アモーレ・ラブクラフト(深遠なる愛のヘリオライダー・en0261)は両手を振り上げた。
「ハッピーニューイヤー! 始まりました2018年。
さぁ、2019年まであとわずか365日。思い残したことはありませんか!?
来年のことを言えば鬼が笑うと申しますが、昨年のことを語ればケルベロスが笑います。
2017年は世界の危機を幾度も経験しましたが、その都度皆様の会心の活躍によって世界は救われてまいりました。
エクセレント! アメージング! 万の言葉を用いて皆様の業績を褒め称え、憶の感謝を以て皆様を抱きしめましょう!
この感謝は個人のものではございません。全世界の人々が、皆様に多大な感謝を、親愛を、抱いているのです!
その証拠といたしまして、彼らは皆様への恩返しとして、自主的に募金を集め、結果、大がかりな新年会を行うための資金が潤沢に集まりました!
マーヴェラス! 宴の開催です! 右手に海鮮を! 左手に親愛を! 心に音楽を! 世界に幸せを!
しかし、ただ普通の宴会をするだけではケルベロスらしくありません!
我々は11の会場をおさえ、職業ごとに催しを開催することにいたしました!
普通の人々が実現できない、ケルベロスの、ケルベロスによる、ケルベロスの為の新年会を楽しみましょう!
会場の様子は中継されます。皆様の楽しむ姿を以て全世界の人々への返礼とさせていただきますので、よろしくお願いいたします!
では、心行くまで、新年会をお楽しみください!
ということで、催しについての説明を、螺旋忍者会場のハニー、お願いしますよ!」
●楽しい楽しい新年会♪
「はーい。こちら螺旋忍者会場のハニー・ホットミルク(縁の下の食いしん坊・en0253)です。現在、会場となる旅館へ来てるよ。
見て見て、この広々とした宴会場。掘り炬燵だよ、掘り炬燵。しかも貸し切り! ここに美味しそうな料理がいっぱい運ばれて、そこの巨大スクリーンに映像が流れるんだね! うーん、世界の皆さんありがとう! え? なんの映像を流すのかって? ふふふ。それは後で説明するから、少しだけ待ってね。
今回の新年会は、11の会場にそれぞれの職業のみんなが集まって楽しもうって企画なんだ。ボクたちの会場は『螺旋忍者』の会場。螺旋忍者の、螺旋忍者による、螺旋忍者のための会場なんだ! ニンニンニンニン、ござるでござるが大集結! かどうかは分からないけど、一つの職業のみんなだけで集まるっていうのは新鮮だよね♪ 今から楽しみだなぁ」
「さてさて、さっき巨大スクリーンに触れたけど、これこそ今回の新年会の目玉! 新年会の内容は、ズバリ、上映会なんだ! 忍者とは闇に生き、闇に死すもの……。今回は忍者らしい『散り様』を撮って、皆でその映像を楽しんじゃおうっていう企画だよ!
