ケルベロス新年会~いざ放て! 魔を降す必殺技!

作者:柊透胡

「新年、明けましておめでとうございます」
 いつもに増して粛々と、都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)は新年の挨拶を述べた。
「2017年は、世界の危機に何度も直面した1年でした。しかし、その危機の数と同じだけ、世界が救われた、素晴らしい年でもあったと思います。これも偏に、ケルベロスの皆さんの活躍のお陰です」
 ありがとうございました――丁寧に一礼して、感謝を口にする創。その生真面目な面持ちがふと和む。
「とは言え、これは地球に住む全ての方々の感謝の気持ちです。言葉だけでは到底表せませんね」
 実は歳末に掛けて、ケルベロスには秘密裏に、そして自主的に、世界中の人々が『ケルベロス新年会募金』で予算を集めてくれていたという。
「ケルベロスの皆さんに楽しんで頂く新年会です。全国11箇所に会場を用意しています」
 だが、ただの新年会を催すだけでは、芸が無い。
「是非、世界中の皆さんに、新年会を楽しむ皆さんの映像をプレゼントしてあげて下さい」
 普通の一般人では実現できない、ケルベロスのケルベロスによる、ケルベロスの為の新年会を。
「勿論、皆さんが楽しむ事が最優先です。盛大に、新年を祝って頂ければ幸いです」
「えっと、これから紹介する会場は……南紀。和歌山県の山奥、ね」
 新年会の会場が、山奥――怪訝そうなケルベロス達に、結城・美緒(ドワっこ降魔巫術士・en0015)は地図を広げて見せた。一点を指し示す。
「あのね、ここに修行に打って付けの滝があるの。新年から滝行って、ワイルドでしょ?」
 日本三名瀑の1つ、『那智の大滝』を始め、南紀は滝の宝庫だ。新年会の会場に選ばれた滝も、些か小ぶりながら水の流れがとても美しく趣深い。
「当日は会場周辺が貸切状態で、一般の人はいないけど、運営スタッフはきちんと居るから大丈夫よ」
 和歌山県、特に紀南地方は比較的温暖で新年会当日も雪の心配はない。それでも山中は冷え込むだろうが、暖を取る準備はスタッフが万全に手配してくれているから安心だ。
「そうそう、この会場は『降魔拳士』専用の新年会よ。自分と同じジョブのケルベロスと親交を深めて、これからの戦いにも役立つ、有意義な新年会にしたいわね」
 なんて、真面目腐った面持ちも束の間。すぐに美緒はクスクスと笑み零れる。
「なんてね。そんな建前はさて置いても、同じジョブのケルベロスが集まったら、何だか面白そうよね」
 という訳で、『降魔拳士』の新年会は、ズバリ! 『年初め滝行&必殺技披露会』(寧ろ後者がメイン)!!
「まあ、滝行は本格的にやっても良いし、水垢離でも、いっそ清水に足や手を浸すだけでもね。その辺りはそれぞれのやり方で、身を清めたら良いと思うわ」
 年の初めに滝の気を浴びれば、心身共に一新出来るというもの。
「それでね、折角だから、皆で『ボクの考えた最強の必殺技』を披露してみない?」
 オリジナルグラビティを披露してもいいし、グラビティとか関係なく、これってすごいだろうという技でもいい。
「滝の前は広い河原になっているし、大きな岩もゴロゴロあるから、舞台にも客席にもなるわね。自慢の技を派手に! かっこよく!! 単独の演武は勿論、グループで模擬戦ぽくやってみても、面白いと思うわ」
 一口に『降魔拳士』と言っても、流派は千差万別。互いの必殺技を見せ合う事は、きっとこれからの戦いの役に立つだろう。(注:必殺技の効果は、個人的な意見であり効果を保証するものではありません)
