雪と共に舞う剣技

作者:なちゅい

●雪化粧の社にて……
 雪のちらつくある日のこと。
 年末年始のこの時期になっても、……いや、この時期だからこそ、頑張る少年がいる。
 高校が休みとなっていたことで、高校1年の丹下・佳春は剣術修行をすべく、毎日朝早くから夜更けまで自転車で数キロ離れた場所にある寂れた社にやってきている。
 その日は雪が舞ってはいたが、彼は敢えて僅かに雪の積もった社の外での修行を選んでいた。
「やっ、たああっ!」
 現師範の立ち上げた我流の剣術道場に通う彼だが、彼はできる限り厳しい環境に身を置いて心身共に鍛錬したいと考え、毎日この場所まで1人で通っている。
 冬休みということで、佳春は日中の時間をたっぷりと使って鍛錬に明け暮れていた。
 そんな彼のそばにいつの間にか、ポニーテールの少女が現われていて。
「お前の、最高の『武術』を見せてみな!」
「……やああっ!」
 少女の声によって、佳春はまるで操られるように少女へと剣を振るい始める。
 しばらく、少女は少年の攻撃を軽くいなしていたが……。
「僕のモザイクは晴れなかったけど、お前の武術はそれなりに素晴らしかったよ」
 一通り技を見極めた少女……ドリームイーター、幻武極(げんぶきわめ)はどこからか取り出した巨大な鍵で佳春の体を貫いた。
「ううっ…………」
 どさりと、雪の上に倒れた佳春。鍵に貫かれたはずの身体に外傷はないが、全く起きる気配はない。
 その代わり、そばには佳春とほぼ同じ背格好をした少年が姿を現していた。
「さて、と……」
 早速、幻武極はその少年に対して拳を突き出す。すると、少年は倒れる佳春よりも見事な剣捌きで幻武極に応戦してみせる。
 軽やかに、舞う如く刀を振るうその少年と拳を叩きこむ幻武極。両者の技は全てモザイクで覆われていた。
 一通り戦い終えた幻武極はにやりと笑い、新たに生まれた少年武術家ドリームイーターへと告げる。
「お前の武術を見せ付けてきなよ」
 少年は小さく頷き、社を後にしていったのだった。

 年末年始のこの時期にも、活動を続けている武術家ドリームイーター、幻武極。
「雪化粧の社にて、舞い踊る剣舞の武術を夢喰いが奪おうとしていると聞きましたが」
 依頼説明に先立ち、ウエン・ローレンス(日向に咲く・e32716)がこの場のケルベロス達に語った。
 ヘリポートにはしんしんと雪が降っている。この雪が深まる前に、現地に移動したいとリーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)は考えていたようだ。
「うん、手早く説明を済ませようか」
 幻武極……。自らに欠損している『武術』を奪い、モザイクを晴らそうとしているドリームイーターだ。
 武術を極めようと修行している武術家をターゲットとし、幻武極は襲撃を繰り返し行っている。
「今回襲撃した武術家の武術では、幻武極のモザイクは晴れないようだね。その代わりに、敵は新たな武術家のドリームイーターを生み出して暴れさせるようだよ」
 出現するドリームイーターは襲われた武術家が目指す究極の武術家としての技を使う為、かなりの強敵となるはずだ。
 幸い、夢喰いが人里に到着する前に迎撃できるようなので、周囲の被害を気にせず戦うことができる。積極的にその撃破を目指していきたい。
「現れる武術家ドリームイーターは、今回襲われる少年武術家とほぼ同じ姿をしているよ」
 高校生の少年の姿だが、明らかに人間離れした力、スピードで手にする刀を振るって攻撃してくる。その全てのグラビティはいずれもモザイクに包まれているようだ。
 現場は福井県小浜市、足くらいの高さほど雪が積もった山道だ。
「雪舞う日の日中、人里離れた場所にある社の外で少年は襲われるようだけれど、生まれた武術家ドリームイーターは己の技を他人に見せ付ける為に人里を求めて山道を歩くようだよ」
 とはいえ、人里まではかなり距離がある為、すぐに到着する状況ではない。
 襲撃現場となった社を目指せば、ドリームイーターと出くわすことができ、戦後のヒールだけで人的被害を考慮せず戦えるはずだ。
「ドリームイーターを倒した後は、少年武術家の介抱とフォローをお願いしたいかな」
 襲われた少年武術家は、襲撃時の記憶がほとんどないらしい。
 また、雪降る中で倒れている為、被害者の少年を社内に移動させて身体を温めつつ介抱し、事情を話すなどしてフォローするとよいだろう。
「武道の高みを目指して修行する高校生……なんか凄いね」
 そう語るリーゼリットも高校生くらいの年代ではあるのだが、それはさておき。
 被害の拡大を防ぐのはもちろんだが、その少年を救う為にも手早く武術家ドリームイーターを撃破したい。
「あと、皆の戦いの経験を話したり、剣術の稽古つけてあげたりすると、彼の為になるかもしれないね」
 実戦経験のあるケルベロスだからこそ、できるフォローがあるはず。リーゼリットはそうして、話を締めくくったのだった。


