元日来たる選定の矢

作者:吉北遥人

 年明けの境内は人々のさざめきであふれていた。
 息を白くして並ぶ長い列の先頭では、若い男女が賽銭箱に小銭を投げ入れていた。吊るされた紐を一緒に掴んで、せーの、と鈴を鳴らす。
 拝殿の屋根が轟音とともに爆発したのは、そのときだった。
 崩落した建材が参拝客ごと向拝を呑み込んだときには、パニックが境内中に浸透している。我先に逃げようとする人々を嘲笑うように、鳥居に二、三、爆炎が咲いた。
「どけどけどけ!」
 他の参拝客を突き飛ばし、一人の中年男性が炎上する鳥居の下をくぐろうと走った。間一髪、砕け落ちる鳥居に押し潰されることなく、走り抜けることに成功する――だが衝撃からは逃げきれなかった。
 震動に足を取られ、鳥居を抜けてすぐの石段を男性が転がり落ちた。踊り場で止まった彼の脚は、通常ではありえない方向に曲がってしまっている。
「いいねェ。いい生き汚さじゃん」
 状況に相応しくない快活な笑声が、踊り場に現れた。
 白髪の青年――いや、シャイターンは、SNSに載せる絶好の被写体でも見つけたかのような表情で、弓を引き絞った。
「他人を押しのけてるときの顔も最高。君を選定するよ。なろーぜ、エインヘリアル!」
 細く助けを求める男性の額に矢が突き刺さった。目を剥いて絶命した男性を、シャイターンはしばらく眺めていたが。
「なんだ、ならないのか。ちぇっ、期待して損した」
 つまらなさそうに翼を広げ、夜空へ飛び去った。惨状をそのままに。


「寒い中来てくれてありがとう」
 集ったケルベロスたちを労い、ティトリート・コットン(ドワーフのヘリオライダー・en0245)はパソコンのキーを叩いた。壁のスクリーンに神社の写真が映る。
「この神社をシャイターンが襲う。時刻は深夜、初詣の参拝客でいっぱいのタイミングだ」
 ヴァルキュリアに代わって死の導き手となったシャイターンは、エインヘリアルを生み出すために自ら『事故』を引き起こしている。建物を崩壊させ、それにより死にかけた人間を殺すことでエインヘリアルに導こうとしているらしい。
「ここが奈良県の春原神社だってことは予知でわかってるけど、事前に防ごうとするとシャイターンは別の場所に目標を変えちゃって、被害を止められなくなるんだ。だから辛いけど、みんなには襲撃が始まってから対処に動いてほしい」
 まずは先んじて神社の敷地内に潜伏する。
 襲撃が起こって、選定対象となる人物が逃げ出すのを確認。
 それから崩れる建物をヒールしたり、ほかの参拝客の避難誘導を行う。
 しかるのちに、シャイターンが選定対象を殺そうとする現場へ向かい、これを撃破する――そのような流れとなるだろう。
「派手に壊されるのは、拝殿と鳥居。そんなに大きな神社じゃないし、この二ヶ所に特に注意すれば救助も避難もスムーズに行えると思う。それからシャイターンと戦う場所だけど、神社に続く石段の、中ほどあたりだね」
 つまりは石段の踊り場だ。複数人で動き回るには狭く、足場も良いとは言えない。踏み外さないよう注意が必要だが、ケルベロスの身体能力ならそこまで苦にはならないだろう。
 視界も月明かりで確保されている。選定対象となった参拝客の男性が大怪我を負っていて、避難させる必要があるが、ほかに巻き込んでしまいそうな一般人はいない。総じて、見た目以上に戦いやすい場所と言えるだろう。
「事前に避難ができないのがほんと歯がゆいけど……できれば誰も犠牲者が出ないよう、事件を解決してほしい」
「できれば、じゃありませんっ」
 ヘリオライダーの曇り顔を吹き飛ばすように言ったのは、レプリカントの娘だ。短く整った赤い髪の下、青瞳がまっすぐな輝きを宿している。
「新年早々、悲劇は起こさせませんっ! がんばります!」
 エピ・バラード(安全第一・e01793)の足下では、テレビウムのチャンネルが頷くようにぶんぶん腕を振っていた。


