除夜のクレーシャ事件~ブッダ・ノット・ノウイング

作者:鹿崎シーカー

 大晦日の深夜。比較的小さな神社を、人影がまばらに埋めていた。
 熱い甘酒を舐める老人、しきりに屋台菓子をねだる子供に、賽銭箱に列を作る面々。神社全体が潮騒めいた喧噪に揺れている。目の下にクマを浮かべた学生に学業守りを売り、境内を眺める巫女服のバイトの背中に穏やかな声がかけられた。
「いやはや、今年もにぎやかなことで……」
 思わず振り向く巫女服のバイト。彼女の背後に菩薩じみて微笑む僧侶がたたずんでいた。
「住職。どうされました?」
「いえいえ。そろそろ、鐘を突き始めようかと。今年ももうじき終わりですから」
 そう言われ、巫女服のバイトはスマホをのぞく。二十二時二十八分。
「もうこんな時間。……早いですね」
「ええ、一年は早いものです。さて」
 住職が足早にお守り売り場を出て行き、鐘の方へと歩いていく。住職に気づいた客達が彼の後をついていき、カメラや携帯を取り出し始める。木製の外組みに囲われた鐘の前に辿り着く頃には、住職の周囲に人だかりが完成していた。住職は集まった人々にお辞儀をしていき、鐘に向き直って合掌。突き木に繋がったヒモに手をかけた、その時である!
「セイヤッサーボンジャンッ!」
「グワーッ!?」
 真後ろに吹き飛んだ住職が人だかりに激突! 人垣の一部がドミノ倒しめいて倒れ、他の人々が鐘の方に目をむける。そこには立っていたのは……おお、なんたることか。僧服を着たハゲワシの鳥人間が直立しているではないか! 鳥人間は不動の姿勢を保ちつつ、侮蔑的に住職を見た。
「いけませんよ……酉年を終わらせるなど。とてもいけないことですよ、それは」
 ハゲワシが告げた瞬間、太鼓じみた音が境内に流れ始める。不安げに辺りを見回す人々に、ハゲワシはとつとつと語りかける。
「良いですか? 世の中には良い時代と悪い時代が存在します。良い時代とは酉年です。なぜなら私達ビルシャナは鳥であり、皆様に救いをもたらす者だからです。酉年以外の十一年は実際暗黒の時代、つまり今が人類にとっての黄金時代……それを終わらせるのは悪しき存在です。つまりこの住職は悪い存在なので私が浄化して差し上げました」
 音が一拍ごとに音量を増し、境内の空気を震わせる。直後、住職を受け止めた人垣の一人が目を剥いた。音が鳴るたび、住職の心臓が胸を突き破らんばかりに脈動している!
「ア、ア……アバーッ!」
 ドクンと大きく心臓が鳴り住職が爆散! 血飛沫と肉片と化した死体を浴び、呆然とする人々を無感動に眺めてハゲワシは淡々と告げる。
「これぞ私のブツメツ・ケン。我が拳に打たれた者は心臓が一〇八回鳴った後にゲダツします。これで彼は来世に送られ改心することになるでしょう。そしてこの鐘は暗黒の時代を呼ぶ悪しき存在なので私が没収致します。……が、その前に」
 ハゲワシがおもむろに僧服を脱ぎ捨て、羽毛に包まれた筋骨隆々の肉体をさらけ出した。
「浄化されたい者は前へ出なさい。黄金時代の終焉を見世物にするなど……なんと嘆かわしい。しかしご安心なさい。遅かれ早かれ貴方方はゲダツします。今か、後かの違いがあるのみ。今救われたい方は私の下へ来るのです」
 即座に悲鳴を上げながら逃げ出す人々。クモの子を散らすように駆けだした彼らを見て溜め息を吐き、ハゲワシは鐘を取り外した。


「……もう全部見なかったことにして、あったかいの食べない?」
