除夜のクレーシャ事件~新たな年にむけて

作者:神無月シュン

 大晦日の深夜、普段は閑散としているこのお寺も、この日だけは初詣を待つ人達があちこちに見える。
 参詣待ちで列に並んでいる者。出会った知り合いに挨拶している者。鐘をつく瞬間を写真に収めようと、カメラを構えている者。
 除夜の鐘が鳴り始める。すると突如、境内にビルシャナが現れ叫ぶ。
「酉年を終わらせてなるものか!」
 ビルシャナの出現に驚き人々が逃げ惑う。
 しかしビルシャナは周りの人々に目もくれず、除夜の鐘を鳴らしていた住職に襲い掛かると、そのまま除夜の鐘を占拠した。

「赤鉄・鈴珠(ファーストエイド・e28402)さんが予想していた通り、大晦日に除夜の鐘を狙うビルシャナの出現が予知されました」
 集まったケルベロス達へと説明を始める、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)。
「ビルシャナの目的は『除夜の鐘を占拠して鳴らさせない事によって、酉年が終わるのを阻止する』というものらしいです」
 ビルシャナは、除夜の鐘の制圧を狙っている為、一般人を襲う事は無いようだが、一般人が慌てて逃げ出して将棋倒しになるといった可能性は否定できない。
「ビルシャナは、どのような障害があっても除夜の鐘を制圧する強い意志を持っている為、たとえ、除夜の鐘を突いているのが『ケルベロス』であっても襲撃をかけてくるでしょう」
 お寺側の協力は既に得られており、除夜の鐘の周囲には一般人が近づかないように、除夜の鐘を鳴らすのはケルベロスに任せる事を約束してもらっている。
「これで、除夜の鐘を鳴らしておびき寄せたビルシャナを迎撃する事ができます」

 戦場周辺は一般人の立ち入りが制限されていて、ビルシャナは『除夜の鐘の制圧』を目的としている為、除夜の鐘を含むお寺の施設を攻撃する事もない。
 そのため、ケルベロスは戦闘に集中する事が可能だ。
「ビルシャナは配下となる信者なども連れておらず、戦闘力も弱めですので、それほど苦戦しないでしょう」

「酉年のビルシャナ事件は今回で最後になるでしょう」
 事件についての説明を終え、セリカが資料を閉じる。
「それとビルシャナ撃破後は、住職等に除夜の鐘を突く役割を代わってもらっても良いですが、そのまま打ち続けても良いようです」
「折角なので、除夜の鐘を皆さんで突くのも良いかもしれませんね」
 近所には神社もあるようだ。
 そのまま初詣など楽しむのもいいでしょうと、セリカは微笑んだ。


参加者
新城・恭平(黒曜の魔術師・e00664)
嵐城・タツマ(ヘルヴァフィスト・e03283)
館花・詩月(咲杜の巫女・e03451)
村雨・柚月(黒髪藍眼・e09239)
志穂崎・藍(蒼穹の巫女・e11953)
シマツ・ロクドウ(ナイトバード・e24895)
プラン・クラリス(愛玩の紫水晶・e28432)
白詰・小百合(ヤンデレ化物ラブハンター・e29502)

