●交わされた約束
桜色の花弁が舞い落ちる。
舞い落ちる花弁は、地面に着くより前に風に巻き上げられ、同じく巻き上げられた多くの仲間たちと吹雪のように一面を桜色に染めた。
「ハーハッハッハッハ!」
その桜色の吹雪の中、三人の剣士が刀を振り回し、周囲の人々を無差別に斬り付けていた。
三人の剣士が刀を振るうたびに、足が、腕が、首が斬り落とされて、桜色の吹雪を真っ赤に染め上げていく。
凶刃を前に、悲鳴を上げる間も無く肉塊と成り果てていく人々を前に、剣士たちは高らかに嗤う。罪なき人々の返り血で呪われた刀を赤く染め、守るべきものを見失った眼から血の涙を流して。
だがそれも何時までもは続かない。
笑っていた剣士たちの声が途切れ……狂気に歪む顔が、その顔のままに地面に転がり、転がった三つの頭の前に四人の剣士が立っていた。
「ごめんなさい。私も、遠からずそっちに行くから……」
その首の前に女性の剣士が地面に膝をつき、血に染まる目を閉じてやる。
狂気に囚われた仲間は斬り捨てるしかない。
昨日まで戦場を共にしていた仲間を斬る……それが新たな狂気を生むと分かっていても斬るしかない。
明日は我が身と分かっている。だからこそ斬るしかない。
そこで戸惑ってしまっては、迷いを持ってしまっては、自分が狂ったときにも仲間が迷い、被害を広げるかもしれないからだ。
だから斬る。斬るべくして斬る。かつて狂った仲間のために、明日狂うかもしれない自分のために。
これは約束だ。狂気の渦の中で、彼ら妖剣士が縋る唯一の救いだ。けれども……、
「もっと……もっと力があれば、あの人たちの様に」
狂うべくして狂う、この連鎖の果てには何が残るのだろうか? そんな疑念を抱かずにはいられない。
だからだろうか、この呪われた力を制御できるものが居るなどと言う幻想を抱いてしまったのは。
「そんな力があったら、私たちも救われるのでしょう」
「ん? ああ、そうだな俺は何を言っているんだろうな」
呪われた妖剣士の力を制御できるものなどいない。その事実を再び突き付けられた男性は、自分を嘲笑するように肩をすくめた。
「まぁ、俺が狂ったときは、お前さんが俺を殺してくれよな」
それから男性は女性の肩に手を置いて、おどけた様子で懇願する。
その震える手に自分の手を重ねながら、周囲に転がるかつての仲間たちが傷つけたものたちの亡骸を見つめる。
守るべきもののために、呪われた力を手にし、呪われた力を手にしたが故に守るべきものを傷つける……それでも、何も力が無いよりは多くのものを守れているはずだ。
「はい、勿論です」
女性はその手に自分の手を重ねて、深く頷く……何時か自分も、狂気に屈してしまうだろう。
だから、今は精一杯、この呪われた刀を振るい――仲間たちがこの狂気の連鎖を断ち切ってくれる時を待ちわびよう。
●狂気の連鎖
「寓話六塔戦争お疲れ様でした。皆さんのおかげで勝利することができました」
セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)はケルベロスたちの前に立つと話を始める。
「寓話六塔戦争で囚われていた失伝ジョブの人たちを救出できたのですが、彼女たちから、さらに救出できていない失伝ジョブの人たちが居るとの情報が得られたのです」
失伝ジョブの人たちは『ポンペリポッサ』が用意した特殊なワイルドスペースに閉じ込められ、大侵略期の残霊によって引き起こされる悲劇を体験させられている。
しかも一度ではなく、何度も何度も……これは失伝ジョブの人たちを絶望に染めて反逆ケルベロスにするための作戦だったようだ。
だが、寓話六塔戦争に勝利した結果、彼らが反逆ケルベロスとなる前に救出することが可能となった。
と言うのが、失伝ジョブの人たちから得られた情報とヘリオライダーの予知によって、分かった詳細な情報だとセリカは説明した。
セリカは自分の説明を聞いていたケルベロスたちへ、さらに続ける。
「この特殊なワイルドスペースですが、失伝ジョブを持つ人しか出入りできないようです」
つまり失伝ジョブをケルベロスしか参加できないと言うことか。ポンペリポッサが作った特殊なワイルドスペースであるが故に、そういった制限があるのだろう。
