ある恋の裏側

作者:雨乃香

 随分と前に潰れ、最近ではまったく人の寄り付かなくなった古びた廃工場。
 街の中心から離れたその場所に普段人が訪れることはないのだが、その夜、その場所には、十人近い、どこか目の焦点の合っていない人々が集まり座していた。
「私はかつてネット上で女性を演じ、たくさんの男性から沢山の金品をせびった」
 その中央、声を張り上げて喋るのは、白い羽毛に覆われた体と、翼の様な腕を持ちながら、人々を言葉で誑かす異形の怪物、ビルシャナであった。
「きっかけはとあるネットゲームであった、そこでなら私は美少女として皆にチヤホヤされ、誰もが私を愛してくれたのだ」
 その場にいる誰もがビルシャナの異形を気にかけることなく、ただ淀みなく語られる言葉に耳を傾けていた。
「私はリアメスを装い、時に金品をせびり、人々を騙す事もあった、だがそれは果たして悪事であっただろうか? 私と同じ時を過ごした仲間達は皆、楽しいと言ってくれた。本来外に出る事もままならない廃人の彼らに私はしっかりとした夢を与えたのだ!」
 徐々にビルシャナの語り口には熱がこもり、身振り手振りもまた大げさに、演技がかる。しかし、それを聞く人々はその内容に聞きいり、歓声を上げ、咽び泣く者までいる始末だ。
「ばれなければ誰も悲しむ事はない! 私は貰った金品で豊かに暮らし、彼らは一生訪れなかったであろう楽しい時間を過ごせた! つまりwin-winの関係なのだ!」
 高らかに自らの行った過去の悪事を美化し語るビルシャナと、その話に感化され信者と化した人々。
 異様な光景を見咎める者はこの場には居らず、ビルシャナは高らかに声を上げる。
「汝らもその心の理想を追い求め、電子の世界に幸せを布教するのだ!」

「SNSで見栄や嘘を吐いて、自分を良く見せようとする、なんて事、だれしも経験があると思うのですが、皆さんはどうでしょう、そういうことをした事はありますか? ニアは今のままでパーフェクトなので、そんなことをする必要もなく臆面なく自分を曝け出していますが」
 ふふん、と、擬音でもつきそうな態度でニア・シャッテン(サキュバスのヘリオライダー・en0089)は無い胸を誇らしげに反らしながら、やってきたケルベロス達にドヤ顔を見せ付けつつ、こほんと小さく咳払いをしてから、彼らをこの場へと集めた本題へと話を移す。
「しかしまあネット上の見栄や嘘、自分の口にした言葉は、そのままネット上の自分を作り上げる魔法の言葉です。そんな魔法を使って悪事を働いていた人間が悟りを開きビルシャナとなった人が、新たに信者を獲得しようと動き始めたようです」
 ただでさえビルシャナの言葉には強い説得力があるというのに、そんな人間がビルシャナ化してしまったら配下がものすごい速度で増えてしまうかもしれませんね? とニアは楽しげに笑いながら更に詳しい話をはじめる。
「今回はつまるところ、ビルシャナが信者を増やそうと活動している場へと殴り込みをかけ、そのビルシャナを撃破してきて欲しいというわけですね」
 ニアの話によれば、このビルシャナが根城にしている廃工場内部にはすでにその話を聞きに着ている人間が十人程存在しており、ほうっておけば彼らはビルシャナの信者となり、ケルベロス達へと攻撃を仕掛けてくるだろう、という事だ。
「こちらを傷付けてくるよう事はできませんが、相手のビルシャナが彼らを盾にするということは十分に考えられます。何かしらビルシャナの主張を覆すようなインパクトのある言葉で彼らを説得して正気に戻してあげてください。そうすればすぐにその場から逃げ去ってくれるかと」
 屁理屈のぶつけ合いではビルシャナの力がある分あちらに利があるので、とにかく勢いと思いでごり押しましょうと、あっけからんとニアは言い放ってフフっと笑って見せる。
「相手さんは所謂姫と呼ばれていた人種です、男性の心の機敏を捉えることはお手の物、ですが、現実では可愛らしいアバターもなく、見た目は鳥人の化け物となればその求心力はいかがなものでしょうね? 一応誘惑されないようにお気をつけてくださいね?」


