失伝救出~どうか、光を

作者:成瀬

「……おい、大丈夫か。しっかりしろ、気を確かに持て」
 日も暮れかけた頃。偶々屋外へと出た三人の土蔵篭りは、土蔵からそう遠くない場所で、傷を負い衰弱した旅人を発見する。ひどく驚き互いに顔を見合わせるが、このまま放っておけばきっと死んでしまうと、旅人を土蔵に運んで世話をすることにした。
「傷が深いな……デウスエクスにやられたのか。くそ、こんな時に彼らがいてくれれば」
「誰のことを言ってるんだ。デウスエクスに勝てる者などいるものか。笑えない冗談はやめてくれ」
「……そう、だな。すまない。何を言ってるんだろうな、俺は」
「馬鹿だな、そんなものいるわけないだろう。……そんな者……」
 寝床へ運び傷を手当し世話をするが、やがてオークがこの場所にも攻めて来た事を彼らは知る。仲間たちはざわめき、悲鳴があがり、土蔵篭りの長が進み出て苦々しく言った。
「殺せ」
「長……!」
「そのよそ者を殺すのだ。でなければオークが土蔵の中にも押し入り、我らが殺されることになる」
「しかし」
「わかってくれ。長として、皆の命を危険に晒すことは出来ぬのだ」
 殺さなければ殺される。そうわかっていても心が拒む。いやだいやだと泣きながら首を振るが、仲間の命と天秤にかけられてしまえば、最後の最後、出されたのは残酷な答え。すまないと呟きつつ震える手が伸びた先は、衰弱し弱った旅人の首。
 旅人が事切れ、土蔵の存在を見失ったオークは立ち去っていく。こうして安全と平和は守られた。消えない傷を、三人の心に残して。

「まずは、寓話六塔戦争。お疲れ様。皆の力があったからこそ、勝利を手にすることが出来たのだわ。本当にありがとう。この戦いで囚われていた失伝ジョブの人たちを助け出すことが出来たのも皆のおかげ。それだけでなく、救出できなかった失伝ジョブの人たちの情報をも入手することが出来たの」
 ケルベロスたちの労をねぎらい、薔薇のヘリオライダー・en0165は頭を下げる。
「得られた情報から予知できたのは、失伝ジョブの人々は『ポンペリポッサ』が創り出した特殊なワイルドスペースに閉じ込められているということ。そして大侵略期の残霊によって、悲劇を幾度も繰り返しているこということ」
 自分たちの安全圏を守る為に、助けを求めた旅人を他ならぬ自分たちの手を殺し続ける。こんな悲劇を繰り返すことで、土蔵篭りの心を折ろうとしているのだろうとミケは話す。
「絶望に染めた失伝ジョブの人々を反逆ケルベロスにし、手駒にしようとしているのね。何てことを、……。でもね、寓話六塔戦争に勝利したことで、反逆ケルベロスになってしまう前に、この三人の土蔵篭りを救出できる可能性が出てきたわ。ワイルドスペースに乗り込み、繰り返される悲劇を消し去り、囚われた人々の救出をお願いしたいの」
 特殊なワイルドスペースには、失伝ジョブの人々だけしか出入りすることができないようだ。
「この作戦に参加できるのは、申し訳ないけれど失伝ジョブを持つケルベロスだけ」
 戦いの舞台となるのはワイルドスペース内、荒れ果てた日本家屋の土蔵の前。広々としたスペースが確保されていて、土蔵の扉が開かれているが中にいる人々は外へは出てこない。ただ、ケルベロスの声は届くようだ。撃破するべき敵はオーク一二体。敵は残霊で弱体化している。仲間になったばかりの失伝ジョブのケルベロスでも勝てる見込みはあるだろう。
「ワイルドスペースで起きている悲劇は実際に起きたものが残霊化したものだと思うわ。だから今回の作戦では、三人の土蔵篭り以外は残霊……哀しいことだけど助けられない。しかもこのワイルドスペースに長く留まり続けると、閉じ込められている人々と同じく、皆も悲劇に飲み込まれ、悲劇の登場人物のように誤認させられてしまう可能性があるわ。戦いが終わったら、出来るだけ速く撤退してね。探索は出来ないと思って頂戴。それじゃ、十分気をつけて。無事を祈ってるわ」


