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「あけましておめでとう!」
新年会の呼びかけに集まったケルベロスたちを、ニコニコ顔のゼノ・モルス(サキュバスのヘリオライダー・en0206)が出迎えた。
「いや~、酉年はいろいろあったね。ビルシャナで明けてビルシャナで暮れて……世界の危機を何度も経験した大変な年だったよね。だけど、その危機の数と同じだけ、みんなの活躍で世界が救われた……本当に素晴らしい年だったとも思うんだ。地球に住む全ての人達を代表して、お礼を言うよ。ありがとう!」
と、深々と腰を折り曲げる。
あげられた顔は感謝の気持ちで寿ぎ、晴れ晴れとしていた。
「……ということで、全国11か所の会場を貸し切って、盛大に新年会を行いたいと思います。実は、ケルベロスのみんなには秘密で、世界中の人々が自主的に新年会の予算を集めてくれていたんだよ。ありがたい話だよね」
いわば全世界の人々から渡されるケルベロスたちへのお年玉だ。
「でも、ただ飲んで食べての新年会を行うだけでは『芸』がないと思うんだ。そこで提案なんだけど……」
ゼノの笑顔に悪戯めいた色が加わる。
「世界中の皆さんに、新年会を楽しむケルベロスの映像をプレゼントしよう!」
賛同の声があちらこちらからあがる。この提案に異議を唱えるケルベロスは誰もいないようだ。
「普通の一般人が実現できない、ケルベロスのケルベロスによる、ケルベロスの為の新年会、そんな新年会をやろう。もちろん、ケルベロスのみんなが楽しむ事が一番。めいいっぱい楽しんでね!」
それじゃあ、とゼノは背後に控えていた人物に場所を明け渡した。
「ここから先は鎧装騎兵のセルベリア・ブランシュさんが説明してくれるよ。よーく聞いてね」
新年のすがすがしい光に白いボディースーツを輝かせ、誇らしげに胸を張ってセルベリアが前に進み出て来た。
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「ありがとう、ゼノ。ただ今、紹介に預かったセルベリア・ブランシュだ。新年会は『鎧装騎兵』を世界に向けて強くアッピールできるよい機会。力を合わせて盛り上げようではないか。みな、よろしく頼むぞ」
セルベリアが拳を新年の空へ突きあげると、前に並んだケルベロスたちも、おー、と拳をあげて応えた。
場がぐっと盛り上がる。
「で、新年会の出し物だが……フィルムスーツ&アームドフォートのファッションショーを行う!」
ファッションショー?
戸惑うケルベロスたち。ひとつ、またひとつ、とゆっくり腕が降ろされていく。
「うむ。ファッションショーだ。みんな、聞いてくれ。線維型演算回路で作られたフィルムスーツは、硬度を自動変化させて様々なデザインに変化させることができる。身体に装備するアームドフォートは大きくて硬くて最高にカッコイイが、なんと砲台がスーツから浮いていても大丈夫……つまり、鎧装騎兵の装備は自由度がとても高いのが魅力だ!」
いわれてみれば確かに。
鎧装騎兵の基本装備にマフラーや帽子、花などの小物類を添えれば、更にバリエーションが広がる。全世界に向けて、こだわりのスタイルを自慢するのも悪くない。
囁き声が交わされだすと、自信を深めたセルベリアはいよいよ笑みを大きくした。
「ああ、そうだ。これはいいチャンスなのだ。是非、自分のスタイルについて、そのファッション性やコンセプトを説明しつつ、モデルのようにランウェイを歩いてくれ!」
ファッションショーの会場に一般人はいない。ゼノとケルベロスと運営スタッフだけが入ることができる。つまり――。
「アームドフォートを実際に撃って、その性能をアッピールすることができる。そそるだろ?」
的はスタッフが用意するという。
「予め指定しておけば、各デウスエクスの張りぼてだけでなく、くすだまのようなものも用意してもらえるぞ。是非、一般の視聴者に受けるパフォーマンスを考えて欲しい」
会場は野外だ。
ランナウェイは四人並んで楽に歩けるほどの幅で、端が広い円形リングになっている。パフォーマンスはそこで行う。
例えば私なら、とセルベリアはケルベロスたちの前を歩き始めた。
「粛清の天使をイメージしたスーツは女性らしいラインを意識しつつ、美しいウイング(羽根飾り)で可憐さをプラス」
立ち止まり、くるりと半回転。
