病魔根絶計画~石化に至る病

作者:雷紋寺音弥

●石の見る夢
 夕暮れ時の色に染められた景色を病室の窓から眺めながら、少年は静かに幾度目かの溜息を吐いた。
「もう、いいんだよ、絵里。僕の右腕、もう元に戻らないんだろう?」
 自分の腕や指先を揉み解す恋人の手を、少年は未だ辛うじて動かせる方の手で軽く押し退けた。
「そんなこと言わないでよ! 章君、約束したじゃない! 卒業するまでに、私のことを描いてくれるって……」
 だから、諦めるようなことは言わないで欲しい。そう言って励ます恋人の言葉を、遮るようにして、少年は静かにベッドへ身体を横たえた。
「ごめん……。約束してたのに、無理になってしまったね」
 自分の足は既に動かず、それは右腕も同じこと。もう、二度と絵筆を握ることはできず、やがては全身が石のように硬化してしまうことだろう。
「まだ、僕の口が動く内に言っておくよ。もし、僕の身体が完全に石みたいになってしまったら……その時は、どこかの美術館か……いや、この際、誰かのアトリエでもいいな。そこに、彫刻みたいに飾ってくれないかな? そうすれば、大好きな絵に囲まれて、ずっと一緒にいられるから……」
 その時は、遠からずやって来る。そう結んで顔を背けた少年、廣瀬・章(ひろせ・あきら)の傍らで、彼の恋人である吉川・絵里(よしかわ・えり)は、力無く泣き崩れるだけだった。

●硬化への秒読み
「召集に応じてくれ、感謝する。今回もお前達に、病魔の退治を依頼したい」
 その日、クロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)よりケルベロス達に告げられた、新たなる病魔根絶計画。その対象となったのは、『メデューサ病』と呼ばれる病だった。
「この病気の病魔は感染者のグラビティ・チェインを吸収し、その力を増幅して行く性質を持っている。そして、グラビティ・チェインを奪われた代償として、感染者の身体は徐々に石のような固さへと硬化して行ってしまう……」
 最終的に、生命維持に必要な臓器にまで硬化が至れば、当然のことながら感染者は死んでしまう。硬化した部分のマッサージを続ける事で病状の進行を遅らせる事が出来るが、それでも完全に進行を止めることはできない。
「現在、この病気の患者達が大病院に集められて、病魔との戦闘準備が進められているはずだ。お前達には、今回も特に強力な『重病患者の病魔』を退治してもらいたい。患者の名前は廣瀬・章。高校3年、美術部に所属している少年だが、病気の進行が激しく、既に絵筆を持つのは不可能な身体になっている」
 この機会に重病患者の病魔を一体残らず倒す事ができれば、この病気は根絶され、新たな患者が現れることもないだろう。しかし、敗北すれば病気は根絶されず、今後も新たな患者が現れてしまう。
「伝説の怪物、メデューサの名を冠するだけあって、この病魔が得意とするのは相手を石化させる技だ。視線を合わせただけで相手を石化する、強力な邪眼には注意してくれ」
 その他にも、敵は蛇の群れと化した髪の毛を使って攻撃して来たり、患者から生気を吸収して自らの力を高めたりすることもある。攻撃力を上げながら持久戦に持ち込まれると、それだけこちらの被害も増す。
「正直、かなり厄介な相手であることに間違いはない。だが……どんな病気にも、特効薬ってのはあるもんだぜ」
 クロートの話では、この病気の患者の看病をしたり、話し相手になってやったり、慰問などで元気づける事ができれば、一時的に病魔の攻撃に対する『個別耐性』を得ることが可能ということである。耐性を得れば病魔の攻撃で受けるダメージも減少し、戦いの難易度が大きく下がる。
「既に絵を描けない身体になってしまったことで、章は自分の人生を諦めかけているからな。自分の恋人……吉川・絵里の言葉にも、あまり耳を貸そうとしていないようだ」
 自分の身体が完全に硬化したら、石像としてどこか絵の多い場所に飾ってくれ。そんなことを言ってしまう辺り、章は身体だけでなく心も相当に疲弊している。硬化した身体をマッサージなどで解す以外にも、精神面でのケアも有効だろう。
「感染者の力を徐々に奪い、死に至らしめる恐るべき病……。だが、それで泣く人々がいるのも、今日限りにしたいところだな」
 人々が、安心して夢を追える世界を作るため、力を貸してくれないか。そう言って、クロートは改めて、ケルベロス達に依頼した。