撮影会場は、山あり、谷あり、川あり、廃村ありの山村を用意してくれたみたい。ボクらは、そこに隠された宝を巡って、忍者バトルを繰り広げる。っていう設定なんだけど、趣旨は『散り様』なんだよね。どれだけ『忍者らしく戦って散ることができるのか』が見せ場だよ。格好良く散っても良いし、面白く散るっていうのも、また良いよね。自分も皆も楽しめる散り様を、見せてね! ただ、危ないからグラビティの使用は禁止なんだ。そこらへんをどう工夫してくるかも、腕の見せ所だね。映像は、香港からアクション映画の監督さんが多数、スタッフ勢ぞろいで撮影に来てくれるから、カメラ映えも気にすると良いかもしれないね♪
もちろんボクも参加するよ! 実は試験的にもう撮ってあるんだ。ボクらしい散り様になってると思うから、みんな期待しててね♪」
「今年もデウスエクスとの戦いが待っているけど、だからこそ、心と身体の休息って、絶対に必要だと思うんだ。
楽しもう。みんな♪ 全力で新年会を楽しんで、思わずニッコリと微笑める映像を、世界中にふりまこ~♪」
新年会が始まった。
目の前には見事な海鮮。大迫力の刺身や寿司の山が、贅の限りに振る舞われている。
大トロ、中トロ、鰤、ハマチ。零れんばかりのウニ、イクラ。どれもこれも新鮮でぷりっぷり。
醤油に付ければ脂がジュワッと広がり、口に入れればこれはもう。とろけるような旨みが染み渡っていく――。
そして、掘り炬燵がまた心地良い。熱すぎず、寒すぎず。適度な温度で、足先をポカポカ温めてくれる。
ここは地上の楽園か。
いやさ、これこそ救済されし人類の感謝の証。海鮮一つ一つの先に、ケルベロスが助けた人々の顔が透けて見える。
「はぁ……美味しい……幸せ……。……あ、いけない。ではでは、そろそろ映像の方も流していきたいと思いますので、みなさん、お目を拝借」
ハニーの声と共に、フッと会場の明かりが暗くなり、巨大なスクリーンが、ウィィンと下がってきた。
パチッ。映像が投影された。
●果乃の章
雪の降る草原を、小さな影が駆けていた。
紫色のツインテールを揺らし、あどけない顔からは、湯気のような白い息が零れていく。
白いと言えば、肌も白い。桜庭・果乃は、この寒波の中、あり得ないほど煽情的な服装をしていた。
「待たれよ!」
風斬り音と共に、果乃の目の前に棒手裏剣が刺さった。
緑の瞳をパチクリさせる果乃の元に、闇のような衣を纏った男たちが、囲むように現れる。
「わたしになにか用なの?」
「もちろんだ。心当たりがあるだろう」
緊張の面持ちで暫し考える果乃。次の瞬間、二人の声が重なった。
「まさか、陶磁の瓶を狙う敵の忍び!/寒かろう。私の衣で良ければ着るが良い」
しじま。非常に気まずいしじまが流れた。
「敵は斬る!」
無理やり気まずい空気を払拭するように男が叫び声を上げた。軽快なBGMが流れる。
刀の一撃が下段から果乃を襲う。が、果乃はブーツで受け止め、そのまま衝撃を活かして後ろに飛び退く。
小さな体を活かして、敵の股下をくぐり抜け、同時に手裏剣を放っていく。静止することなく地面を蹴り、戦場を飛び交う。
一人、また一人、敵は崩れていった。
「へっへー! どうよ!」
動く標的をすべて仕留め終わった果乃は、無邪気に胸を反らして見せた。その場に立っているのは、果乃と、最初に話しかけてきた男のみ。
男は憐憫の瞳で倒れ伏す仲間たちを見やった。暫し瞑目し、
「ふんっ!」
必殺の一撃。
振り下ろされた小太刀と、受け止めるように掲げられた剣がぶつかり、銀世界に火花が散った。あまりの剣撃に、果乃の身体が重々しく雪の中に沈み込んでいく。
「つよい」
「これでも隊長なのでな」
敵の斬撃は轟音を纏いながら振り回された。
しかし果乃も負けてはいない。斬撃を紙一重でかいくぐり、地面を転がり、身体を独楽のように回転させながら応戦した。息詰まる接戦。果たしてどちらが勝つのか。それは会場の誰もが知っていた。だってそういう趣旨ですし。
決着の時が来た。
「この命、紅の華となりて散る~!」
果乃の表情は、どこか満ち足りたものだった。
●ミレイの章
闇の衣を纏った忍者が数十人、松明を片手に闇夜を駆けていた。山林の上を、枝をしならせ跳躍する。
が、突然、先行していた忍達が鮮血を上げて大地へと落ちた。
目を凝らせば、空中に生まれた血の直線。
「ワイヤーか……。ふん。紅蓮で焦がし、凍結にて砕いてしまえば、粉雪よ」
金色の瞳をもつ男の忍術により、鋼糸は空中にハラハラと消えた。
余裕の表情で仲間を見やるが、瞬間、表情が一変。
「ここは全部、わたしの領域」
死角から感じた殺気に、咄嗟に小太刀をクロスして防御する。
ガキーンッ!
