除夜のクレーシャ事件~終わりよければすべて良し!

作者:ハル


「フゥー!」
 少女の白い呼気が、宙を舞う。鼻先を真っ赤にした少女は、「寒い?」そう背後から首筋に回された恋人の腕の甘えるように、体重をかける。
 ……見渡せば、甘酸っぱい雰囲気を纏うのは、件のカップルだけではなかった。お揃いのマフラーを身に纏い、ポケットの中で互いの手を繋ぐ学生風の者ら。
「一年……早いものだ」
「私達が歳をとるのも頷けますわね」
 何年経とうとも仲むつまじい様子の老夫婦に、
「こっち見てー! はーい、チーズ!」
 奥社をバックに、撮影を行う家族などなど……様々な人々が集まっている。
 それは、香川県琴平町──除夜の鐘の音と共に年を越そうと、1368段もの階段を踏破し、一年を無事に過ごした幸せ者に送られるご褒美だ。
 ゴーン!
 その時、重低音を響かせ、境内に108回の内の、1回目の鐘の音が。年の瀬に相応しい、ゆったりとしたリズム。参拝客の脳裏には、今年がその音と共に通り過ぎていることだろう。その後も、リズムを崩すことなく、住職は鐘を撞き続ける。
 しかし──!
「酉年は、不滅なり!」
 今年の初めを彷彿とさせるような文言を叫ぶビルシャナの出現で、穏やかな空気が一変する。
「クレーシャ様の邪魔をする気か、このハゲー!」
 唐突に現れ空気を台無しにしたビルシャナは、そんな都合など知ったことか! とばかり鐘をつく住職に襲い掛かると、その無防備な頭を叩いて気絶させてしまう!
「この場は占拠した! 酉年は永遠なり!」
 ザワザワと、参拝客の混乱が増していく中、さっきまで写真の中で満面の笑みを浮かべていたはずの子供達の泣き声が、境内に響き渡るのであった……。


「時神・綾(薬局店長の姫神・e06275)さんが懸念していた事項なのですが、どうやら本当になってしまいそうですね。大晦日に除夜の鐘を狙うビルシャナが出現したようです」
 ケルベロス達を呼び出した山栄・桔梗(シャドウエルフのヘリオライダー・en0233)が、肩を竦める。年末でマッタリ過ごしていたのか、その綺麗な黒髪が少しだけ乱れていた。
「ビルシャナの考える事なので、皆さんも想像はつくだろうと思いますが、彼等の目的は『除夜の鐘を占拠して鳴らさせない事によって、酉年が終わるのを阻止する』……というものです」
 たとえ除夜の鐘が鳴らなくとも、時間は止まらない……桔梗は、そんな当たり前の事も理解できないのかと、憤慨していた。
「幸いな事に、年始と違って、今回のビルシャナは除夜の鐘の制圧を目的としており、参拝客に直接手を出す事はないようです。ただ、参拝客の皆さんはそんな事情は知らないわけでして、混乱から怪我をしてしまう可能性は十分考えられます」
 どうやらビルシャナは、どんな障害が立ち塞がろうとも除夜の鐘を制圧するという無駄に強力な気概を抱いている様子。
「そのため、住職だけでなく、ケルベロスである皆さんが鐘を叩いていたとしても、襲ってくると考えられます」
 お寺側には、こちらからの働きかけで全面的な協力を約束してもらっている。参拝客には、立ち入り制限で対応する予定だ。
「除夜の鐘を鳴らすのは、皆さんのお仕事……という事になりますね。年末年始に面倒な事ですが、これも貴重な体験という事で、襲ってきたビルシャナの迎撃をお願いします」
 次いで桔梗は、現場の具体的な状況について言及を始める。
「鐘がある奥社までは、1368段の階段を上らなくてはなりません。本来ならば非常に混雑し、避難も難しい所ですが、先程言ったように立ち入り制限がかかるため、皆さん以外の人通りはないものと考えて下さって構いません」
 また、ビルシャナはその特性から、除夜の鐘以外の施設に注意を向けることはないだろう。目視でも簡単に発見できるし、除夜の鐘周辺にいればより確実だ。
「戦闘に集中できるのは何よりですが、ビルシャナに配下は確認できず、皆さんが普段相手にしているビルシャナよりも弱い可能性すらあります。年末年始に長々と相手にする敵でもありませんし、一蹴してあげてください」
 戦場に出向くというよりも、鐘撞き体験のついでにビルシャナの相手をするといった認識でも、今のケルベロスの強さならば問題にはならないだろう。
「出現したビルシャナの幹部にあたる除夜のクレーシャは他班に任せ、皆さんは目の前のビルシャナをしっかりと撃破しておいてください。目の前に仕事を果たせば、敵の野望が実現する事はないのですから。清々しい気持ちで戌年を迎えましょう! 戦闘が終われば、住職さんの鐘撞きを聞くのも良いですし、最後まで皆さんでやりきっても良いかもしれませんね」


