ケルベロス新年会~刀剣談義!

作者:洗井落雲

●ヘリオライダーより、新年の挨拶
「皆、新年あけましておめでとう」
 そう言うと、アーサー・カトール(ウェアライダーのヘリオライダー・en0240)は深々と頭を下げた。
 2017年も終わり、新たな年が今日より始まる。
 もちろん、一年、何事もなく平穏に過ぎたわけではない。
 数多の危機、幾多の戦い。大事件は何度も起きた。
 それらは全て、ケルベロス達の手によって解決されてきたのだ。
 2018年。この新たな年は、ケルベロス達の手によって勝ち取った、価値ある未来であると言える。
「故に、地球に住む全ての人々を代表をして……というのも少し気恥ずかしいが、とにかく、礼を言わせてくれ。一年間ありがとう。この感謝は、言葉だけでは表せないほど大きなものだ。そこで」
 アーサーはヒゲを撫でつつ、続ける。
「ケルベロス新年会を開催する事とする」
 ケルベロス新年会――実はケルベロス達には秘密で、世界中の人達が自主的に、ケルベロス新年会のための募金を、歳末に行っていたそうだ。その額はそれは相当なもので、全国11か所もの会場を貸切った、実に盛大なイベントとなったのである。
「とは言え、ただ新年会を行うだけでは芸がない。よって、募金のお礼も兼ねて、新年会を楽しむケルベロス達の映像を、世界中で放送する、という事になっているのだ。普通の一般人では実現できない、ケルベロスの、ケルベロスによる、ケルベロスの為の新年会! それがケルベロス新年会だ! ――と、そう構える事はない。君たちが心から楽しんでいる、その光景だけでも、人々にとっては希望となるものだ。募金も、善意も、しっかり届き、受け取っている、というアピールにもなるしな」

●新年会のしおり
「そんなわけで、新年会について、ボクから説明するね!」
 と、元気よく手をあげつつ、フレア・ベルネット(ヴァルキュリアの刀剣士・en0248)は、手元の資料に目を通した。
「えーと、会場は、群馬県は草津の温泉宿。和風建築で、ボクら皆で騒げるくらいには大きな宿だよ。貸し切りだから、スタッフさん以外の一般の人はいないよ! ……けど、マナーはしっかり守ろうね。当然温泉も完備。大きな露天風呂が名物みたい。あ、当然、男女別だから、期待してた子は残念でしたっ」
 にっこりと笑い、フレアが続ける。
「ちなみに、この会場の新年会は、『刀剣士』のケルベロスの為の新年会になるよ。だから、『参加できるのは、刀剣士のジョブを持つケルベロスだけ』なんだ。『刀剣士であれば、メインでもサブでも構わない』よ!」
「この参加制限だが、同じジョブのケルベロスと親交を深めることにより、これからの戦いにも役立つ、有意義な新年会になるだろう、という――」
 アーサーの言葉を遮り、フレアが続ける。
「建前だねー。本当は、『同じジョブのみんなで集まったら、なんか楽しい新年会になりそう!』位のノリで決まったらしいよ。だから変に気にしないで、新年会を思いっきり楽しめばそれでいいからね!」
 セリフを遮られたアーサーは、こほん、と一つ咳払い。
 そんな様子を見て、フレアは楽しげに笑う。
「さて、新年会なんだけど――」
 ふと、フレアは真面目な顔になり、
「ボクたち刀剣士にとって、刀剣って、大切な相棒だったり、もう一人の自分だったり……魂を持った存在、って感じる事、ない?」
 そう言うと、フレアは、腰に下げた二振りの刀の柄に手をやった。
「ともに死線を潜り抜け、ともに生きてきた大切な存在。それがボク達刀剣士にとっての刀剣だと思うんだ」
 説明を聞くケルベロス達の中には、共感を覚えたものもいるかもしれない。
 刀剣士にとって、自身の持つ刀剣、その存在はとても大きいと言えるだろう。
「そう。魂がある――のなら、擬人化しても問題ないよね?」
 さらっと。
 何かとんでもない事を、フレアが言った。
「知ってる? 刀剣を擬人化するゲームやアニメ! ああいうの! 羨ましい! ボクたち刀剣士の刀剣も、擬人化したっていいよね!?」
 いや、いいよね、と言われましても。
 ケルベロスの殆どが、何やらあっけにとられた顔をしている。
「というわけで、決まりました! 今年のテーマは、『もし自分の刀剣が擬人化したら?』!」
 何やら妙なテンションで、フレアが宣言する。
「やる事はとっても簡単! 皆、『もし自分の刀剣が擬人化したら、どんな人物になるのか』を考えてほしいんだ。どんな容姿で、どんな性格か。普段はどんな生活をしていて、自分とはどんな風に接してるのか。表現方法は、何でもあり。普通に口答で発表してもいいし、絵に描いたり漫画や小説をかいたり、なんでもOK! あ、ボクは自作のテーマソングとか発表するつもり。ミュージックファイターでもあるし」
 エアギターをかき鳴らしつつ、フレアが笑う。
「……まぁ、ちょっとしたごっこ遊びと、宴会の余興みたいなものだと思って。これをきっかけに、自分の刀剣への愛や理解が深まるかもしれないし……こういうの考えるのって、結構楽しいと思うんだよね。もちろん、こういうの苦手だなぁ、って言う人には、無理にやれとは言わないから、そこの所は安心してね」
 こほん、と一息つきつつ、フレアは笑顔で続ける。
「ボクたち、刀剣士流の新年会で、自分達だけじゃなく、世界中の皆も楽しませてあげようよ!」
 そう言うと、フレアは新年会のしおりを配り始めたのであった。


