今年ノ汚レハ吹キ飛バセー!

作者:麻香水娜

●年明け間際に
 あと1時間で2017年が終わろうという夜。
 山間にある小さな村に無人の廃屋があった。

 ――カタカタ、カタカタ……。

 庭の片隅にある物置から小さな物音がする。

 ――バーン!!

 物置の戸を内側から破って、高さ2mくらいになった、扇風機――のようなダモクレスが現れた。
 底面にはキャスターが4つ付いて、支柱から太いコードのような腕が生えている。
『吹キ飛バセー!!』
 機械的な音声を上げ、羽根を回転させると大量の弾丸をばら撒きながら、庭を飛び出していった。

●今年最後の大掃除?
「デウスエクスには年末年始は関係ありませんよね」
 どこかうんざりしたように、祠崎・蒼梧(シャドウエルフのヘリオライダー・en0061)が溜め息混じりに口を開く。
 廃屋の物置に仕舞いこまれていた扇風機がダモクレス化すると。
「大晦日に大掃除とは少しのんびりしすぎかと思いますが……」
「ダモクレスをお片付けするんだね!」
 シララ・クリーブ(クリーニングクリーニング・e38987)が瞳を輝かせた。
「えぇ、皆さんには、ダモクレスが一般人を掃討してしまう前に、しっかり片付けて頂きたいのです」
 扇風機がダモクレス化するのはもうじき年が変わる、23時頃。
 廃屋であるので当然住居にも人はいないし、時間的にも周囲を歩いている人はいない。
 しかし、隣接しているわけではないが、歩いてすぐ人の住まう民家がある。
 当然、民家の中ではテレビを観たり、家族と団欒を楽しむ一般人がいるのだ。
「いくら周辺を人が歩いていないと言っても、物音を聞いて見に来てしまう可能性もあります」
 人払いの対策はあった方が安心だろう。
「このダモクレスですが、ガトリングガンを内蔵しているようで、羽根を回して弾丸を撒き散らしたり、羽根の中央から旋回流する冷風を出してきたり、ミサイルを撃ってきます」
 状態異常付与には気をつけるようにして下さい、と説明を締めくくった。
「今年のダモクレスは今年のうちにしっかり撃破して新年を迎えましょう」


参加者
比良坂・黄泉(静かなる狂気・e03024)
アイオーニオン・クリュスタッロス(凍傷ソーダライト・e10107)
穂村・華乃子(お誕生日席の貴腐人・e20475)
スノードロップ・シングージ(堕天使はパンクに歌う・e23453)
ヒビスクム・ロザシネンシス(地中の赤花・e27366)
シララ・クリーブ(クリーニングクリーニング・e38987)
フィア・ミラリード(自由奔放な小悪魔少女・e40183)
星乃宮・紫(スターパープル・e42472)

■リプレイ

●新年を迎えるために
「よーし! 年の瀬の大掃除だよ! 季節外れの扇風機クンは片づけちゃおう!」
 シララ・クリーブ(クリーニングクリーニング・e38987)が元気に声を上げる。
「今年最後の大掃除になりそうだね」
 頭や腰にライトを装着した比良坂・黄泉(静かなる狂気・e03024)も、無事に新年を迎えれるように頑張ろう、と思いながら頷いた。
「人々の生活を守るのもケルベロスの仕事! このスターパープルも精一杯がんばらせてもらうわ! みんなの年末は守ってみせる!!」
 お手製のヒーロースーツを纏った星乃宮・紫(スターパープル・e42472)も、ぐっと拳を握って気合を入れる。
「今年ものんびり年越しを過ごしたかったのに……空気読まないダモクレスが暴れちゃってさー……」
 3人とは反対に、フィア・ミラリード(自由奔放な小悪魔少女・e40183)はうんざりしたように溜め息を吐くと、
「おしおきだよ! お・し・お・き!」
 ぐっと拳を握って、まだ見ぬダモクレスに怒りを向けた。
「戦利品は今回の大掃除が終わるまでお預けかー……」
 フィアとはまた違って、こちらはどこか残念そうというか、何かに後ろ髪を引かれているような雰囲気で穂村・華乃子(お誕生日席の貴腐人・e20475)が小さく息を吐く。
「戦利品?」
「聖戦のね」
 アイオーニオン・クリュスタッロス(凍傷ソーダライト・e10107)が微かに首を傾げると、華乃子はにこりと微笑んだ。
 華乃子のいう聖戦とは大型同人イベントである。会場からそのまま駆けつけた故に、そこで買った『戦利品』を読み漁る事が『お預け』なのだ。
「立ち入り禁止シテキタネー」
 そこへ、廃屋の周辺にキープアウトテープを貼りにいっていたスノードロップ・シングージ(堕天使はパンクに歌う・e23453)の明るい声が響く。
「寒い……寒いの嫌いなんだよ、俺。何でこんな寒い中……」
 そのすぐ後ろには、テープを貼るのを手伝いに行っていたヒビスクム・ロザシネンシス(地中の赤花・e27366)が自分の体を抱きしめるように身を縮こまらせていた。
「2人ともありがとね」
「さて……」
 華乃子がにこりと2人に微笑みかけると、黄泉がすっと目つきを鋭くする。たちまち周囲に殺気が広がった。