「背負うのは死神の鎌ならぬ二連のアームドフォードだ。黒光りするスマートな砲身から放つ殲滅の火でデウスエクスを焼き払うぞ」
ゆっくりと体を返してケルベロスたちと向き合うと、仮想の的を撃つ素振りを見せた。それから砲口を空へ向けてサムズアップし、ニッコリ顔でウインクでポーズを決める。
「――と、まあこんな感じだ。食事は立食形式のケータリングで、いろいろ用意しているぞ。飲み物もいろいろあるが、未成年の飲酒は禁止だ。上空からドローンで会場全体――食事風景も撮影されているからな。そのことを忘れずに」
最後に、とセルベリアは話をまとめた。
「この新年会は『鎧装騎兵』のケルベロスの為に行われる。自分と同じジョブのケルベロスと親交を深め、これからの戦いにも役立つ、有意義な新年会にして欲しい。以上!」
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「「さあ、間もなくショーが始まります。鎧装騎兵によるランウェイのパフォーマンスをお楽しみください」」
司会のゼノ・モルス(サキュバスのヘリオライダー・en0206)とセルベリア・ブランシュ(シャドウエルフの鎧装騎兵・en0017)が手を振りながら向きを変え、ランウェイからひっこむ。すぐに二人が選んだステージ曲――粗いカッティングのギターや激しいドラムのリズムが会場全体を震わせた。
「Prosit Neujahr!」
ドイツ語で新年の挨拶をしながら舞台に登場したのはユーディット・アルニム(装甲砲士・e29597)だ。
マイクドローンがさっと降りてきて、ユーディットの声を拾う。
「このフィルムスーツは、至ってシンプル。何も足さない、何も引かない、という機能美をご覧いれよう」
胸を張り、相棒の『アインクラート』を従えて、客席エリアを仕切るように伸びるランウェイを歩きだす。
起動性を重視し、ボディラインを際立たせたフィルムスーツは鎧装騎兵衣の基本だ。アームドフォートもやはり、無駄をそぎ落としたシンプルなシルエットをしている。
「デザインは古くさくても射撃は正確無比だ。見ろ」
リング状のパフォーマンスエリアに的があげられた。
「laedt panzerbrechende!」
徹甲弾装填の指示を皮切りに、きびきびとした軍隊調の号令をかけられていく。
「Feuerbikkuri!」
撃ての号令と同時に砲火する。正確無比な攻撃は次々にあげられる的をすべて破壊し、称賛の拍手を受けた。
音楽が切り替わり、登場したのはアルフレッド・バークリー(死に損ないのスケープゴート・e00148)だ。
「うーん、普段からアームドフォートは愛用していますが、フィルムスーツは着てないんですよね。英国紳士風のスーツにインバネスコートがトレードマークなので、そちら方面はご勘弁ください」
かわりに、といってアームドフォートに撮影ドローンのカメラを向けさせた。
「一つ芸をお見せしましょう。セルベリアさんが触れなかった、鎧装騎兵のもう一つの象徴。このドローン群です」
展開したアームドフォートから、青い結晶体のようなドローンが二機飛び出す。ヒールドローン『DD2式クリスタル・ファンネル』とアタックドローン『Device-3395x』だ。
アルフレッドは会場中央のリングに進んだ。
攻撃ドローンが射撃しながら自走式の的をパフォーマンスエリアへ追い込む。正面に的が走り込んで来たところへフォートレスキャノンを放って粉砕した。
素晴らしい連係プレイに拍手が沸き起こる。
和琴の音に乗って烏夜小路・華檻(一夜の夢・e00420)が神楽を舞ながら舞登場すると、海外の視聴者からコメントが多数寄せられた。
纏う和風フィルムスーツは華檻自身が開発したオリジナルブランド「冷艶清美」。竹をイメージしたデザインのアームドフォートも好評だ。
くるりと回ってポーズを決めると、優雅に、けれどどこか色っぽく舞いながらランウェイを歩きだした。
リングに設置された大きな三宝の回りをゆっくりと舞い、それから空を飛ぶ的―三つの薬玉の一つにアームドフォートを向ける。
三宝の真上を通過する瞬間を狙って次々に撃ち落とした。薬玉が割れて中から大きな餅が、続いて小さな餅が、最後に橙が落ちて積み重なる。
地球に住まうすべての人々の繁栄を願った、ケルベロス鏡餅の完成だ。
しっとりとした楽曲に代わって、会場内に軽快な行進曲が流れた。
