失伝救出~犠牲と絶望の渦中で

作者:零風堂

 今日もまた、戦いが始まる。
 ドラゴンの牙から生じた竜牙兵たちが、ぞろぞろとこの施設へ向かい近づいてきた。
 この施設――、とある製薬会社の秘密工房は、強固な壁に囲まれており、そう易々とは打ち崩せないと思われた。しかしドラゴンの力を持つ竜牙兵たちの襲撃に晒されては、突破されるのも時間の問題だろう。
「出撃!」
 施設の門が開き、重装甲の甲冑を身に纏った騎士たちが、隊列を組んで出陣する。
 守りを固め、組み付き、渾身の力で武器を振るって竜牙兵たちに立ち向かう。
 しかし竜牙兵たちも武器を掲げ、猛然と襲いかかってくる。
 骨と鋼がぶつかり合い、互いに砕けてその場に崩れ落ちていく。
「……!」
 ひとり、またひとりと仲間が倒れていく中で、生き残った甲冑騎士は歯を食いしばり、必死に武器を振り続ける。
 ようやく、最後の竜牙兵が倒れ、戦いが終わった。
 出撃したときには20名を超えていた仲間たちは、半数以下になっていた。

「ぐ、あ……」
「おい、しっかりしろ!」
 施設に戻り、疲労した体から甲冑を脱ぎ捨てる。すると突然、仲間のひとりが苦しみもがきはじめた。全身が真っ赤に染まり、血管が浮き出て血が噴き出し始める。
「薬の副作用だ! 誰か救護班を!」
 超重超鋼の甲冑を纏って戦うため、騎士の中には薬を多量に投与し、身体能力を無理矢理に引き上げている者もいた。それは使用者の肉体を蝕み、時には命さえ奪い去るほど危険なものだった。

 今日も、守り切ることができた。
 しかし多くの甲冑騎士が敵の手にかかり、或いは肉体の限界を超えて、死んだ。
 死んだ甲冑騎士を補うために、また多くの人が、薬を使って超重の甲冑を纏うのだろう。そして甲冑を纏うことすら叶わず、薬の反動に耐え切れず死んでいく者も出るのだろう。

 デウスエクスに殺されるのと、戦うことすらなく、薬の反動で死ぬのと――。どちらが苦しいのだろうか? この死に違いは、あるのだろうか……。

●絶望からの救出
「まずは、寓話六塔戦争の勝利、お疲れ様でした」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)はそう言ってケルベロスたちを労ってから、その話を始める。
「この戦いによって、囚われていた失伝ジョブの方々を救出することができました。さらには、まだ救出できていない失伝ジョブの人たちに関する情報も、幾つか得られました」
 その内容について、ケルベロスたちも沈黙して耳を傾けていた。
「得られた情報とヘリオライダーの予知によれば、失伝ジョブの人々は『ポンペリポッサ』が用意した、特殊なワイルドスペースに閉じ込められています。そこで『自分が大侵略期の人間だと誤認』させられており、大侵略期の残霊によって引き起こされる悲劇を、繰り返し体験させられているのです」
 どうしてそんなことを……! と憤る一同に、セリカは続ける。
「これは、何度も絶望を与えることで、失伝ジョブの系譜に連なる人たちの心を折り、闇に染めて『反逆ケルベロス』として、自らの手駒にするための作戦と考えられます。しかし我々が寓話六塔戦争に勝利した結果、彼らが反逆ケルベロスになる前に、救出することが可能となりました」
 これも皆さんの勝利のおかげですねと、セリカは微かに笑みを零す。
「特殊なワイルドスペースに乗り込み、繰り返される悲劇を消し去って、閉じ込められた人たちを助け出してください」
 それからセリカは、詳しい状況について説明を始める。
「まず注意していただきたいのは、この特殊なワイルドスペースは、失伝ジョブの人々以外は出入りすることが不可能であるようです。そのため、この作戦に参加できるのは、失伝ジョブを持つケルベロスだけです」
 参加に制限があると言うセリカに、話を聞いていた者たちも頷く。
「特殊なワイルドスペースの中では、ある施設が連日、竜牙兵の襲撃を受けて、防衛のために戦う甲冑騎士たちが数多く犠牲になるという悲劇が繰り返されています。そして新たな騎士を配備するために、薬での無理な身体強化が行われ、それによる死者も出ているようです。実際には竜牙兵も犠牲者たちも残霊なのですが、捕らわれた人たちにそれを知るすべはありません」
 ならばどうするのか、セリカは一同に向き直り、話を続けた。
「襲撃を仕掛けてくる竜牙兵の残霊は10体です。これを打ち倒し、また残霊であってもヒールは効きますので、竜牙兵の撃破後に、残霊の甲冑騎士たちを助けてあげるとよいでしょう。そうして捕らわれた人たちの心から絶望を拭い去り、希望を取り戻させてください。そうすれば、その人たちをワイルドスペースから連れ出し、救出することが可能になります」
 今回の作戦は、あくまで救出が目的ですとセリカは言う。
「ワイルドスペースのどこかには、その空間の核となるワイルドハントがいると思われますが、今回は探す時間も手段もないと考えられます。また、特殊なワイルドスペースに長く居ると、閉じ込められている人々と同様、皆さんも悲劇に飲み込まれて、悲劇の登場人物のように誤認させられてしまう可能性がありますので、戦闘終了後は速やかに撤退するようにして下さいね」
 セリカの言葉に、ケルベロスたちも真剣な眼差しで頷いた。
「ワイルドスペースの中で悲劇を体験しているのは、5名の失伝ジョブの末裔の方々です。その周囲にも甲冑騎士たちが居ますが、彼らは実際に起きた過去の悲劇が残霊化したものでしょう。助けられないのが残念です。せめてその魂が悪用されることなく、安らかな眠りにつけるといいですね」
 話しながら、セリカは救出対象となる5名の特徴を伝えていく。
「この救出作戦が行えるのも、寓話六塔戦争に勝利することができたからです。ケルベロスの戦いにまだ慣れていない人も多いとは思いますが、悲劇に閉じ込められた人々の救出を、よろしくお願いします」
 セリカはそう言って、ケルベロスたちを激励するのだった。


