病魔根絶計画~病床の少年

作者:koguma

「はぁ……」
 病院のベッドでため息をつく少年。
 体が硬化して思うように動かせず、窓の外を恨めしそうに見つめる事しか出来ない。
 小学校は冬休みに入った頃だろう、クリスマスにお正月……子供達にとって胸躍るイベントが待つ季節だというのに、外出する事は叶わないのだった。
「優斗君、具合はどう?」
 母親が病室に入って来た。硬化し、自力では動かす事が出来なくなってしまった腕を優しくさすってあげる。
「もう両手も両足も動かない……ううっ」
 内臓には達していないものの、体表は確実に硬化が進んでいた。
 もう友達と走り回る事は出来ないのだろうか。それどころか、いつか硬化が心臓に達して死んでしまうのではないか……と、言いようのない恐怖が少年を襲う。
「大丈夫よ、きっと良くなるわ。お母さんはそう信じてる」
 息子の回復を信じて、母親は熱心に患部をさすってやるのだった。

「今回集まってもらったみなさんに、病魔を倒して貰いたいっすよ」
 黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)が言うには、病院の医師やウィッチドクターの努力で『メデュー病』を根絶する準備が整ったそうである。
 今回の少年もそうであるように、メデューサ病の患者達が大病院に集められ、病魔との戦闘準備が着々と進められている。
「みなさんには特に強い『重病患者の病魔』を倒して欲しいっす。
 今、重病患者の病魔を一体残らず倒す事が出来れば、この病気は根絶されて新たな患者が出る事も無くなるっす!」
 勿論、敗北してしまった場合は病気は根絶されず、今後も新しい患者が現れてしまうだろう。デウスエクスとの戦いに比べて緊急性は低いが、ぜひ病気根絶のため作戦を成功させてほしい。

「敵の戦闘能力っすけど、メデューサ病って名前が示すようにメデューサさながらの攻撃を仕掛けてくるみたいっすね」
 その視線は石化をもたらし、髪の蛇群が喰らいついてくる攻撃や、ケルベロス達の生気を吸収して自己回復する能力も持つようだ。
「あと、この病魔への『個別耐性』を得られると戦闘を有利に運ぶ事が出来るみたいっす」
 その『個別耐性』を得るには、患者をマッサージしてあげる等の看病や、体を動かせない事によるストレス発散のため話し相手になってあげる事、慰問してこれから病魔と闘うケルベロスの頼もしい所を見せて安心させてあげる事などが有効だ。
「個別耐性を得ると『この病魔から受けるダメージが減少する』っすよ」

 ダンテは一通りの説明を終えると、
「メデューサ病を根絶するチャンス到来っすから、確実に撃退してあげて欲しいっすよ」
 そう言ってケルベロス達を見送った。


参加者
天谷・砂太郎(非合法な雷術医・e00661)
戯・久遠(紫唐揚羽師団のヤブ医者・e02253)
シオン・プリム(呪花・e02964)
クルル・セルクル(兎のお医者さん・e20351)
モモコ・キッドマン(グラビティ兵器技術研究所・e27476)
リティ・ニクソン(沈黙の魔女・e29710)
ゾーラ・ピカンテ(ゴルゴン・e35727)
ライガ・アムール(虎さん・e37051)

■リプレイ

●病室へ
 重病患者ばかりを集めた隔離病棟へ足を踏み入れる。
 足音の響く白い廊下を進んで少年の病室へ向かう間、ゾーラ・ピカンテ(ゴルゴン・e35727)は想う。
(「メデューサ病……ね」)
 普段は『建物のお医者さん』専門でめったに戦わない彼女だが、今回は宿敵じみた因縁を感じていた。
 それはゾーラが、ギリシャ神話に伝わる『メデューサ』と呼ばれた女性の末裔である事に起因しているのだった。