■リプレイ

●刀剣士達の新年会
 群馬県、草津の新年会会場では、参加した刀剣士達が、様々な料理に舌鼓をうちつつ、今回のテーマである『自分の武器、刀剣の擬人化』について、話に花を咲かせていた。
 そのトークの手法もさまざまで、例えばアルベルトなどは、自身が噺家という事もあり、自身の刀剣についての噺を見事に披露している。
「愛刀の銘は「首切り椿」。人の姿になれるのならば、其れはきっと黒髪が艷やかで凛とした女性だろう」
 アルベルトの話術に、多くの者が、その和装の女性の姿を、はっきりと脳裏に思い描いたことだろう。
「俺は静(いずみ)。脇差か打刀か自分でも良く分からない半端物ですが霊力は本物ですから安心してください」
 一方、愛刀の擬人化姿を想像し、その姿を模した、いわゆるコスプレを披露する者もいる。兼敏は愛用のスマホをしまい、髪をサイドで一まとめ。自己紹介――もちろん、愛刀、静の――を行う。
 眉目秀麗な男の所作に、思わず息をのんだ者もいたかもしれない。
 コスプレを行ったのは、フレックもだ。和装に身を包み、愛刀、『空亡』を演じる。
「私は……彼女に拾われた刀。私自身は狭間を斬る剣だけど、主と共に弱くなってしまったの。でも……また私は強くなれる。彼女と一緒に成長できるのが嬉しい……」
 たおやかに微笑みながら、『空亡』が言う。まるで『空亡』その物であるかのような言動、それは、フレックの、己の武器への愛と理解故になせることだろう。
 特徴的な発表というならば、伽藍のそれもユニークなものだ。伽藍は刀の魂を青い人型のオーラとして擬人化・具現化し、自分に憑依させるというグラビティを持つのだが、今回は黒百合を紹介するためにそれを披露。
「自分の刀もなかなか美人っすよー。てなわけで黒百合センパーイ出番っすよー」
 青い人型のオーラが、一同の前に姿を現す。曰く、無口で照れ屋……であるらしい。