硬質な音と共に、白銀の少女が姿を現した。
「これを受けるとは、なかなかの使い手」
感心したように声を漏らす。表情は澄んでおり、ミステリアスな風情がある。
「これでも隊長なのでな。知っておるか? バッドANDメーカーズ。構成員1万は下らぬ大組織よ。貴様、詰んでおるぞ?」
クイックイッと指を折り曲げ挑発する。それを見て、少女は、
「『風姫』ミレイ・シュバルツ、参ります」
残像を残し、姿を闇に溶かした。勇壮なBGMが流れる。
「『氷炎爆破』金色の瞳、参る!」
大気に陽炎が立ち昇り、カッ! と爆発を起こした。水蒸気爆発だ。
白煙が立ち込め、画面には誰も見えなくなる。その煙を切り裂き、漆黒の大鎌がシュッと空間を真っ二つにした。
「鋭いッ!」
咄嗟に身体をのけぞらした金色の頬が裂けた。
「この連撃、捌けますか?」
なおも繰り出される大鎌と棒のコンビネーション。
金色は動きに翻弄され、防戦一色。不意にカメラが寄った。グッと身体を固くすると、
「爆力発破!」
彼の周囲がド派手な煙と共に弾け飛んだ。力を一気に使い果たしたのか、身体が膠着する。
「あなたの動きは見切りました」
倒したと思った相手の声に、金色はビクッと身体を震わせた。同時に、その身体に朱の線が走る。
「ワイヤー……ッ! ぬかったぁ!」
ミレイの指が、クンッと動くと同時に、闇夜に鮮血が舞った。
「『氷炎爆破』を倒すとは、かなりの手練れですね」
暫時、音もなく、ミレイの後ろへ闇の衣が現れた。褐色の瞳がミレイを捉える。
瞬間、二人のいた丁度中央の空間に雷鳴が轟いた。電光石火の斬撃が衝突したのだ。
斬撃が絹のような肌に紅の線を引き、髪に結んだシルクのリボンが斬り飛ばされ、ポニーテールの銀髪がバサリと舞う。
勝敗を分けたのは、疲労の蓄積。
「わたしの負け。だけど」
クイッ、
「……裂け、彼岸花」
鮮血が舞った。
「まさか、この、私がっ!」
褐色の身体を、鋼糸が捕縛していた。グラリと頭が垂れる。
そして、ミレイもまた限界だった。
「いい勝負だった……」
自分の人生すべてを詰め込むような、深い息を零したミレイは、そのまま絶壁へと身を任せて散ったのだった。
●ハニーの章
月下にエメラルドの頭髪が瞬いた。
シャキン、シャキン!
飛来した手裏剣を小太刀で叩き落していく。
「ボクがやられたら、一体だれがアモーレのお茶を淹れるのさ!」
ハニー・ホットミルクは、フンッと気合を入れて、腰にぶら下げたナノナノのぬいぐるみの額を押した。すると、大地が爆散し、敵が宙を舞う。
「これで、終わりかな。チョコにおやつあげないと」
相棒のことを気にしながら、辺りを見渡す。闇の衣を纏った忍者が死屍累々、その身体を横たえていた。動く者は誰もいない。
ふぅ。
安心の息を零す。ううんと天高く伸びをし、慣れた手つきで腰元の袋から色鮮やかな琥珀糖を一つまみ拾いあげると、ポイと口に放り込んだ。その瞬間――、
バタリッ。
うつ伏せに倒れ込んだ。これは、毒殺であろうか?
