失伝救出~ぜんまい仕掛けのメモリア

作者:小鳥遊彩羽

 ガス灯が揺れる石畳の道を、薄汚れた服に身を包み、蒸気仕掛けの武器を携えた四人の少年少女達が駆けてゆく。
「こっちだ、早く!」
 少年の一人が叫び、『追跡者』達には通れないような細い路地へ入ると、その先にあったマンホールへ飛び込んだ。他の三人も少年を追い、抱えていた紙袋を改めて抱え直しマンホールの底へ降りていく。
 紙袋には、小麦が入った袋やソーセージなどの食料が入っていた。
 彼らはダモクレスに支配されたこの街から生活必需品を盗み出す、言わば盗賊だ。
「こんな時、あの人達がいてくれたらデウスエクスなんて」
 下水道を道沿いに歩きながら、ふと、少女がぽつりと落とす。
「あの人達……? 何だ、何か知ってるのか?」
 怪訝そうに尋ねる少年に、少女は続く言葉を探すように唇を開いたまま、やがて力なく首を横に振った。
「ごめん、ちょっと混乱してた。デウスエクスに勝てる人なんて居るはずがないのに」
「とにかく帰ろう、俺達の家へ。……帰って休めば落ち着くさ」

 ――だが、その時、少年は弾かれたように顔を上げた。
 皆が帰りを待っているはずの隠れ家、その方角から銃声と爆音が響いてきたのだ。
「な……、っ、急ごう!」
 駆けつけた彼らが目にしたのは、築き上げられた死体の山だった。
「あ……、ああっ……!!」
 少女は言葉を失くし、少年は呆然と立ち尽くす。死体の山の前に佇んでいたダモクレスは、彼らに気づいて振り返ると、丸みのある『何か』を、投げてよこした。
「なに、……っ、――あ、あああああ――ッ!!!」
 『それ』はまだ温かい、けれどもう生きていない、この隠れ家にいた少年の首だった。
 ダモクレスの哄笑のような機械音が響く中、四人の少年少女は一目散に逃げ出した。
 逃げなければ、どこか遠くへ、デウスエクスのいない世界へ。
 けれどそれが何処にあるのか、彼らは知らなかった――。

●ぜんまい仕掛けのメモリア
「寓話六塔戦争の勝利、おめでとう。これも、皆が皆の出来る限りの選択をして、頑張ったおかげだよ」
 トキサ・ツキシロ(蒼昊のヘリオライダー・en0055)はそう告げてケルベロス達を労い、この戦争で囚われていた失伝ジョブの人々を救出できただけでなく、更に救出できなかった失伝ジョブの人々についての情報も得ることができたと続けた。
「今回得られた情報と、俺達ヘリオライダーの予知によって、判明したことがあるんだ」
 そう告げるトキサの表情は、必ずしも明るいものではなかった。
 失伝ジョブの人々は、現在、『ポンペリポッサ』が用意した特殊なワイルドスペースに閉じ込められており、大侵略期の残霊によって引き起こされる悲劇を繰り返させられているという。
「おそらく、失伝ジョブの人々の心を絶望に染めて、反逆ケルベロスとする為の作戦だったんだろうね。でも、君達ケルベロスが今回の戦争で勝利を収めたことで、彼らが反逆ケルベロスになる前に救出することが可能となった」
 そのためには、この『ポンペリポッサ』が用意した特殊なワイルドスペースに乗り込む必要があるが、繰り返される悲劇を消し去り、閉じ込められた人々を救出してほしいとトキサは言った。
「この特殊なワイルドスペースに入ることが出来るのは、それぞれの失伝ジョブを持つケルベロスだけ。それ以外の人間は、一切出入りすることが出来ないようなんだ」
 これから向かうワイルドスペースにいるのは、失伝ジョブの一つ『ガジェッティア』の者達であるという。
 ワイルドスペースの中は街になっており、イメージ的には19世紀辺りの昔の異国の街並みで、その街はダモクレスに支配されている。救出対象のガジェッティア達はその街に忍び込んで食料品や生活必需品を盗むことを生業としているレジスタンスのような存在で、ダモクレスに追われながらも他のガジェッティア達が待つ隠れ家へ戻ると、その隠れ家は既に別のダモクレスによって壊滅させられており、それを見たガジェッティア達がその場から逃げ出す――という所で、再び同じ悲劇のループに入るのだという。
「皆には、この救出対象のガジェッティア達が帰ってくる前に、……いや、ダモクレスが隠れ家にやってくる前に先に隠れ家まで行って、そこでダモクレスを迎え撃って欲しい」
 現れるダモクレスは二体。だがいずれも残霊にすぎず、その戦闘力自体は高くはない。
 ケルベロスの力に目覚めて日が浅い者でも、油断さえしなければ負けるような相手ではないだろう。
「皆がダモクレスに打ち勝つ力を見せて、彼らの隠れ家と仲間達を守り抜くことが出来れば、彼らに希望を与えられる。そうすることで、絶望のループから彼らを救い出し、ワイルドスペースから一緒に脱出することも可能になる。でも、……皆が戦っている姿を彼らに直接見せなければ、希望を与えることは出来ないだろうね」
 そのためには戦いをかなり長引かせてガジェッティア達の帰りを待つか、或いは何人かが先にガジェッティア達と合流し、素早く拠点に連れてくる必要があるだろう、とトキサは言い添えた。
「想像するだけでも痛ましい悲劇を乗り越えて戦い続けてきた、失伝ジョブの先達のためにも、必ず助けてあげてほしい。――どうか、気をつけて」
 トキサはケルベロス達へ信頼を込めた眼差しを向け、そして、彼らに後を託した。