「……どうぞ」
 ドアをノックして病室に入ると、寝たきりの少年が視線だけこちらに向けて、ケルベロス達を招き入れた。
 動かない身体に絶望し切った生気のない目で、慰問に来た8人を見つめている。
 次々と病室に入って行くウィッチドクター達へモモコ・キッドマン(グラビティ兵器技術研究所・e27476)は一礼し、
(「私がここに来たのは医師としてではないけれど、子供たちを苦しめる病魔を倒すお手伝いができれば……」)
「難病根絶は医者の使命。やってやるさ」
 戯・久遠(紫唐揚羽師団のヤブ医者・e02253)は少年の体を柔軟で解しながら語り掛け始めた。
「いいか。今から俺達はその体を治す為に病気の元と戦う。
 だがな、敵は物凄く強い。負けるつもりは無えが、苦戦するだろうな」
 医者として接する彼からは、普段の胡散臭さが消えていた。
「でも、お前さんがもし一緒に戦ってくれるなら。病気なんかに負けないって頑張ってくれるなら、
 俺達は絶対に負けないし、お前さんの体も絶対に良くなる」
 熱心な施術と共に、少年の心も少しずつ解きほぐれてゆくようだ。
「どうだ? これから一緒に、病気をブッ飛ばしてやらねえか?」
「……うん」
 硬化でこわばっているものの、少年は口元を緩めて頷いた。
 その様子を静かに見守っていたシオン・プリム(呪花・e02964)はそっと優しく少年の手に触れてあげながら、
「……動けなくなっていく辛さは良くわかる。私は、心の問題だったけれど」
 言葉少なに、しかしひたむきに語り掛ける。
 シオンのオリジナルグラビティ『孤独の心音』にあるように、彼女の心に抱えたものが、心まで硬直していった少年の境遇に共鳴しているのだろう。
「きっと戯や仲間達が君を救ってくれる。私も、微力ながら力になる」
 師団での知り合いである久遠に頼もしさを感じつつ、少年の為に力になろうと思うのだった。
「こんなつらさを感じながら療養生活に耐えて、偉かったですわ。
 貴方はとてもお強くていらっしゃいます」
 クルル・セルクル(兎のお医者さん・e20351)も、少年の強張った四肢にマッサージを施してゆく。
 短命の家系に生まれたクルルには、少年の心も、彼の平穏を願う親の心も痛いほどわかるからこその言葉なのだろう。
「ううっ……」
 不意に、少年の頬に涙がこぼれ落ちた。
 病魔に蝕まれ、いつの間にか諦めの色に染まった心。しかし、確かに病に抗おうとする『強さ』が自分の中にあったのだと気づいたのだ。
「あ、マッサージ変わりましょうか?」
 少年とはあまりにも違う人生を歩んできたモモコにかける言葉は思いつかなかったが、
「ごめんね、私はお使者様じゃないから、こんなことしかできないけれど……見てて、悪い病魔はきっと私が倒すから……!」
 せめてマッサージくらいはしたいと、交代を申し出るのだった。
「オレはゾーラ、建物のお医者さんだ。以前はスペインのバルセロナで、聖家族教会(サグラダ・ファミリア)のレリーフ制作に関わってたんだが、あるデウスエクスに目をやられちまってな……それで、このマスクをつけてるんだ」
 一際明るい声の主はゾーラ。
「アメコミヒーローみたいで、かっこいいだろ?」
 口元に笑みを湛え、
「元気になったら、いつかオレたちの作品を見に来てほしい。絶対に治してやるからな!!」
 くしゃくしゃと少年の頭を撫でてやるのだった。
「クリスマスには間に合わないけど、『完治』、『退院』っていうお年玉あげられるように、やってみる。
 だから、優斗は家族や友達に『笑顔』をあげて」
「安心しろ、俺らケルベロスが絶対助けてやる。だからもう少し我慢しててくれな」
 天谷・砂太郎(非合法な雷術医・e00661)の励ましを受けて、
「お兄さん、お姉さん達こんなに励ましてくれてありがとう。このまま死んじゃうだろうと思ってたけど、僕まだ諦めたくないんだ」
 少年の心に、希望が見え始めている様だった。
 仲間達の慰問やマッサージの際のバイタルサインをチェックしていたリティ・ニクソン(沈黙の魔女・e29710)には、少年のバイタルサインが少し良くなっているのが見て取れただろう。ケルベロス達の慰問が、メデューサ病を討つ力になるのだ。
「さて、あたし達にまかせなって♪ 病魔はきっちり倒してやるよ」
 ライガ・アムール(虎さん・e37051)はストレッチャーに少年を乗せて安全な場所に退避させ、
 特務支援機用施術黒衣を纏ったリティは、少年を巻き込まない場所を確認し病魔召喚の準備に入る。
 それを見届けつつ、久遠は唐揚げを頬張った。
「いつものゲン担ぎってやつさ」

