冬夜ごはん

作者:志羽

●冬夜ごはん
 冬、クリスマス。
 その時期となると、飲食店などではクリスマスディナー、なんてものが準備される。
 もちろん、ホテル業界もそれにのって。
 この季節、とあるホテルのラウンジ、それからバーとレストランはクリスマスの飾りが施される。
 ホテルの中から見える庭は、冬のイルミネーション輝く庭。
 それを眺めながら、食事をとったりお酒を飲んだり。そういった、楽しくゆったりとした時間が過ごせるのだ。
 それは毎年の、そのホテルの様子であったはずなのだが――今、光り輝く庭は見るも無残な姿になっていたのだ。
 そんな人々が楽しみにしている時期にデウスエクスの襲撃があったのだ。
 芝生はめくり上がり、庭は荒らされて美しい景観は損なわれている。もちろん、施されていたイルミネーションも壊れてしまっていた。
 人の手でもとに戻すには時間もかかり、ホテルとしてはこんな状態では運営もできない。
 ホテルでの時間を楽しみにしている人々にとって、これは悲しい出来事だったのだ。
 そこで、ケルベロスへと修復依頼が出されたのだった。

●ケルベロスさんにお願い
「あるホテルから」
「やる!」
「……このやりとり前もやったよね?」
 ザザ・コドラ(鴇色・en0050)に邪魔されて、既視感ー、と笑いながら夜浪・イチ(蘇芳のヘリオライダー・en0047)は話を最初から、もう一度。
「あるホテルから修復依頼がきてるんだ。クリスマス前で予約いっぱいなのにデウスエクスにやられて、人の手では間に合わないってことで」
 修復を施すのは、とあるホテルの庭だ。そこは夜にイルミネーションきらきら、という景観で人々を楽しませているという。
「それでそれで! 大事な事はまだあるでしょ? ホテル、修復、とくれば……きっとご厚意が……」
「あるね」
 そうだと思ってた! ホテル大好き! とザザは言って尻尾を跳ねさせる。そしてその詳細は、とイチに詰め寄った。
「うん、美味しいご飯。つまりはクリスマスディナー。だけど、今、予約のあきが10席くらいあるから、そこを全部回してくれるって。それから、お酒飲める人は、ホテルの最上階のバーで夜景見ながらお酒が飲める、という席を用意してくれてるとのこと」
「くりすます、でぃなー……!」
「あとはラウンジで」
「まって、ラウンジで予想できる私がいるわ」
「予想、何を。よし、言ってみようか、ラウンジで?」
「……くりすます、あふたぬーんてぃー……」
「……伊達に場数踏んでないね、その通り」
 思った通り……! とザザの尻尾は揺れる。
「それから、今回はちゃんとドレスアップした方が良いと思う。だってクリスマスだからね」
「わかるわ。ドレスコードね」
 その通り、とイチは頷く。
 ホテルで、クリスマスディナー。となると、一般のお客もいるので服装は大事だ。
「スマートカジュアルで大丈夫だと思うよ。更衣室なんかもあるだろうし、服持って行って着替えれば大丈夫なはずー」
「せっかくだからオシャレして美味しい物食べたい! クリスマスだし!」
「うんうん、俺は行かないけど皆で楽しんできてね」
「えっ、いかないの?」
「うん。クリスマスって、オシャレするんでしょ? 髪のセットは」
「あっ、そういう」
 ということで。
 ホテルのイルミネーションを修復して、そのあとゆっくりとしたお時間を。


■リプレイ

●クリスマス特別ごはん
「こんな小娘が場違いな所に来てるって思われないか、不安だ……」
 学校のブレザーを着て零しながら傍らを見れば。
「王様もマント豪華で王冠輝いてる……」
 そこへ、髪もセットしてフォーマルなスーツに身を包んだ季由が。
「ク、クリスマスおめでとう、ベリーハッピー」
「メリー・クリスマス、ミスター!」
 思ったよりもフォーマルな季由に圧倒されそうになりつつ虚勢はって。
 いつも家族と一緒にクリスマスを過ごしていたフィオナ。こんなところでディナーというのはちょっと不良少女になった気分だ。
 季由も、今までずっと一人で。こうして一緒に笑い合っていられる人がいるのは幸せだと思う。
「フィオナ、こっちの揚げ物も美味しい」
「あ、これ美味しい! ありがと!」
 と、前菜の一皿の一つをお勧め。
 前菜は一口サイズの三種。鯛のカルパッチョ、蕪のミルフィーユ、それからチーズのフライ。
 楽しい食事の時間が始まったばかりの、一皿。