参加者
ウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)
瑞澤・うずまき(ぐるぐるフールフール・e20031)
ロア・イクリプス(エンディミオンの鷹・e22851)
スノー・ヴァーミリオン(深窓の令嬢・e24305)
アオ・ミッドカイン(空を舞い落ちる星・e24484)
鍔鳴・奏(あさきゆめみし・e25076)
植田・碧(ブラッティバレット・e27093)

■リプレイ


「やった着いたか……あー、だりぃ……」
 連なる階段を見下ろしたロア・イクリプス(エンディミオンの鷹・e22851)は、今にもその場に座り込みそうだった。
「私達にとって1368段程度、苦ではないでしょうに」
 そんな彼を、呆れたように眺めているのは、ウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)。ロアは、「気分だ、気分」そう嘯くが、真面目なウィッカには伝わらない様子。
「でも、こんな年末の……寒い時期にまで出なくてもいいじゃない……そう思ってしまうのも仕方ないとも思いますわ」
 夜空を見上げ、スノー・ヴァーミリオン(深窓の令嬢・e24305)が溜息を。グレイで遊ぶ予定でしたのに……そう口を窄めている。
「できるだけ早く倒して、気持ちよく新年を迎えて、初詣したいわね」
 植田・碧(ブラッティバレット・e27093)が、ヘッドフォンを首に掛けながら言う。
「酉の出番は終わりだー! ワンコさんにバトンタッチさせちゃおう!」
「……だな」
 リーズレット・ヴィッセンシャフト(淡空の華・e02234)が、我先にと奥社の鐘楼へ。後に続くのは、何故か焼き鳥に似た匂いを纏う鍔鳴・奏(あさきゆめみし・e25076)。
「年の瀬にまだまだ働きたいなんて、ビルシャナさんってブラッk──ごふん、ごふん! お暇……なのかなぁ? ととっ! リーズレットさんに奏くんも、待ってよー!」
 今年のビルシャナの獅子奮迅の活躍ぶりを思い返していた瑞澤・うずまき(ぐるぐるフールフール・e20031)であったが、走り出す二人に慌てて追随する。
「もう、もうっ! 何でよりにもよって今!? 相変わらずワケ分かんない事ばっか言ってるし……!」
 最後尾では、アオ・ミッドカイン(空を舞い落ちる星・e24484)が未だブツブツと文句を。ロアが宥めて大分落ち着いたが、まったりした年越しを邪魔され、お冠である。
「そういう事ね」
 碧が、クスリと笑う。
 ロアが疲れていた本当の意味を悟ったのだろう。

「そぉい!!」
 ゴーン!
 リーズレットが渾身の力を込めて鐘を撞く。すると、神聖さすら感じさせる重低音が、境内に大きく響き渡った。
「折角なので、私も一度いいですか?」
「もちろん!」
 リーズレットから撞木を受け取り、次に釣り鐘を叩くのはウィッカ。現代風にアレンジされた紅白の巫女服は、彼女の赤い頭髪とも相性はバッチリであり、場にとても映えていた。
「な、なんかこれハマりますわね! なんというか、手に伝わる感触といい、音といい……!」
「おいおい! 年明けに108回目を撞くって事を忘れんなよ!?」
「わ、分かってますの! 分かってます……けど!」
「けどじゃねぇ!」
 最初こそ乗り気ではなかったスノーが、次第に熱を帯びヒートアップしていく。それをロアが止めるが、奏達が囃し立てることで、なかなか止まらない。結局、今日のロアは、こういった役回りになる定めなのだろう。似合わぬ役回りに、「もう、何やってるの?」アオがようやく笑顔を見せてくれたのが救いか。
「飛んで火に入る夏の虫……かしら。今は冬真っ盛りだけれど」
 その後、皆で撞く回数を調整していると、碧が呟く。その視線の先には──。
「酉年は、不滅なり!」
 絶対の決意を胸に、ケルベロスへと襲い掛からんと迫るビルシャナがいた。


 ──どうしてこうなった!?
 ビルシャナの思考が、鳴り響く鐘の音によって邪魔される。その音は、直接のダメージにはならずとも、暴力そのものであった。全身に鳥肌が……いや、最初から鳥肌か……ともかく、今ビルシャナに襲い掛かるこの現実は、一体!?