参加者
蒼龍院・静葉(蒼月光纏いし巫狐・e00229)
セフィ・フロウセル(誘いの灰・e01220)
長谷地・智十瀬(ワイルドウェジー・e02352)
フィー・フリューア(赤い救急箱・e05301)
ウエン・ローレンス(日向に咲く・e32716)
エング・セナレグ(重装前進踏襲制圧・e35745)
神永・百合(黒き迅雷・e37338)
八久弦・紫々彦(暗中の水仙花・e40443)

■リプレイ

●雪降る山道での対面
 福井県小浜市。
 雪の降る昼間に、ケルベロス達の一団が山道を移動している。
「こんな寒い中修行かぁ。ええねぇ、若いって」
 黒豹のウェアライダー、神永・百合(黒き迅雷・e37338)がその身を震わせつつ、被害者の少年について徐に本音を漏らす。
「こんな雪の中でも修業とは、随分と熱心な子だな」
「さっむい中で毎日毎日、キロ単位の距離を通って一日中修行だなんて、……ほんとに本気で強くなりたいんだね」
 剣術少年に感嘆する、長身の八久弦・紫々彦(暗中の水仙花・e40443)。それに、赤ずきんを思わせる姿のフィー・フリューア(赤い救急箱・e05301)が言葉を返す。
「限界の先を挑む、という事だろうな」
 暗色の衣装を纏うサキュバス、セフィ・フロウセル(誘いの灰・e01220)は少年に感心し、ほのかに心温まっていたようだ。
「雪が美しいからと言って、よそ見はしてられませんね」
 微笑を浮かべるウエン・ローレンス(日向に咲く・e32716)は頭上を見上げていたが、倒れているはずの少年のことを気遣って社への道を急ぐ。
 もっとも、その道中でドリームイーターと出くわすはずだが。
「この寒さだ、早急に終わらせて助けないと」
 この道を向かってくるはずの夢喰いと討伐する為、依頼に集中しようと決めたセフィは降り積もる雪を踏みしめつつ駆けていく。

 程なく、木々に挟まれた道路上で一行は敵を迎え撃つこととなる。
「…………」
 そいつは、少年の姿をした剣士だ。彼はケルベロスの姿を確認し、刀に手をかけた。
「自分の理想の姿がドリームイーターになるか。随分舐めた事をしてくれるもんだよな」
 相手を確認し、猫のウェアライダーの長谷地・智十瀬(ワイルドウェジー・e02352)は身構える。
「自ら厳しい鍛錬を行うその姿は、実に格好良いですね。是非続けて欲しいものです」
 巫女装束を纏う蒼龍院・静葉(蒼月光纏いし巫狐・e00229)はふと、巫術を習得した頃のことを思い浮かべつつ、少年の姿を見つめて。
「彼の為にまず、眼前の敵を祓うとしましょうか」
 静葉もまた蒼煌の流星刀に手をかけ、敵を牽制する。相手はこちらにゆっくりと歩み寄りつつ、間合いをはかっている様子だ。
「あなたの武術を僕達に見せて下さい、退屈はさせませんから」
「……一つ、手合わせ願おうかどんな武術だろうか、楽しみだね」
 ウエン、紫々彦もまた、少年剣士の姿をした夢喰いの気を引く。
 相手は夢喰いではあるが、紫々彦は大人らしい態度を崩しはしないものの、相手の使う剣術に関しては好奇心をむき出しにしていたようだ。
 その間に、フィーやモノトーン調のロボットの見た目をしたエング・セナレグ(重装前進踏襲制圧・e35745)が隠された森の小路を使い、自然への被害を軽減させる為に周囲からできる限り木々をこの場から避けさせる。
「佳春くんの本気、ドリームイーター如きに邪魔はさせないよ」
「若者の未来を守るんも年長者の仕事よって、気合入れて頑張ろか」
 フィーも武装を展開し、百合は道路脇に2Lの魔法瓶を置き、地獄となった右腕で日本刀を抜く。
 静葉も、用意した寒冷地パックや水筒をそこに並べて。
「我流の巫剣術では有りますが、お相手を」
 じりじりとよってくる夢喰いへ、彼女は先んじて仕掛ける。
「悪いが彼の為にも、早急に倒させてもらうぞ!!」
 紫煌の両手剣を中断に構えたセフィもまた、仲間と共にグラビティを発していくのだった。

