失伝救出~切っ先は何処に向く

作者:廉内球

 獣のような咆哮が一帯を叩いた。逃げ惑う人々に襲いかかる白刃は四振り。その主は皆、妖剣士、そのなれの果て。
「いたぞ!」
 そこに新たな剣士四人が駆けつけた。己の妖刀を抜き、狂気に堕ちたかつての仲間に斬りかかる。やがて鍔迫り合いにもつれ込んだ妖剣士の男は、たまらず問いかけた。
「どうして……どうしてこんな」
 知れたことだ。妖刀の呪詛の力で戦い、いつか呪いに呑まれる。それが彼らの未来。
「あは、あはははは」
 突然、妖剣士の女が笑い出した。
「次はきっとあたしの番。そうなったら絶対、あたしを殺してよね」
 彼女は、笑いながら泣いていた。仲間同士で殺し合う事態に、抑えようのない感情が暴走しているのだろう。
 やがて戦いは終わり、妖剣士たちは殺し尽くした。仲間だった者たちを。言葉も届かぬかつての友を。
「……あの人たちが助けに来てくれればなぁ」
 返り血に濡れた少年がふと口にする。どうしてか分からないが、何か……いや、誰かの存在が脳裏をかすめた。それは、感情を枯らした少年が見た幻想だろうか。
「助け? デウスエクスに勝てる人なんているわけないでしょ、私たちがやらないと」
 悲壮なまでに現実を直視し、少女は答える。そうしていないと折れてしまうかのように、険しい表情のままで。
 そして時は巻き戻り、四人の剣士は走り出す。血の臭いに満ちた、狂える友が待つ場所へ。

 ヘリポートに集まったケルベロスたちを、大柄な竜派ドラゴニアン、アレス・ランディス(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0088)が出迎える。
「ヘリオライダーのアレスだ。これからよろしく頼む」
 挨拶もそこそこに、アレスは予知した事件の説明を始める。
「寓話六塔戦争に勝利し、大きな戦果を挙げることができたな。失伝者も救出した。失伝者の諸君が戦列に加わってくれることを心強く思う」
 だが、救出されたのは全員ではない。『ポンペリポッサ』が用意した特殊なワイルドスペースに捕らわれたままの失伝者がいる。彼らは大侵略期の惨劇の記憶から生まれた残霊による悲劇を、心折れるまで繰り返させられているのだ。
「情報が手に入ったおかげで、彼らが絶望し反逆ケルベロスとなる前に予知ができたのは幸いだ。ワイルドスペースへ向かい、失伝者を救出してくれ」
 しかし問題が一つある。失伝者が囚われているワイルドスペースには、失伝者しか入れない。ゆえに、熟練のケルベロスたちといえど、失伝者でなければ救出に向かうことが不可能なのだ。
「救出対象は、自分たちを大侵略期の妖剣士だと思わされている。そして、狂気に呑まれた仲間を手にかける瞬間を、繰り返し体験させられている」
 まずは、狂気に陥った妖剣士4人を倒す必要がある。グラビティも妖剣士と同様のものを使ってくるが、これは残霊だ。覚醒したばかりのケルベロスでも十分倒しうる。しかし、残霊を撃破すれば仲間を他人に殺されたと、救出対象の妖剣士たちは認識するだろう。
「残霊を倒し終えたら、失伝者と戦闘になる。殺さないよう手加減しながら、説得してもらいたい」
 ケルベロスとして覚醒していれば、もはや狂気に陥ることも無い。だが救出対象の失伝者たちは、それを知らないのだ。彼らの絶望を癒やす言葉をかければ、信じてもらえるかもしれない。
「気になることも多いだろうが、ワイルドスペースに長く留まればお前たちも囚われてしまう。手早く救出し、撤退してくれ」
 全ては過去の幻影。かつて起きたことの再現だ。今の現実ではない。
「さあ、行ってこい。変えられる未来を……いや、まずは彼らの今を、取り戻しに」


参加者
天瀬・水凪(仮晶氷獄・e44082)
刀崎・薊(へっぽこ退魔忍・e44260)
妙篷煉・鳳月(うつろわざるもの・e44285)
渡会・雪(さすらいびと・e44286)
ルイン・メルクリウス(ヴァルキュリアのブラックウィザード・e44378)
クロナ・ベルベディア(くろねこのパラディオン・e44621)
兎之原・十三(首狩り子兎・e45359)
スルー・グスタフ(後のスルー剣帝である・e45390)