●大掃除開始!
 全員が揃って庭にある物置の前で息を潜めて武器を握る手に力をこめる。
『吹キ飛バセー!!』
 派手な音を建てて物置の戸を内側から破った巨大扇風機ダモクレスが、羽根を回転させながら強風と共に前衛へと弾丸をばら撒いた。
「おおっと!」
「お姉さんにお任せよ!」
 前衛にばら撒かれた弾丸を、ヒビスクムが黄泉の前に、華乃子がフィアの前に出て、2人分のダメージを負う。
「大丈夫、治癒は任せて」
 咄嗟に腕を顔の前に翳して弾丸を耐えたアイオーニオンが、薬液の雨を降らせて傷を癒した。
(「ゴミがゴミを増やすとかなんなのかしらね。唯でさえ世の中ゴミが多いって言うのに。季節はずれな外見もしてるし」)
 顔には出さずに、そんな事を考えながら。
「バッキバキに砕けるネ!」
 ルーンを発動させて斧を光り輝かせたスノードロップが瞬時にダモクレスに肉迫すると、ブンッと薙ぎ払って前ガードをベッコリへこませる。
「ありがとう」
 庇ってくれたヒビスクムに短く礼を言った黄泉は、煌く脚で支柱に飛び蹴りを放ち、重力の錘をつけた。
「情熱の赤花よ! 萌え上がれ!」
 黄泉の礼にニカっと笑顔で応えたヒビスクムが、グラビティで真っ赤なハイビスカスの花をいくつも咲かせる。花達は真紅の光を放って前衛の傷を癒した。
 傷を癒されたヒビスクムのサーヴァントであるガブリンは嬉しそうに一鳴きして感謝を伝えると、ボクスブレスを吐き出してダモクレスの傷を深める。
「やってくれるわね」
 ナイフを構えた華乃子は、若干重さの残る腕に力を込めて支柱を斬り裂いた。その瞬間に漏れたグラビティ・チェインを浴びる事で己の傷を癒す。
「もー、年越しそばが待ってるの! ぶっとべ!」
「パープルゥゥ! ビィィィム!!」
 イライラと怒りを隠さないフィアがグラビティを込めた指先で宙にハート型を描いた。現れたハートを押し出すようにダモクレスに向けて飛ばすと、タイミングを合わせて古代語を詠唱していた紫からも魔法光線が放たれる。
『!?』
 次々に攻撃され、連携攻撃までされたダモクレスがうろたえるようにブオォっと強風を吹かせた。
(「ちょっとまだ動きが悪いね」)
 仲間の状態を注意深く観察していたシララは、回復されていても、ヒビスクムと華乃子の動きがまだ若干悪く見え、
「回復は任せておくれよ! 万全な状態でこそ、万全に掃除できるからね!」
 美しく舞い踊りながら花びらのオーラを降らせる。
 きょろきょろと仲間達の状態を確認するシララのサーヴァントであるバケットくんは、回復は大丈夫そうだとボクスブレスを吐き出して、ダモクレスの傷を広げて動きを悪化させた。

