除夜のクレーシャ事件~酉年は終わらない!

作者:澤見夜行

●厄介な酉さん
 大晦日ともなると普段は閑散としているお寺にも、参拝客が列を並べる。
 ここ神奈川県は厚木市のお寺でも、その例に漏れない状況だった。
「もうすぐ除夜の鐘がなるぞ」
「楽しみだね」
「日付変わったら近くの神社に初詣いこうぜ」
「いーねー」
「パパー、トイレ行きたい」などなど。
 参拝客でごった返している境内は、老若男女のお祭り状態だ。
 そんな中、いよいよ除夜の鐘が鳴り始めると、静かに年が暮れていくのがわかる。
 誰もが聞き入る除夜の鐘。
 ――しかし。
「酉年を終わらせてなるものか!」
 突如現れた鳥の化物――否、ビルシャナだ。
 ビルシャナは除夜の鐘を鳴らす住職を襲撃し、除夜の鐘を占拠する。
「ここの鐘は我が占拠したのであーる! 何人にも触らせん!」
 そう宣言すると近くにいた住職にも襲いかかり、手が付けられない有様だ。
「デ、デウスエクスだー!」
「鳥よ、大きな鳥が暴れているわ!」
「やべぇ、どうすんだよこれ」
「とりま、逃げようぜ!」
「パパートイレー」
 大混迷極まるお寺に、甲高い鳥の鳴き声が響き渡った――。


 集まった番犬達にクーリャ・リリルノア(銀曜のヘリオライダー・en0262)が説明を始める。
「時神・綾(薬局店長の姫神・e06275)さんが危惧していた通り、大晦日に除夜の鐘を狙うビルシャナの出現が予知されたのです」
 なんでもビルシャナの目的は『除夜の鐘を占拠して鳴らせない事によって、酉年が終わるのを阻止する』というものらしい。
 ビルシャナは、除夜の鐘の制圧を狙っている為、参拝客を襲う事は無いようだが、参拝客が慌てて逃げ出して将棋倒しになるといった可能性は否定できない。
「このビルシャナ、どんな障害があっても除夜の鐘を制圧する強い意志を持っているようなのです。たとえ、除夜の鐘を突いているのが『ケルベロス』であっても襲撃をかけてくるのですよ」
 お寺の協力は既に得られており、除夜の鐘の周囲には参拝客が近づかないように、除夜の鐘を鳴らすのは番犬達に任せる事も約束済みだ。
「つまり、除夜の鐘を鳴らしておびき寄せたビルシャナを迎撃できるのです!」
 ニヤリと、クーリャは笑みを浮かべた。
 続けて敵の詳細情報と周辺状況の説明が入る。
「敵はビルシャナ一体。配下となる信者なども連れておらず、戦闘力も弱めなので、苦戦する事はないはずなのです」
 戦場周辺は参拝客の立ち入りが制限されており、ビルシャナは『除夜の鐘の制圧』を目的としている為、除夜の鐘を含むお寺の施設を攻撃する事もないようだ。
 番犬達は戦闘に集中する事が可能だろう。
 最後に、とクーリャは資料を置くと番犬達に向き直る。
「このビルシャナ達は、除夜のクレーシャというビルシャナの配下のようなのです。
 除夜のクレーシャは、除夜の鐘を武器とするビルシャナで、日本全国の除夜の鐘を制圧した上で、自らの持つ除夜の鐘と共鳴させる事で、日本各地で、酉年が終わるの絶対許さない明王を出現させる野望を持っているようなのです」
 果てしなく迷惑な野望を持つ鳥さんだと、クーリャはあきれ顔だ。
「ですが、日本各地のお寺で起こる事件を阻止できれば、この野望が果たされる事はないのです。
 除夜のクレーシャ本体の撃破には別のケルベロスのチームが向かっているので、酉年のビルシャナ事件は今回で最後になるはずなのです」
 そこまで言うと、クーリャは「そうそう」と付け加える。
「ビルシャナ撃破後は、住職さん達に除夜の鐘を突く役割を代わってもらっても良いのですが、そのまま打ち続けても良いようなのです。
 折角なので、除夜の鐘をみんなで突くのも良いかもしれないのです! そして全て終わった後には、近所の神社に初詣に行ってくるのもよいかもですね!
 大晦日の忙しい時期ですが、どうか、皆さんのお力を貸してくださいっ!」
 ぺこりと頭を下げたクーリャはそうして番犬達を送り出した。