「デウスエクスとの戦いは、まだまだ続くわ。だからこそ、全力で新年会を楽しんで、『ケルベロスは年明けから元気です!』って、世界の皆にも伝えたいわね」
 ついでに、笑いとか勇気とか感動とかも。『降魔拳士の必殺技』には、人々を笑顔にする絶大な威力がある筈だ。
「世界中の好意と期待に応えて、楽しい新年会にしましょ!」


■リプレイ

●新春滝行
 新年早々、南紀の山中に集った降魔拳士達は、総勢31名。
「流石に初めてなんだけど……迅はやった事ある?」
「ああ、あるぜ。めっちゃ冷えるから気合大事な?」
 常緑を縫い岩壁を落ちる滝は、やや小ぶりながら水の流れがとても美しい。新年会の為、結城・美緒が張り切って探してきただけに、滝行に打って付けの趣か。
「ウハー、冷たーいッ!!」
「まあ、覚悟を決めたなら、この程度平然と出来ずして、ケルベロスなんてやってられない。敵の攻撃受けるよりましだ」
 滝行は日本古来の修行法だ。白の行衣で滝に打たれ、無我の中で己を見詰める。冬なれば更に苛酷で、その点も考慮して、身の清め方は各自任意となっていた。
「寒いわねぇ……まぁ、ダンジョンに比べればまだ過ごし易いけど。清らかな雰囲気だし、なんてね」
「滝だと羽が散っちゃいそうですから、こんな感じに、です!」
 軽く済ませてファミリアを遊ばせる者、景気よく木桶一杯の水を頭から被る者。
「昔は、住職の許でよくやってたっすねー」
「私も巫術の修行の一環かな」
 防具特徴として霊験あらたかなだけに、粛々と水垢離する者もいる。
「タキシュギョウ! 寒中水泳を嗜むロシア人としては見逃せないトレーニングなの!」
「……うっ、地獄特訓……だ、大丈夫! 私はもうあの時の私じゃなくなったから!」
 流石は滝行と聞いて集まった猛者ばかり。本格的に臨む者が殆どだ。行衣どころか、さらしやふんどしと、鍛えられた身体を寒気に晒す者もいる。
「どうせやるなら全力っ! こうなったら、頭から浴びるよっ! ……うん、寒いっ!!」
 気合を入れて次々と滝に身を置き、心を澄ましていく降魔拳士達。
(「冷たい、けど我慢できない程ではないかな。寧ろ研ぎ澄まされてくるような感覚。何か掴めそう……これが滝の気、なのかな」)
「よし、誰よりも長く滝に打たれてやんヨ! ……エ、我満大会みてーなもんじゃねーノ?」
 ちなみに、滝に打たれるのは一般人は長くて5分。低体温症で意識を失う事になりかねない。
(「……あー、道理で寒い訳だ」)
 存外に強い水圧に、着衣がはだけた者もいるようだ。
「天才のわたしの身体はゴムみたいなものでしてねえ。どんな攻撃でも跳ね返してしまうのです。だから当然、滝の冷たさも、わたしには効かぬ! 通じ……痛い冷たい痛い!」
 ……結局、滝から救出された者もいるが、ケルベロスの画としてはどーなんだろう。
「い、いくら、あったかい地方だからって、この時期に滝行は寒いんだけどっ!」
「でも、不思議と、心が穏やかになります、ね、シルさん?」
 ケルベロスでも冬の滝は冷たいし、寒いものは寒い。用意された乾いた衣服やストーブの暖かさが本当にありがたい。
「寒っ! でも、やってみると神聖な感じってのかな……身を清められたと思うぜ」
「うん。私も初体験だけど、気持ちが引き締まっていい感じだね!」
 それでも、苛酷故の達成感に、笑みが零れる。歳若い者も多く、いっそ頼もしく映っただろう。
 ――――。
 その内に……滝から筆舌に尽くし難い奇妙な『音』が聞こえてきた所で、滝行の撮影は終了。
「新年なんだし、本格的な滝行も良いよね!」
 ケルベロスの差入れでずんだ餅が振る舞われ、温かな飲み物で人心地が付けば――さあ、必殺技披露会の始まり始まり!

●いざ放て! 魔を降す必殺技!
