病魔根絶計画~その小さな指先を

作者:黄秦

 都内の某病院は、現在、ある病気の患者で溢れかえっている。
 その症状は、身体が徐々に石のように硬くなり、やがて臓器にまで至り死んでしまうという物だ。
 指先が硬化しただけの軽症者から、動くことも困難な重症者まで、進行度合いは様々だが、この病院に集められているのは、何れも身体の何割か以上、酷いものだと半分近くが硬化した重症者ばかりだった。
 彼らは一様に、徐々に石化する身体に苦しみ、石造のようになって死ぬのではという恐怖におびえていた。
 医師たちは治療に奔走し、患者を見舞う家族や友人、或いは恋人たちは、少しでも進行を遅らせるために、身体にマッサージを施し、励まそうと言葉を尽くす。

 両腕と両足が硬化した少女が、ベッドに寝かされている。母親は泣きじゃくる娘の、小さな手の指先を必死でマッサージし続けていた。
「ママ、指、動かない」
 少女は真赤に泣き腫らした目で母親に訴える。
「大丈夫よ佳奈ちゃん。ほら、ママがさすってあげると柔らかくなるでしょ?」
 母親は努めて笑顔を作り、娘、佳奈を励ましてやる。確かに一時的には柔らかくなるものの、焼け石に水で、徐々に身体の硬化は進んでいる。
「ママ……合唱コンクール、出られないよ……あたし、ピアノの係なのに……ピアノもう弾けないの? あたし死んじゃうの……?」
「……大丈夫よ、お医者さんが治してくれるわ。きっと治るわよ!」
 怯えて泣き叫ぶ佳奈に、励ましの言葉も尽きて、母親はただ必死にマッサージを施し続けるしかできない。
(「早く、早くこの子を助けてください!」)

 母親の心の叫びは、同じ病気で苦しむ患者たちのものでもあった。
 祈る声、嘆き、救いを求める声は今や病院中に満ち満ちているのだった。


「病魔を倒してください」
 デウスエクスとの戦いに比べれば、決して緊急の依頼という訳ではありませんが……と前置きしながらも、セリカ・リュミエールは表情に苦しげなものを滲ませる。

 『メデューサ病』と言う病がある。
 それは、感染者のグラビティ・チェインを吸収しながら力を増していき、身体を徐々に石のような硬さに硬化していく病で、最終的に生命維持に必要な臓器にまで硬化が至れば、感染者は死んでしまう。
 硬化した部分のマッサージを続ける事で病状の進行を遅らせる事が出来るが、止める事は出来ない。
 病院の医師やウィッチドクターの努力で、このメデューサ病を根絶する準備が整ったのだ。現在、この病気の特に重症な患者達を大病院に集め、病魔化させて一斉に治療する、即ち、撃破するための戦闘準備が進められていると言う。
「皆さんには、この中でも特に強い『重病患者の病魔』を倒して貰いたいのです。
 今、重病患者の病魔を一体残らず倒す事ができれば、この病気は根絶され、もう、新たな患者が現れる事も無くなるでしょう。勿論、敗北すれば病気は根絶されず、今後も新たな患者が現れてしまいます。
 この病気に苦しむ人をなくすため、ぜひ、作戦を成功させて欲しいのです」


「皆さんに倒してほしいのは、佳奈ちゃんと言う小学生の女の子に取り憑いた病魔です。
 メデューサと言うだけあり、石化の視線を向け、蛇の群で攻撃してきます。
 戦場は確保されていますから、ご家族や見舞客の避難などは考えなくてもいいでしょう。
 そして、もう一つ、最も重要なこと。
 患者さんを元気づける事が出来れば、一時的に『個別耐性』が得られます。
 例えばマッサージで体をほぐしてあげるのもいいでしょう。話し相手になり、悩みを聞いてあげる、あるいはケルベロスの頼もしさを見せて、安心させるのも有効だと思います。
 そうして個別耐性を得られたなら、病魔から受けるダメージが減少しますから、戦闘を有利に進める事が出来るでしょう。
 佳奈ちゃんの場合、最も恐れているのは、大好きなピアノが二度と弾けなくなること、合唱コンクールでピアノの伴奏をするはずだったのに、出場できなくなる事です。
 方法は皆さんにお任せします。彼女を勇気づけてあげてください。
 そして病魔を根絶し、ピアノを思い切り弾けるようにしてあげてください。……どうぞ、よろしくお願いします」
 セリカはそう締めくくり、深く、深く一礼するのだった。