「皆さんに向かってもらいたいのは、妖剣士が仲間を止めるために殺し続ける空間です。彼らは狂気に囚われ、狂ってしまった仲間を自分たちの手で殺す約束をしています」
セリカは少し目を伏せて話す。
狂った仲間を殺す……そうすることにより、仲間の誇りを守り、その約束を架して守ることにより結束を固くするのだろう。だが、それはあまりに……、
「はい、そうするしかなかったとしても……ですね」
大侵略期にはデウスエクスに対抗する手段が無かった。だから多くの人が犠牲になり、犠牲を防ぐために、身に余る力を手にしたものたちが犠牲になった。
そんな世界に囚われた人たちは何時まで正気を保っていられるだろうか。繰り返される惨劇に、静かに、ゆっくりと、正気を奪われ、気づいたときには絶望に染まっているだろう。
「この連鎖を断ち切るために皆さんは、失伝ジョブの人たちより先に残霊の妖剣士を倒してください。約束を果たせなかった失伝ジョブの人たちは激昂して、攻撃してきますが、それを見事にしのぎ犠牲を払う必要など無いことを示してください」
彼らの姿を思い浮かべるようにセリカは眼を閉じて、失伝ジョブの人たちを救う術を提示する。ケルベロスならば犠牲を払うことなく力を制御できることを示し、失伝ジョブの人たちを説得するのだと。
それからセリカは再び眼を開いて、ケルベロスたちを真っ直ぐに見つめ、
「皆さん、どうか失伝ジョブの人たちを、悲劇の中から救い出してください」
祈るような思いをケルベロスたちへ託した。
参加者 | |
---|---|
黒峰・朧(ヴァルキュリアの妖剣士・e44196) |
ハンス・アルタワ(柩担ぎ・e44243) |
ユーナ・シャムロック(一振り・e44444) |
夜陣・彼方(復讐の妖精忍者・e44556) |
セシル・ミロル(シャドウエルフのゴッドペインター・e44560) |
ステラ・フラグメント(ウェアライダーのガジェッティア・e44779) |
和銅・恭子(地球人のブラックウィザード・e44919) |
アメージング・ファンタスティック(測定不能のすごいやつ・e44964) |
●決意と共に
ゆらゆらと揺らめく泥の中を進む。
様々な色の混じり合う、この空間……ワイルドスペースはまるで水に溶かした水彩絵の具のようだと、セシル・ミロル(シャドウエルフのゴッドペインター・e44560)は感じもするが、忙しなく動き続ける色の空間では上下左右すら覚束ず何とも居心地の悪いものだ。
「あれは黒色、あちらも黒色? 黒色って何色でしたっけ?」
そんな空間を歩きながら、和銅・恭子(地球人のブラックウィザード・e44919)が首を傾げていると……唐突に視界が開け、今度は濃い群青色と桜色が一面を彩っていた。
「ふひ……」
それは、本来ならこの季節にはあり得ない光景。桜の花弁舞う夜空。幻想的とすら言えるそれを前に、ハンス・アルタワ(柩担ぎ・e44243)は思わず不器用な笑みをこぼし、
「全員救出する。同じ妖剣士しとしてこれ以上の悲劇は止めないといけないな」
失礼しましたと俯いたハンスの横で、黒峰・朧(ヴァルキュリアの妖剣士・e44196)は風に流されて地面に落ちる花弁の行く末を見送る。
地に落ちた花弁は、先に落ちていた花弁と混じり合い地面を桜色に染めていく。
仲間の妖剣士のためにと仲間を手にかける、この折り重なる花弁のように延々と血の連鎖を重ねる失伝者の悲しい連鎖を断ち切るのだと、朧は喰霊刀を持つ手に力を篭める。
「――ええ、必ず全員救出しましょう。それ以外はありません」
そんな朧の様子に、ユーナ・シャムロック(一振り・e44444)は頷き、
「きっと助けを求めているはずです、僕達で救ってあげましょう」
セシルもまた頷きながら力強く拳を握り締めた。妖剣士ではないセシルだが、同じ失伝者のものとして彼らを守りたいし、救えるのだったら四人全員を救出したいと考える。
「できます、アメならば。必ず、4人とも見事に救ってみせます」
そしてセシルよりももっと力強く拳を握り締めて、アメージング・ファンタスティック(測定不能のすごいやつ・e44964)はアメの描く物語は大団円がお約束ですと断言する。
「失伝者も含めて無事に帰ろう、な」