 様々な形で語られる、自慢の武器達が擬人化された姿。皆は時に感心し、時に笑い、それをおかずに食事や酒も進んでいく。
「七哭景光と鬼哭景光は同じ刀工の手による刀だ。造りもよく似ている。故に二人は姉妹……双子ということになるか」
 皇士朗の言葉に、パトリックが続けた。
「オレの刀達も、双子の兄妹だな。イメージは……オレの、大切だった人と……オレ自身、って感じだ!」
 双子刀、姉妹・兄弟刀を持つ者も多い。今宵は様々な兄弟たちが、ここで顔を合わせているという事になるのだろう。
「私の刀も二振りあるな。作り直した白楼丸と一から作った黒楼丸。血のつながりはないが、二人は兄弟か、姉妹で……私の、大切な子供達でもある」
 凛はそう言って笑う。
「私の愛刀は二振りあります。二本……いえ、二人共、私を導いてくれるお兄さんとお姉さんです!」
 そう言って、イリスがお姉さんである『風冴』、そしてお兄さんである『紅雪』の自作のイラストを披露する。絶妙な出来栄えであったけれど、確かな愛は伝わってくる。
「アタシの斬霊刀は二刀一対の双子みたいなもので、Matka――母さんがアタシの為に設えたものなの。だから、イメージは、アタシに似た感じの双子になるかしら。この子たちもアタシも。皆Matka(母)から生まれた子、姉妹ってことね」
 窓から景色を眺めていたローザマリアが、談議に混ざる。
「同じ二振りの刀を使う者と言えど、やはり様々なイメージがあるのだな」
 お酒を軽くあおりつつ、皇士朗が笑う。
「自分の愛刀の擬人化……考えもしなかったですけど考えてみると案外楽しいものですねー」
 お寿司や海鮮丼を平らげつつ、イリスが言った。
 自身の、武器への印象。来歴。様々な要因から、皆は自身の武器に、様々なストーリーを描いていく。それは、世に二つとない、持ち主である自分だけの武器であり、自分だけのパートナーであるのだ。


 刀剣士達の新年会はまだまだ続く。
 雨音は豪華な料理に目を輝かせて、ばくばくと全てをかきこんでいく。
 そんな姿を目にしながら、明子は驚きつつも、その勢いに乗せられて、ついつい食べ過ぎてしまったりするのだ。
「私の白鷺が人だったらかぁ。白鷺はそのままでも師みたいなものだから難しいわ」
 明子の言葉に、雨音は、
「雨音も考えたことはなかったにゃ。凛月は、もう一人の人間よりも、雨音の体の一部である感じにゃ。でも」
 雨音はてへへ、と笑うと、
「でももし本当に人間になったら、この美味しいご飯も一緒に食べられるといいにゃ♪」
 その言葉に、明子は楽し気に笑うのだった。

 雅也と影乃は、二人で正月料理を堪能していた。お汁粉を飲みつつ、自分達の刀剣について考える。
「【刹那】は……そーだな、やっぱ渋くて寡黙なオッサン剣豪って感じかなー。隻眼とだとカッコいいかも!」
「僕の愛刀の餓者髑髏は……そーですねー……白無垢を来た骨の花嫁? でしょうか?」
 と、影乃は、そうだ、と一言、
「そういえば……雅也くんのお誕生日が近いのでは? こういう時は……祝い酒デスネ! ちょっと僕もらってきマス!」
 そう言って席を立とうとした影乃を、雅也は慌てて止めた。
「いや、酒は二人だけの時にしようぜ? 祝ってくれるだけで嬉しいから、さ!」
 酒癖の悪さを思い出しつつ、苦笑いを浮かべる雅也を、不思議そうな顔で見返す影乃であった。

 ルルドと早苗は、お互いの杯にお酒を注いだ。一口、唇を湿らせ、
「なんか皆楽しそうにやってんな……あ、板長。オレに茶碗蒸し」
「そうじゃなぁ……個性豊かというか。楽しそうじゃけどな? ……あ、わしもルルドとおなじやつー」
 などと、料理もしっかりと堪能する。
「そういや早苗が持ってる刀の擬人化ってどんなイメージなんだ?」
 ルルドの問いに、早苗は小首をかしげつつ、答えた。
「そうじゃなー。仕込み錫杖じゃろ? きっとこう、見た目は人畜無害そうな感じで、腹黒くてー」
 趣味全開だな、と笑うルルドに、早苗は、こういうのは趣味全開で行かねば、と返す。
「俺の首狩りはそうだな……。兎の武人だ。元々そいつから受け継いだもんだから、そのイメージしか湧かねぇんだよな」
「元の持ち主、か。受け継いだもの、しっかり抱えて生きたいのう?」
 早苗の言葉に、
「そうだなぁ……つっても正しく受け継げてるか分かんねぇけどな」
 そう、ルルドは答えた。


