失伝救出~絶望に涙する者達の歌

作者:質種剰

●大侵略期の終わらない一幕
 石造りの建物。
 中は見た目よりも広々として、装飾こそ少ないけれど全体的に荘厳さを感じる佇まいで、調度のひとつ取っても上品である。
 まさしく大聖堂の呼び名に相応しい場所は今、多くの避難民が集まって雨風をしのいでいた。
 そして、避難民を守るように正面の門側へ居並ぶ人々。皆一様に法衣を着ている。
 彼らこそが失伝ジョブの一つ、パラディオンとして生きる者達であった。
 ——ドォォォン!!
 突然、大聖堂を振動が襲うと共に、大扉が破壊された。
「きゃぁぁぁ!」
 扉の外から見えるのは、巨体を活かした体当たりの犯人、ドラゴンの姿だ。
 避難民が怯える中、パラディオン達は互いに頷き合って、歌を歌い始める。
 悪を一切寄せつけぬ清浄な響きの歌声が、ドラゴンの侵攻を食い止めた。
「皆、罪もない人々を我々の手で守るのです。ドラゴンを仕留める事はできなくても……」
 歌う合間も、互いに互いを励ますパラディオン達。
 だが、
「後は……頼み、ま……」
 定命の身に過ぎたる奇蹟を降ろすのは、死ぬ危険性の少なくない行為。
 避難民をドラゴンから守ろうと歌い続けたパラディオン達は、ひとり、またひとりと命を落としていく。
「……ドラゴンはいつになったら諦めて去っていくんだ」
「私達、いつまで皆の死を見続けなければならないの……?」
 例え自分の死を厭わずとも、仲間の最期を何度も間近で目にしたら、心が磨り減るのも当然で。
 パラディオン達は、残霊となって再び歌う為に立ち上がり、そして二度三度と倒れ臥す仲間を見て、いつまでも終わらない防衛戦に絶望していた。


「皆さん、先日は寓話六塔戦争の勝利、おめでとございました♪」
 小檻・かけら(清霜ヘリオライダー・en0031)が、ぺこりとお辞儀する。
 かの戦争で囚われていた失伝ジョブの人々を救出でき、更に、救出できなかった失伝ジョブの人々の情報まで得られたりと、本当に実り多い戦いとなった。
「その情報とわたくしどもヘリオライダーの予知を照らし合わせた結果、失伝ジョブの人々は『ポンペリポッサ』の用意した、特殊なワイルドスペースに閉じ込められていると判明したであります」
 人々は特殊なワイルドスペースの中で、大侵略期の残霊の引き起こす悲劇を延々と繰り返させられている。
「恐らくは、失伝ジョブの人々を絶望に染めて、反逆ケルベロスとする為の作戦だったのでありましょう」
 だが、寓話六塔戦争に勝利した結果、彼らが反逆ケルベロスになる前に、救出する事が可能となった。
「どうか、特殊なワイルドスペースに乗り込み、繰り返される悲劇を消し去って、閉じ込められた人々の救出をお願い致します」
 かけらは深々と頭を下げた。
「特殊なワイルドスペースは、失伝ジョブの方々だけが出入り自由なのであります」
 その為、この作戦に参加できるのは失伝ジョブを持つケルベロスのみとなる。
「また、特殊なワイルドスペースには失伝ジョブの方に対して『自分が大侵略期に生きている』と誤認させる効果があります」
 この効果は、失伝ジョブを有していれば誰にでも等しく影響を与える為、長時間ワイルドスペース内に留まると、救出対象の人々と同様にワイルドスペースへ囚われてしまう。
「さて、ワイルドスペースに囚われている人々の失伝ジョブはパラディオン、彼らを苦しめている大侵略期の残霊はドラゴンであります」
 ドラゴンと言えば強敵のイメージだが、今回の個体は残霊故に本物のドラゴン程強くなく、8人のケルベロスで充分撃破出来るだろう。
「残霊のドラゴンは、口から氷の息を射程自在に吐いて斬られたような痛みを与え、複数人を頑強な氷に閉ざそうとするであります」
 また、手足の爪を超硬化して、目の前の敵単体を超高速で貫き、呪的防御を破壊する。
「太い竜の尻尾を振るって、近くにいる敵を複数纏めて薙ぎ払う事もありますね。足止めされるのに注意であります」
 特殊なワイルドスペースの中に入れば、すぐに大聖堂を発見できる筈だ。
「ワイルドスペースの中で発生している悲劇は、実際に起きた過去の悲劇が残霊化したものであります。救出対象者以外の一般人は全て残霊でありますから、残念ながら助けられない事を覚えておいて下さいましね」
 かけらはそう言って説明を締め括った。


参加者
黎薄・悠希(憑き物の妖剣士・e44084)
黒岩・詞(エクトプラズマー・e44299)
紅楼夢・紫月(オラトリオの妖剣士・e44322)
蟹谷・アルタ(美少女ワイルド研究者・e44330)
リア・クェルス(騙るに堕ちる・e44431)
ノアル・アコナイト(黒蝕のまほうつかい・e44471)
ウリクセス・ウーティス(オリュンポス大首領の影武者・e44502)
シャイン・セレスティア(光の勇者・e44504)

■リプレイ


 大侵略期を再現したワイルドスペース。
 ドーー……ン!