参加者
紗・緋華(不羇の糸・e44155)
伏見・詠葵(捨て人・e44198)
玄崎・早姫(貢露咲の早姫・e44247)
ジゴク・ムラマサ(復讐者・e44287)
ニムム・ネム(のどぼとけ・e44336)
ウーゴ・デメリ(ヴィヴァルディデメリ家現当主・e44460)
咲森・凍夜(テラー・e44517)
オリバー・クララック(ウェアライダーの心霊治療士・e44588)

■リプレイ

●繰り返される悲劇
 特殊なワイルドスペース内では現在も多くの失伝ジョブの系譜に連なる者たちが囚われている。絶望と悲劇が満ち満ちたこの空間で、彼らは幾つかの誤った認識を植え付けられているのだ。今は大侵略期、そして自分たちはデウスエクスに怯えて暮らし日々を生きていかねばならないのだと。
 小さな抵抗は最後の希望。心が折れてしまったら最後、反逆ケルベロスに成り果ててしまう。残酷な、罠。
 そんな彼らを救うべく集まった八人のケルベロスはさっそくワイルドスペースに侵入し、土蔵篭りたちのいる日本家屋のそばまでやって来た。何やら入り口の方で数人の声が飛び交い揉めているようだが、それも小さくなりやがて何も聞こえなくなってしまった。ただ、少しだけ戸が開いているのにオリバー・クララック(ウェアライダーの心霊治療士・e44588)は気付いた。今ちょうど、傷付いた旅人を殺すよう土蔵篭りの長に命じられているところなのだろうと察しはつく。もう少しすれば、確実に此処は戦場となる。
(「大丈夫。ボクは此処にたったひとりで来たわけじゃない。仲間がいる」)
 まだ未熟ではあるけれど、自分には力がある。彼らを光へ導く力が。この手で確かに、救えるものがある。そう思うだけで、不思議とオリバーは身の内に力が湧き上がってくるのを感じた。
(「奴らの思惑通りにはさせない」)
 そんな様子を横目に咲森・凍夜(テラー・e44517)が空を見上げた。何があるというわけでもない、青色と白がある。何の変哲もない空。晴れている。雨はない。水たまりもない。だから今日は、悪くない、日。
「……今は、違う」
 ぽつりと零したその響きは、誰の耳にも届きはしなかったが、それだって凍夜は全く構わなかった。
 ケルベロスに目覚めた今、デウスエクスを殺す力を得た。今はもう、無力ではない。
「とんなところに拐かされるなんて大変だねぇ~」
 もし自分がこんな立場になったのならと玄崎・早姫(貢露咲の早姫・e44247)は一瞬考えるが、その思考を自ら捨てた。意味のないことだ。悲しくて辛い想像だと、わかっているから。
「目的の為に手段を選ばぬとは、断じて許せぬ」
 力ある光を瞳に宿しジゴク・ムラマサ(復讐者・e44287)が早姫に応える。
「裁かねばなるまい。そう、我らが。……容赦はせぬ」
 言葉の通り、戦いに入ってもジゴクの刃が鈍ることは恐らく一瞬も無いだろう。
 時は流れ流れていく。このワイルドスペースにあってはその法則もあってないようなものかも知れないが。そんな中、流浪の民と見間違う雰囲気を纏う伏見・詠葵(捨て人・e44198)は気怠げな銀の瞳を土蔵の方へ向け次いで己の武器に視線を落とす。活力に満ちたとは言い難い眼差しに、何にも囚われることのないその身と心。けれどケルベロスになったからには、己の持つ力を振るう気で此処にいるのは事実。
(「己にどこまで出来るのかは、わからないがね。……やれるだけやろうじゃないか。失うものなど、さて。この命の他にあったかどうか」)
 他の仲間と少し距離を置いて進んでいた紗・緋華(不羇の糸・e44155)も目的地に到着したと知り、足を止める。三毛猫が一匹、家屋の横を歩いていたが何かの気配を感じたかのように毛を逆立て足早に何処かへ去り行き見えなくなってしまった。
「神様は言いました。あなた方は此処にいてはいけないのだと。あるべき場所に帰るべきなのだと」
 伏し目がちにニムム・ネム(のどぼとけ・e44336)は土蔵の方へ声を放つ。その声は僅かな抑揚で紡がれ、希望と絶望、両極端な未来を感じされる不思議な響きがあった。
「人は弱いもの、人は脆いもの。己の力だけではどうにもならない事があります。と、ニムムは言いました」
 預言者や巫女が神を自らの身に降ろすように。しかし真実は――。
「そう、ここに居てはいけない。……あなた方は、まだ間に合うのだから」
 振り返っても悔やんでも悲しんでも、何一つ変えられぬもの。それが過去であり時間の流れなのだと、ウーゴ・デメリ(ヴィヴァルディデメリ家現当主・e44460)は知っている。痛いほど、知っている。それでも顔に浮かべられるのは、微笑。他の血族の為と旅人を殺そうとしている土蔵篭りの三人と、姉の姿が重なり、ゆっくりと目を閉じる。もう一度瞼が持ち上げられた頃にはいつものウーゴ、端正なその顔に負の感情が浮かぶことはない。
「そやつを殺す必要はない! 我らケルベロスがオークを殺す! そこで動かず、奴らの悲鳴を聞いておれ!」
 鋭く叫ぶジゴクの声は確かに、三人の土蔵篭りの元へ届いた。広がる混乱と動揺、そっと戸を開けて此方の様子を窺う三人。
 そうして遠くない場所から、災いが二匹。姿を現した。