「僕の愛刀、煌翼が人になったなら武人然としたご老人でしょうか?」
 恵が悩みながら、そう言った。
 自身の武器に、老人の様なイメージを持つ刀剣士達も、多く存在する。
 やはり、刀剣の持つ雰囲気から、老練の古強者を連想するのだろうか?
「己にも他人にも厳しいが弱者を決して見捨てない……そんな立派な性格を持っていそうですね」
「ボクの刀も最上大業物の古刀だし、やっぱ爺様かな。鷹のような鋭い眼光に鋼色の瞳、ロマンスグレーのオールバック!」
 と、エリシエルが話に乗っかる。イメージはやはり武人。かなりの手練れを想起させる。
「ふふ。私の斬霊刀は先祖から受け継いだ物ですから、やはりちょっと年配のおじい様ですかね。師匠的な感じでしょうか。日本刀の方は、寡黙な武士の様な方。二人は阿吽の呼吸で背中を託せる、相棒のような仲だと思います」
 サラも楽し気に、自身の愛刀について語る。
「私の「霊剣・緋焔」は……見た目は……ちょっとやせ過ぎたお爺ちゃん剣士って感じでしょうか。何時も楽しそうに剣を振り回してるんで戦ってればそれでいい、みたいな人っぽいです」
 給仕の手伝いをしつつ、鈴音も会話に参加する。
「私との関係性は……師匠ポジションがしっくりきますね」
「関係性かぁ。ボクの戦闘スタイルだと、敵にブン投げるー、とか地面に突き刺して逆立ちー、とかかなり無茶苦茶な使い方するからなあ……まあ小言は多そうだよね」
 苦笑しつつ、エリシエル。
「なら、今日はゆっくり休ませてあげましょうか」
 笑いながら、恵が言った。
「そうですね。これからも、共に戦う大切な仲間です。今日はしっかり、労ってあげましょう」
 ニコニコと笑って、サラも同意するのだった。


 睡と三日月が、思い思いの料理を注文する。もちろんちゃんと出てきます。料理長、頑張ってます。
 二人で料理に舌鼓をうちつつ、会話は次第に今日のテーマの方向へ。
「あんまり月隠が真剣使ってるの見ないからなんか新鮮」
「……私の刀か? 稽古では木刀か竹刀使うけど、デウスエクス相手の時は真剣だ」
 三日月が取り出したのは、一振りの日本刀だ。名もなければ、名刀でもない。ただの刀。使えば壊れる。壊れれば別の物に変える。愛刀、と言うものではないが、しかし、戦場では命を預ける武器である。
「そう考えると、私の刀は『たまたま同じ戦場で一緒に戦うことになった、名前も知らない他人』って感じか。仲間ではあるけれど、という感じかな」
「仲間か。いいなー、そういう一期一会。……あんまし即席即興の武装が得意じゃないからな。憧れる」
 自分の場合は、と睡は言うと、
「色々考えてみたけど、ふわっとしたイメージしか湧かなくて。……んー、薄青色のドラグナー、かな。どうも人間じゃない気がする」
「愛刀を敵に喩えるとは、剛胆なお人だな」
 くすり、と笑う三日月に、そうか? と苦笑する睡であった。

 会場の少し端。賑やかさからは少し離れた場所で、陣内とイサギは2人、熱燗をやっていた。
「刀なんてどれでもいいと思っていたさ」
 イサギが、言った。どうせ折れるし、折れるような使い方しかしなかったから。そう言って、熱燗をちびり、と飲む。
「俺も刀剣士ってわりには得物にそこまで拘りはないな」
 陣内はそう言いつつも、その傍らには二振りの剣を置いていた。
 乙女座と。獅子座。それに込められた意味を知るのは、陣内だけだ。
「けど、私は――刀が好きだ。愛しているよ。刀そのものになりたいと希うほどにはね」
「イサギに預けた『ゆくし丸』」
 陣内が、ぼそり、と言った。
「故郷の言葉で「嘘」って意味なんだ。強く生きて行こう、そう思ったら、その銘が自然と頭に浮かんだ」
 イサギは笑った。
「失えないものが幾つもできた今なら。強く在り続けるためには必要なものだ。ただの刃であろうとした頃がもう遠い――」
 二人は熱燗を、口にした。
 刀剣でつながる二人の間柄。穏やかな酒宴は、まだ始まったばかりだ。