参加者
大道寺・悠斗(光と闇合わさりし超者・e44069)
ダンドロ・バルバリーゴ(冷厳なる鉄鎚・e44180)
華原・綺羅子(クライムバレエ・e44264)
カレン・シャルラッハロート(サキュバスのガジェッティア・e44350)
ソーンツァ・フォミナ(地球人のガジェッティア・e44416)
藍井・よひら(オラトリオの妖剣士・e44501)
朝霧・透子(トラペン・e44591)
ベルベット・ソルスタイン(身勝手な正義・e44622)

■リプレイ

 何度も繰り返される結末。絶望の終焉。
 デウスエクスに支配されたこの滅びゆく世界を救ってくれる誰かなど、何処にもいない。
 ――そう、思っていた。

 ワイルドスペースへ足を踏み入れたケルベロス達は、早速二手に分かれてそれぞれの目的地へと向かった。
 華原・綺羅子(クライムバレエ・e44264)とベルベット・ソルスタイン(身勝手な正義・e44622)は、救出対象である彼らを迎えに。そして、残る六名の同胞達は、残霊たるダモクレスとの戦いに。
「あなた方がレジスタンスの方々で間違いありませんわね?」
 目的の四人はすぐに見つかった。
 外の現実の世界と違う、過去の時間軸にある世界では、まだ定命化していなかったサキュバスの姿は敵と映るかもしれない。そう考えてサキュバスの特徴を隠した綺羅子とベルベットの姿は、一般的な地球人と変わりなく見えた。
 だが、突然現れた見知らぬ者達に警戒しないはずはない。まして極限状態の中で生きている彼らなら尚更だ。
「……誰だ、アンタ達は」
 リーダー格らしき少年の声は、ナイフの刃のような響きを帯びていた。それも承知の上で、ベルベットは静かに告げる。
「私たちはケルベロス。デウスエクスを倒す力を持つ者よ。あなたたちを助けに来たの」
「ケル……ベロス……?」
 聞き慣れぬ言葉に戸惑う少年達に、綺羅子が語る。
「隠れ家がデウスエクスに襲われております。あなた方を呼び戻すように託されましたの」
「何、だって……!?」
「今もわたくしたちの仲間が抵抗しておりますのよ、どうか一緒にいらしてくださいませ! ……皆様を助けるには、あなた方が必要なのですわ!」
 四人は互いに顔を見合わせ、やがて、リーダー格の少年がまだ迷うような表情ながらも口を開いた。
「その話は、本当なのか?」
 問う声に、綺羅子はしっかりと頷く。
「ええ、あなた方の隠れ家が、ダモクレスの群れに……」
 帰国子女ゆえ、平時はいわゆる横文字の言葉が流暢な英語の発音になる綺羅子だが、今は意識して聞き取りやすいよう発音していた。
「そっちじゃない、……いや、それもあるけど、――アンタ達が、ケルベロスが、デウスエクスを倒せるというのは」
 縋るような眼差しが、綺羅子とベルベットの姿を映す。
 何度も繰り返される絶望の結末。それが繰り返されているものと知らぬまま、少しずつ心を削られていた少年少女達。そんな彼らを見て、ベルベットは優しく告げる。
「何度でも言うわ。私たちは、あなたたちを助けに来たのよ。仲間のために危険を顧みず行動するその勇気、――とても美しいわ。……頑張ったのね」
「……っ!」
 少年達は今にも泣き出しそうな表情で、ぐっと唇を噛み締める。
 彼らにとってケルベロス達は、自分達の力ではどう足掻いても変えられなかった結末を変える力を持っているかもしれない、まさしく暗闇に差した一筋の光だった。
 何かを堪えるように唇を引き結ぶ彼らを促し、綺羅子とベルベットはマンホールの穴から地下へ、蒸気で動くゴーレムや、小動物型の機械達が掃除を行う横を抜けながら、少年達の隠れ家へ向かう。
 彼らの絶望を払い、希望の火を灯すために。
 自分達こそが、この歪んだ世界に終焉を齎す――楔となるために。

