●
空を見上げれば、薄暗いスモッグが蒼を覆っていた。灯りは心許なく、昼の時間帯であるはずなのに、まるで夜のようだ。
「走れ、走れ走れーー!」
そんな澱んだ世界を切り裂くように、響き渡るのはボロボロのつなぎを着た少年の声。
「くっ……こんな時に、デウスエクスを容易く打ち破る彼等がいてくれたなら!」
ギュッと胸元で食料品を抱えながら、少年に追随して疾走する少女が唇を噛んだ。
「な、なんですって! そんなすごい人達がいるの!? 私は聞いた事ないわよ!」
『彼等』というワードに、最後尾で牽制する最後尾の勝ち気な少女が、希望を目に浮かべる。
「……ご、ごめん。わ、わたし……何かおかしくなってるみたい。……そんな人達、いるはずないのに……」
だが、すぐにその希望は口にした当人によって否定された。
勝ち気な少女は、「……知ってたわ」そう寂しそうに呟くと、足をひたすらに前に踏み出す。
「仲間達が腹を空かせて待ってるんだ! 俺達がここでやられる訳にはいかん!」
ダモクレスに支配された街……そこから彼等が食料を調達しなければ、遠からず仲間は飢えるだろう。
だから、なんとしても! 下賤な盗賊と蔑まれようとも!
「あったわ!」
勝ち気少女が、隠れ家に至るポイントを見つけ、叫ぶ。先行した少年がマンホールの蓋を開けると、少女二人がその中へ飛び込み、少年も後に続いた。
「やったね! ──え?」
だが、ホッと安堵を浮かべたのも束の間、少女が感じたのは濃密な血臭と轟音。
三人は、今まで以上の勢いでアジトの奥に駆け出す。死に直面していた今までよりも、心臓を激しく鳴り響かせながら。
「……うそ」
勝ち気な少女が、涙を溢した。その光景は凄惨の一言に尽き、ボロながらも皆の思い出が詰まったアジトは面影もない。
そして──地面に並べられた、仲間達……だった者らの生首。
三人を見つけたダモクレスが、生首の一つを掲げる。まるで、お前達もこうしてやるとでも言いたげに……。
「い、いやぁ……いやぁあああああ!」
それを目にした瞬間、三人は恥も外聞もなく、絶叫しながらその場に背を向けた。
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「寓話六塔戦争の勝利、お見事でした! どちらに傾いても不思議ではない緊迫感のある中勝利を収める事ができたのは、皆さんの努力あってのものですね。また、この結果囚われた失伝ジョブの関係者の方々及び、残念ながら救出できなかった方々の情報も続々と寄せられております」
セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、深く頭を下げる。無傷の勝利ではないが、誇れるだけのものを、命を救うことができた。
しかし──セリカはすぐに表情を正す。
「得られた情報と、我々の予知を精査した結果……残された失伝ジョブの関係者の人々が、『ポンペリポッサ』が用意したワイルドスペース内に閉じ込められていることが判明したのです」
閉じ込められた失伝ジョブの関係者は、その心を絶望に染め上げるために、大侵略期の残霊によって引き起こされる悲劇を繰り返し体験させられている。
「これも、関係者の方々を反逆ケルベロスとする為の作戦でしょう。しかし、皆さんの奮闘により、彼等が絶望に染めってしまう前に救出する望みも出てきました。ただちに、この特殊なワイルドスペースに乗り込んで、失伝ジョブの関係者を襲う悲劇を打ち破り、救出してあげてください!」
セリカが、ケルベロス達に資料を配る。
「まずは最重要事項から。この作戦には、失伝ジョブを得た方以外は参加することができません。何故なら、潜入先が特殊なワイルドスペースとなっていて、失伝ジョブを会得した方しか入れない仕様となっているためです」
次に、ワイルドスペースの中の状況であるが、どうやら19世紀前後のロンドン風の場所がモチーフとなっているようだ。
「そこで、失伝ジョブの関係者──ガジェッティアであるお三方は、『大侵略期のデウスエクスの残霊』によって、繰り返し幾人もの仲間が惨殺される悲劇を見せつけられています。また、ワイルドスペースの影響を受けたガジェッティアの方々は、『自分達は、大侵略期に生きた失伝ジョブを持つ人間であり、デウスエクスに対して絶望的な抵抗を行っている』と誤認させられており、皆さんの介入がなければその洗脳から解かれることはありません。ケルベロスの存在をお三方が認識できないのもそのためですね」