 志苑と清士朗もまた、会場の中心から外れ、窓から庭園を眺めていた。
 見れば、闇夜に白く、雪がちらついていた。
「「雪月華氷刀」。「氷華桜刀」。初代蓮水家当主が使用し没した後、寺院に奉納されていたそうです」
 志苑が言った。語られるは、二振りの刀にまつわる話。
「……長兄の一件後に師から渡されました。本来は兄が持つ筈だったのではと。……けれど兄は使う事が出来なかった事、当主が女性であった事、妖憑きで浄化しながら戦っていた事等お聞きしました」
 清士朗はその話を聞いて、深く頷いた。ふと、窓の外、闇の中に、何かを見た気がした。それは、何時の日か幻に見た、彼女の……。
「志苑」
 清士朗が言った。
「もしもこの先、刀が降魔と目覚め、身の危険を感じる時があれば、その時は、必ず俺を呼べ? 舞い落ちるこの雪のように、必ず駆け付けようほどに」
 その言葉に、志苑は目を細める。心強い言葉。
「はい、そのときはどうか」
 志苑はそう言って、頷いた。


 さて、ところ変わって、ここは露天風呂。メインの会場と違い、何処かのんびりした時間が流れている。

「……いやぁ、やはり温泉はいいな。大きな風呂は、それだけで別格だ。……美女も目の前にいるし」
「……ふふ、私の前にも眼福な美女がおるぞ?」
 澄華と蓮は、露天風呂に浸かりながら、至福の時を過ごしていた。
「そういえば、蓮殿の刀……中々の業物よな。人であればきっと、美形なのだろう」
 澄華の言葉に、
「私の刀……千花来一天は、幼少時に修行の旅路で会ったのだが……そうだな……嫋やかな花の精、といった所だろうか。私が折れそうな時にも決して折れぬ、凜としたおなごだ。所で、澄華殿の愛刀も美人さん揃いであるよな」
「……私の刀? うーん、凍雲はきっと厳しくも優しいお姉さんかな? 黒夜叉姫は……美人だけど何処か闇を持ってるお姫様……だと思う。まぁ、二振りとも私の頼れる相棒だ。蓮殿が蓮殿の刀を大切にされているのと同様にな」
 その言葉に、蓮は、
「幾度となく共に戦場を駆けてきたのだ。愛は積もる一方よな」
 そう言って、笑うのだった。

「むむむ……」
 と、湯船につかりながらうなっているのは、舞香だ。
「我が愛刀たる妖星刀……う~ん。私にはお主の姿が、まるで見えない……つまりお主を使いこなせていないという事! まだまだ未熟……!」
 と、お湯をすくい、ばしゃり、と顔にかけたのだった。

「自分の刀剣を擬人化ねェ」
 期せずして男湯を独占することになったトーマは、湯船につかりながら、自身の刀の事を考えていた。
(「やっぱカッケー奴のがいい。黒い髪で、目は閉じて、スッゲー強くて我儘な奴。でも一回認めたら静かに隣で戦うンだ」)
 想いを馳せる。帰ったら、しっかり手入れしてやろう。そんなことを誓いながら。