参加者
桐山・憩(機戒・e00836)
巫・縁(魂の亡失者・e01047)
エピ・バラード(安全第一・e01793)
葛籠川・オルン(澆薄たる影月・e03127)
玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)
九十九折・かだん(自然律・e18614)
イ・ド(リヴォルター・e33381)
雅楽方・しずく(夢見のウンディーネ・e37840)

■リプレイ

●仕事始め
 爆音が夜を震わせた。
 崩落した拝殿の屋根が真下にいた参拝客を呑み込む間にも、炎は夜気を引き裂いて鳥居に着弾している。石段へ続く鳥居が炎上して崩れ落ちる轟音に、人々の悲鳴があがる。
 だがその後に人々の耳を打ったのは悲鳴でも、建物が破壊される音でもなかった。
 先ほど参拝客を押し潰したはずの拝殿の建材が、突如盛り上がったのだ。下から押しのけられるように建材の一部が吹き飛んだときには、粉塵の中、赤い髪の少女が現れている。
「皆様、もう大丈夫です! あたしたちはケルベロスです!」
『ケルベロス』――エピ・バラード(安全第一・e01793)が言い放ったその単語が、さざ波のように境内中に伝わっていく。
「己たちが来たからには安心していい。落ち着いて、誘導に従って避難してくれ。必ず助ける」
 重ねて、拝殿付近に立つイ・ド(リヴォルター・e33381)が大声で呼びかける。その呼びかけは、雅楽方・しずく(夢見のウンディーネ・e37840)の凛とした風の効果もあって多くの耳に届いた。さらにイ・ドの重武装モードの姿を見た人々から、目に見えて恐怖心や混乱が薄れていく。彼らの顔に浮かぶのはケルベロスに対する絶対の信頼だ。
「さぁ、道を照らしますから、着いてきてくださいね。ここを襲ったシャイターンはわたしたちがやっつけちゃいますから、もう心配は要りませんよ!」
 喧騒が静まったタイミングを見計らって、しずくが手にしたランプをかざした。水晶花の優しい光と、夜にも映える彼女の赤い着物が、人々を導く。少しでもデウスエクスから遠い場所へ。
「こちらは危険です。誘導に従い、あちらへ避難してください」
 しずくが人々を先導し、崩落から庇った参拝客たちをエピとチャンネル、イ・ドが助け出している頃、葛籠川・オルン(澆薄たる影月・e03127)は鳥居の修復を終えていた。手近な逃げ道、とやってくる参拝客たちを、割り込みヴォイスを用いながら物腰柔らかく、それでいて有無を言わさぬ口調で追い返す――ここから先は戦場だ。誰一人通すわけにはいかない。
「……始まった」
 ぶつかり合うグラビティの気配を肌で感じ取り、オルンは月下の石段へと視線を落とした。