●メデューサ病、具現
 身構えたケルベロス達の目前に、メデューサ病がそのおぞましい姿を現した。
 髪の代わりに無数の蛇が蠢き、狂気に満ちた目で睨め付ける生首。
「……これが病魔!」
 モモコは怯まず、斬霊刀『イズナ』を抜き放って地面と水平に構え、
「いきますっ!」
 一気に間合いをつめ、メデューサの額に神速の突きを繰り出した。
 こうして病魔戦は幕を開け、
「敵戦力確認……データベース照合……火器管制システム、アップデート完了。最新パッチ、配信します」
 リティの放った小型偵察無人機の群れがメデューサの位置情報、行動パターンを分析し、伝達。それは仲間達の攻撃命中精度を向上させ、続いて砂太郎が透明な刀身のゾディアックソードを構えた。
 地面に描き出された山羊座の守護星座が、前衛陣へ守護の輝きを放ち始める。
 それに重ねて、クルルがライトニングウォールを構築し前衛の守りを固め、ライガは満を持して、金色の髪を靡かせながら病魔へ距離を詰める。
 浮遊するメデューサの側頭部に、電光石火の蹴りが炸裂。
「グァアア!」
 叩き落とされた病魔は、赤い目をギョロつかせてライガを睨み付けるも、庇いに入るクルル。エプロンドレスがふわりと翻った。
(「この困難な病と、それに苦しむ患者様の心と体を癒せる望みがあるのなら、わたくしは戦いますわ。負けるわけにはいきません」)
 その気持ちが彼女を突き動かしたのか。メデューサの石化の視線を浴びてしまったクルルの体は自由を奪われてゆく。
「回復は任せろ。確実に処置する」
 久遠は眼鏡を外して意識を切り替え、
「さて、術式開始だ」
 冷静沈着にウィッチオペレーションを施した。緊急手術の甲斐あって回復したクルルが礼を述べる一方で、不気味に浮遊するメデューサ病へと向かうシオンにゾーラ。
 共に巨大な鉄塊剣とドラゴニックハンマーを構えて振り上げーー、病魔は病室の床に思い切り叩きつけられた。
 ふらつきながらメデューサは再び浮遊し、生気吸収によって自身の傷を癒してゆく。
 こうして患者達からグラビティ・チェインを吸い上げて来たのかと思うとおぞましいものだ。
「未来ある少年の為、貴様を切除する」
 ケルベロス達を信じて託した少年のために。
「陽を巡らせ陰を正す……万象流転」
 久遠の体内で高められた陽の気が病魔を目がけて叩き込まれ、間髪入れず砂太郎はグラビティ・チェインを拳に凝縮させてゆく。
「これでも喰らっておねんねしてな!!」
 静電気とグラビティ・チェインの摩擦で増大した雷撃が襲い、直撃を喰らったメデューサの動きが鈍る。
 チャンスを逃さずライガは、両手の金色のガントレットを輝かせ、爪に気を込めて。
「あたしの爪はどんな物でも切り裂くよ!」
 ざっくりと病魔の顔面を引掻いた爪跡には、黄金のオーラが輝いた。
 痛み悶える敵へ、間合いを取っていたモモコが再び刀に手を掛け、雷刃突を繰り出される。
「ご先祖様の名誉のためにもこんな病魔は、やっつけてやるさ!」
 ゾーラの地獄化した目元が赤く輝く。
 地獄の炎弾が、さながら灼熱の赤いビームのように放たれて、病魔から生命力を奪うのだった。
 リティは病魔へ殺神ウイルスを投射し、再び生気吸収を試みるメデューサを阻害。