 美しい滝を背景に、河原にセッティングされるのはデウスエクス・ハリボテ各種。ケルベロス大運動会でも使用された逸品だ。
 周辺の大岩を的と目していた者も少なからずながら、自然は自然のまま、残すに越した事はない。
「よし! まずは俺が!」
 1番手の相馬・泰地は褌一丁でポージング。グラビティの力を全身に充たす。
(「まさか大勢で新年会を催してくれたとはな……折角だし、楽しい会にしてえな」)
「旋風斬鉄脚!」
 旋風の如き身のこなしが眩い光の孤を描く。強靭な回し蹴りがハリボテを抉った。如何にも格闘家らしい必殺技だ。
「この空が、私の味方……!!」
 続いて、パフォーマンスウェアも華やかに、ハリボテを抱えて高く高く舞い上がる光宗・睦。背のピンクの翼が消えるや、自由落下の重力を上乗せしたネックブリーカードロップ!
「私の必殺技は『乙女堕天流星』! 正確に首を狙えば、敵も一瞬失神する、お気に入りの技だよ」
 快活に八重歯を覗かせ、ハイテンションな笑みが零れる。
「さってさて、そこまで派手にはいけないけども、いっちょやらせていただきましょうか!」
 一際大きなドラゴンのハリボテを、勢いよく投げ上げる天月・光太郎。落下地点で豪快に拳を叩き込む。
「貫き穿ちて、爆ぜて消え去れ!」
 裂帛の叫びと共に、紅蓮・炸裂華が炸裂。ハリボテは粉々に。
「私の必殺技を新年初披露なの!」
 フィアールカ・ツヴェターエヴァの「女神の制裁(サラスヴァティー・サーンクツィイ)」は、流れるものを司る女神の名を冠した足技。バレエや新体操の動きを活かした連続キックは、フェアリーブーツの光とオーロラめいたバトルオーラが華麗な軌跡を描く。自然と周囲の溜息が漏れた。
「年明け一発目の新年会だシ、全力で楽しまねーとナ!」
 対照的に豪快な叩打の音が響く。胸の前で左の掌に右拳を打ち付け、自らを鼓舞する除・神月。
「見てろヨ! これがサイキョーってもんだゼ!」
 全速力で滝に突っ込み、真っ直ぐ殴りつける。
(「岩とかぶっ壊すのも爽快だけどヨ、滝を真っ二つとかスゲー楽しそうジャン?」)
 殴打に乗せるのは情熱と野性の誇り。豪放磊落な戦国天下一等星拳は、見事滝の流れを割る。
「次はオレの番だな。降魔拳士が拳だけじゃないって、皆さんに見せてやるぜッ!!」
 神月の技に触発されたか、コートを脱ぐ天変・地異。
「スーパー天変地異キィッーク!!」
 高くジャンプするや巨大攻性植物(ハリボテ)目掛けて急降下! 派手に爆発粉砕する! 降魔拳士の脚力を見せ付けた流麗な技は、正に正義のヒーローの必殺技だ。
「アンジェラ・コルレアーニ、です。よろしくお願いします、です」
 カメラに向かい、最年少の少女は丁寧にご挨拶。
「ちょっぴりスリリングなお散歩、です♪」
 限界まで舞い上がり、錐揉み状に回転。翼の力と重力も利用してハリボテを滝へ叩き付ける。天使の散歩道という呼び名に違う豪快さだ。
「ふぅ、満足、です♪」
 当人は水飛沫の中、とってもいい笑顔だ。続いて、澤渡・和香の技の受け手も引き受ける。
「遠慮せず、思いっきりやってください、です!」
「あ~、私の『乙女の徹し』は~、敵意がある人や無機物には確かに掌底打ちみたいになりますけど~。本来は回復手段なのですよ~」