参加者
能代・奈央(サキュバスのワイルドブリンガー・e44104)
ベルガモット・モナルダ(茨の騎士・e44218)
橘・雄一(不器用なガジェット・e44268)
四軒屋・繋(試式自宅警備術・e44277)
雨宮・和(シャングリラの灯火・e44325)
アルメル・メルメ(ドワーフの甲冑騎士・e44529)
宇迦野・火群(浮かれ狐の羽化登仙・e44633)
アストレア・フェレシュテル(レプリカントの甲冑騎士・e44649)

■リプレイ

 今日もまた、戦いが始まる。
 ドラゴンの牙から生じた竜牙兵たちが、ぞろぞろと施設へ向かい進んでいく。
「出撃!」
 何人もの甲冑騎士たちが防衛のために出陣するが、その動きは疲労と士気の低下のせいか、精彩に欠けているようにも見受けられた。
 くる日もくる日も、倒しても倒しても、竜牙兵は襲いかかってくる。
 戦いに勝利したとしても、多くの仲間が傷つき倒れ、新たな騎士を配備するため、無理な投薬による身体強化が行われる……。
 甲冑騎士たちは戦いながらも、抜け出せぬ絶望の中で、足掻き苦しむ状況に陥っていた。

 ――だがこれは、悪意によって作り出された絶望。『ポンペリポッサ』が用意した、特殊なワイルドスペースによって、捕らわれた失伝者たちの心が闇に染められようとしているのだ。

「……同業の甲冑騎士を、なんとしても助け出さないとねぇ」
 アルメル・メルメ(ドワーフの甲冑騎士・e44529)はヘリオンから仲間たちと共にワイルドスペースへと突入し、失伝者たちの戦う現場へと辿り着いたところだった。
「一人前の騎士を目指すため、相手が残霊であっても、どんな経験も無駄にはしない。よーし、頑張るぞー!」
 アルメルは気合いと共にバトルクロスのアルティメットモードを発動させ、決戦に挑む意気込みを見せる。
「力に目覚める前は、何の目的も無くただ日々を過ごすだけだった」
 橘・雄一(不器用なガジェット・e44268)は小さく呟くと、愛用の眼鏡を軽く掛け直す。
「行こう……。この力があれば、私にも何か出来るかもしれない」
 それから真剣な眼差しで戦いを見据え、介入すべく駆け出していた。
「こんな環境で、それでも戦い続けた……。その覚悟、答えてやらねば男が廃るな」
 四軒屋・繋(試式自宅警備術・e44277)も頷いて、剣と甲冑がぶつかり合う戦場へと、足を踏み入れる。

