失伝救出~一縷の希望、嘆きの治療師

作者:stera

 響き渡っていた悲鳴と怒声が、剣戟の音が、そしておぞましいドラゴンの咆哮が、徐々に静まっていく……。
「こんな時、彼らがいてくれたらデウスエクスなんて……」
「彼ら? デウスエクスを倒せる、そんな奴がいるとでも言うつもりか?」
「あ、いや……、デウスエクスに勝てるものなんて居る筈が無い。ちょっと混乱していたみたいだ」
「大丈夫か? しっかりしてくれよ」
 4人は、瓦礫の影に身を潜めながらそう、言葉をかわす。
 デウスエクスに立ち向かおうと立ち上がる者はいても、倒せるものなど一人も居ないのだ……。
 やがて、町に飛来したドラゴンが去っていく。
 ドラゴンによって暴虐を尽くされた町には、屍と瓦礫ばかりが残されていた。
「……ダメだ、息がない……」
「……この辺は、皆……ダメだ……オレ達は、無力だな……」
「他の場所に、行きましょう? きっと、まだ生きている人たちが私達の助けを待っているはずよ?」
「……そう、だな。 ……まだ、諦めるのは早い、よな……」
 心霊治療士の4人は、自分達の無力を悔やみながら、縋る思いで別の場所を目指す。
 今にも折れそうな、心を引きずりながら……。

「まず、寓話六塔戦争に勝利した事により、囚われていた失伝ジョブの人達を救出した事、そして失伝ジョブに覚醒したケルベロスたちを仲間として迎えることが出来たこと、嬉しく思います」
 基(en0229)は、そう言うと深く頭を下げた。
「これにより得られた情報と、私達ヘリオライダーの予知により、失伝ジョブの系譜に連なる人々が、『ポンペリポッサ』が用意した、特殊なワイルドスペースに閉じ込められており、大侵略期の残霊によって引き起こされる悲劇を繰り返させられているということが判明しました。 これは、失伝ジョブの人々を絶望に染めて、反逆ケルベロスとする為の作戦だと推測されます。 しかし、寓話六塔戦争に勝利した結果、彼らが反逆ケルベロスになる前に、救出する事が可能となりました。 特殊なワイルドスペースに乗り込み、繰り返される悲劇を消し去って、閉じ込められた人々の救出をお願いします」
 基が言うには、この特殊なワイルドスペースは失伝ジョブの人々以外の人間は出入りする事が不可能であるため、この作戦に参加できるのは、失伝ジョブを持つケルベロスだけとなることを説明した。
 そして、今回の彼が担当する救出対象者は心霊治療士の4人であり、この特殊なワイルドスペースにより『自分達は大侵略期を生きている』と誤認させられているという。
 ドラゴンによって破壊される町で、救えない亡骸を前に自分の無力を嘆きながら、それでもかろうじて自分の心を奮い立たせ、僅かに生き残る人々を癒やし町並みを復興させる。
 そんな悲劇を繰り返すことを強いられているという。
「特殊なワイルドスペースでの誤認の効果は、閉じ込められている人々と同様、長くとどまると君達をも悲劇に飲み込み囚える可能性があります。 そのため、戦闘終了後は速やかに撤退してください。ワイルドスペースの中で発生している悲劇は、実際に起きた過去の悲劇が残霊化したもので、救出対象者以外の一般人なども残念ですが全て残霊です。 もちろん、現れるドラゴンも残霊であるため、君達が力を合わせればきっと倒せるはず。 残霊であるドラゴンを倒し、囚われの人々の心に希望を取り戻すことで、無事ワルドスペースから彼等を連れ出し救ってください。 よろしく頼みます」


参加者
研石・凌(ヴァルキュリアの妖剣士・e44159)
神薙・一花(狂剣魔術師・e44240)
早乙女・千早(喪失ノスタルジア・e44289)
石川・萬寺(ミスター五右衛門・e44331)
六道・厳駄(地球人の光輪拳士・e44457)
狛・令嗣(眩ましの君・e44610)
崎守・里美(色彩の交差板・e44643)
綾代・此処野(隠忍比売フリーダム・e44644)

