ヒーローキックは岩をも砕く!

作者:秋津透

「キーック!」
 栃木県宇都宮市郊外。
 このあたりに多い大谷石採掘場跡地の一角に勝手に入り込み、一人の少年が飛び蹴りの練習をしていた。
 大きな岩の上から跳んで、手製の的を蹴って着地する。
 きっと、けっこう長い日々鍛錬を積んでいるのだろう。そのジャンプ、キック、滞空姿勢、着地など、素人にしては見事な域に達している。しかし、それはあくまで素人にしては、というレベルだ。
 そして少年は、別に武術に秀でようとか、試合とか大会とかでいい成績を取ろうとか、或いは誰かに勝とうとか、そんなことは微塵も考えていない。ただ、こうやって日々飛び蹴りを「特訓」していれば、いつか必ず「岩をも砕くヒーローキック」が使えるようになる、と固く信じているのだ。
 すると、そこへいきなり声がかかった。
「お前の、最高の『武術』を見せてみな!」
「えっ!?」
 驚いて振り返った少年の目が虚ろになり、いつの間にか背後に立っていた大きな鍵を持つ少女に、その場でジャンプしての飛び蹴りを放つ。しかし、渾身の飛び蹴りに直撃されても、少女はびくともしない。
「あはははは! 僕のモザイクは晴れなかったけど、お前の武術はそれはそれで素晴らしかったよ!」
 言い放つと、少女……ドリームイーター『幻武極』は、手にした鍵で少年の心臓を貫く。
「ぐっ……」
 一撃で、少年は意識を失い崩れ倒れるが、貫かれたはずの胸に傷はない。そして倒れた少年の傍らに、彼とそっくりな風貌をしているが、より獣的で凶暴な光を瞳に宿し、ジーンズをはいた腰から脚に無数のモザイクを貼りつけた新たなドリームイーターが出現する。
 その姿を見やった『幻武極』は、にやりと笑って告げる。
「さあ、お前の武術を見せ付けてきなよ」
「キーック!」
 少年の姿を模したドリームイーターは人間離れした跳躍力でジャンプし、手近の岩に飛び蹴りをくらわせる。すると岩は、派手に爆発して砕ける。
 既に、『幻武極』の姿はどこにもなかった。

「初めてテレビで特撮番組を見た時には、てっきりケルベロスが主役だとばかり思ってました。キック一発で敵を倒して爆発させるなんて、ケルベロスかデウスエクスにしかできませんもんね」
 御足菜・蓮(剣脚のヴァルキュリア・e33882)が、なんだか妙に感心したような口調で言う。そして、ヘリオライダーの高御倉・康が少々複雑な表情で告げる。
「栃木県宇都宮市郊外の採石場跡地でこっそり飛び蹴りの修行をしていた少年が、武術家を襲うドリームイーター『幻武極』に襲われ、新たなドリームイーターが出現してしまう、という予知が得られました。彼は、日々飛び蹴りを「特訓」していれば、いつか必ず「岩をも砕くヒーローキック」が使えるようになる、と信じていたようなのですが、出現したドリームイーターは、まさしくキックを受けた相手が衝撃で爆発するという強力なグラビティを使う怪物と化しています。こんなものが街中に出てきたら一大事ですが、幸い、彼が修行していた採石場跡地は広大で、滅多に人が入り込まないところです。そして、このドリームイーターは、岩をも砕く自分のキック力を見せつけるために、延々と岩にキックをして爆破しています。地元警察や採石場跡地を管理する会社にはデウスエクスが出現したことを連絡してあるので、採石場跡地に誰かが後から入ってくることもありません」
 そう言って、康はプロジェクターに地図と画像を出す。
「現場の採石場跡地はここです。ドリームイーターは単体で、見た目は元になった少年と変わりません。しかし動きや力は、当然ながら人間離れしています。使うグラビティは、受けた相手が爆発する強烈な飛び蹴り、竜巻を起こして敵をまとめて吹き飛ばす回し蹴り、自分の傷を癒し状態異常を解消するモザイクヒーリングです。ポジションは、クラッシャーと思われます。また、飛行はできませんが、かなり強いジャンプ力を備えているようなので用心してください」