「くっ……」
 竜牙兵の一撃に押し切られ、ひとりの甲冑騎士が尻もちをついた。竜牙兵は昏い闇を抱えた双眸でそれを見据え、追撃を与えようと容赦なく剣を振り上げる。
 がきん!
 だがしかし、竜牙兵の刃は無骨なひと振りの剣で受け止められていた。
「我が名はベルガモット・モナルダ! 縁あって汝らに助太刀する!」
 ベルガモット・モナルダ(茨の騎士・e44218)が朗々と言い放ち、同時にバスタードソードを押し切って竜牙兵を下がらせる。
「甲冑騎士たちよ、聞け! 汝等の騎士道とは何か!」
 ベルガモットは素早く振り返ると、あ然とした様子の甲冑騎士たちに呼びかけた。
「我が騎士道は、敬意と慈愛、それらを守る誇りと勇気だ! 汝等に慈愛と勇気あらば、私はそれを守ろう」
 辛く苦しい戦いの連続では、誇り高く生きることは困難なのかもしれない。
 しかしそれでも――、ほんの少しでも、その輝きを思い出して欲しい。
 願いを込めて、ベルガモットは言葉を続ける。
「そして騎士ならば、我が誇りに報いて見せよ! なんとしても生き抜いて見せよ!」
 宣言を終えると、ベルガモットは猛然と竜牙兵へと立ち向かっていった。
「…………」
「大丈夫?」
 言葉を失っていた甲冑騎士に、雨宮・和(シャングリラの灯火・e44325)が声を掛ける。
「あたしは心霊治療士よ。怪我人には下がって貰ってるの。あんたは……、今はこれ以上戦えない。むこうで休んでなさい」
 和の傍には黒衣を纏った宇迦野・火群(浮かれ狐の羽化登仙・e44633)も居て、救助対象となる失伝者たちを呼び集めていた。
(「最初は怖がられないようにしとかないと……」)
 失伝者たちが大侵略期の人間だと誤認させられている状態で、ウェアライダーがどう思われるかはよくわからない。火群は不審に思われないよう、特徴的な耳と尻尾を隠すようにしていたのだった。
「あたし達はもう無力じゃない。……信じて」
 和は集められた失伝者たちにそう告げて、携帯食料を投げ渡す。火群も大地から抽出した魔力を癒しの力に変えて、傷を治療していく。
「ここは任せて、動かないでね!」
 明るい調子でそう言って、火群は和と視線を交わした。
 ――行動開始!

