青空、雪片、聖母像

作者:雨音瑛

●聖母像のある街角
 駅を出てすぐ、入り組んだ道へと繋がる街角に聖母像はあった。少しくすんだ白色の像の下には、待ち合わせをしている者が集まっている。本やスマートフォンに視線を落とし、ときどきあたりを見回してみたり、して。
 横断歩道を渡った先には、ビジネス街。駅前のどこかのんびりとした雰囲気とは異なり、立ち並ぶビルには背筋を伸ばして歩かなければ、と思わせる空気がある。
 そんなビジネス街の需要を汲んでか、駅前にはビジネス用文房具が並ぶ店も。
 そんな日常の風景が壊れるのは、一瞬。4本の巨大な牙が駅前に突き刺さったかと思えば、牙は鎧兜をまとった骨の兵たちへと姿を変えてゆく。
「グァァァハハハ! グラビティ・チェイン、イタダクゾ!」
「モットワレラにゾウオとキョゼツをムケロ!」
「ドラゴンサマにササゲルカテとナルノダ!」
「モットグラビティ・チェインをヨコセ!!」
 剣が、閃く。血が、飛び散る。
 駅前では、電車の通り過ぎる音と竜牙兵の咆吼だけが虚しく響いていた。

●ヘリポートにて
 季節はすっかり、冬。こと寒い地方では、雪も舞い散っている。
「東北のある駅前に竜牙兵が現れ、人々を殺戮することが予知された」
 火岬・律(幽蝶・e05593)の懸念事項から予知を行った結果だと、ウィズ・ホライズン(レプリカントのヘリオライダー・en0158)が続ける。
「今から向かえば、人々に危害が及ぶ前に現地に到着できる。しかし、すぐに避難勧告をしてしまうと竜牙兵は他の場所に現れてしまうようなんだ」
 そうなると事件の阻止はできないどころか、被害が大きくなってしまう。
「君たちが駅前に到着したあとは、避難誘導は警察に任せられる。というわけで、君たちケルベロスに頼みたいのは竜牙兵の撃破だけだ」
 現れる竜牙兵は4体で、全員がゾディアックソードを装備している。どの個体も攻撃力が高いため、受けるダメージには気を配った方が良いだろう。なお、ケルベロスとの戦闘が始まった後に竜牙兵が撤退することはないそうだ。
「駅前での戦闘となるが、周囲に障害となるものはない。その他に気をつけることといったら……」
 雪が降っているから、暖かい格好の方が良いかもしれない、ということだろうか。
「そうだ、駅前のビジネス用文房具店では、万年筆や手帖などの文房具を扱っている。竜牙兵を撃破できたら、新年から使うものを買いに立ち寄ってみるのも良いだろう」
 そう言って、ウィズは説明を終えた。
「なるほど、まずは竜牙兵との待ち合わせですか。一足先に言って、待ち侘びるとしましょう」
 軽く眼鏡を押し上げ、律は青空を見遣った。


参加者
真柴・勲(空蝉・e00162)
メロゥ・イシュヴァラリア(宵歩きのシュガーレディ・e00551)
鬼屋敷・ハクア(雪やこんこ・e00632)
古鐘・るり(安楽椅子の魔女・e01248)
ビスマス・テルマール(なめろう鎧装騎兵・e01893)
火岬・律(幽蝶・e05593)
ベラドンナ・ヤズトロモ(ガラクタ山のレルヒェ・e22544)
朝霞・結(紡ぎ結び続く縁・e25547)