「仕事して」
 疲れた顔でぼやく穫の手から、ミッシェルは資料を奪い取る。
 事の発端は群馬県渋川市。日本列島の中心点だという説もある場所に、『除夜のクレーシャ』と名乗るビルシャナが現れたことから始まる。
 酉年を終わらせたくないクレーシャに啓発されたか、日本各地で除夜の鐘を鳴らす寺にビルシャナの襲撃事件が発生。彼らは『除夜の鐘を阻止すれば酉年は永久に終わらない』という思想の元、襲撃した寺の鐘を奪取。その鐘をクレーシャの鐘と共鳴させ、酉年全ての罪と欲・一〇八の煩悩を日本中に解き放ち、鐘の音を聞いた者達を『酉年終わるの絶対許さない明王』に変貌させようとしているらしい。
 放っておけば、ただでさえ毎日のように出現しているビルシャナが、日本各地で大量発生してしまう。皆には襲撃される寺で鐘を奪いに来たビルシャナを待ち構え、撃破してほしいのだ。
 今回の事件においては、待ち伏せという性質上境内で戦闘を行うことになる。境内は足場が砂利な以外に特徴は無く、障害物になりえるものも存在しない。また、寺には既に話が通されており、周辺は参拝客の立ち入り制限中。安心して戦える状況が出来ている。
 そしてこの寺に現れるのはハゲワシのビルシャナ『ハートアタック』。得意のブツメツ・ケンは殴った心臓を破裂させる恐ろしい技……なのだが、それはあくまで一般人視点の話。ケルベロスにとってはせいぜい心臓狙いの強烈なパンチ止まりな上に、ハートアタック自身も強いわけではない。信者も連れていないため、あまり苦戦はしないだろう。ただし、殺害効果が無くとも心臓に狙いすまして放たれるパンチは強力。まともに食らえばスタン、ともすればそのまま追い込まれてノックアウトされかねない。弱敵と思って油断はしない方が無難だろう。
 ちなみに、ハートアタックの目的は『除夜の鐘の制圧』。そのため寺の施設には興味を示さず、鐘はクレーシャのものと共鳴させるために必要なので破壊しない。が、その分除夜の鐘制圧に全力を傾けており、何があっても除夜の鐘は鳴らさせまいとするようだ。
「大晦日まで忙しいけど、終わったら晴れてお正月だよ。せっかくだし、みんなで初詣行くのもいいかも。初日の出を見るのもいいね」
「……よいお年を?」


参加者
ミライ・トリカラード(獄彩色鉄鎖・e00193)
ワルゼロム・ワルゼー(枢機卿・e00300)
五里・抜刀(星の騎士・e04529)
氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)
湯島・美緒(サキュバスのミュージックファイター・e06659)
一津橋・茜(紅蒼ブラストバーン・e13537)
フローラ・スプリングス(小さな花の女神様・e29169)
ラルバ・ライフェン(太陽のカケラ・e36610)

■リプレイ

 某神社、午後十時半頃。人の影なく、静まり返った夜の境内をつぶさに見回し、ハートアタックは一人首を傾げていた。
 日本人には、大晦日の夜から正月にかけて神社に群がる習性がある。夜には除夜の鐘、新年以降は初詣。参拝客と彼ら狙いの屋台によって、どんな小さな神社もこの日はそれなりに活気が生まれる。しかし今、神社には誰一人としていない。参拝客はおろか、お守りを売るバイトすら。無言でハゲ頭を斜めにしつつ、ハートアタックはひとまず神社の鐘に歩み寄る。
(いくら除夜の鐘が廃れつつあると言って、これほど無人になるものか……?)