 響いてきた激しい体当たりにも負けない、澄んだ歌声が聴こえてくる。
 ケルベロス達は薄暗い視界の中でも清らかな歌を頼りに、大聖堂へひた走った。
「皆、よく頑張ったわね……私達は味方よ、こんなドラゴン、直ぐにとっちめてやりましょう!」
 まずは、黎薄・悠希(憑き物の妖剣士・e44084)が先陣を切って、大聖堂とドラゴンの間へ割り込んでいく。
 澄んだ青い瞳と髪を持つ、オラトリオの妖剣士の悠希。
 しかし、普段は妖剣士どころかオラトリオである事すら隠し、地球人と偽って生活している。
「まずはご挨拶の一撃よ!」
 悠希はパラディオン達へ明るく語りかけてから、ドラゴンへ向き直ってその懐に飛び込んだ。声が楽しそうに弾んでいる。
「五ノ刻、黎明。十七ノ刻、薄暮。始り、終わりの交わり、来たりて――――宵闇、瑠璃斬!」
 刹那、グラビティによって黎明と薄暮を交じり合わせて、生まれた瑠璃色の世界から目にも留まらぬ神速の一撃を、ドラゴンの首筋へ打ち込んだ。
「ドラゴンに攻撃が効いてる……!?」
 パラディオン達は、信じられない光景を見る心地なのだろう、驚いて一瞬歌うのを忘れている様子だ。
「パラディオンの皆さん! あのドラゴンが皆さんを囚えている元凶です! ここは私たちに任せて、皆さんは避難を!」
 次いで、シャイン・セレスティア(光の勇者・e44504)が大聖堂の正門から中へ向かって叫び、退避を促した。
 極々普通の家庭に育った少女だが、ある日『聖王女』の天啓を夢に見てパラディオンとなったシャイン。
 勇者としてデウスエクスと戦い、人々を守るのが使命だと信じている事からも、純情かつ責任感の強い性格だと判る。
(「終わらないドラゴンの猛攻に心が折れかけている彼らを勇気付けるのが、光の勇者としての私の役目でしょう」)
 ともあれ、シャインは前線に立つパラディオンらに届けと、懸命に声を張った。
「無駄に命を落とすのは聖王女様の望みではないはず。ここは同じパラディオンとして、私たちを信じていただけませんか?」
「人々を守れるならば無駄ではありません!」
「聖王女様自身命を賭して我々を御守り下さったではありませんか」
「奇蹟を降ろして誰かを救えるならば死など厭わぬ」
 シャインの隣人力故に彼らも警戒心を解いてくれたが、その分素直な反論が返ってきた。
 ここは、歌い続ける彼らが倒れるより先にドラゴンを倒すのが急務。
「すぐに終わらせないと……」
 シャインはバスタードソードを構えて深く腰を落とし、突撃姿勢を取った。
 さて。
「フハハハ! 待たせたな同胞たちよ! 我が名は秘密結社オリュンポスが大首領!!」
 この、世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの首魁——にしては、いつもの彼より動きが若々しく、いささかオーバーアクションだ。
 と言うのも、彼の本名はウリクセス・ウーティス(オリュンポス大首領の影武者・e44502)。
 秘密結社オリュンポスの首魁の影武者にして、義理の息子である。
 その為、普段から首魁と同じあの仮面を被り、普段は正体を明かそうとしない。
 この日のウリクセスは、敬愛する義父が語った『私に遠慮せずに、自身の思い描いた大首領をやってみろ』との言葉を胸に、彼なりの理想像を演じる事でパラディオン達の希望になろうとしていた。
「この地に捕まっている同胞達は……あれか!」
 と、外から見て左側に固まっている男女3人を我が目で確かめるや、ドラゴンへ飛びかかるウリクセス。
 零式鉄爪による超高速の爪さばきを披露しては、ドラゴンの硬い鱗をザクザクと容赦なく斬り裂いた。