■リプレイ

●冬の風景
 空から、雪が落ちてくる。青い空から無数に、ゆるり、ふわり、と。
「まっしろな聖母像を血に染まらせないんだから。頑張ろうねドラゴンくん」
 ボクスドラゴン「ドラゴンくん」と視線を合わせ、鬼屋敷・ハクア(雪やこんこ・e00632)は聖母像を見た。
 聖母像の口元にたたえられた笑みは優しく、行き交う人々を穏やかに見守っているよう。なのだが。
「――侘しいもんだ」
 真柴・勲(空蝉・e00162)は、紫煙を燻らせながら哀愁のため息をついた。年の瀬に聖母像前で待ち合わせる相手が、まさか竜牙兵とは。ぼやく勲を、火岬・律(幽蝶・e05593)が一瞥する。
「待ち合わせ相手が来ましたよ」
 見上げれば、巨大な牙が4つ。着地地点を見極め、律は一般人と竜牙兵の間となる場所へと移動した。やがて地面に突き刺さった牙は、竜牙兵の姿へと変わってゆく。
 仲間が避難勧告をする中、古鐘・るり(安楽椅子の魔女・e01248)は派出所の方を向いて割り込みヴォイスを使用し、誘導の依頼をする。そんなケルベロスたちなどお構いなしに、竜牙兵立ちは咆吼を上げた。
「グラビティ・チェイン、イタダクゾ!」
「嗚呼煩ぇ、あんまギャアギャア喚かないでくれ。整然としたこのオフィス街に手前ェ等みたいな騒がしい輩は場違いなんだよ」
 勲の挑発に、朝霞・結(紡ぎ結び続く縁・e25547)も便乗する。
「戦えない人しか狙わないあなた達には負けないんだよ」
 気付けば、8名全員が戦闘態勢。
 真っ先に動いた律は、短歌を口ずさむ。
「――黒塚に、鬼籠もれりと言ふはまことか」
 鮮血のような霊力は、前衛に位置取るケルベロスの攻撃力を高めるものだ。
「加護を砕く翼、蒼き焔を纏って、そこに」
 結もグラビティを蒼く燃える翼へと変え、自身も立つ後衛に加護を砕く力を与える。
「ベラドンナさん、攻撃お願いするね」
「うん、任せて結ちゃん」
 応え、ベラドンナ・ヤズトロモ(ガラクタ山のレルヒェ・e22544)は、敵の体力を削ることを何より優先して。詠唱した古代語魔法は魔法の光線を生み出し、竜牙兵の体の一部を石のように変ずる。
 ボクスドラゴン「キラニラックス」が自身に属性をインストールして負った傷を癒すと、ボクスドラゴン「ハコ」は結の宝物入れだったお菓子缶に入って体当たりを。
「ジャマ、スルナ!」
 竜牙兵たちは各々が手にした剣を掲げ、攻勢に出る。主を庇い立てたドラゴンくんはるりへと灰の属性をインストールし、前衛のサポートを行う。
「みんな、ちゃんと逃げてくれたみたいだね」
 あたりを見回し、ハクアは殺界の形成を。
「なら、遠慮なく戦えるわね。……さて、これはレディを待たせた罰よ」
 とはいえ、5分前とかに来られても困るが。るりは無表情に神槍「ガングニール」のレプリカを召喚する。
「消えて終わりよ……ジャッジメント!!」
 るりの示す先は、ハコが攻撃を仕掛けた竜牙兵の1体。地面に打ち据えられた竜牙兵に、ビスマス・テルマール(なめろう鎧装騎兵・e01893)が迫る。その手には、ビスマス結晶状の鯖の形を取るオウガメタル「ソウエン」。
「聖母像のある街角……汚しも、壊しもさせません!」
 殴りつけた手には、確かな衝撃。続くのは、ボクスドラゴン「ナメビスくん」。ナメビスくんが竜牙兵に向けてすかさずブレスを吐き出すと、メロゥ・イシュヴァラリア(宵歩きのシュガーレディ・e00551)はひとかけらの言の葉を合図として。
「満ちる空の輝き。降り注ぐ星の、瞬きの歌が――ねぇ。あなたにも、聴こえるでしょう?」
 狙いは、行動の阻害。無数の星々が雪の間を縫って地上に降り注ぎ、その煌めきで竜牙兵の目を眩ませる。
「いいから黙って擲らせろ」
 勲は低くつぶやき、体内のグラビティ・チェインを利き腕の一点に集め始める。やがて現れたのは、鎖状の電霆。それを拳に巻き付けて、竜牙兵を剣ごと擲り飛ばした。
 今日も、憂さ晴らしの右は強烈。その結果に、勲は莞然と笑った。