参加者
福富・ユタカ(慕ぶ花人・e00109)
三和・悠仁(憎悪の種・e00349)
京極・夕雨(時雨れ狼・e00440)
レカ・ビアバルナ(ソムニウム・e00931)
小山内・真奈(おばちゃんドワーフ・e02080)
ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)
朱藤・環(飼い猫の爪・e22414)
彩葉・戀(蒼き彗星・e41638)

■リプレイ

●酉年は終わらない!
 大晦日二十二時半。一年の終わりの日はいよいよその役目を終える時間が迫っていた。
「それじゃ、じゃーんけーん、ぽん」
 ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)の提案で、襲い来るビルシャナを誘い出す鐘つきの役目を鐘を、突いてみたい者達でじゃんけんで決めようとしていた。
 幾度か相子を繰り返し、勝者が決まっていく。
「カカッ! どうやら妾に決まったようじゃの」
「くぅ~あそこでグーを出せていれば!」
 彩葉・戀(蒼き彗星・e41638)が勝利を喜ぶ。悔しがる福富・ユタカ(慕ぶ花人・e00109)に小山内・真奈(おばちゃんドワーフ・e02080)が「残念賞やな、飴ちゃんいるか?」と飴を渡した。
「一度叩きだせば零時までに百八回叩かねばいかんからのう。戦闘中も手が空いたもので叩くのがよかろう」
 戀はそういうと、鐘突きの用意をする。鐘を突かない他の面々は、近くの物陰へと隠れた。住職から軽く説明を受けた戀が、一度目の鐘を鳴らす。厳かな鐘の音が、空高く響き渡る。
「……実に厳かでよい音ですね。でも近くで聴くとすごい音圧ですね」
「やっぱり結構耳に来ますね。びりびりするや」
 レカ・ビアバルナ(ソムニウム・e00931)と京極・夕雨(時雨れ狼・e00440)がビリビリと響く音に耳を塞ぐ。
「何回鳴らしたところで来ると思う? 僕は三回目に来ると思う」
 ヴィルフレッドが、間違ってたらお賽銭に千円だすよと、賭け事を楽しむように言った。
 鐘がゆっくりと突かれていく。
(「……私は煩悩、瞋恚を抱えて生きると決めましたが、この音はきっと、誰かのそれを、断つのでしょうね」)
「ああ、今年も終わるんやな」
「除夜の鐘の音を聞くと実感しますよねー」
 真奈と朱藤・環(飼い猫の爪・e22414)を初め、隠れる面々が思い思い今年が暮れゆく事を実感する。
 と、ヴィルフレッドが予想した三回目の鐘が鳴ったそのとき、不意に気配を感じる。
 この場は殺界形成により人の気配はなく、住職達も退避している。近づくような人物はいないはずだ。
 緊張の面持ちで様子を伺うと、そろそろと人影が鐘の方へと近づく――否、人影ではない、鳥影だ!
 そろりそろりと鐘を突く戀へと近づきながらその大きな羽根を広げる鳥、もといビルシャナは、満を持して甲高い声をあげた。
「酉年を終わらせてなるものかー!」
 気配を察知していた戀が落ち着いた様子で振り返る。
 隠れ潜む仲間達に合図を送れば、すぐに奇襲が開始された。
「隙ありや!」
 飛び出す番犬達が容赦ないグラビティをぶつけていく。
「うわ痛っ、なんだ貴様らはー!」
 いきなり背後から攻撃を受けたビルシャナはもんどり打ちながら悲鳴染みた怒声をあげる。
「ケルベロスです……お覚悟を」
「酉年はもう終わりだよ、あきらめるんだね」
「戌年でもいいじゃないですか。鳥がなくなるわけでもなし」
 三和・悠仁(憎悪の種・e00349)が名乗りをあげ、ヴィルフレッドと夕雨が辛辣に言葉を浴びせる。
「ならんならんならーん! ええい、ジャマだ! どけぃどけぃ!」
 起き上がるビルシャナが威嚇するようにその大きな羽根をバサリと広げ、弱々しい殺気を放つ。
「では、さくっと酉年には退場してもらい、新しい干支を迎えるとしましょうか。ね、えだまめ」
 夕雨の言葉にサーヴァントのえだまめが一吠えすると、それを合図に番犬達も武器を構えた。
 酉年を終わらせまいとするビルシャナとの戦いが幕をあけた――。

