冬の夜に、温もり誘う、コタツトル

作者:飛翔優

●温もりの終着点
 年の瀬が近づき、寒さがより厳しいものに変わっていく12月。人々は文明の利器を用いて暖を取る。
 暖炉や湯たんぽと言った昔ながらの品物から、暖房やホットカーペットといった機械まで。人々は己にあった品を選び、凍えるような夜を乗り越えていく。
 何度も、何度も人を守ってきたのだろう。古ぼけた電気炬燵がマンションの粗大ゴミ置き場に捨てられていた。
 布団はなく、天板は隣に立てかけられている。テーブルはところどころ切り傷や刺し傷が刻まれており、中には欠けている箇所もある。熱源にいたっては網が破れており、人が直接内部に触れることができる状態だった。
 切り傷や刺し傷の多くは塞がれ、欠けている箇所にも何かが貼り付けられていたような跡がある。きっと、元の持ち主は簡単な修理を行いながら何年も何年も大事に使い続けてきたのだろう。それでもついに網が破け、熱源が壊れ……この電気炬燵は役目を終えたのだ。
 今は冷たい風に抱かれながら待っている。朝日の訪れと共にやってくるトラックが終着点へと運んでくれる、その時を。目的を同じくする仲間とともに。
 ――関係ないとばかりに、奴は来た。
 月明かりにコギトエルゴスムを輝かせ、機械でできた蜘蛛の足を忙しなく蠢かし、値踏みするかのように粗大ゴミの間を駆け回り。
 勢いのまま電気炬燵に飛び込んだ!
 赤い温もりが広がっていく。
 次の瞬間には布のような模様をした鉄のカーテンに遮られた。
 姿形だけは元の形を取り戻した電気炬燵は、もぞもぞと体を振動させ……。
「こ……たつ……こー、たつ!」
 亀のような頭と手足を伸ばし、ゆっくりと前へ、前へと歩き始めた。
 与えられたダモクレスの力を使い、グラビティチェインを奪うため。
 何十倍にも膨れ上がったその熱で人を殺すため……。

●ダモクレス討伐作戦
「なるほど、それでこうして……ですか」
「ああ。だからこれから……」
 バジル・ハーバルガーデン(薔薇庭園の守り人・e05462)と会話していたザイフリート王子(エインヘリアルのヘリオライダー)は、足を運んできたケルベロスたちと挨拶を交わしていく。
 メンバーが揃ったことを確認し、説明を開始した。
「バジルの予想を元に、埼玉県の市街地の粗大ゴミ置き場に捨てられていた電気炬燵がダモクレスになってしまう事件を察知した」
 幸いまだ被害は出ていない。しかし、ダモクレスと放置すれば多くの人々が虐殺されて、グラビティ・チェインを奪われてしまうだろう。
「そうなる前に、退治してきて欲しい。続いて、現場の情報に移ろう」
 地図を広げ、市街地の外れにあるマンションにマルをつけた。
「発生場所はこのマンションの粗大ごみ置き場。そのため、この場所を起点に捜索を開始するのが良いと思う」
 ダモクレスは獲物を探している。そのため、近くを歩いていれば向こうから寄ってくる可能性も高い。
「目印としては……そうだな。このダモクレスの周囲は防寒具が必要ないほどに温かい空間となっている。そのため、空気が温かい方を探っていけばいずれ出会えるだろう」
 時間帯は午前二時頃。人通りは少ないため、人払いなども最小限行うだけで良く、戦いに集中する事ができる。
「次は、今回戦うダモクレスの情報だな」
 姿は概ね、電気炬燵を甲羅代わりにした機械製の亀。布団は金属製でなっており、その内部では熱が何十倍にも高められている。
 戦闘方針は、その凄まじい熱量で出会ったものを蝕もうとしてくるだろう。
 グラビティは3種。
 電気炬燵に手足を引っ込め、回転しながら周囲に体当たりをかまして加護を砕く。
 内部で増幅していた熱を解放し、敵陣を焼き払うほどの熱波を放つ。
 周囲に漂わせる熱を調節し、1人に対して優しい温もりを与え心を奪う。
「以上で説明は終了となる」
 ザイフリート王子は資料をまとめ、締めくくった。
「暴走するダモクレス、放置することなどできない危険な案件だ。どうか、全力での戦いをよろしく頼む」
 誰かが犠牲になってしまう、その前に……。