参加者
モモ・ライジング(鎧竜騎兵・e01721)
霧島・絶奈(暗き獣・e04612)
嘉神・陽治(武闘派ドクター・e06574)
彼方・悠乃(永遠のひとかけら・e07456)
マサヨシ・ストフム(蒼炎拳闘竜・e08872)
明空・護朗(二匹狼・e11656)
風戸・文香(エレクトリカ・e22917)
霧山・和希(碧眼の渡鴉・e34973)

■リプレイ

●絶望の出口
 無機的な色の壁が続く廊下を抜けると、その先にある病室は静かだった。
「よう、章少年。腕が動かねぇからって、自棄になってお前を支えてくれる人たちから目をそらすのはよくねぇぜ」
 病室に入るなり、マサヨシ・ストフム(蒼炎拳闘竜・e08872)はメデューサ病に感染した少年、廣瀬・章へと声を掛けた。
「生きながらにして、身体じゅうが石のように硬化していく難病……。とても、恐ろしいものです。そんな病に罹ってなお、今までよく頑張って下さいました」
 ここから先は任せておけ。そう言って章の手を取る霧山・和希(碧眼の渡鴉・e34973)だったが、対する章は苦笑しながら、どこか冷めた視線を窓辺に向けるだけだった。
「ありがとう……。でも、もういいんだ。コンクールの時期も終わってしまったし、今さら治ったところで、今の僕には美大へ入るだけの勉強をする時間も残されていないからね」
 この病気が治ろうと治るまいと、芸術への道は断たれてしまっている。ならば、いっそのこと石になって消えてしまえば、その方が後腐れもなくて良い。長きに渡る闘病生活に疲れ果てた少年が出した答えは、なんとも救いのないものだった。
「やれやれ……。貴方は絵に囲まれるだけで満足ですか?」
 あまりに悲観的な考えに溜息を吐きながら、霧島・絶奈(暗き獣・e04612)が章の固まった腕を揉み解しながら問い掛ける。その言葉に、章は少しだけ顔を上げたものの、直ぐになんとも言えない表情で俯いてしまった。
「違いますね。貴方は夢と約束を諦めたわけじゃない。ただ、物理的に難しい事を理解しただけ」
 どう足掻いても絶望しかないなら、いっそのこと全てを受け入れてしまった方が楽になる。確かに、そういう考えもないわけではない。
「……ですが、その嘆きも今日までです。此処にケルベロスが病魔根絶という業を成す故に」
 奇跡も魔法も、確かにこの世界には存在している。そして、それを成し遂げる為に必要なのは、他でもない人の想いであると。
「想い、か……。そういうものが、奇跡を起こせると信じていたこともあったかな?」
 それでも、やはりまだ煮え切らないのか、章の表情から影が消えることはない。
 ここに来るまで、彼もまた様々な治療法を試して来たのだろう。次こそは、そのまた次こそはと信じ……気が付けば、腕も脚も動かなくなって、静かに死を待つばかりの生活。信じては裏切られ、期待を失望に変えられ続けた結果、今の彼に残っている気力は正に風前の灯火だ。
「本当に、いいの? 好きなものを、ひとを、夢を諦めて、そのまま石になってもいいの?」
 自分は、そんな人生が嫌だった。そう言って、明空・護朗(二匹狼・e11656)は改めて章に尋ねた。
「僕は嫌だったよ。自分の病気に負けるのも、誰かが病気で死ぬのも……」
 嫌だから、今の自分がここにいる。それは紛れもない事実なのだと、護朗は章に言って聞かせた。
 納得の行かない未来なら、何度も繰り返し抗えばいい。抗って、抗って……苦しいことや思い通りに行かないことをたくさん経験するかもしれないが、その度に前へと進める気がする。それが、人間という存在の、強さの根源でもあるのだから。
「私には、この位しか出来ることはありませんが……」
 マッサージだけでなく、持ち込んだ電気治療器まで使い、風戸・文香(エレクトリカ・e22917)が続けた。
「いざとなったら道具に頼るのもあり、ですよ。目が悪ければ眼鏡をかけるように」
 目が悪ければ眼鏡をかける。脚が上がらなければ杖を使う。著名な画家の中には、絵筆を握れない指先になっても腕に筆を縛り付けて絵を描き続けた者もいるという。
 そんな者達に比べれば、まだ治る見込みのある病であるのは救いである。そう、章の病気は決して不治の病ではない。大元である病魔を根絶できれば、それから先は未来永劫、永遠に同じ病に悩まされることはない。
「あなたにもマッサージを。疲れた手では適切な処置はできませんから」
 章に付き添う少女、吉川・絵里の手を取って、彼方・悠乃(永遠のひとかけら・e07456)は優しく解しながら語り掛ける。
「治る治らないではなく、治す……病魔を根絶するために、私たちは来ました」
 章は既に、十分すぎるほど戦った。ならば、ここから先の戦いは、病を根絶する力を持ったケルベロスの役目。
「大切なのは思い描く事だ。こうなりたい、なにかしたい……その目標があれば、少しずつでも進もうって気になるだろうよ」
 喩え、それが今は不可能な願いであったとしても。そう言って諭す嘉神・陽治(武闘派ドクター・e06574)もまた、医師として章の病を治したいと願う者の一人。
 今まで救う手立てのなかった難病を、確実に根絶せしめる機会。それを無駄にしてはならないという想いは、ここに集まった全ての者達に共通するものだった。

