陰の風の蝕む心

作者:幾夜緋琉

●陰の風の蝕む心
 千葉県は南房総地域。
 年の瀬押し迫った年末の刻……年を越せる事が出来ず、死にかけのオークが一匹。
『……ウウウ……ウグゥ……』
 胸を押さえながら彷徨う彼は、何処か救いを求めるかの如く……。
 すっかり日の落ちた漆黒の森の中を彷徨い歩く彼の姿は、哀れの一言に尽きる。
 そんな死にかけのオークに、そっと遠くから冷たい視線を落とすのは……黒衣に身を包みし女、死神。
 勿論オークは、死神の事に気付く事も無く、ただ……歩き回る。
 そして歩き回るオークは、もはや命の限界が近づいたのか……何もない所で、足から崩れ墜ちてしまう。
『ハァ……ハァ……』
 荒い呼吸……零れる冷や汗。
 ……そんなオークに、くすり、と笑う死神。
 そして彼女は、オークの元へ、音も立てずにそっと近づいてくると……その胸元へ、一つ球根の様なものを植え付ける。
 そして。
「……さぁ、新たな始まりの時です。グラビティ・チェインを蓄え、そして、ケルベロスに殺されて来るのですよ」
 と言う言葉を紡ぐと……次の瞬間、オークはむくっ、と立ち上がる。
 そして……。
『……グ……グガアアア!!!』
 発狂するかの様な叫びを上げて、オークはそのまま、闇深い森を外れていくのであった。

「ケルベロスの皆さん、集まってくれたッスね! それじゃ早速ッスけど、説明させて貰うッスよ!」
 と、黒瀬・ダンテは、集まったケルベロス達に元気よく挨拶すると、早速。
「今回、千葉県の館山の辺りで、死神による『死神の因子』を埋め込まれたデウスエクスが暴走する事件が予知されたんッスよ!」
「この死神の因子を埋め込まれたデウスエクスは、多くのグラビティ・チェインを得る為に自我を失わされている様で、人間虐殺事件を起こそうとしている様なんッス!」
「もしも、このデウスエクスが大量のグラビティ・チェインを獲得してから死ねば、死神によって強力な手駒になってしまうのは間違い無いッスよ! その為にも、このデウスエクスが人を殺し、グラビティ・チェインを得るよりも早く撃破しなければならないんッス!!」
「集まって戴いたケルベロスの皆さんには、急ぎこの因子を埋め込まれたデウスエクスのオークを倒してきて欲しいッス!!」
 と、ダンテは続けて。
「このオークは死神によって死神の因子を植え付けられてるッス。その為、普通のオークとは違い、倒し方に工夫が必要になるッス」
「普通にこのオークを倒してしまうと、その死体から彼岸花の様な花が咲いてしまうッス。これは摘み取ることも出来ず、何処かに消えてしまう華の様で、恐らく死神による力で回収されてしまうものだと思われるッス」
「しかしながら、オークの残り体力に対し、過剰過ぎる程のダメージを与えて死亡させると、死体は死神に回収されずに消える様ッス。出来れば華を咲かせない様に倒して欲しい所ッス」
「また、オーク自体の性質は根底には残っている様ッス。オークの特徴的な攻撃手段である触手を伸ばしての拘束攻撃、引きちぎる様な攻撃があるんッスけど、どうもこのターゲットは20歳位のを主たるターゲットにする様ッス」
「つまり、20歳に近い人は狙われやすいッスから、その辺りは注意して欲しい所ッスね!」
「後は……そうッスね、オークは暗い森の中から、人里に向けて駆けているッス。何処で相手するかは選べるッスけど、明るい場所は当然、一般人に見つかりやすいッスから、そこは注意して欲しいッス!」
 そこまで言うと、ダンテは最後に。
「こんな風に動く死神は不気味ッスけどね……でも、暴走するオークの被害を止めねばならないッス。どうか、ケルベロスの皆さんの力を貸して欲しいッスよ!!」
 と、拳を力強く振り上げるのであった。