『そんなに鐘が好きなら……中に入っちゃったらどうかな? えへへ☆はいっ♪』
『ひゃっはー。奏、鐘を鳴らすの大好きー』

 悪夢の始まりは、戦闘中盤に起こった。抜けるような白い髪に白い肌の女と、緑髪の長髪の男に、鐘の中へ突き飛ばされてから始まった。
「ぐぅ!? 酉年はあああぁぁぁ! まだああああぁぁぁ!」
 ビルシャナは状況を変えようと、閃光や経文で抵抗を試みた。しかし、リーズレットの聖なる光や、ウィッカとうずまきによる紙兵による防御、モラ、ねこさん、響が積み重ねた耐性は、いかにビルシャナがジャマーとはいえ打ち崩すことは困難。
「なんだかごめんなさいね? でも、容赦はしないし、外す気もないわよ?」
 鐘撞きの合間にも、哀れみすら藍の瞳に宿した、ブレザーにヘッドフォン姿の赤髪の女が、無慈悲に弾丸を撃ち込んでくる。
「聞いてみる? 大気に満ちる風の音を!」
 漆黒の髪色をした女は、何故か終始不満そうに。
「全部キミのせいなんだからねっ!」
 なんて叫びつつ、深緑の風でビルシャナの動きを制限してくるのだ。
「うずまきさんと奏……マジ、デンジャラス! でも、なんか音がこもってるような気がしなくもない!」
 ──だったらやめてくれ! 聞いてる人が大勢いるんだぞ!
 金髪の女が、目を丸くしながらも、蒼い炎と体毛のボクスドラゴンと共に突っこんできて、回し蹴りを放ってくる。
「汝、動くこと能わず、不動陣」
 次いで、巫女服にツインテールの女が五芒星を指先で描くと、ビルシャナの周囲に結界が発生し、全身を痺れさせた。
 様々な攻撃により、ビルシャナが解放される気配はなく、そして無駄な覚悟を宿したビルシャナは、口が裂けても泣き言を言うことができなかった。
「そぉ~れっ☆」
 ビルシャナを鐘に中に放り込んだ元凶が、無邪気に笑って鐘を撞く。
「行くよ、ねこさん!」
 そして、機械仕掛けの翼を有するウイングキャットと連携して、動きが静止したビルシャナに縛霊手と爪を突き立てた。
「お焚き上げですわ。私は早く甘酒? とかいうものを飲んでみたいんですの」
 銀髪のお嬢様口調の女が、「ドラゴンの幻影」を召還し、ビルシャナは炎に包まれる。鐘が蓋の役割を果たし、ビルシャナは蒸し焼き状態だ。
「ビルシャナ……お前も苦労してるのだね」
 煙を噴き上げるビルシャナに、緑髪の男が言った。
「お前が言うな!」
 ビルシャナはそう返すが、当の男は飄々と、「ほら、焼き鳥食うか? 美味いぞ?」そう焼き鳥を噛みしめながら、ビルシャナに差し出してくるのだ。
「鬼畜め!」
 ビルシャナの放つ孔雀型の炎が、朱のボクスドラゴンに防がれる。
 反撃に、緑髪の男の弧を描く斬撃が、ビルシャナを斬りつけた。
「アオと、そして何よりも俺の平穏のために、大人しくボコられろ」
 白髪の男の一撃は、振り絞るように。急所へ、痛烈な一撃が叩き込まれる。
 ボロボロのビルシャナ。そんなビルシャナの前で、今度は──。
「さぁ、リトルデーモン達! 今年最後の常闇の堕天使リーズレットのリサイタルだー! 盛り上がっていくぞー!」
 唐突に、金髪の女が歌い始めた。
「こ、この年の瀬に、なんて迷惑な……やつら……だ……」
 そんなおまいうな譫言を残すビルシャナの前であろうとも、問答無用でリサイタルは始まり、法被を着たケルベロス達が歓声を上げる。
「え、何この法被とサイリウム。え、何? ……てかリサイタル……えぇ……」
 一部緑髪の男や、金髪の女の頭の上に陣取るボクスドラゴンなど、死んだ魚の目で視線を交わすのも構わず。
「リーーーズーーー」サイリウムを手に狂い踊る銀髪の女の勢いに、すべては吹き飛ばされていた。『リズ命!』法被の背中に書かれた文字を最後の光景としたビルシャナは、ゆっくりと目を閉じるのであった。