軍馬の意匠が組まれた鋼のフィルムスーツを纏い、エニーケ・スコルーク(黒馬の騎婦人・e00486)がランウェイを駆ける。
リング中央でポーズを決め、愛用の『伝承器砲』を取り出した。
ドローンが吊り下げて飛び回る薬玉の予測移動位置を割りだし、両脇両腰から砲塔を展開。
一撃で玉が割れて『馬頭罵倒』と書かれた垂れ幕が下がると、鏡餅に続く書初めのパフォーマンスに海外から来た観客から盛大な拍手が上がる。
続いてデウスエクス落とし。下からダモクレス、オーク、ビルシャナ、シャイターン、ドリームイーターで一番上が地球だ。
ロックオンレーザーとフォートレスキャノンで一つずつ撃ち抜き、無事、地球を降す。
観客の目が地球へ向けられている間に、エニーケは素早く戦馬の鎧甲冑に着替えた。
「こちらのが着心地いいですのよ。皆さんも是非お着けになられてね」
ランウェイのすぐそばでパフォーマンスを見ていたシルク・アディエスト(巡る命・e00636)は、人一倍大きな拍手と歓声を送った。
「あ、いた! シルク、次はキミだよ」
探しに来たゼノに先導されて、慌ててステージ脇へ。
(「私とて鎧装騎兵に名を列ねる者。この舞台に臆してなどいられません」)
両頬を手で叩いて気合を入れ、さっと舞台の上へ飛びあがる。
纏う愛機は『適者生存』。フィルムスーツとアームドフォートが1対となった武装で、目まぐるしく変わる戦場の状況に応じて千変万化するのだ。
堂々と花道――ランウェイ歩きながらの七変化。
「さて、皆さんのお気に入りは?」
最後に笑顔で原型たる妖精モチーフの姿へ変わり、ビシッとポーズを決める。空に向けられたアームドフォートから迫力満点の祝砲があがり、新年を祝った。
地元のご当地ソングに乗って、ビスマス・テルマール(なめろう鎧装騎兵・e01893)がランウェイに颯爽と現れた。
青のアーマーに変化させたフィルムスーツにスカートアーマー。ビスマス結晶の飛び魚のヒレ羽付きバックパックを背負い、足をなめろうフラックで決めている。手にしているアジーフォードプラスは、鯵型のアームドフォートだ。
ザルバルクや魚介類の死神を模した的が会場に出現すると、ステージに大漁旗が翻った。
ビスマスは泳ぐ様にランウェイを滑走、飛び魚の様に跳ねて的に接近する。
「なめろうの光よ……道標たる光旗となれ……」
ロックオンレーザーの光は砥も鋭い包丁のよう、跳ねて撃たれるフォートレスキャノンは薬味と味噌の弾。
零距離で次々と放たれる攻撃にデウスエクスの的が調理されていく。
仕上げに薬玉を割れば、ケルベロス特製・デウスエクスなめろうの出来上がり♪
「いいですね。実にいい! 素晴らしいパフォーマンスに食が進みますよ!」
ほっぺたに米粒、どんぶり片手にサムズアップするイッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)の姿が巨大スクリーンに映し出されると、明るい笑い声で会場がどっと湧いた。
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コーヒーブレイクの後、ショーが再開された。
カルディア・スタウロス(炎鎖の天蠍・e01084)が黒のハイレグになったフィルムスーツで登場する。フラッシュが焚かれ、胸元の蠍ブローチが挟み持つ宝石がきらりと赤く光った。
「これ、改めて注目されると無性に恥ずかしいんですが!?」
カルディアはためらいがちに、そっとオラトリオの右翼と黒い刃物が組み合わさったようなアームドフォートの左翼を広げると空へ舞い上がった。
胸のルビーが煌めきながら螺旋を描き、空中に赤い文様を描いた。その前をデウスエクスの的が飛び過ぎていく。
「地球に災いをもたらすデウスエクスを断じて見逃すわけにはまいりません! 消し飛べーーーッ!!」
アームドフォートからロックオンレーザーが発射され、射抜かれた的が爆発四散した。
食事を楽しむケルベロスたちの上に、赤と白の紙吹雪がひらひらと舞い落ちる。
会場の大型スクリーンにライブ配信動画が表示された。
改造スマートフォンを手にしたジューン・プラチナム(エーデルワイス・e01458)が画面中央に大写しされる。世界中から寄せられたコメントが右から左へ流れていく。同時に特殊素材のフィルムスーツ上にもコメントが流れた。大型スクリーンと画像を同期させているのだ。
