失伝救出~自滅の背光

作者:絲上ゆいこ

●助けなんてどこにも無いと言うのに
 時は大侵略期。
 山の奥の奥。
 隠れ滝と呼ばれるこの里はその名の通り、沢へと流れ込む滝があった。
 この滝では、滝に打たれ修行をする者達、沢で手合わせをする者達。
 思い思いに修行に取り組む人々の姿が見られるのが日常であった。
「せんせーっ、いきますよーっ!」
「ああ、いつでも来い」
 ぴかぴかの笑顔で首を傾ぐ少女、声をかけられた男は瞳を細めて微笑んだ。
 その瞬間。
 男は垂直に脚を薙ぐ。
「!」
 踏み込む足に無理矢理制動を駆けて、一瞬遅れて後ろに跳ねる少女。
 砂利に足を取られながら、片手を付いて半転して何とか体勢を立て直して避けた。
 しかし、既に男の拳は目の前まで迫っている。
「俺から行かないとは言ってないぞ、……まだまだだな」
「……せんせー、ずるい!」
 そのままデコピンをされた少女は、むすっとそっぽを向き。
 目を見開いて、男の服の裾を引いた。
「せん、……」
 光の筋を残して剣が奔り、少女の首がボールのように跳ね飛んだ。
「……あ?」
 転がる首。
 目の前に立つ、エインヘリアル。
「……お前」
 先程まで言葉を交わしていた少女の首と、目の前の敵。
 二つを見比べ。
「お前ええええええええっ!」
 男は吠えた。
 感情の高ぶりに力が応じる様に背光を帯びる。
 その瞬間男は到達したのだ、原初の光『阿頼耶識』へと。
「ああああああ、ああああああああああ!」
 撃つ、撃つ、撃つ、撃つ。
 気を纏った光がエインヘリアルを砕き、そして光は自らの身すら焦がしながら。敵を、自らを、焼き焦がす。
「あ」
 光を纏う拳があっけなく弾き返され、光の刃が振り下ろされた。
 ぐらりと男の身体が揺れ止まる。
 転がる首。
 彼が最後に見た光景は、里に上がる煙。
 滝に溢れる血と、光を纏い戦う者達。
 ああ、里が燃える、燃える、燃える。人が光に焼かれる、焼かれる、焼かれる。
 どうして、彼らは来てくれないのだろうか。
 デウスエクスを倒してくれる彼らは。
 ……彼らって、誰だ?
 デウスエクスに太刀打ちできる者なんて、居るわけが無いのに。

 はた、と気がついた。
「せんせーっ、いきますよーっ!」
「……お前、生きて……」
 ぴかぴかの笑顔で首を傾ぐ少女、声をかけられた男は瞳を細める。
 滝の上に見えたのは、3体のエインヘリアル。
 ああ、これは、そうだ、何度目だっただろうか。
 ああ、……どうして、なぜ、だれか、助けて。