●ゆく年くる年
「クケェ――!!」
 雄叫びをあげながら襲い来るビルシャナ。
「うわぁ、あのビルシャナ酉年だからって舞い上がってるよ…鳥だけに。折角の大晦日を邪魔させないよ?」
 ヴィルフレッドはその大振りな一撃を易々と躱すと、氷結の螺旋を放ちビルシャナの羽根を凍り付かせる。
「君で! 除夜の鐘を! 鳴らすんだよぉ!」
 凍り付いて慌てるビルシャナに螺旋の力を込めた掌を当て、衝撃で内部を破壊すると同時に蹴り飛ばす。蹴り飛ばされたビルシャナが見事、除夜の鐘に命中し、大きな鐘の音を鳴らした。
「鐘を盗んだら酉年が終わらないってどういうことなんや?」
 真奈がビルシャナへその真意を問いただす。ビルシャナは起き上がりながら「ククク……」と笑みを零した。
「除夜の鐘が鳴らなければ年が明けず、さらに我らが除夜のクレーシャの鐘と共鳴し、酉年終わるの絶対許さない明王が出現するのだ! これで酉年は終わる事なく続いていく! どうだ恐ろしい計画だろう!」
 バサバサと羽根を羽ばたかせながら、ベラベラと計画を全て話すビルシャナ。呆れた顔で真奈は肩を竦めた。
「やれやれ、計画はともかくケルベロスから鐘を盗み出そうとするなんて、おばちゃんたちもなめられたもんや」
 それだけいうと、一気に肉薄し電光石火の蹴りを見舞う。大げさな悲鳴をあげながら、またも除夜の鐘にぶつかり鐘がなった。
「鐘が鳴らないからって酉年が終わらないってこともないですって……酉年はまた十二年後の楽しみにしましょうよ」
「十二年も待てるかっ! ええいこうしてくれる!」
 経文を読み出すビルシャナ。催眠効果のあるそれに対し、すぐさま環が紙兵を散布する。
「てええええい!」
 環が猫のようにしなやかに駆けビルシャナの構造的弱点を突く一撃を放つ。もんどり打って悶えるビルシャナ。その隙に鐘に駆け寄り鐘を突く。
 追撃は止まらない。夕雨と悠仁がビルシャナへと駆ける。
 夕雨は気を咬む弾を放ちながら肉薄すると、番傘型の槍で神経を焼き切る高速の突きを繰り出す。そうしてビルシャナの動きが止まると、悠仁が飛び込み地獄の炎纏う一撃を放った。
「祓われ流れた不浄の掃き溜め。打ち捨てられた罪に穢れ。怨み憎んだ悪念の果てよ。嗤え。遂に今、求められたのだと。【八針爾取辟久】!! 」
 悠仁はすぐさま間合いを離すと、儀式を組む。蔓延する呪いが歪な草木の形となってビルシャナの傷口を大きく広げていった。
 苦しむビルシャナの横で夕雨が鐘を突いた。
「ぐわわあー、おのれ、おのれぇ!」
 すでにボロぞうきんのようにずたぼろなビルシャナは健気に反撃を試みるが、その効果は薄い。
「ユタカさん!」
「任せるでござー」
 レカが竜砲弾の雨を降らせ、ビルシャナを釘付けにすると、その弾雨を縫うようにユタカが疾駆する。
「酉シャナはもう終わりの時間でござるよ!」
 卓越した技術からなる一撃を放ち、返す刀でその傷口を切り広げていく。
「これはおまけ!」
 レカの放つ心臓を貫くエネルギーの矢がビルシャナに直撃する。催眠に陥るビルシャナは頭を振った。
 あっという間に瀕死となったビルシャナは、しかし、その身体を支え鐘を奪い取ろうと襲いかかる。
 しかし多勢に無勢、戦闘経験豊富な番犬達の前に為す術がない。
「全く、年末じゃと言うのに、賑やかな鳥頭じゃの。酉年を終わらせない、そのようなことがかなってしまえば、来るべき未来というものも来ぬことになるからの。煩いのはさっさと黙らせて、年越しを楽しむとしようかの」
 戀が武器を構え集中する。
「この身は世の為、人の為万物の為、万物の神々の為に捧ぐ者成り。星より出し命の灯火、此処に集いて、妾と共に撃ち抜かん。いざ参ろうぞ!」
 戀が使役するエネルギー体が召喚される。死者の安息を祈る曲を奏でれば、死者の魂が呼び寄せられその身に纏う。
 戀が地を蹴りビルシャナへと突撃する。蒼き光を纏った彗星の如きその一撃は絶大な威力をもってビルシャナへと直撃し、奏でられた曲が終盤へと迎えば、そのレイクイエムが追撃を生み出しビルシャナを吹き飛ばした。
 鐘へとぶつかるビルシャナが、除夜の鐘を響かせる。
 ――だが、まだ倒れない。
「そろそろ戌にその座をお譲りいただきましょうか」
「お、おのれ、来年は番犬の年だといい気になりおって!」
「まだ諦めてへんのか?」
「誰がうまいこといえとっ、しつこい!」
 業を煮やした番犬達の一斉攻撃が、確かにビルシャナの息の根を止めた。
「酉年フォーエバー!!」
 謎の断末魔を残したビルシャナが消滅していく。
「ふふん、楽勝でしたね」
「また12年後やな」
「さ、続きを突こうか」
 勝利の余韻に浸りながら、番犬達は交替しながら除夜の鐘を突くのを再開する。
「さて、滅多にない機会じゃ、妾も突かせてもらって良いかのぅ?」
「なんか、楽しそうやないか。おばちゃんも混ぜてや」
 終わりゆく年に想いを馳せながら、来る年に未来を思い描いて。
 鐘の音が空に響いた。
 年が明ける――。