二人で意気込むセシルとアメージングと、それを見守るように頑張りましょうねと微笑むユーナを後ろから見て、ステラ・フラグメント(ウェアライダーのガジェッティア・e44779)は呟いてから手にしたガジェットを見つめる。
ガジェットを持って他のケルベロス達と戦うのは初めてだ。そこに幾ばくかの不安はあるが力強い仲間たちの姿を見ていると、その不安も消えていく。
「そろそろ見えて来たぞ」
良い仲間に巡り合ったと息を吐くステラの肩に手を置いて、夜陣・彼方(復讐の妖精忍者・e44556)は息を殺す。
彼方の言葉に促されてステラが満ちの先を見据えれば……そこには赤く染まる刀を抜いた三人の剣士と、その周りで右往左往する人々の姿が微かに見え始めていた。
●狂いサク
「ハーハッハッハッハ!」
罪なき者に無差別に刀が振り下ろされるたびに、桜色の花弁が鮮血が赤く染めていく。
刀を振るう三人の妖剣士には既に己を律する自我は無く……己の体が壊れるまで刀と共に踊り狂う呪われた人形と成り果ててしまっていた。
「同じ妖剣士として見過ごせません。ユーナ・シャムロック。助太刀いたします」
その狂った妖剣士を挟んだ道の先から、四人の人影が向かってくるのが見える……あれが救出対象の失伝者たちだろう。ユーナは彼らにも聞こえるように声を上げると、血桜を鞘から引き抜く。
それから狂った妖剣士が振り下ろした刀を柄で跳ね上げて弾くと同時に呪詛を載せた斬撃を放つ。
放たれた斬撃は縦に美しい弧を描いて妖剣士の胸元を裂き、ユーナの踏み込みに歩を重ねた彼方が死の淵で得た零の境地を載せた拳を、血を噴く妖剣士の懐へ捻じ込む。
彼方の拳によってさらに噴き出す血潮を避けるようにユーナが半身を反らせば、ハンスが全身の装甲から放出した光輝く粒子が降り注ぎ、その粒子の中を突っ切ったアメージングの拳が妖剣士の顔面に炸裂する。
「ケルベロスが出るまで頑張ってくれていた方々、このまま放っていくわけにもいかないですね? あれ、どうなんでしょう?」
アメージングのやればできると信じる心を魔法の力に変えた将来性を感じる一撃によって妖剣士が多々良を踏んでところへ、ドラゴニックハンマーを振り上げたままアメージングの頭上を越えて跳躍した恭子があれれ? と首を傾げながらドラゴニックハンマーを振り下ろし……生命の進化可能性を奪う超重の一撃で、妖剣士の一人を沈黙させた。
ドラゴニックハンマーを振り下ろしたままの姿勢でいる恭子へ、残り二人の妖剣士が呪詛を篭めた刀を振るう。
振るわれた刀は傾げたままの恭子の首を切り落とさんとするが……その一刀をオウガメタルを纏わせた左手でステラが掴み、もう一刀をウイングキャットが翼で弾いた。
掴んだ刀から伝わってくる精神を蝕む呪詛のような声にステラは一瞬眉を寄せるが、直後に空に浮かぶ道を描いてその上を滑走してきたセシルが妖剣士の顎に膝を叩き込むと、妖剣士はよろめいてステラたちから距離をとった。
セシルが滑走してきたのに合わせて刀を手放していたステラは、そのまま左手を空へ翳して掌の先に黒太陽を具現化する。
具現化した黒太陽からは絶望の黒光が照射され、反射的に光から目を守るように妖剣士たちは腕で目元を隠し……隠した瞬間を見逃さずに駆け込んだ朧が無数の零体を憑依させた喰霊刀でがら空きになった腹を薙ぎ払った。
腹を裂かれた妖剣士は狂気に冒されたままの眼で自分の脇を抜けて行く朧を追うが……頬に当たった花弁の感触に正面へ向き直と、
「――狂い咲け。血桜」
そこには血桜を振り上げたユーナの姿があった。振り上げられた血桜の刀身はかつて啜ってきた獲物と宿主の血液で覆われ新たな刃となって伸びている、そして刃となり切れずに行き場を失った血液たちが、薄い皮膜のように宙を舞う。
血の桜が舞い散る中を刀身が一閃すれば、斬撃は違わず妖剣士の体を裂いて……血の桜に埋もれるように血潮の中に膝を折った。
●本当の願いは
ハンスはステラへ濃縮した快楽エネルギーを桃色の霧として放出しつつ、失伝者たちの様子を確認する。
「あと一人、です!」
失伝者もうすぐそばまで来ているが、このままいけば到着する前に片が着くだろう。
ハンスの言葉に頷いたアメージングが光の翼を暴走させて全身を光の粒子に変えると、光の粒子が妖剣士の体を貫いていく。