●小さな希望の欠片たち
 連れ立ってオークが二匹、獣臭を撒き散らしながらケルベロスの前へと近付いて来る。背中から触手を生やし、品のない笑い声とも鳴き声ともさかぬ響きでケルベロスたちを嘲笑う。すぐに片付けられる。そう思っているかのようだ。
「ドーモ、オーク=サン。ジゴク・ムラマサです。捨て駒にもなれぬ残霊め、介錯してやる。存分に成仏せよ」
 左の掌に右の拳をつけて会釈し、ジゴクは即座に格闘の構えを取る。
 土蔵の方ではケルベロスたちの声を聞きつけた土蔵篭りたちの手が止まっていた。オークさえいなければ、旅人を殺す理由はない。もしかしたら、オークを打ち倒してくれるかもしれないと、小さな希望を抱き土蔵の中でじっと息を殺しているようだ。だが長が急かす。下手な希望は持たない方がいい、早く殺すのだと。戦いが長引き時間が掛かれば、悲劇は再び繰り返されるだろう。
 敵はオーク二体。
 ジャマーを前に、その後方へスナイパーとしてもう一体が控える。触手が立て続けにオリバーと緋華へ襲いかかり、鋭くなった先端からたっぷりと麻痺毒を体内へ注入する。
「この声が聞こえるかな」
 ジャマーに狙いを定め詠葵は喰霊刀を振るい腕へ一撃を。斬りつけた傷口からはじわじわと霊体が毒のように身体を侵蝕していく。
「……君達は今、傷ついた旅人を殺めようとしているのかな。見ずとも分かるさ。知っているとも。……それが良い選択ではない事も」
 最悪の結末を避ける為、詠葵は三人の土蔵篭りに向けて旅人を殺さないようにと説得を始める。少しでも時間を稼ぐことができれば、それだけ戦いに時間をかけられる。
「……このオーク達は、我々が屠る。君達はまだ、希望を捨てるべきではない」
 希望を。
 水面に落とされた小石が波紋を広げていくように、三人の心に弱いながらも光が射し込む。
 まずはジャマーから落とすべき。そう決めたケルベロスたちは一匹のオークに攻撃を集中させる。緋華は凍夜の援護を受け感覚が研ぎ澄まされていくのをしっかりと感じると、指先に意識を集中させる。
『私が成る。私が求む。運命を断つ、赤い糸。【糸の如く】』
 赤い鮮血を硬化させつつ弾丸のように放ち、オークの触手を捕らえ絡める。鞭のような動きで触手に絡み付き、引き、そして数本の先端を切り刻む。運命の如くその一撃は敵を逃しはしない。されど同時に緋華は思うのだ。定められた運命に、歩む価値なんてあるものかと。
「無理は禁物です。背中、預けても良いのですよ?」
「かたじけない……!」
 オリバーが前衛の仲間へとボディヒーリングで回復をかける。
「知ってる? 今は……」
 出発した日付を告げ、土蔵篭りたちと同じ呪われた血を持つ者だと明かす。
「ご覧の通り、わたしたちは強い。わたしたちを頼ってくれ。…それでも、彼を殺すなら。わたしが、手にかけよう」
 凍夜は本気だ。冗談でも何でもない。藍色を湛えた瞳の奥、底冷えのする色がじわりと滲む。
「君たちが罪を背負う必要は、ない」
  パーティー唯一のジャマーとして凍夜は前衛のサポートにまわる。血の染み込んだ包帯を槍の如く硬質化させ、獣が牙を突き立てるようオークの肩口を深々と刺し貫く。槍が引き抜かれるとほぼ同時、軌道をなぞるようにしてニムムの虚無球体が傷口を抉った。
「神様は言いました。ニムム達はあなた方を助けに来たのだと」
 ケルベロスであることを告げるが、特殊なワイルドスペース中で三人は誤認させられている。その一つが『自分たちは大侵略期を生きている人間である』ということ。ゆえに、ケルベロスの存在を知らない。
「ニムムも力がないと嘆きましたが嘆いて従うだけではなにも変わらないのです。あなたがたは無力ではないのです」
「私達が必ずオークを倒します。それまで命を手にかけるのは待ってください」