●新たなる年を迎える
 ビルシャナを退治したお寺のそば、小さな人の少ない神社に悠仁が参拝する。
 一人皆とは別れて別行動をとっていた。大きな理由はないし、このあと合流する予定でもある。あえて言えば、人混みを避け、ただ一人、参拝したかったのだ。
 両目をあけ、合わせた手を解く。何を願ったのか、それは悠仁の心に仕舞われた。
 ……叶うのであれば、それは自分ではなく、善き人の願いでありますように。
「さて、いきましょうか」
 悠仁は一人呟くと、皆が待つ神社へと歩みを進めた。
「折角故、着物を着て下され……!」
 ユタカがこっそり持ってきたトランクに着物一式セットが入っていた。
 ユタカは橙の着物を選び、友人である夕雨には紫、レカには桜色の着物だ。
「えだまめ先輩にはこれを……」と和風柄の紫の首輪を付けてあげる。
「これは……えだまめ可愛いですね」
「着物はまだありますゆえ、他の方も良かったら是非来てくだされ!」
 そういってユタカは皆に着物を配っていった。
「んー! こういうオフもたまにはいいね」
「こんなふうにわいわい初詣行くのもいいもんやな」
 お寺に現れたビルシャナを退治した番犬達は皆で着物を着こなしながら初詣に出向く。参拝場所は現場から二駅離れた地元一番の神社だ。
 池にかかる石造りの橋を渡り参道へとはいると、大勢の参拝客が見えた。
「へえー結構大きいね」
「八方除けで有名みたいですよ、千六百年も歴史があるとか」
 環の言葉に、レカがパンフレットを見ながら答える。
「しっかしほんまに人おおいなぁ」
「この辺一帯の神社の中では一番大きいですからね、やはり参拝客も多くなるのでしょう」
 真奈が人の多さに驚きを口にし、夕雨が事前に調べた知識を披露する。
「活気溢れた光景こそ、無事に新年を迎えられた証ですね」
 レカが微笑む。釣られて仲間達も破顔した。
「参拝のマナーがあるのですー」
 指を立てながら環が言う。まずは手水舎からだと仲間達を連れて行く。
 右手で柄杓をとり、左手を清める。次は持ち替えて右手だ。
 もう一度持ち替えると左手に水を溜め口をすすぎ清める。
 最後にもう一度左手を清めれば、終わりだ。
 柄杓の柄に水を伝わらせながら柄杓自体を清め、元の位置に戻す。
「参道は端を歩くんだよね。とはいえさすがに初詣で人が多いとそうも言ってられないけれど」
 ヴィルフレッドの言葉に頷く。参道は参拝客で渋滞を起こしている。これでは真ん中にいては行けないとは言えないだろう。
「甘酒とか御神籤もあるでござるな」
「あとで行きましょう。私は当然大吉を引きます」
 ユタカと夕雨が楽しげに境内を見回し、会話する。レカもそれに混ざり笑顔の華を咲かせた。仲良し三人組だ。
 幾許かの時がすぎ、ようやく賽銭箱の前まで辿り着いた面々は、賽銭を投げ入れ鈴を鳴らすと、二礼二拍一礼。
 それぞれが願いを込めて祈る。願いは皆それぞれだ。
 ――今年も皆で楽しく元気に過ごせますように。
 ――また来年も元気にケルベロスとして、大好きなみんなとこの日常を守れますように。
 参拝の最中、一年の記憶が次々と沸き上がってくる。いろいろなことがあった。特にヴィルフレッドはその思いが強かった。
 身長が160cm越えたり、皆と馬鹿やりながらスイーツを食べたり、失伝者を助けたり……。そして螺旋忍法帖防衛戦では――ママへと引いた引き金の重みを思い出す。