 そして、康は一同を見回す。
「幸いにも、一般人を巻き込まずに対決できそうな状況ですが、季節が季節なので、あまり時間をかけていると、気絶している被害者の少年が凍えてしまうかもしれません。どうか、よろしくお願いします」
 そう言って、康は深々と頭を下げた。


参加者
空鳴・無月(宵星の蒼・e04245)
ソル・ログナー(鋼の執行者・e14612)
カシス・フィオライト(龍の息吹・e21716)
御足菜・蓮(剣脚のヴァルキュリア・e33882)
堂道・花火(光彩陸離・e40184)
シャーロット・ミザリオ(一死報国・e44279)
ベリリ・クルヌギア(不帰の国の女王・e44601)
八神・秋実(彼岸花と金木犀・e44915)

■リプレイ

●憧れのヒーロー技を身につけた! ……だが偽者はしょせん偽者
「いたぞ、あそこだ!」
 栃木県宇都宮市郊外の大谷石採掘場跡地。ヘリオンで急行、降下したケルベロスたちは、派手な爆音を目当てに「岩をも砕くヒーローキック」を放つドリームイーターの元へ殺到する。
 そして、真っ先に駆けつけたソル・ログナー(鋼の執行者・e14612)は、凄まじいキックを直撃させて岩を爆破している怪少年……ドリームイーターから少し離れたところに倒れている瓜二つの少年を見つけ、素早く駆け寄る。
「……こんな所で一人、見上げたガッツだ。すぐにあいつを倒し、お前を目覚めさせるぜ」
 ソルは上着を脱いで、意識を失っている少年の身体をくるみ、肌に直接触れて火傷させないよう注意しながら、カイロを挟み込む。
 すると背後から、ドリームイーターが苛立った声をかけてきた。
「おい、何をしている。岩をも砕く僕の凄いキックを見ないのか?」
「ああ、お前の蹴りは確かに強いかも知れない。だが、ヒーローを名乗るには……二百年早いぜッ!」
 ドリームイーターに向き合い、ソルは指を二本立てながら、強く断言する。
 するとドリームイーターは、顔を歪めて言い返す。
「ヒーローを名乗る気なんかない……命懸けで悪と戦ったりなんかできない……ただ、僕は凄いキックを身につけたかっただけだ! だから、見てくれよ! 凄いって、恰好いいって、驚いて、褒めてくれよ! 僕のキックを!」
「……ふむ」
 先に首尾よく少年を保護できたこともあり、ソルはわずかに表情を緩めてドリームイーターを見やる。
「キックが凄いと認めてほしいなら、認めてやろう。だが、その技を身につけるため努力を重ねたのは、お前ではない。お前は仮初の存在……消えねばならない運命にある」
「何を言っているのかわからない! 僕のキックに文句があるなら、力づくで叩き伏せてやる! 死んでも自業自得だからな!」
 乱暴に言い放ち、ドリームイーターはいきなりソルに向かって飛び蹴りを放つ。直撃か、と見えた瞬間、ディフェンダーの空鳴・無月(宵星の蒼・e04245)が飛び込んで庇う。
「邪魔をするな! こ……殺すぞ!」
 表情を引き攣らせながら叫ぶドリームイーターを冷ややかに一瞥すると、無月はキックを受けたダメージなど何もないような態度で、ソルの上着にくるまれている少年に、更に毛布をかける。
 そしてソルが、オーラの弾丸を放ってドリームイーターに痛撃を与える。
「ぐわっ、な、何をする!」
「おいおい、人にいきなり爆裂キック喰らわせておいて、何をするもへったくれもないだろうが」
 憤慨するのと呆れたのが半々くらいの口調で、ソルは言い放つ。
 そして無月が、愛用の槍『星天鎗アザヤ』を振るい、稲妻を帯びた超高速の連続突きを放つ。
「お前は偽者……偽者なんかに……殺されたりしない」
「ぐわあああああああっ!」
 電撃の刺突を受けて、ドリームイーターは大きくのけぞる。
「やめろ、やめてくれ、死んじゃうよ!」
「うーん。人を殺すような真似をする以上、自分が殺される覚悟もしておかなくてはいけない……なんて心得はないのかな?」