■リプレイ


 お寺の入り口に到着する。待ち合わせをしていたり、立ち話をしていたりと辺りには人がごった返している。
 まず向かうのは境内の案内図。ケルベロス達は地図を見ながら最適な避難経路を探る。
 前情報ではビルシャナの狙いは除夜の鐘ということだが、一般人がパニックになって転んだりして怪我でもしたら、折角の初詣が台無しになってしまうだろう。
 それならば予め安全な場所まで避難して貰おうということになった。
「この辺りなら、余計なことをしなければ、一般人に危害が及ぶこともそうそう無いだろう」
 鐘から比較的離れた場所を指さす、嵐城・タツマ(ヘルヴァフィスト・e03283)。
 一同は頷き、避難をさせるために動き出す。
「酉年を終わらせたくないって、どんな煩悩なんだか……たまには家でのんびりテレビを見ながら年越しそば。そんな年末を過ごさせてほしいよホント」
 歩きながらそう口にするのは、村雨・柚月(黒髪藍眼・e09239)。それに館花・詩月(咲杜の巫女・e03451)が答える。
「やろうとしていることはトンチンカン……に見えるけれど、実際に放っておくわけにもいかないし」
「そうなんだよなぁ」
「こんなものかな」
 話をしながら、詩月が通路に看板を立てる。戦闘中に訪れた人が何も知らずに近づかないように注意と、避難場所までの道のりが書かれている。
「嗚呼、これまた珍しい主張を為される素敵なビルシャナの方です。是非とも殺してばらして愛でてあげたいですわ」
 今か今かとビルシャナの出現を待ちわびる、白詰・小百合(ヤンデレ化物ラブハンター・e29502)。
「新年になるまでに、さくっと始末しちゃうから少しだけ避難しててほしいにゃ」
 志穂崎・藍(蒼穹の巫女・e11953)が一般人に避難をお願いしていくと、指示に従って移動していく。
 シマツ・ロクドウ(ナイトバード・e24895)は翼を広げ、上空からビルシャナの警戒と避難の進行具合を確認する。
 皆協力的で、避難はあっという間に終わった。
 避難完了の知らせを受け、鐘の前で待機していたプラン・クラリス(愛玩の紫水晶・e28432)が鐘を衝き始める。
 ゴーーーーーン。
「鐘を衝いている奴はどこだ! まだまだ酉年を終わらせてなるものか!」
 鐘の音が響く中、ビルシャナが現れ叫びながら鐘の側まで駆け寄ってくる。
 突如小百合がビルシャナの目の前に立ちふさがる。
「そのよくわからない理由で一途に一つの事を為そうとする精神……一目惚れしてしまいました。好きです、付き合ってください」
 ――告白である。
「何を言っているんだお前は! 邪魔だ、そこをどけっ!」
 しかし今のビルシャナには、鐘を鳴らすのをやめさせることしか頭にない。小百合はガックリと項垂れるが、すぐに顔をあげる。
「そうですか……仕方ありません。貴方との想い出を持って生きていきます……ですので死んでください、アハハハ!」
 会ったばかりで想い出も何もないのだが……小百合の愛情は愛憎へと変わる。
 突然の変貌にビルシャナもたじろぐ。
「酉年はビルシャナの年というか、ケルベロスがビルシャナを蹴散らした年なんだけどそんなんでも良いと思ったのかニャ? ビルシャナにとって不吉な年だったと思うんだけどニャ?」
「うっ!?」
 藍がビルシャナの心を抉る。
「お前を倒した方が、スカッとした2018年を迎えられそうだ」
 柚月が武器を構え戦闘態勢に入ると、他のメンバーも各々武器を構え始める。
「ずっと酉年では色々差し障りがあるから、退場願おうか」
 新城・恭平(黒曜の魔術師・e00664)の言葉を皮切りに、除夜の鐘の攻防戦が始まった。


「お前が除夜の鐘になるんだよ!」
 柚月が飛び蹴りを喰らわせ、ビルシャナを鐘へと叩きつける。
「殴り納めだ。たっぷり付き合ってもらうぜ」
 よろけている所にタツマの拳が突き刺さる。
「専門ではないけれども、心得はあるからね」
 詩月はビルシャナの腕を掴むと、よどみない動きでビルシャナを投げ飛ばす。
「焼き払え」
 飛ばされたビルシャナはそのまま、恭平の放ったドラゴンの幻影へと飲み込まれた。
「こ……このっ!」
 よろよろと立ち上がるビルシャナ。
「ああ……貴方が好きです……好き好き好きすきすきすきスキスキスキ……愛してる。―――だから私の存在を刻み込んで?―――」
 小百合のナイフが煌めく。
 ふらつきながらもビルシャナが経文を唱え始める。理解不能な経文がタツマの心を乱す。
「訳のわからん経文を唱えやがって……」
「気持ち良くしてあげる」
 プランが桃色の霧でタツマを包み込んで癒す。
「喰らうにゃー!」
「こいつもおまけだ」
 藍とタツマの電光石火の蹴りが立て続けにビルシャナを襲う。
 ゴーーーン!
 ビルシャナが鐘に叩きつけられ、除夜の鐘の1回としてカウントされる。
「ちょっと、鐘衝きそこなったじゃない」
 今まさに鐘を衝こうとしていたプランが2人に抗議する。
「次の年の象徴が縛り上げてやろう」
 恭平が『封魔連鎖』を伸ばし、ビルシャナを締め上げる。
「削り取ります」
 シマツが釘を生やした『コロスマッシャー』を構える。そして動けないでいるビルシャナの頭目掛けて、フルスイング。
 ビルシャナは堪らずに光を放ち、傷の治療をするがケルベロス達の攻撃の激しさに回復が追い付かない。
「硬くしてあげるね」
 指先から光線を放つプラン。
「蒼天に咲きし一輪の桜! 召喚! 桜宮乃姫!」
 柚月の攻撃に藍の降魔真拳、詩月のアイスエイジインパクトが続く。
「撃ち貫くは黒曜の連針!」
 帯電させた無数の黒曜石の針を投射する恭平。
「荒れさせていただきます」
 シマツが螺旋を籠めた武器を何度も叩きつけ、小百合がキャバリアランページを放ちビルシャナを吹き飛ばす。
「釣りはいらねぇ、遠慮せずくたばれ!」
 待ち構えていたタツマが圧縮したグラビティチェインを叩き込むと、ビルシャナは爆発と共に消滅した。