「君を選定するよ。なろーぜ、エインヘリアル……!?」
 もしシャイターンが殺害を中断していなければ、闇の中から飛来した砲弾はその頭部を消し飛ばしていただろう。
 竜をかたどったその砲弾に皮膚を裂かれながらもバックステップで逃れるが、今度は視界に菊の花が砕け散るような幻影がちらつく――これは!?
「エアライダー憩! 参上! 新年早々互いに仕事たぁ、因果なもんだぜ」
 シャイターンが視界を奪われた一瞬、桐山・憩(機戒・e00836)が飛びついたのは、踊り場で横たわる重傷の中年男性だ。これは仕事だ、と小さく呟きながらしっかりと抱える。
「よし! 準備おっけー!」
「一発で飛んでけエアライダー憩。頑張れ。任せた」
「任せろ。風になる。だから無茶すんなよ!」
 後半のセリフは風とともに流れた。九十九折・かだん(自然律・e18614)が男性ごと憩を持ち上げるや、豪快に投げ飛ばしたのだ。
 急降下というより、もはや飛翔だった。斜面とほぼ平行に、エアライダー憩は矢のようなスピードで石段を地上まで翔破する。着地まで綺麗に決まったのは防具特徴の賜物だ。
「えぇ、うそぉ……」
「因果なもの、か。つくづく同感だな」
 選定対象を一瞬で連れ去られて情けない声をあげるシャイターンに、辟易とした声がかかった。巫・縁(魂の亡失者・e01047)の砲口が油断なく敵の動きを牽制している。
「新年早々人が多い所を狙うとは厄介なものだよ、まったく。年明けで、こうして闘いで開幕とはな」
「新年一に、神さまのそばで仕事できるんだから。幸先良いんじゃね」
「良くないよ! なんてことするんだ! せっかくエインヘリアルにできそうだったのに、台無しだ!」
 前向きな考え方を挙げたかだんに、シャイターンが抗議した。憩たちを狙おうものなら全力で阻止するところだったが、そのつもりはないらしい。
 金属が石床を叩く音が重なった。
「教えてやろう、あいつはハズレだよ」
 珍しく人型状態のウェアライダー玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)が狂月病を抑圧する縛鎖をほどきながら、わめくシャイターンを諭した。アイマスクを外して翠瞳を露わにしつつ、しっとりと悪意をこめて解説してやる。
「褒められた振る舞いじゃあないが、この程度の小狡さはさして珍しくもない。見る目がないな、お前」
「……そうだね。小狡さなら、待ち伏せしてた君たちの方が数段上だよ」
 シャイターンの声は静かだが、毒の刃のように禍々しかった。
「教えてくれた礼に、君たちを選定するとしようか。せいぜい、いい生き汚さを見せろよケルベロス!」

●魔矢
「シシ、年明けから運が無かったなオッサン。逃げる時にした行為は不問だ。絶対に普段するなよ。フリじゃねぇぞ。張っ倒すからな!」
 脚が治って逃げていく男性の背中を見送り、憩は石段をダッシュで引き返した。見上げた先では、踊り場を埋め尽くすように砂塵が巻き起こっている。
「そら、さっきのお返しだ!」
 砂のカーテンを突き破って閃いたのは矢の嵐だ。大半は怒りの矛先である陣内に向かうが、最初の砲撃を根に持ってるのかときおり思い出したように縁に飛んで来る。
「選定といい、逃げ惑う者を狙うだけとは、何と簡単な狩りだな」
 スナイパーライフル並みの精度で迫る速射をアマツが斬り落とし、それでもなお飛んで来るそれを紙一重でやり過ごしながら、煽るように縁が嗤った。
「――ああ、それくらいしか狙えないのだな、これは失礼した」
「調子に乗るなよ、ケルベロス!」
 シャイターンの激昂に同調したかのように、矢が宙空で一斉に軌道を変えた。死角から迫るそれらに気付いたときにはすでに回避する時間は失われている。
 鏃が肉を貫く音が連続した。だが縁の顔面に迫った矢は、横合いから伸びた手が鷲掴みにしている。
「かだん!」
「いい。やれ」
 腕を幾本もの矢に貫かれたまま、かだんは掴んだ矢をへし折った。それが光となって散ったときには、縁は喰いちぎるように自らの手袋を外し、指を弾いている。
「!」
 手元の爆発に、シャイターンの弓を握る力が緩んだ。連射が乱れたその瞬間、砂塵を突き破ったのは陣内の剛腕だ。至近距離の矢をキャスターポジション特有の回避力でいなしつつ、獣化で太く盛り上がった拳が敵の頬げたにめり込む。
 首がねじ切れてもおかしくない一撃にシャイターンがよろめき、そこへかだんが躍り込んだ。よろめきながらも矢を射るシャイターンの対応力は感嘆に値したが、それで止まる彼女ではない。擦過する矢に頓着せず、敵の胸元に靴底を叩き込む。
 そしてシャイターンが上へ続く石段に叩きつけられたのと対照に、蹴撃の反動を利用して、かだんは踊り場を越えて後方へ跳び降りていた。石段の端、細い斜面にまで落下するや、近くまで上って来ていた手を掴む。
 掴む方が無言なら掴まれた方もまた無言。引き上げられる力に逆らわず、憩が跳んだ。一瞬で踊り場の高度に達し、同時に敵を視界に捉える。
「ハッ、雑魚が!」
 ただの嘲笑ではない。言葉に内包するグラビティが敵の脳に襲いかかる。シャイターンが弓なりにのけぞるが――その口から漏れたのは笑声だった。
「勝ち誇るのは早くないかい?」
 直後巻き起こった砂塵は、逃げる間もなく前衛たちを呑み込んだ。さらにそれを突き破って炎弾が陣内に直撃する。膝を折る陣内の喉から、獣じみた苦鳴が漏れた。
「たかだか四人と犬猫三匹で勝とうだなんて、舐められたものだね」
 重ねた武器封じに加え、ウイングキャットたちの清浄の翼で催眠を抑え込めているため、見た目ほど被害は大きくない。とはいえ、この程度の手数ではまだ敵との差は埋まらないのは明白だ。
 だが炎弾を差し向けられても、縁は仮面の下の笑みを崩さなかった。
「舐めたつもりはないが……数もまともに数えられないのには失笑を禁じ得ないな」
「なんだと――」
 気色ばんだシャイターンの掌上で、今しも投じられようとしていた炎弾が砕け散ったのはそのときだった。炎を貫いたエクスカリバールが踊り場の石床に突き立つ。
「お待たせしましたっ! あたしたちが来たからには、もうバッチリですよ!」
 希望のように明るく鋭いエピの声にシャイターンが思わず背後の石段を振り返ったとき、その顔面めがけてチャンネルが飛び掛かった。