●助けならいるさ、ここにな!
「よーう、お前たちと会うのは初めてになるな。俺はレプス。今後とも何かと顔を合わせる事になると思うがよろしくなー」
 レプス・リエヴルラパン(レプリカントのヘリオライダー・en0131)はゆるーく挨拶をすると、ぺこりと頭を下げるとケルベロス達に向き直った。
「――さて、早速だが寓話六塔戦争に俺たちが勝利した事は知っているよな?」
 頷く皆に、頷き返すレプス。
 それもそのはず。
 今回ここに集まったケルベロスたちは、寓話六塔戦争で救出された『失伝ジョブ』のケルベロスや、その事によって突如『失伝ジョブ』に覚醒した者たちである。
 戦争の勝利が無ければ、彼らがまずココに集まる事が無いのだから当然の事だ。
「で。戦争で得た情報と俺の予知で、未だ特殊なワイルドスペースの中に囚われたままの人々を助ける方法を見つけたぞー」
 レプスはヘリオンを軽く撫でてから、逆の掌の上に資料を展開する。
 隠された特殊なワイルドスペースは日本各地にいくつも存在しており、『大侵略期のデウスエクスの残霊』が支配する内部に『失伝ジョブの系譜に連なる者』たちが閉じ込められているようだ。
「今回のワイルドスペースに囚われている『光輪拳士』たちは、自分たちがケルベロスの存在しない大侵略期に生きていると『誤認』させられているようでな。その中で永久に繰り返される抗う事のできない虐殺に対して抵抗を強いられている」
 ワイルドスペースを生み出しているドリームイーターの目的は、幾度も絶望を与えて心を折り。絶望に染まった彼らを『反逆ケルベロス』として自らの手駒とする事。
「――特殊なワイルドスペースに入れるのは、失伝ジョブを持つお前たちだけだ」
 それは、手練のケルベロス達の手を借りる事はできない事を意味する。
「お前達にはここで繰り返される悲劇を阻止して、囚われた人々に希望を与え。一緒にワイルドスペースから脱出をして欲しいんだ」
 囚われた『光輪拳士』は、老若男女合わせて3人。
 皆、隠れ滝と呼ばれている滝に集まっている。
 そして、このワイルドスペースを維持しているドリームイーターと救出対象の3人以外は、里に居る人々や滝周りで修行をしている一般人たちも含めて全て残霊である。
 鮮明に予知に現れた、救出対象を先生と慕い修行をしている少女もただの残霊なのだ。
「現れるエインヘリアルは3体。こいつらも実際のデウエエクスよりも弱体化した残霊だ。ケルベロス一年生のお前たちでも、頑張れば十分倒せる強さだぞー」
 資料が切り替わり、映し出されるのは滝を囲むように存在する集落のイラスト。
「現れる敵は放っておけば2体が滝周りで暴れ、1体は里の残霊たちの虐殺を始める。……里に居るのはただ残霊とは言え、囚われた3人に絶望を与えない為にはきちんと対応を行った方が良いだろうな」
 エインヘリアルたちはゾディアックソードに似た攻撃を行うようだ、と言いながらレプスは資料を閉じた。
「集まってくれた皆の中にも、囚えられ悲劇に抗い続けさせられていた者もいるだろう。――新人とは言えお前達もケルベロス。この悲劇を食い止められるのはケルベロスであるお前たちだけだ、……頼んだぞ、ケルベロスクン達」
 無事に仕事を終えれば甘味位なら奢ってやるぞ、と付け足して。レプスは首を傾げて微笑んでみせた。


参加者
アスラン・クラウィス(黒鍵・e44067)
ファルゥ・スメラギ(ウェアライダーのブラックウィザード・e44272)
リンクス・リンクス(山猫・e44555)
ゼビナ・メシャン(玄劃・e44596)
エルナト・セタラ(躯歌・e44619)
霧島・光牙(護光機人と緑茶な仔龍・e44784)
玄澄・啓晃(海溝の拳僧・e44786)
十九號・烈光(煌煌・e44908)