 如何でしょう、と細身のベージュスーツにダークな色調のネクタイとシャツを合わせた景臣。
 ゼレフは濃紺のシャツとジェットと、いつもより少しだけ夜色に沿う。
「緊張してない?」
 そうゼレフが問うたのは馴染みがない場だと聞いたからだ。
「……お陰様で小腹も空いてきました」
 ごはんが楽しみか、と笑み零す。
 冬の夜を彩る光の群れ見つつ、話していれば緊張も解れていつもの笑み。
 そこへきた前菜二つ目は海の幸。
 透明な硝子の器に薄切りの貝柱が並び、ちらりと見える。それを隠しているのは淡い橙色のムース。口の中でくしゅりと溶けて旨味が広がるものだ。
 その皿の彩もまた美しく、ナイフを入れる事を躊躇うが、口へ運び咀嚼する度に景臣は幸せを感じ、それが零れる。
 それは、ゼレフも同じだ。
 互いに顔を見合わせ、良く似た表情に気付いてもう一口。
「美味しい料理の後は……勿論、一杯付き合って下さるでしょう?」
「お望みならば」
 そう言って泡昇るグラスを二人で合わせ、乾杯を。

「うん、格好良いじゃん?」
「どーも」
 と、見慣れぬ姿なのはお互い様。キースもかっこいいですよと紡ぐ。
 イェロは笑ってお楽しみのディナーに行こうと。
 琥珀色注がれたグラス掲げ今日の決まりの挨拶、メリークリスマス。
 それは特別な夜の一杯。
 前菜が二種、それから魚料理。
 金目鯛の一皿は見た目も鮮やか。ソースとの相性も良い。
「ん、こんなに美味い酒ははじめてかもしれない」
「家で料理するのも良いけど、偶にはこんな贅沢も」
 その言葉に頷きつつ、でもイェロの作るご飯が一番すきとキースは声を潜める。
 その声に柔くはにかんでありがとうとイェロは紡いではにかみ笑み深める。
 そして視線巡らせれば庭の煌めく景色が目に入り。
「クリスマスにも魔法はかかるのだな」
「魔法か……何やら可愛らしい響き。今だからこその眩い景色が確かにそう魅せてくれるのかも」
 また、魔法にかかりに、いつか機会が巡るならと笑いあう。

 薄いピンクのワンピースにボレロ。シンプルなパールのネックレスにヒールは高めで、ルリィはいつもより少し大人っぽく。
 ユーロはルリィより濃い色の紅に淡い色のボレロを。そして首には細身のゴールドのネックレスとヒールパンプス。
「イチの紹介だから期待できるけど、どんなディナーなのか楽しみよね」
 今まで出てきた料理も美味しく、次は肉料理。
「七面鳥やビーフのローストとか変り種では鹿肉かしらね?」
「フレンチだからどうなるかしら」
 そう予想していると、出てきたのはシャラン鴨のローストだ。
 鴨肉と濃厚なソースの相性は抜群。
 ユーロとルリィはおしゃべりをしつつ、その料理に舌鼓を打つ。
 そしてその話はといえば。
「神社のバイトや海のバカンスも楽しかったわ。あとはケニアも行ったわね」
 そういえばとユーロは零し。
「ケニアで食べた野生動物や、はろうぃんすいーつぶっふぇ、チーズのお店も美味しかった」
 今年のケルベロスの仕事の話から、だんだんと今年食べた美味しい物の話に。

「特別な夜……はああ、お腹いっぱい」
 赤いドレスにふわふわケープを身に着けたマイヤ。
 魚料理は普段はあまり食べないけれど凄く美味しかったよと笑む。
「お魚料理も美味しそうだったね」
 そう紡ぐキアラは淡いエメラルドグリーンのワンピースドレスに白いボレロを。
「キアラなら、こういうのも作れちゃいそうだね」
「こっちのも凄く美味しかったわ。白ワインの気分だったから魚にしたけれど……」
 赤でお肉も捨てがたかったかもしれないわね、とセレスは言う。
 セレスは紫檀色の膝丈のワンピースにショールを。
「もっと大人になったら、セレスみたいに、わたしもワイン飲んでみたいな」
 まだまだ先だけどとマイヤは笑む。
「あ。美味しくて幸せに浸っちゃってたけど、皆で分けてもよかったよね」
「そうね、分けて色々食べれるのも楽しみだしね」
 ふと、キアラは唸って。セレスも確かにと頷く。
「色々食べたいけど、2人と想い出も料理も共有したいな」
 そして最後のデザート。
 ベリーのケーキ。それにシャーベットとソースで皿の上が彩られている。
「なんだか一年間頑張ってきた、ご褒美みたい」
「ご褒美! それ、ステキな考えだね」
 ここを教えてくれた二人に感謝しないと、とキアラは笑み零す。
「ご褒美かぁ……そうね、こうして一緒に過ごせることが、何よりもそうかも」
 セレスも笑って。
 マイヤはこうして、セレスとキアラが一緒に居てくれる事が本当に嬉しい事と思っていた。
 ふと、キアラがいい事思いついたと紡いで。
「じゃあ、来年も頑張って楽しく過ごしてご褒美に冬夜ごはん、しちゃおっか」
「わあ、いいねいいね。来年も頑張っちゃうぞ!」
「ふふ、今から来年の楽しみが出来ちゃったわね」
 それは良い提案とセレスも頷く。
 また来年も、三人で美味しい物を食べて過ごす約束を。