 一族の運命を背負っているのはウーゴも同じ。時として命を天秤にかけることもある。当主の座というものは、決して飾りではない。
「うんうん。わたしたちはケルベロス、あなたたちの味方だよ~」
 早姫も同調し、敵ではないと説得を重ねる。
「どちらの悲鳴が多く上がるか聞いていてください。それからの判断でも遅くはありませんよ」
 襲い来るオークの牙を腕で防御し、僅かにその腕が鈍くなるのを感じながらウーゴは説得を続ける。心も身体も、痛みに苦痛の声などあげたりはしない。全て飲み込み押さえつける。耐える事にはもう慣れ過ぎた。
「私は負けません。当主として、ケルベロスとして」
 腕を軽く振るい血の雫を払い、凛として立つ。
「グワーッ!」
 硬く鋭く変化した細い触手がジゴクの肩を貫く。が、その瞳はまだ戦意を喪失していない。
 戦況を確かめたオリバーは、前衛へエクトプラズムを飛ばし傷付いた部分を包み込むと外傷を癒していく。が、麻痺をもたらす毒は僅かに残り除去しきれない。
「ボク……いや、ボク達はケルベロス。デウスエクスを倒すことができる存在です」
 ひとり、ではない。ここには他に、頼るべき七人の仲間がいる。
 オリバーの目は敵であるオークへ、声は土蔵の中の三人へ。優しくも真っ直ぐな声が向けられる。冬の日の太陽のように、氷を溶かす温もりある声。
 ケルベロスが何であるか三人にはわからなかったが、自分たちや旅人を助けようとしてくれているのだと理解はできたようだ。希望の欠片が集まり、光となり、閉じられた未来の錠へ差し込まれる。
「あなた達を助けます。必ず。信じてもらえないでしょうか」
 当初の作戦通り、ジャマーのオークに狙いを定めケルベロスたちは攻撃を重ねる。スナイパー以外の攻撃は、麻痺毒や武器に絡まる触手によって邪魔され時として空振りするが――。
「イィィィヤァァァァァッ!!」
 ムラマサの体がかすかに跳び、空中で回転した。己の零式忍者としての身体能力と遠心力をフルに使い、鞭のようにしなる足がオークの首へ加減無く叩き込まれる。忍者の禁じられた秘奥義、フライングニールキック。びくりと大きく身を震わせたジャマーは大きな音を立てて地面に転がり、鼓動と息を止める。
 残りはもう一匹。
 獣のように咆哮したオークは身体に回る毒でダメージを受けながらも早姫へ触手を伸ばし、ぎりぎりと腕や胴に絡み付き締め上げ傷口に麻痺毒を含んだ体液を塗り付け無理矢理吸収させる。何とか触手を振り解き、早姫は知り合いでも見付けた時のように、軽く何の含みもなく口を開く。
「み~っけたぁ~」
 自らの血で濡れた幼い指先をオークの胸元、ちょうど心臓の上へぴたりと当てすっと筆が滑るように動かす。一瞬後、オークが内側からの衝撃に大きくのけぞり膝をついた。
「旅人を殺めなくても生きる方法は沢山あります。ワイルドブリンガーのニムムにもあったように。と、神様は言いました」
  もうあまり、時間をかけてはいられない。
「嘆いてもいい、恐れてもいい。どうして自分がと呪っても構わない。それでも、希望だけは失うな」
 急に現れた見知らぬ人間をすぐに信用しろという方が無理なこと。そうとわかっていても緋華は言わずにはいられなかった。
「さあ、任せましたよ……!」
 真昼の月、否、それはオリバーの生み出したエネルギー光球。眩しいばかりの光を放つ球体を緋華へぶつけ援護した。
 ふらついたオークが唸り声をあげて威嚇する。殺されてたまるものかと、生への欲望に目をぎらつかせて。
 援護を受けてこくりと小さく頷く、
「救われたいと願うのなら、救う事を諦めるな!!」
 喰霊刀を握る手に力を込める。抜いてからの斬撃はほんの一瞬。銀糸のような軌跡を描き、刃はオークの胴を深く切り裂いた。