 一方。
「私らが見つかってから、また助けれそうな同族が見つかったんやねぇ」
 紅楼夢・紫月(オラトリオの妖剣士・e44322)は、間延びした口調ながら感慨深そうに呟いた。
「なら、今度は私らが助けやんとねぇ」
 まさに烏の濡れ羽色な長い髪を後ろで束ね、そこへ咲いて絡みついた彼岸花にも似た深紅の瞳が儚げな、オラトリオの少女。
 左眼から鮮血を流し、携えた黒と紅の喰霊刀を肌身離さず持ち歩く、多少幼い雰囲気の妖剣士でもある。
「今までよう頑張ったなぁ、助太刀させてもらうさかい、今はしっかり休んどき」
 パラディオン達の命を懸けた防戦を優しく労ってから、天高く跳躍する紫月。
「長時間の戦闘は危険やし、とっとと終わらせやななぁ」
 煌めく流星の尾を引いた重い飛び蹴りを炸裂させて、ドラゴンの機動力を確実に削ぎ落とした。
「過去を再現し続けるワイルドスペース! 実に興味深いネ!」
 と、興奮して瞳をキラキラ輝かせるのは、蟹谷・アルタ(美少女ワイルド研究者・e44330)。
 ケルベロスやデウスエクスに対して多大な興味と研究意欲を持つ、自称研究者なレプリカントにして、ワイルド化した赤い髪と緑の瞳を有し、子どもっぽい見た目に反して中身はなかなかにスれたワイルドブリンガーである。
 ケルベロスへは挨拶代わりに混沌の水を浴びせようとし、デウスエクスの事は戦闘しながらその能力を研究しようとする、危ない思考回路の持ち主だ。
「できればじっくり調査したい——が、わかってるヨ。今回は救出優先だろう? 失伝者も貴重なサンプルだか……冗談冗談」
 とは言え、自らの興味より人命を優先させる良識もそれなりには持ち合わせていて、
「やあやあボクらが来たからにはもう安心!」
 アルタはパラディオン達を安心させる気遣いを見せつつ、
「どうだいこれぞカオススラッシュ! 味方を癒し敵を斬る、指向性のある斬撃! これはつまりワイルドの力は意志により変化する性質を持っているという仮説をより強く裏づける根拠と」
 ドラゴン相手には何故だかグラビティの講釈を延々と垂れ流しながら攻撃、混沌纏いし液状刃で奴の下腹を鋭く斬り裂いた。
「さて、絶望の檻に囚われた同胞を連れ出そうじゃないか。嘘のような本当の世界へ! ……なんてね」
 リア・クェルス(騙るに堕ちる・e44431)は、大仰な言い回しで失伝者救出の意気込みを語りつつ、さり気なくドラゴンとパラディオン達の間へ身体を滑らせて、彼らが攻撃対象から逸れるよう仕向けていた。
 裏社会で生き残るべく自分にも世界にも嘘をつき続けたと自称する、藍色のおかっぱ頭と黒い瞳がミステリアスなシャドウエルフ。
 己を欺き続けた末に虚構と現実の区別すらつかなくなった頃、失伝者の末裔たるブラックウィザードとして覚醒。
 その後、『自分がケルベロスである』という確かな真実を得て、自分自身を取り戻す為に戦う事を決めたらしいが、果たしてどこまで真実かは不明。
「いやあ、まさか僕が正義の味方たるケルベロスになるだなんてね。嘘みたいだ」
 感極まった風に呟くや、ドラゴン目掛けて駆け出すリア。
 エアシューズのローラーダッシュがどんどん摩擦熱を孕むのを良い事に、炎の纏った激しい蹴りをドラゴンの脇腹へぶちかました。
「ま、何であれ僕は僕の人生を謳歌するだけさ」
 嘯くリアはどことなく楽しそうである。
「さて、戦うのは久しぶりだけど……まだまだ現役! サクッとやっつけてみんな助けてやりましょうかね」
 そう溌剌とした風情で気合いを入れるのは、黒岩・詞(エクトプラズマー・e44299)。
 妊娠を機にタバコを辞め、都会で平凡に暮らしていたが、ある日ケルベロスとして覚醒。
