ケルベロス新年会~自宅警備員ー1グランプリ!

作者:うえむら

 自宅警備員の朝は遅い。正月の朝ならば、それは尚更である。
 そのひとりシバ・ブレイドも、何となく年越し番組を眺めた後、そのままコタツで眠り、つけっぱなしのテレビからお笑い番組が流れると共に目を覚ます、筈だった。
「うぇっ、どこっすかここ!?」
 ところが今、彼が愛用のコタツと共に目覚めた場所は、謎の広大な空間であった。
 果たしていつ連れ去られたのか。何の目的で? なぜコタツごと?
 一応それなりに疑問が浮かんだシバだったが、次の瞬間にすぐ忘れた。

 何故ならば、その空間がめっちゃいい感じだったからだ。
 めっちゃ豪華でだだっ広い部屋(豪華な洋室も、畳敷きの和室もあり)に、コタツ、おせち、お雑煮、みかん、福笑い、すごろく、ボードゲームなど、ありとあらゆるお正月グッズ、お正月グルメ、そしてインドアグッズの数々が、所狭しと並べられていたのだ。
 しかも、広い空間だと何となく不安を覚えるシバのような人間の為に、雑な立て付けの壁とドアで区切られた、ネットカフェのようなエリアまで用意されているではないか!
「天国? ここは天国っすか!?……ぐべっ!」
 うかれてコタツを飛び出したシバは、足元に置かれた何かにつまづき、派手にすっ転ぶ。
 それは、ホッチキスで綴じられた分厚い何かの台本であった。
 台本の表紙にはこう書かれている。

「自宅警備員ー1(ワン)グランプリ!……!」
 そのタイトルだけで、シバはすぐに状況を把握する。
 最前線の者達には敵わないとはいえ、彼も一端の自宅警備員。このタイトルで内容を把握できない漢ではない。彼は素早く会場を見渡し、テレビカメラを探す。ほどなく彼は、会場のあちこちにテレビカメラが配置されていることを確認し、その中のメインカメラっぽいものを探して話し出す。
「状況把握したっす! つまりここは一種の『バトルフィールド』! 全国から自宅警備員ケルベロスを集め、誰の『自宅警備術』が最も優れているかを競う、超、エキサイティン! なイベントという訳っすね!」
 そしてシバは、あとは台本をガン見しながら、イベントの内容と趣旨を棒読みしてゆく。全国の自宅警備員ケルベロスを集め、それぞれが会場にあるグッズ、あるいは自宅から持ち込んだこだわりの一品を披露し、それを使ってだらだらと過ごす事で、謎に包まれた『自宅警備術』の一環を広く世間に披露することで、ひょっとしたら自宅警備員のケルベロスが増えたらいいなーという催しなのだ。

「だらだら過ごす……なるほど、この主催者は、自宅警備術をよく分かってますね……!」
 自宅警備術とは、溶岩を噴き出し傷を癒やす、れっきとした高度な戦闘技術である。だがその力は、決して鍛錬でのみ身につくものではない。
 テレビ、ネット、ゲーム、グルメ、手芸、お絵かき、睡眠……。
 彼ら自宅警備員は、自宅で行えるあらゆる事を愛する傾向にある。だが、通常の、技を極めることで高みへと向かう他のケルベロス達と違う点はひとつ。
 別に、うまくなくてもいーのである!
 そりゃ、めっちゃゲームのうまい人とか、アイデア料理の達人とかも割と沢山いるでしょう。それはもちろんすごいけど、でも、自宅警備員はそれが全てではないのだ。彼らの本質はあくまでも「自宅を警備すること」。その為には、誰にも邪魔されず、自由で、なんというか……救われていることが、何より重要なのだ。
「というわけで、これをご覧の自宅警備員の皆さん、会場にあつまってください! そして己の『普段家でやっている事』を再現し、その中で、いちばん優れた(?)自宅警備員を決定するのです! この戦い(?)は、テレビやネットを通じて全世界に中継されます。そうすれば、これを見る事で自宅警備員に覚醒する人が現れるかもしれません。つまり……未来の自宅警備員を作るのは、あなたたちです……!」