●時期
 雪の勢いは、到着時と変わらない。地上での戦いなど我関せずと、ふわふわと降ってきては薄く積もってゆく。
 ケルベロスの勢いは、いっそう激しく。攻撃を担う者は仲間の援護を得て、確実に竜牙兵の体力を削ってゆく。
「そこです!」
 ビスマスはエアシューズ「なめろうフラック」で跳び、空中から竜牙兵へと襲い掛かる。流星が流れるような落下には、重力を伴って。
「グワアアアアアッ!」
 竜牙兵の頭部が砕かれ、続いて全身の骨格も崩れ去る。その隙にナメビスくんとキラニラックスは自身に属性をインストールして、負った傷を癒した。
「まずは1体、ですね」
「よし、それじゃ次の竜牙兵に移るね」
 ビスマスの言葉にうなずき、ベラドンナは次の攻撃対象を定める。
「滅びの王国より、記憶を呼び起こす。火刑台の主。狂気の松明よ」
 竜の銀鎚【ブレシンの災厄】に刻まれた記憶を口にして、召喚を開始。黒煙に乗って訪れる禍は、封じられた狂気の竜、その尾だ。
 弾かれた1体が浮くが早いか、ハクアは雪花をいちりん、魔力で編んだ。それは姿を隠す妖精への贈り物。そうして与えた仮初めの姿は、優しいやさしい老紳士だ。
「こんにちは、また会えたね」
 ハクアの声に、彼が手にしたステッキがかつんと地面を鳴らす。鋭い氷の花がふわりと咲き、竜牙兵すべての骨を氷の花弁で穿った。
「こんな年の瀬になっても竜牙兵はお騒がせだね!」
 竜牙兵の現れるタイミングに、ハクアは少しばかりお怒りの様子だ。
「ほんとう、年の瀬だというのに、騒々しいわ。これから佳き日を迎えるために皆大忙しなのだから、おいたはだめよ? 大人しくしてちょうだいな」
 メロゥも小さくため息をつきつつ、極光を前衛に降り注がせる。複数人を対象にした攻撃を同時に仕掛けられると、癒し手ひとりでは回復が行き渡らないこともあるためだ。
「助かるぜ、メロゥの嬢ちゃん」
 勲はバトルオーラ「調息」をまとい、音速もかくやという程の拳を叩き込む。そして直後に律が散布した紙の兵には、当然のように無反応で。
 残る3体のうち1体は、何度目かの加護の星辰を描いて傷を消し去った。
「チョウシに、ノルナ!」
 もう2体は、星座のオーラをケルベロスたちへと飛翔させる。すると盾役を担う者が動き、仲間へのダメージを抑えに回る。
 後衛に至った氷を受けたハコは果敢に立ち向かい、ブレスでケルベロスたちの与えた状態異常を増やす。結もまた、癒し手として懸命にヒールグラビティを使用する。
「誰も倒れさせない。その為に私も倒れない。……その意地と矜持、舐めないで!」
 黒の鎖で描いた魔法陣は、前衛の防備を高める。加えて、聖母像に被害が及ばないようにと立ち位置も気をつける。
 不意に吐いた息は、白い。防寒を意識したるりの出で立ちは、滑らない靴にコート、フードと隙がない。そしてシルエットは黒猫耳リボンのせいで猫耳のようになっている。
 しかし何の問題もないと魔導書「ファースタリ」を開き、るりは狙いを定める。
「ポッキリと折り砕いてやるわ」
 とたん、水晶剣の群れが次元の狭間から現れた。解き放たれた剣の群れは、竜牙兵たちを穿たんと飛翔する。
「ガアアアッ!?」
 とは、1体の竜牙兵の悲鳴。るりの目の前で砕け散った竜牙兵は、芯に喩えるなら、硬さはBかHか。
「……こいつは2Bってところね」
 るりは魔導書を閉じ、満足そうに告げた。