「天にも昇る美味さ!!」
違った。これはあれだ、ハッピーデッド?
食いしん坊は幸せそうに目を閉じたのだった。
●風太郎の章
『主君のゴールドヒョータン馬印を盗んだが故に、刺客を向けられていた風太郎。奴らは風太郎の住まう隠れ里を突き止め、遂に大軍で攻め込んできたのだ!』
ナレーションの声と共に映像が映し出された。
呑み込まれるほどの深い常闇の空。やまぶき色の満月と、砂塵のような星々が、寂し気に佇んでいる。
風は無く、雲も無い。
おぼろげな光に映し出されるのは、数多な闇の衣。円を描くように人垣を作り、その中央に傷だらけの男を囲んでいる。
囲まれた男の名は岩櫃・風太郎。巨躯を持つ、ニホンザル型のウェアライダー。
風太郎は膝をつき、ヒューヒューと肩で息をしていた。その姿は誰の目にも満身創痍。南無三! このままではやられてしまうだろう。
「このヒョータンは誰にも渡さぬ! 欲するならば拙者を討ち取ってみせよ!」
イヤーッ! という掛け声とともに、風太郎の懐から漆黒の銃と真紅の銃が姿を現した。開戦! 敵に緊張がはしり――、
閃光! 月夜を、フラッシュが貫いた。眼が眩むほどの光と共に、敵が衝撃波でも受けたかのようにグワーッ! と断末魔の叫びを残して吹き飛んでいく。
圧倒! 両腕を広げてファイア。クロスしてファイア。演武を踊るようにファイア。手裏剣をかわしながらファイア。
敵の銃と手裏剣も飛び交うが、当たらない。不思議なほどに当たらない。すべての軌道を予知しているかのように、するりとその場から身体がそれていく。
そして遂に、その場に立っているのは、風太郎一人だけとなった。完勝! 急いでその場から駆け出す風太郎。
「やはり、こやつらでは無理か」
「その声は!!」
目の前の空間がブレた。強敵! 金色の闘気を纏った猿男が現れる。BGMもボス戦に切り替わった。
二人の忍は互いに丁寧なお辞儀をしあうと、一変、即座に銃口を相手に向ける。
イヤーッ! 二人は、超近距離で打ち合いを始めた。打撃と共に銃口が動き、射撃音と同時に相手の銃口を逸らす一撃が入っている。月夜に光が次々と生まれ続ける。
接戦! どちらの攻撃も当たらない。なんという腕前。戦いは加速度を付けて、どんどんペースアップしていく。
しかし、風太郎は苦しそうだ。満身創痍の身体で戦っていたのだ。この流れは当然。
絶体絶命! 風太郎は最後に一つ、フッと笑うと、全身全霊を込めた会心の一撃を繰り出した。相手もその覚悟に応えて、痛恨の一撃を繰り出す。
クロスカウンター!