■リプレイ

●惨劇の記憶
 踏み込んだワイルドスペースの内部はどこか重苦しく、八人のケルベロスたちにまとわりつく。それでも怯む猶予は無く、聞こえた悲鳴が残霊のものと知りつつも、番犬たちはその場所へと急ぐ。
(「残酷な繰り返し……何とかして解放してあげないと……」)
 渡会・雪(さすらいびと・e44286)はこの場に囚われた失伝者達を思う。自らのそれと形は違えど、彼らもまた悲劇と直面している。しかも、何度も。
「……これが最後の救助か。心してかからねばなるまい」
 天瀬・水凪(仮晶氷獄・e44082)はアニミズムアンクを堅く握る。失伝者達が囚われたワイルドスペースは次々と発見され、多くの仲間が救助されている。その最後のワイルドスペースの一つが、この場所なのだ。
「それにしてもこのやり口、唾棄にも値せん」
 スルー・グスタフ(後のスルー剣帝である・e45390)は吐き捨て、バスタードソードに手をかける。
「そうだな、徹底的に叩きのめしてやる」
 ルイン・メルクリウス(ヴァルキュリアのブラックウィザード・e44378)は視界の先に閃いた刃を見た。そしてその怒りは、どこかに潜むであろうワイルドハントへと向く。
「いざ、参る!」
 妙篷煉・鳳月(うつろわざるもの・e44285)は皆に先んじて叫ぶ。耳元から如意棒を取り出すと妖剣士の残霊に躍りかかった。反応し、虐殺を中断した残霊は刀で受け、反撃を試みるも鳳月はそれを弾き、逆に手痛い一撃を与える。
 対照的に音も無く接近したのは兎之原・十三(首狩り子兎・e45359)だった。【月喰み:三日月】の妖気を解放。淀んだ怨念と研ぎ澄まされた殺意とが重なり、嵐となって暴れ狂う。
「刎ねる……刎ねる……兎が刎ねる……無明の新月、見て刎ねる」
 十三はささやくように歌う。その唇が薄く弧を描き、カチューシャの兎耳がゆらりと揺れた。
「残霊とわかっていても哀れでござるな、同胞よ」
 同じ妖剣士である刀崎・薊(へっぽこ退魔忍・e44260)は、過去の幻影に哀れみを向ける。
「その堕ちし姿、拙者が祓ってやろう」
 薊は零式鉄爪を装着した手を大きく広げると、くるりと一回転、二回転。回り回るその姿は独楽を超え、竜巻と呼ぶにふさわしい暴力の渦を生み出した。
 そこに、たどり着いた四つの影。
「君たちは……?」
 現れたのは妖剣士ーー囚われた失伝者達だ。男女二人ずつ。
「話は後ですにゃー。まずは残霊を倒すにゃー」
 眼前では、スルーが格闘にて組み伏せようと掴みかかり、妖刀と交錯。クロナ・ベルベディア(くろねこのパラディオン・e44621)は気力を送って、その傷を塞ぐ。
「手助けしてくれるの?」
 状況を飲み込みきれぬまま、妖剣士達は己の剣を抜いた。
「ええ、勝手ながら加勢いたします!」
 雪は高く飛び上がると、その足に虹を纏い急降下。弧を描いた蹴りは美しく戦場を飾るが、雪自身は柄にもない足技に小さくごめんなさい、とつぶやいた。
 いつの間にか残霊の一般人の姿は消えている。しかし本来四人で互角に戦うはずだった失伝者達、そこに八人のケルベロスが加わり、戦況は混乱に呑まれていく。