●少年が理想とする剣術
 雪上を向かい来る少年のドリームイーターに対し、智十瀬は考える。
 ――理想は持っていても、他人に作られるもんじゃない。日々の鍛錬で理想は更に高く、より強いものとなる。
「理想はこんなもんじゃないって、分からせてやる」
 後方からではあったが、智十瀬は相手に近づいてから手にする刃に雷を纏わせ、夢喰いの身体へと突き出していく。
 相手に痺れる一撃を与えれば、彼は猫のウェアライダーらしく、素早くその場から飛び退いた。
 直後に頭上から静葉が迫り、敵の後頭部目掛けて流星の蹴りを喰らわせていく。
 だが、敵はそれだけで足を止めることはなく、舞い落ちる雪を思わせるような舞を見せながら、前列のケルベロス達へと切りかかってくる。
 モザイクに包まれた斬撃を繰り出す敵を、一行の中ほどに立つ紫々彦は好奇心を抱きつつもじっと目を凝らして見つめていた。
 やや前に出たセフィも振るわれる夢喰いの刃を浴びつつ、オウガ粒子を飛ばして自身を含めた仲間の感覚を研ぎ澄ませる。
 彼女のボクスドラゴン、シルトも、主に自らの属性を注入して支えてくれていたようだ。
 同じく前線のエングも仲間を庇う位置取りをしながら、ドリルの様に腕を高速回転させて殴りかかっていく。
「俺を倒さぬ限り、好きに動けると思わないことだ」
 殴打によって服を破いた夢喰いへとエングは言い放つが、敵はまるで意に介した様子もなく、次なる一撃の為に態勢を整える。
 その間に、エングのテレビウムが画面に応援動画を流して仲間の回復支援に当たってくれていた。
「何の為に厳しさに身を置くのか……」
 続くウエンが、相手に呼びかける。
 それは、己を鍛える為か。それとも、見せつける為か。
「少なくても、丹下さんは誰かを傷付けるような力を欲した訳ではないと思います」
 思った以上に敵の動きが素早いと感じ、ウエンは重力を宿した一蹴でその動きを止めようとする。
「彼の夢を、穢さないで下さい」
 実際、目の前にいるのは少年の姿を模り、彼の理想を具現化しつつも歪めて生み出された存在だ。
 僅かに動きを止めた敵。一通りその太刀筋を見つめていた紫々彦が雪を連想させる白い刀を振るって夢喰いへと斬りかかり、斬撃痕を僅かに凍りつかせる。
 そいつへと日本刀を手に、正面から飛び込む百合。夢喰いはその対処の為に刃を振るったが、百合は敵の間合いの僅か外側で跳躍して見せた。
「刀使うと思った? 残念、飛び蹴りなんよ」
 宣言したとおり、彼女は相手の頭上を強襲して敵の足を鈍らせる。
「…………」
 だが、ドリームイーターは大きな反応を見せることなく、再びモザイクに包まれた剣戟を繰り出してきたのだった。