●生への執着
 チャンネルが振り下ろしたバール状の凶器は、シャイターンの額を強かに打ちつけた。
 呻く敵にそれ以上構わず、チャンネルは敵の肩を跳び越えて、砂塵に苦しむ前衛たちのもとへ着地した。為すべきことは味方の回復。主からの命令をこのタフガイは忠実に成し遂げる。
「オルン。遅い」
「その分スリルを味わえたかと」
 口の端を上げたかだんに皮肉気に返して、オルンが雷壁を展開。砂塵を弾き散らす。
「向こうが炎でくるのなら、こっちは水を……」
 同じ頃、陣内の体を、水に近い透明な物質が包み込んでいた。Catharsis(ユメノアト)――一時的に姿を変えたしずくが元の着物姿に戻ったときには、陣内を苛んでいた炎は他の傷とともに消え失せている。それでも陣内のそばを彼のウイングキャットが心配そうに飛ぶのが気になるが、ひとまず体力面の不安はないはずだ。
「こんなおめでたい日にまで現れるなんて……」
 しずくが視線を転じた先、額の痛みから立ち直ったシャイターンが警戒するように矢を番えていた。挟み撃ち状態に陥ったその背中はどことなく、本当に正月休みも返上して働いてるような哀愁を誘う。
「可哀想……じゃなくて! 皆の初詣と神社を滅茶苦茶にした罰、受けて貰いますよ」
「罰? ハッ! そんな筋合いないね」
 シャイターンが鼻で笑った。
「こっちは効率よくやってるだけだ。何人死のうが、その中で見込みある奴が見つかればいい。だいたい、あんな生き汚いクズが死んで何の問題があるって――」
「それで『なろーぜ』か」
 平板な声と大振りの一撃がシャイターンを強襲した。イ・ドが先ほど投じた、石床に突き立つエクスカリバールを引き抜きざまに振り抜いたのだ。
「エインヘリアルに『なろーぜ』……とは、ずいぶん軽く宣う……。命の価値。その身で証明して貰うのが、迅速かつ合理的だな」
 イ・ド自身、何がこれほどまで自らを駆り立てているのか、その正体を掴めていない。ただ己の中で何かが叫ぶ――命を軽んじるアレは、滅ぼさねばならぬと。
「何を怒ってるのか意味不明だ!」
「わかりませんか?」
 殴り飛ばされながらも吼えるシャイターンに、エピが切り込んだ。その右腕が高音を奏でながら、超高速で回転する。
「逃げた彼は、勇敢ではなかったかもしれません。それでも許せないのは、人の恐怖に根付いたただ生き延びたいと願う心を『生き汚い』と言ったことです!」
 真っ直ぐ突撃するエピに、弓矢が向く。だがその瞬間、シャイターンが硬直した。
 その足が凍結している。いや足だけではない。冷気は徐々に這い上がり、周囲の空間ごとシャイターンを凍りつかせていく。
「……僕はキミのような、命を軽々に扱う者が一等嫌いなんだ」
 熱のない眼差しでオルンは敵を見た。人間の浅ましさを敢えて露呈させようとする、忌むべき者が凍るのを、オルンは冷徹に見つめる。
 そしてエピのスパイラルアームは凍結ごと敵影を貫いた。氷片と血潮が舞い、血反吐が石床を汚す。腹に大穴を開けたまま、シャイターンがケルベロスたちから遠ざかるように後ずさる。
「逃さねえよ。その性根を、ここで捻り潰すまでは」
 そのよろめきには逃走の意思があった。裂帛の気合いとともに立ちはだかるかだんを退けるように、シャイターンがまた砂塵を巻き起こす。それは身を隠す効果も兼ね、憩たち前衛を苦しめるが――。
「一は花弁、百は華、散り逝く前に我が嵐で咲き乱れよ。百華――龍嵐!」
 大剣『牙龍天誓』を縁が振り下ろした。石床を破砕して地走る斬撃が、砂の紗幕をぶち抜く。
 爆裂したように開いた道に陣内が躊躇なく飛び込んだ。
「なんだ、コイツ……!」
 勢いのままシャイターンを押し倒し、陣内は牙を剥いて咆哮した。その理性なき眼光はもはや人よりも獣に近い。月に侵された凶暴な精神が彼の剛腕を何度も何度も振り上げ、敵へと叩き落とす。弓が真っ二つに折れて消滅した。
「放せ、ケダモノが!」
 殴り返すことで拳の乱打に抵抗すると、シャイターンは陣内に組みついた。そのまま踊り場の端まで転がるや、陣内を引き剥がす反動で自ら石段に転落する。
 執念とも言える逃走だ。重力に逆らうことなく石段を滑り落ちながら、傷んだタールの翼を広げる。
「かつて定命ならざる身であったよしみだ。一つ、キサマに教授してやる」
 脱出を確信していたシャイターンが目を見開いた。その目に映るのは、踊り場を蹴って急速追尾するイ・ド――。
「命は、不可逆だ――『リヴォルターストライク』ッ!!」
 グラビティ・チェインの集中する脚が旋回した。急降下蹴りは瞠目するシャイターンの胸板を砕き、その不死性をも粉砕した。