参加者
レクシア・クーン(咲き誇る姫紫君子蘭・e00448)
エピ・バラード(安全第一・e01793)
霖道・裁一(残機数無限で警備する羽サバト・e04479)
スミコ・メンドーサ(グラビティ兵器技術研究所・e09975)
ルチアナ・ヴェントホーテ(波止場の歌姫・e26658)
尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)
雪白・黒那(彷徨える紫焔の刃狼・e41072)
愚呂地・ケイ(破滅を求める者・e44606)

■リプレイ

●冬空の下で炬燵を探して
 1つ、また1つと、地上から星が消え行く冬の夜。炬燵型のダモクレスを探しに来たケルベロスたちは発生場所であるマンションの粗大ごみ置き場に集い、簡単な調査を行っていた。
 炬燵が置かれていたと思しき空間の周囲にある粗大ごみを調べていた雪白・黒那(彷徨える紫焔の刃狼・e41072)は、白い息を吐き出していく。
「ほのかに暖かな気もするが……この場にいた形跡はあれど、どちらへ行ったなどといった跡はなさそうじゃな」
 今回のダモクレスの最も大きな特徴は熱、続いて亀に似た姿であり動きもまた同様であること。土や植物が多い場所ならばともかく、コンクリートに抱かれた道路で痕跡を探るのは難しい、といったところだろう。
「それでは、行きましょうか。誰かが犠牲になってしまう前に」
 そのことを頭に入れて探索しようと、レクシア・クーン(咲き誇る姫紫君子蘭・e00448)が仲間たちを促していく。
 頷き返したケルベロスたちは四方八方へと散らばり、個人での捜索を開始した。

 元々上空から当たりをつけた上で探索していたスミコ・メンドーサ(グラビティ兵器技術研究所・e09975)ははじめに、公園の乾いた土を発見した。その先にはボロボロの落ち葉、焦げ付いた臭い。
 凄まじい熱量を持っているダモクレスが通った後だと断定して進んだ先、アパートの前を通る丁字路に奴はいた。
「見つけたよ、場所を送るから合流を。もし危険があるようなら、先に仕掛けるよ」
 ダモクレスが発してるのだろう冬の夜とは思えない温もりに抱かれながら電信柱の影に身を隠し、観察する。
 アパートを素通りして商店街の方角へのっしのっしと歩いていく、布団部分を鋼鉄で固め炬燵を甲羅とした亀といった姿を持つダモクレスを。
 気づかれぬよう次の電信柱へと移った時、霖道・裁一(残機数無限で警備する羽サバト・e04479)がやって来た。
「俺が最初みたいですね。戦力的な不安もありますし、今しばらく待ちましょうか」
 頷き合いながら、再び観察に移行。
 家屋には興味も示さずただただ歩いて行く様を見つめながら、裁一はひとりごちていく。
「それにしても、なんかこう、これから亀みたいな形状の相手を集団でぼこぼこにするわけですが、浦島太郎を思い出しますね。まぁいじめられるほど弱くないのと竜宮城でなくあの世に連れてきそうな亀ではありますが」
 返答がなされる前に1人、また1人とケルベロスたちは集まっていく。
 幸い、全員集まるまでの間に誰かが近づいてくる気配はな。そのため、ダモクレスの足で1分ほど進んだ先にある、少しだけ広い十字路へ到達した時に仕掛けると決められた。
 ケルベロスたちは各々の準備を行いながら、ゆっくりとダモクレスとの距離を詰めていく……。