 腕を組み、沈黙思考。あらゆる可能性が浮かんでは消え、最終的にハートアタックは首を振った。
(まぁ良い。それならそれで酉年は続く。マッポーカリプスの到来を遅れ、黄金時代はこれからも続く……任務の手間が省けたと考えるとしよう……)
「ムッ?」
 鐘楼の前で鳥の足が停止した。先ほどまで無人だったはずの鐘の前、突き木の下に小柄な少女がぶら下がり、地に付かない足をばたばたと動かしている。ほんのわずか前後に揺れる突き木と少女を交互に見つめ、ハートアタックはせき払いした。
「……そこな貴女。一体何をなさっているので?」
 突き木にぶら下がったまま振り返るフローラ・スプリングス(小さな花の女神様・e29169)。青い瞳を真っ直ぐ見据えた鳥人間の腰がゆっくりと落とされる。
「まさか、まさかとは思いますが……よもや、鐘を突こうとしておられるので?」
「ええ、そうよ! 除夜の鐘を突くの!」
「ならぬッ!」
 ハートアタックが地を蹴りフローラに飛びかかったその瞬間、鐘の下に伏せていた湯島・美緒(サキュバスのミュージックファイター・e06659)がインターラプト! フローラに手を伸ばす鳥の胸を狙い指でピックを弾き出す。胸を撃ち抜かれのけ反るハートアタックに、鐘の中から逆さ吊りで現れた一津橋・茜(紅蒼ブラストバーン・e13537)は赤い光線めいてスタートを切り彼に飛び蹴りを打ちこんだ!
「イヤーッ!」
「グワーッ!?」
 飛び蹴りを叩き込んだ勢いのまま茜のハンマーパンチがハゲ頭を強襲!
「秘技・撲殺鐘鳴撃! ですッ!」
「ぐぬぅあああッ!」
 ダンクシュートめいた勢いで地面に激突したハートアタック! 鐘から転がり出たワルゼロム・ワルゼー(枢機卿・e00300)は片膝を突いて右手を突き出した。
「行くぞ皆の衆! 大掃除と相成ろう!」
 直後、光に包まれた鐘が振り子めいて大きく揺らぎハートアタックに中身を向けて爆炎を放つ。爆風に乗ったラルバ・ライフェン(太陽のカケラ・e36610)は起き上がったビルシャナに弾丸じみた速度で接近しながら両拳を引いた。手首から先を包む白い竜巻!
「ヌウッ……」
「噛み付け、竜巻の蛇ッ! 食らえぇぇえッ!」
 放たれたダブルパンチから白い竜巻の蛇が複数現れハートアタックへ飛翔。ハートアタックは大口を開く蛇の頭を素早い拳の乱打で潰し、残る一匹に跳躍回し蹴りを叩き込む。
「ボンジャンハイッ!」
 竜巻がほどけて蛇が消えると共に地にかかとを突き立て急ブレーキをかけるラルバ。その懐へハゲタカが決断的に踏み込んだ! ワン・インチ距離で拳を構える!
「いっ……!」
「ゲダツせよ! ブツメツ・ケン! イヤーッ!」
 胸に正拳突きを食らい吹き飛んだラルバを五里・抜刀(星の騎士・e04529)が受け止める。追撃に走りかけたハートアタックに金色車輪を背負った柴犬と黒騎士めいたシャーマンズゴーストが斬りかかりけん制。斬撃をかすめられつつ二体を攻撃する鳥の上空で、燃える鉄鎖をミライ・トリカラード(獄彩色鉄鎖・e00193)は燃える鉄鎖を振り回す。炎の円内部に複雑な紋様が刻まれていく!
「ヘルズゲート、アンロック! コール・トリカラード!」
 炎の魔法陣が黒く輝き三色三本の鎖を射出! 即座に連続バク転して距離を取ったハートアタックは高速ステップを踏んで低空飛行する三本の鎖をすり抜ける。柴犬と黒騎士をかわし、鐘にハンマーを振りかぶる美緒にダッシュ!