 さて、刀剣士の性格も様々なら、彼らの武器もまた様々。
 型にはまらぬ、そんな外見、性格のものも多い。
「俺とは違い、かなり気が荒いヤツだろうな……斬れ味が良すぎることから、誰彼構わず、気に入らないヤツには食って掛かりそうだ」
 と、日本酒を飲みつつ、零冶は自身の斬霊刀について語る。
「俺の刀剣も、めちゃくちゃワガママ言う奴になりそうだな……こいつが主で俺が従者って感じ」
 苦笑いを浮かべつつ、アバンが言う。
「千鬼は元々喋る妖刀なわけだけれど……よく考えたら喋るのは刀に宿っている妖であって刀そのものではないんだよね……」
 だから、刀そのものは、気弱な優男なんじゃないかと思う。そう言うのは、千里だ。
「うーん、私は……やっぱりカッコいい男の人がいいかなぁ。一緒に戦うんだもんね。女の子も……って思ったけど、戦わせる、って考えると、ちょっと気が引けちゃうなぁ」
 と、リナが言う。胸の内に、無くしてしまった物への想いを抱えながら。
「僕は……」
 と、幸は想像する。もし今の武器を擬人化したら……。
(「なんで対霊装備でダモクレスなんていう物理全開の相手に斬り掛かったんですか!!!」)
(「斬れたからいいじゃないおふぅ」)
「刺されるだろうね……」
「刺さ……れる?」
 アバンが困惑したように声をあげた。
「ボクの『赤備』は……ボクと同じくらいの背丈で、赤い和服を着た女の子……かな。口調はおばあちゃんっぽそう。きっと、口煩いけど優しい子だと思うな」
 エルが言った。
「ボクがケルベロスになった切っ掛けの刀なんだ。だから、ボクにとっては力をくれた恩人みたいな感じ」
「俺は溜め込む性質なので……沢山あるんだよね、武器も。きっと家では、皆でわちゃわちゃ、騒がしい毎日を送ってるんだろうなぁ」
 右院がしみじみと、そう言う。今日右院が持ってきたのは、『吼丸・写』『霊峰天津紫茨』の二振りだ。それぞれ『勇猛果敢でプライドが高いけど不憫系の子』、『他を幻惑するほど綺麗な子』なのだそう。
「ウチは剣が本体だかラナー。コレはウチの手とか口みたいなモンだナ!」
 ケルベロスの武器を核に製造されたというアリャリァリャは、武器の擬人化としてはまさにそのものの姿なのかもしれない。その出自から、皆の武器にも興味津々のようだ。
(「刀剣を擬人化、ねぇ……グラムは私そのもの、みたいなものだからなぁ……うまく発表できないなぁ」)
 と、利香は胸中で呟きつつ、隣に置いてあった、愛刀を眺める。
 いつもありがとうね。そんな言葉をつぶやきながら、自身の好物であるチーズをのせてみた。なんだか気恥ずかしくなって、照れ隠しにご飯をかきこむ。と。
「ギヒヒ! そいつは、チーズが好きなのカ! ウチも好きだゾ!」
 どうやら、アリャリァリャに見られていたらしい。思わず顔を真っ赤にしてしまう利香であった。
 創英も、自身の愛刀について語り、食事を楽しんでいる。
 そんな皆を眺めながら、アトシュはぼんやりと、
(「あの人らって、いつもこんなことしてんだな……」)
 と、胸中で呟いた。ふと、傍らにある二振りの刀へと視線を移す。
(「俺たちもあんな感じに、なれるといいんだが……」)
 そう想い、先輩たちをどこか羨ましげに眺めるのであった。
「うーん……任務の時は意識したことはありませんでしたけど、こうして皆さん愛用の武器を見てみるのもとても楽しいです!」
 皆の様子を見ながら、楽し気に、ラリーが言う。
 ラリーの武器は、『宝剣「God save the Queen」』。今現在の技術、人の手で作られた、特別な力などは持たない、だがラリーにとっては特別な剣。
 外見は【年若い見習いの騎士】で、きっとまっすぐな性格に違いない、とラリーは思うのであった。


 刀剣士達の新年会はまだまだ続いていく。
 その姿は、多くの媒体を通して人々の目にうつり、心の癒しになっただろう。
 それに、参加した者たちにとっても、自身の武器への想いを再確認する良い機会になったに違いない。
 2018年。新しい年は、騒がしくも楽しい一日で幕を開くことになったのだった。

作者:洗井落雲 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月16日
難度:易しい
参加:41人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 8
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