参加者
水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)
神楽火・皇士朗(破天快刀・e00777)
ホワイト・ダイヤモンド(面倒臭がりな妖刀持ち・e02709)
コスモス・ブラックレイン(レプリカントの鎧装騎兵・e04701)
志藤・巌(壊し屋・e10136)
朔夜月・澪歌(ヒトリシズカ・e18093)
ブラック・パール(豪腕一刀・e20680)
フィーラ・ヘドルンド(四番目・e32471)

■リプレイ

●迫る死に畏れ
 千葉県は南房総、立山地域。
 年の瀬押し迫るこの時期、悲しい事に死にかけで彷徨うオークが一匹……日が落ちた漆黒の森を、苦しみの声を上げて歩くはオーク。
『うう……ウウウ……』
 苦しみ、傷つき……そして、程なく死に至る傷。
 その傷ついたオークに、死から引き上げる綱を繋いだのは、黒衣に身を包んだ女、死神。
「対象は……既に死亡したオークですか」
 と、淡々とした口調で呟くコスモス・ブラックレイン(レプリカントの鎧装騎兵・e04701)。
 それに朔夜月・澪歌(ヒトリシズカ・e18093)は。
「そうやね。ボロボロのオークを暴走させてけしかけるとか……死神って何考えとるか、よくわからんなー」
 と肩を竦める。
 確かに今迄も、幾つものデウスエクス達が、死神によって復活させられ、そして……死神の糧と成る為に、一般人を殺す命を受けている。
 ……オークに限らず、そんな死の命令を受けているデウスエクス達に向けられるは、悲哀。
「いくらオークとは言え、こうなっちまうと哀れなモンだな。まァ、だからと言って手心は加えられんが」
 と、溜息を吐く志藤・巌(壊し屋・e10136)に、面倒臭そうにホワイト・ダイヤモンド(面倒臭がりな妖刀持ち・e02709)が。
「わざわざ起きなくてもいいものを……」
 と言うと、姉のブラック・パール(豪腕一刀・e20680)も。
「そうね。まぁ、特別準備が必要ではないけれど、何か準備があるのかしら?」
 と小首をかしげると、神楽火・皇士朗(破天快刀・e00777)が。
「んと……そうだな。事前の難しい問題は無いものの、オーバーキルで倒さない限り華が咲いてしまう、と聞いている。つまり、ダメージ量の調整が必須だな」
「そうなのね……面倒ね。まぁ、それはさておき、オークは死んでもやること変わらないのはすごいわね……女の子を狙うなんて。絶対にこの娘には手を出させないわよ」
 とブラックは、ホワイトの頭を撫でまくる。
「……うー……やめろよー……」
 と、ホワイトはブラックの手をちょっと払いのける仕草をするが、ブラックは離さない。
 そんなブラックの背中に回り込んで、首根っこをぎゅっと掴んで引き離すのはコスモス。
「何よ、コスモス。邪魔しないで」
「ホワイトが嫌がってるのですから、するべきではありません」
 と諭すように告げると、ブラックは仕方ないわね、と軽く微笑む。
 ……ともあれ。
「ま、触手豚は嫌いだが……哀れなオークはさっさと始末しないとな」
 と水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)が言うと、巌とフィーラ・ヘドルンド(四番目・e32471)が。
「ま……因子の件も含め、死神共の暗躍は正直言って虫酸が走るぜ。不愉快な目論見は、ブチ壊させてもらおうか!」
「うん……だれかの死を、くいものになんて、させない……ころす時は、いっしゅんでころして、みせる……」
 と、拳を握りしめる巌に、フィーラもぽつりぽつりと言葉を呟きながら頷く。
 更にホワイトも。
「しかたないよね……今度こそ、寝かしてやろうか」
 と、深い溜息を吐きながら言うと、澪歌が。
「そや。色々と考えるのはまた今度にして、今は自分のやるべき事をやる。みんなを助けるのがうちらの仕事、行くでヒナタ!」
『ニャッ!!』
 こちらも息の合った動きで拳を合わせる。
 ……が、そんな澪歌を心配そうに見つめるのは、皇士朗。
(「……いや、私情を挟むのは厳禁だ。だが……」)
 オークが襲うのは、20歳近辺の女性である、との事。
 恋人の澪歌も、そのターゲットの範囲にぴったりと嵌まっている訳で……だからこそ、心配で一杯。
 でも……戦闘に、私情は厳禁、というのを自分に言い聞かせて。
「よし……では行くぞ」
 と皇士朗が皆を促し、森の傍らに陣を敷くのであった。