 こてん、と首を傾げながら、御足菜・蓮(剣脚のヴァルキュリア・e33882)が、打撃ではなく斬撃の蹴りを放つ。
 ずばっ、と腹から腰のあたりを斬られ、ドリームイーターは悲鳴をあげる。
「ぎゃあっ! な、何だ、その蹴り! 刃物かよ!?」
「ええ、私の脚は剣脚なの。蹴るも、斬るも、砕くも自在」
 ごく当然のように、蓮は応じる。
「あなたのキックとはタイプが違うけど、引けをとるつもりはないわ」
「う……ぐぐぐ……」
 何がいったい、どうなっているんだ、こいつらいったい、何なんだ、と、ドリームイーターは表情を引き攣らせる。
 一方、蓮のサーヴァント、シャーマンズゴーストの『トコヤ』は、マッスルポージングで祈りを捧げ、無月のダメージを癒す。
 続いて、カシス・フィオライト(龍の息吹・e21716)が電撃障壁を展開。無月を含む前衛を癒し、状態異常に対する耐性を付与する。
「ヒーローになる覚悟がないなら、どんなに威力があろうと、その蹴りはヒーローキックじゃない。ただの爆裂キックだ。悪の怪人も時々使う、ありふれた技でしかないよ」
 淡々とした口調で、カシスは容赦なく指摘する。
「そして、自覚がないのかもしれないけれど、君は地球を侵略する悪い宇宙怪物の眷属、デウスエクス・ジュエルジグラットことドリームイーター。ヒーローに倒される役回りなのさ」
「そ、そんな……」
 ヒーローを名乗る気こそなかったけど、まさか、悪の怪人になっていたなんて、そんな馬鹿な、と、ドリームイーターは絶望的な表情になる。
 そこへ堂道・花火(光彩陸離・e40184)が、雄叫びとともに鉄塊剣を叩きつける。
「ヒーローに憧れる少年の純粋な気持ちを踏みにじるようなドリームイーターは、ボッコボコッス! オレだって負けないッスよ!」
「ぐわっ!」
 力任せの一撃で吹っ飛ばされ、岩壁に叩きつけられたドリームイーターは、表情を一変させて呻く。
「……ヒーローだか、怪人だか知らないけど、大勢で一人を袋叩きにするような奴らに、むざむざ殺されてたまるか。僕のキックで、吹っ飛ばしてやる!」
「ヒーローは、多くの人を守るために力を合わせて闘うものさ。助けてくれる仲間がいなくて袋叩きにされるのは、自業自得でしかないよ」
 嘲るとも哀れむともつかない口調で告げながら、シャーロット・ミザリオ(一死報国・e44279)が味方後衛に命中率上昇のエフェクトを及ぼす。
 シャーロットの言葉は、ドリームイーターの耳には入らなかったようだが、続いて放たれたベリリ・クルヌギア(不帰の国の女王・e44601)の呼びかけは、否応なく注意を惹いたようだ。
「シシッ、死死死死死ッ! あぁ……あぁなんと、妾は幸運なことかっ!  眼の前にあんなにも焦がれていた英雄《ヒーロー》が現れてくれたのだ! ありがとうっ! 妾は心からの感謝を述べる!」
 仰々しい口調で告げながら、ベリリは岩山の上から傲然とドリームイーターを見下ろす。
「何故なら、その夢を、その希望を、その心を、自らを正しいと信じて行動する巫山戯た幻想を、全力でぶち壊すことができるのだからっ! 妾は冥府《クルヌギア》の支配者、ベリリ・クルヌギア。そちの魂を黄泉へ誘い、その存在全てを肯定する、敵役であるっ!」
「や……やっぱり、貴様らは悪なんだな!」
 ぎりっと奥歯を噛み締め、ドリームイーターはベリリを見上げる。
(「うーん、彼女が悪役を気取るのは勝手ですけど……正直、一緒にされたくはないですね」)
 でもまあ、私たちが正義だと声を張り上げるのも性に合わないですし、とりあえず黙々と着実に戦いましょうか、と呟いて、八神・秋実(彼岸花と金木犀・e44915)は自分にエフェクトをかけて攻撃力を上げた。

●夢砕け、ドリームイーター、死すべし
「接近して奴の弱点を叩く。シャル、合わせてくれ! 行くぞ!」
「はいっ!」
 ソルの指示を受け、シャーロットは彼の後に続く。