参加者
アイラノレ・ビスッチカ(飛行船乗りの蒸気医師・e00770)
毒島・漆(魔導煉成医・e01815)
メアリベル・マリス(グースハンプス・e05959)
イルリカ・アイアリス(七色アーチ・e08690)
フィオ・エリアルド(ランビットガール・e21930)
クラリス・レミントン(奇々快々・e35454)
レティ・エレミータ(彩花・e37824)
セト・ヴァリアス(微睡む紫・e41851)

■リプレイ

●病を絶つために
「大丈夫。君は治りますよ。そのために俺たちが、ケルベロスが来ました」
 毒島・漆(魔導煉成医・e01815)の言葉は不思議な説得力があった。
「これから君を苦しめて来た悪い奴をやっつけてきます。そうすればまたピアノだって弾けますし、合唱コンクールにだって参加できますよ」
 突然病室に現れた大人たちがケルベロスで、病気を退治に来たというものだから、佳奈は泣き腫らした目を今は丸くしていた。
 母親は、彼らに佳奈の隣を譲り、窓際でやり取りを見守っている。
「最近、ある病気がなくなったという話を聞いたことはありません? あれは私たちが治したのです」
 アイラノレ・ビスッチカ(飛行船乗りの蒸気医師・e00770)は背をかがめて佳奈に目線を合わせる。
「今度はあなたの病気を治しにきました。私たちケルベロスは、今までの幾つもの病気を治しています」
 病気を『退治』すると言うのがピンとこないけれど、ケルベロスの言葉と言うだけで、佳奈の心に強く響く。
 クラリス・レミントン(奇々快々・e35454)は佳奈の手を取り、優しくマッサージを施す。丁寧に指先をマッサージすれば、少しだけその肌は柔らかさを取り戻す。
 手が触れる感覚は薄いけれど、塗られたアロマオイルの香りが鼻孔をくすぐり、佳奈の気持ちを少しだけ柔らかくした。
「昔は、私も身体が弱かった。病魔が怖くて泣いてばかりいた」
 いつもはマスクをしているクラリスも、今日ばかりは素顔で、控えめな微笑みを佳奈に向けた。
「今は、克服したから……」
 佳奈が怪訝な顔をしたので、治ったのだ、と言い直して。
「私と同じように病魔に苦しむ人々を救うために、ウィッチドクターになった。だから、怖いのはもう終わりにして見せる」
 医術と、銃。自分の持つそれらへの誇りにかけて、救って見せるから。
「少しだけ、我慢しててね」
 それでも佳奈は、病気への恐怖を完全に打ち消す事はまだ出来なかった。だけど、ケルベロスである彼らが、同じように病に苦しんだ人が、自分の病魔をやっつけると言う。それは佳奈にとって、今までにない励ましとなっていた。