●肌を焼く熱を乗り越えて
 ダモクレスが十字路の中心へと到達した時、スミコは駆けた。
 半ばにて翼に似せた機構を用いて低空を跳びつつ、漆黒の魔槍に雷を走らせていく。
「戦闘開始、まずは足止めを……!」
 勢いのまままっすぐに突き出せば、固き布団とぶつかり合い硬質な音を響かせた。
 直後、ルチアナ・ヴェントホーテ(波止場の歌姫・e26658)がスミコごとダモクレスを飛び越え、正面へと回り込んだ上で聖銀の拳を握り込んでいく。
「コタツと戦うの、これで2回目だわ。今年もしっかりやっつけてあげるからね」
 亀のように伸びている頭めがけて突き出せば、横を抜け天板の部分へと叩きつけた。
 澄んだ音色と共に小さな霜が降りる中、エピ・バラード(安全第一・e01793)はテレビウムのチャンネルと共に右の側面へと回り込んだ。
「それじゃ行くよ、チャンネル!」
 頷く代わりに、チャンネルは凶器を振り上げた。
 振り下ろされるタイミングに合わせ、高速回転する拳を突き出していく。
 凶器が弾かれた直後、布団に押し付けた拳がガリガリと表面を削り始めていく。
 一方、裁一は右側面へ到達するや電信柱を足場に高く高く跳躍した。
「まずは一撃……!」
 月を背負い、落下の勢いを乗せた蹴りを放つ。
 近づくに連れて体が汗ばんでいくのを感じ、踏みつけると共にため息1つ。
「まぁ出る季節間違えてるダモクレスよりマシですけど、熱すぎるので俺は遠慮しときます」
 飛び退り、距離を取る。
 直後、エピも動きを止めた。
 その場に留まり身構えた。
「さあ、来てください、あたしが抑えます!」
 呼応したかのように、ダモクレスは手足や頭を引っ込めた。
 ぐるぐるぐるぐると甲羅のような炬燵を回転させた後、勢い良くエピに向かって跳ねてくる。
 オーラを全開にし、正面からその体当たりを受け止めた。
 凄まじい熱が体を焼き、回転がボディを切り裂いていく。
「っ、まだまだぁ……!!」
 可能な限り抑えると力を込め、10数秒ほど耐えた後に手放した。
 その後もダモクレスは跳ね回るも、最初の勢いはない。
 他のケルベロスたちに被害を出さぬままに止まる中、ルチアナが竜の幻影を解き放つ。
「これは、わたしが倒した灼獄竜メツェライの幻影よ。最強のドラゴンが繰り出す本当の炎を見せてあげる」
 促されるがままに駆ける竜の幻影は、頭と手足を出したばかりのダモクレスを飲み込んだ。
 さらなる熱がダモクレスを包む中、愚呂地・ケイ(破滅を求める者・e44606)が距離を詰めていく。
「ほんと、近づくと暑いね。でも……」
 額に汗をにじませながら重力の力を叩き込み、鉄のボディを激しく揺さぶった。
 直後、空高く飛び上がっていた尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)が天板の中心に着地する。
 大きな金属音が響き渡る!
「……安心しろ、しっかり壊してやるぜ」
 地面に押し付けられたダモクレスは動きを止めた。
 熱が収まることはない戦場で、スミコは背後へと回り込んでいく。
「悪いけど、もらった!」
 魔槍を震えば、天板の端に小さな切り傷。
 されど答えた様子なく、ダモクレスは再び動き始め……。

 布団が駆動し内部が夜風に晒された時、肌を焦がす程の熱波が放たれた。
「過ぎたるは猶及ばざるが如し。この時期恋しい暖もデウスエクスにかかればこうなってしまいますか……」
 そのほとんどを、レクシアは広げたオーラで受け止め自身に収束させていく。
 本来ならば焼かれてもおかしくないほどの熱を感じながら、レクシアは左右に視線を送る。
 守りきれなかった仲間を確認し、柔らかな光を輝かせた。
「大丈夫、私が守り、癒やします」
「無理はするでないぞ。仲間がいるのじゃ、辛いのなら一旦下がると良いぞ」
 黒那もまた満月に似たエネルギーをレクシアに渡し熱を和らげる。
 さなかにもダモクレスを観察し続けた。
 回転しながら跳ね回る体当たりにせよ、熱波にせよ、心を奪う暖かな熱にせよ、予備動作は分かりやすい。そのため、ある程度は被害を抑えることができていた。
 しかし、それでもなお各々の力は強く、時に刻まれた熱が、心揺さぶる力がケルベロスたちを蝕んでいた。
 油断はできないと考える中、ダモクレスが手足を引っ込める。
 今度はそのまま、地面に根ざしたような仕草を見せ……。
「皆さん、下がって下さい。私が受け持ちます」
 正面へと踏み込んだレクシアを包むかのように、穏やかな熱が漂い始めた。
 それは、心を奪う力を持つ魔性の熱。
 すかさず黒那は気と重力でできた無数の件を上空に浮かべ、前衛陣へとその切っ先を向けていく。
「儂を信じて避けるでないぞ!? 撃刃・黒牙、祓雨ッ!」
 飾り気のない剣が次々と前衛陣に降り注ぎ、傷と暖かな熱の誘惑を貫き癒やした。
 澄み切った思考の中、ルチアナは待つ。
 ダモクレスが再び顔を出す、その瞬間を。
「……今!」
 ダモクレスが顔を出した瞬間、カメラアイめがけて閃光を。
「神さまの景色を見せてあげる」
 視界も思考も穿けば、ダモクレスは全身を震わせ3歩分ほど退いた。
 けれど、熱が収まることはない。
 より高まっているようにすら思える。
 それはより強い敵意を燃やしているからか、それとも自分の熱をコントロールできなくなっているだけなのか。
 ケルベロスたちは立ち向かう。近づくだけで肌をひりつかせるような熱を乗り越えて……。