 実際、和香の掌底はハリボテを粉砕しているが。
「練って~、整えて~。はいっ、どうぞ~!」
 第二撃を受けたアンジェラは、確かに無傷だ。和香曰く、体内のグラビティ・チェインをほわほわ変換しているとかで、原理は「ん~、わかりません!」。
「えへへ、こんなイベントを開いてもらえるなんて、嬉しいな。折角だし、楽しもうっと!」
 エル・アルハは、修行で修得した我流の秘技を披露する。流石に氷系のグラビティで氷塊は作り出せないが、それなりに大きな氷柱が用意された。
「よし! 本番!」
 オーラを右足に集中して着火。そのまま氷柱目掛けて。
「今こそ放つ! これがボクの必殺技、『我流秘技・狼牙絶炎蹴』!! 燃えろぉぉぉぉぉっ!!!」
 炎の飛び蹴りで溶けた氷柱より、湯気がもうもうと立つ。
「準備は大事だよな」
 柔軟でしっかり身体を解し、戯・久遠は顔見知りの肩を叩く。
「よう、白馬師団のボスじゃねえか。お前さんの技、期待してるぜ?」
 一声掛けて、久遠は先に河原に立つ。
「万物に停滞は非ず……事象変転」
 両手を打ち鳴らすや、触れた地面より現れる黒鉄の砲台。黄金の闘気の散弾はハリボテの一群を巻き込み、面制圧を見せ付ける。
「ふ、ふふ……この天才格闘家であるわたしの華麗なる技を見られて、皆様は幸運ですねえ」
 久遠の技に内心冷や汗ながら、そっくり返る宇原場・日出武。
「これが我が奥義『約百裂拳』!!」
 ビルシャナのハリボテに、拳や蹴りを繰り出す事百回、ぐらい。秘孔を的確に突いている……気もする。
「あ~たたたたたたたたたたた! おわったぁ!!」
 ビルシャナよ! おまえはたぶん死んでいる!! ……上手くいけば。
 格闘家としての側面が強い降魔拳士だが、一方で「敵の魂を喰らう」のも降魔拳士だ。
「此度は私の手持ちを少しばかし披露致します。本家本元には劣りますが――反魂変化、忍刀白頭巾から!」
 喰らった『魔』の容姿のみならず、超常の力すら模倣する田抜・常の得意技――まずは、白頭巾の女忍者の暗殺技術を披露。続いてザイフリートの槍捌き、様々なビルシャナをメドレー、狼型ドリームイーターを経て、攻性植物が癒しの桜吹雪を撒く。
「――千本桜の一欠片、にてお仕舞いなのです」
 お次は、黒のチャイナドレスを纏う……少年?
「では、お見せできるものだけを……ちなみに、女装ではありません」
 サングラスで判然としないが、天崎・ケイだ。
「紅はお好きですか?」
 紅魔華烈陣――薔薇の香気は、生身なれば五感及び根源たる中枢を乱し、深紅の花吹雪が斬り刻む。
「くどいようですが、これは戦闘服で――」
 長くなりそうなので、次に行こう。
「俺の技は、基本的に自宅警備術との合せ技なんだが……この子は、降魔の力の具現化だよ。さあご覧あれ!」
 長篠・ゴロベエは、自宅の番犬「ケロ君」をお披露目。力を注げば、忽ち子犬は三つ首の魔犬と化す。
「これも降魔の力の応用だ。奥が深いだろ?」
 ちなみに、ケロ君はデウスエクスが大好物とか。戦闘でも大活躍だ。
「見てろよ、降魔の力とオレのグラビティ・チェインを練り上げた、師匠直伝の技『疾風狼牙』!」
 皆の必殺技を楽しく観ていたラルバ・ライフェンも、負けてられない!