●大人の時間
「あ、それ前あげたスーツ……ふふ、使ってくれてありがとね?」
 クーゼが来ているのは言葉から贈られたスーツ。
「お褒めに預かり光栄だ。言葉の服も、とても似合ってる。可愛いよ」
 言葉はピンクのワンピースに白いボレロと気合ばっちり。
「そういえば、前にレディキラーカクテルの話をしたことがあったっけ?」
 例えばと示したのはスクリュードライバー。
「甘い割に度数が高いから気をつけて」「ふんふん、あんまり安易に飲むと危ないのね?」
 そう言って視線向けるとクーゼは笑って。
「酔わせてどうこうって言うなら屋形船の時にもうしていると思うよ」
 屋形船の時といえば成人したての時ねと、言葉はその時のことを思い出す。
「それに、そういうのはちゃんとするさ。酔った勢いだなんて、もったいないだろ?」
「…んもう、だから安心してクーゼくんと飲みに来られるのよ?」
 顔赤らめ紡ぐ言葉にクーゼは、信頼してもらえるは嬉しい、かなと微笑みを。

「たまにはこういう処も悪くないだろ?」
 喧噪とは隔絶された感じがして俺は好きだけどあんたはとつかさは問う。
「ゆったりと出来るし、お前とだから一層酒が美味い。それに嫌だったらちゃんと言うさ」
 その言葉に安堵して、撫でられる手に小さく笑みを。
「大切な宝物が膝上と隣に……贅沢な一時ってやつだな」
 前にも言っただろとつかさは言う。
 特別も『日常の延長戦』だって、と。
「贅沢な一日も日常の延長線……か」
「今夜もそのうちの一つ、って話さ」
 レイヴンは積み重ねた特別も含めて、次へ繋がっていくと零し。
「お前とそんな風に日々を紡ぐ事が……幸せ過ぎるくらいに愛おしい、と思うよ」
 とりとめない話をしながら、その薬指にとつかさは思う。そこに約束の証をいつ贈ろうかと。
「……酔っている訳じゃないからな?」
 けれどその考えは内緒にしてレイヴンへと知ってると笑う。

「うわぁうわぁ……すっごいなぁ……!」
 夜景に子供の用にはしゃぐスーツ姿の和。
 ワインレッドのスーツの恵はその姿を身守りつつ頷き席へ。
「こんな店で飲む物じゃねぇかもしれねぇんだが」
 いつも飲んでいるものが落ち着くと恵の手には薔薇のウイスキー。
「親父はどうする?」
「僕は白」
 と、ワイングラスを掲げ。
「ふふ、息子とクリスマスにこんな素敵なホテルの最上階のバーで過ごすなんて……父親冥利に尽きるなぁ……」
「俺も親父とこうして年末を迎えられて幸せだぜ」
 今年も無事越せそうだと、幸せをかみ締めるように恵は紡ぐ。
 するといつか、とぽとりと言葉落ちた。
「いつか……落ち着いたらこんな素敵なバーで飲みたいねって言ってたっけ……」
 和の見る先は遠く。
 僕だけと呟きぽたりと、瞳から雫落ちた。
「……二人になったあの日。何があったのか全く解らねぇ」
 だが俺は諦めてねぇと恵は言う。
 消えたその日を取り戻せるよう日々研究しているのだ。
「だから親父も諦めるんじゃねぇ。俺も一緒に抗ってやる」
 独りじゃねぇと、恵は言う。
「恵くん……そうだね。そうだ、まだ……」
 まだ、何も分かっちゃいないと和は拳で目元拭い見せた笑み。
「ありがとう恵くん」
 恵くんが僕の息子でほんとよかったと和は思う。
 飲み直そうかと紡ぎながら、和は必ず掴むよと思う。その記憶とを。