「──ならすのはぁ♪」
 リサイタルも終盤。ギターに覚えのある碧が、即興で演奏を交え、ウィッカ、アオと、アオに肘でつつかれたロアが手拍子を入れている。そして、最後のフレーズを口にしたリーズレットが、スノー、うずまき、奏にマイクを向けると、
(えっ……ええ!? だ、誰なの?)
 うずまきが、目を白黒させる。
「ええぇぇぇ、俺もやんの…? マジで?」
 隣からは、奏の動揺の声。
 だが、口元に押しつけられるマイクと、リーズレットの期待に満ちた眼差しを見れば、何も言わずには終われない雰囲気。
「みーんなー!!」
 そして、うずまきが『みんな』と叫んだ瞬間、
「スぅぅーーノーー!!!!」
 間髪入れずにスノーが自分の名前を叫ぶと、うずまきは(ち、違った!? 空気読めてなかったのかな、ボク!?)そう思い、真っ赤になりながら辺りを見渡すが、誰も気にしてない様子で、ホッと一息。
 テンションのおかしくなっているスノーに玩具にされる奏の隣で、変な汗を掻いてしまううずまきであった。

 そして、時刻はついに年明け1分前。
「行くよ?」
 ゴーン!!
 静謐さを取り戻した境内に、アオの手によって2017年最後の鐘の音が響き渡る。
 そして、始まるカウントダウン。立ち入り禁止が解除された境内で、大勢の人々が見守る中。
 5……4……3……2……1!!
「明けましておめでとう、みんな」
「「「「おででとうございまーす!!!!」」」」
 時刻が午後零時を示した瞬間に、最後の鐘を碧が鳴らす。記念すべき鐘を鳴らした碧は、年明けを喜ぶ仲間と、場を埋め尽くす参拝客を振り返ると、少し恥ずかしそうに新年の挨拶を。


「カップル多くて……その、なんだ……うん」
「だ、だね」
 それぞれ明後日の方向を見ながら、本殿にロアとアオは向かっていた。
「……」
 その際、ロアの手の甲が、アオの手にぶつかる。小さくて、温かい手。
 ロアはそっぽを向き、躊躇しながらも、アオの手を恐る恐る握った。
「……あっ」
 同じくそっぽを向いていたアオが、溢れ出る嬉しさと共にロアの顔をバッと見上げ、口元を緩めながら握る手に力をこめる。
「……ひ、人も多いし、はぐれたら困るしな!」
「……うん」
 誤魔化すように矢継ぎ早に口にした言葉。
(中学生かよ……俺)
 その内容のあまりの拙さに、ロアは呆れ混じりの自嘲する。
 やがて、参拝の順番が回り、バッグから財布を出そうとするアオを、ロアが制す。
「小銭用意してるから。ほら、25円」
「ありがと。なんか今日のロア、気が利くね?」
「うっせ」
 軽口を叩きながら賽銭箱にそれぞれお金を投げ入れ、二人で鈴を鳴らす。二拝二拍手の後、二人が願った事は──。
『世界が平和になればいいな。……あと、アオの願いが叶えば、俺はそれで』
『ずっと一緒に居られますように』
 そんな、互いを思い合う願い。
 寒そうに手を擦り合わせるアオの手を、さっきよりは幾分スムーズにロアが取ると、ロアは気恥ずかしさを紛らわすように、何を願ったのかアオに問う。
 アオはやっぱりそっぽを向きながら、「ロアの朴念仁具合が治りますようにだよっ!」そう答えるのであった。

