失伝救出~囲われ世界

作者:志羽

●囲われ世界
 ぽとりと。
 こんな時、彼らがいてくれたらと少年は零した。
 すると彼ら? ともう一人の少年が問い、最初に零した少年は首をひねった。
「ごめん、ちょっと混乱してるのかな。デウスエクスに勝てるやつなんて居ないのに」
「疲れてるんじゃないの?」
 大丈夫? と心配する少女へそうかもしれないと苦笑する。その少年の視界に、ふと何かが映った。
 それが気になって。警戒しつつ近づくとそこには傷ついた者が一人。呻き声をあげてつらそうな姿に、少年達はそのまま放置する事も出来ず、土蔵へと連れ帰った。
 旧い、荒れ果てた日本家屋の土蔵。その中に傷ついた人を匿って、傷を手当し水を口へと運んでやる。
 意識はまだ戻らないものの、見つけた時よりも呼吸は落ち着いている。
 よかった、とほっとしていると土蔵の外が騒がしくなった。どうしたのだろうと少年二人と少女一人が顔を見合わせていると、そこに長がやってきた。
「そのよそ者を殺しなさい。そうしなければ……オークが土蔵に侵入してしまう」
「えっ、そんな……助けられそう、なのに……」
「長様、どうしてもなのですか?」
「ええ、早く殺しなさい。そうしなければいけないのだから」
 でも、そんな、と少年たちは零す。
 しかし、変わらず長は殺しなさい、殺しなさいと紡ぎ続ける。そしてそれは、殺せとやがて変わった。
 いやだと思う心もある。しかし、オークに対する恐怖心もある。
「早く! やりなさい! 殺せ! オークに殺されたいのか! 殺されるより、殺せ!」
「ああ、ああああ、ごめ、ごめんな、さいっ!」
 少年の一人があやまりながら、涙流しながら助けた人を手にかける。その人の息が途切れると、オークは土蔵を見失い散っていく。
 これでいいと長は去っていくが、少年たちの心は淀んでいく。
 自分たちが、安全であるために何度こうして――ひとのいのちをうばったのか。
 淀み折れかける心は、まだどうにか、かろうじて繋がっていた。

●予知
 寓話六塔戦争、お疲れ様と夜浪・イチ(蘇芳のヘリオライダー・en0047)は紡ぐ。
「大きな戦いだったけど、得たものは沢山あったんじゃないかと思うんだ。失伝ジョブの人たちが救出できた。まだ出来てない人達もいるけど、その情報はある」
 だから、まだ囚われたままの人たちを助けに行ってほしいんだと、イチは続けた。
 得られた情報と、ヘリオライダーの予知により、失伝ジョブの人々は『ポンペリポッサ』が用意した、特殊なワイルドスペースに閉じ込められている事がわかった。
「そしてその中で、大侵略期の残霊によって引き起こされる悲劇を繰り返させられているみたいなんだ」
 それは、失伝ジョブの人々を絶望に染め、反逆ケルベロスとする為の作戦だったのだと思うとイチは言う。
 けれど、寓話六塔戦争に勝利した結果、彼らが反逆ケルベロスになる前に、救出する事が可能となったのだ。
「特殊なワイルドスペースに乗り込んで、繰り返される悲劇を消し去ってきてほしいんだ。そして、閉じ込められている人達を助けてきてほしい」
 そう言って、イチはこの特殊なワイルドスペースはと話を続ける。
 そこは失伝ジョブ以外の者は出入りする事が不可能なのだと。
 そのため、この作戦に参加できるのは失伝ジョブを持つケルベロスだけになると言う。
「皆に向かってほしいのは、土蔵篭りの人たちがいるワイルドスペース」
 そのワイルドスペースの中に入ると、人のいない錆びれた村になる。その、荒れた日本家屋続く村の中の土蔵に、その人達はいるという。
 その中では助けた人間を、土蔵篭りの少年少女たちの手にかけさせるという事を繰り返しているのだ。
「オークが襲撃にきて、助けた人間がいるからこの場所がばれるって、脅されて。襲撃される恐怖と長の言葉に負けて何度も、何度も」
 そこにいる、少年少女以外はすべて残霊。襲撃してくるオークもそうであるので、あまり強くはない。
 ケルベロスとなったばかりの者でも十分に勝てるくらいの強さだと言う。
「まず、皆には土蔵に向かってもらいたい。これは一番立派な家にあるから探さなくてもすぐわかるよ。その中に救出対象の子たちはいるんだ。そこに到着すると同時に、オークと対する事になるかな」
 戦い始まれば、土蔵の中へとその音は聞こえるだろう。もちろん、声も届く。だから戦いながら、殺す必要がないのだと説得することも勿論できるのだ。そうすることで、彼らが助けた人を殺す、という時間を引き延ばすこともできるだろう。
 そしてその間に、彼らが助けた人をその手にかける前に、彼らの絶望の一端であるオークを倒す必要がある。
 人の命をその手によって摘み取ることもなく、そしてデウスエクスに対抗できる力があるのだと知れば、その心に希望宿るだろうからとイチは続けた。
 そして、彼らが姿を見せれば急ぎ、ワイルドスペースから出てほしいと。
「そこに居続けると、閉じ込められていた人達と同じように悲劇に飲み込まれてしまうから。助けに行って囚われないように気を付けて」
 このワイルドスペースを保たせている者がおそらくいるだろうが、周囲を捜索したりなどの時間はないとイチは言う。
「失伝ジョブのケルベロスさんたちだからこそ、これはできることなんだ。だからよろしく頼むよ」
 イチはそう言って、ケルベロス達をヘリオンへと誘った。