 ドワーフの娘と同じ道を歩むべく、心霊治療士として現役復帰した、戦う母親である。
「私たちが来たからにはもう大丈夫よ。あんな奴はやっつけちゃうからねぇ」
 詞は黒地に彼岸花が鮮やかな着物姿という最終決戦モードで颯爽と登場、昇り龍の彫られた煙管を弄びながら、パラディオン達を励まして勇気を与えた。
 他方。
「わたしも失伝ジョブと呼ばれていた存在で、先の戦争でケルベロスの皆さんに助けられたんです……」
 ノアル・アコナイト(黒蝕のまほうつかい・e44471)は、残霊とはいえドラゴンと戦わねばならない事態にやや尻込みしていたものの、
「……だから、次はわたしが助ける番です!」
 と、懸命に己を叱咤して奮い立たせている。
 濡れ濡れとした銀髪と円らな赤い瞳、華奢な体格が大層可愛らしく、細身の体格やしなやかな手足がまるで少年のようなドラゴニアンのノアル。
 趣味は動植物を素手で駆除して呪術具を作る事——とは本人の弁。
 だが、傍から見れば野草でポプリを作ったり蜂の巣を回収して蜂蜜を絞ったりしている風にしか思えないそうな。
「わたし達はあなた達の味方です。あのドラゴンを倒して、一緒に帰りましょう!」
 ノアルは、敢えてドラゴンの背後からスターゲイザーを仕掛けて、奴の意識を大聖堂内のパラディオン達から逸らすべく奮闘していた。


「グァアァアァアッ!!」
 ドラゴンは、その大きな口から氷の息を吐いて、人々を凍らせようとしてきた。
「貴様の思い通りにさせては大首領の名折れであるッ!」
 すかさずウリクセスが身を呈して、紫月や、ひいては大聖堂内のパラディオンと避難民達をも、凍てつく吹雪から守り抜いてみせた。
 例え己は極寒の苦痛に襲われようとも、オリュンポスの確かな威光を示すべく、まさに新世代が動き出した瞬間である。
「あの日救われてから、初の依頼……これは、何が何でも成功させなくちゃね」
 悠希は、ブラックスライムのクロマを捕食モードへと変形させ、ドラゴンに嗾ける。
(「私を救ってくれたケルベロスさん達に恩返ししなきゃだし……きっと、今までにない新しい物語が、私を待ってる」)
 期待と決意に満ちた瞳の先、膨張したクロマはドラゴンを丸呑みにして、奴の動きを全身で縛めた。
「我が一撃は、彼の者を内より奪い尽くす!」
 生命力を喰らう仄暗く輝くオーラをオリュンポスソードに纏わせるのはウリクセス。
 ドラゴンへ向かって放たれたオーラに、さながら巨大な馬の突進するが如き幻影を見出せるのは、演出にも重点の置かれた一撃である為らしい。
「呪われた一太刀を受ける覚悟はあるかいなぁ?」
 紫月は、構えた妖刀からまるで血飛沫のように細かな斬撃を繰り出す。
 羽織から覗くシスター服の開いた胸元に返り血を浴びるのも厭わず、只々ドラゴンを呪って斬り刻む様には迫力があった。
「悪いが君はドラゴンとしては平凡ダ。残霊故に変化も期待できない。もう少し研究し甲斐のある所からやりなおしくれ」
 相変わらず饒舌なアルタは、このドラゴンがもし人語を解したなら神経を逆撫でするだろう挑発を見舞う。
 同時に、エアシューズのローラーダッシュをどんどん地面と摩擦させて、炎纏いし蹴りをドラゴンの鼻先へぶち込んだ。
「竜玄、貴方の技を見せてちょうだい」
 フゥッと煙草から吐き出した煙に、先祖である侍の霊・竜玄を憑依させるのは詞。
 煙の体を持って具現化した竜玄は、その変幻自在の体を活かした剣術でドラゴンを翻弄、幻惑してみるみる弱らせた。
「光の勇者の屠竜の剣、受けてください!」
 シャインはバスタードソードを横薙ぎに構えてドラゴンへ最接近。
 バキィッ!