●君のピアノを聴かせて
 レティ・エレミータ(彩花・e37824)は優しくマッサージしながら、尋ねる。
「恥ずかしながら私はあまり音楽に詳しくないんだ。ピアノってどんな風に弾くんだい?」
「ええと……」
 佳奈は、少しだけ柔らかくなった手先を動かそうとして、果たせない。佳奈が顔を曇らせたから、レティは急いで質問を変えた。
「君はどんな曲が好き?」
「……子犬のワルツ」
 佳奈がメロディを口ずさむ。案外いろんなところで耳にする曲だ。
 フィオ・エリアルド(ランビットガール・e21930)は佳奈の様子を気遣いながら、話しかける。
「私も、歌とか音楽とか好きなんだ。佳奈ちゃん、もうすぐ合唱コンクールなんだって?」
 そう問われると、一層佳奈の表情が暗くなった。
「だ、大丈夫!私達が絶対に治すから、またピアノ弾けるようになるよ」
 フィオは佳奈に希望を持たせたくて、あえて明るく言葉を繋ぐ。
「だからさ、コンクールに間に合って出れることになったら、私も見に行っていいかな? 私も佳奈ちゃんのピアノ、聴いてみたいな」
 イルリカ・アイアリス(七色アーチ・e08690)も、佳奈の願いを思い出させようと話しかける。
「病気が治ったらあなたのピアノ聞かせてくださいね?」
「本当に、治してくれるの?」
 佳奈は、自分の手を見てまたうつむいてしまう。あんなに沢山マッサージをしてもらったのに、また動かなくなっている。何日も苦しい想いをした佳奈は、身も心も弱っていた。
 それでも、イルリカは強く主張する。
「佳奈さんの願いをかなえるために、わたし達はここにいます。だから、その願いは絶対に捨てないでください……!」
 レティも、心からの想いを佳奈に伝える。
「君が願って、信じてくれるなら、私達が必ずその夢を叶えるよ。だって私も君のピアノが聴いてみたいからね」
 見上げる佳奈の瞳は真赤で、腫れぼったい。この子は、もうどれだけ泣いたのだろう。
「――大丈夫、信じて」
 希望を捨てないで、きっと救って見せるから。
 まだ恐れを拭えない佳奈だったが、それでも三人の真摯な思いは、その心にまた一つ希望を灯していた。

●これは希望の歌
「ごきげんよう、ミス佳奈」
 ケルベロスは大人ばかりと思っていたら、次に病室を訪れたのは、佳奈と同じくらいの年頃の少女だった。
 メアリベル・マリス(グースハンプス・e05959)の、優雅な挨拶に戸惑って、佳奈は、こんにちゎ……と消えそうな小声で返した。
「アナタはピアノが大好きなのね。どんな曲が好き?」
「えと、子犬のワルツ……」
「まあ、すてき! 私もその曲が好きよ」
 プレゼントだと、メアリベルは枕元に小さなオルゴールを置いた。
 蓋を開けると、力強いメロディが流れる。ケルベロスをテーマにした曲だとメアリベルは説明した。
「これは、希望の歌」
「希望……?」
 ケルベロスは、未来へ届くよう放たれる光だとメアリベルは歌う。
「でも、未来に光をあて虹をかけるのはアナタ自身の信じる心。ミス佳奈、諦めないで。それにお母さんも」
「……ママ?」
 それまで部屋の隅に控えて見守っていた母親は、自分に話が向いたので、驚いたようだった。
 メアリベルの瞳の奥につかの間、郷愁が宿る。それはすぐに消え失せて、ただ佳奈と母親を交互に見やる。母親はぐっと奥歯を噛みしめ、笑顔を作って娘に答えた。何度もそうしてきたように。
「……ええ。ママは諦めてないわ。お医者さんも、ケルベロスの皆さんも、こんなに佳奈のために頑張ってくださってるの。だから、佳奈ちゃんはきっと治るって信じてる」
「……ママ……」
 何かが佳奈の中で振り切れる。充血した瞳から、新たな涙が零れ落ちた。
「ママ、佳奈、治りたい。病気治したいよ……!」
 セト・ヴァリアス(微睡む紫・e41851)はここまで口を出さずにずっと見守っていた。あまり元気づけることも得意ではなかったから。
 ただ小さな子供が辛さ苦しさを口にするのが、あまりにいたたまれなくて、何度か躊躇った後に、佳奈の頭を優しく撫でた。
「今まで凄く頑張りましたね」
 労いを口にすると、佳奈は堰切ったように泣き出した。あれだけ泣いて、枯れたと思っていたのに、涙は尽きないようだった。
「大丈夫。またすぐにピアノが弾けるようになります。だから、もうちょっとだけ、頑張りましょう」
「ミス佳奈、それにお母さんも。メアリ達と一緒に戦いましょう」
 感覚の無い手を何度もマッサージしてくれた、自分のピアノを聞きたいと言ってくれた、自分の過去を語ってくれた、大丈夫だと請け合ってくれた。
 今や希望の光が、佳奈の中にたくさん、たくさん灯っているのがわかる。だから、もう少しだけ頑張ろう、頑張れると佳奈は思う。
 セトの掌は本当に優しかった。