 攻防続く中、次に敵へ対峙するのは砂太郎。一見、武器を持たない身軽さで白スーツを着こなしているがその実。
 小型化したライトニングロッドをスーツの腕部分に忍ばせて、雷を拳に込めストレートを放つと、迸る雷が一直線に病魔へ襲い掛かった。
 黒焦げになった病魔はぐるりと背を向けたかと思うと、メデューサの所以である髪の蛇群が勢いよく前衛へ襲い掛かった。
 次から次へと喰いついてくる蛇達だったが、久遠のメディカルレインが降り注ぎ味方を癒してゆく。
 勢い衰えず襲い来る病魔だが、シオンは攻撃を手を緩めない。
(「耐える戦いをする。きっと少年も耐えているはずだから」)
 マインドリングから具現化した光の剣を構え、斬り捨てる気迫は病魔を圧倒し、
「いきますっ!」
 もう一度刃を構えたモモコが、神速の突きを繰り出す。
 誰かから師事をうけたものではない、我流の剣術ゆえに技名は知らず。しかし、伝説の剣豪達の剣技を使いこなすその腕は一流で。
 敵を貫いた刀を引き抜く刹那、
「痛みはございませんわ。大人しくして頂ければ、ですけれど」
 痛み悶える病魔に、語り掛けるクルル。
 気づかれぬ内に、グラビティで形成した不可視の刃が病魔に放たれていたのだ。クルルの言うように、動かなければ何も感じない刃だが、激しく抵抗する病魔に、幾度となく斬り傷をつけてゆく。
 絶え間ない攻撃の果て。メデューサ病に終止符を打つのはーー。
 褐色の肌に金色のバトルガントレットが良く映える。ライガは大きな胸を弾ませて、光り輝く左手で病魔を引き寄せ、
「きっちり倒してやるよ」
 漆黒纏いし右手を顔面に叩き込んだ。そしてライガの後方から一斉発射された砲撃が、次々と病魔へ被弾する。
(「私は、優斗が知ってるような一流ケルベロスじゃないかもしれないけど、大丈夫。ちゃんと仕事はこなすから」)
 それはリティのアームドフォートから発射されたキャノン砲だった。
「キャァアアアア!」
 病室に響く断末魔。好き放題に巣喰っていた少年への未練を込めた悲痛な叫びと共に、メデューサ病は掻き消えて行ったのだった。

「術式終了っと。よく頑張ったな。お前さんのお蔭で、病気をブッ飛ばせたぜ」
 メデューサ病から解放された少年は、久遠の言葉に頷いた。
 体力を消耗しているものの、徐々に手足の感覚が戻ってくる実感がある。
「よく頑張ったな、偉いぞ」
 砂太郎に頭を撫でられると、ようやくほっとして笑顔をみせた。
「言ったろ? あたし達にまかせなって。後は、キミ次第だ。がんばりなよ」
「お姉さん……みなさん、ありがとう。ホントに治っちゃうなんて、ケルベロスは凄いや。
 冬休みが終わったらまた学校に通えるなんて夢みたいだよ」
 少年とケルベロス達の団欒を背に、
 戦闘現場にヒールを行ったシオンは速やかに病室を立ち去ったのだった。

作者:koguma 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月5日
難度:やや易
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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