ケルベロス達に求められるのは、精神を絶望に染められかけているガジェッティアの3人の心に、希望を取り戻させること。
「具体的には、皆さんがダモクレスに打ち勝つ姿を実際に見せてあげてください。ガジェッティアのお三方が戻ってくるまで戦闘を長引かせるか、皆さんの中の数人がお三方を素早く合流できるよう誘導してあげるのがいいでしょう。敵は3体部隊のダモクレスといえど、残霊です。どちらの策を用いても、十分勝算はあります!」
ガジェッティア三人の居場所も、拠点に関しても、特定済みだ。それぞれ先に待ち構えることができる。ただ、互いに連絡をとることは不可能なので、その点は注意を。
「特殊なワイルドスペースの誤認の影響を受けるのは、ガジェッティアのお三方だけでなく、皆さんも同様です。そのため、戦闘後は救出したお三方と共に、速やかな撤退をお願いします!」
参加者 | |
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風薙・七星(風の魔導技師・e44228) |
クロエ・テニア(彩の錬象術師・e44238) |
上泉・結奈(剣聖の末裔・e44365) |
アリカ・ノッツォ(リトルクローザー・e44468) |
鵠・澪奈(故縁の黒虎・e44496) |
鵠・彪(故縁の白虎・e44523) |
蔓荊・蒲(サクヤビメの選択者・e44541) |
豊間根・嘉久(オラトリオの零式忍者・e44620) |
●
寂れ、崩れかけた下水道。さぞ、酷い匂いがするのかと思いきや──。
「なにこれ、なにこれ!?」
興奮も露わに、風薙・七星(風の魔導技師・e44228)が掲げたのは、幾学模様の描かれた小動物型のロボットであった。その魔法的要素を感じるロボットが、餌として汚れを食べているのか、不快な匂いは最小限に抑えられている。
「まっ、三人もガジェッティアだしネッ! 兵器じゃないにしても、不思議なものがあったとしてもおかしくないよね」
緑色の髪の枝毛を弄りながらそう言うのは、クロエ・テニア(彩の錬象術師・e44238)。警護用なのだろうか? 蒸気を噴き上げるゴーレムなどもおり、話題に事欠くことはない。
「邪魔して悪いな」
「いえ、……貴方達のような方なら、歓迎します。こんな、世の中ですから……」
大勢で押し掛けた事を豊間根・嘉久(オラトリオの零式忍者・e44620)が詫びると、留守を預かっているという女性が、嫋やかに首を振る。ここは、例のガジェッティア3人が所属する、対ダモクレスを目的とした者が集まるアジト。
──と。
「……来たぜ。さって、あたしの初陣……初仕事だ! 気合いれていくかね!」
青の袴を翻し、上泉・結奈(剣聖の末裔・e44365)が二振りの喰霊刀を抜き放つ。その立ち姿に隙はなく、幼さの残る見た目にそぐわぬ獰猛な笑みは、自信を感じさせた。
「えっ……ひぃ?!」
結奈の合図から間を置かず、通路の奥から姿を見せた3体のダモクレス。その場にいたケルベロス以外の者が、一斉に震え戦き始める。
「クククッ!」
駆動音と共に、その恐怖を心地よく感じているらしいダモクレスが、さらなる絶望を与えるべく、内蔵ドリルを振り上げるが!
「好き放題にやらせないよ、ダモクレス!」
「さー、歴史が変わる瞬間、作っちゃうヨ!」
その一撃は、クロエと鵠・澪奈(故縁の黒虎・e44496)によって防がれた。
だが、「澪奈!?」そんな悲鳴……いや、怒号を上げたのは、軽傷を負った彼女ら本人ではなく……。
「……赦さない……絶対にな……。死ぬよりも恐ろしい思いをさせてやろう……!」
地の底から響くような、鵠・彪(故縁の白虎・e44523)の呪詛。
「……来い、相手になろう」
その呪いが、一先ずエネルギー光球で体勢の立て直しにかかる澪奈のため、汚染混じりの鋭い槍となって襲い掛かった。
「さて、研究は後にして、僕も初仕事だ、しっかり完遂してみせるよ!」
続くのは、七星。アジトの人々に攻撃が向かわぬよう立ち位置を修正しながら、槍に稲妻を纏わせダモクレスにねじ込む!