 辛い事も楽しい事も、乗り越えてまた来年も同じように初詣へ来たいと思った。
「よし、参拝終わり!」
 参拝が終われば、あとは初詣を楽しむだけだ。
「みんなお待たせ」
「あ、悠仁さん!」
 悠仁が人混みから抜け、合流する。八人が揃った番犬達は早速初詣を楽しむ。
「では、さっそく御神籤を引きましょう」
 皆で御神籤を引いていく。
「小吉でござる」
「わ、大吉だ」
「ぐぬぬ、小吉」
「小吉ですね」
「吉やなぁ」
「僕も小吉」
「中吉でしたー」
「ほう、吉とでたのう」
 結果として、小吉をユタカ、夕雨、レカ、ヴィルフレッドが引き、中吉を環、吉を真奈、そして大吉を悠仁が引いた。
「三和さんだけ大吉かー」
「たまたまよかったですね。悪くてもそれはそれで……そういうものなのだと、思います」
「中吉と吉ってどっちが上でしたっけ?」
「大吉、吉、中吉、小吉って順番らしいですけど、神社によっては大吉の次に中吉がきたりもですね」
 でた運勢は様々だが、きっと皆に良い事が待っているだろうと思われた。
 幾人かは、引いた御神籤を結んでいく。
 レカは平穏な日々を過ごせるように願いを込めた。
 恋愛運が気になる年頃の環は、「冷静になれば縁がある」と書かれた御神籤を大事にしまう。素敵な出会いがあれば良いと思った。
 その後は甘酒を飲んだりお守りを買ったり。番犬達は思い思い初詣を楽しむ。
「甘酒も良いのぅ。この感じ、たまらんわぃ」
「ふふふ、私もこの濃厚だけどやわらかな甘さ、好きなんです」
 戀とレカが甘酒を楽しみながら振る舞われていたお餅を口に運ぶ。ゆったりと過ごす深夜の元旦。戦いの疲れも癒やされていく。
 そんな甘酒を楽しむ横で、夕雨とユタカが互いにお守りを出し合っていた。
「今の今まで完全に忘れておりましたけど、誕生日おめでとうございます」
「では拙者からも……あ、レカ殿の分もあるでござるよ」
「まあ、ありがとうございます」
 共に渡されたお守りは健康祈願だ。
「ケルベロスは危ないことも多い故……まぁ、お二人の実力も知っておりまするが、一応」
「ありがとうございます。ちなみに私昨日の大晦日が誕生日でした。札束風呂のプレゼントじゃないのが残念ですが、お守り大事にしますね」
 煩悩に塗れた願望を口に出しつつ、そんな冗談に笑い合う。
「カカッ! 新たな一年、今年も恩返しのために、頑張るとするかのぅ」
 ケルベロスに恩義を感じている戀が、快活に笑った。
 釣られるように、えだまめが大きく遠吠えを響かせる。今年は自分の年だと主張していた。
 今年一年、数多の事件と関わってきた。辛い事、悲しい事もあったけれど、より良い出来事もあったはずだ。
 新しい年。今年はどんな出来事が待っているだろうか。
 今はただ、訪れる未来を楽しみにするとしよう。
 明けまして、おめでとうございます――!

作者:澤見夜行 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月9日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 5
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