 一方。
 隠れ家へ先に駆けつけたケルベロス達は、今まさに扉を破ろうとしていたダモクレスの姿を確かめる。
「――させぬ!」
 迷いも躊躇いもなく、勇猛果敢に踏み込んだのは、ダンドロ・バルバリーゴ(冷厳なる鉄鎚・e44180)。隠れ家の扉とダモクレスの間に割って入ったと同時に、ダモクレスの持つチェーンソー剣の刃が繰り出され、細かい刃が抉るようにダンドロの身体を奔った。
「ダンドロさんっ、だ、大丈夫、ですかっ、……すぐに、少しですが回復します……!」
 藍井・よひら(オラトリオの妖剣士・e44501)がケルベロスチェインを展開させ、前衛を守護する魔法陣を描く。
 ケルベロスとして目覚めて日は浅く、ましてや戦いそのものが初めてで。黒鎖を繰るよひらの手は震えていたが、それを無理矢理抑えるようにぐっと鎖ごと拳を握って。
「お、おれも……おれだって、ケルベロスになったんですから……!」
 だから戦えるのだと、自分に言い聞かせるようによひらは呟く。
「そうだ。恐れることはない。我らはケルベロスとなり、そして、共にここに居る。負ける筈がなかろう」
 よひらの背を押すように、ダンドロは堂々とした態度で告げ――そして、改めてダモクレスへと向き直った。
「力無き者を助けるのは力ある者の責務。見事果たしてみせよう。――挫けぬ心よ、その身を鉄の壁と変えん!」
 ダンドロは鋭い眼光で敵を睨みつけ、体内のグラビティ・チェインを躍動させる。
 自身もまだよひらと同様、ケルベロスとして目覚めたばかり。ゆえに溢れるこの力を十全に使いこなすことは難しいかもしれないが、今の力で出来る、最善を。
 ダンドロの手から編み出されるのは、金色に輝く光の盾。ダンドロはその盾を己の力とし、ダモクレスの更なる攻撃に備える。
「子供達よ、全てが終わるまで、決してそこを動かぬように」
 そして、ダンドロはざわめき出した扉の向こうへ、声を投げかけた。
「皆、行くのである。残霊に囚われた同朋を救出に行くのである」
 大道寺・悠斗(光と闇合わさりし超者・e44069)は尊大に言いつつも、武器や動力装甲から魔導金属片を含んだ蒸気を噴出させ、守りを固めてゆく。
 救出対象の少年達が綺羅子とベルベットと共に戻ってくるまで、この場を『敵を倒さずに』凌がなければならない。そのために、戦場へ赴いたケルベロス達はまず自らや仲間の力を高めることに注力した。
 異質な水で満たされた空間。自分達も一歩違えていたら、このような惨劇に取り込まれていたかもしれないと思えば、悠斗は背筋が凍りつくような気がして。
 だからこそ、悠斗は思うのだ。――きっと、彼らを助けてみせると。
 下水道の暗がりの中で燃え上がった炎は、朝霧・透子(トラペン・e44591)が灯したものだ。
 エアシューズのローラーダッシュの摩擦を利用して放たれる、炎を纏った激しい蹴りがダモクレスの片割れに叩き込まれる。
「まだ準備運動中なんだ、そう簡単にやられてはくれるなよ?」
 笑みを浮かべ紡ぐ透子に、ダモクレスは激高したように吼えた。
「邪魔ヲスルナッ!」
「みんな、気をつけて! 来るよっ!」
 一歩離れた位置から戦場の様子に気を配っていたカレン・シャルラッハロート(サキュバスのガジェッティア・e44350)が叫ぶと同時に、ダモクレスは胸部を変形させて発射口を展開し、そこから必殺の光線を放った。
「そう簡単にはやらせないよっ!」
 後衛へ向かった光線の射線を遮るように、ソーンツァ・フォミナ(地球人のガジェッティア・e44416)がその身を晒す。
 肩を灼く熱の痛みはぐっと唇を結んでいなければ叫んでしまいそうなほどだけれど、
(「あの子達がずっと与えられていた痛みや苦しみに、比べたら!」)
 まだ見ぬ少年少女達が繰り返し植え付けられていた絶望。心の痛み。それに比べれば、この痛みなど――痛くない。
 ソーンツァは青の眼差しを真っ直ぐにダモクレスへ向け、すっと手を伸ばした。すると極限まで高められた精神が解き放たれ、ダモクレスの体の一部が突如として爆ぜる。すかさず、友であるボクスドラゴンのシャッツが、ソーンツァへ自らの属性を癒しの力として分け与えた。
「助かったよ、シャッツ」
 礼と共に撫でる手を伸ばすソーンツァに、シャッツは任せろと言わんばかりに鳴いた。
「私も回復するよ、ソーンツァ」
 カレンが続けてエクトプラズムで疑似肉体を作り、ソーンツァの傷を塞ぎつつ、前衛陣の耐性を高める。
 ここに集った全員がそうであるように、カレンにとっても初めての戦いだ。
「悲劇のエンディングのループは、私たちが破壊する! ……なんてね」
「ヤレルモノナラ、ヤッテミセルガイイ!」
 残霊のダモクレスは嘲笑うような機械音を響かせて、手にした鎖鋸の剣を構える。
 その時、遠くから駆けてくる幾つもの足音が、ケルベロス達の耳に届いた。
「やぁ、来たね? 待っていたよ」
 透子が声を向けた先。そこには、少年達を連れた綺羅子とベルベットの姿があった。
「――残念ながら、破壊されるのはあなた達よ。……全く、せっかく美しい子たちに会えていい気分だったのに台無しよ」
 ダモクレスへの不快感を隠すことなく小声でぼやいてから、ベルベットは連れてきた少年達へ振り返る。
「……ね、心配しなくても大丈夫だったでしょう? この程度で私達の仲間は、やられたりはしないって」
 ダモクレスへ向けたものとは違う、妖艶さすら感じられる笑みと共にベルベットが問いかけると、少年達はこくりと頷いてみせた。
「綺羅子君、ベルベット君、お疲れ様だ」
 二人に労いの言葉を掛けた透子は、次いでガジェッティアの少年達へと気安い調子で話しかけた。
「君達、私達の闘う姿を、どうか良く見ていて欲しい。格好悪いところを見せないように頑張るから」
 そして、安心してほしい。そう、透子は続ける。
「私達は必ず『デウスエクスに勝てる』んだ。だから君達はもう、怯えて暮らさなくてもいいんだ」
 透子の優しい響きを帯びた言葉に、少年達はしっかりと頷いた。
 彼らをダモクレスの目から隠すように立ちながら、ダンドロは年相応の威厳を込めた声で言う。
「そう、我らは『ケルベロス』! 弱き者の希望の叶え手、夢を守る者。そして何よりそなたらの……味方だ」
「デウスエクスに奪われるだけの日々はもう終わったんだ。ボクもキミ達も、前に向かって進んでいける力がある!」
 そこに重なったのは、ソーンツァの力強い声。
 戦いの舞台は整った。後はケルベロスとして、ダモクレスを倒すのみ。
 彼らの心から絶望の芽を摘み取り、希望の花を咲かせるために。