「ヤメローッ!」
 弾丸めいた速度で飛び出した彼の目前に雪の結晶型のドローンが立ち並び行く手をふさぐ。しめ飾りをかけたそれを拳二発で破壊したビルシャナに、フローラはぐでっとした黄色い子竜を高く掲げた。ブーケじみた光に包まれた子竜を両手で思い切り振りかぶった。
「お願いねふーくん! そーれっ!」
 高速で投げ飛ばされた光をとっさに繰り出されたパンチが迎撃。二つの衝突と同時に花吹雪の爆発が起き、美緒の槌が鐘を鳴らした。爆炎から弾き出されたハートアタックに、氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)のお汁粉を一気飲みした茜と三本の鎖を侍らせたミライが代表アイサツ。
「ドーモ、ハートアタック=サン。マーナガルムです!」
「ドーモ。レージングルです」
 これに対し、袈裟についた火の粉を払ったハートアタックもまたアイサツを返した。
「ドーモ、ハートアタックです。……妙に人がいないと思えば。貴方達の仕業でしたか」
「然り」
 手の平に現出した光の木枯らしを握りしめ、ワルゼロム。
「除夜の鐘は新年を迎える大事な儀式故な。酉年が過ぎ去るからといって、邪魔することは許されん」
「そうよ! フローラ、戌年も楽しみだもの!」
「レオ太年賀状、もう作りましたしね!」
 便乗する抜刀の隣で黒柴犬のレオ太が吠える。汁粉をすすり終えたかぐらは呆れ顔でつぶやいた。
「除夜の鐘止めても酉年は過ぎると思うけど……」
「お黙りなさいッ!」
 震脚を繰り出しハートアタックは袈裟を脱ぎ捨てた。外気に羽毛で包んだ筋肉をさらして叫ぶ。
「よろしいか……酉年は人類隆盛の黄金時代、十二年を経てようやく巡ってきた光の時です! ここで酉年の終焉を見過ごせば、人類は再び十二年の暗黒時代を迎えてしまう。我らビルシャナ、それだけは何があっても許せません! もしそれでも止めようと言うのならばッ!」
 半身で構え、拳を握る。
「今、この場でッ! 私がゲダツさせて差し上げましょうぞッ!」
「はいはい、わかったわかった」
 溜め息混じりに首を振ったかぐらの手からあふれたダイヤモンドダストが凝集し、氷像めいたガトリングガンに。銃口を向け、トリガーに指を触れさせた。
「とりあえず、倒させてもらうわよ」
 直後、回転する銃口が無数の弾丸を発射! 即座に大ジャンプして回避したハートアタックを見据え、ラルバを抱えた抜刀はその場で回る。周囲に光輝く折り鶴を浮かべ、抜刀は上半身を振り絞る!
「ラルバさん! 頑張って……くださぁぁぁいッ!」
「おうっ! 頑張ってくるぜええええッ!」
 投擲の勢いのまま翼を広げたラルバはロケットじみた速度で宙のハートアタックに迫る。光の折り鶴を追従させた彼の体が青く輝き氷の騎士鎧姿に変身。氷の槍と盾を携えて昇ってくるラルバに鳥は瓦割りパンチの構え!
「うらあああああああああああッ!」
「ボンジャン! イヤーッ!」
 真下に振り下ろされた剛拳が槍の穂先に当たった瞬間、ラルバが光の木の葉と化して霧散。ぎょっとするハートアタックの背後に木の葉を散らして現れたラルバは背中に氷槍を突き込んだ。
「でいッ!」
「ぐンぬォッ……!」
 槍をしっかり刺したラルバは大きく羽ばたきハートアタックもろとも垂直降下する。空ぶった拳を握り直したハゲタカは回転肘打ちで背に張りついたラルバの横っ面を撃ち抜き上下逆転! 下になったラルバの心臓を狙い腕を振りかぶる!
「まず貴方から救いましょう! ブツ・メツ……!」
 限界まで腕を引き絞った鳥の耳を荘厳な鐘の音が打った。鐘楼に移った鳥の目に、ハンマーで鐘を突く美緒!
「さぁこのハンマーを見てください。鐘を鳴らせる形をしているでしょう?」
「ぬぉおッ! お止めなさいッ!」
 ラルバを裏拳でなぎ払い、ハートアタックは美緒へ急降下ダイブを敢行! 鐘楼の屋根に飛び乗ったフローラが流星めいて落下してくる彼に向かってジャンプし、花嵐の如き高速回転キックを撃ち出す。空中で激突した蹴り足と拳が跳ね返り、フローラとハートアタックは空中交錯。フローラは両手を叩き、現れたツボミの幻影を振り上げる!
