雪すら融かす、炎彩使い

作者:遠藤にんし


 有名な観光地でもあるその庭園は、一面が雪に覆われていた。
 雪を照らすのは、熱く燃える緑の炎。
「――なかなかいい武器ね」
 炎の間近、シャイターン『緑のカッパー』は満足そうにうなずく。
 炎が燃え尽きた後にいるのは一体のエインヘリアル。漆黒の武装はいかにも金がかかっており、悪趣味にすら見える。
「豪華で良いわね。私が迎えに来るまでに、使えるようになりなさい」
 緑のカッパ―の命令に、エインヘリアルは恭しく礼をするのだった。


 秋田県にある、とある観光名所で事件が起こると高田・冴(シャドウエルフのヘリオライダー・en0048)は語る。
「雪の中でも出てくるとは思ってたけど……」
 まさか本当に起こるとは、と松永・桃李(紅孔雀・e04056)は溜息をつきつつ困り顔。
「人間を燃やし、エインヘリアルに変えた『炎彩使い』。彼女たちの足取りを追う意味でも、この事件は解決しておきたいね」
 グラビティ・チェインが枯渇した状態のエインへリアルは、周囲の人間を殺すことでグラビティ・チェインを奪おうとする。
「観光地ということもあって、周囲には人がいる」
 彼らへ襲い掛かるエインヘリアルを撃破することが、今回の目的だ。
 エインヘリアルは周囲の人であれば誰でもいいから殺そうと狙っている。ケルベロスたちが止めに入れば、自然と攻撃の手はそちらへ向くことだろう。
「エインヘリアルになってしまったのは、どんな方なのかしら」
 桃李の問いに、冴は資料を手繰り。
「そうだね……元は大学生のようだ」
 家が豊かであることを自慢し、金遣いも派手だったために周囲に人は多かったようだが、『友人』と呼べる者はいないらしい。
 今回秋田県にいたのは個人的な旅行。周囲に誘いを持ちかけてはいたが、誰も同行する者はいなかった模様。
「炎彩使いに利用されたことすら名誉だと思い、人を殺すことも何とも思っていないような素振りでいる」
 被害が出る前に撃破し、悲劇は防がなければいけないだろう。
「放っておけば、どこまで被害が広がるかは分からない。みんな、食い止めるために協力してほしい」


参加者
草火部・あぽろ(超太陽砲・e01028)
松永・桃李(紅孔雀・e04056)
月原・煌介(泡沫夜話・e09504)
愛沢・瑠璃(メロコア系地下アイドル・e19468)
ハートレス・ゼロ(復讐の炎・e29646)
雅楽方・しずく(夢見のウンディーネ・e37840)
雨野・狭霧(黒銀の霧・e42380)
病院坂・伽藍(鉄屑拳士・e43345)

■リプレイ


 輝ける呪力は禍々しく、ケルベロスたちへと振り下ろされる。
 大きなエンジン音を立ててそれを受け止めたのは、ライドキャリバー『サイレントイレブン』。チェーンを巻いたタイヤが雪を撒き散らし、エインヘリアルへと突撃する。
「理解できんな。かつての仲間を滅ぼす使命を与えられて、一体何が名誉だというのだ」
 雪を踏みしめ、ハートレス・ゼロ(復讐の炎・e29646)は独りごちる。
「……その使命、オレの地獄で灰に返す」
 言葉と共にハートレスが跳びかかり、エインヘリアルへと腕を突き出す。
 突然始まった戦闘に周囲の人々はざわめくが、プリンセスモードを発動した愛沢・瑠璃(メロコア系地下アイドル・e19468)が彼らの避難誘導を始める。
「こんな寒いのにお勤めご苦労様ね。そんなつまらないことやめてあたしのパンクでサイコーにホットな気分で逝かせてあげるから覚悟しなさい!」
 ウイングキャット『プロデューサーさん』は瑠璃の言葉に翼を広げ、鋭い爪でエインヘリアルの顔を引っ掻いた。
 草火部・あぽろ(超太陽砲・e01028)が舌打ちをしたのは、エインヘリアルの発生そのものを防ぐことが出来なかったから。
「エインヘリアルに変貌させられたらもう戻しようがねえ」
 日本刀『GODLIGHT』を手に、あぽろは接近し。
「倒すぜ、アンタを」
 最初から全霊のひと太刀――浴びせかけるとあぽろは素早く身を翻し、代わりに松永・桃李(紅孔雀・e04056)が飛び出る。
「雪化粧に紅は不要」
 炎彩使いによってエインヘリアルへと変えられてしまった彼は被害者。
 このまま放っておけばこのエインヘリアルは人々を殺め、加害者へと変わるだろう――それは防がねばならないことだと、桃李は涼やかな笑みを一般人へと向ける。
「凶刃なんて通しはしないから、転ばないよう落ち着いて離れてね」
 言葉と共に閃くは斬霊刀。見惚れてしまいそうな斬撃の舞いだが、先刻の言葉通りに人々は避難を始めていた。
「ケルベロスが来たから……大丈夫。落ち着いて、此処から避難して……」
 人々を安心させようと、月原・煌介(泡沫夜話・e09504)は静かに呼びかける。
 隣人力とスタイリッシュモードのお陰か、それに反発しようとする人はいない……それに安心して、煌介はケルベロスチェインで陣を組む。
 優しい輝きは白く銀雪を照らし、雅楽方・しずく(夢見のウンディーネ・e37840)は爆破スイッチで、癒しの手を更に広げる。
 集うケルベロスたちに警戒の表情でエインヘリアルは対峙する。
 雨野・狭霧(黒銀の霧・e42380)は御業による護りを築きつつ、エインヘリアルを見据え。
「そこまでです。私たちが遊びに付き合ってあげますよ」
 人々を傷付けさせはしない――決意を秘めた言葉。
 対する病院坂・伽藍(鉄屑拳士・e43345)は、エインヘリアルには何の言葉を掛けることもない。
 ケルベロスたちが先手を打ちさえすれば、彼は……そんな悔恨を押し殺し、伽藍は蹴撃を放つ。
 散らばった流星の煌めきが、辺りを一瞬白に染めた。