●大掃除の仕上げ
『ス、スズ……涼シ、イーー!!』
 あちこちの回路が異常を訴えているらしいダモクレスの音声にも歪みがみえる。
 しかし、羽根の中央から、冷え切っている夜の空気を更に冷たくする冷風をゴォっとスノードロップ目掛けて撃ちだした。
「スノーお嬢さん!」
 ヒビスクムが仕えるべき主の危機に、全速力で走り、両手を広げて盾になる。
「風除けアリガトネ!」
 ぽん、とヒビスクムの背後から肩を叩き、
「死ト希望ヲ象徴する我が花ヨ。その名に刻マレシ呪詛を解放セヨ!」
 ばさり、と背の翼を広げて飛び上がった。
「スノードロップの花言葉、アタシはアナタノシヲノゾミマス!」
 上空から、真っ白な花びらとなった死の呪詛と共に、漆黒の羽をダモクレスへと降らせる。
「余り動かないでね。余計なところまで斬っちゃうわよ」
 アイオーニオンが氷のメスを創造すると、攻撃されると察知したダモクレスは一気に後退して避けようとした。
『!?!?』
 しかし、石のように重い体は上手くキャスターを動かす事ができず、更に何かが詰まったようにキャスターは動かなくなってしまう。
 そこへ、急所を断ち斬る強力な斬撃が放たれた。
「掃除しようと考えてるみたいだけど、そんなに銃弾ばら撒いてたら掃除にならないし逆に汚れるでしょ」
「必殺!! パープルゥゥゥキィィィィック!!!」
 高々と飛び上がった黄泉がルーンアックスを振るって羽根を殴りつけると、同時に紫が空高く飛び上がり、力を込めた右足で思い切り蹴り飛ばした。
「おっと、逃がさねえぜ」
 ヒビスクムはニヤリと笑って、手元のスイッチを押す。
『!?!?!?!?!?』
 見えない地雷にキャスターを飛ばされたダモクレスが戸惑っているところ、今の隙にと、ガブリンが属性インストールで主人の傷を癒した。
(「このスクラップを倒せば……ご褒美が待ってるのよ!」)
「私の愛を受け止めてね」
 聖戦で蓄えた萌えの力を拳に乗せた華乃子は、思い切りダモクレスを殴りつける。ぐらりと揺れたところを更にもう1発拳を入れた。
「大体扇風機って汚れ飛ばすものじゃないでしょ!? あんたがぶっ飛んでよ!」
 フィアがダモクレスに怒鳴りつける。のんびり過ごす予定を潰された恨みを込めて。
「年越しフィアちゃーんキーック!」
「危ない扇風機クンは片付けちゃおう! あわあわで綺麗になーれっ!」
 フィアが流星の煌きを宿してヒーローさながらの華麗な飛び蹴りで重力の錘をつけると、同時にシララが不思議なスプレーボトルから、泡をダモクレスのキャスターに大量に吹きかける。
『冷ヤ!? ヤ、冷ヤ……スーーーーーー!!!!!』
 あちこちから小さな火花を散らしていたダモクレスは、支柱に受けた衝撃とキャスターから中の回路に侵入してきた泡で派手な音を立てて爆発した。

●すっきり年越し!
「お片付け完了ー!」
 シララが満面の笑みで宣言する。
 無事にダモクレスを撃破したでケルベロス達は肩の力を抜いて、それぞれに小さく息を吐いた。
「いくら廃屋とはいっても、流石にこのままにはできないわね」
 ふいに、冷静に周囲を見渡すアイオーニオンがぼそりと呟く。
「じゃ、皆でヒールしちゃおうかしらね」
 その呟きに、皆でやればあっという間よ、と華乃子が仲間達に笑顔で呼びかけた。
「み、みんなを守れて……良かったです……」
 戦闘が終わって、いつの間にか制服姿になっていた紫が、先ほどまでとは別人のように控えめに口を開く。
「年越し前、最後の掃除も終了。これで平和に年を越せそうだね」
 紫と一緒に爆発して散らばったダモクレスの残骸を拾い集めていた黄泉も、口元を綻ばせた。
「寒い……寒いーー!!」
「帰ったらあったかいもの飲み物用意シテネ!」
 ヒビスクムが叫びながら周辺のヒールをしていると、スノードロップが背後からにっこり微笑みかける。
「あー、はいはい」
 肩越しに主たるスノードロップに視線を合わせながら頷いた。
「ふぅ……今日は一杯頑張ったし、お正月の3日間はだらだらしてよーっと」
 片付けが終わると、フィアが完全に肩の力を抜いて、んーっと伸びをする。
「さて、帰りに初詣いこうかな」
 黄泉がマイペースにぽつりと独り言を呟いた。
(「そうか、初詣……いつ行こうかなぁ」)
 その声に、フィアがあくびをしながらスマホを取り出して予定を確認する。
「あ、いいわね。折角だし、皆で一緒に行かない?」
 どうせなら一緒に行こう、と華乃子が仲間達に笑いかける。
「イイデスネ! 初詣! ビッキーも行くネ!」
 楽しげに瞳を輝かせたスノードロップは、寒くて早く帰りたいであろうヒビスクムに笑いかける。
「はいはい」
 ヒビスクムは、寒いし早く帰りたいがしょうがない、と諦めたように苦笑した。
「途中でコンビニか自販機であったかい飲み物買ってからね」
 華乃子がヒビスクムの様子に言葉を付け加えて、年内最後の大掃除を終えた8人のケルベロス達は、皆揃って初詣へと向かった。

作者:麻香水娜 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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