「ボクの演目はリアル『ヘリオライト』を踊ってみた!です」
イントロが流れ出すと、ヒールドローンを飛ばしてレーザー光線を射出する演出で自ら盛り上げる。
歌詞や放送に関するコメントがスクリーンとスーツの上を流れ、客もケルベロスたちも一緒になって歌いだした。
――ヘリオライトが僕を照らすように♪
歌が進むとスーツの一部が透けて肌色部分が増えてき、ジューンは最終的に白いマイクロビキニだけになった。飛び上がって空中から手を振る。
「みんなありがとー!」
入れ替わるように空の彼方からフォーネリアス・スカーレット(空を蹂躙する突撃騎士・e02877)が飛んできた。
『航空騎兵』がコンセプトの装いは、重装甲なのに高い機動力が売りだ。
「私の『神威』は武器と言うより、その出力をブースターに使って大推力を発揮する為の装備よ。ブリガンダインはその性質を更に強化する追加ユニットだし。武器でも防具でもないのよ、コレ」
ドラゴンの翼を優雅にはばたかせて、空中でくるりと回って攻守一体の装備をお披露目する。
――と、遠く会場の端で土煙があがった。ダモクレス戦車(的)だ。
フォーネリアスはCEDのブーストを全開にして的に急接近すると、マニューバだけで向きを反転した。神威にCEDが生み出すエネルギーを供給し、大量の誘導電撃レーザーで仕留めた。
神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)は、破壊されたダモクレス戦車の破片を青いアームドフォートに取り付けた小盾で防いだ。
さっと腕を降ろしてポーズを決め、インタビューに答える。
「これは元々はとある護衛艦の艦砲の機構を流用していてな、その気になればグラビティだけでなく艦砲用の弾も打てるぞ」
空に巨大なドラゴン(的)が姿を現した。本物ではないと解っていてもものすごい迫力だ。
「基本的に速射性よりも単発火力を重視しているので、いまからその威力を見て欲しい」
晟は翼を広て空へ上がった。
ドラゴン(的)と目線を合わせ、早春の陽を受けて眩く輝くアームドフォートを構える。
「多少砲音がうるさいかもしれんが、そこはご愛嬌ということで」
長く伸びた砲身の先から黄金色のレーサーが放たれた。
爆音とともにドラゴンが山の向こう側へ沈むと、会場は大喝采に沸いた。
興奮冷めやらぬ中、阿木島・龍城(錬成せし鉄槌と碧刃の主・e03309)は会場上空をホバリングで移動してランウェイに向かう。
その姿はさながら「超小型宇宙戦艦」。
リングに降り立つと笑顔を浮かべてゆっくり体を回した。
「完成したので初お披露目いたします。背中に浮かんでいる駆動系兼中枢部と、それを取り囲む様に配備されているエメラルドグリーンの直線的な装甲を持つ6基の統合兵装ユニット『エメラルド・オブ・ヘヴン』です」
突然、会場内に火柱が幾つも上がった。踊る炎の中からシャイターン(的)が現れ、リング目がけて動きだす。
龍城はただちに統合兵装ユニットを分離、展開させて自分の回りに防衛ラインを築いた。
「こんなふうに集結させて黄金の槍状の力場を張って突撃用にすることもできますが、今回は……」
展開させたユニットと核となる中枢、合わせて24門の対空レーザーを一斉掃射した。
ランウェイ右の方向からさざ波のような音が聞こえ、カメラマン席に林立する警しい数のカメラから、いっせいに関光が放たれる。
純白の翼をはためかせ、続いてリングに降臨したのは七星・さくら(日溜りのキルシェ・e04235)だ。
友達から誕生日に送られたという四基のアームドフォートは、白に桜色が艶やかなフィルムスーツによく似あっている。
「一年の始まりだもの、華やかにいきましょ♪」
春を先取り、掛け声とともにほのかに色づいた桜の花びらが会場の空を舞った。
さあ、ここが見せ所、とさくらは翼を広げる。
が、伸びあがろうとして屈んだ瞬間にスーツが体を圧迫した。
(「……あ、ヤバい」)
でも大丈夫。線維型演算回路が戦況に応じて硬度を自動変化させてくれる筈……。
(「体型も上手いカンジにカバーして……んっ、あれ? そーゆーのは無理??」)
苦笑いを舞い落ちる桜の花びらの下に隠し、アクロバティックに飛び回る。
最後は大きなくす玉を撃ち抜いて、『Happynewyear☆』と書かれた垂れ幕と、鮮やかな色の桜吹雪を降らせた。