互いに銃の威力を身に受けた二人は、轟音と共に大地に倒れた。
すぐに起き上がったのは敵だった。不死身! その表情には余裕すら浮かんでいる。
そのまま歩いていき、風太郎に手を差し伸べた。
しかし、風太郎はニヤリと笑うと、その手をバシッと払いのける。そしてそのまま懐から爆弾を取り出すと、地面に力いっぱい叩きつけた。
サヨナラ! 風太郎はヒョータンと共に闇へと散った。
●トルテの章
昼下がりの村落で、金髪ツインテールのサキュバスが、闇の衣を纏った集団と対峙していた。紺碧の瞳をした男が口を開く。
「同じ宝を狙う忍が出会ったのだ、言の葉は必要あるまい」
トルテ・プフィルズィッヒはニッコリ微笑むと、ポインッと戦闘態勢を取った。
ポインッ? なんの音だ? と思われるかもしれない。トルテはサキュバスである。忍び装束は、快楽エネルギーを集めるためにビキニである。そして彼女のボディは豊満だ。つまりそういうこと。
戦闘態勢を相槌と受け取った敵は、半身に構えを取り、その返礼とした。同時に、両脇にいた闇の衣が地面を蹴る。
クナイによる斬撃。それをトルテはポインッと宙返りでかわす。すかさず敵後方の忍たちが投げた手裏剣がトルテに襲いかかる。が、やはりそれも身体をひねるとブルンッとかわしてみせた。
「あ、あ、あの女、蠱惑過ぎまする! 美の女神アプロディーテがビキニでフラフープを回すがごとく、白桃のようなたわわな果実をブルンブルンポインポインと! 拙者、目が! 目がぁぁぁぁっ!」
「うむ! おかしくなったのは目ではなく、頭だ!」
トルテの煽情的な戦いに、敵は大パニックだ。当の本人は、恍惚の表情を浮かべ、たわわな果実をプルプル揺らし、忍術でピンク色の炎の華を咲かせている。
「貴様等いい加減にしろ! あの宝なくば、殿の身が危ないのだぞ!!」
雷轟のような一喝が響き渡った。
「負けるわけには行かぬのだ」
「ふふ。最期に私の美しい姿を見せてあげます♪」
戦いのレベルがギアを入れて加速した。これまで余裕でかわしてきた敵の攻撃が、かわせない。紙一重で回避したつもりが、鮮血が宙に舞う。トルテの顔に困惑の色が浮かんだ。
暫時、目を閉じたトルテは、目を見開くや、今日一番の妖艶な表情、仕草で印を結んだ。ピンク色の霧が立ち昇り、周りにいた闇の衣たちがバタバタと倒れていく。
勝利を確信したトルテは、必勝の蹴りを紺碧の男へと繰り出した。
「殿!」
慢心。目の前の男は、唇を噛み切り、閻魔の表情を以て、致命の一撃をトルテへと叩き込んだ。たわわな果実が弾けた。
「そんな……あなたには、そこまで大切な……」
色を失う瞳で、トルテはうらやましそうに呟いた。彼女は倒す敵を誘惑するばかりで、大切な存在などいなかったのだ。
●リンスレットと銀子の章
金髪のサキュバス、リンスレット・シンクレアと赤茶髪の地球人、獅子谷・銀子。
共に修業をした二人は、組織の指令を受けて、山村に足を踏み入れていた。
「リンス!」
「ほいきた銀子ちゃん!」
軽妙なBGM。敵対組織の忍と所々で遭遇戦が発生するが、二人のコンビネーションにかなう敵はいなかった。
「私ら強すぎぃ」
「ふふ。頼もしいわね。私もまだまだ余力は充分よ。疲れたら言ってね」
「や~さしぃ。銀子ちゃん好きー」
その後も数度の死闘を繰り広げ、二人は、はた目にも分かるレベルに傷ついた。しかし、ようやく、
「これじゃない!?」
「えぇ。ついに見つけたわね」
宝を見つけ出し、思わず抱き合う。
「私らにかかればぁ、超らくしょうだよね~。早くこれ持って帰ってさぁ、報酬で美味しいものでも食べようよ」
リンスレットが無邪気な笑みを、銀子に投げかける。
「そうね――」
リンスレットが後ろを向いたその瞬間だった。
シャッ!
小太刀が一閃。銀子の首筋に斬撃の線を残した。
ババッ!