●過去と交錯する剣
 水凪とルイン、二人のブラックウィザードの手のひらから、虚無の球体が生み出された。一つは強く、一つは速く、残霊達を翻弄する。妖剣士と互角に戦うケルベロス達の姿に、失伝者達は戸惑いながらもその剣を振るっていた。
 そんな中で、十三が片耳を抑える。この場にいる全て斬ってしまえという妖刀のささやきを遮断する。
「……仲間の、首は、刎ねない」
 脳裏に響く言葉を打ち消すように何度も繰り返し、喰霊刀に宿った呪詛を自らの意思で操る。その表情は眠たげながらも剣鬼のそれへと変わり、放つ剣は三日月を描いて残霊を切り捨てた。
 鳳月もまた、金色の瞳をすうと細める。呼応して背の曼荼羅光は強まり獣のようにうなり飛びかかる妖剣士を迎撃。
「囚われた失伝者が来る前に倒してやろうと思ったが、まあいいだろう」
 鳳月の視線の先で、名も知らぬ少女が己の剣を振り下ろす。仲間だと思っているであろう残霊に、もはやためらうことも無く。
「ヒャッハー! これで止めでござる!」
 興奮気味な発言とは裏腹に、薊はあくまで無表情。【妖刀「彼岸花」】を構えると、その姿が幾重にも重なり、広がっていく。
「括目して見よ! 我が忌まわしき宿業の元に汝を斬殺せん!」
 刀崎退魔忍流奥義「曼珠沙華」(マンジュシャゲ)。その刃から散る赤は弧を描き、残霊の一人は戦場に咲く彼岸花となり絶命した。
 残る残霊は二人。霊体を宿した二振りの凶刃が、失伝者の男、そしてスルーに襲いかかる。
「させません!」
 男の前に、雪が立ちはだかる。鮮血が散り、その身を怨念に蝕まれようとも、膝を折ること無く踏み出す。
「この力で、止めます。過去の悲劇はもう繰り返させません」
 雪はその美貌にはおよそ似つかわしくない怪力でもって残霊の腕を引き裂いた。
 怨霊に蝕まれるはスルーも同じ。囚われた失伝者を守るため、敵の攻撃を引きつけ続けた雪とスルーの傷は徐々に積み重なっていく。幾多の呪いを受けながらも、しかし二人は決して諦めず戦い続ける。なぜなら、彼らの耳には希望の歌が届いているから。
「大丈夫ですかにゃー!」
 絶望に満ちたワイルドスペースの中で、それでもクロナは明るく歌い続ける。他者を救うための歌、それこそが彼女の『きせきの力』なのだ。
 途中歌詞が「にゃーにゃー」だけに変わることもあったが、クロナにとっては意味があり、グラビティとしてもきちんと機能している。どこか暖かささえ感じるその歌が、重く冷え切った戦場の、文字通り癒やしとなっていた。
「皆さんの『いま』を取りもどすため、全力でうたいますにゃー!」
 叫ぶクロナに呼応して、スルーは残霊の刀を剣で打つ。残霊の持つ刀にはっきりとひびが入った。
「過去の幻影は消える時間だ。ここに貴様らの居場所はないのだ」
 ルインは厳かに、冷酷に宣言した。どろりとした混沌が暴力的な形状をとり、残霊に破滅をもたらす。混沌をまともに受けた残霊妖剣士は倒れ、もう動かない。
「……他愛も無い」
 ルインは冷めた目でその最期を見届けた。
「あなたが最後。貫く槍は……ここに」
 水凪の指先を冥府の冷気が撫でる。ゆるりと手を天にかざすと、立ち上った冷気は核を持って成長していく。やがて無数の槍で空が満たされると、水凪はす、と残霊に指先を向けた。呼応して、槍が一気に地上に降り注ぐ。地を貫く数多の槍と、それに貫かれて動きを止めた残霊妖剣士。それで、戦いは終わった。


 だが、これで終わりではないことをケルベロス達は知っている。
「すごいな、君たちは……けど」
 妖剣士の男が感嘆の声を上げる。だが、彼はその切っ先をケルベロス達へと向けた。少年少女も彼にならう。
「あの人達は、あたしたちがけりをつけるべきだった」
 女もまた、刃を握り直す。
「敵討ち、しないと」
 少年がぼそりとつぶやく。
「そうよ。それにいつかは私だって殺される運命だもの」
 少女が剣を構えた。ケルベロス達もまた身構える。救出すべき失伝者達との戦いに備えて。
「やむを得ぬ、でござるな」
 薊はおもむろに、装備を重武装モードに切り替える。戦装束はより威圧感のあるものへ。爪と刀もまた然り。だが失伝者達は引く気配を見せない。
(「これだけ待たせたんだ。上辺だけの言葉だけでは足りぬだろう」)
 スルーもまたバスタードソードを構える。
「よかろう。さあ、お前の剣を……想いを俺に刻み込め! お前達の想い、しかと受け取ろう」