●最後の叫び
 そして、ケルベロス達は森の傍らで、耳を澄ませる。
 ……オークは死を間近にして、苦しんでいる。
 その苦しみを訴え駆ける様に、森の中、叫びながら駆けずり回っている事だろう。
「……さて、何処から出てくるかな?」
 と鬼人が周りを見渡す。
 此処ならば、迎撃するのも楽な場所。
 しかしながら、狂気に陥っているオークは決して油断出来る相手ではない。
「手負いの相手だからこそ身長にやろう。この時期に無用の被害を出すわけにはいかない」
 と皇士朗が気を引き締めると、その横でフィーラが殺界形成を発動……周囲からの人気を除外。
 そして……更に巌らが隠密気流を使用し、樹の陰に隠れて、オークの来襲を待ち構える。
 ……そして、暫しすると。
『グ……ウウウ……グガアア……!!』
 と苦しみの叫び声を上げて、森の中を暴れ廻るオーク。
 オークはその殺界形成の気配を感じ……人の気配を感じたのか、その方角へと向かってくる。
 そして、木々の間を割り裂いて、ケルベロス達の元へ……立ち塞がる皇士朗、澪歌、フィーラに鬼人。
『グ……フゥゥ……!!』
 と、涎のようなものを流しながら、ニタァ、と下品に笑うオーク。
 澪歌とフィーラという、好みの年代に近い女性が二人居て、本性が刺激されているのだろう。
「……死んでも若い娘に惹かれるってのは、もう、見事としか言えないな。だが、往生際ってのを、見極めないと、モテないぜ?」
 と、敢て挑発するが、オークは。
『シィイィアア……!!』
 と叫び、その背中から幾つもの触手を伸ばす。
 ……そしてその触手は伸びて、澪歌の元へ……。
 やはりというか、何というか……その胸を強調するように、巻き付いていく。
「っ! ……皇士朗さん……!!」
 思わず目を瞑って、名前を叫ぶ澪歌……それに皇士朗は、すぐさま。
「まずはお前の足を止める……その後じっくり料理してやろう……!」
 と、間に割り込む様にして、フォートレスキャノンをぶっ放す皇士朗。
 触手を引き裂き、拘束から解き放つ……そして澪歌は皇士朗の後ろに隠れるようにしつつ……彼にサキュバスミスト。
 そして、コスモスが続き。
「死神にとっては、それなりに利用価値があるのでしょうが……ここで撃破します」
 と、ヒールドローンで仲間達へ盾アップを付与し、強化すると、更にヒナタも清浄の翼。
 そして、ジャマーの巌は。
「……ぁ?」
 と鋭く睨み付けた巌が、『緋眼睥睨』でパラライズ効果を付与すると、更にブラックが絶空斬、フィーラがペトリフィケイションと続けて仕掛け、攻撃。
 そして、クラッシャーの鬼人とホワイトの二人が攻撃。
「触手豚も、無念だろうが……よそ様の星で好き勝手やったツケって奴だな。せめてもの田向けだ。死神の陰謀の片棒を担ぐのだけは阻止してやるよ」
 と月光斬にて一閃を喰らわせると、ホワイトも面倒臭そうにしながらも、その懐に飛び込み、刀一閃の月光斬。
 次々とケルベロス達の攻撃を喰らい、確実に体力は減少。
 ……だが、オークは決して怯まず、自分を回復する事も無く……ケルベロス達への攻撃を継続。
 その触手が伸びる先は……見た目の胸の大きさで判断しているのか、コスモスへ。
『ヒヒヒ……フヒィ……!』
 と鼻息荒くしながら、更なる凌辱を加えようと……。
「貴方に凌辱されるなんて、もってのほかです」
 とコスモスはバックステップで、その触手攻撃を回避。
 そして、仲間達へ。
「特殊弾頭装填。強化薬を散布します、吸い過ぎに注意してください」
 と『バーサク・ミスト』を展開し、壊アップを前衛列に全体的に付与。
 続けて皇士朗も。
「おれの力をきみに託す。任せたぞ」
 と言って、『超重滅衝』の壊アップを鬼人に付与し、更に攻撃力を強化。
 又、巌が旋刃脚で蹴り掛かると、ブラックがサイコフォース、フィーラが禁縄禁縛呪、と連携して攻撃。
 そして、ホワイトはグラビティブレイクを撃ち放つと、鬼人もスターゲイザー。
 ……絶え間ないケルベロス達の猛攻は、オークの体力を一気に削る。
 対し、オークも触手を幾重に放ち続ける。
 最初は20最近辺を狙うが……段々と、欲を満たすと言うよりは、力を奪う為に動き続ける。
 ……元々体力が少ないオークは、壊アップの効果もあり、数分の後に、最早風前の灯火に……。
『グ……グァア……!!』
 と、唸るオークの声が少し変わりつつあるのに気づいたコスモス。
「……そろそろ頃合いの様です。一気に行きましょうか」
 と、言う言葉に、全員、一端攻撃をストップ。
 改めて『バーサク・ミスト』をコスモスが展開し、壊アップを全体に付与し、攻撃力増強した上で……残る仲間達は、タイミングを合わせ。
「さぁ……終わりにしてやろう」
「そうだね……あー、だる……」
 鬼人が懐に潜り込んでの雷刃突を放つと、ホワイトが旋刃脚でその頭を横蹴り。
 更に皇士朗が、稲妻突きを喰らわし……オークはその場に崩壊。
 壮絶な表情で叫ぶオーク。
「さっさと……死ね」
 と巌が旋刃脚で蹴り潰すと……オークの身は、完全に原型を留めずに、崩壊してしまうのであった。