紅白の目めでたい花吹雪のランウェイ上を、白と黒のアームドフォートジャイロフラフープ――実は黒い方は相方――『テレーゼ』が颯爽と走る。
真ん中はメイド服姿の眼鏡幼、女テレサ・コール(黒白の双輪・e04242)だ。
リングに到達すると、四方に向けて一通り立ち姿を見せた。
「みなさまお聞きください。眼鏡、眼鏡っ娘はかわいい。かわいいは正義なのです」
無表情にいうと、ジャイロフラフープを展開し体の前に巨大な眼鏡を作りだした。
その直後――。
「くわーっ!!」
奇声を発しながらコンタクト党と染め抜かれたタスキをかけるビルシャナ(的)が、尾にくす玉を結びつけて現れた。
慌てず騒がずジャイロフラフープから弾丸が打ちだされ、ビルシャナ(的)ごとくす玉を割る。
中から出て来たのは『おいでませ!眼鏡真教!』という、自旅団の宣伝広告……。
眼鏡真教の勧誘を始めようとしたテレサを『テレーゼ』が後ろから引き倒した。
スタッフに抱えられて舞台脇へ。
複数のドローンカメラが、様々な角度から無人になったリングを映し出した。
突然、リング中央に人影が現れて観客を驚かせた。
ナノマシンを集結させて作りだした春霞のマントを羽織り、螺旋隠れで登場したのはピコ・ピコ(ナノマシン特化型疑似螺旋忍者・e05564)だ。
霧が晴れるようにナノマシンが分散、マントが宙に溶ける。下の黒を基調にしたセパレートタイプのフィルムスーツとアームドフォートが露わになった。
ランウェイから触手をうごめかしたオーク(的)たちが走ってくる。
『ダミー投影開始。パターンは命中支援でランダムに。今のうちに、態勢を整えて下さい。』
ピコは分解したナノマシンを広く散布して、分身のホログラムをリング手前に投影した。
オーク(的)たちが分身に惑わされているうちに、さっとフォレストキャノンを放って殲滅する。
拍手の中、みんなの演出サポートに戻るべく、再びマントを羽織ると姿を隠した。
スポットライトがステージへ向けられる。
道士風の衣装を纏った十守・千文(二重人格の機工巫女・e07601)が光の輪の中に登場。術符を手にひらひらと、ランナウェイを歩きだす。
途中、オーク(的)の残骸を軽やかに飛び越して、リングに立つと同時に一回転。早業でフィルムスーツを巫女服風『呪装衣”巫子姫”』に変形させた。アームドフォート『呪装髪”Empress・Fire”』もしゅるっと髪が伸びた様に展開。
おー、と簡単の声が会場のあちらこちらで上がった。
「インパクトが欲しかったからね、説明はしなかったですよ」
千文はにっ、と笑うと片手を前に突き出して両脇の砲塔から色様々なテープと紙吹雪を発射した。こんな使い方もできるですよ、と砲塔を掃除機の様に繰って、まずはまだ空を飛ぶ紙吹雪を吸引する。
「デウスエクス(ゴミ)はきちんとお掃除するですよ」
くるり。ステージ側に体を向けると床に砲身の先をつけ、オーク(ゴミ)を回収しながら戻っていく。
ステージに鎮座した要塞、もとい、待機していた千文機理原・真理(フォートレスガール・e08508)が伸ばした手に手を打ち合わせてから裏へ消えた。
見送る真理の顔のすぐ横に、ドローンマイクが降りて来た。自身が纏うフィルムスーツについて解説する。
「一見してシンプルなフィルムスーツですが、アームドフォートと色彩を合わせた鋼色にしつつ、ラインを入れる事で身体のラインをスリムに見せてるです」
次に左右のシールドユニットで防御する構えしたかと思うと、レーザーで撃つような構えに切り替えて装備の紹介をする。
「そしてこの武器、盾を常時接続した防御型です。守りやすく戦いやすい、機能に拘った武装なのです」
あえて、ランウェイを歩かず。リングのはるか先に備えられた的――これまたオーク――を嫌悪感に身を振るわせた後に一閃で撃ちぬいた。
オークの出っ張った腹が割れて、『今年は戌年、ケルベロスの年!』と書かれた垂れ幕がさっと翻る。
イエ~イと声をあげながら、ケルベロスたちの間でシャンパングラスがつき合わされる。
音楽が切り替わり、大型スクリーンに中条・竜矢(蒼き悠久の幻影竜・e32186)が映しだされた。
「皆さん派手ですねー。なんだか自分の装備が地味に感じて少し恥ずかしいです」
竜矢は『ストリア』とともに会場の端に作られた特別ステージにいた。門松の間に立ち、マイクを構えたセルベリアからインタビューを受ける。