 ケルベロスとドリームイーターの戦いは、雪降る中で繰り広げられる。
 彼らが動く度に雪は舞い上がり、その間を互いの刃が一閃した。剣術を使う敵が相手とあり、ケルベロス側も刀剣を操るメンバーが多いのが印象的だ。
 ただ、こちらのメンバーの守りを破り、真空波を放つ敵の刃はモザイクに包まれ、その技を確認するのはなかなか難しい。
「見せつけたい武術も、モザイクまみれじゃぁねぇ」
 これでは、発展途上であっても犠牲者となった少年の方が格上だろうと、フィーは毒づきながらも仲間の回復役として立ち振る舞う。
 モザイクと共に発せられる相手の技を受けたメンバーへ、フィーは紡ぎ糸からレースを編み出して仲間の守りに当たった。
「シルト」
 前線では、セフィの呼びかけに応えた箱竜シルトが腕を広げて飛び出し、雪と共に刃を舞わせたドリームイーターの刃を受け止める。
 両手剣を握るセフィだが、彼女はそれで敵の攻撃をしのぎつつ快楽エネルギーを薄灰のオーラへ変換して。
「この道を貫く、偽り無き正しき輝きを私達に!」
 セフィは斬撃を受けた仲間へとそれを放ち、一時的に気と集中力を活性化させていく。
 ケルベロス達がさらに攻撃を繰り返す中、夢喰いは鮮やかな連撃を見舞ってくる。
「させん、これが俺の役割だ」
 仲間を庇おうと前に出るエング。自身の装甲すらやすやす切り裂く敵の刀捌きに、彼は舌を巻いて。
「中々の攻撃力だな。守りを強固にする」
 敵の刃から仲間を守ろうと、エングは自身の手前にドローンを展開していく。
 それに守られる一人、ウエンは刃こそ使うが、刀剣でなく斧「Galahad」。刻まれたルーンを発動させた一振りで、彼は夢喰いへと重い刃を食らわせた。
 寒い中、服を破かれる夢喰い。傷口がモザイクに包まれる敵は、なおも荒いモザイクで抜刀しながら真空破を飛ばしてくる。
「折角の武術がモザイクで台無しじゃないか」
 目を凝らして見つめていた紫々彦だったが、ついに相手の技を見るのは限界だと感じたらしい。
「相手をしていて随分と退屈だよ。さっさと勝負を付けよう」
 紫々彦の周囲に、寒風が吹きすさぶ。
「白魔よ、吹き荒れろ」
 降る激しい霰は白い渦となり、雪でできた四足歩行の獣を呼び出した。
 一声吠えたその獣は冷気と氷の粒を纏い、夢喰いへと躍りかかって食らいつき、鋭い前足で深く爪跡を残す。
「痛いとこ狙うんも戦術よって、悪く思わんといてなぁ」
 そこを、百合が狙い、傷を重ねるように日本刀を振り払う。
「続きます。……纏うは『煌希』」
 仲間に呼びかけ、静葉が蒼き月の御業で生成した太刀を両手で中段に構えて。
「対なる者を祓う蒼月の一閃を受けよ!!」
 御業の魔力を付与しながら相手に近づいた静葉は、刃を煌かせながら振り払う。
 斬りつけられてたたらを踏んだ夢喰いへ、今度は智十瀬が握る刃を浴びせかける。
 傷が深くなるにつれ、少年剣士の傷口からモザイクが零れ落ちる。
 その存在も徐々にかすれてきてはいたが、それでも舞い落ちる雪と共に少年剣士は軽やかに斬撃を繰り出してきた。
 肩口を斬りつけられ、セフィは桃色の霧を展開して自身の傷を塞ぐ。
 回復と駆け回る箱竜シルト、そして、テレビウムの彼。エングも回復をと動いてはいたが、仲間の攻撃で夢喰いの姿自体モザイクがかり始めている。
 眼光鋭く敵の攻撃直後の隙を見計らい、エングは日本刀で切り上げ、相手の肘や膝を断ち切らんとした。
「飛翔(ロケット)………炎拳(パンチ)! 剣やなくて拳やけどなぁ!」
 動きを止めた敵へ、百合はすかさず地獄化した右腕を飛ばす。
 とはいえ、ウェアライダーの彼女が本当に腕を飛ばすわけではなく、拳の形をとった炎を飛ばし、夢喰いの身体を包む。
 さらに、智十瀬が日本刀を抜刀しながら、風を、空を断ち切る白刃の一閃を繰り出す。
「恰好良い姿見せられて、僕が足引っ張る訳にはいきませんからね! ……ご一緒します!」
 真っ直ぐな彼の剣捌きに目を細めていたウエンだったが、ここぞと連携をと鋭い矛を敵に向けて、炎を舞わせた青い斧を叩きつけた。
 白刃と青い刃を立て続けに受けた夢喰いの体は荒いモザイクとなって弾け飛び、雪の中へ消えていったのである。