「私、うどん食べながら日の出が見たい!」
 参拝後、リーズレットが鼻息荒くした提案は、
「おうどん!? わぁい♪ ボクも食べてみたい!」
「付き合うわ、その代わり、美味しい店を選んでくださいな!」
「いいねぇ」
 うずまき、スノー、奏の全面的な賛成で、即決された。
 本来ならば持ち帰りはやっていないうどん店であったが、地元の神社を守ってくれたケルベロスのために、特別に紙パックの器でうどんを用意してくれた。
「セ、セルフだって! どうやるのかなぁ?」
「奏、知ってる?」
「知らん。誰かに手本を見せてもらうしかないな」
「あらっ、次のお客様が来ましたわよ! 教えて頂きましょう」
 うどん1玉が入れられた紙皿を手に、特有のセルフ方式に四苦八苦しながらも、四人は楽しげにワイワイ言い合いながら、うどんを茹で、つゆを入れ、薬味を入れてうどんを完成させる。
「じゃあ次は甘酒だな! スノーさんが飲みたがってたはず! なんなら、皆で飲んでみる?」
「甘酒配ってる所あったよね? うぅ……興味はあるけれど……」
 甘酒くらい大丈夫だ! 興味はあるといううずまきの背中を、根拠のない自信と共に押すリーズレット。
「美味しいものを食べて、飲めるなんて最高ですわね!」
「お前達……本当に大丈夫か?」
 そして、やっぱりテンションのおかしいスノーを、奏は不安そうに、でも楽しそうに口端に笑みを形作りながら見つめた。

「むず痒くなっちゃうわね、ああいうの見せられると」
「同感ですね」
 熱いコーヒーを懐炉代わりに、初詣を終えた碧とウィッカは、初日の出の絶景ポイントだという785段目にハンカチを敷いて腰を下ろし、たまたま見かけたロアとアオのやり取りを回想していた。
「イクリプスさんって、確か27歳だって聞いた覚えがあるのだけれど」
「まるで、中学生みたいでしたね」
 さながら、ウィッカと同年代の少年達のよう。碧とウィッカは、アオも苦労しているんだろうな……そんな事を考えながら、顔を見合わせて笑う。
 そんな二人の元に──。
「うどんと甘酒、買ってきたぞ」
 こき使われているのだろう、大荷物を抱えた奏達が戻ってくる。
「貰っていいのかしら?」
 そう目を丸くして喜びを示す碧に、
「皆で食べるのが一番だ!」
 リーズレットが満面の笑みで頷く。
「ありがとうございます、頂きますね」
 日の出は近い。ウィッカがスノーからうどんと甘酒を受け取り、麺を啜る。
(ウィッカさん、上手に啜ってるなぁ)
 啜るのが苦手なうずまきは、面をぷちぷち噛みきりながら。でも、讃岐うどんならではのコシとのど越しは、それでも十分堪能できた。
「うどん美味ぇ! そういやうどんを食べてたら女子力上がるそうだよ?」
 奏は男らしく豪快に。そして女子力という単語に、うずまきがうどんを食べるスピードが上がる。
「いいですわね、こういう年越しも」
「あ~~れぇ~~?」
 グビグビと甘酒を飲むスノー。対抗するリーズレットは、早くも目を回している。
「大丈夫なの?」
 リーズレットを支える碧。奏が、「送っていかなきゃな」そう言いながら、一旦スノーの膝にリーズレットを寝かせ、鎧に力を注ぎ込むと──。
「……締めはやっぱりこうだろ?」
 リーズレット、うずまき、スノーが、華やかな振り袖姿になる。
 そして、まるでその時を待っていたかのように暗闇が払われ、世界が光に満ちる瞬間。
(……懐かしいな)
 うずまきの脳裏に蘇る、一年前の初日の出。握った手の温もり、彼の煙草の香りが、鼻先を過ぎった気がした。
「今年も皆と一緒にはしゃげますように!」
 しんみりとするうずまきを励ますように、一瞬だけリーズレットが復活し、全力で手を合わせる。
「今年も宜しくなー。楽しい3人さん。もちろん、碧とウィッカもな」
 電池が切れたように再び倒れ込むリーズレットに代わり、奏が言うと、皆が笑顔で応じた。
(今年もデウスエクスを倒して人々を護れますように)
 ウィッカは、初詣で願った祈りを改めて。
 今日という日が、その糧になるように。

「あけましておめでとう!」
「ああ、今年もよろしくな」
 もちろん、例の嬉し恥ずかしカップルもまた、笑顔を初日に照らされていた。

作者:ハル 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月9日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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