「私のフィルムスーツは装飾は少ないですけど、遠近で柔軟に使えるようになってます。黒い部分は柔軟な素材で白の部分は強度が高い素材になってます。地味に見えるかもしれませんが、拡張性も高いのでこれからも色々手を加えていこうかなと思っています」
説明しながら、カメラに向かって腕を動かして見せる。
「アームドフォードも取り回ししやすいように短砲身になってます。もちろん威力も射程も落ちてません」
では実演を。合図と同時に空中に的が並ぶ。
『ストリア』がすっと傍を離れると、両肩に担いだアームドフォードからフォートレスキャノンを発射して的を撃ち落とした。
「ありがとう、みんな盛大な拍手を!」
セルベリアもマイクを脇に挟んで拍手で送った。
「さて、次は水瀬・和奏(火力系女子・e34101)に登場してもらうぞ」
手招きされて、和奏は二連の黒く巨大なアームドフォートとともにステージに上がった。
ぴったりと体に張りついたモノトーンのフィルムスーツにスポットライトが当てられ、高校生らしからぬ女性らしいラインを際立たせる。
セルベリアは自分の胸を見下した。
あげられた顔はしょっぱかった。
「あ、う……う、うむ。これぞ鎧装騎兵の王道的な装備というやつだな」
「ありがとうございます。ではさっそく、私が愛用するアームドフォートの実力をご覧いただきたいと思います」
そういうと、彼方の空に浮かぶ螺旋大伽藍(的)とジュエルジグラットの手(的)に向けて主砲2門を展開、フォートレスキャノンを撃った。
巨大な的がオレンジ色の炎をあげて爆発する。ドーンドーン、と大気が破裂するような砲声が遅れてやってきた。
「おお、なんとも縁起のいい絵と音じゃの」
特別ステージのすぐ横で、ル・デモリシア(占術機・e02052)がエネルギー扇子を振りながら朱盃を煽る。
「まこと新年の門出に相応しいパフォーマンスじゃ」
これからも新たなダンジョンが次々と出現するだろう。だが、ケルベロス――鎧装騎兵がいるかぎり、かならずや粉砕して見せる。
頼もしい宣言に華を添えるように、会場に巨大なケーキと山盛りのフライドチキンが運び込まれた。
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気の置けない仲間と会話と美味しい食事を楽しみつつ、氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)はカメラドローンに向かって手を振った。
ショー再開の知らせを聞き、急に緊張と不安が高まる。かぐらはサードステージのトップバッターなのだ。
(「お呼ばれしたけどファッションショーって……」)
ランウェイの歩き方なんて知らない。
(「あ、アングルナージュさん。ちょうどいいわ、歩き方とか聞いてみましょう」)
クロエ・アングルナージュ(エルブランシュガルディエンヌ・e00595)に声を掛けると、プロのモデルとして親切にアドバイスしてくれた。
「ありがとう」
「がんばって。笑顔よ、笑顔」
さ、いってらっしゃい。とん、と深い蒼と白い雲の様な色合いのフィルムスーツで包まれた背を押されてステージに出る。
少し固いが気品のある笑顔を浮かべつつ、ぎこちなくランウェイを歩く。
リングで雪の結晶のようなドローンを飛ばして照準支援させつつ、主砲を展開。落ち着いて連射し、火竜焔神洞の燃える壁を模したブロックを打ち抜いた。
ステージで出番を待ちながらクロエはクールに燃えた。
(「プロとして負けていられないわね」)
フィルムスーツを変化させて機械式の肢体と柔らかい胴を自然に保護しつつ、豊かな胸を強調する。アームドフォートは分解して翼のように再構成して体に装着した。
七色のスポットライトが交錯するランウェイを颯爽と腕を振って歩く。
視聴者のリクエストに応えてピコが、空中に巨大な天使のコピーを作りだした。
「照れるけど、やるわ」
鋼鉄の翼を広げ、体を低くした。
『フォルメ・シャッセール、ドッキング! ……いっけぇぇっ!!』
放たれた矢のごとく的がけて突撃する。
割れたくす玉から『Je l'aime♪』と書かれた意味深な幕が垂れ下がった。
キュピーンという効果音とともに黒鋼・義次(雷装機龍サンダーボルト・e17077)が変身ポーズを取る。
「変……身!」
稲妻が走り、掛け声に合わせてフィルムスーツが変化する。