■リプレイ

●自宅警備員ー1グランプリ、開幕!
 そこは、炬燵空間であった。多くの自宅警備員を内包した巨大炬燵群は、暮らしやすいように整えられ、人々をぬくぬくに誘い続けている。
「必要なものは全て手の届く範囲に」……これぞ、自宅警備員の極意のひとつにして、昭和の時代よりニホンに伝わるデントウゲイノウ、ウサギゴヤ=スピリットなのだ!
 そんな炬燵空間を見下ろすプロジェクタースクリーンの前で、自宅警備員ー1グランプリの紹介スペシャル動画を放映した光下・三里が、厳かに自宅警備員ー1グランプリの開始を宣言した。
「どうやら……誰が最強の自宅警備員なのか……決着を付ける時が来たようですね! では、行きますの!! 決戦のバトルフィールドへ!」
 彼女のその言葉とは裏腹に、会場はノーリアクション。
 そんな感じで、自宅警備員ー1グランプリは開幕しました。
「う……ん」
 そんな炬燵の中から腕を伸ばす1人の女性。その腕は女性の嫋やかな女性の腕に見えるが、腕以外の体全てがコタツの中に隠れており、それが誰かはわからない。
 腕は、こたつの上のミカンを手に取ると、再びコタツの中に引きこもる。そしてしばらくすると、ボクスドラゴンの『りゅう』が、ミカンの皮をかぶってコタツから出てくる。どうやら、ミカンの皮を捨てようとしているらしいが、チラシを折って作ったゴミ箱は満杯で、捨てるに捨てられない。更に、コタツの上は、籐カゴに入ったミカンの他に、お餅の皿とおせちの残りと、年越しそばの丼、クリスマスターキーの骨などが散乱していて、立錐の余地もない。
「くぅーん」
 りゅうの悲し気な声に、コタツの中から、柊・弥生が顔を出す。
「私は~、ネット掲示板で忙しいから、りゅうが、片付けておいてねぇ」
 その柊・弥生の横では黒斑・物九郎が、ダラダラと、異世界転生無双ハーレムもののラノベを読みふけっている。だがそれだけではない。改造スマートフォン複数使いで、多数のソシャゲを同時周回しつつ、スマホを油でベトベトさせないよう箸でポテチを食べるという高度な(?)離れ技を展開しているのだ。これを性懲りもなく披露できる鋼の意志は、まさに、自宅警備員の鑑といって過言である。
 物九郎がラノベなら、私はマンガと、寝転んで大量のマンガを読んでいるのは、佐藤・志緒。猫さん達をコタツ内部に引き込んでぬっくぬっくしている彼女は、至福な表情をうかべてマンガを読むが……着古した高校時代のイモジャージ姿からは、女子力のかけらもうかがう事ができなかった。
 そんな、だらけ切った彼らのまわりを、蝶のように舞い蜂のように刺すを繰り返すのは、四軒屋・繋。どうやら、自宅警備員であればやらざるを得ない格闘技、シャドウボクシングにはまっているようだ。でもこういうの結構トレーニングになるって、ホーリーランドで言ってました!
「自宅警備員の自宅空間認識能力をもってすれば、この程度造作も無い!」
 ドヤ顔で、ジャブジャブジャブ右ストレート! と繰り返す繁。
 だが、おごれるものは久しからず。敷きっぱなしの布団でもぞもぞする、ペンギン帽子のマグル・コンフィの脱ぎっぱなしのスリッパに足を取られて、ドッシャンガララと転倒したのだった。もー、ケルベロスなのにー。
 そのドッシャンガララで目を覚ましたマグルは、
「あぁ、おはようなのです。新年会おめでとうっす。どうぞ、よしなに」
 とあいさつすると、再び布団に潜り込むのだった。
「挨拶終了、役目は果たした。よし寝よう! ぐー」
 おやすみなさい、良い夢を。
 ……一方そのころ、同じ場所。
「これは、片付け甲斐があるな」
 炬燵空間の惨状を見てまわり、天矢・恵はさっそく掃除を開始した。
 炬燵でだらける自宅警備員達は幸せそうだが、彼らだけで、その幸せを続ける事はできはしない。誰かが掃除しなければ、そのゴミは異臭を放つし、誰かが飲み物やミカンやお菓子を補充しなければ、コタツでダラダラする事さえままならないのだから……。
 だから、恵は立ち上がった。
 何故ならば、家事こそが、彼の生きがいなのだから。
 クリスマスチキンの骨はゴミ箱に、ポテチの袋もミカンの皮も、それぞれ分別してゴミ箱に。洗濯物は洗って干して、コタツ布団は除菌スプレーでシューしておく。恵が片付けた傍から、自宅警備員達が散らかしていくが、恵がそれを止める事は無かった。
「散らかったら俺が片付けてやる。だから、楽しい新年会を続けるがいい」
 勿論、裏方として自宅警備員のだらだらを支えているのは、恵だけでは無い。
「ワッフルワッフル」
 ネリシア・アンダーソンは、様々なワッフルを創作して、だらだら喰っちゃ寝している自宅警備員達に差し入れして回る。
「メープル……イチゴ……チョコ……抹茶……マンゴー……プリンをホットケーキミックスと牛乳で伸ばしてー」
 歌いながらワッフルを作るネリシア。本場ベルギーのワッフル祭もかくやという、ワッフル力が自宅警備員達を幸せへと導いていく。
「ネリは、ワッフルと幸せを運んでるんだよ♪」
 自宅警備員たちは、ポテチやミカンと共に、彼女のワッフルをモグモグと食べ続けるのだった。
 更に、自宅警備員を支えるのは、家事と料理だけでは無い。彼らが快適に過ごすには、電化製品が必須だからだ。コタツに電気毛布にテレビにラジオにタブレットにゲームにと、高い文明がなければ、自宅警備員は充分に自宅を警備をする事ができないのだ(スマートスピーカーも割と便利ですよ)。そこで風戸・文香は、自宅警備員達の間を巡り、調子の悪くなった電化製品を修理してまわる事にしたらしい。
「壊れた家電製品はありませんか? あったら私の真空管アンプが火を噴きますよ」
 文香の修繕によって、家電が壊れても大丈夫! になった、自宅警備員達は、末永く新年会を続けたのでした。