(「ついでに遠吠えしてるっぽく細工……って、お師匠様に怒られるかな?」)
 悪戯坊主の風情も束の間、真剣な表情で身構える。
「疾風の狼、行っけぇぇ!!」
 狼模るグラビティ・チェインは、ドリームイーター(ハリボテ)に鋭い牙を立てる。
 病院坂・伽藍の必殺技も、師より受け継いだ『奥義 宇宙落とし』。せせらぎの中で大気を掴み引き寄せば、生じた衝撃波で水が球状の空間を成す。
「さあ、とくと御覧じろ!」
 大気を叩きつけるという奥義であり禁術は、水の力で視覚化された。
「我が胎内は魔を貪る所業。魂を解放する牢獄」
 全身地獄化した様相ながら、ユグゴト・ツァンは『魔を降ろし』て周囲の岩を撲り壊す。拳。足。尻尾。頭。果てには腹部の『胎』まで揮い、怪物の如く――最後には地獄を膨張させ、地面を蝕み『割』った。
「……」
 一礼したその面は判然としないが、笑顔らしい。
「本当の強さは何ですか? 只管に硬くなるだけじゃないよね」
 どんな事があっても自分の道を歩く固い心だと、滝行を経て眼差し鋭い金剛・小唄は思う。
 武術家で、女子で、ケルベロス。打ち破るだけじゃなく、守る為の拳こそが!
「本当の私! 行け! 女子力ふるちゃあああーーじ!!!」
 全力で撃ち出す癒しの拳。ユグゴトが割った地面を、強烈でいてふんわり暖かい女子力が癒す。
「うーん、僕ってあまり派手なの持ってないんですよねぇ……」
 数々の必殺技を目の当たりにして、クレア・エインズワースは思案顔。
「でもまぁ、新年明けてお目出度い、という事で。どうぞご照覧あれ……天照」
 クレアの周囲で、粉々のハリボテが、次々と元通りに。その名も、住劫・天照――陽光を癒しへ、加護へと転嫁し、疫から身を守る盾とする。
「必殺技? 今日はそういうの用意してないから」
 寧ろヒールの心算だった黒住・舞彩だが、既に小唄とクレアが修復している。
「……そうね。ファミリアの必殺技を見せてあげる。メイ、みんなを呼んで」
 ――――!!
 舞彩のファミリア『メイ』の呼び声が、大勢の鶏ファミリアを召喚。四方八方から発泡スチロールを削り鶏像を作る。
「メイコッコファミリアファミリーは、実戦だとトラウマ刻むのよ。勇者だってトラウマうける、なんてね」

●未達の標に
 オリジナル・グラビティを披露する者が多い一方、試行錯誤の過程を見せる者も幾許か。
「学んだ流派の奥義を我流でね」
 全然刀は使わない刀剣士でもある光谷・皇輝は、霊力を混ぜてアレンジしてみたという。
「――雷波疾駆!!」
 水面を雷の霊力纏う拳で叩くや、波紋の如く奔る雷が的を撃つ――深海魚の死神(ハリボテ)がボチャンと転げた。
(「見た目は派手だけど、破壊力はまだまだだよね」)
 巻添えでぷかぁと浮かんだ魚を眺めて頬を掻く。
「まだまだ未完成だけど……いくよ!」
 志穂崎・藍の巫女装束より怒涛の如きオーラが爆ぜ、続いて炎のように燃え上がり、雷光が奔るよう。
「てぁぁぁぁぁぁ!」
 滝目掛けて拳を突き出せば炎龍象り滝昇り、爆発炎上する。
「実はこの技、まだ名前ないんだ……もし良ければ付けてくれないかにゃ?」
「私でいいの?」
 暫時小首を傾げた美緒は、徐に書き付ける――爆濤焔竜光昇。
「読み方はお任せ、かな」
「ありがとう!」
 はじけるような笑顔の藍に手を振り、続いて身構える美緒。
「せいっ!」
 気合一閃、護符を撒いた拳は、符を捕らえる度燐光を放つ。
「その名もドワっこ流降魔巫術撃。護符の御業が打撃の威力を上乗せするの。拳でも武器でもOK」
 自称物理系魔女っこは得意げながら……実は、まだ御業の制御に問題があるとか。
「新入りですけど……精一杯、頑張ります」
 坂口・ラウラは降魔拳士の力を汲むワイルドブリンガー。ぼんやり必殺技を見学していたが、いざ身構えるや一気に雰囲気が引き締まる。
 披露するのは、まだ研究中の技。右手を形成する赤い混沌の水――ワイルドスペースを籠手に変化させ、空気吸入用ファンと噴出用タービンも併設。
 ――――!!