■リプレイ

●錯誤と絶望のリフレイン
「洗脳に絶望、ですか。敵も随分嫌な手を使ってくるものですね」
 狛・令嗣(眩ましの君・e44610)がそう言うと、ふぃっと布で隠された顔をワイルドスペースの入り口へ向ける。
 風景がモザイクに崩されたその一角、この中に捕らわれている失伝ジョブの仲間達が居るはずだ。
「ポンペリポッサってのはあの緑のババアだったか? 囚われてる連中は災難だな。 ババアの加齢臭クセーママゴトに付き合わされてよ」
 ケッと吐き捨てるように言った、六道・厳駄(地球人の光輪拳士・e44457)。
「めんどーな事するよね。 見過ごす訳にはいかないし、ささっと皆助けてささっと帰ろ。うん、頑張ろう」
 そうい言うと、神薙・一花(狂剣魔術師・e44240)は、イマイチやる気なさそうにぷらぷら腕を振りながら、入り口をくぐっていく。
 ケルベロスの仲間達全員が入り口を潜ると、そこにはみすぼらしい町並みが広がっていた。
「ドラゴンだ! ドラゴンが来やがった!!」
「に、逃げろー! ここは、もうお終いだ」
 バタバタとケルベロスの仲間達の横を逃げ惑う人々が駆けていく。
 見れば、前方に、今まさに空から襲来したばかりのドラゴンの姿が見える。
「拙者達の目標はあそこだな」
 石川・萬寺(ミスター五右衛門・e44331)がそう言うと、
「説得は任せて。足止めはお願い」
 そう応える早乙女・千早(喪失ノスタルジア・e44289)。
「里美、気をつけてね。 無茶は禁物だよん?」
「気を付けてって? 危ないのはそっちでしょ」
 幼馴染の崎守・里美(色彩の交差板・e44643)に、そう声をかける綾代・此処野(隠忍比売フリーダム・e44644)。
「大丈夫、未来の仲間だもの。しっかり助けないとね!」
 笑顔でそう返す、里美。
(「そう、『大丈夫』」)
 誰が見ても平静そのものだったが、内心不安を押し込め、そう言い聞かせ強がってみせた。
 それを聞いた此処野は、身をかがませると里美の顔を覗き込むと大きな瞳を見つめ……ヘラっといつものように微笑んだ。
「うん。 こんなところにずっと閉じ込められてるなんてかわいそーだし、すーぐ外にだしてあげよ♪」
 『戦闘班』と『説得班』二手に別れたケルベロスの仲間達は、それぞれの求める対象へ向かって走る。
 ドラゴンの近くに近づくにつれ、破壊された建物と無残に殺された無数の亡骸が横たわっている光景が広がる。
 研石・凌(ヴァルキュリアの妖剣士・e44159)は想う。
(「……洗脳は、嫌だろう、わかるとも。 だがそれを理解するのは、解けてこそだ。 話すことが不得手な私は、戦うことでしか協力できない」)
 ケルベロスの仲間がドラゴンに辿りついたとき、立ち向かっていたであろう最後の一人が、断末魔の悲鳴とともに無残に引き裂かれ、倒れ伏した時だった。
 身構えた凌は告げる。
「だからこそ戦うことで示そう。 君たちの、味方だと」

●抗う者
「こんな時、彼らがいてくれたらデウスエクスなんて……」
「彼ら? デウスエクスを倒せる、そんな奴がいるとでも言うつもりか?」
「あ、いや……、デウスエクスに勝てるものなんて居る筈が無い。 ちょっと混乱していたみたいだ」
「大丈夫か? しっかりしてくれよ」