●剣を交えアドバイスを
 手早く戦場跡を片付けた一行は、社へ急行する。
 その手前、雪の上に倒れる少年、丹下・佳春を発見した一行。
 セフィが社の中へと運び、エングは持参したバスタオルで佳春の服や体についた雪を拭き取る。
 フィーが持ってきた寒冷地パックの毛布に、カイロを使って彼の身体を温めていく。さらに、フィーは気力を撃ち出し、手足のしもやけを治していた。
 それを見守っていたメンバー達。程なく佳春が目覚めたことで、静葉が蜂蜜入りの生姜湯を渡す。
 ウエンも佳春を介抱しつつ、これまでの経緯を話していった。
 その間に、百合がホットドリンクを振舞う。
「林檎多めで甘口やから飲みやすいよって、皆も如何?」
 それは、林檎、人参、生姜を煮詰め、レモン汁を少々入れたもの。量を用意していたこともあって、百合は仲間にも手渡す。
 道中、コンビニで熱いお茶を用意していた智十瀬も、これにはそっとおかわりを求めていたようだ。
「剣術は繊細ですね」
 佳春の理想の姿となる剣術にウエンは舌を巻く。彼の普段の剣術修行の話を効き、力任せな自分を思い出した彼は眉を下げて苦笑してしまう。
「ドリームイーターは確かに強かった」
 エングは時間差で2種のカイロを使い、佳春に暖をとらせる。
「だが、無差別に振るわれる刃は剣術に非ず。お前の剣は汚されていない。今回の件に折れることなく、前に進んでほしい」
「はい」
 すっかり身体が温まった佳春は、さらに修行をと刀を握った。
 すると、ケルベロス達も腰を上げて。
「『身近な者を護る為』に会得した道半ばの剣ですが、宜しければ稽古のお手伝いをしましょうか?」
「君の武術は、ドリームイーターに狙われる程の実力だ。私とも手合わせ願えないだろうか?」
 静葉が申し出たのに合わせ、紫々彦も挙手する。
「修行なら、私も混ざらせてもらおうか」
 この場に剣士が多いこともあって、セフィも楽しそうにすぐ参加を決めていたようだ。
 その後、佳春は折角のケルベロスとの手合わせだと張り切り、1人1人と剣を交える。
「何度か今回と同じ、武術絡みの敵と手合わせした時を思い出しますね」
 そんな言葉を漏らしつつ、静葉は佳春の相手をしていた。
 ウエンも手伝いを始めたことで、無関係を装っていた智十瀬も身体をうずかせて。
「……俺もちょっとだけ見させて貰うか」
 いざ、指導を始めれば、智十瀬は佳春の剣術の型をしっかりと見つめる。
「剣は武器だけじゃなく、踏み込みも大事だ」
 我流剣術を修める智十瀬。流派が違えば型は変わるが、その足捌き、身のこなしについて彼は重点に教えていたようだ。
「いいね、その調子」
 うまく、佳春が仲間に一太刀浴びせれば、フィーはそれを絶賛してみせた。頼もしい仲間達の助言は、少年にとって大きなプラスとなっていたようだ。
 一通り、仲間達の手合わせを終えた佳春へ、紫々彦は肩を叩いて告げる。
「これからも修行を頑張れよ。君が目指している境地に辿り着けるよう、応援している」
「はい……!」
 その返事に、紫々彦は満足気に頷く。
 徐々に日が暮れてきていたこともあり、百合が修行で疲れた彼にアドバイスする。
「帰ったら40度くらいのお湯にゆっくり浸かって、お風呂上がりにストレッチすると疲れも取れやすいでな」
 剣術道場を営む百合は剣術アドバイスこそ仲間達に任せたが、身体のアフターケアについて語った。
「ほら、あんま沢山言うても困るやろ? それにうちがやってたんは、どっちか言うたらエクササイズに近いやつなんよ」
 鍛錬ばかりに頭が行き、自らの体のことを考えていなかった佳春。帰ったら実戦したいと答える。
「師匠の技を確り覚えるんも大事よってな。頑張りや少年」
「はい、ありがとうございました!」
 自転車で帰宅する少年を百合は最後に激励し、仲間と共に見送るのだった。

作者:なちゅい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月5日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 5
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