「ハウリング……フィストオオオオオオオオオオオオオ!」
「ぐわっ!」
 ソルの拳がドリームイーターの顔面にめり込み、その身体を縦回転させる。体勢が崩れきったところを狙い、シャーロットはオリジナルグラビティ『英雄剣晶・改【大胆不敵】(フィアーレスヒーロー)』を発動させる。
「もっと強く……皆を守るために! 輝け、インテグレイト!!」
 未完成だけど、これが今のボクの最強破壊技、と、シャーロットは愛剣『技巧剣「インテグレイト」』に使い捨てのカートリッジを装填する。扱いやすさを犠牲に出力を最大まで上昇させ、極限までの攻撃性能を引き出す。
「いっけえっ!」
 極端に重くなり赤熱する刀身を、シャーロットは横薙ぎにドリームイーターに叩きつける。ドリームイーターの皮膚が破れ、そこから血ではなくモザイクが噴き出る。
 そして、噴き出たモザイクはまるで意志あるもののように「インテグレイト」に絡みつき、斬撃を阻もうとする。刀身の赤熱が消え、シャーロットの手にかかる重みが数倍に増す。
(「そんなっ……やっぱりダメなの……? ダメ……ダメ?……ダメ!」)
「……じゃ、なああぁぁぁぁぁぁあいッ!!」
 弱気に傾きかける意志を、気合で強引に持ち直し、シャーロットは全力で「インテグレイト」を押し込み振り抜く。胴を両断したか、と思いきや、ドリームイーターは傷口から大量のモザイクを溢れさせ、身体を繋ぎ止める。
「……倒しきれなかった?」
「いや、だが、大ダメージだ! よくやったぞ!」
 落胆しかかるシャーロットに、ソルが賞賛の声をかける。そして無月が飛び込み、『星天鎗アザヤ』を縦横に振るう。
「……薙ぎ、倒す」
 槍を構え、踏み込みつつ横に一回転した後、真横から激しく叩きつける。遠心力を利用してもう一回転し、再び真横から叩きつける。無月のオリジナルグラビティ『烈薙槍(レッテイソウ)』をまともにくらい、ドリームイーターは文字通り吹っ飛ばされる。
「ぐ……あが……」
 呻きながら、しかしドリームイーターは身を起こす。斬り裂かれ、へし折られた胴体を、大量のモザイクが這い回り、形を整える。人の形をしていても、これは人ではない。その事実をはっきり見せつけるしぶとさだ。
「……手番は回復に使ったようね。蹴ってきたら、相殺とか、打ち返しとか、できたかもしれないんだけどなぁ……」
 ちょっと残念、などと呟きつつ、蓮はオリジナルグラビティ『一斧多砕(ブレイクアックス)』の構えを取る。
「ただ一振りの斧を以って、根源を打ち砕く……」
 呟く蓮の背で、蓮の花のように展開する光の翼が眩い光を放つ。そして次の瞬間、光の翼の暴走による超加速とスライディングで地表すれすれの位置に飛び込み、超重量の斧と化した剣脚を全力で敵の股間に叩き込んで蹴り上げる。
 伝説によると、一振りの斧を持ったヴァルキュリアの女性が一夫多妻(ハーレム)許すまじとばかりに好色なエインヘリアルの股間を一斧多砕(ぼくめつ)する術であり、まともに受けてしまったエインヘリアルの男性は、デウスエクスだから死なないが「終わる」という。
「!!!」
 ドリームイーターの股間が破裂し、またもモザイクが噴き出す。絶叫する表情になるが、声が出ない。口から、鼻から、耳から、目元からモザイクが溢れ出る。いっそ殺してやった方が慈悲ではないかという惨状である。
 そこへカシスが、淡々と告げる。
「さぁ、断罪の時間だよ。無数の刃の嵐を受けるがいい」
 宣告と同時に、オリジナルグラビティ『断罪の千剣(ダンザイノセンケン)』が発動。エナジー状の光の剣を無数に出現、満身創痍のドリームイーターを更に切り刻み傷口を広げる。
「ぎ……ぐあ……が……」
「……もう、いい加減死んだらどうッスか? 粘っても、いいことないッスよ?」
 けっこう真顔で花火が声をかけるが、ドリームイーターは喘ぐばかりで反応しない。それじゃ全力、手加減なしで行くッス、と、花火はオリジナルグラビティ『気炎万丈・旋風斬(キエンバンジョウ・センプウザン)』を発動させる。