●初詣
「神様、お邪魔しました」
 石段の修復はなかなか骨が折れるものだった。踊り場をはじめ上から下まで綺麗にし終えて、かだんが鳥居に一礼する。
「新年早々不運でありましたが、どうかお気になさらず」
 オルンがそう言って軽傷の怪我人に治癒を施す。
 拝殿やその他破壊された場所も元通りとなっていた。怪我人の治療と合わせて早く進んでいるのも、的確な避難誘導があったからだ。初詣の列は、今度はケルベロスたちにお礼を言うための人だかりと化している。
 拝む神こそないが捨て置く道理もない、と神社を修復していたイ・ドも参拝客たちに囲まれていた。
「詰め寄るな。ヒールならば怪我人が優先だ」
「固いね、イ・ド。もっと愛想振りまけって。ところでドって苗字なのか?」
「イコイ。お前はジンナイを看ていたのでは?」
「ああ、今も横になってる。なぁ、ドって――」
 陣内は戦いが終わると気絶していた。外傷はなく、狂月病によるものだろう。アイマスクと拘束鎖をつけ直して休ませているが、目覚めなければそのままヘリオンに収容することになる。
 向拝では縁が鈴を鳴らしていた。二礼二拍一礼。完璧な礼節に則って縁が詣でる。しずくとエピもそれに倣った。
(「……早く、皆がデウスエクスに怯えなくてもいい平和な世界になりますように」)
「次はおみくじです! 今年の運勢をみてみましょう!」
 祈り終えたしずくの手をエピが引いて、二人は境内を歩きだした。

作者:吉北遥人 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。