■リプレイ


 山の奥の奥へと続く沢。
 早瀬を辿れば、遠くに人々の気配。零れ落ちる水簾が見えてくる。
「ココ、のようですね」
 アスラン・クラウィス(黒鍵・e44067)は伺う様に周りを見渡し、箒をぎゅっと握りしめた。
 肩に乗った彼の翼猫のアーテルは、ふわふわ黒曜石色の尾をずっと彼の頬に叩きつける事に執心している。
 それぞれの想いを抱え、思い思いに滝を眺めるケルベロス達。
 ここに集まった8人は、皆、最近力に覚醒したばかりの者達だ。
 そして、今回解決を求められた事件は、ワイルドスペースの気分次第では自らにも降り掛かっていたかもしれない事であった。
 十九號・烈光(煌煌・e44908)はただ歩を進める。
 自分達が介入しなければ、ここでは虐殺が半永久的に繰り返される。
「……」
 自らの過去が脳裏に過り、小さく頭を振る。
 歩む先に、里に住む残霊の一般人達の姿が見えてきた。
 それぞれが笑い、悩み、それぞれが真剣に今を生きている様に思える。
 これが地球の傷だというならば、この虐殺は過去にあった事実なのだろうか?
 考えが深みに至った烈光は若葉色の瞳を細め、言葉を噛み殺す。
 彼らは閉じ込められている3人以外、全て残霊だ。
 そして、これから現れる敵も。
「通常より弱い敵とはいえ気が抜けませんね」
 この力に覚醒してからは、初めての戦いだ。
 エルナト・セタラ(躯歌・e44619)は零式鉄爪を確かめる様に引き絞り呟いた。
「こんな重大な任務、ファルゥ出来るでしょうか……」
 大きな耳を不安に揺らし。
 黒と白のうさぎのぬいぐるみを抱き寄せるファルゥ・スメラギ(ウェアライダーのブラックウィザード・e44272)。
「やあ、スメラギ殿。その様に緊張せずとも皆がおります。一人では無く、仲間達に背を預けられると思い挑んでみては如何でしょう」
 誌公帽子をしっかりと被り直しながら玄澄・啓晃(海溝の拳僧・e44786)は、ファルゥの横を歩きながら言葉を次ぐ。
「それに、言ってみれば除霊でありましょう。拙僧の専門ですな」
 柔らかく笑む啓晃に、ファルゥは小さく頷いた。
「……えっと、精一杯頑張ります! シロさん、クロさん、それに……皆さんも。ど、どうぞ宜しくお願い致しますね」
「皆さん、ケルベロス一年生とは思えない落ち着きでとても心強いわ」
 エルナトはそう言って笑う。どこか儚く、どこか偽りの様に。
「悪い夢では、寝覚めも良くない」
 よく通る声音は柔く、低い。
 黒い髪。黒いコートにブーツ。片手にネクロオーブを。足元へ毛足の長い翼猫がすりよる。
 瓦礫から這い出た影のような印象を与える男、ゼビナ・メシャン(玄劃・e44596)は翼猫――エラフを抱き上げ、言った。
「ええ、行きましょう」
 リンクス・リンクス(山猫・e44555)が頷き。
 見上げた滝上に三体の影を認める。あれこそ今回の得物だ。
 仲間を失う事は、哀しい事だ。それが、誰かに造られた真実では無い痛みだとしても。
 身を低く、低く。
 フェアリーブーツに宿る星屑がぱちぱちと散る。
「たとえ残霊だとしても、彼らが護りたかったものは、……絶対に」
 霧島・光牙(護光機人と緑茶な仔龍・e44784)の横で、ボクスドラゴンのやぶきたが同意を示す様にぴょんと跳ねた。
「虐殺を何度も見せるのは酷な事。――彼等の心が挫けぬよう。例え終わった命であっても守りましょう」
 エルナトの言葉が終わる前に。烈光は跳ねる様に駆け出した。
 ――ああもう面倒臭い! 胸糞悪い!
 俺はただ戦いたいだけなんだ。
 あの高揚を、精神の高みを、味わいたいだけなんだ!