ごく普通の服装からメタリックヒーロー然とした戦闘形態になるまで僅か0.05秒。義次はアームドフォートを展開しつつ、『ジオライダー』にまたがってランウェイを疾走した。
リングに現れた巨大な載霊機ドレッドノート(的)の前で車輪を軋ませ急停止する。
「サンダーボルト、参上! デウスエクスよ、覚悟しろ!」
フォートレスキャノンを発射して粉砕した。
おもむろに撮影ドローンへ顔を向け、カメラ目線でケルベロスを応援してくれている子供たちにメッセージを一つ。
「いつもおうえんありがとう! これからもケルベロスをよろしく!」
『ジオライダー』のアクセルを吹かせると、ヒーロー宜しくカッコよく退場した。
「ザルバルク、覚悟!」
会場に煌・アキラ(ヴァルキュリアの鎧装騎兵・e24310)の声が響く。
どこにいるのかと、観客たちが探す中、無数の宝石がリング中央から吹きだした。白いレオタードのフィルムスーツを発光する緑と紫のラインが飾っている。
コギトエルゴスムに見立てた宝石に惹かれて遥か上空からデウスエクス――ザルバルク(的)が大量に落ちて来た。
大口を開けてアキラに迫る。
バックパックのように背負われた核から多数のアームが、4連艦砲や丸ノコギリ、ガトリング砲、グレネード砲、シールドなど、様々な武具を装着して出て来た。
「残らずぶっ飛ばす!」
照準が定められ、無敵を誇るアームドフォート砲が、約熱の牙を剥き出した。次々に様々なグラビティを発して、ひとつ残らず始末した。
ステージの袖から熱狂する観客を見て、禍芋・野鳩(紛い物ハート・e36800)は呟いた。
(「ふむ……そういうものか。私のパフォーマンスで人々の心が動くか変わらないが、やってみよう」)
野鳩は元々がダモクレスのレプリカントで、全身がアームドフォートで武装されている。ランウェイを歩く姿は、戦場で活躍する兵器ロボそのものだ。
「私の武装の利点その1は、砲撃時の安定性だろうか」
膝をついて砲撃姿勢を取ると、キュルルと音を立てて脚横のキャタピラが回転しだした。
「利点その2は片目でも活動へ不備のない広視界カメラ! アイズフォンの起動を維持しつつも行動に支障はない!」
アイズフォンの遠隔操作でドローンを動かし、ランウェイをジグザグ走行しながら空中に吊り下げられた的へ主砲を向ける。
砲の先端が解放された熱エネルギーでオレンジ色に輝いたかと思うと、もう的が消滅していた。
「全世界のみんなの前でパフォーマンスなんて、最高にアガるシチュよね♪」
神宮・翼(聖翼光震・e15906)はギターを手にすると、もう片方の腕を上げて観客に笑顔を振りまいた。ボディラインを強調する半透明の白いスーツに身を包み、しなやかなモンローウォークでランウェイを歩みだす。
「みんな、盛り上がってる? 気分は最高かい?」
――最高!
翼の呼びかけに観客が応える。
リングの中央でアンプやスピーカーの集合体のような形のアームドフォートを展開するとそのまま発砲……はせずに、ギターを鳴らして弾き語りを始めた。
アームドフォートで増幅されたギターのメロディーと歌が、会場をさらに盛り上げる。
サビに差しかかったところでモードを切り替え、会場を飛び回るくす玉を複数まとめてロックオン。レーザーで撃ち落とし、くす玉を割った。
玉の中から飛び散った花弁が周囲に降り注ぐ。
神無月・佐祐理(機械鎧の半身・e35450)は華やかなメロディーを継ぐように登場した。心臓を守る胸部プロテクターを反らしてランウェイを歩きだす。
「ファッションショー、ですか……」
新年会を兼ねたファッションショーへ出演をセルベリアとゼノから打診されたとき、佐祐理はひとまず返答を置いた。
(「レプリカントにしては、機械部分が少なすぎ、地球人にしては両脚や腕等は機械ですし」)
どっちつかずの姿を晒すのは、とためらった。だが、デウスエクスとの戦いで傷を負い、義手義足を使われている人々の励みになればと、出演を決意したのだ。
リングに到達すると、普段はあまり使用しないというアームドフォートを、背負ったディパックから取りだした。現れた銀の砲身は、フルートのように細く長い。
「デウスエクスを滅ぼし、地球に希望をもたらす音色をお聞かせいたしましょう」
神を貫く光る音色が群れを成して泳ぐ死神の使い(的)を焼き払った。
拍手を送る人々の間で、牙国・蒼志(ウェアライダーの鎧装騎兵・e44940)も惜しみなく手を撃ち鳴らした。