●日常へ
 旅人の血が流れる前に、ケルベロスたちはオーク二匹を倒すことができた。
 土蔵へと向かい、血まみれで倒れるオークを呆然として見詰める三人にジゴクが進み出て声をかける。
「お主らの悪夢は終わった。次は我らが、奴らに悪夢を見せる時だ。我らとともに歩まぬか。……仲間が、待っておる」
「わたしたちはもう、絶望する必要なんてないんだ。ほんとうの、光を。見よう」
「神様は言いました。少なくとも、あなたたちはこれから現実世界へ帰ることができると」
 頬についた赤い血を指の腹で拭い取りながら凍夜は言うと、ニムムも傍らでそう告げる。
「大変だったけどねぇ~、もう大丈夫だよぉ。もう痛いことはないから大丈夫だからねぇ」
 恐る恐るといった様子で土蔵から出て来た新しい『仲間』へ、早姫は安心させるように言葉をかけた。
「ね、大丈夫だったでしょう?」
 最初からわかっていたと言わんばかりの声の響きだが、確定している未来など存在しない。ウーゴたち、ケルベロスが集い力を使い言葉を尽くしたからこそ、今この瞬間がある。
「ここは危険です。すぐに脱出を」
 残念ながら三人の身元はわからなかったが、無事であることに違いない。これからそれぞれの道を歩んでいくだろう。彼らの未来を確かに、八人は救ったのだ。戦いに身を置くのは初めての経験であったが、オリバーは身に宿る熱や巡るいつもより速い脈拍を物珍しげに、或いは新鮮に感じていた。
(「救えたんだな、ボクたちは」)
「はは、言うべき言葉は若者に既に言われてしまったようだ。さてさて、戻るとしようか。こんな場所、長居は無用だろう」
 戦いの最中であっても、終えた後でも、恐らく帰還しても詠葵は変わらないのだろう。飄々と、世界を流れ世界に流され、詠葵は生きていく。
「――帰ろう。私たちの世界へ」
 日常が待っている。
 緋華たちが三人を連れてワイルドスペースから脱出する間際、尻尾をぱたぱたさせた凍夜がぼそりとこんなことを言って、全員を良い意味で脱力させるのだった。
「お腹が空いた。うどんが食べたい。うどんになりたい」

作者:成瀬 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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