。
 ビルの隣を翔け抜け、人間を掴んでしまうほどの鳥だ。
 もちろんこんな奴が野生の鳥であるはずもなく、そのメタリックなカラーはまさしくロボットである。
『ケー!』
 そいつは鳥にあるまじきホバリングを行うと、車や電車に掴みかかり人々を虐殺するのであった。


「福岡県のとある都市に先の大戦末期にオラトリオにより封印された巨大ロボ型ダモクレスが、復活して暴れだすという予知がありました」
 セリカ・リュミエールが地図を書かてに説明を始めた。
 それは10万人程度の街で、近くに電車が通っていることから駅添いだろうか。
「復活したてですので能力が低下して居るようですが、放っておけば人々を虐殺し力を取り戻すだけでなく、内部の工場も使って暴れるでしょう。その前に討伐をお願いします」
 そういいながらセリカは、7分もすれば魔空回廊で回収されてしまうだろうと付け加えた。
「このダモクレスは鳥の形をして、ダモクレスにしては素早いタイプになります。なお、翼がありますが人々を襲う為にホバリングしているので、普通に戦うことが出来ます。有利にはなりませんが建物の屋根に登って闘う事も出来ます」
 既に避難勧告がなされているらしく、ヒールで街を治せることから遠慮はいらないらしい。
「罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。どうか、よろしくお願いします」
 セリカはそういうと、資料を置いてヘリオンの出発準備に入るのであった。


参加者
杉崎・真奈美(呪縛は今解き放たれた・e04560)
アップル・ウィナー(キューティーバニー・e04569)
ルピナス・ミラ(黒星と闇花・e07184)
リン・グレーム(銃鬼・e09131)
ウォリア・トゥバーン(獄界の流浪者・e12736)
ユグゴト・ツァン(不変の怪・e23397)
ファルゼン・ヴァルキュリア(輝盾のビトレイアー・e24308)
藍凛・カノン(過ぎし日の回顧・e28635)

■リプレイ


「我が精神は如何なる存在でも仔だと認識。故に機械も回帰させねば。素敵な機会を与えるのだ。さあ。母は此処に存在する」
 ある時、ユグゴト・ツァン(不変の怪・e23397)が不意に視線を上げた。
『ケエェェェ』
 ゴオッ!
 彼女の視線の先で甲高い音が発せられる。
「イーグルロボって、カッコいいですね」
 モニターに映る望遠画像を眺め、ルピナス・ミラ(黒星と闇花・e07184)は思わず感想を漏らした。
 飛行機では滅多に見られない前進翼を持ちステルス性は無く、不安定さゆえに機動性が優れる。
 くびれた頭部や足のフォルムなどは華奢に見えるが、飛行機では不可能な格闘戦をやってのける筈だ。
「いやはや、色々な巨大ダモクレスと戦ってきたっすけど。飛ぶ上に素早い相手ってのは初めてっすねぇ」
「色々な敵が居るなぁ……」
 リン・グレーム(銃鬼・e09131)の言葉に頷いて杉崎・真奈美(呪縛は今解き放たれた・e04560)は感心した。
「ですが町や電車を破壊するのは許せません! そこで生活する人たちの為、あのロボを倒します!」
 そして扉に手を掛け、空中にその身を躍らせる。
 強敵であることは重々承知の上、戦い意識を切り替え渦中に飛び込んだ。
「あんまり気は進まないっすけど、他人には任せられないっすよね。ほんじゃ行きますか」
 一般人では倒せないし、どうせ倒すならば自らの手で。
 リンは二重の意味でそう思いつつ、元同胞の事を少しでも記憶しておこうと思うのであった。
『ヴァルキュリアより各位へ。敵は高速機動型で時間制限下において最悪の相性であると想定。回復役の数を控え短期決戦の予定』
 全体への通信が一度だけ入る。
 ファルゼン・ヴァルキュリア(輝盾のビトレイアー・e24308)は敵戦力を分析し、降下しながら全員に作戦を確認する。
(「ということは回復役は我輩一人か。これは頑張らねばのう」)
 声には出さないものの、藍凛・カノン(過ぎし日の回顧・e28635)はあまり攻撃する暇が無いかもしれないと苦戦を肝に銘じたのである。
 なにせ先ほどの通信通り、回復役は彼一人。敵の火力にもよるが攻撃して居る暇などないであろう。
「時間管理は任せます」
「イエース。序盤はきっと当たり難いデース、なんとかしないといけまセンネ」
 着地と同時にファルゼンが肉声で確認すると、近くに降り立ったアップル・ウィナー(キューティーバニー・e04569)は片目を閉じてネットに同機。
 時間調整を担当し、時計のアラームではなく脳裏に浮かぶネット画像に直接時間経過を表示させた。
「……空を飛んだまま戦えるわけでは無いみたいですね。迎撃を開始しましょう」
 ルピナスは腕時計のアラームをセットすると、仲間達と共に走り出した。