義援金の呼びかけが行われるコマーシャルタイムのうちに、ステージに向かう。
「しかし、鎧装騎兵の新年会ということで参加したが、ふむ……知り合いがいないというのは少々さみしいものだな。ん、あれは?」
ランウェイの真横に息子の姿を見つけ、蒼志は足を速めた。
「鎧装騎兵って思ったより多いよな。まぁ、俺はメインに使ってるわけじゃないけど……」
がぶりとチキンレッグに食いついた牙国・龍次(狼楽士の龍・e05692)に後ろから声を掛ける。
「久しぶりだな、龍次」
「ん? え、父さん!? なんでここに!? ……そう、そっか。鎧装騎兵に……」
「……ああ、父さんもケルベロスに目覚めてな。伝えるのが遅れてすまない。これからは同じ場所で戦えるな」
龍次がなんともいえない顔をする。
「……さて、つもる話しもあるが早速聞きたいことがある。アームドフォートの使い方を教えてくれ」
父は息子の肩を抱くと、ステージ裏へ引っ張っていった。
「基本的には背中に装着して、砲口は視線を向ければその方向に向く。慣れたら気配とか感覚で動かせられる、はずだから。じゃあ、試しに撃ってみようか。あ、いまから出るでるんだったけ?」
「うむ。一緒に出よう。初撃ちを傍で見ていてくれ」
親子で肩を並べてランウェイを歩いた。
リング上空に浮かぶくす玉にアームドフォートを向ける父の背中を、息子は一歩下がって見守る。
砲の内部が真紅に燃えあがった瞬間、地の底から均熱のマグマが噴きだすような勢いで黒い球体が噴出した。
「これは、すごいな……くす玉が消滅した……」
息子の呟きに確かな手ごたえを感じ、父は顔をほころばせた。
「これからよろしく頼むぞ、先輩」
「父さん……ああ、一緒に戦おう」
進藤・隆治(沼地の黒竜・e04573)は、会場の端で軽く食事を楽しみつつ調整したドローンを撮影の邪魔にならないように飛ばしていた。
歩きながら撮り終えたばかりの感動シーンを、ショーの運営委員会へ映像を転送する。
「さて、我輩もお披露目といくか」
ランウェイ途中から飛び乗ると、竜の翼に合わせてアームドフォート4基を広げ、大股にリングへ向かって歩く。
「日々鍛錬し磨き上げた我が技、とくと御覧じろ」
バラバラに動く空中の標的4つを、4基のアームドフォートを同時に動かして撃ち落しす。
深々と体を折ってお辞儀すると、隆治はさっさとリングから降りた。このあと最後の大仕事が待っている。滞りなく準備を進めなければならなかった。
ステージ上に最後のモデルが登場した。
ソル・ログナー(鋼の執行者・e14612)だ。
「魅せる戦いは初めてだが、……さあ少年少女よ、刮目したまえ! 変身!」
ガントレットのボタンが押されると同時に背負っていた箱がパージ。肩や腕の上に砲台が組み立てられ、装着された。
「さァ、……敵も皆のハートも狙い、乱れ撃つぜ!」
独自の武装ジャケットを身に纏い、キャバリアランページの加速に乗って、今までケルベロスが倒してきた名だたるデウスエクスの像(的)が、次々と両脇に立っていくランウェイを駆ける。
「ロックオン! レーザー一斉射出だ!」
虹の七色を束ねた光線が次々とデウスエクスの像(的)を撃ちぬき、倒す。
『之より空から出でるは流星の雨嵐。されど其れに色はなく、鉛の星は敵を穿つ!』
撃ち漏らしたものは、手に握った銀の銃から天に向けてグラビティを放ち、流星の雨嵐を降らせて撃った。
「よし、集合だ! 最後にキッチリ、ポーズ決めようぜ!」
ソル呼びかけをうけ、リングの上に次々とモデルを務めた鎧装騎兵たちが集まった。
花束をたくさん抱えたゼノとセルベリアが、リングに上がるケルベロスたちに一束一束手渡していく。
隠密気流で隠れてながら、隆治がドローンの操作とタイミングを計る。思い思いポーズを決める仲間たちに、飛ばしたドローンでかっこいい感じにスポットを当てた。
「「はい、チーズ!!」」
心からの笑顔の後ろでカラフルな爆発が起こる。
白い鳩が青い空へ飛び立っていった。
作者:そうすけ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年1月16日
難度:易しい
参加:31人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 9
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