 空気を吸入し噴出する勢いに任せて、パンチを繰り出した。先輩諸氏の技は、技の完成の参考となっただろうか。
「これ、全世界に発信されるんだよね?」
 服装も髪も整え直し、ウォーレン・ホリィウッドは改めて滝の際に立つ。
「――っ!」
 掬い上げるような掌底打――刹那、水の帳が爆ぜ、飛沫が雨のようにぱらぱらと。
 美しい光景に拍手が湧くが、ウォーレンは思案顔。
(「戦いで使うなら、もっとマッシュアップしないと」)
 皆の技も、とても参考になったから。
「負けてられないや。今年も修行頑張るよ」

●交武、或いは合武にて
 必殺技の見せ方も様々。演武もあれば、合体技もある。
 演武形式は、此野町・要と天音・迅。交互に受けるスピードは実戦と変わりない。
「発現……纏、練気から、形成……っ!」
 先手は、紺袴の巫女装束も凛々しい要。技は魂喰ノ壱「捻り焔」。
「行くよっ!」
 片腕に吸収した魂と魂を食らう気を螺旋状に発現、捻り正拳を打ち込み爆発させる。
 黒の革ジャンを翻して受けきった迅は、すぐさま反撃。
「我は無銘なり――」
 まずは要の動きを奪うべく、オラトリオの時間干渉能力を翼に結集して放出。
「我が連撃は型を纏わず、我が乱撃は夢幻なり」
 そして降魔拳士としての能力を増大させ、鹵獲術士としての力で幻影を投射する。「天啓の幻影」は即興性が強い。同じ型が繰り返される事は無いだろう。
 迫撃と絡め手とも言える対照的な技の応酬に、自然と拍手が起こった。
「ターゲットは、あのドラゴン!」
 大岩の上に猛るドラゴン(ハリボテ)をシル・ウィンディアが指差せば、幸・鳳琴も頷く。
「琴ちゃん、折角だから一緒にどう?」
「はい!」
 同時発動するよう気と魔力を練り上げる。シルの構えは「幸家・亢龍(六芒増幅術)」。鳳琴の技は「幸家・六芒精霊龍」。互いに得意の増幅魔法と拳技を教え合い作り上げた、結晶とも言える必殺技だ。
「2人なら、どんなことでもできるっ。はぁぁ、龍よ、全てを喰らい尽くせっ!」
「絆と共に編み出した私達の技に、砕けないものは……ないッ」
 我が敵を撃ち砕(抜)けっ!! ――掛け声が重なり、気と魔力と打撃がドラゴンを跡形なく消し飛ばす。会心の笑顔でハイタッチした。
「私達の特訓の成果……今こそ見せる時だね……」
「ええ、無機物程度なら楽勝ですっ」
 いよいよ、最後の演目。四方・千里と折平・茜の合体技だ。
 流石に大岩を滝上から転がすのは自然環境の影響から難色を示され、代わりに鎮座しているのは、踏破王クビアラのハリボテ。巨大故に重さも相当に。
 身構える茜は、いつも通り抑揚なく振舞おうとしているが、高揚が抑えられないようだ。
「万葉灰燼流……」
 千里の構えは、『千鬼流 伍ノ型』。都築・創の合図で滝上の影がぐらりと動いた瞬間、弓を引き絞るように引いた刀から鋭い突きが繰り出される!
「双極破斬!」
 巨体に突き刺した刀身から重力エネルギーが注がれた絶妙のタイミングで、茜が赤い鉤爪を具えたホワイトタイガーの獣腕を振り被る。
(「ぶっ……裂けろっ……!」)
 崖下に落ちるより早く、内外からの破壊エネルギーの衝突は巨体を粉砕する。
「気づいたときにはもう遅い……さよなら」
 あくまでもクールな千里と並び、茜はカメラへ得意げにウインク――豪壮なフィナーレに、歓声が幾重にも山間に木霊した。

作者:柊透胡 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月16日
難度:易しい
参加:30人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 11
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