「「「ムゥ!?」」」
まさか反撃を受けるとは思わなかったのか、動揺を見せる3体のダモクレス。
その動揺が収まらぬ内に、結奈は喰霊刀が宿す魂エネルギーを己が身に纏わせた。
しかし、ダモクレスは残霊とはいえ、案山子ではない。ケルベロス達の力量を悟ると、サッと散開! トライアングルの陣形を作り、一斉にミサイルポートからミサイルを浴びせてくる!
そのすべてを防ぎきることは不可能ではあるが、七星が壁役として前に出る。
「七星、アタシに任せて!」
度重なる爆撃にも怯まぬ七星を中心に、クロエは前衛の仲間の身を苛む痺れが致命傷に至らぬよう、「惨劇の記憶」から魔力を抽出し、精神から癒やす。
(残霊であっても痛みや絶望は……消える事はないんだな)
息を詰めて自分達を、戦闘を見つめる複数の視線に、嘉久はそんな事を思う。
「この命を失わせはしない!」
だからこそ、嘉久は怯えず怯まず、一直線にダモクレスを見据えると、これまでの戦闘の流れで特定した敵Dfに向け、混沌の水の上から紅を纏った回し蹴りを放つのであった。
「まるで……映画のセットみたいだ」
後頭部を掻きながら、そう暢気に空を見上げるのは、蔓荊・蒲(サクヤビメの選択者・e44541)。スモッグに覆われた空や街並みは、コテコテの中世ヨーロッパ時期のロンドンを想起させ、まるで過去にも見た事があるような、不思議な親近感を蒲に抱かせる。
「でもこれ……敵の作りだした空間なのよね?」
だが、いくら親近感を抱こうと、ここが敵の腹中である事に変わりは無い。沸き起こる緊張感に、アリカ・ノッツォ(リトルクローザー・e44468)が背負う巨大なコンテナ……そのベルト部分を握る手に、知らず知らず力が籠もる。
「でも、助けてあげなきゃね。一歩間違えば、囚われているのは私達だったかもしれないんだから」
「ああ、サクッと任務に取り掛かって、終わらせよう」
アリカが覚悟を改めて決めると、蒲もそれに応じる。
すると、街並みの先から、三人の足音と荒い呼吸音が──。
「だ、誰よ!?」
勝ち気な少女が、遭遇したアリカと蒲に、警戒も露わにそう告げた。
「俺達は君達の同類みたいなもんだ」
まずは、蒲が警戒を解こうと、敵意がない事を示すように手を上げながらそう言った。
「落ち着いて聞いて? 今、貴方達のアジトは、ダモクレスに迫られようとしているの!」
「なんだって!?」
続いて、アリカが状況を説明する。途端、つなぎ姿の少年が顔色を変える。
「本当……なの?」
不安を隠せない少女は、泣きそうな表情を。
「あー安心して、君達のアジトには俺たちの仲間がもう向かってる。今頃戦ってるはずだ」
「ええ、安全は確認済みよ!」
そんな少女を落ち着かせようと、アリカと蒲が頷いてみせる。
「戦う? ……それに、確認済みって……」
だが、勝ち気少女は俄には信じられない様子。彼等の信じる絶望的な状況を鑑みれば、それも当然であろう。
「あたし達と力を合わせれば、現状を変える活路を見いだせるはずよ! 信じてみない?」
アリカが手を差し出す。
遠くからは、ガジェッティア3人を追っていた敵の駆動音。
「……他に道はなさそうだ」
フッと、つなぎの少年が表情を和らげる。
「しょうがないわね」
「皆を助け……られるなら!」
少年がそう言うと、少女と勝ち気少女の両名もアリカの手を取り、蒲の誘導に従って駆けだすのであった。
●
「澪奈!」
彪が、常人離れした怪力で、庇いに入った敵Dfを空中に跳ね上げる。
「了解だよ、アニキッ!」
攻撃を加えると同時に彪は後方に下がり、代わりに澪奈が前へ! 黒髪の隙間から垣間見える黄金の瞳は、肉食獣としての本能を露わにしながら、同時に冷徹さを宿し、黒々とした体毛に覆われた澪奈の腕が、ダモクレスを勢いよく地面に叩き付けた。
「グゥッ……!」
ケルベロスから集中砲火を受けていた敵Dfが、堪らず呻きを上げる。
(合流するまでは、倒す訳にはいかないんだよね。気を付けないと!)