 ドラゴンの首目掛けた剣を全力で振り抜き、奴の喉を確実に損傷させた。
「さ~て、いきますよー。んんー……はぁっ!」
 ノアルは覚悟を決めて肌を露出するや、胸部の魔術回路を起動して呼吸器も強化。
 一息で吸い込めるようになった大量の空気を圧縮して、グラビティと共に噴射、ドラゴンの頭部を実に正確な軌道で撃ち抜いた。
「弾幕は趣味じゃないんだけどね」
 リアは本人曰く呪詛を込めたという800発の弾丸を召喚。
 それらを一斉にドラゴンの腹部へ叩き込み、例え呪詛がかかってなくとも悶え苦しむ事間違いなしな激痛を与えた。
「ゲフッ……!」
 すると、今までずっと吹雪の如きブレスを吐き通しだったドラゴンが、突然ヒュッと空気の抜けたような音を出して、バランスを崩した。
 ズゥゥ……ン!
 そのまま地面に墜落、二度と動かなくなった。
「ドラゴンはとても強くて恐ろしい、と聞いていたんだけど……こんなもんかい?」
 ニィっと余裕を見せてリアが笑う。
 その後方、屋内からわっと歓声が上がった。
「凄い、あの人達本当にドラゴンを倒した!」
「……本当? 本当にドラゴンは死んだの?」
「私達助かったのね!? 良かった……!」
 パラディオンと避難民が手を取り合っているのを、複雑な思いで眺める8人。
 それでも、例え残霊であっても彼らを笑顔に出来たのは嬉しかったし、何より、救出対象の3人が喜びの輪に加わっているのを見れば、安心もした。
「ドラゴンを倒せるなんて奇跡だ」
「私達の代わりに皆を守ってくれて有難う……!」
 残霊達がこちらへ向かってお礼を言ってくる。
「これで終わり、っと。さてこんなところはさっさと出るかね」
 詞がさっぱりした物言いで、救出対象の3人へ脱出を促した。
「出るって……どこへ?」
 3人のパラディオンは、洗脳が解けかけているのか、不安そうに辺りを見回している。
「これは幻影やけど、デウスエクスとの戦いはまだ続いとるんよ。せやから、力を貸してくれへんかのぅ?」
 と、噛んで含めるように説明するのは紫月だ。
「戦いはまだ、終わってません。どうか、私達を信じて……付いてきて」
 悠希も優しく声をかけて、女の子を立たせてあげた。
「ウム、希望や勝機は常にある、絶望している暇はないぞ? まだお前たちの救いを求めている者たちがいるという事だ!」
 ウリクセスは首魁っぽい威厳のある態度を心がけ、重々しく語った。
「悪いね、続きは外で話そうか。ミイラ取りがミイラに、は御免だからね」
 リアが朗らかに言葉を添える。
 こうして、女の子は悠希が手を引き、2人の青年はウリクセスとアルタが——殊にアルタは大事そうに——抱え上げ、ワイルドスペースから脱出した。
 外へ出た途端、パラディオン3人の法衣が消え、現代風のファストファッションに変貌した。
「あれ……?」
「俺……今まで何してたんだっけ?」
 状況を把握できていない3人を見やって、うんうんと頷くのはシャイン。
「あれだけの猛攻に耐え続けた皆さんなら、私の仲間になる素質があるはずです!」
「仲間……?」
「というわけで、私の仲間になってくださる人はいませんかっ? 当方勇者ですので、戦士、僧侶、魔法使いを希望しますっ!」
 まるきりバンドメンバー募集のノリで、謎のパーティーメンバーを募り出した。
「え? え? じゃあ俺戦士!」
「俺……魔法使いかなぁ……パラディオンだけど」
「わ、わたし……僧侶で。パラディオンだもん」
 全く話についていけなくても、とりあえずノリだけでそれぞれ挙手するパラディオン達。
「ああ、ですが、皆さんまずは治療を受けないといけないですものね。もし気が向いたら、私の仲間になってくださいね」
 シャインは満足そうに微笑むのだった。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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