参加者
守午・司(塵吾・e44106)
幡寿・千華(魔降操魂・e44351)
觴・聖(滓・e44428)
雨瀬・紘(流水・e44469)
綿屋・雪(燠・e44511)
不亜・弥畏(誰も知らない鬼の類・e44564)
時任・燎(平凡希望・e44569)
レターレ・ロサ(禍福の讃美歌・e44624)

■リプレイ

●土蔵の、前へ
「はてさて、見知らぬ少年少女を助けるとしようか……あ、私と大して変わらない歳なのだったかな?」
 不亜・弥畏(誰も知らない鬼の類・e44564)は他に呼び方も分からないし、このままでいいよねと視線を土蔵へと向ける。
「……因果なもの。呪われた血で同族を救うとは」
 ふと息吐くように零した守午・司(塵吾・e44106)は、長い前髪の間から敵の姿を捕らえた。
「ああ、……ったく、胸糞悪ィぜ」
 顔も知らねえ奴の思い通りなんだってよと雨瀬・紘(流水・e44469)は言って、顔知ってても願い下げだがなと紡ぐ。
 ひらりと、ボロボロの羽織の裾を翻して幡寿・千華(魔降操魂・e44351)はオークたちの前に立つ。
 素足で走る千華はぼさぼさの、手入れされぬ灰白の長髪の隙間から切れ長の赤い瞳でその姿を捕らえた。
「……アア、何をどうすりゃいいのかわかんねえ」
 苛々してムカムカして堪らねえんだ、あの日からずっと。
 敵に向かい合い、觴・聖(滓・e44428)は自分の気持ちを言葉にする。
 そのいらつきが何に対してなのか。向かう先は全然わからない。
 ただ、行き場のない熱だけが身体の中でぐるぐる暴れている。
 そんな感覚の中で、ただひとつ、確かな事がある。
「よお、会いたかったぜデウスエクス――――てめえらだけはゆるさねえ!!!」
 その声にオークたちも反応する。土蔵の周囲をうろうろとしていたが、意識は現れたケルベロス達へと向き、それぞれ武器を振り上げて向かってくる。
 その姿を目に、時任・燎(平凡希望・e44569)はちらりと土蔵を見る。
「……一歩間違えれば俺も向こう側だったのだろうか。こんな気分の悪い夢、さっさと終わらせるぞ」
 戦いに忌避感が無いわけではない。けれど今は救うべき者達がいる。そのことは、燎にとっては救いだった。
 土蔵の中にいる者達は守るべき者達。そして救うべき者達だ。
 彼らがいる土蔵の、その入口前に綿屋・雪(燠・e44511)は背を向けて立つ。中にいる者達を守るように。
「先には行かせません」
「男女の修羅場よりは生存率が高いだろう?」
 気負う様子なくレターレ・ロサ(禍福の讃美歌・e44624)は軽く笑って見せる。
 それに雪もつられ、ヘルムの下で笑みを零した。
 戦うのは一人ではなく、仲間がいる。
 これは自分たちにとっては、絶望的なという所ではない。絶望に落とされている者を救う戦い。
 この先には進ませないと、彼らを苦しめる原因であるオーク達との戦いが始まる。