 再び甲高い声がして、旋回軌道に入った敵が降下して来るのが判る。
『クォアァァ!』
「素早い動きをするダモクレスですね、その機動力を奪ってあげますよ」
 家屋の屋根からコンビニの天井に移動し、疾走するルピナスは敵に向かって跳ねた。
 仲間が割って入ったのを見て、安心して飛び蹴りを浴びせる。
「早過ぎるなら止めてしまえばいい」
 ファルゼンは拳を打ち合わせる様なポーズでパイルバンカーを起動。
 激振する鉄杭の反動が腹に刺さった嘴越しに感じられる。
 早過ぎるなら止めてから殴れば良いと、他人事のように傷の痛みを無視した。
「……っ。頭を押さえなさい。フレイヤ」
 箱竜のフレイヤに治療では無く、上方へ回った仲間を庇いつつ攻撃をせよと指令を送るほどだ。
「痛そうデース。でも、その決意、無駄にはできマセン」
 ひえーとは流石に叫ばない。
 せっかく頑張って居てくれる仲間への侮辱になると、アップルは目を背けずに飛び掛かった。
 ルピナスが飛び蹴りを掛けるのに前後して、ビルの上から直滑降で降り注いだのだ。
「戦闘開始だ。貴様の存在も母に還れ」
 ユグゴトはケルベロスとダモクレス以外に誰も居ない戦場を眺め、一人呟いたのである。


「このまま押し込んで行きましょう」
「では最初だけ手伝うとするかの」
 真奈美が炎で戦場を彩ると、カノンは重力の鎖をダモクレスに仕掛けた。
 なんとか絡みつかせてキリキリと軋む鎖を握り込みながら、数歩離れてここからは治療に専念する。
「ふぅはははは! 年の暮れに鳥を狩る事になるとはな! 我も思わなかったぞ」
 そこへウォリア・トゥバーン(獄界の流浪者・e12736)が降り注いだ。
 翼を畳んで滑空を停止、流星のように飛び込んだのである。
 蹴り足で引き裂きながら吠え猛った。
「まァオレにとっては縁起など瑣末な事だがな」
 ウォリアは流体金属を手に集めながら、指先をちょいちょいとやって掛って来いと挑発する。
 それにつられたのかダモクレスが暴れるたびに、キリキリとカノンの鎖が軋んだ。
「ほいほいっと。まずはこいつを喰らうッす。……氷のプレゼントだよ」
 リンは射線に入った煙草の煙が凍りついて行くのを眺めながら、凍結光線を放ち続ける。
 飄々とした顔を軽く歪めながら少しだけ意識を引き締めた。
 うまく直撃はした。しかし、完全に意図通りではない。
「いきなりカッチンコッチンは虫が良すぎたかな? 予定の半分くらいか」
「ままならぬ運命もまた世界の選択で在る。その連なりこそが歴史を作るのだと解く」
 残念そうなリンに対し、ユグゴトは十分だろうと宥めた。
 在るがまま。仔たちが鬩ぎ合う結果なれば、在るがままに受け止める。
「我等の脳髄は蜘蛛の糸。糸は意識を他に伝え、偉大なる想像『ヴィジョン』を此処に現す。観よ。古の存在が我等を従え、永い眠りから――!」
 ユグゴトは差異と作為を入れ換えた。
 積み重なる選択、重なる偶然は必然性をもたらす。
 古代より伝わる叡智を紐解くことで、敵の意図を組み変えたのだ。
 一言で言うと挑発したウォリアよりも目立つことで、敵の攻撃を己に導いた。
「さあ来るが良い。我が胎は汝を待ち詫びる城門と化す」
『ケーッ!』
 巨大なクローがユグゴトを掴むが、メキメキとヒビが入る肋骨の音を楽しそうに聞いていた。
 そして立ち去れと書かれた鉄塊を振りあげる!
「汝を閉ざす扉は無く、ただ受け入れ通す道が在る。ただ愛は慈悲のみに非ず、千尋の谷に向かう厳しさもまた愛成り」
 そのままの態勢で躊躇なく鉄塊を振り降ろした。
 たまらず話したダモクレスに見せつける様に何度も振り降ろして行く。
「このまま押さえ込めると良いのですが……」
 ルピナスの炎は先ほどの蹴りに続いてダモクレスを焼くが、仲間の中には外した者も居る。
 その機動力に冷や汗を加kながら、戦いの趨勢を見守るのであった。