参加者
佐藤・みのり(仕事疲れ・e00471)
橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)
シェイ・ルゥ(虚空を彷徨う拳・e01447)
八崎・伶(放浪酒人・e06365)
六・鹵(術者・e27523)
猫夜敷・愛楽礼(白いブラックドッグ・e31454)
エミリ・ペンドルトン(ビルシャナを逐う者・e35677)
クオン・エクレール(血桜紅月・e44580)

■リプレイ


 久しく前に潰れ、人の寄り付かなくなった廃工場。
 その白い壁もすっかり汚れ、夜闇のなか、うっすらと浮かび上がるだけで、ふっとその建物がある日なくなったとして気づける人間は果たしてどれほどいるだろうか。
 そんなだれからも忘れ去られた工場の中、残された長机と椅子の立ち並ぶ一室に、液晶の明かりが点々と浮かび上がっていた。
「よいか皆の者よ、口調は控えめな敬語、多少なりとも料理や家事の知識はあったほうがよいぞ。特にお菓子だ、実際に作ってみるのもまた一興」
 その部屋の中、携帯端末を片手にメモを取る信者達の前で、自らの行ってきた悪事とその手口について自慢げに語るのは、人と鳥を掛け合わせたような外見の異形の怪物、ビルシャナであった。
「各々が理想の自分になるために自分なりにアレンジしていくのだ。自分の中の女性の理想像、それは言い換えれば男にとって都合のいい女性像なのだ。男受けしないわけがない、自信を持つのだ、そして作りこめ。理想に穴などあってはならない。どこからどう見ても完璧な女性を演じきる、それが姫への第一歩なのだ!」
 その言葉を拝聴するのは、姿や背格好、それぞれに差異はあれど皆同じ男性であり、その誰もがビルシャナの言葉に少なからず共感を覚え、信者として彼に心酔していた。
 そんな異様な光景の中、ビルシャナの語りを遮るかのように轟音が鳴り響き、施錠されえ知多扉が弾けとんだ。
「おーおーよく喋るチキンだな、おい」
 扉のなくなった出入り口から顔を出したクオン・エクレール(血桜紅月・e44580)はビルシャナの顔を見るなりそう呟いて部屋の中を見回す。
 ビルシャナと信者、どちらもが突然やってきた招かざる客に対し警戒と驚愕の視線を向けて一歩その場から後ずさっている。
「神聖な集会場にずかずか土足でと入り込むとは何奴だ!」
 信者の一人が立ち上がり、荒々しく声を上げる。
 それに続き入ってきたのが細身の少女一人と知ると他の信者達も声を上げて立ち上がる。
「姫を攫いにきた地獄の番犬っていうのはどうかな?」
 そんな彼らの言葉に答えたのは、クオンの後ろからひょっこりと顔を出した六・鹵(術者・e27523)であった。
 さらにその後からぞろぞろと続いて、入ってくるケルベロス達を前に、引くに引けなくなった信者達は、唇を噛み締めながらも、ビルシャナを守るように立ち、先ほどまで腰掛けていた椅子や、工場内に放置されていた鉄パイプ等を手に、交戦の意思を示していた。