「コレが、バー……!」
 里桜は初めてのバーにあたりを見回す。
 そのはしゃぐ姿にデフェールは笑う。
「ようやっと里桜を連れて酒が飲めるようになったってわけだな」
「なんか大人っぽい雰囲気だよね、カッコいいね!」
 里桜は甘いものからとデフェールに勧められお任せでカクテルを。
「デフェは何飲む?」
「……オレはとりあえずウィスキー」
 お前と話しながらちびちび飲みてぇ気分なんでなとデフェールはいいながら一口。
「里桜が飲むような酒って可愛らしいの多いから、どうにもオレには合わねぇ気がしてな」
「……そ、その内一緒の飲めるようになるから!」
 ウイスキーは苦くてまだ飲めず、里桜はしょんぼりしつつカクテルを。
 こうやって落ち着いて夜景が綺麗だと思えるのも嬉しい。
「……んだな、こうやって落ち着いてお前と過ごすのはいい」
「デフェと一緒に見れるから、もっと嬉しい!」
 そう言って里桜は不意打ちでその頬にキスを。
 その緊張と照れを隠すようにぐいっと飲んで。
「っとぉ!? おま、いきなりベーゼとか」
「……夜景も綺麗だケド、私も見てほしいな、なんて」
「照れんだろーが。ったく、オレはな、いつでもオマエのこと見てんだよ。ばーか」
「あ、赤いのは! お酒のせい、だからね!?」
 慌ててお酒のせいにするがその顔が赤いのはそれだけのせいではなく。

「一段と綺麗だよ、帰したくなくなるね」
 いつもより大人びた姿の宿利へと夜は手を差し出した。
 その手を取り宿利はありがとうとはにかむ。
 夜景に合うカクテルをオーダーし、乾杯に軽くグラスを掲げる。
 宿利は少し緊張してきて、夜もそれには気づいていた。
「桜が咲くころには20歳。今日はジュースだけれど、大人になったら君と一緒にお酒を楽しむ為にリハーサルをさせて?」
「オトナのリハーサルね。酒を嗜めるのは暫し先だけれど……望むなら今すぐ大人にしてあげようか?」
 笑みに艶を。夜のの指先、そして吐息が触れる耳元に囁き落ちる。
 その瞬間、宿利の頬にはぱっと紅が差す。
「……なんてね。緊張は解けた?」
「もう……こんなの、余計に緊張してしまいます……」
 悪戯っ子のような楽し気な色を浮かべる夜。
 心奪われてしまいそうで宿利は慌てて視線逸らして俯いて。
 ちょっと剥れて調子戻すと笑顔咲かせる。
「酒は気楽に飲むのが一番だよ。二十歳になったら君が好む味わいを共に探してみよう」
 うん、と宿利は微笑む。
 だから、今はこの一杯を。春に訪れる日を楽しみに。

●夜おやつ
 今日はちょっぴりお姉さんぽい格好の綾はザザと一緒にアフタヌーンティー。
「ザザあねさまはお茶はお好き?」
「うん、好き! 美味しいお茶とお菓子、幸せな気持ち……綾ちゃんも?」
「綾はお菓子と一緒にもぐもぐするお茶がすきー! とってもおいしいのじゃ!」
 前にあねさまたちと一緒に食べたイチゴもとってもおいしかったの! と綾は笑んで。
「食べるものがステキなのも良いけれど一緒に食べる人がいて楽しくお茶ができるのが、とってもステキね!」
「うん、またお茶しようね」
 今度は私がお菓子作るとザザは言って。
 次のお茶の約束を。

 ドレスは赤薔薇で強めだけれどジャケットは控えめ、大人綺麗路線の芙蓉は完全に淑女なのだわと笑い零す。
 円は上品な白のワンピースにちょっとお洒落を。
「でもさー何が出てくるのか分かんないからドキドキするのは仕方ないっていうか、」
 そわっと視線を向け。そしてまた違う方向からの姿に。
「三段重ねのスイーツとか、素敵な紅茶をゆっくり上品に……あれうちのテーブルかしら!?」
「テーブルに運ばれてくるお皿を目でおっちゃうのは自然の摂理だと思うのですよ」
 そうこうしているうちに二人の目の前にティーセット。
 紅茶と、そして三段重ねのティースタンド。
「これがホテルのアフタヌーンティーの輝き……! あっ写真……は、ダメよね、雰囲気的、に……」
「あ、こういうところって写真とっちゃダメっぽい? はぁい自重…この思い出は舌に残すのだ!」
 そう言いながら芙蓉へと円はアイコンタクトをぱちぱちと。
 瞬き7回、それはシュクジョゲンカイのサインだ。
「あのね円、人間素直が一番よね。いっせーのせで最初に食べたいの指差しましょっ」
「OK、まず食べたいものはやっぱりコレだよねっ」
 いただきまーす! といつもよりちょっと声は小さめで。
 けれど笑顔溢れるひと時。