●怖いのはもう終わり
「これから君を苦しめて来た悪い奴をやっつけてきます。後は、僕たちに任せてください……もう少しだけ、頑張れますか?」
 ストレッチャーに横たわった佳奈を、漆は心配げに見下ろしている。真っ直ぐ見返して頷いた佳奈は、もう泣いていない。

 漆は準備善しと合図を送った。
「では、始めます!」
 アイラノレは呼吸を整え、病魔召喚を行う。
 すぐに、佳奈の身体から抜け出した『病』がどす黒い靄となって中空に広がった。
 それは徐々に形を成し、大きな生首が顕れる。髪は猛る蛇の群、物語に聞く怪物『メデューサ』そのものだった。
「佳奈さんには指一本も触れさせません」
 病魔の前にイルリカとフィオが立ちふさがり、釘付けにする。その間に医師たちが佳奈を連れて室外に退去した。
 母親が立ち去り際に一度だけ振り返った。アイラノレは胸の裡で応える。
(「子を救ってほしい。その願い、確かに聞き届けました」)
 ――この力、病を絶つために。

●病魔メデューサ
 およそ病魔に感情などという物があるのかわからない。獲物を逃がした邪魔者に憤ったりするのだろうか。それともただ障害として排除するのみか。
 病魔メデューサは不快極まりない金切声で叫ぶと、蛇の群が鎌首をもたげ、一斉に襲い掛かった。
 蛇たちは、メアリベルの振るう斧に絡みついて締め付け、イルリカの剣に巻き付き、勢いを削がれながらも牙を立てる。
 その場にくぎ付けにされるが、攻撃の威力はそれほど強くもない。
「速攻で斃すのみ!」
 漆のドラゴニックハンマーが唸りを上げて、轟竜砲を撃ちだした。竜砲弾はうねる蛇群を突き抜け、病魔自身に直撃する。
 佳奈には指一本触れさせない、その一心でフィオは刀を抜き討った。白刃が閃き、弧を描く。
 鋭い斬撃に急所を捕えられ動きの鈍った病魔の頭上へ、アイラノレが輝線を描いて飛び降りた。
「メデューサ、怪物の名。怪物ならば打ち倒されるのが道理であろうよ」
 グラビティを乗せた超重の蹴りは病魔メデューサを地にめり込ませるほどの衝撃を与えた。
「佳奈も仲間も、石になんてさせないよ」
 はらり、ひらりとレティの紙兵が舞う。守護の霊力を帯びた紙兵に触れれば、蛇はたまらずメアリベルとイルリカから身を離す。
 その隙を逃さず、メアリベルはフェアリーブーツに地獄の炎を纏わせ、地を蹴った。蛇を伝った業火が病魔を焼き尽くす。
「ママ、お願いね」
 『ママ』は娘の願いどおりに病魔を金縛りにした。
 イルリカは自由になった両手にゾディアックソードを握り、天地揺るがす超重力の十字斬りを病魔へと叩き込んだ。
 病魔は再び金切声を上げ、自らの裡に蛇を取り込み始めた。するとメデューサの損傷が癒えて、新たな蛇髪が生えて来る。
 それを見たセトは魔導書を開いた。忽ち水晶兼剣の群が次元の狭間から現れ、生えたての蛇群を消し飛ばす。
 さらにクラリスがウィルスを投射すれば、メデューサの顔が癒しきれずに崩れ始めた。
 病魔がウィルスによって治癒を阻害されるのは因果応報と言うものか。人々を苦しめ死に至らしめる病も、実態を持って対峙すれば、脆い。
「治すって、約束したから……!」
 蛇の群に食らいつかれても厭わない。フィオは、メデューサの崩れ始めた顔に刀突き込んだ。切先を捻り、纏った空の霊力を注ぎ込みながら斬り広げる。それを苦痛と感じたか、病魔は悶え暴れ、フィオを投げ飛ばした。
 叩きつけられるフィオを、レティの光の盾が守る。仲間が全力で戦うなら、レティは全力で仲間を支えるのみだ。
「重撃殲攻……重弾猟域ッ!!」
 病魔に向けて、漆は跳躍する。加速し、跳弾のように飛ぶ漆を捉えられず、病魔は命を削られていく。
 クラリスの影が蠢き、猫の姿を取って駈けた。災厄の爪が病魔を引き裂き、裂けた口を炎が焦がす。
 メアリベルの巨斧が生み出す鋭利な斬風は不吉な赤い影を纏い、肉を穿ち骨を断つ。41回の滅多打ちはメアリベルの奏でる葬送曲だ。
 病魔が放つ石化の光線は、レティが散布した紙兵が遮蔽して通さない。
「いいから黙って大人しくしろ!」
 アイラノレには病魔に賭ける慈悲などない。
 構えたメスで斬り裂き、ありとあらゆる手術器具を投げつけて病魔を貫き引き裂き切り刻んだ。
 蛇髪を刈り取られ、くずれ落ちながらも逃げようともがく病魔に、アイラノレの手術器具はなお追い縋る。
 そしてその最後の一片に至るまで完全に、完膚なきまでに――施術したのだった。