●自宅警備員の自宅に行こう!
「オッサンの自宅を紹介するで~」
 佐々木・照彦がそう言って会場に持ち込んだのは、なんと大量のダンボールとブルーシート。そして会場のそのへんにあったソファー。
 それが、なんという事でしょう! 匠……じゃなかった照彦の手によって、見事にみすぼらしい小屋が出来上がったではありませんか。ダンボールをブルーシートで大胆に覆った温かい室内。高さのある天井は、なんとソファーを柱の代わりに。匠のアイデアが光ります。
「自宅はどこでも作れるんやで! ほなオヤスミ~」
 続いて会場に自宅を持ち込んだのは、在宅機族・八壱七号。称号が「はいえーすに住む人」ってぐらいなので、彼は自動車(ハイエース)を会場に持ち込んだ。偶然かもしれないけど、またレプリカントの人ですね。
「自宅を守るのが自宅警備員なら、自宅は動いたほうがいいですよね。……あっ、生活費や住民票等の細かいことは、気にしないでくれると助かります」
 そんな光景の傍らで、会場の様子に緊張が走る。会場のほぼ中央に据え付けられた、まるで「純粋なる悪」を思わせる荘厳な椅子。その椅子に今、大首・領がどっしりと腰を掛けたのだ。
「フハハハ…我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスが大首領!!」
 迫力ある声色が、会場の空気をびりびりと震わせる。仮面の下の表情がまるで伺えぬ事も含めて、周囲の人々は彼に強い威厳を感じるのであった。なんで彼が会場に来たのか疑問に思いながら。
 ここからは少し会場を飛び出して、しばらくの間ロケ先と中継させていただきます。
 まずは藤・小梢丸さんの自宅です。
 称号からして「カレーの人」で話が早いのですが、ドアを開けた瞬間に立ち込める、濃密なカレーの香り! 室内のダンボール箱、コタツの周り、キッチンの鍋……とにかく手の届くいたる所にカレー、カレー、カレー!
「過酷な戦場で、カレーは僕の命を何度も救ってくれた。カレーが無ければ即死だった。そんな事は今まで幾度も経験してきたさ」
 ニヒルに改装する小梢丸さんでした。
 続いて別の中継先へ……。
 大粟・還の朝は早い。
(さらさらさら……)
 何をしている?
「イチゴの水やりですね。私農家ですので」
 次の予定は?
「あとは農業雑誌を読んだり、農業アイドルさんの番組を見たりです」
 つまり、もう今日の予定は終了?
「あっ、それ言っちゃいますか(笑)。まあ今は農閑期なので特にやることもありませんから、皆さんこんな感じじゃないですか?」
 そういって慣れた手つきでクッキーに手を伸ばす。自宅警備員の一日は、どうやらここからが本番のようだ。
 さらに次の中継先へ。
「ランジェリーショップ【FoxTale】へようこそ!」
 エルネスタ・クロイツァーの自宅は、母と2人で経営する、小さなランジェリーショップだ。
「うちの下着はケルベロスにおすすめ! 頑丈に作ってあるから、戦場でもなかなか破れないよ。ちなみに……今の売れ筋はこれ!」
 そう言うと、エルネスタはエイティーンで成長しつつ、おもむろにコートを脱ぎ、Moon Light(下着の名前)だけの姿となる。
「女の子ケルベロスさん、ぜひ一度寄ってみて。通販もやってるからねー!」
 ふたたび中継先はかわり、今度はネットカフェへ。
 とはいえここは「Huginn og Muninn」。オーディンに従うという二羽のワタリガラスの名を冠した、瀬入・右院の管理する建物だ。でもドリンクはセルフ。
「よければ、美味しい紅茶の淹れ方とかも教えるよ(セルフだけど)。あとはパソコンを使って様々な情報を集めたり、オンラインゲームもできるよ。ネットカフェだから、プレイ特典もあるしね!」
 そういって右院は、ネットカフェ土産の紅茶や鳩サブレ、無添加石鹸のプレゼントを告知し、ちゃっかりと宣伝をしまくるのだった。