 滝上から飛び降りてきたエインヘリアルの1体に烈光は飛び出した勢いそのままで突っ込み、塗料を派手に撒き散らした。
 ペイントを目眩ましに、光牙が滑り込んで来る。
 そして救出対象の彼の目の前に居た少女を、抱き庇い一気に距離を取った。
 同時に飛び込んできたリンクスの鉄爪が、少女の首を狙っていた刃とギチギチと噛み合う。
「無遠慮な一撃は勘弁いただきたいものですね」
 啓晃が飄々と言ってのけ、敵の周りを包囲するケルベロスたち。
「こんにちは、鬼さん。……逃しはしないわ」
 猫の様に飛んだリンクスは、エインヘリアルの首を腿で挟んで捻る様に引き倒す。
「そして、お前の相手はこっちだっ!」
 少女を抱いたまま光牙は地を蹴り、同時にリンクスがステップを踏んだ。
 描かれる2本の虹の軌道。
 クロスを描いた虹は、それぞれ別のエインヘリアルへと蹴りを叩きつける。
 ぎゅっとぬいぐるみを抱きしめて、今にも泣き出しそうになりながらもファルゥは意を決した様に声を張った。
「遅れてごめんなさいです、ファルゥ達が来ました。か、必ず、助けてみせますから……!」
 前衛を包む加護の力。
 ネクロオーブをその身に宿す二体のうさぎのぬいぐるみからエクトプラズマが膨れ上がり。
 同時に音を立ててケルベロスチェインが地に陣を展開される。
「あなた方は、心身ともに強く、高みを目指されている様子。であれば、まだ折れないで下さい。……少なくとも、今は」
 鎖を手繰り引くアスランが一度大きく頷き、修行僧達を見渡し言葉を次いだ。
「俺たちが、全員倒れてしまうまでは信じてください……!」
「そう。このデウスエクスたちは私達に任せて里へと退避していただきたい。怪我をしては大変ですからな」
 救出対象であろう彼に手を伸ばし、啓晃はその身体を起こしてやる。
「お前達は……?」
 彼に問われ、構えたまま烈光が笑う。
「俺たちは助太刀に来たケルベロスだ」
 過去に引き摺られるのは勘弁だ。まして己の過去でない彼等は尚更だろう。
「……ケルベロ、ス?」
 彼は頭を抱える。
 どこかできいたことがあるような気がする言葉。
 どこか希望に溢れた言葉。
 まさかデウスエクスが倒せる訳なんて無いのに。
「デウスエクスが倒せないと思っている顔だな」
 これより始まるのは、楽しい戦いの時間だ。
「倒せるんだ。俺達にはな」
 予定外の敵に警戒を示す敵達。
 それでも尚、目的を達成すべく敵達は彼へと飛びかかろうとする。
「さあて、それでは新人ケルベロスの実力をご覧いただこうか」
 啓晃が空を撫でる様に扇を薙ぐと、軽い音を立てて九節鞭の如く伸びた扇が敵群の足を打ち据え。
 冷たい風は霜を降らす。
 よろける敵達。
 ケルベロス達の包囲へと敢えて飛び込み、突っ切ろうと1体のヘインへリアルが剣を薙いだ。
 長毛の翼猫が2匹、そこへと同時に駆け跳ね。
 エラフとアーテルがリングを掲げて庇い出る。
「そちらに行かせはしない」
 ゼビナの背より溢れるは、黒き黒きエゴの鎖。
 敵に殺到し、絡め、貫き、捕縛する。
「いつまでも亡霊がしがみついてる、ものじゃないだろ」
「さあ、早く逃げるんだ!」
 やぶきたが熱い緑茶のブレスを吐き出し、光牙が救出対象の彼へと少女を預ける。
「せんせー!」
「……判った、後は頼んだ!」
 涙目の少女を託され、彼は里へと一目散に駆ける。
 自らがずっと暮らして育ってきたと『誤認』させられている里へと。
 彼の背を見送り、敵の前へと躍り出たのはエルナトだ。
「絶望が繰り返される……嗚呼なんて嘆かわしいのでしょう」
 頬を抑え、虚ろな瞳に映る色は灰。
「許せません」
 敵が鎖を払おうと滅茶苦茶に振り回した刃を、虚を纏った鎌刃で逆水平になぎ払って刃を返して斬り上げる。
「許せません、許せません、許せない、許せない、許せない許せない許せない……!」
 刃を薙ぐ、振り下ろす、跳ねる、振り下ろす。
 ゼビナの生み出した黒鎖すら断ち切る連撃。
 後退したエインヘリアルが掲げた剣に刃を受け止められ、エルナトはハッと顔をあげてバックステップを踏んだ。
「……あっ、私ったらつい……」
 頭を振り息を吐くエルナト。
 ああ、ああ、――生身の肉体があれば、痛みを以て罰を与える事が出来たでしょうに!