「……以前も同じような感じのロボを相手したが……ダモクレスは強力な巨大ロボが多いのかのぉ……」
「幸いにも火力は低い。連続で喰らわなければ保てる。問題は倒しきれるか、だな」
 カノンは癒しの風を引き起こしファルゼン達の傷を塞いだ。
 確かに攻撃力は思ったほどでは無く、巨大ロボというよりは強化型くらいかもしれない。
「キャスターで当てずらく、グラビティはBSが多いか……いやはや……面倒なあいてじゃのぉ……」
 だが問題はそこではない。敵は7分もすれば改修されてしまうということだ。
 現に攻撃の幾つかが避けられており、更に負荷でこちらの能力が制限されれば面倒なことになりかねないの。
「可能な限り奴の足を止め、攻撃役を温存するしかないな。場合によってはこの身は治療せずとも良い」
 ファルゼンはそう言うと動きを止める為と仲間を庇う事を兼ねて、横槍を入れるかのように脇から飛び蹴りを繰り出した。
「翼を叩き折れれば良いのですけどネ」
 アップルは腕を回転させて、飛び込むとビルの壁を蹴って斜めに奴の元に飛びこんだ。
 だが流石に部位狙いは無理そうなので、当てれそうな場所を殴りつけるに留めておいた。
「今度は当てて見せます!」
「ソノ前ニ、オレが行かせてモラウ!」
 真奈美がナイフを抜いて家屋の影を回り込んで居ると、ウォリアがアッパーカット。
 流体金属で作りあげた鉄拳で、下から突き上げたのである。
「反転っ……せいやっ!」
 真奈美は敵の装甲からナイフを抜き去り、空中で抜刀。
 着地と同時に身を沈め、今度は仲間達の影を利用して切り掛る。
 刃のような烈風が吹き寄せる中、盾役の仲間に任せて翼の付け根を切り裂いた。
「止める!」
「足らぬ。我をどうにかするにはこの二倍、いや三倍は必要で在る」
 ファルゼンは風を切り払い、ユグゴトは周囲の空間ごと自らに引きよせた。
 盾役たちは仲間を、特に攻撃役を庇って傷付くことを良しとする。
「みんな頑張ってるみたいっすね。……それじゃあ俺も今回は当てて見せないと」
 リンは抜刀の際にチリンと鈴の音を響かせて、弧を描いて空に舞った。
 やはりパワーで攻めるより当て易いのか、見事に直撃させて岩の様な羽を引き裂いたのだ。

 そんな時、ふと感じた思いがある。
 なんとなくだが、当て易くなった気がするのだ。単に技の熟練度の問題かもしれないが。
「いや、みんなでやったお陰と思っておくべきっすかね。このまま行けばきっと倒せるっすよ」
 ならば次は相手の得意な属性であろうと当てて見せると決意を固め、砲撃態勢に映った。
「あと四分ですヨ! ここが折り返しデス」
 アップルの放った凍結光線と言葉が戦場を切り裂いた。
 白い光が煌めき岩の様な体を覆う氷が、プリズムの様に反射する。
 そして既に半分の時間が過ぎたと言う事実が、ケルベロス達の意識を引き締めるのだ。
「ここからは巻いていきましょうか。慌てて攻撃を外すのは考えものですけど」
 ルピナスは再び蹴りを放った後、バールのようなナニカを取り出して構えた。
「とげとげのバールですよ、これは痛いですよね?」
 乱暴なのはあまり好きではないのですが……と言いつつ撲殺する覚悟を決める。
 怒涛の連続攻撃で時間を稼いでいると、無数の影が落下して来るのが判った。
「天に輝く七の星を見よ……オマエに死を告げる赫赫たる星こそが我……」
 それはウォリアの分身によるヘルダイブ。
 ビルの中ほどからマンションの上まで移動して、自由落下しながら詠唱を行ったのだ。
 地獄から生まれ居出る分身たちは、次々に降り注いでは地面に激突する前に炎と化して消えて行った。
「生まれる時を違えた強者よ、地獄に堕ちる覚悟はできているな?」
 最後に本体が飛び乗って大剣を振り降ろして牙を向いた!
 そこに保身の気持ちは無く、ただ激情と共に力(己)を行使する!