間一髪、殺気を感じ取ったのか、リンスレットは飛び退いて回避することに成功した。その表情は驚愕に見開かれ、いつものユルユルした表情は影も形も無い。
「なん……で……」
掠れたように声を絞り出すリンスレットに、銀子は苦しみに彩られた瞳を向けた。
「一撃で終わっていれば、あなたも私も苦しまずに済んだものを……」
その手に宝をギュッと握りしめる。
「まさか、その宝のせいなの? その宝が欲しかったの?」
訴えかけるようなリンスレットの瞳を、銀子は苦し気に見つめ返した。と、天井が音をたて崩れ、闇の衣を纏った男が一人、姿を現した。
「取ったか銀子。お頭がお待ちだ。ここは俺に預けて行けい!」
次の瞬間、男は額に棒手裏剣を刺して倒れた。リンスレットの放った電光石火の一撃だった。
「そういうこと、か」
すべてを理解した。そういう瞳で、リンスレットは銀子を睨んだ。銀子は何も答えない。
「なんで裏切ったのさ! 私ら仲良くやれてたじゃんよ!」
リンスレットの悲痛な声が響く。
「裏切り? いいえ、私は上忍の任務を果たすだけ。貴女に会う前から」
努めて冷酷に銀子は声を返した。その端が微かに揺れていることに、本人も、リンスレットも気づいただろう。銀子は迷いを噛み潰すように歯を食いしばり、小太刀に力を込めた。
同時に、リンスレットも小太刀を構える。互いに忍。こうなった以上は、刃を交える以外にない。
屋敷の中で剣撃が煌めいた。速く、鋭く、的確に急所を狙い放たれる攻撃。実力は伯仲していた。ゆえに、銀子の小太刀が弾き飛ばされたことは、決して彼女が劣っていたからではない。或いは、彼女の方が多くの迷いを抱えていたためか。
小太刀を失った銀子の行動は早かった。屋敷の板戸を豪快に蹴破り、外へと跳び出す。それを見て、リンスレットも俊敏に風を切って追走した。
バキィッ!
板を破る景気のいい音が響き、銀子は小さな小屋に跳び込んだ。間髪入れずにリンスレットも跳び込む。
先に跳び込んだ銀子の方に、空間の支配権はあった。
死角に潜んでいた銀子は、リンスレットの背後を取ると、一気にその身体を掴み、そのまま振りかぶり、ジャーマンスープレックスを決めた。
小屋が揺れ、リンスレットの口から空気の塊が吐き出される。
ふらつきながらも立ち上がろうとするリンスレットに、飛び掛かり、今度は首に纏わりつく。そのまま捻りを加えて、またも大地に叩きつけた。見事なフランケンシュタイナーだ。そのままの勢いで、リンスレットの身体が木造の壁を突き破り、小屋から外に弾き飛ばされた。
追うように小屋を跳び出る銀子。倒れ伏すリンスレットを寂し気に見つめ、最後の大技を仕掛けるべく、リンスレットの身体を強く握りしめる。
「!? これは!」
「そう。変わり身の術。銀子ちゃんに教わった術だよ」
声は後ろから響いていた。
一閃――。
決着がついた。
「いい忍者になった……。生まれ変わったら、今度は……」
銀子は一瞬だけ、元の優しい顔に戻った。そして、そのまま色を失い、人形のように力なく膝から崩れ落ちる。
「やっぱり銀子ちゃん、強すぎだね……」
リンスレットの腹にもまた、クナイが突き刺さっていた。
力無く崩れると、そのまま傾斜によって転がり、川の中へと姿を消していった。カメラがどんどん退いていく。その川の行き着く先には、故郷の川が流れていた。
●ハッピーエンド
全ての出演者が出終わり、エンドロールが流れ始めた。
雪原に散る果乃。絶壁へと身を任すミレイ。幸せそうに眠りについたハニー。爆散する風太郎。羨ま死んだトルテ。大切な者と刺し違えた銀子とリンスレット。
そして――。最後に街中を歩いている女性の後ろ姿が映った。あれは誰だろうか。窓ガラスに映ったその顔は、クスッと笑っていた。
照明がパッと光を取り戻し、会場は大盛り上がりだった。最後に一言、ハニーが新年会を〆る。
「みんな、英気は養えたかな? それでは、本年も一年、よろしくお願いします。今年がみんなにとって幸せな一年になりますように♪」
作者:ハッピーエンド |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年1月16日
難度:易しい
参加:6人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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