「フローラはっ、戌の方が可愛いから好きよっ!」
 ダンクシュートじみて投げられたツボミがハートアタックの胸にぶつかり爆発するように開花した。舞う幻影の花弁の中でのけ反ったハートアタックに巻きつく分厚い鉄鎖。ミライは両手で鎖を握り、一気に引いた。
「捕まえたっ!」
「ぐぅおッ!」
 ワイヤーアクションじみてハートアタックはミライに引っ張り寄せられる。そこへ彼女の肩、腕と飛び移ったレオ太が鎖の上を疾走し、くわえた短剣でうなじを斬って駆け抜けた。飛翔する柴犬の体をハートアタックの手がつかむ!
「レオ太!」
「ぐおッ……ぐぅおおおおおッ!」
 彼の足が地面をつかみ砂利ごと土をひっかいた。背の筋肉が縄のように盛り上がらせたハートアタックは後ろ手に鎖を握り、前傾姿勢。
「暗黒望みし悪徳の犬。黒き意志に救いあれえええええッ!」
 踏み締めた足を支点にして振り返り、鎖をつかんだミライをハンマー投げのハンマーめいて振り回す! ジャイアントスイングされたミライは遠心力のまま鐘楼の美緒と衝突。暴れるレオ太ごと拳を握ったハートアタックは弾かれたようにそちらへ走った。猛然と駆けこむ彼に背を向けたワルゼロムは美緒とミライに額を向けたまま黒騎士に命ずる。
「ゆけ、タルタロン帝ッ!」
 タルタロン帝と冷気で刃を作ったかぐらがハートアタックめがけて突進! 二人の背後でワルゼロム額の赤い菱形模様が梵字に変化し、衝突した二人に光を浴びせる。夜闇を照らす光線へ、ハートアタックは暴れるレオ太を握った拳を振り抜く! タルタロン帝が繰り出す刺突にクロスカウンターを叩き込んで横顔を潰し、前蹴りで突き放したところへかぐらは刀を縦一閃! 冷気の刃が鎖骨を断ち切り、傷をたちまち氷結させた。ハートアタックは夜空に咆哮!
「ウゥオオオオオッ!」
 パンチを繰り出しかける鳥の真横にラウンドシールドがぶち当たった。円盾型ドローンを持った抜刀は反動で下がって着地し盾をフルスイングする!
「レオ太を……離してくださいッ!」
 ドローンスマッシュが鳥の脇腹に命中し、レオ太を彼の手から解き放つ。相棒をキャッチした抜刀をにらんだハートアタックの拳がかすむ。
「セイヤッサーボンジャンッ!」
「ぐぶおッ……!」
 ボディブローが騎士鎧の腹を破壊。そのまま抜刀を社までふっ飛ばした彼は横薙ぎの蹴りでかぐらをどかし鐘楼に向かって跳んだ。高々と両腕を振り上げ、復帰した美緒が放つ爆炎のレーザーを打ち払う。そのまま両腕を引き絞り、三人に狙いを定めた。
「酉年終焉の時を数える者よ! 汝らの魂にこそ救いあれ! ブツメツ・ケン! イヤーッ!」
 落下の勢いを乗せたダブルパンチが放たれる! 衝撃音に鐘が震え、鐘楼周囲の砂利が波を打つ中、ハートアタックは目を見開いた。両の拳を受け止めた茜が、肉食獣めいた笑みを浮かべる。
「ゲダツが救い……でしたっけ? ならあなたはわたしが救ってあげますよー……この拳でッ!」
「なんですとッ……」
 ダブルパンチをホールドした茜の手の骨がポキポキと鳴り、真紅のオーラに包まれた。ジャンプからのドロップキックを食らいノックバックしたハゲタカに、オーラの爪を作った茜が飛び込んだ!