●戦いの中で
 オークが振り下ろす斧を、司は槍で受け止め弾く。そのまま槍蹴り上げればそれは分裂し、敵へと降り注いだ。
 続けて、走りこんだ紘は両手に纏う血塗れの包帯を研ぎ澄ます。
「お前でいいか」
 指鉄砲の形を作り一番近い場所にいた敵を示し、視認困難な影の斬撃を見舞い距離を取る。
 それは振り下ろされる一撃を交わすための動きだ。
 けれど別の敵が別から粘液まみれの武器を振り下ろした。決して深い一撃ではないが紘は一歩下がる。
「回復いたします」
 そこへ声響く。雪は九尾扇を振って紘の傷を癒すとともに幻影を纏わせ援護も兼ねる。
 その間に高く飛びあがった燎は、その脚に美しい虹を纏わせて飛び蹴った。敵はその蹴りに意識を怒りに満たされ、狙いを燎へ向け始める。
 が、その攻撃は燎へは届かないのだ。
 そして攻撃をかけてくる敵の身が凍りついていく。
「ふふ、誰から身動き取れなくなるか……ゾクゾクするよ」
 レターレの招いた氷河期の精霊が氷の中へと閉じ込めていく。その様を眺めレターレは微笑を。
 それは讃美歌を紡ぐ司祭の顔ではなく、古代語魔術を繙く術師の貌だ。
 凍てつく寒さは身体の芯から冷え、震える敵の前へと弥畏が躍り出る。
「豚君たちはどうだい? 私を知って……なさそうだね。はてさて困った。私は一体誰なんだろうね?」
 さして困った風でもなく笑いながら弥畏は問いかけるが、敵からは歪な声が返るだけだ。
 返事もまともにできないのかと弥畏は笑って混沌の波を敵へと向ける。それは敵のみを凍らせ、その動きを阻害する。
「ブッ潰してやらァ!」
 そこへ今一番、攻撃が集中していた敵へと聖は飛び蹴りを放つ。
 その脚には流星の輝きと重力を。
「――シャアァッ!!」
 千華は荒々しく声をあげ、独楽の如く回転しながら敵陣を走り抜ける。零式鉄爪は敵を捕らえ、引き裂いていく。
 敵の動きを阻みながら、ケルベロス達は一体ずつ確実にダメージを蓄積していく。
 その戦いの音は、土蔵の中へも響いていた。