「地獄の炎は、力任せに燃やすだけが取り柄じゃない! 火力全開、手加減なしッス!」
 地獄の炎が宿る両腕を振りかぶり、全力で打ち放つことで炎を纏った旋風の形にして相手に叩きつける。全身の傷を覆うモザイクが剥がれ、燃え散り、そのまま消滅するかに見えたが、ドリームイーターは更に大量のモザイクを体内から噴き出させて耐える。
「……はあっ、はあっ、がはっ、はあっ」
 ドリームイーターは大きく息をつくが、それは生物の呼吸とは似て非なるもの。その様子を、少々複雑な表情で見据えていたベリリが、オリジナルグラビティ『Libbu Gis Inbu Ku-Na(シンエンニテヒトハナサカス)』を発動させる。
「生者は麦と葡萄を口にする。種は肉に、花は血に。なれば人こそ命の木……だが、汝は違うようじゃな。モザイクの塊からは、いったい何が咲くのじゃろう?」
 よくわからんが、とにかく喰ろうておれ、と、ベリリは相手の治癒力を吸収する植物の形をした魔法を、ドリームイーターに打ち込む。
 そして秋実が、オリジナルグラビティ『爆裂苦無(バクレツクナイ)』を打ち放つ。
「そこ、です!」
 忍者の使う手裏剣の一種「飛び苦無」の柄に、対デウスエクス用の特殊グレネード弾を付けたものが、ドリームイーターの胸部に次々と突き刺さり爆発する。
 この武器の製作を依頼された者は、普通にグレネード弾を撃つとか投げるとかするのではいかんのか、と聞いたそうだが、秋実は、こっちの方がニンジャらしいと、彼女にしては珍しく強硬に主張。この形で造らせたという。
「が……ぎ……」
 ケルベロスの攻撃を受けるたびに、ドリームイーターは苦しげに身もだえるが、次から次へとモザイクを溢れさせて傷を塞ぎ倒れない。
 するとソルが、きっぱりとした口調で言い放つ。
「いいか、本当の必殺技ってやつを教えてやる」
 告げると同時に、ソルは手にしていたゾディアックソードを投げ捨て、高々と跳躍する。
「よく見ておけ! 此れが俺の、マキシマムだッ!」
 グラビティの噴出で、岩山の頂上よりも更に高く跳んだソルは、午後の太陽を背に、ドリームイーターに向けて必殺のキックを放つ。
「スターゲイザー、アルティメットモード・マキシマムストライク!」
「こ、これが! 本当の! 凄いキックか!」
 獣のように呻くばかりだったドリームイーターが、不意に顔をあげ、輝く粒子をまとって突っ込んでくるソルを見据えて叫ぶ。
 これぞ、ソルのオリジナルグラビティ『シューティング・アサルト・ゲイザー』。獅子の星座の力を備えた紋章を右足に宿し、蒼い光を放ちながら相手を蹴り砕く。
 満身創痍のドリームイーターに止めを刺すには、明らかに威力過剰の技ではあるが、こいつは、これで仕留めるしかない、とソルは確信していた。
 そして、直撃されたドリームイーターは、よろよろとよろめきながら叫ぶ。
「凄い……凄いキックだ……本物だ……これを……これを身に……つけるまでは……これを……」
 死ねない、死にたくない、と呻きながらも、完全に限界を越えたダメージを受けたドリームイーターは、そのまま風に溶け、宙に消えた。
 跡形も残らない虚空を見やり、ソルが呟く。
「ドリームイーターは……デウスエクスは討たねばならない。だが、偽者とはいえ、お前も純粋な奴だったぜ」
 一方、無月は被害者の少年の傍らに駆け寄り、無事を確かめる。
「まだ……気は失ったまま……でも、身体は暖かい……呼吸も、しっかりしてる」
「では、念のために病院へ運びますか」
 応じて、カシスが少年を抱え上げた。

作者:秋津透 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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