「我輩の名はケルベロスのガジェッティア……大道寺・悠斗!!」
 偽翼をバサリと広げ、ガジェットをそれっぽく構えながら格好良いポーズを決めて名乗る悠斗であったが、実は気弱な性分であるため、
(「あぁぁぁぁ……またやってしまった……っ」)
 と、内心では後悔しきりである。
 だが敵は待ってはくれない。無論、悠斗もその辺りは決して油断することなく、すぐに攻撃へと移った。
 鋼鞭形態へと変じたガジェットを振るえば、伸縮自在の鞭がダモクレス達を纏めて打ち据える。
「オノレ、小癪ナッ!」
 ダモクレスが繰り出したチェーンソー剣の刃が、身を挺したよひらの身体を激しく斬り裂いた。
 盾として受けてもなお手痛いその一撃の傷を、すぐさま、カレンは自分とよひらを大いなる自然へ霊的に接続することで一気に癒す。
「私たちには、みんなを護る力が有る。私がいれば、誰も倒れさせないよっ!」
 カレンの言葉によひらも頷き、喰霊刀を手にダモクレスへと斬り掛かる。
(「おれが、以前ケルベロスの人達をみて……そうだったように」)
 この戦いに勝って、彼らに勇気を与えたい。
 想いを込めた斬撃が機械の空の魂を啜り、それをよひらの力と変える。
 大きく揺らいだダモクレスの片割れにシャッツが箱ごと飛び込んでいくのを目で追いながら、ソーンツァは拳銃形態に変形させたガジェットで狙いを定める。
「今まではケルベロスの先輩達に希望を与えられる側だった……けど今日からは、ボクもみんなへ希望を与える側になるんだ!」
 放たれた魔導石化弾がダモクレスの身体の一部を石と変える。
「――ぬんっ!」
 そこへ迫ったダンドロが、全身に溜めた力をバスタードソードに載せ、一気に振り抜いた。
 叩きつけられた超高速の斬撃に、ダモクレスの機械の体がぐしゃりと歪み、崩れ落ちる。
 そこに響き渡ったのは、綺羅子が紡ぐ悠久のメイズ。奇蹟を請願する外典の禁歌がダモクレス達を呪いで縛り付け、その内の一体を消滅させる。
 綺羅子は少年達へふわりと微笑んで告げた。
「デウスエクスを倒す者、ケルベロス。確かにここに実在しましてよ。……これで、信じて下さいまして?」
 しっかりと頷いて応えた少年達の瞳には、確かな光が灯っていて。
 残る一体のダモクレスを見つめるベルベットの眼差しは、底冷えするほどに鋭く棘を帯びたもので。
「紅き奔流よ、醜悪なる者を打ち砕け! ――紅の拒絶(クリムゾンリジェクト)!!」
 細い指先で示した先、ダモクレスを取り巻く熱量が渦巻いて、膨張した空気が一気に爆ぜる。
「さて、そろそろ終わりにしよう。……夢は、醒めるものだからね」
 ダモクレスの背後へ回り込んでいた透子が繰り出した鉄爪が、残霊ごと悪夢を斬り裂き散らしてゆく。
 そして、少年達は確かにその目で見届けた。
 何度繰り返しても変えられなかった結末が変わるその瞬間を。
 ――何度抗おうとしても手のひらから零れていったいくつもの命が、守り抜かれたその瞬間を。