(「金の切れ目が縁の切れ目って言うけど……」)
 瑠璃が想うのは、エインヘリアルへと変じた彼のこと。
 お金でしか関係を築けなかった……それは可哀想だと思うが、だからといって手心は加えない。
 プロデューサーさんのリングがエインヘリアルを叩き、避難誘導を終えた瑠璃はマインドリングから光の盾を作りだし、前衛のケルベロスへと護りを与える。
 十分な癒しがあるからこそ、桃李は攻撃手として集中することが出来る……爪を彩る紅が艶めいたかと思えば、それは解けて龍へと変わり。
「火遊びじゃ、済まないわよ」
 ――エインヘリアルを背後から抱き締めた。
 止められなかったことへの悔しさや申し訳なさはある。だからこそ、安らかに眠って欲しい……その一心で、桃李は攻撃を重ねていく。
 いわくつきの日本刀を手に駆ける伽藍の足取りが危なげないのは、滑り止めのある靴を履いてきているから。
 足取り軽く、慣れた調子の剣さばき。大ぶりなエインヘリアルの攻撃は軽くいなして距離を取れば、ルーンアックス『雷光のラブリュス』を手にするあぽろが接近した。
「ほらよっ!」
 勢いよく振り下ろすあぽろの攻撃に、狭霧も刀を手にする。
 御業による護りは十分に行き渡っている。ならば次にやるべきことは、味方の攻撃のための布陣作りだ。
 日本刀による迫撃――互いの刃で鍔迫り合い、押し切って斬撃を与える。
「クソ寒いのに敵さんも元気ですねぇ……まァ、私たちもあまり人の事は言えませんか」
 刃を振って汚れを落とす狭霧。
 年の瀬だろうと、油断は禁物。鋭い眼差しで狭霧は敵と距離を取る。
 サイレントイレブンのスピンに続いてハートレスはバスターライフルを構え。
「オレの地獄に付き合ってもらおう」
 撃った――凍てつく波動に周囲の気温が更に下がり、白い息があちこちから上がった。
「月女神のヴェール、今ここに御業をあらわす」
 煌介の右手が印を結べば、月光が宿る。
「満ちては欠ける夜の運命、されど再び真なる円を描き。永遠なる循環、願うままに、かく在れ」
 導かれるままに描き出した指先。
 純白の幻想は綿雪のよう――煌介の視線は、しずくへと。
「しずく……俺の分まで、思い切り……行って」
 共に戦うのは初めてだったが、そうとは思えないほどに煌介の心は凪いでいた。
 返事は言葉ではなく攻撃で。しずくは如意棒を手にエインヘリアルへと迫ると、ヌンチャクによる多重攻撃で追い詰めて行く。
 感嘆するように目を細める煌介――見守っていると知っているからこそ、しずくは攻撃に集中することが出来た。