「さぁさ、ご注目。 デウスエクス殺しのケルベロス様がお通りだ」
「はいはーい。 私たちが相手するわよーん?」
「オラァ、カチこむぜ!!」

「な、なんだ?」
 ドラゴンから少し離れた場所、物陰に身を潜めていた彼等は、聞こえてきた声のする方へ、おどおどと顔を向けた。
 そして、突然現れ、なにを臆する事もなくドラゴンの前に立ちふさがった5人の姿を見つけた心霊治療士達は、目を丸くする。
 一花の放つ美しい斬撃が、弧を描きドラゴンをとらえる。
 小柄な少女は、ドラゴンを前にどこか喜々としているようにも見て取れた。
 此処野は零式寂寞拳を放つ。
「さあ、かかっていらっしゃい。私はここに居りますよ」
 華麗に、高く飛び上がった令嗣の一蹴に、ドラゴンは身を揺らすと怒りの咆哮をあげる。
 思い切り息を吸い込み、吐き出された炎が仲間たちを襲う。
「この程度の攻撃に、拙者達は屈しない!」
 フっと幾人にも分身したかのように見える手際で、萬寺はボディーヒーリングを前に立ちはだかる仲間たちにかける。
 隠れていた心霊治療士たちだったが、遠目にだが、なんとなく彼が自分達と同じ技をつかっているのではないかと気づく。
 しかし、隠れ潜み無力を嘆く自分達とは違う。
 カブキ面という目を引く格好、ひと目で鍛えていると分かる体躯はアクロバティックな身のこなしでドラゴンを前にしても一歩も怯む様子がない。
 凌が、ドラゴンの足に組み付いた。
 針金のように細く伸びる手足、虚ろな瞳で張り付く凌からは、どこか影のような仄暗さを連想させられる。
 厳駄の背に火輪の阿頼耶識が具現する。
 バッチリと決められたリーゼントに短ラン・ボンタンのインパクトある姿の厳駄。
「ビビってねーで、見とけよオラァ!! トカゲモドキなんざ、ボッコボコにしてやらぁ!」
(「一緒に宇宙人ボコる仲間だろうが。 護ってやろうじゃねーか!」)

●見出された希望
「見つけた」
「ヒィ?!」
「自分達はデウスエクスを倒すために、そして、貴方達を助けに来た」
 淡々と、そう告げた千早。
 怯えた様子の心霊治療士達に、里美が微笑み言った。
「安心して、私たちはあなた達の味方だよ。 向こうでドラゴンと戦っているみんなと一緒に、あなた達を助けに来たの」
「戦いが終わったら、話がある。 ここで待っていて欲しい」
 千早の言葉に、心霊治療士の一人が言った。
「……まさか戦って勝てるとでも言うのか? 相手はドラゴンだぞ? デウスエクスに勝てる者なんて誰もいない。今無事なら、一緒にここに隠れてやり過ごそう」
「信じられないかもしれないけど、あなた達は洗脳されているだけだよ? 私たちはデウスエクスを倒す事ができるケルベロス、あなたたちだって同じ仲間なんだよ」
 里美が言った。
「私達が洗脳?? デウスエクスを倒す存在? ケルベロス??」
「今は約束だけして欲しい。ドラゴンを倒したら、改めて話を聞く、と」
 千早が言うと、心霊治療士達は混乱した様子ではあったが、分かったと頷きかえす。
「希望はあると、ボクらが証明してみせる」

 心霊治療士達の元を離れ、二人は仲間たちの元に急ぐ。
 さすがに、残霊とはいえドラゴン。
 二人が欠けた状態では、押しきれない状態のようだ。
「行こう、凰子さん。みんなを守らないと」
「ごめーん、待ったー?」
「ううん、いまきたとこー♪ って、ちっがーう! 待ってたわよん」
 合流した里美にそう返す此処野。
「これで揃ったな。 彼等を救い出すには希望が必要だ。 拙者達の本気を見せよう。 我が魂に宿る忍法の数々、活かす時は今!」
 萬寺の言葉に、仲間たちもそれぞれ気合を入れ直しドラゴンに相対する。
「オラぁ! ガンガンいくからチョーシこいてんじゃねーぞ!!」
 厳駄もニヤリと嗤って拳を掌に打ち付ける。
「破壊と殺戮をこれ以上やらせはしないぞー。おー」
 眠そうな、気怠い表情からは想像できない身のこなしで、喰霊刀を手にドラゴンに立ち向かう一花。
 説得班が戻った今、やるべきことはただ一つ。
 目の前のドラゴンを倒し、デウスエクスは倒せるのだと、絶望は終わりだと示すことだけだ。