●奇跡を呼ぶ力
 石化に至る病、メデューサ病。それを根絶する決意も大事だが、少し話を変えようか。そう言って絶奈が章と絵里に尋ねたのは、二人の抱く夢だった。
「是非貴方の……いえ、あなた方二人の夢を教えて下さい。その夢を叶える為、病魔根絶という奇跡を約束します。私達は、そんな奇跡と魔法をなす為に此処に来たのですから」
 だが、その奇跡や魔法も一人で成せるものではない。それを享受する者達に夢や希望があればこそ、奇跡を起こす力も答えてくれるのだと。
「私が病魔を根絶するのは先日の結核を含めこれで三回目です」
 今まで行われてきた病魔根絶作戦。それらに参加して来たからこそ言えることもあると、悠乃は自身を持って章と絵里の二人に告げる。
「もちろん、今回も勝つ準備を十分にしてきました。でもね……廣瀬さんはその後、ブランクの分を取り戻さなければならない」
 それこそ、今から美大に合格したいのであれば、死ぬ気で努力しなければならない。否、死ぬ気の努力を積んだところで、今年は浪人するのも致し方ない結果になるかもしれない。
「そんな時……それを支えられるのは吉川さんだと思います」
「えっ……? わ、わたしが?」
 唐突に名前を呼ばれ、絵里が困惑した表情で固まった。
 自分は一緒にいたところで、章の心の支えになれなかった存在だ。現に、章も今の今までは、夢を諦めかけていたではないか。そんな疑念にも似た表情を敏感に感じ取ったのか、悠乃は改めて絵里へと向き直り。
「今は、無理に笑わなくても構いません。私たちに任せて休んでいて。私はいつか、お二人の絵と心からの笑顔を見たいから」
 そのための協力は惜しまない。必ず病魔を根絶してみせるので安心して欲しい。そう、彼女が伝えたところで、病室の扉が開かれた。
「ごめんなさい。看護師さんとお話してました」
 扉の向こう側から現れたのは、今まで姿を見せていなかったモモ・ライジング(鎧竜騎兵・e01721)だった。
「私が遅れたのには訳があってね。廣瀬さんが病魔に襲われないように、看護師さんと打ち合わせたの」
 今の章は病魔を退治するまで動けない。ならば、戦いに巻き込まれた際に逃げ場がないのは不味かろうと、モモはストレッチャーを拝借して来たのだ。
「初対面の人間を信じろだなんて、今のキミには特に難しいだろうけど……キミと彼女の為に、どうか頑張る機会が欲しい」
 自分だけでは頼りないかもしれないが、仲間と力を合わせれば話は別だ。だから、まだ諦めずに信じて欲しいと護朗は章と絵里に告げ。
「俺達は、助かりたいと思うお前を助けに来たんだ。お前自信が諦めてたら、勝てる勝負も負けてしまうかもしれねぇ。だから胸を張れ、自分はまだ終わっていないと信じろ。少なくとも、お前の隣に寄り添う人が信じているお前自身を信じろ」
 その、信じる力が奇跡を呼ぶ。今までも、そしてこれからも、病魔との戦いとはそういうものだとマサヨシは言った。
「あなただけではありません。同じ病魔に感染してしまった方々が、ここにおられるワケですし……」
 戦っているのは自分だけではない。それを忘れないで欲しいと伝える文香。そして、そんな者達のところへもまた、同じくケルベロス達が向かっている。人々の幸せを破壊し、絶望の色へと染め上げる病魔を根絶するため、今この瞬間も戦っている。
「おまえさんの手足はまた動くようになる。勿論すぐ思い通りにとはいかないが、その為の手助けを惜しまないって奴が此処にこれだけ居るんだから心配ないさ」
 自分はケルベロスだが、同時に医者だ。だから、必ずこの病気を根絶して見せると陽治が胸を軽く叩き。
「……後はお任せ下さい。病魔がひとつ、結核を根絶したケルベロスの一人がここにいます。お二人のために、僕の力も使わせて下さい」
 この場にいる誰しもが同じ想いなのだと、和希もまた協力を申し出た。
「……分かったよ。君達がそこまで言うなら……僕も、もう一度だけ奇跡ってやつを信じてみようと思う」
 どの道、一度は諦めた夢。再び絵筆を握れるようになるというのであれば、最後の望みに賭けてみようと、章は敢えて動かなくなった方の腕に力を込めた。
 少年の中で失われていた夢への渇望。それに再び火が着いたことを確信し、ケルベロス達は戦いの準備を開始する。伝説の怪物の名を冠し、人々を石の地獄へと誘う病を根絶するために。