「――来ませ、完全たる水鏡。不完全なるものよ、取り祓われよ」
 とん、とアスランが箒で地を叩くと水鏡が生み出される。
 揺れがひたりと止まった水鏡に映る姿は、傷ひとつ無いゼビナの姿だ。
 魂の姿に合わせてじわりと傷が歪み、不合理のない完璧へと。傷のない状態へと変質させてゆく。
「ありがとう、助かったよ」
「はい。ただ、その水鏡は……呪いでもあるので。……精神や自我を安定させておくのは大事です。ここの脆弱さをついてくる呪いも多いので」
「それはなかなかハードな癒やしだな……。心得ておこう」
 アスランの言葉にも余り変化の無いゼビナの表情は、気持ちが掴みづらい。
 しかし、感謝の気持ちはきっと本当だろう。
 全身のバネを使い、跳ねたリンクスが首を傾いだ。
「ねえ、合わせてくれる?」
「ああ」
 ゼビナのネクロオーブよりオーラが蠢き、オーラがぎゅっと固まり生み出された弾丸が敵へと一直線に放たれる。
 愚直なまでに真っ直ぐな一撃。
 敵が弾丸を飛び上がって躱した先には、先回りして構えるリンクスの鉄爪が待っていた。
「逃さないって言ったでしょう」
「それに、弾丸が一発だと言った覚えもないな」
 エインヘリアルの鎧を爪で押さえ込み、逆方向から薙いだ足先より星が散る。
 そこに黒き弾丸を貫き、エインヘリアルはがくんとその動きを止め。
「ぶっ倒れろッッ!」
 陽光に似た阿頼耶識が強く強く光を宿し、一気に地を蹴り上げた烈光はその光を叩き込む!
 音を立てて、鎧が崩れ落ち。
 1体が倒れた事により、残された2体は慌てた様子でケルベロスの包囲を解こうと。タックルじみた勢いで剣を振るう。
「嗚呼、嗚呼嗚呼、嗚呼嗚呼嗚呼! 抑えきれない、抑えきれない――」
 飛び込んできた敵にエルナトは、耐えきれなくなったかの様に甲高い声音を上げた。
 お前たちが、あいつらが。
「霊体となろうと意識を失おうと! お前たちが存在する事が許せない!!」
 零の境地を纏った拳を叩き込む、叩き込む、叩き込む、叩き込む。
 暴れるエインヘリアルが振るった刃が自らを貫こうが、刺されようが、エルナトはその拳をただ叩き込む。
「終わりです」
 啓晃が手を合わせると、法衣が揺れた。
 まばゆく阿頼耶識が輝き、光がエインヘリアルを貫いた。
 エルナトによってぐしゃぐしゃに砕けた鎧。敵がまた1体、その場に崩れ落ちる。
「南無阿弥陀仏と、一応言っておきましょうか」
「……そうですわね。ちゃんと倒せましたもの」
 啓晃が再び手を合わせた事で。
 エルナトは立ち上がり、血を払い、汚れをはたいて微笑んだ。
「本当に倒してるぞ……」
「ねえ、あの人達の言っていたケルベロスって、……知ってる? 私、どこかで聞いた事が……」
「何それ?」
「……君もかい?」
 里から覗く人々がひそひそと囁きあう。
 何か違和感がある、けれど、それを……知っているような。
 三人の中に生まれた感覚、それはきっと希望と――。
 もう1体とは逆方向に襲い掛かってきた敵。
「ひゃっ!? ――し、シロさん、クロさん……、お願いしますっ!」
 ファルゥが泣きそうになりながら二体のぬいぐるみを掲げると、魔力が渦巻いた。
 巨大なツギハギのうさぎが彼女の前に現れる。
「俺は、師匠に光を与えられた。壊れかかった俺を引き戻す程度には強い、光だった」
 独白の様に光牙は朗々と吠えた。
 里から覗く救出対象にも、聞こえる様に。
「だから、困っている者に、同じ様に、力を貸すんだと。自分の力で、護れと!」
 彼らにも、同じ力がきっとあるのだから。
 身が焼け焦げる感覚。
 阿頼耶識が一際強く輝き、『閃気』と化す。
 光の狼牙が手足に纏われ、光牙は獣の様に吠えた。
「紡ぐは七星の光。我が身に宿るは天魁に宿りし輝狼の力! ――喰らい付け、『貪狼』の顎ッ!」
 振るった剣を下ろすこともできず。
 巨大なツギハギうさぎのパンチに潰された敵を、狼の牙が喰らい尽くす。
「そのぅ……必ず、助けるって、いったでしょう?」
 敵の亡骸の横。
 振り返ったファルゥがぎゅっとぬいぐるみを抱きしめ、言う。
 わあ、と里から歓声が上がった。
「せんせー! すごい、すごい!」
「彼らが、……ケルベロス」
 ばちんと目が覚めたような気がした。