敵Dfを仕留めるまで、そう時間はかからないだろう。七星は冷静にそう分析しながら、咆哮を上げて自らに付与されたBSを吹き飛ばし、守りを固める。すると案の定、敵CrとSnのダモクレスが、Dfへの追撃を避けようと、銃弾を連射してくる。
「あいたたたたたっ!」
オウガメタルで身体を守護するクロエにも、いくつもの銃弾が掠め、血飛沫が舞う。
その時──!
「お待たせっす!」
下水道に届く、蒲の声。少し遅れて、クロエの全身を金属片を含んだ蒸気が包んだ。
「……早かったな。見ての通り、誰の命も失わせてはいないぞ?」
嘉久が振り返れば、桜色の光と共にサクヤビメを操る蒲……それにアリカとガジェッティア3人の姿も。
ダモクレスは残霊とはいえ、6対3という戦力差は大きかったが、誘導が上手くいったようで現状の被害としては問題ない範囲。
「っ!」
それでも、傷を負った仲間……未だ聳え立つダモクレスを眼前に、アリカは一瞬だけ息を呑む。だが、
(情けない姿を見せる訳にはいかないわよね!)
恐怖を踏み越え、希望を与えるためにアリカはコンテナからガジェット──鋼鞭を瞬時に取り出すと、ダモクレスを強かに打ち据えた!
敵Crが思わず後退し、Dfが膝を突く。
「ようやく剣聖が残した技を、思う存分てめぇらに見せてやる事ができるみてぇだな!」
膝をついたダモクレスに、結奈が遠距離から喰霊刀を一閃させる。
「上泉の剣が壱、空の刃! 受けてみやがれ!」
生み出された真空の刃は、空を覆うスモッグすら切り飛ばしかねない風圧を巻き起こしながら、ついには一体目のダモクレスを両断!
「……こんな、夢みたいな事が……」
消滅するダモクレスに、つなぎの少年が呆然と声を発する。少年だけではない。
「……でも……私……これ、知ってる……?」
「……すごい」
清楚な少女も、勝ち気な少女も、少年と同じような表情。デウスエクスを打ち破るなんて、彼らにとっては夢想の中の世界。だが、その夢想はドドメを刺した上泉・結奈達ケルベロスの手によって現実となったのだ。
「無事でっ……良かったです!」
呆然とするガジェッティア3人の元に、留守を預かっていた女性が駆け寄り、抱きしめる。それにより、ガジェッティア3人も、その温もりに安心したようにへたり込んだ。
「本当に……勝てるのか?」
しかし、三人の瞳に奥に宿る希望は、まだ蘇り始めたばかり。これまで何度も踏みにじられた心は、そう簡単には完全復活には至らない。
「やられっぱなしで悔しくないのか? ……憎くないのか? 俺たちが来なければ死んでいたかもしれん、何もかも奪われたかもしれない……お前達は負けたまま終わるのか?」
そんな弱気を抱く三人を鼓舞するように、彪が問うた。お前達の希望とは、何だと。
「絶望なんて知るか! 目の前の、アタシたちを見ろ! これがアンタたちが生きていく……『今』なんだから!!」
そしてクロエも、僅かな疑念を吹き飛ばすように告げる。彼女の人体自然発火装置は猛威をふるい、その効果を与えられた銃弾が、あれだけ恐ろしかったはずのダモクレスを炎上させていた。
「お前達は決して諦めなかった。生きるため、仲間の為に抗い続けたお前達の意思は強い。だから──その希望を誇るべきだ」
嘉久が、手を掲げる。嘉久の怒りを触媒とし、零式鉄爪から目映い閃光が迸った。
「……っ」
ガジェッティア3人や、アジトの人々が目を閉じる。そして、目を開けた時、前衛にいたダモクレスは焼け焦げ、崩れ落ちる。
世界がまた一つ、変わる瞬間であった。
「ドウイウコトダ?」
残された最後のダモクレスが、そう呟く。そこに感情は込められておらず、仲間を失った事に対する悲しみもない。ただ淡々と、分析しているような様子。
「残霊といえど、その辺りはダモクレスそのものだな」
蒲が、口を窄める。常人の感性を有する彼としては、仲間の死をただの情報と扱う敵に共感できるはずもない。
「神話検索、展開……再構築。冠するは『天叢雲』、汝総てを切り拓く者なり」
だが、それを敵に伝えたとことでどうにもならない。蒲が命じると、サクヤビメが展開、変形する。成した形は、模倣された古代の神剣──天叢雲剣。一凪ぎすると、その名に恥じぬだけの切れ味と共に、ダモクレスに深々と傷を刻む。