●決意の魔弾
 廣瀬・章の身体に巣食いし、肉体を石へと変える病魔。ケルベロス達によって呼び出されたそれは、さながら神話の世界に登場する毛髪が蛇と化した妖女そのものだった。
「ちょっと、どうなってるのよ、これ!? この病魔って、こんなに強い相手だったの?」
 敵の攻撃の思わぬ威力に、モモが思わず歯噛みして愛銃を握り締める。だが、口では強気な言葉を放ちつつも、既に彼女の腕は度重なる敵の攻撃で感覚を失いつつあった。
 他の者達が章を説得している間、自分は裏方に徹して戦いの準備を整える。そんな作戦が裏目に出てしまったのだろう。章と何度も言葉を交わし合った者達とは異なり、殆ど顔を合わせていなかったモモには、病魔の攻撃に対する十分な個別耐性が生まれていなかった。
 敵も、それが解っているのだろう。先程から執拗にモモへ狙いを定めて攻撃を仕掛けて来るが、しかしそこはマサヨシがさせはしない。敵の攻撃を少しでも自分へ向けさせるべく立ち回り、ともすれば腕に絡み付く蛇影の残滓さえも振り払い。
「そんなもんかよ、クソウイルス。テメェらのせいで苦しんでいる奴が大勢いるんだ」
「絶望の中にあっても、私たちを信じてくれた人たち……。その、全ての想いに応えるために!」
 マサヨシに続けて悠乃も跳び上がり、竜と天使は共に翼を広げて鋭い蹴りを繰り出した。その爪先が病魔の顔面に炸裂した瞬間を狙い、和希がライフルの狙いを定め。
「彼らの未来を奪わせはしない。……ここで消えてもらおうか」
 放たれる冷凍光線の一撃が、周囲の空気さえも凍結させて、病魔を氷の牢獄へと閉じ込める。その脆くなった箇所へ、陽治は逃さず追い撃ちの回し蹴りを叩き込んだ。
「砕け散れ!」
 横薙ぎの衝撃に払われ、氷漬けとなった病魔の蛇髪が散る。それでもまだ足りないのであればと、文香が自らの手にした杖を小動物に変えて投げつけた。
「病魔は、潰します!」
 これ以上は、誰もこの病に苦しめられることのないように。文香の願いを乗せた一撃は病魔の顔面を砕き、確かな勝機が垣間見えた……かに思われたのだが。
「ヒョォォォォ……ッ!!!」
 ここに来て、病魔は最後の最後までモモを狙って攻撃を仕掛けてきた。
「ちっ……この間合いでは!?」
 マサヨシが慌てて駆け付けるが、そうそう何度も割り込めるものではない。苦し紛れに放たれた病魔の一撃は、しかし情け容赦なく耐性を持たないモモを襲い、彼女の身体を瞬く間に石像の如く硬化させて行く。
 石化の視線。伝説の怪物、メドューサの用いるとされる魔眼に魅入られたが最後、その者に待つのは石像となる運命。
「……っ! 舐めんじゃ……ないわよ!!」
 だが、それでも気力で腕を持ち上げ、モモは強引に銃を構えた。
 身体は既に限界かもしれない。しかし、心までは死んでいない。幾度となく、希望と絶望の淵を行き来させられてきた患者たち。その痛み、苦しみに比べれば、この程度はさしたる問題でもない。
「ここは僕に任せて。痛いの痛いの、飛んでいけ」
 攻撃はオルトロスのタマに任せ、護朗はモモへと手をかざす。彼の掌から溢れる光を受けた瞬間、モモの腕に微かな力が戻った。
「……今此処に顕れ出でよ、生命の根源にして我が原点の至宝。かつて何処かの世界で在り得た可能性。『銀の雨の物語』が紡ぐ生命賛歌の力よ」
 同じく牽制はテレビウムに任せ、絶奈もまた魔法陣より輝ける槍を呼ぶ。定命の者には祝福を。命持たぬ者には損害と破壊を。創世の光が渦巻く中、力を取り戻したモモは自分の全てを輝ける黄金の弾へと圧縮し。
「私の狙いになったのが運の尽き。賽子持って、三途の川に流れなさい!」
 精製できる限り、ありったけの弾丸を1発に凝縮して放たれる一撃。その凄まじい反動にモモ自身も吹き飛ばされ、病室の壁に背中から叩きつけられてしまったが。
「ァァァァアアアア!!」
 黄金色の魔弾に額を貫かれ、消滅して行く蛇髪の病魔。章の夢を、命を奪おうとした悪しき存在が、この世から消え去った瞬間だった。