「なかなか物騒だね」
「やめときな怪我するだけだぜ」
 そんね熱狂的な信者達の行動にシェイ・ルゥ(虚空を彷徨う拳・e01447)は、薄く笑みを浮かべながら、困ったように首をかしげ、八崎・伶(放浪酒人・e06365)は手にしたバールで自らの肩をたたきながら忠告を放つ。
 しかし、そのような言葉はビルシャナの言葉に操られている彼らには届くことはない。
 今にも襲い掛かってきそうな信者達をの背に隠れるビルシャナは一度信者達に目配せをし、その動きを制してから、声を上げる。
「我々はただ、ネットの中で可愛らしい理想の女性となって、人々に幸せを与え、その対価を僅かばかり頂戴するだけのいたって平和な集団だ! ケルベロスの出る幕ではなかろう!」
 張り上げるビルシャナの声に信者達は賛同し拳を掲げケルベロス達へとブーイングを飛ばす。
「ふざけた鳥……」
「あんたが一人でネットの片隅でやってるだけなら別に私達もかまいはしないんだけれどね」
 そんな詭弁を弄するビルシャナを呆れたように見つめながら、エミリ・ペンドルトン(ビルシャナを逐う者・e35677)と橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)の零した言葉は、信者達の怒号にかき消され、二人は冷めた視線を彼らに向けるばかりだ。
 そんなまともに話もできなさそうな状況の中、猫夜敷・愛楽礼(白いブラックドッグ・e31454)が一歩前に進み出ると、ビルシャナと信者達に向けて疑問を投げかける。
「ゲームはそこまで詳しくないんですけど……女の子じゃないとダメなものなんでしょうか……? たとえばかっこいい男の人のフリをするとか!」
 首を傾げ、そう問いかける彼女の言葉に、ビルシャナと信者達は、一様に固まる。
「あなたとか、磨けば光りそうな感じがしますしね? 手入れして男らしくすればモテるのでは?」
 そのまま矢継ぎ早に佐藤・みのり(仕事疲れ・e00471)がすぐそばにいた信者の男性にそう声をかけると、まんざらでもないようにその男は照れたように頬をかいて、すごすごとケルベロス達の後ろへと隠れる。
 そんな一人の信者に対してか、あるいは、疑問を投げかけた愛楽礼に対してか、ビルシャナは激昂して声を荒げる。
「バッカモーン!」
 額には青筋を浮かべ、空気を振るわせるほどの声量で彼は叫ぶ。
「そうではないのだ! 我々はかわいい女の子になりたいのだ! そう、ちょうどそなたらのようなな!」
 唾を吐きかける程に大きく口を開き早口でまくし立てるビルシャナは言葉とともにその鍵爪になった指先で目の前にたつ女性人を順に指差して、わなわなと震える。
「可愛いは正義なのだ。こんな長身の可愛くないおっさんなど誰にも愛されない! 我々は可愛くなり、愛されたいのだ!」
 指差された数人の長身のおっさんの信者達はビルシャナの言葉に頷きを返し、涙を流し抱き付いて咽び泣くものまでいた。
「だからって別人になって成し遂げたって、本当の自分じゃないからって思うだけだろ?」
 そんな彼らの目を見て、伶は気恥ずかしそうに頭をかきながら言葉をかける。
「何よりお前らと話してみてぇよ、俺は」
 数多の人間が蔓延り、出会いと別れを繰り返す広大なネットの世界では、例え自らを偽って出会いがあったとして、果たしてそれほどまでに自分に興味を持ってくれる者がいるだろうか。
 そんな思いを抱える数人の信者達は、伶の言葉に絆され、彼の差し出した携帯端末の前に集まり、部屋の隅でこそこそと連絡先の交換を始める。
 そんな元信者達の振る舞いに、ビルシャナは思わず地団駄を踏んで、キィキィと甲高い声を上げる。
「チィイイイ! 本当の自分などというまやかしににだまされる軟弱ものどもめ。ネットの世界であれば別人などではなく、自分自身が理想の本物になれるというのに!」
 そのビルシャナの言葉に、エミリは小さく頷いて、語りだす。
「そうね、確かにネットの世界であればそうやって嫌いな自分を偽って、他の誰かに成り代わることはできるかもしれない」
 そこでエミリは一度言葉を区切り、一つ呼吸をおいてから、再び口を開く。
「私は自分が嫌い。だからネトゲとかRPG、本とか大好きよ。現実から離れて、自分じゃない自分を体験できる……確かに日がな一日それに耽るのは褒められた人間じゃないわよね。でも、みんな、何かを求めてネトゲをやってる仲間じゃない」
 淡々と語っていたエミリの口調に徐々に熱が篭る。ビルシャナの行う演説のように演技がかったものではない、自分の体験したことだからこそ、確かに語れる内なる思いを伝えようと、エミリは叫ぶ。
「騙して金を巻き上げる? そんなこと考えながらやってたら絶対に楽しくないわ! きっと、そこの鳥の指導は……人を騙して蔑むことを楽しむようにすることよ……そんな人になりたいの? そんな自分を、好きになれるのかしら?」
 別の誰かに、理想の自分になることを彼女は否定せず、その先にビルシャナがこじつけた悪事を批判し、エミリは信者達へと訴えかける。
 それを、不味いと思ったのか、とっさにビルジャナも声を荒げて反論を返す。
「だが対価として、我々は彼らに大切な思い出を与えているのだ! 我々の正体がばれなければ我々のしていることはただの慈善事業にすぎないのだ! 誰も悲しむ事もなく、皆が幸せになれる理想郷がそこにあるのだ!」
「そうです! 僕らは悪い事をしているわけではないんです!」
 ビルシャナの言葉に続いて、女装した一人の少年が声を上げる。可愛らしい服を着て、着飾る彼は彼ら信者達のマスコット的な存在なのか、彼の言葉に勢いを失いかけていた信者達の野次も再び勢いを取り戻し、
「うわ……ブサイク」
 と、鹵がその少年に対して放ったそんな一言により、一瞬で場の空気が凍った。
「ななな、なにをいうかお前! 謝れ! 早く謝るのだ! こんなにかわいい子に対して、なんてこを!」
 鹵の言葉にジワリと涙を浮かべる少年に、とたん焦ったようにビルシャナは駆け寄りその頭をなでながら鹵に対してわめきちらすのだが、鹵の方はそれを気にした様子もなく、変わらぬ態度のまま少年に対して、言葉をかける。
「性格がだよ。ネットの世界でそんなことして、君、ほんとに、自分が良い存在になれるって、思ってる? 人騙して、自分を騙すの、やめたら」
 少年の目を見て鹵は話す、どこか濁り霞んでいた少年の目には光が戻り、その瞳には今は鹵の姿がはっきりと映っている。
 そうして鹵はビルシャナをひょいと押しのけ、少年の目の前まで歩いていくと、間近からその瞳を覗き込んで涙を拭いながら、耳元で囁く。
「素顔を、見せてよ。本当の君は、こんなに、綺麗なのに」
 その言葉に少年は、顔を赤く染め、ぺたりとその場に座り込んだ。