●外の世界に
「何……何か、戦ってる?」
「そんな、勝てない相手に」
 長に殺せ、と言われて戸惑う間に何かが始まっていた。
 なんだろう、と意識は外に向くが再び、長から厳しい声が向けられる。
 その声は外へも聞こえていた。
 それに反応して雪は紡ぐ。その声をかき消すように、良く通る声で。
「たすけにきました。わたしたちは、たすけにきたのです。殺されないためにいのちをうばわねばならないなら」
 その原因を除きましょう、と語りかけた。
「そこでまっていてくださいね。あなたたちを害するものは、わたしたちが斃します」
 本当に? そんな、無理だと中から聞こえる。雪は深くかぶったヘルムの下で笑みを零し、大丈夫ですと言う。
「――わたしたちは『デウスエクスに勝てるやつ』なのですよ」
 言いながら、雪は光輝くオウガ粒子を前衛の皆へと向けて飛ばす。
(「とじたせかいであっても、ひとには、ひかりがいるのです。わたしだけでは足りませんけれど、ひとりではできないことも、皆様となら」)
 今はまだ、声届かなくとも皆様と声をかけ続ければと、雪は思う。
「やぁやぁ、少年少女諸君。こんにちは。私は君たちの知り合いかい? ……知らない? あぁ、構わないよ。何しろ私も私を知らないからね」
 からからと笑いながら弥畏もまた、土蔵の中の彼らへ声をかける。
「けれど君たちのことは知っているよ……聞いただけだけれどね。やりたくもない殺しなんてやることはないさ」
 ぞわり、と弥畏の身の上で蠢くものがある。それは鋭い槍の如く、姿を変えた。
「周りの大人は騒ぐだろうけどね。聞く耳持つ必要はないよ……何せ、豚君たちは倒してしまうからね」
 その切っ先で貫いて、傷口から汚染していく。
「……怖かった、よね。けど、もう……大丈夫。私達が……来た、から。私達、は……こんな奴等に、負けない。貴方達は……もう、怯える必要は……無い」
 その、長の声に反応して千華は土蔵の中へと声を向ける。
 もう安心して、絶対救い出してみせるから、と。
「私達、も……この間まで、貴方達と……同じ、だった」
 けれど、今は違う。千華は自身を救ってくれた者がいる事を知っている。そして彼らのように、と思っていた。
「……この、無限に続く……牢獄。私達が……破壊する」
 その千華の言葉に応えるように、血染めの包帯がしゅるりと動く。それは槍のように硬化し、敵の身へ槍の如く、鋭く突き刺さる。
「てめえらは殺されねえし死なねえ」
 聖は土蔵の中の躊躇いを感じて、舌打ち一つ。
「ア? なんでかって? んなもん決まってんじゃねえか」
 簡単なことだと口端上げて笑って、走りこむ。
「今からオレらが……この汚ねえブタども、ブッ潰すからだよ!」
 伸ばした手、その先から槍のように伸びた血染めの包帯が敵を貫く。
 外からの声に少年少女は希望を持ち始めていた。けれど、それはまだ彼らにとって確かな物ではない。
「まだ勝ったわけじゃ」
「けど」
 少年少女の戸惑いを含んだ声が聞こえてくる。それに合わせて長は殺せと声を荒げる。
「自分達はケルベロスだ。デウスエクスを狩り滅ぼす番犬……今は分からなくて良い」
 何にしても、俺達はあのオーク共と戦えると燎は言う。
「こいつらを直ぐにも倒してお前らを助けに行く、だから諦めるな。もう何も手に掛けなくて良い」
 殺さなくて良い、と紡ぐ。
 戦いの中で感じる、引き裂く感触、肉の裂ける音。その生々しさに燎は眉を顰めていた。
 けれど身体が、目覚めた血が理解していると意識させられる。どう動けば最適かを、嫌という程に。
 この感触をこれから彼らも味わうのかもしれない。
 けれど、無為に行う事は救いだせば無くなる。
「そこから連れ出してやる、必ず。だから……少しだけ待っていてくれ」
 燎は吐息のような言葉を零す。それは燎の無意識の魔眼を開く鍵。碧の瞳が捉え引き込むのは水底だ。
 それに捕まった敵はダメージ受けながらその足を止める。
「聴こえておられましょうか。土蔵篭りの血族が一、守午司と申します」
 司は敵に視線向けながら凛とした声色で語りかける。
 その手には泥玉を。
「麗しう、染め上げましょう」
 絶え間なく敵へ投げつけるそれは花のように弾ける。
「方々もまた窮しながら、尚も見知らぬ者に手を伸べられた。其の御心の優しさ、強さ……まこと感じ入りまする」
 どうぞ胸を張って其の御方をお救いなさりませ、と続く言葉に彼らは顔を見合わせた。
「想い貫き難しと仰せられるなら御力を御貸ししとう存じます」
 夢見たことは御座りませぬか? デウスエクスを滅ぼし得る存在を、と司は続けた。
「方々は御存知無いやも知れませぬ。ですが、ええ。蔵の外の世界は、まこと広う御座ります故、居るのです、其れは――ぶっちゃけ、他ならぬ我々なので御座りますが」
 ほら、今もと続く言葉の後には。
「……人にデウスエクスは倒せない? あぁ、それなら問題ないよ。これでも私は『鬼』だからね」
 鬼々として襲い掛かる。弥畏が躍らせた血塗れの包帯は重なり、敵を貫いて果てさせた。
「終わらねえ悪夢なんざないのさ。俺はそれを知ってる、ここにいる皆もだ」
 そうだろうと、仲間へ向けた攻撃を紘は受け止めながら土蔵へと言葉向ける。
「泣いても喚いてもいい、顔を上げろ。大丈夫だ。咎める奴なんか最初から居ない、居ないんだよ」
 そして受け止めた武器を弾いて続ける。
「お前らは閉じ込められてるだけだ、この場所に」
 信じられないならそれでもいい。今ここで戦い、助けようとしている姿を見てくれれば。
「なあ、ほら。正義の味方って奴だ、格好いいだろう?」
 そう言いながら向かってくる敵へとその手向けるのは、照れ隠しもあってだ。
「……ガラじゃねえけど一回言ってみたかったんだよ」
 紘は敵の身を引き裂く。
 けれど、彼らの心はまだ開かない。だが重ねる言葉がまったく響いていない事もない。
 それも感じ取れる。揺れているのだ。良い意味で。
 と、レターレの仕掛けていたタイマーが鳴った。
 それは五分の合図。敵はまだ二体残っている。
 話に聞く限り少年少女達が助けた者の命奪う瞬間が近づいているのだ。
「時間切れも近いみたいだ」
 そう言って、レターレは皆に知らせる。
「この剣戟が聞えるかい? ボクたちはケルベロス――デウスエクスを狩るモノだ。そしてキミたちと負傷者を救いに来た……救世主だ」
 希望は失望に終わることはないのだと証明するよとレターレは紡ぐ。
「死をもって悔改めれば、慈悲深き御方は大罪さえも赦すだろう――……多分ね?」
 レターレは紡ぐ。第1089節《金貨六枚》より抜き出した言葉を。夢現見境無く、囁く祈は如何なる密も審らかにせん。
 その囁きに敵の心に刻むものがある。
 そして時間が近づくことを聞いて。
「……ア゛ァッ!? っざっけんじゃねえぞオイ!!! まだオレらが生きてんだろーがよ!」
 なに勝手に諦めてやがんだ、てめえらもちったあ戦いやがれ! と聖は叫ぶ。
 この戦いは自分たちだけのものではないと。
「アアそうだ、これはてめえらとオレらの共闘だ。絶望がなんだよ……ッ、自分に負けてんじゃ、ねえよッ!」
 強い言葉と共にその手は敵の身を掴んで引き裂けば潰れたような声あげながら敵はその場に倒れた。