●囚われの檻の外へ
「グォオオン……!」
 ドォン! と土煙とともにドラゴンがうずくまる。
 その時だった。
「私達もお手伝いします!」
「アンタ達は、俺達の希望なんだ!」
 ケルベロスの仲間たちの傷が癒えていく。
 物陰に隠れ怯えていた心霊治療士達が、ドラゴンに立ち向かうケルベロスの仲間たちを助けようと、駆けつけていたのだ。
 洗脳は解けていなくても、ドラゴンを追い詰め戦うその姿が、絶望の淵にいた彼等の心を闇から解き放とうとしていた。
 ケルベロスの仲間たちは、ドラゴンにトドメを刺すべく一斉に動き出す。
 襲いかかろうと牙をむくドラゴンの前に降り立った令嗣。
 顔にかかる布を、スッと僅かにめくり微笑んだ。
 そこに在るのは、呪いにも等しい、見るものを狂わせる恐ろしいほどの美貌。
 目を見開いたまま、ドラゴンの動きが止まる。
 次々攻撃を叩き込むケルベロスの仲間たち。
 敵の死角に回り込んだ凌。
「すまないね」
 刻死斬、その最後の一太刀がドラゴンに刻まれた時、心霊治療士達の絶望の象徴であったドラゴンは完全に倒され息絶えた。
「やった! 本当に倒したっ!!」
「やったぞ、デウスエクスを倒せる、アンタが言ったことは本当だったんだな!!」
 すかさず里美は此処野に駆け寄る。
「ここの、無事?」
「もちろん♪ ね、デウスエクスなんて倒せちゃうでしょ」
 心霊治療士達に向き直り、そう言って微笑む此処野。
 心霊治療士達の前に立つと、令嗣が言った。
「見ていただけましたね、私達の戦いを。 私達にはデウスエクスを殺す力があります。 ここに居るのはただの残霊。この空間の外では、悲劇など、すでに繰り返していないのです」
「この状況は作為的なものだ。 ケルベロスには、デウスエクスを倒す力がある。 本来なら、その力は君達にもある。 一人でも多く癒し手がいれば、多くの人の助けになるだろう」
「あー、めんどーな話は後にしてさ、終わったんだしさっさと帰ろー? さっさと出ないと、皆まとめてまた洗脳されちゃうんだよね」
 一花の言葉に、頷く凌。
「そのとおりだ。早くここを出たほうがいいだろう」
(「やっと、帰れるー」)
 戦いが終わったのなら、もうさっさとめんどうな場所からは帰りたい一花。
「足を怪我しているようだな、俺が背中を貸そう。急いで脱出だ」
 萬寺は、足にケガを負っていた心霊治療士の一人を背負う。
 ケルベロスの仲間たちは、ワイルドスペースの出口へと走る。
 出口を抜け、無事ワイルドスペースから戻ったケルベロスの仲間たちと4人の心霊治療士達。
 ワイルドスペースの入り口を振り返り見ると、
「所詮残霊。 いくら潰そうが宇宙人共ぁ痛くも痒くもねーってかコノヤロー……くだらねぇ」
 ペッと唾を吐き捨て、そう毒づいた厳駄。
「アンタラもとっとと帰ってシャワー浴びた方がいいぜ。 クセーぞ」
 ヒラヒラと手を振り歩き出した厳駄。
 そうは言っても、今回の作戦自体は、誰一人欠くこと無く救うことが出来たのだから大成功だ。
 やがて、彼等の耳に迎えのヘリオンの飛行音が聞こえ始めた。

作者:stera 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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