 集団のマスコット的な少年を失い、ビルシャナ一党はその結束に罅が入り始めていた。
 ケルベロス達の言葉に絆され、既に半数近くの信者達がその場を去り、残った者達の反応も芳しくない。
 忌々しげにケルベロス達をにらみつけるビルシャナに対し、逆に余裕のあるケルベロス達は今がチャンスだとばかりに、追い討ちをかけるように畳み掛ける。
「ばれなければ誰も悲しむ事はない、一理あるわね」
 その先陣を切ったのは芍薬だった。
「けれど、もしも何らかの理由で、自分の正体がばれることになったとき、あんた達はどうするのかしら?」
 信者達に向け語りかけながら、その指先を伸ばし指し示すのはその後方に立つビルシャナの顔だ。
「目の前の鳥野郎を見なさいよ、実際に会ってこれだったらがっかりでしょ」
 言われて振り向く彼らに同意するように、クオンが頷きながら後を続ける。
「まったくだな、ローストチキンのどこが可愛い姫様なんだ?」
「だれが――」
 口を挟もうとするビルシャナの言葉を無視し、遮りクオンは淡々とただ語りかける。
「お前達の理想は、誰かをだますような汚い心を持っているのか? お前達のように身だしなみにも気を使わない、汚い汚物なのか?  心や体をしっかり磨いて出直して来いよ」
 痛烈な批判に、信者達は互いに顔を見合わせ、その姿を認識しあいうろたえ、縋る様にビルシャナの方へと視線を向けようとして、
「簡単な嘘で済ませよう何て甘いのよ、やるなら、本当に自分を変えるところからやれ!」
 芍薬の言葉に再びその視線を引き戻される。
 もはやビルシャナの言葉などよりも、彼女等ケルベロス達の言葉の方がこの場を支配していた。
「我々は、貴様らの様に出来がいいわけではない! そのような理想論で人々が救われるというのであれば世界はたいそう平和であろうな!」
 悲痛なビルシャナの叫びももはや、信者達の耳には届かない。
「だからといって、君の言うとおりにして何かかわるのかな? 強いて言えばそうだね。君のような鳥人間にはなれるかもしれないが、それは君達の思う理想かな?」
 止めとばかりにシェイの口にした言葉に、残っていた信者達は、ビルシャナを見捨てその場から脱兎の如く駆け出していく、もはやビルシャナを守るものは居らず、ただ一人、虚構の姫だけがその場に取り残されていた。