●希望の入口
 戦いの終わった病室は、始まりと同じように静かだった。
 自分の腕が、脚が動く。ようやく戻ってきた感覚に、章だけでなく絵里も喜びを隠し切れないようだった。
「奇跡も魔法も無償で与えられるものではありません。それを手繰り寄せたのは、二人の歩みです」
 章の想いと絵里の献身。二人の頑張りがあったからこそ、今日という日をを迎えられた。それは何よりも尊く、そして美しいものなのだと絶奈は告げ。
「人々と共にある……。そのことが、最大の力なのです」
 同じく悠乃も、今回の勝利は人と人との繋がりと信頼あってこそのものだと述べた。
「次はヤケにならないで、きちんとした絵で美術館なりアトリエに飾られることを祈っているよ」
 そのための時間は十分にある。そんなマサヨシの言葉に、章も真っ直ぐな瞳で返して頷いた。
「一先ず、これで作戦は成功ですね。御二人の未来に、幸あらんことを」
 去り際に、病室内に軽いヒールを施した後、それだけ言って立ち去る和希。
 ここから先は、章と絵里が二人で物語を紡いで行けばよい。今までも、そしてこれからも、二人の想いが変わらぬ限り。
 かくして、人々の幸せを蝕む恐るべき病魔が、また1つケルベロス達によって退治された。

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月5日
難度:やや易
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 4
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