 エインヘリアルがルーンアックスを掲げれば、守護のルーンがエインヘリアルを取り巻く。
「あら、駄目でしょう?」
 しかし桃李は微笑と共にオーラを拳へ宿し、打ち据える。
 勢いのある破壊力が護りすら打ち砕き、雪煙を上げてエインヘリアルは後ろ向きに倒れ込む。
 追撃のために瑠璃は疾走、流星の軌跡を描きながら飛び蹴りを喰らわせた。
 プロデューサーさんは爪でエインヘリアルの皮膚を削り、鮮血を雪の上に散らす。
 エインヘリアルは素早く身を起こすとルーンアックスで薙ぎ払う――その攻撃は、ハートレスが受け止める。
「貴様の相手はオレだ」
 砕けた甲冑から覗く炎。
 それが強くなったと思えば、ハートレスはエインヘリアルの懐に飛び込んで。
「与えられただけの力など、簡単に奪われる。こんな風にな」
 震脚と共に、掌底を叩きこんだ。
「イミテーション・ワン、ソウルビート」
 偽・降魔真拳の一撃……続く煌介は、薬液の雨を降らせて癒しとする。
「皆、支える……」
 攻撃に回るケルベロスたちの一撃一撃は頼もしい――そんな彼らのために煌介に出来ることは、全員を癒しきることだった。
 決意の元で繰り出される癒しは十分に行き渡っている。サイレントイレブンも鈍い音を響かせながらエインヘリアルへ攻撃を繰り出し、伽藍も遠慮ない斬撃を降り注がせる。
 伽藍の放つ斬撃はひとつ、それは気魄の籠った力強い一撃。
 だが狭霧は一瞬のうちに刃を振るい、無数の斬撃を生み出して。
「雑に潰しますよ」
 エインヘリアルの全身へと、細かな傷をいくつも刻んだ――まさに、花が乱れ飛ぶかのように。
「そろそろ追い込みですね」
 エインヘリアルの様子を注視していたしずくは呟くと、淡い笑みをエインヘリアルに向け。
「鳥でも飛行機でもありません、鮫くんですよー♪」
 何の前触れもなく、どこからとも知れず、鮫を出現させた。
 ギラギラとした目つきが、鮫の空腹を知らせている――宙で旋回した鮫は、迷うことなくエインヘリアルに牙を剥いた。
 肉が喰い込み悲鳴を上げるエインヘリアル――だが当然のように、このエインヘリアルを助ける者は誰もいない。
(「孤独な男だ」)
 友人もいない男ではあったが、彼が死ねば悲しむ人はいるだろう。
 だが、今ではもう何もかもが歪まされてしまっている……あぽろの右手で、太陽の力が爆ぜた。
(「陽々さま、力を貸してくれ。陽の光の導きを、この魂に」)
 至近まで迫るあぽろ――手に宿したエネルギーは激しく火花を散らして。
「歪みを正す光あれッ! 『超太陽砲』!!」
 轟音と共に、天へ向けて解き放たれる。
 白の極光は、勝利の祝砲のようだった。


「ヒールもしておかないとね」
 戦いを終え、瑠璃はプロデューサーさんと共に周辺のヒールを行っていく。
「見事だったよ、しずく……お疲れ様」
 煌介はしずくの隣に立ち、そっと微笑を浮かべる。
 しずくの微笑は照れ混じり。ゆったりをかぶりを振れば、名残りのように青い髪が揺れた。
「いえいえ、煌介や皆のサポートがあったからこそ、安心して全力が出せたのですよ。有り難うございます」
 ハートレスは静けさを取り戻した周囲を見回して、短く息を吐く。
「人間同士の争わせる。何度見ても気に食わんやり口だ」
 敵に想いを馳せるのは、あぽろも同じ。
 誰もついてこなかったというのに、わざわざこんな場所まで来た理由は何だったのか……最後の最後まで一人ぼっちだったから、彼の真意はもう誰にも分からない。
「……家族とでも一緒なら、何か違ったのかもな」
 今はもう、取り返しのつかないことだ。
 一陣の風に目を閉じた桃李は、改めて雪景色を眺める。
 銀世界は眺めているだけで心が洗われる……景色に浸りながら、桃李は呟く。
「火種も早く消し止めたいものね――この平和が続くように」
 狭霧はぐるりと辺りを見回して、ヒール漏れがないことを確認してうなずく。
「ここ、観光地らしいですし、お土産でも買っていきますかね」
 この辺りだと何が有名なのだろうか、と思案顔の狭霧。
「観光しないと損っすよね」
 そんな狭霧に伽藍もうなずいて、辺りへと繰り出していく。
 ――ひらり、空からは雪が舞い降りる。
 戦いに火照った身体を冷ますかのように、雪は優しく降っていた。

作者:遠藤にんし 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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