●やばいとこはスルーしてね
「おお、言ってみるもんだな!」
 もち、おせち、お雑煮……。長篠・ゴロベエの前に、彼がリクエストしたお正月グルメが続々と運ばれてくる。
「だが、急がないとな。人生は有限なんだ」
 彼はグルメを堪能しつつ自前のゲーム機でモンスターをハントする奴を黙々とプレイしながら、アニメと動画を垂れ流し始める。時間は一秒も無駄にしない、これぞ自宅警備である。新作楽しみですね。
「ではでは、新年一発目のカタコイラジオ、始めたいと思います。今日はね、99人殺してドン勝する、人気のゲームをやりたいと思います!」
 今グランプリ中だとかの説明を抜きにして、鎧塚・纏は快活に生放送をはじめる。このゲームはテンポ早めだから編集無しでも見栄えがして、生放送にぴったりなのだ。
「よしジープ取った! あーーっ川っ! まって今誰か轢き殺した!?」
 リアル顔を晒しながらの放送は、かなり大盛況のようだ。
 
「さあシバ君! ボクが溜めに溜めたこれを、一気に出してくれっ!」
 シバ・ブレイドに迫るジューン・プラチナム。類まれなる美貌とスタイルにも関わらず薄い本と残念ファッションで武装した、自宅警備ガチ勢の彼女を前に、シバ程度の小物はただ圧倒されるばかり。
「む、無理っす! 他人のガチャを引くなんて! いったいそれに幾らかかってるっすか!?」
「シバよ、それはそれ、これはこれじゃ!」
 草薙・大神は、空になった賽銭箱とスマホを手に現れる。
「見よ、妾の神社の賽銭を全部課金してやった! 妾もこれで今からガチャを……」
「えっ、それは今のご時勢ちょっとまずいんでは」
「神社に祀られてるのは妾だから問題ないのじゃ! シバよ、折角じゃから妾の分も……」
「こ、困るっす! だ、誰か代わりの人を……!」
 救いを求めたシバは、黙々とスマホの美しい音ゲーをプレイしていた管・理人と目が合った。彼女は無言でポトフを食べ、作りおきの人参しりしりを食べ……。
「楽しんだもん勝ちだよ、シバ」
と肩ポンし、自分のスマホもおもむろに差し出す。その動きには一分の無駄もなく、シバレベルでは到底抗えない、強い意志が感じられた。しかも3rdのガチャとか、わりと渋い奴を渡されちゃったぞ。
「じゃあ、アストラちゃんが代わりにやりますよ!」
 そこに現れたのは巨大なプリン……いや、プリンの全身きぐるみを着込んだアストラ・デュアプリズムだ。優勝を目指してちゃんと準備をしてきたかしこい子です。
「大丈夫、初詣の時は大吉だったから、えいっ」
「ちょ、ちょっ……!」
「待つのじゃ、そんな気楽に……!」
「そうきたか」
 ピカーン、グルグルグル、バーーーーン!
「マナとパンドラ……こっちは新茶とエレ、あっちは殲星と黒ブロ!?」
「ま、まあそこそこラッキーだったんじゃないか? 妾は許すぞ」
 なんとなくホクホクな感じで、なんとか丸く収まったのであった。