●その剣を向けるべきは
 戦いは再び始まった。しかしほどなくして、妖剣士たちは困惑する。
「……何のつもりだ」
 男が問う。なぜなら、ケルベロス達の攻撃には一切の殺意が無かったから。
「本当にお前らは大侵略期の妖剣士なのか? 攫われてここに連れてこられただけなのだろう?」
 呪われし刃をワイルドウェポンで押し返し、ルインは男に指摘する。揺さぶるはその根幹、ワイルドハントによって植え付けられた偽りの記憶。
「……貴様らが共に戦った仲間は本当に簡単に呑まれ、貴様らを更に絶望に誘う存在だったか?」
 それは、と男が言いよどむ。否定したい気持ちと、目の前の事実。その間で葛藤しているように、ルインには見えた。
「否。先ほどの狂気の妖剣士。アレは過去の偶像である」
 男が望んだ答えをきっぱりと言い切る鳳月。妖剣士の男ははじかれたように鳳月に向き直る。
「兎之原と刀崎、彼の者らも妖剣士である。どう思う? 狂気に呑まれているように見えるか?」
「いや……」
 二人の戦いが狂気の果てのそれと異なることは明らかだ。目の前でそれを見せられては、男も納得せざるを得ない。
「我等はケルベロス。デウスエクスに唯一死を与える者。私達は迎えに来たのだ」
 鳳月の言葉に応え、ルインは腕に纏ったワイルドウェポンを納め、男に背を向ける。
「納得したなら早く帰ろう、此のふざけたワイルドスペースに長居する理由は無い」
 女にも、ケルベロス達は必死の説得を行っていた。彼女は怒りに支配されている。雪にはそう感じ取れた。
「どうしたの? 本気で殺し合いましょうよ! それが私たちの運命なんだから」
 十三はしかし、ゆっくりと首を横に振る。
「仲間の、首は、刎ねない」
 女の挑発にも、喰霊刀のささやきにも乗らず、眠たげなまま、それでも十三は言い切った。
「十三達は……ケルベロス……デウスエクスに打ち勝つ刃……あなた達も、おなじだから……しんじてほしい」
 雪もまた、時に防御すら放棄する十三を妖刀の刃から守りながら、祈るように叫ぶ。
「思い出して、真の敵の名を! そしてそれを狩り明日をもたらす者の名を!」
「真の、敵……デウスエクス?」
 雪が大きくうなずく。雪や仲間の、そして彼ら失伝者達の刃を向けるべきは、友ではないはずなのだ。
「もう、こんなこと、続けなくて、いい……」
 本当に、と問いかける女に、二人はしっかりと頷いた。
「まずは話を聴いてくださいにゃ! デウスエクスを倒せるケルベロスのこと、思い出してくださいにゃー!」
 クロナの必死の叫びに、少年が手を止めた。ケルベロス。その言葉を口にし、はっと顔を上げる。クロナの纏う、ケルベロスコートが少年の瞳に映る。
「これが証にゃ。ぼく達、この空間に囚われた人達を助けにきたのにゃ!」
 そして、クロナは語る。この空間のこと、失伝者のこと。辛い繰り返しは終わり、彼らは救われるのだということを。
「じゃあ、あなたたちが……」
「左様。ケルベロスとして覚醒していれば、もはや狂気に陥ることも無いから安心するでござる!」
 薊は重武装モードのまま、説得を行う。見た目、そして言葉の力強さに安堵したのか、大粒の涙をこぼす少年を、薊は優しく抱きしめた。
「お主も、拙者らと同じケルベロスでござるよ。同胞が堕ちなくて拙者は嬉しいでござる」
 少年はうなずき、そして泣き続ける。彼はもう、反逆ケルベロスとなることはないだろう。堅く握られていたはずの喰霊刀が、彼の魂に代わるかのように音を立てて地に落ちた。
「俺は仲間を斬る剣は持たぬ」
「何、甘いこと言ってるのよ……」
 毅然と言うスルー。無骨な剣で防御に徹するその姿には、微塵の揺らぎも無い。対して少女の剣には迷いが宿る。
「甘くなどない。わたしはあなた達に偽りに囚われたまま絶望したり、死んでほしくないと思っている」
 水凪は少女の呪われた剣をしっかりと受け止める。そしてその目をしっかりと見つめた。深い青の瞳に宿るは確信。水凪の性格故に表情は少なく、言葉は選び抜かれてゆっくりと。それが少女を落ち着かせる。
「もう仲間を見捨てる必要はない」
 これまで地球を、人々を守り続けたケルベロスがここにいる。彼女もまた、呪いに呑まれることなく人々を守ってゆける、ケルベロスなのだ。それを告げると、少女は肩の荷が下りたかのように脱力し、座り込んだ。
 そうして、戦いは静かに終わった。祈るようにアニミズムアンクを握り、水凪が優しい風で皆を癒やす。体の傷だけでなく、その心も癒えるように。
「その剣を向けるべきは……此処に在らず」
 スルーは剣先で、帰るべき場所を指し示す。
 八人の、いや十二人のケルベロス達は、最低限の回復を済ませ、足早に脱出を図る。取り戻した今を胸に、その眼差しは未来を見据えて。

作者:廉内球 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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