●聖母像の下
 ハコが封印箱に入って竜牙兵の一体に体当たりするのを横目に、結は溜めたオーラをハクアへと飛ばして大幅に体力を回復させる。
「ありがとう、結さん。あと2体だから、最後までがんばろうね」
「うん、頑張ろう。傷が深かったら言ってね、すぐに治すから」
 結の返答に微笑みかけ、ハクアは魔導書の断章ををひもといた。発動するのは勲を強化する魔術だ。
 それにしても、とるりはちらりと空を見た。
「待ち合わせに空から現れるっていうのは、ちょっとしたサプライズになりそうね」
 もちろん、それが竜牙兵でなければの話だが。
 るりがファースタリを開いて招来するは「混沌なる緑色の粘菌」。竜牙兵の骨のヒビから入り込んだ粘菌は、瞬く間に全身へと浸透する。
「合わせるぜ、るりの嬢ちゃん」
 勲の声の柔らかさは、バイト先の店長であり「糞後輩」と呼んではばからない律には見せたことがないほど。勲はすぐに爆破スイッチ「鉄火」のボタンを押し込む。巻き起こった爆風が風に煽られて消えると、粉々になった竜牙兵が消え去るところであった。
「ハクアの嬢ちゃんのおかげだ、ありがとな」
「どういたしまして、勲さん!」
 残る竜牙兵1体にナメビスくんとドラゴンくんが体当たりを決め、ぐらりと傾かせた。
 好機と見たビスマスは恩師から受け継いだ鎧装、その秘められた裏技で形状を変化させる。
「先生から受け継いだ鎧装の裏技を今こそ…先生…力を貸して下さいね。 鎧装裏技解除コード『ローカルバーガーツインズ・ダブルケー』ッ!」
 鎧装は別海ジャンボホタテバーガーへ変わり、その手には同じく別海ジャンボホタテバーガー型のライフルが。現れたビスマスの実態分身も同じ武装を手に、竜牙兵を挟み込むように位置取る。
 至近距離から引き金を引いてから元の形状に戻ったビスマスは、ベラドンナの方を見る。
「行けますか、ベラドンナさん」
「大丈夫、畳みかけるよ」
 ベラドンナはファミリアロッド『月を追うもの』を一瞬で鴉の姿へと戻し、最後の竜牙兵に向けて撃ち出した。
「キラキラもがんばれ」
 何度もケルベロスたちを庇い立てたキラニラックスは、満身創痍。キラニラックスは一度だけベラドンナを見て、光と熱の属性で自身の傷を癒す。
 石化の光線を放ったメロゥは、星を映す瞳で竜牙兵の状況を見極める。
「あの竜牙兵、既にかなりの傷を負っているわ」
 複数体を対象にするグラビティの使用によるものだ。後半になればなるほど、有効な攻撃として効いてくる。
「なら、無事に年を越せそうですね」
 律は打刀を抜き、雷の霊力を纏わせた。刃は竜牙兵の剣を弾き、竜牙兵の額から後頭部まで貫通する。
 駅前に、竜牙兵の咆吼が響き渡った。
 からり、落ちる骨はもう話すこともなく。じわり溶けるように消えていった。

 警察に事態の収束を伝え、あたりをヒールしてゆく。
 人々の戻り始めた駅前で、律は聖母像を一瞥した。予知で聞いたような赤い汚れはなく、変わらず穏やかな笑みをたたえているだけだ。内心で安堵し、仲間の方へと振り返り。
「お疲れ様でした、折角なので立ち寄ってみますか?」
 と、誘いの言葉を口にした。