「わーっ誰ですか今ジープでぴえりん轢いたの! せっかく川に隠れてたのにっ!」
 説明しよう! 地味顔男子の盛山・ぴえりは、超絶メイクによって男の娘ネットアイドル「ラジカル☆ぴえりん」に変身するのだ。そして今は、ゲームの生放送中だったのだ! ゲーム実況ではいい所の無かったぴえりんだが、その後の食レポ動画「おいスイ~ツ♪」では、めきめきと視聴者数を増やしていった。やはりかわいいは正義であります。
「ししょー、ししょー! あっ……(察し」
 探していた「ししょー」ことギメリア・カミマミタを見つけたクロナ・ベルベディアは、彼の無残な姿を見てかしこく察し、そっとしておくことにした。そして……。
「わーい、ししょーのうちにあるやつよりもおっきいこたつですにゃー! 中に入って遊ぶですにゃ……すやぁ」
 というわけで一瞬で寝入ったクロナをよそに、満身創痍のギメリアは今、最後の仕上げに取り掛かろうとしていた。
 思えば、これだけ「いい大人達」を始めとする数々の動画を見てきたにも関わらず、自分で動画を作るのは初めてだった。そしてここに、ようやくの完成……数々の動画を楽しませてくれた先達の裏側の苦労に敬意を払いつつ、ギメリアはおもむろに投稿する。
「ゼロから初めて8日間で作り上げた、これが、俺の自宅警備術だっ!
 URLは http://www.nicovideo.jp/watch/sm32555689 ですっ!」

「コンシューマにオンゲにソシャゲ、そして動画投稿……。確かにいずれも自宅警備術を高めるのに最適の方法だ。だが、君に最もお薦めしたいのはこれだ!」
 ルイス・メルクリオ(みかん消費マシーン・e12907)は、グランプリの視聴者達に向かって高らかに宣言する。
「君の活躍が小説になる! プレイバイウェブ!
 参加は超簡単! インターネットに接続するだけ!」
 凄い圧でばりばりPBWをアピールするルイス君。いやー、ありがとうね!

 というわけで、色々気になる箇所はあったが、
「……えっ、オレが今何のゲームをやってるか、ですか? えっと、ゼノ2とダンジョンランカーズとキラーインスティンクトと食魂徒っす!」
 どうでもいいシバの情報を添えて、このコーナーを終えるとしましょう。

●うらやましい系自宅警備員
 他のケルベロス達の自宅警備員ぶりをモニターで見物しながら、ソフィアは折角だからと用意されていた珍しいお酒の数々を楽しんでいた。
「ヒガシバ、そこの生ハムとローストビーフ取ってきて。つけ合わせのソースや調味料も一緒によ」
 偉そうな指示にも文句ひとつ言わずに(元々喋らないけど)応えてくれるミミックの存在や、半世紀かけて磨いてきた技術は、全て彼女ができるだけ動かず楽をするために発揮されるのだった。
 カメラは変わって、映し出されたのはキッチンの様子。そこでは【香神屋敷】のシェリアクが、山菜の天ぷら、帆立貝の酒蒸し、そしてステーキを手際よく調理していた。
 天ぷらを揚げる所や貝が蒸し上がる所など、要所でしっかりカメラとマイクを寄せて『魅せる』演出もあって、画面越しにもさぞ美味しそうに見えることだろう。
「いつもやってる事って言ったらこれでしょ」
 料理の完成を待ちつつ、そう言ってリクがこたつにばばーんと並べたのは……最高級の葡萄ジュース! 最高級純米大吟醸! あとやっぱり超高級そうなワインとか!!
「ねーねーこっちも映してよ。シャンパンタワーのグラスー、これさー注げばいいの?」
 別のカメラに向かって手を振りながら、暦がシャンパンの瓶に手を伸ばす。シャンパンタワーも『いつもやってる事』に含まれるとは、さすがケルベロスである。
 しかし、豪勢な食事とケルベロスに何の関係が……? などと言ってはならない。
「日常が必殺技になるのが、自宅警備員なのだ」
 シェリアクもそう言っている通り、自宅警備員とはそういうものなのだ。
「今年も気ままにだらっとあそぼー」
 もっふもふのクッションに埋まりながらそう言う暦にゆるりと深く頷いて、リクが日本酒の杯を傾けた。
「……はー、幸せ」
 隣同士の『自宅』を持つ自宅警備員、巌と穣にとっては、互いの家もまた『自宅』だ。
 その満ち足りた自宅警備ぶりを、彼らはカメラに向かってこう語る。
「朝は穣が起こしに来てくれるまで惰眠を貪るだろう? 遅刻の心配もないし、当然着替えの準備や朝食も用意されているので安心だ」
 その後は穣の家の敷地内(山まであるというのだから豪邸だ)を散策したり、また家に帰れば当然のように用意されている三ツ星級の夕食をとり、温泉に浸かり……お金持ちならではの自宅警備が、そこにはあった。
「要は自身の趣味の空間を持っていれば!! 月すら私の生活には欠かせないから、月も自宅と言い張れますよ~」
 そう、穣は自分なりの自宅警備の定義を語る。趣味の世界、趣味の空間、そして好きな人と一緒にいる空間。そんな世界を愛し、守ろうとする者達は、きっと誰であれ自宅警備員となれるのだ。