「信じてくれて、ありがとうございました」
「よく頑張りましたね、悪い夢は終わりましたよ。……私達ケルベロスが居ますから」
 アスランとエルナトの癒やしを受けた残霊の一般人達は、こちらを遠巻きにじっと見ていた。
 仲間の服装が変化し、助けてくれたとはいえ何やら入って行きにくそうな話をしている為だ。
「目覚ましは、もう必要無さそうだ」
「無事洗脳は解けたようですな」
 ゼビナと啓晃が言い合い、現代風の服装に戻った3人は烈光より説明を受けていた。
「アイツらは俺達にも、同じ力を使うあんた達にも。倒せる敵なんだ。……絶望してる暇なんてないぜ、外にゃ戦いの機会はまだまだあるんだ」
「あいつらは、あいつは……もう現代には生きていない残霊だと言う事だな?」
 男が尋ねる。
「……はい」
 ファルゥが喉を鳴らして泣きそうな表情で頷く。
「そうか……」
「せんせー?」
 横にぴったりとくっついたままの彼女がこのワイルドスペースにしかいない存在だと言う事を確認した彼は、小さく項垂れた。
「……守りたいとか抱いた想いは前に歩み出す時の糧になると思うの」
 橙色の瞳で彼をまっすぐと見上げたリンクスが、彼に語りかける。
「守れたものがそんなに多くなくとも、次に近くにいる人に手を差し伸べる事は出来ると思うわ」
 リンクスの馳せる花咲く過去は思い出ばかり。今は昔の物語。それでも、――悲願を果たすためならば。
「……」
 何かを感じたのかアスランは箒をぎゅっと握りしめて、困った様に眉を寄せる。
 しっかりしろ、と言わんばかりにアーテルがべしべしと尾で脛を叩いた。
「せんせー、……よく解らないけど、どこか行っちゃうんだね?」
「……ああ」
 彼は頷く。少女は、笑顔を作ってみせた。
「でも先生のする事ならきっと正しいよ! いってらっしゃい! ご飯ちゃんと食べてねえ」
「……ああ」
 彼は、少女をぎゅっと抱きしめた。
 光牙の近くで落ち着き無くやぶきたが跳ねている。
「やきぶた、だったかな」
 珍しい名前だな、とゼビナは思わず呟いた。
「腹が減っててもうちのやぶきたはお茶しか出せませんが……、よろしければお茶でも?」
「失礼、……取って食おうというのではないんだ」
 やぶきたが茶筒に引きこもり、表情が薄いなりに困った様子でゼビナは頭を下げる。
 ――自らが這い出てきたのはたったひとつ。
 忘れた声が、呼んだから。呼ぶのならその声は、きっと。
 この悪い夢から歩き出せるならば、そこに意味はある筈だ。
「エラフ」
 ゼビナに擦り寄ったエラフを撫でる指先は優しく。
 この力は、まだまだ弱い。
 あの背に追いつける様に。
 その後ろを差す光は、きっと先を照らしているから。

作者:絲上ゆいこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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