 すっかりと静まり返った廃工場の中、ビルシャナとケルベロス達は対峙する。
「さて、もうキミのために働いてくれる人はいないよ。観念するんだね」
 シェイの投げかけた言葉は暗闇の中反響し消えていく。
「貴様等さえ、貴様等さえ現れなければ私は、この現実世界ですらも姫として君臨することができたというのに……!」
 嘴故に、歯軋りの音はしないものの、幻聴でそれが聞こえてきそうな程に顔を歪めて、ビルシャナは怒りを露にしている。
「そんなに女の子になりたいなら、いっそ現実でも女の子になっちゃえばよかったのではないですか? そのような姿になってしまう前に」
 怒り狂うビルシャナを前に愛楽礼はしゅんとその耳と尾を下げながら、ビルシャナを見つめつつ、ライドキャリバーの火珠の背に、ぽんと手を置く。
 それに応えるように響くエンジンの音。
「人の世にはしがらみが多すぎる。変わろうと思っておいそれと変われるのであれば、最初からそうしている。貴様等にわかるまい! 凡人の苦悩など!」
 叫びとともに破れかぶれにビルシャナは錫杖を握り締め、破壊の光を周囲に振りまく。
 その光を突き破り、ケルベロス達は仕掛ける。
 光を切り裂き、一番槍ととして、火珠が飛び込み、ビルシャナの体を弾き飛ばす。
 翼を羽ばたかせ、ビルシャナが体勢を整えたのもつかの間みのりの放つ赤い煙を纏う炎弾がその体を焼き尽くす。
「この程度、ばれたときの炎上に比べればどうということはないわ!」
 ぶすぶすと全身から煙を上げながらも、膝をつかず、ビルシャナは一人でケルベロス達へと立ち向かう。戦力差は目に見えていても、彼には信念があり、それを放り出して引くことなどできはなしかった。
「変わり方を間違えたわね哀れな鳥さん。人間はね、自分で変われるのよ。変わりたいって思って頑張れば、ね!」
「それだけの根性があるなら、もちっとがんばればよかっただろ!?」
 エミリの操る黒鎖に捕らえられたビルシャナの体。その隙をついてボクスドラゴンの焔の放つブレスにビルシャナが怯み、伶の一撃がビルシャナの脇腹へとクリーンヒットする。
 思わず腰を折り、よろめくビルシャナ、その隙をケルベロス達は逃さない。
 シェイの振るう加速する大鎚の一撃が横殴りにビルシャナの体を吹き飛ばし、壁に叩き付けられたその体をクオンの握る武器が切りつける。たまらず倒れたビルシャナはそれでも尚、立ち上がる。
 ひゅーひゅーとか細い呼吸をしながらも、彼はその信念に従いただ、立ち上がる。
 無慈悲にもその足を石化させ、その場に縛り付けたのは、魔導書を広げ、小さく呟くように詠唱を行っていた鹵の古代語魔法だった。
 ビルシャナは廃工場の床と同化した自らの足に視線を向け、身じろぎし、ふっと諦めたように力を抜く。
「冥土の土産よ、その罪を悔いながら地獄の果てまで吹っ飛べ!」
 芍薬のリボルバーから射出された弾丸は、彼女の狙いを違わず、身動きを封じられたビルシャナの脳天を的確に撃ち抜く。
 膝から崩れ落ちるようにして倒れたビルシャナの顔は憑き物が落ちたかのように安らかだった。

作者:雨乃香 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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