●まあこんな感じになるよね
『人の世の陰と共に在り、夜の帳を住処とする、西の地に在る怪力乱神の頂』たる吸血鬼こと紫姫は、吸血鬼(自称)に相応しい行為を行っていた。
「今は白昼、魑魅魍魎は眠る刻。故に今、私が目を見開く道理はありませんのzzz」
 収録開始から寝こけていた紫姫が人の世(後略)にあるまじき醜態を曝す前に、ビハインドのステラが叩き起こす。
「はっ……敵襲!? ステラ、メレア、セレネ、ジェットストリーム……!」
「ふっ、ボクが自宅でする事はただ一つ……愛するヒメちゃんを想い、貰った贈り物を心穏やかに眺める行為こそが、明鏡止水の境地に至る道にして、七天抜刀術を超える技を産み出す術なのです」
 そう熱弁し、懐中時計をアピールすると、ギルボークは静物と化したかのように微動だにせず懐中時計を見つめ始めた。なお彼が日頃、懐中時計を眺める時間は番組の収録時間を越えるとか越えないとか。
「他者に流されること無く自分が自分らしくある事が自宅警備術の極意、みたいな?」
 まりるは、そうカメラ目線で語った。不登校の原因たるキラキラネームを改名するという目標に向かい、突き詰めて努力した結果、なんかケルベロスに開眼した彼女には一家言あるようだ。なお手元では忙しなく指が動き、スマホで別の番組の感想を呟いている。
「特別な『何か』なんて一切無いし、必要無いんですよ。だってそれが「自宅」だから。自分ちでおめかしする必要なんて無いでしょ?」 
 コタツでグータラしていた樹はカメラに語る。
「自宅(ここ)に強さは必要ありません。強かろうが弱かろうが、形が有ろうが無かろうが、自覚してようがしてなかろうが。護りたい『自宅』があるなら、誰であろうとその瞬間から自宅警備員だよ」
 確かに、その通りかもしれない。
 それに、審査とか表彰とかを面倒がってやらない事もまた、自宅警備員のひとつの形かもしれない。
 わたしが両手を広げても、お空はちっとも飛べないが。
 オラトリオやヴァルキュリアはわたしのように、地面(じべた)をはやく走れますね……?
 まあいいや、みんなちがって、みんないい。
 それが、自宅警備員-1グランプリなのだから!!!

 -おわり-




「いやー、うっかり寝坊してしまったよ」
 その時だった。何一つ悪びれる様子もなく、会場入口から非時・夢幻が入ってきたのは。
 イベントの趣旨も会場の空気も意に介せず、夢幻はこたつを見つけると素早く潜り込み、鮮やかな手つきでパソコンにゲームをインストール、黙々と正月イベントの周回作業を開始したのであった。
 なるほど、まあそんな感じになるよね。
 という訳で、なんかみんなどうでも良くなって、だらだらしはじめたというわけさ。おわかりいただけただろうか……。

作者:うえむら 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月16日
難度:易しい
参加:38人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 4/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 14
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