●その小さな指先を
 病魔の消失を確認したケルベロスたちは病室へと急ぐ。部屋からは、明るい佳奈の声が聞こえて来た。
 期待を込めて入室すれば、佳奈はベッドに座って鍵盤をたたくように指を動かしながら、歌っていた。母親も一緒に、少し涙声で歌っている。
 アイラノレは深く安堵のため息を吐いた。かつて病の母を治すために医術を紐解きケルベロスとなった彼女にとって、何より嬉しい景色だ。

「あっ! お兄ちゃん、お姉ちゃん」
 こちらに気付いた佳奈は、手を振り立ち上がろうとする。しかしふらついて転びかけ、慌てて母親が支えた。メデューサ病は完治しても、まだ体力が回復していないのだ。
 レティは再び寝かされた佳奈の手を取った。
「ありがとう、君が信じてくれたおかげだ」
 体温を取り戻した手はとても暖く柔らかい。
「すぐは無理かな?でもいつか私にも君のピアノを聴かせてね」
 母親によると、いくつか検査をし、体力が回復すればもう退院できるとの事だった。コンクールにもは充分間に合うと医者は言ったそうだ。
「そっか、良かったね」
「うん!! みなさんの、おかげです。ありがとうございました!!」
 あれだけ泣いていたのが嘘みたいに、元気いっぱいの笑顔で佳奈は応える。急に丁寧な礼を言うのは、多分母親に教わったのだろう。
「じゃあ、佳奈ちゃんコンクールにさ、私も見に行っていいかな?」
 聞きたかったことの口火を切ったのはフィオだった。佳奈は何度も大きくうなずく。
「もちろん! ね、ね、皆で聞きに来て! 合唱コンクール!」
「……それはもちろん、見に行きたいです。でも、部外者が入っても大丈夫なんでしょうか?」
 セトの質問は母親に向けての物だ。
「一般の人も入れます。皆さんさえご迷惑でなければ、是非」
 母親も嬉しそうに答える。
「楽しみにしてますから……!」
 イルリカもいつになく心が浮き立っているようだ。
「じゃ、約束!」
 そう言って佳奈は、その小さな指先を立てて、ゆびきりの形を作った。
「みんな?」
 メアリベルが微笑んで問う。
「そうよ、みんな!」
 みんな、は顔を見合わせて微笑みあい、喜び、安堵し。あるいはちょっと気恥しかったりしながら。
 一人一人、佳奈のその小さな指を絡めて、約束を交わすのだった。

 『ゆびきり、げんまん』

作者:黄秦 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月5日
難度:やや易
参加:8人
結果:成功!
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