「あと二分を切りマシタ!」
「ん~。そろそろかのう」
 再び幾らかの時間が経過し居、
 アップルが縦横無尽に飛び跳ねながら、腕で敵の装甲を引き裂いて行く。
 その言葉に頷きながら、カノンは最も傷の深い仲間を霧で覆った。
「急上昇……そうか。汝も母の中に戻ると気が来たのだな。……貴様の一撃を我が胎に齎せ」
 ユグゴトはニタリと笑らうと、敵を我元に誘うかのように両手を広げて導いた。
『キエーッ!』
 上空に登った後で、アフターバーナー吹かして急降下。
「これはいかんな。間にあえば良いが」
 ファルゼンは空間を爆破し、その勢いを殺す。
 だが何度も使って居ればともかく勢いを減らしたに過ぎない。
 どこまで通じたか、それとも皮一枚を残して生き残れるだろうか?
「さぁ還るが良い。そのメカニカルな人生は、これより我れ共に在る」
 もの凄い勢いで降下するダモクレスにユグゴトは微笑んで向かい入れたのだ。
 そのまま地面に叩きつけられながら、筋肉で締めつけて共に堕ちて行った。
「時間も無い。パワーダウンしているし、ここからは攻勢を掛けるとしよう」
 ファルゼンは再びパイルバンカーを起動させると、動きの鈍った相手を倒すべ組みついて逃がすまいとする。
「ここからは逃がさない為の戦いですね。慎重に行きましょう」
「そうっすね。今のは驚いたッすけど、何度も使える技じゃないでしょうし……逃走用に積んでないのが助かった」
 真奈美が先行して切り刻み、動きを止めたところでリンは全ての兵装を一斉起動した。
「環境補正完了 戦術データリンクへの接続承認 圧縮グラビティ全解放 ウェポンリミット解除 マルチミサイルオールロックオン…fire」
 一撃離脱を止めて自らも足を止めて包囲網に加わると、ライフルを構えミサイルラッチを開放して行く。
 リンの放った加圧性重力弾が空間を歪め、それによってミサイルが機動を変えて複雑な軌道を描く。
 まるでサーカスの様に飛び跳ねるのだが、全てが先行して撃ち込んだ重力波により一方向に束ねられるのであった。
「生まれる時を違えた強者よ、地獄に堕ちる覚悟はできているな?」
「トドメを指せなかったら、後はお任せしますね」
 ウォリアは舞い上がると大斧で首を落とさんとばかりに斬撃を浴びせ、ルピナスは再びバールを振りかざして乱打するのであった。
「この輝きは邪なる物を浄化する愛の光! ゴットハンド・スマッシュ!」
 最後にアップルが巨大な兎の手でつかむと、敵は逃れようと飛び出したが……堕性でフラフラとするのみであった。

「えーっと、これは我輩もまた攻撃した方が良いのかの。……いや、俺は必要無いか」
「わたくしたちの勝利ですね。避難した人々に連絡をしておきましょう」
「そうだな。後は周辺を修復して撤収するとしよう」
 カノンが様子を探ると感性で飛んでいるだけであったようだ。
 ズズンと物音を立ててホバリングを止めた段階で、ルピナスとファルゼンはさっさとヒールを開始する。
「仔よ。汝は母の経験となった。いつまでも羽ばたいているが良い。汝の姿はここに在る」
「そうだね……記憶の中くらいは恰好良くても良いと思う。……残骸が結構邪魔っすね。片しておくっすよ」
 ユグゴトはヒールをしながら、リンはパーツを運びながら少しでも雄姿を留めようとする。
「お手伝いしますヨー」
「こんなものでしょうかね?」
 アップルや真奈美も手伝って一か所に固めてパズルのように置いて行った。
「では凱旋するとしよう」
 最後にウォリアは逃げられるかもしれないという危機よりは、命を掛けた闘いの方が良かったと愚痴をこぼした。
 それが彼なりの冗談なのだろうと、一同は笑顔で帰還したのである。

作者:baron 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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