●あれこれ選んで
 ベラドンナと結は、並んで文具店の中を歩く。
「お父さんの万年筆見たいから後でお付き合いしてね?」
「もちろん! ……あ」
 結の言葉にうなずくベラドンナが立ち止まったのは、手帳のコーナー。欲しいとは思っていたが、ビジネス用となると――。
「似合わない、よね。もっとキラキラ可愛い方が、いいみたい」
 ベラドンナは結の耳に小声でささやいた。大人ぶってみたけれど、まだまだ可愛いものが嬉しいお年頃だ。
「女の子同士の内緒話だから、ハコとキラキラくんはちょっと耳塞いでてね? ……ふふ、私達にはまだちょっと早そうだよね?」
 こそっと返し、結は小さく笑う。手帳コーナーを通り過ぎたら、次はガラスケースの前で足を止めて。
「お父さんへのプレゼントって言ってたけど……父の日とか?」
「すぐには、無理かなって思うけど、いつか贈れたらいいな、って……」
 照明に鈍く反射する、黒い万年筆。その値段を見て、結はゆっくりとため息をついた。
 二人とすれ違ったハクアが探すのは、白い雪の結晶柄手帳だ。
「……あった! 素敵なデザインだし、めくりやすくて使い勝手も良さそう。来年の予定を沢山書いて、大事に使おうっと。そうだ、ドラゴンくんにも買ってあげるね。何か良いのあった?」
 問われたドラゴンくんが視線を向けるのは、カラフルなペン。その横では、るりがシャーペンの芯を探していた。
「小さなお店とかにはなかったりするのよね」
 芯を順に見て行くるりの視線が、途中で止まる。
「あったわ、0.4mm。0.3mmでも0.5mmでもない書き心地。図面を書く時にはこれじゃないと」
 そうつぶやいて、るりは芯のパッケージを手に取った。
「ビジネス用といっても、本当に色んなものがあるんですね」
 感心した様子で、ビスマスはるりの手にしたシャーペンの芯を見る。
「わたしも、良いのがあれば両親や使用人の方々への手土産にしましょうか」
 それに、と続く先は、心の中で。
(「たまには実家に帰るのも……良いかもしれませんし」)
 懐かしむかのように表情を和らげ、ビスマスはペンを手に取った。
 人を惑わせる陳列に感心しながら、律は店内をゆっくりと歩く。様々な形に様々な色は、いわば日常の中の非日常だ。
 従業員から贈られたボールペン用の替え芯を探す中、律は見慣れた茶髪を見つけて立ち止まった。
 何年ぶりかに文房具屋をのぞいているらしい、勲だ。
「偶に立ち寄ると意外と面白ぇんだよな。時には身の回り品に金使うのも悪かねえだろ」
 そう独りごちた勲の背中に、律が小さく言葉を向ける。
「……似合わないですね」
 何が、とまでは言わないが。それでも、勲が守りたい者の為に泥に濡れ汗を流したことを、律は知っている。何を思うのだろうと別の棚へ移動したところで、ちょうどメロゥと出会った。律は会釈して、問いかける。
「何をお探しですか? 心当りがあれば案内しますが」
「凝ったデザインの栞があれば、と思って。今使っているものが草臥れてしまったから見て楽しめる栞がほしいの」
「でしたら、あちらの棚にありましたよ」
「へぇ、栞か。俺もあとで見てみようか」
 いつの間にか律の背後まで来ていた勲が、栞のある方面を見遣った。
「勲は何か探しているの?」
 メロゥに問われ、勲はうなずく。
「普段安価なペンばかり使ってるんで今日は質のイイ万年筆でもと。長く付き合える一本って地味に憧れでな」
 それに、と勲は言葉を続ける。
「何だ、……ペンなら仕事でも使えるしよ。伝票書いたりオーダー取ったり――ま、どっかの糞店長がクビ切らない内はの話だが」
 肩をすくめる勲に笑みを零しそうになりながら、メロゥは律に礼を述べて栞コーナーへと向かった。
 途中で店員を見つけて、メロゥは小声で質問する。
「万年筆を……和柄の、あまりくどすぎないデザインはあるかしら」
 頬を染めるメロゥに店員が差し出したのは、ちいさな梅の花がぽつりぽつりと咲く白い万年筆だ。
「これ……できればその、包装をしていただけると……」
 もちろん大丈夫ですと答えた店員は、慣れた様子で手早く万年筆を包装する。
 会計をして、受け取って。ちょっとした重みに、メロゥはひっそりと微笑んだ。

作者:雨音瑛 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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