「これが【影】の極意」
そして光の粒子に紛れるように妖剣士の目の前まで迫った彼方が、首筋に零式鉄爪を当てて……単純にそれを引き抜くと、いとも簡単に妖剣士の首が胴体から離れた。
「理の無い殺し殺されは認めねぇよ! テメェらは塵と化せ!」
光の粒子となっていたアメージングの体が再生成される横で、彼方は溜めていた怒りを吐き出すように言い放つ。
ただ狂気に支配されるがままに行われる殺りく……救うために殺すことを信条とする彼方からすれば、それは見過ごすことのできない行為であったろう。
「よくも、我らが同胞を手にかけたな!」
妖剣士の亡骸を前に立つ彼方に向けて、失伝者の一人が喰霊刀を振るう。
「あんたらはまだ殺しはしない。生きてても救われるからな……それに、あいつらを殺してもお前らは救われねぇんだよ」
彼方はあえて一歩踏み込み。失伝者の手首を掴んでその一撃を止めると、目の前で冷たく言い放つ。
その言葉は裏を返せば何時でも殺せると言う意味にもとれるが……実際のところ実力の差は明白で、失伝者たちでは彼方を傷つけることも出来ないだろう。
「もう大丈夫、です! 主はあなた方に救いの手を差し伸べました。で、あるなら、もうあなた方は苦しむ必要はないので、す――!」
手首を掴まれたまま奥歯を噛みしめる失伝者へ、ハンスは言う。苦しむ必要は無いのだと。
「救うだのと世迷言を!」
だが、救いの言葉も聞く耳を持たない相手には届かない。彼方が押さえている失伝者の後ろから、別の失伝者が放った魂の斬撃がハンスに飛来した。
「アメは適正に評価します、あなた方の忍耐と覚悟の重みを、あなた方がアメ達に覚悟を踏み躙られたと感じるのも無理はありません」
飛来した斬撃をあわわとハンスが避けるのを横目で確認してから、アメージングは失伝者たちを真っ直ぐに見据え、彼方とハンスの言葉を補足するように訴えかける。
「けれど、その上でお願いします。どうか、アメを信じてください。アメは自分を信じています、あなた方全員を救えると。ここに来た者はみんなそう思っているはずです。あとはあなた達4人だけなのです」
約束を反故にさせられた。その怒りは受け止める。でも、どうか信じて欲しいと。アメージングたちが失伝者を救えると信じて欲しいと。
「仲間として同じ妖剣士としてお前たちの気持ちはよくわかる。でも悪い呪われた連鎖を断ち切りたいんだろ?」
アメージングの言葉に思わず息をのんだ失伝者たちへ、今のままでは、お前たちを倒すためにまた同じ事が繰り返されるんだぞと朧は言い、
「私も昔同じ事に合った事があるし、自分らの気持ち良ぉ分かるわ。だからって自分らがこれ以上傷付く必要ないねんて」
恭子もまた狂気に囚われ、同じ苦しみを味わい続ける……また自分を斬らせることで別の誰かを苦しませることは無いのだと言う。
それは確かにその通りだ。苦しまないで済むのなら、苦しませずに済むのなら、それはどれだけ良いことだろう。
「なら、どうすれば良いと言うのですか!」
だが、それができるのならば、今自分たちはこんなに苦しんでいないのだと、また別の失伝者が声を上げる。
「あなた方も妖剣士ならば分かるでしょう。これだけの力を行使するのに、本来どれ程の代償を払わなければならないのか」
どうすれば良いのかと問うと言うことはどうにかしたいと思っていると言うことだ。ユーナは自分の力を見てくださいと主張し、
「ユーナも朧も、自分の力を制御してここに立ってる。君たちだけでは対処できない力でも、沢山の仲間がいれば狂わずに済むはずなんだ! 君たちが狂ってしまわないで済むように、俺たちも力を貸すから! だから仲間を、自分を傷つけるなんて、悲しい事はしないでくれ……!」
ステラが力を制御する方法があることを示した上で、自分たちもまた協力を惜しまないと訴えかける。
「わたしたちは必ず、あなた方を助け、ます! ……ふへ」
そしてステラの言葉に頷いてハンスが不器用に笑って見せると、
「貴方たちの言うように、力を御する方法があるのかもしれない……でも、私は多くの仲間を斬った。それなのに自分たちだけ助かろうなんて」
もし方法があるとしても自分たちだけが助かるなどと許されるのだろうか? と、失伝者は項垂れた。
●果たされた約束