「兄ちゃん達、また出かけちゃうの?」
「ああ、……すぐに戻ってくるから、皆、いい子で待ってるんだぞ」
 正気を取り戻した救出対象の少年達に、ケルベロス達はこの世界と自分達以外の登場人物が、全て残霊――幻のようなものであると告げた。
 けれど、最後の別れは笑顔で。幼い子供達を抱き締め、少年達はケルベロスと共に隠れ家を後にする。
(「確かな友情、永遠の絆……ああっ、なんて美しいのかしら」)
 とにかく美しい物を愛するベルベットが、少年達の別れの場面に一人、恍惚とした表情を浮かべていたのは、また別の話だ。
「もう大丈夫だから、一緒に帰ろう」
 全てが終わった後で、カレンは改めて、少年達を労るように一人一人抱き締めた。
「よし、撤退!」
 目的を達成した以上、長居は許されない。ダンドロの言葉を皮切りに、ケルベロス達は少年少女を連れ、ワイルドスペースからの脱出を果たす。
 現実の世界へ戻れば、見上げた空はどこまでも澄み渡っていた。
「ふふ、いずれ同じKerberosとして、お会いする機会もきっとありますわ!」
 綺羅子が微笑んで告げ、よひらも頷いて、後に続く。
「おれは、皆さんを守る為にケルベロスになったんだと……思います。そして、みなさんも、なれます。なれるんです……!」
 幼い頃から身体が弱く入退院を繰り返していたよひらが、ずっと憧れていたのがケルベロスだった。
 そして、こうしてケルベロスとなった今、差し伸べた手は確かに、同じ失伝の系譜に連なる彼らを救い、導く力となった。
「君達はこれから、自分の幸せを探して生きることが出来る。さすればまた、いずれ巡り合うこともあるかもしれない」
 失伝者として新たな力に目覚めた彼らへ、透子は穏やかに笑って告げた。
「その時は共に戦い、共に過ごそう」
「――はい!」
 その日はきっと、いつかそう遠くない内に――来るのかもしれない。

作者:小鳥遊彩羽 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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