「紅王ネイガルブルート! 赤の手により血に染まれッ!」
 赤い爪がひと際輝き、マシンガンめいた爪撃のラッシュが閃いた。凄まじい速度の連撃が鳥の胸筋を抉り血をまき散らす。
「ドララララララララァッ!」
「ア、アババババババーッ!」
 鮮血をぶちまける鳥から一旦離れ、茜は両腕をクロスする。二倍の長さに伸びた爪がズタズタの鶏肉を十字に裂いた。噴水じみて血が噴出!
「アバババババーッ!」
「トドメオサセーッ! ですッ!」
「オレに任せろッ!」
 ラルバが氷の鎧を解除して飛びかかった。腕先を覆う竜巻が狼をかたどり、鳥の胴を牙で挟んで跳び上がる。首をミライの二本鎖に巻かれた鳥は必死でもがきながら悲鳴を上げる。
「アバーッ! ま、待ちなさい! 待つのです! 酉年が終わればこの世は暗黒時代にッ……!」
「なるかぁッ!」
 腕に力を込めながら、ラルバは声を張り上げ言い返す。
「オレ達が、これから良い時代にしてみせる! お前ら煩悩まみれの酉の救いなんかに頼らない、みんなで生きて、笑って過ごせる明るい未来にッ!」
「来年ケルベロス年だしね! 来年もいい年になりますように!」
 両手の鎖を手繰り、上空の二人の真下に駆け寄ったミライは前後反転。鎖を振り抜く!
「煩・悩・退・散ッ!」
「疾風の狼! 行っけえええええええッ!」
 腕先から狼型の竜巻が放たれ、鎖と共にハートアタックを鐘に強く打ちつけた。潰れる鳥の頭と鐘の音。
「サヨナラ!」
 鐘の音が響く中、ハートアタックは爆発四散した。


 小銭の跳ねる音がする。鈴を鳴らし、二礼二拍手一礼。仲間とそろて参拝を終えたかぐらは、スマホの画面をこっそりのぞいた。
「……よし。これで大丈夫、のはず」
 うなずき賽銭箱の前から離れ、境内に降りる。見回したワルゼロムは顎に手を当て、斬り出した。
「ふむ。順番がやや前後してしまったが、無事に初仕事を終えた記念だ。皆で年越しそばなど……」
「賛成ですッ!」
 言葉を遮り茜がシュバッと挙手。やや面食らうワルゼロムの手を引き、ズカズカと出口へ向かう。
「新年早々お腹空きました! さぁ派手にいきましょう! 新年一発目の大食い大会! ですっ!」
「待って待って! その前に初日の出! フローラは初日の出見たいわ!」
 目をきらきら光らせ、ふーくんを抱えたフローラが茜を呼び止める。
「フローラね、去年は寝ちゃったから初日の出見るのはじめてなの!」
「初日の出に、年越しそばですか……どっちも捨てがたい」
 難しい表情で押し黙る抜刀を見ながら、腹の虫を鳴かせて茜が足踏み。悩ましげな面々に、ラルバはぱっと顔を輝かせた。
「良いこと考えたぜ! 初日の出見ながら年越しそばだ!」
「初日の出見ながら……おそば…………ちょっと待ってくださいね」
 美緒はスマホを取り出し検索エンジンを開く。期待満面の茜とフローラ、ラルバに画面をのぞかれながら、検索を入れた。

 一方その頃。
「も、もしもし? ……ごめん、ついうっかりしててさ」
 電話を耳に当てながら、ミライは一人夜道を駆ける。白い息を吐きつつ、小声で相槌を打つ。
「そっちは大丈夫? うん……うん、ごめんね。……そう。帰ったら一緒に初詣行こうね。あ、そうだ」
 未だ暗い空にちらほら見える星を見上げ、ミライはふっと口元をほころばせた。
「明けましておめでとう。今年も一年、よろしくね!」

作者:鹿崎シーカー 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月9日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 0
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