桜の花弁は舞い続ける……その花びらの一つを見つめた後、ユーナは何かを考えるように眼を閉じる。
「この手は血に塗れています――ですが、それが何だと言うのです」
それから、ゆっくりと青色の眼を開いて、ユーナは微笑みを浮かべた。
妖剣士の約束。人はそれを悲しいと言うかもしれない。だが、己で道を決め、己で刀を振るい、己の意思を次へと繋ぐ。この行為に何を躊躇う必要があっただろう。
全ては人々を救いたいと言う願いのためにあるのだ。故に、誇ろう。幾重にも積み重なった死体の上に立つことを。仲間を、弟子を、愛しい人を、斬ってでも紡いだ今を。希望のためにと行われる正しくは無い正義を。
もし誰かがこの想いを狂気と呼ぶのなら――狂気すらも斬って見せよう。
「死んだこいつらだってお前たちを狂わせたとは思ってないはずだ。生きろこいつらの分まで」
ユーナの笑顔に気圧されて失伝者たちは言葉を失う。そうだ、悔やみ、俯くのは良い。だが、立ち止まることはできない。最初の願いは、死んでいった者たちが本当に願っていたことは、そんなことでは無かったはずだからだ。
「生きろ。死んだあいつらはお前らが狂うのを見たいわけじゃねぇんだ。俺は臨死したし狂ってるようなもんだが……それでも敵味方ぐらいは区別できるんだぜ? お前らを殺す必要もないこともな」
逝った者たちの願いも背負って生き続ける、何時か本当にその願いを叶えるために。それこそが約束の本当意味では無かったか。そのために生きるのではないのか。
「亡くなっていった仲間も為にもあなたたちはこれからも生き続けてください。もう犠牲を払うことはないのですよ」
生きろと強く言葉にする朧と彼方、それからセシルの言葉を噛みしめるように失伝者たちは奥歯を噛み、
「あなた方の覚悟は、然るべき時然るべき場所で用いられるべきです。ここで無意味に潰されるべきではない。ここを出ましょう。ここを出て、共に歩みましょう」
笑顔と共に差し出されたアメージングの手を握り返した。
罪を背負い……それでも人々を救う力となるために。紡ぎ続けた想いを絶やさぬために。
ワイルドスペースを抜けた途端、失伝者たちの姿が制服やスーツになった……どうやらこちらの姿が本当の姿のようだ。
「あいつらは生きてるよ。だから安心して眠りな」
茫然と自分たちの姿を見つめる失伝者たちを暫しの間見つめていた朧は名も知らぬ妖剣士たちが居たと言う標しを作ってやる。
「大丈夫でしょう、か?」
「ええ、もう心配は要りません。わたし達はケルベロスという新たな力を得ました。もう、仲間を殺める必要はないのです」
朧の横で茫然としたまま立ち尽くす失伝者たちを心配そうに見つめるハンスに、ユーナは眼を閉じて頷く。
人々を救いたい。ただそれだけのために見出された呪われた道。
長き時の果て。数多の血が流れた先。ついにその道は一つの希望へ辿り着いた。
道半ばで倒れた者たちの悲しみと絶望は如何ほどのものであっただろう。それを理解することはできない。けれど、彼らは言うだろう。
ありがとう。この意思を繋いでくれてと。
ありがとう。この約束を果たしてくれてと。
ありがとう。この呪われた時を終わらせてくれてと。
だからきっと彼らも大丈夫。それに気づく時間は十分に与えられたのだから。
「何時でも殺してやるさ」
それでももし、手にした力を持て余すなら殺してやろう、それが救いになるならなと、彼方は肩を竦める。
「お腹が空きましたね、帰ったら美味しいものを食べましょう」
それから暫しの間、失伝者たちが落ち着くのを待っていると恭子が唐突にお腹が空いたと言い出し、
「皆さんのすごく凄かったところを褒め合いましょう!」
じゃあ、ご飯を食べながら褒め合おうとアメージングが主張しだした。
そんな二人に一行は顔を見合わせ……それはちょっとと笑いながら帰路へ着いた。
作者:八幡 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年12月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 1
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