●世界を温め焼く炬燵
「亀らしくもっと大人しくしてください」
 裁一は差し込む。
 布団と天板の隙間に、1本の注射器を。
 エネルギー回路と思しき場所に怪しく泡立つ薬液を注入した。
 ダモクレスは異音を立てていく。
 動きも心なしか鈍ったように思えたから、広喜は正面へと踏み込んだ。
「もともと硬い甲羅任せで避ける素振りすら見せたことなかったが、こいつはどうだ」
 額を人差し指で突っつけば、薄く広がる灰の色。
 嫌うかのように、けれど緩慢な動きでダモクレスは首を手足を引っ込めた。
 広喜たちは飛び退る。
 エピはチャンネルと共に踏み込んだ。
 回転を加速させながら跳ね回り始めたダモクレスを、オーラを巡らせた両羽腕で受け止めていく。
「っ、これなら……!」
 半ばにてチャンネルも飛びつき、ダモクレスを押さえ込む。
 エピの腕の中、ダモクレスは完全に動きを止めた。
「今だよ!」
 エピはケイのいる場所へとダモクレスを放り投げた。
 ケイは不適な笑みを浮かべたまま、まっすぐに右掌をかざしていく。
「寒空にあるせっっかくの熱源だし、本当なら温まってぼーっとしていたいんだけどね」
 凄まじい電流をほとばしらせ、ダモクレスの全身をスパークさせていく。
 そのまま勢いを殺せず落下していくダモクレスに、黒那が無数の刀剣を差し向けた。
「撃刃・黒牙、威呪。さあ、しっかりと眠らせてやろうではないか」
 大事に使われたであろう炬燵が、誰かを傷つけることがないように。
 刃は天板を、布団を貫き、ダモクレスを地面に縫い止める。
 構わず飛び出してきた前足には、裁一が1発の弾丸を打ち込んだ。
「冬の寒さを食らうべし!」
 視線の先、凍てついていく鋼の前足。
 装甲ごと氷を切り捨て歩き始める素振りを見せたダモクレスめがけ、レクシアはまっすぐにジャンプキック。
「……もう、ずいぶんと涼しくなったのですね」
 天板を捉え、吹っ飛ばす。
 電信柱を砕き、押しつぶされるかのように埋もれた。
 けれど熱が止むことはなかったから、スミコは再び影に紛れていく。
「……そこだよ!」
 ダモクレスが電信柱を押しのけた直後、装甲の剥がれた前足を魔槍で貫いた。
 激しく前足が爆発し始める中、ケイは解き放つ、虚無の球体を。
「お休み。もう、君の役目は終わったんだからね」
 吸い込まれるように布団の中へと入り込んだ球体が、内部からダモクレスを破壊する。
 小さな爆発音が聞こえてきた。
 布団や天板の隙間から火花も散り始めた。
 熱は止まない。
 広喜が踏み込む。
 解放した腕部パーツから青い地獄の炎を噴出させ、まっすぐに拳を振り下ろした。
「どっちが先に壊れるか、勝負しようぜ」
 何度も、何度も、何度も。
 熱が冷める、その時まで。
 熱が自身の腕の炎が齎すものと気がつく、その時まで……。
「……よく頑張ったな。お前の任務は、完了だぜ」
 武装を収め、広喜は笑う。
 もう、残滓すら伺えない残骸と化してしまったけれど。
 それでも残り続ける戦場の熱が、ダモクレスが存在していたのだと教えてくれていて……。

 多大な熱の発生源が消え、残されたのは汗ばみながら戦っていたケルベロスたち。
 冬の冷たい風を受け、エピは体を抱きしめる。
「さ、さ、寒いです!! 倒しちゃったので暖房がー!」
「そうね、本物のコタツが恋しくなっちゃった。帰りにミカン買っていきましょう」
 ルチアナは微笑み、駅の方角へと視線を向けていく。
 一方、広喜はダモクレスの残骸を拾い始めた。
「その前に、片付けてやらないとな」
「そうだね。本当はゆっくりと眠るはずだったんだろうし……壊れたコタツが転がってたら、地域の人も困るだろうしね」
 ケイが頷き、作業を手伝い始めていく。
 他の者たちも彼らに倣い、残骸の回収や各々の治療といった事後処理を開始した。
 平和が訪れたからこそ吹き付ける風に体を震わせながら。
 冬の星々に、明るい月に見守られながら……!

作者:飛翔優 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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