●苦悶は傷に
 そして……オークを仕留めたケルベロス達。
「……お、終わった……んやろか?」
 と、澪歌の言葉に、そっと抱き寄せる皇士朗。
 そんな二人を横目にしつつ、鬼人が。
「……ま、何だか恋人の顔が見たくなったな。俺もよ……死んで、死神に付け込まれたら、あいつの事も、解らなくなっちまうんだろうか……」
 とぽつりと呟く鬼人に、皇士朗が。
「……例え、死神に付け込まれたとしても、絶対に忘れない。絶対にな」
 と……それに嬉しそうに、彼の手を握りしめる澪歌。
 ……そして。
「ま、終わったわね……それじゃいつも通り、やる事やって帰りましょう」
 とブラックの言葉に、ホワイトとコスモスも。
「そうそう。戦闘痕消したら帰ろー……早く帰って寝たいし……」
「そうですね。辺りの修復も必要ですから、修繕してから帰還しましょう」
 と言いつつ、壊した所の修理対応。
 そして、仲間達を先に。
「んじゃ、皆は先に帰っててくれ。俺はちょっと調べたい事があるからな」
 と鬼人は一人別れ、周囲の捜索。
 死神の因子の欠片の様なものがないか、を……地面を目を見張るようにしながら調べ上げようとするのであった。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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