●これから
 重ねていった言葉は、徐々に彼らの心に届いていた。
 彼らはもう少し、もう少し待ってみようと思ったのだ。
 それは断絶する敵の声の響き。掛けられる言葉があってのもの。
 長の言葉は厳しくなるが、それらに耐えていたのだ。
 彼らが命奪う、その時はもう過ぎた。けれど、敵の命も尽きる。
「ほら最後の一匹だぜ、心配すんなよ、すぐ出れるから」
 もう終わると土蔵の中へ向けて紘は告げる。
 独りで土蔵の中にいた事を思い出す。外に出なければ今頃気でもくるっていただろう。
 その点だけは、俺を追ってたデウスエクスって奴に感謝してもいいと紘は思う。
「そんなトコ篭ってなくていい。外は楽しいぜ。ちょっとばかし明るいけどな」
「籠もることと、囲われることは、似てはいてもちがうのです。絶望にまけてしまうのは、きっと、とてもつまらない」
 紘の言葉に雪も続ける。
 ひかりにはなれなくても、炎なら――たたかいの炎は、きらいではないのですと。
 最後のオークが、潰れたような悲鳴をあげて倒れる。
 戦いの音、その騒々しさは掻き消えた。 終った、と一息。
「……ア?」
 聖が零した声にどうしたと問われ、なんでもないと返す。
(「ガラじゃねえだろーがよ、終わった途端、手の震えが止まんねー、なんて」)
 ぎゅっと、その震えを抑えるように聖は拳握りこむ。
「方々、もう終わりまして御座ります」
 ご安心を、と司は未だ閉ざされたままの土蔵の扉へと声かけた。
「……オークは、全部……倒した。……もう、大丈夫……だから、扉を……開けて?」
 そして千華も、優しく柔らかな声を向ける。
「少年少女諸君、でておいでよ」
 弥畏も終わったのだと告げる。
 ぎぃ、と重そうな音を立てて土蔵の扉が開いた。
 そこから少年たちが顔を見せ外の様子を伺う。
「本当だ、オークが……倒されてる」
「うん」
「……倒せるんだ……」
 その言葉に、聖は。
「ア゛ア? ふざけんなよ。てめえらも戦って勝ったんじゃねえか、デウスエクス相手によ」
 何言ってんだ、と不機嫌な声。けれどそれは、裏返せばよく頑張ったと言っている。
 聖の言葉に彼らは顔を見合わせ、そしてこの結果を目にして、そして理解する。
 彼らは顔を見合わせ笑うと土蔵から出てきた。
 その姿を目にして、千華は瞳細める。
「あの子達も……生きて、いれば……この位、か……」
 その姿に重ねるのは、亡くした自身の子の幻。
 救えてよかったと、ほっとする。
 すると、少年少女達は突然、なぜここにいるのかと不思議がる。
 それはワイルドスペースによる誤認から解放されたのだ。
「説明はあとだ。ひとまずここを出よう」
 ここに居続けてはいけないと燎が言うと皆頷く。
「聖女王よ、生は本当に楽しい」
 レターレは己の感じるままに言葉零す。
 戦いを経て、終わって。誰も失わずに終わった。
 ケルベロス達は彼らを連れて、急ぎワイルドスペースより脱出する。
 このまま呑まれぬ為に。

作者:志羽 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月4日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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