「見ていて! 諦めなければ、きっと明日も笑っていられるはずだから!」
もう一度、重ねて澪奈が告げる。それは、本来恐がりな自分に対する自己暗示の面もあったのだろう。「……強がりやがって」その事をよく知る彪が心配する前で、
「…加減は、出来ないよッ!」
澪奈は稲妻の如くダモクレスに接敵すると、呪われし鉤爪の力を解き放つ。
そして、その時。
「諦めないわ!」
勝ち気な少女が言うと、残る少年と少女も力強く頷く。呼応するように、頑張れ! アジトの人々の応援が、下水道を満たしていく。
「彪君!」
「ふん、言われなくとも!」
ドリルを正面に突きだして突撃してくるダモクレスを、七星がゲシュタルトグレイブとオウガメタルを器用に操って受け止める。それでも勢いに押され、数メートル轢きづられる七星の奮闘を無駄にしないため。今や完全に『味方』となったアジトの面々に応えるため。彪は魔法光線を放ち、ダモクレスをその場に縫い止めた。
「とっておきを使ってあげる!」
「私もお見舞いしてあげるわ!」
さらに、傷だらけにされた借りを返すため、七星がガジェットのトリガーを引く。放たれた弾丸は、彼女の得意とするところの属性──雷の力が込められており、ダモクレスの行動を制限させようとする。
追撃にアリカの発火装置も発動し、ダモクレスの全身からは白い蒸気が溢れ始めた。
「武器は、見た目だけじゃないと思え」
嘉久が零式鉄爪を横薙ぎさせると、無数の仕込み針がダモクレスに突き刺さる。途端、蒸気を上げながらも攻撃を仕掛けようとしていたダモクレスの動きが止まる。
「術式、セット! 食らえ、増やせ、呪え…その身を呪詛で覆い尽くすまで! 咆哮の紫、シュート!」
文字通りの案山子となったダモクレスに、大気を震わせる程の咆哮と共に、ヘビを成した弾丸をクロエが放つ。ヘビの毒で増幅された呪詛は、ダモクレスに燻る炎の勢いをさらに煽り始める。
「これで終わりだ!」
結奈の振るう喰霊刀が、ダモクレスに深々突き刺さる。呪詛を受け、ダモクレスの体表は徐々に白く染まり……やがて無に帰した。
「アタシの術式はいつでも最高!」
クロエの勝利宣言が、いつまでもアジトに木霊していた。
●
「──という訳だ。あー、あたしこういうの柄じゃねぇんだ。今の説明で分かったかよ?」
落ち着いた所で、結奈がガジェッティア3人に諸々の状況の説明をしていた。雑ではあるが、必至に説得する彼女の姿にクスリと笑いながら、3人が無事に頷いてくれ、結奈もホッと安堵を浮かべる。
「私達も、つい先日までは、貴方達と一緒だったんだよ……」
一先ず納得してくれた所で、澪奈がポツリと、自身の住処を滅ぼされた境遇を口にする。それ事態は、非常に涙を誘うものであったが……。
「あはは、ごめんね? お兄ちゃんは私の事大好きだからさ」
「……悪いかよ、あとこっち見るな」
戦闘終了後から澪奈の腰に抱きついたままの彪の存在で、悲劇は幾分緩和されていた。
「ジョブが僕と同じって事は、僕がお手本になるように頑張らなきゃいけないね」
一歩を踏み出すなら、長い付き合いになるかも。七星が、そう握手を求める。
「このロボットとゴーレム! すっごい気になる!」
その横で、アリカは残されたガジェットに興味津々な様子で、分解させてもらったと言う七星を羨んでいた。
「ま、ようこそ新しいお仲間さん。一緒にぼちぼちやろうか」
蒲は言葉ではそう気楽に言うが、その表情には溢れんばかりの達成感が滲んでいた。
「撤退するぞ、準備はいいな?」
時間はない。最後に、嘉久はそう確認をとる。
「「「行ってきます」」」
これは作られた世界。そう知ってもなお、ガジェッティア3人はそう心から告げ、
「行ってらっしゃい!」
アジトの人々はいつものように、そう送り出すのであった。
作者:ハル |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年1月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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