●絶望を打ち砕け
 竜牙兵から生気は感じられず、ただ淡々と不気味なほど無感情に近づき、攻撃を仕掛けてくるように見える。
「っ……!」
 飛来するオーラの弾丸に気づき、アルメルは縛霊手を立てて防御する。ずしんと重い衝撃が、身体にびりびり響き渡る。
「しっかり狙って、攻撃を当てることを第一に考えようねぇ」
 それでもアルメルは体勢を崩さずに、身に纏うオウガメタルから輝く粒子を放出し、仲間たちの感覚を研ぎ澄ませていった。
「……!」
 能代・奈央(サキュバスのワイルドブリンガー・e44104)は荒れ狂うワイルドの力に身を委ねながらも、精神力で敵を見極め、突っ込んでいく。
 サキュバスの魔力を瞳に集め、竜牙兵を凝視し、同士討ちを引き起こさせた。
「この力は、誰かを救うためにある」
 ベルガモットが、敵の戦列の乱れを見据え、生じた隙間に踏み込んだ。囲まれつつあった甲冑騎士を救うべく、その背に拳を振り上げていた竜牙兵目がけて、走る勢いのまま跳躍する。
「はっ!」
 大上段から、敵の脳天へ思い切りルーンアックスを叩き込む!
 がしゃんと盛大な音を立てて、白骨の戦士が崩れ落ちた。
「うおぉぉ! ベルガモットさんかっけぇ!」
 周囲に聞こえるように言いながら、雄一がその甲冑騎士を支えて立たせ、集めている場所へと連れて行った。
「同胞のピンチです。何がなくとも助けに行きます」
 その道中を護衛するようにアストレア・フェレシュテル(レプリカントの甲冑騎士・e44649)が駆けつけて、甲冑騎士たちを守るような立ち位置についた。護衛の為に無人機も展開し、さらに守りを固めていく。
「当該地域を自宅と認識ッ! これより警備を開始するッ!」
 繋が声を上げ、敵陣へと突撃する。竜牙兵が拳にオーラを纏って殴りつけてくるが、怯まずに手にしたガジェットのアームを展開した。
「撃梯鎮圧ブレイブラダー、投擲モード! アブソリュートボム、ファイア!」
 そこから投げられた手榴弾が炸裂すると、絶対零度の冷気が広がり、敵を氷で包んでいく。
(「いまだ……!」)
 和は竜牙兵を前にして、自然と震えてしまう手を握り締め、機会を狙っていた。
 勇気を振り絞って駆け出す先は、戦っている甲冑兵士の元だ。
 ヘリオライダーから聞いた情報からすれば、彼は残霊なのだろう。
「こっちよ、早く!」
 他の甲冑騎士たちを連れて行ったほうへ、強引にでも誘導する。
 そこに何体かの竜牙兵が、剣を手に迫って来ていた。
「騎士のみんなの勇気に応えて、ウェアライダーが力を貸すよ!」
 火群が黒衣を脱いで、耳と尻尾を出す。声を上げるのと同時に闘志を燃やし、魔力を込めた咆哮で竜牙兵たちを立ち竦ませた。
「それは同胞であっても同じ……。そう、信じている」
 ベルガモットも援護に駆けつけ、斧のルーンを発動させる。刃に宿る呪力が光を発し、斬撃と共に竜牙兵の胸骨を砕き裂いた。
「こっちだ!」
 一体を倒した直後、別の敵がベルガモットに攻撃を仕掛けようとしていた。その剣をバスタードソードで受け止めて、ベルガモットは歯を食いしばる。
 ――退かない。
「はいっ!」
 そこ覚悟に応えたのは、アルメル!
 突き出した縛霊手から巨大な光弾を発射し、ベルガモットと押し合いをしていた竜牙兵を撃ち崩す。
 そこに言葉は、要らない。アルメルとベルガモットは視線を交わして頷き合い、次の敵へと向かって駆け出していた。

「はああああっ!」
 奈央が地獄の炎を滾らせて、自身の携える刃にまで伸ばしていく。猛然と駆け込み、正面の竜牙兵に向かって、思い切り一撃を振り下ろした。
 がきん!
「ああああっ!」
 敵も手にした剣で奈央のブレイズクラッシュを受け止めたが、そのまま強引に押し込み、敵の身体に炎を叩き込んで仰向けに倒した。
「危ない! いま行きます!」
 雄一が血染めの包帯から、忌まわしき血槍を絞り出した。立ち上がろうとした竜牙兵の顔面に突き立て、動きを停止させる。
「よっし、撃破!」
 勇ましく、周囲の士気をも鼓舞するような声をあげる。
「バットエンドは食傷気味でな……。『大団円』と行こうじゃないかッ! 鎧の友よッ!」
 繋が竜牙兵に詰め寄り、ハシゴ型多段関節伸縮アームを敵に押し当てる。相手は拳を打って抵抗してきたが、繋は痛みに耐えながら、攻撃を続行する。
「ブレイブ……、ダァイナミックッ!」
 各関節を駆動させ、敵を真上に投げ飛ばす! がしゃんと地面に落下して、竜牙兵は動かなくなる。

「すごい……」
 敵に怯まず、勇敢に戦う者たちを見て、失伝者のひとりが呟いた。別のひとりも、感嘆した様子で息を呑んでいる。
「我が身を顧みる必要はない。即席の仲間だけど、信頼……、してるし」
 和は彼らにそう告げて、癒しの風を呼び起こした。傷つき疲れ切った心と体が、癒されていく。
「ウチらが味方だってことが、みんなの希望に繋がれば……!」
 火群が軽やかな動きで、竜牙兵の剣を掻い潜る。そのまま一瞬の呼気と共に跳んで、流星の如き跳び蹴りを叩き込んだ。相手の胴をぶち抜いて着地した火群は、自身に掛かった骨の欠片を振り払い、甲冑騎士たちのほうへ敵が向かっていないか、再度確認していた。
「守るべき物を背負い、横には友が並び立つ……」
 繋が状況を確認しながら、小さく呟く。残霊を含め、甲冑騎士たちは後方へと下がってもらった。火群や和、アストレアが護衛してくれている。
 敵の竜牙兵も、何とか数を減らすことができ、残りも僅かとなってきた。
「『何か』に縛られながら、それでも『何か』の為に戦う、それが俺たちだ」
 繋がガジェットを鋼鞭へと変形させ、勢いよく振り出した。しかし向かって来た敵はそれを辛うじて避け、繋に重力を宿した一撃を叩き付けてくる!
「っ……!」
 僅かにバランスを崩した繋だったが、そこに奈央が突っ込んで来た。武器にはすでに混沌の力が溢れており、振り上げるような動きだけで、竜牙兵の胸が裂かれた。