 ジャケットにパンツ。それからリボンタイをつけて少し澄ましたクィルはジエロを見上げる。
 ジエロはネクタイ外し少しカジュアルな感じで。
 こういう格好は揃って初めて。
「なんだかくすぐったいねえ」
「ふふふ。行きましょうか、ジエロ」
 ふかふかのソファに付けば、煌めくイルミネーションも目に見え、この時期ならの特別さを感じるばかり。
 そしてクリスマスアフタヌーンティーのセット。
 スコーンやサンドイッチといったものはきっといつもとそんなに変わりはないのだろう。
 しかし天辺の皿にはクリスマス仕様、ミニクロカンブッシュ。
「どんなものが来るのかな。予想してみますか? 当たったら一口……」
 と、言い終わる前に差し出されたプレゼント。
 その一口をクィルはもらってお返しに一口。
「今年はプレゼント、3つも貰っちゃいましたね」
 チョーカーと、一緒の夜と、今のひとくち。
 クィルは笑って、メリークリスマスと紡ぐ。
「共に過ごせる日々に、共に過ごしてくれる君に、感謝を」
「同じ気持ちを、あなたに。これから先もずっと」
 ジエロの言葉に重ねてクィルも応える。

「この国ではこの時期『坊主も走るほど忙しい』と言い習わすそうです。あなたも敬虔な使徒として励んでいると思ったのですが……」
「御心のまま励んでいるとも。年末年始は御布施の稼ぎ時だからね」
 クリーム盛ったスコーンを優雅に頬張り、そちらはこの土地には慣れたかなとレターレは問えば、耳をぺたりと後ろに倒して。
「気候にまだ慣れないようで。どうも毛ヅヤが良くないのですよ」
「ふむ、死活問題だ。キミから毛並みの良さを除いたら堅物しか残らないよ?」
 口端のホイップ舐め深刻に唸りダルタニアン、とレターレは名を呼ぶ。
「キミはもっと羽を伸ばすべきだ。硬派も結構だが騎士道には夢と遊びも必要さ――今日の様な、ね」
 その言葉に成程とダルタニアンは頷く。
「休息も満足に取れないとは、私も半人前ですね。有難うレターレ、今日はとても良い日にしましょう」
「さ、食べ終わったら夜の蝶でも探しに行こうじゃないか!」
「……は。蝶? え? レターレ、それは私に必要ですか?」
 夜はまだ始まったばかり。首を傾げる友人に必要だよと笑って。

 滅多に着ない洋装。偶にゃこういうのも悪くないと思いながら。
「お、男前じゃん。オレも中々男前だろい? つゆに笑われそうだけどよ」
「市松もいいじゃねぇか。よっ、色男。いつもよか随分と真面目そうに見えんぜ?」
 ちょっと挙動不審になりながらも、目の前にティーセットが来れば覗き込み。
「どれもうまそうで悩むよなー」
「悩ましいが好きなモンから遠慮なくいこうか。つー訳で、俺はサンドイッチから……と!」
「んじゃ、オレも同じもん食ってみようかね」
 手にしたのは大葉が隠し味のチキンサンド。
 そういえば、と手を伸ばして市松は思い起す。
「あん時の朝食サンドイッチはうまかった。負けねぇくらいこっちもうめぇけど」
 思えば食の旅はどれほどか。
「朝のサンドイッチに昼に天ぷら、それに夜の茶会……『食事は楽しむことが第一』と云うが、今年はお前とめいっぱい楽しんだ気がする」
「来年も美味いもん沢山教えてくれよな」
 勿論、今年だけじゃ終わらない。
「なぁ、来年は何を喰いに行く?」
「そうだなー、来年はヒコの好きなもんから食いに行こうぜ!」
 その言葉に食い倒れ手も引き摺り連れ行くから覚悟しろよとヒコは笑った。

作者:志羽 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月9日
難度:易しい
参加:31人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
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