「さて、これで一安心して新年を迎えられそうだな」
 ビルシャナの消滅を確認して、恭平がほっと一息つく。
 各々武器をしまうと、詩月、プランの2人は戦闘で壊れたところがないか修理に向かう。
 シマツは避難場所までの道のりを歩く。途中で怪我をし倒れている者はいないか、そして避難場所に怪我人は居ないか確認するために。
「避難場所に居る皆さん、無事ビルシャナは退治されました。ご協力ありがとうございました」
 怪我人が居ないのを確認し、周囲に声をかける。
「折角だし鐘を衝かせてもらおうかな」
「私もいくね」
 ゴーーーン。
 ゴーーーン。
 柚月とプランは除夜の鐘を一度ずつ鳴らすと、残りはお寺の人に託した。
「一先ず初詣と、おみくじと。初日の出も良いね」
 片付けが終わり、除夜の鐘が鳴り響く中、これからどうしようかという話に変わる。
「こうして元旦をお客として楽しむのも、本当に久しぶり。次はまた、働く側かもしれないし、楽しんでおきたいね」
 普段巫女をしている詩月は、久々に参詣する側として楽しそうにしている。
「もう年も変わってしまうし、せっかくだからこのまま初詣でもしていこうか」
 柚月の言葉に一同が頷く中、タツマが口を開く。
「悪いが、もともと季節行事に興味なんて無い。年が明けようがやることは明日からも何も変わらん。人ごみも嫌いだ……寒いし、蕎麦でも食って帰る」
 片手をあげ、じゃあなと言い残すとお寺に出ていた年越し蕎麦の出店へと歩いて行った。
 蕎麦もいいなと、タツマの歩いて行った方向を見つめるが、初日の出も見るとなると時間には余裕を持たせておきたい。
 タツマを残し、一同は初詣の為、神社へと向かう。
 神社へと着くころには日が変わり、新年になっていた。
『あけましておめでとう』
 所々で声か聞こえる。
 行列に並ぶこと一時間と数十分、賽銭を入れ手を合わせる。
「……今年も良い年でありますように」
 ぼそりと願い事を口にする詩月。
「今年もケルベロスとして面白おかしく過ごせるように!」
 藍も願い事を口に出すが、こちらは周りに聞こえるくらいに元気よく。
 何を願ったのだろうか、他のメンバーも静かに目を閉じている。


「おみくじを引こう」
 最初に言いだしたのは誰だったか、今年最初の運試し。皆でおみくじを引く事にした。
「うむ、今年の戌年は我々三頭犬の年だな」
 『末吉』のおみくじを見ながら恭平。
「いい結果がでてよかったよ」
 『中吉』という結果にほっとしている詩月。
「んー……ま、こんなもんかぁ」
 内容を一通り読み終えると柚月は『中吉』のおみくじを、おみくじ結び所へと結んだ。
「今年もがんばるにゃ!」
 藍は『中吉』のおみくじに嬉しそうにしている。
「良い一年になりそうです」
 満足そうに笑顔を浮かべているシマツの手には『大吉』と書かれたおみくじ。
「まあ運が悪い時もあるよね」
 シマツのおみくじと自分の『凶』と書かれたおみくじを見比べるプラン。
 ずっと悪いわけじゃない、これから運気は上がっていくなど周りから声をかけられる。
「あらあら、どんな結果でも今年が楽しみですね」
 『吉』という結果に悠然と微笑む小百合。しかしその視線はおみくじの恋愛の項目に注がれている。
 おみくじを見せ合い一喜一憂する7人。
「あとは初日の出でも見て、新しい年の始まり、景気よくいこう」
 初詣、おみくじといき、次は初日の出だと柚月。
 近くに日の出を眺められる展望台があると聞き、そっちで初日の出を拝もうと移動を開始する。
 展望台に到着すると、たくさんの人が初日の出を見ようと、今か今かと待っている。
 人の邪魔にならないように隅に陣取ると、のんびりと日の出を待つ。
 プランは神社で配っていた甘酒を飲んで一息ついている。
 ――そして日が昇る。
 徐々に顔を出す太陽が、新しい一年の始まりを告げる。
「おぉ……」
 感嘆の声をあげる柚月。そこら中で同じような声が聞こえる。
 新年を迎えられたことを喜びながら、太陽が昇りきるまで静かに初日の出を眺めていた。

作者:神無月シュン 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月9日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 0
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