「っ……」
 アルメルの左肩に、竜牙兵の放ったオーラの一撃が突き刺さる。
 体勢を崩さないようにしながら薙ぎ払いで応戦するも、相手はそれを見切って回避した。
 創世衝波が使えれば。と胸中でぼやくも、それで戦況が変わるわけではない。アルメルは敵を見据えながら、横に跳んだ。
「……!」
 風を切ってアルメルの後ろから飛び出してきたのは、ベルガモットだ。相手の腰を狙って斬撃を繰り出すが、竜牙兵は闘気を纏った腕でこれを受け止め、防御しようとした。
「はっ!」
 しかしベルガモットの狙いは、最初からそれだった。敵の身を包むバトルオーラの流れを見極め、鋭い斬撃でそれを切り払う!
「いつまでも好き勝手出来ると思うなよ!」
 雄一が無防備になった相手を狙い、バスターフレイムで突如として炎上させる。直後にアルティメットモードを発動させ、豪奢な衣装で決めポーズを取ってみせた。

「必ず、助ける。誰かの為に勇気を持って戦うことが、ウチの目指すものだから……」
 火群は決意の言葉と共に、虚無の力を解き放つ。そこに生み出されたのは不可視の球体。触れるものすべてを消滅させる、ディスインテグレート。
「ガッ……」
 竜牙兵の片腕が消し飛び、カラカラと残った身体から軽い音が響いた。しかしそれでも、相手は残った腕で剣を振り上げ、失伝者たちのほうへ向かってきた。
 ぼっ。
 静かに燃え上がったのは、原始の炎。和のシャーマンズゴースト『ぷー』が発動させた、ワイルドファイアだ。
 すかさず和がそこに踏み込んで、両手のナイフに破壊の力を乗せて、素早く叩き付ける。
 がしゃんと盛大な音を立てて、崩れかけた竜牙兵はただの瓦礫へと変じ、消滅していった。
「…………」
 微かに乱れた息を整えながら、和が周囲を確認する。今のが、最後の一体だ。
「勝てた……。あたし達、勝てたよ……。お父さん、お母さん……」
 戦いを終えて、和はひとりで小さく、天に向かって呟くのだった。

●絶望からの脱出
「温かいココアだ……。よく戦った、ゆっくり休んでくれ」
 繋は持参した飲み物を振る舞い、失伝者たちを労っていた。雄一も合わせておにぎりを配っていく。
「ぐ、う……っ」
 残霊たちの中には、薬の反動で苦しみ始める者もいた。火群はできる限りのヒールで、その苦痛を少しでも除こうとする。
「確かに、戦いは楽なことばかりではありません。辛いことも苦しいことも、あると思います」
 雄一はヒールを手伝いながら、甲冑騎士たちに訴えかける。
「皆が力を合わせれば、デウスエクスとも戦えます! 私たちと一緒に行きましょう!」
「あたし達が無力を嘆く時は終わったの。貴方達の戦いは、無駄じゃなかった」
 和はそう言って、残霊たちに癒しの風を送る。心の苦しみが和らいだのか、彼らの表情も、幾らか穏やかになったように見えた。
「……どうか、安らかに」
 彼らに別れの言葉を贈ると、和は失伝者の5人に向き直り、話し始める。
「ここで嘆き続けるなら、勝手にすればいい。でも、前に進むのならば……、まぁ手は貸すわ」
 そう告げられて、失伝者たちは互いに目線をかわしてから、小さく頷いた。
「よし、速やかに撤退だ」
 ベルガモットはそう言って、仲間たちの脱出を促す。自身は万一に備え、後方の警戒を怠らないようにとしんがりを務めていた。

 こうして特殊なワイルドスペースから、失伝者たちは救出されることとなった。彼らの無事を喜びつつ、一行は脱出を急ぐのであった。

作者:零風堂 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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