失伝救出~そして絶望は打ち払われた

作者:澤見夜行

●絶望に囚われた者達
「はぁ……はぁ……うぅ……」
 苦しげな呻き声を上げながら、その者達は崩壊した町に隠れ潜んでいた。
 男女合わせて四名。皆一様に襤褸となった装備を纏い、傷だらけだ。また、それぞれが身体の部位を欠損し、欠損部位を『混沌の水』で補っていた。
 視線の先には、人間狩りに興じるオーク達が、幾人かの難民を引き摺り歩いていた。
「こんな時、彼らがいてくれたらデウスエクスなんて……」
「彼ら? そんな人がいるの?」
「……いや、デウスエクスに勝てるものなんて居る筈が無い。ちょっと混乱していたみたいだ」
「しっかりしてよね」
 会話の最中、男が一人立ち上がる。その拳は怒りに震えていた。
「待て、今出て行けば殺されるだけだぞ」
「そうよ、タイミングを待ちましょう」
「くっ……」
 怒りの矛先を抑えきれないまま、けれど説得され、腰を下ろす男。
 四人は機を伺い、息を殺す。
「ブフフ、人間は脆いナァ。ちょっと叩いたら死んでしまったブゥ」
 一体のオークが群れから離れ、死体となった人間を引き摺って戻ってきた。
 四人は頷き合い、物陰から飛び出しオークへとその怒りをぶつける。
 奇襲を受けながらも、オークは反撃を繰り出し、四人を苦しめる。
 四人がかりの死闘の果て。傷つき血に塗れながらなんとかオークを倒した四人は、敵に見つからないようにその場から離れた。
「命がけで戦ったっていうのに……これじゃ何の意味も無い……!」
 目の前で連れ去られる人間達の多くを見捨てることしかできない、自分達の無力さを嘆く四人。たとえ、人間達が殺される前に助けたとしても、彼らを連れて逃げる力も、養う食料もない。見捨てるしかない状況に絶望する。
「一体、俺たちは何のために戦っているんだ……」
 その呟きに答える者はいない。四人は終わることのない絶望を前に、ただただ、無様に、その力を振るうことしかできないのだった――。


「皆さん、寓話六塔戦争お疲れ様なのです。無事に勝利できてよかったのですよ」
 クーリャ・リリルノア(銀曜のヘリオライダー・en0262)は集まった番犬達に勝利の喜びを伝えると、資料を手に話を始めた。
「寓話六塔戦争に勝利したことで、囚われていた失伝ジョブの人達を救出し、更に、救出できなかった失伝ジョブの人達の情報を得ることができたのです」
 得られた情報と、ヘリオライダーの予知によれば、失伝ジョブの人々は『ポンペリポッサ』が用意した、特殊なワイルドスペースに閉じ込められていることがわかった。
「そのワイルドスペース内で、大侵略期の残霊によって引き起こされる悲劇を繰り返させられているようなのです」
 クーリャによれば、それは失伝ジョブの人々を絶望に染めて、反逆ケルベロスとする為の作戦だったのだろうということだ。
「しかし、寓話六塔戦争に勝利した結果、彼らが反逆ケルベロスになる前に、救出する事が可能となりました。
 特殊なワイルドスペースに乗り込み、繰り返される悲劇を消し去って、閉じ込められた人々の救出を、どうかお願い致しますです」
 クーリャは続けて資料を読み進めていく。
「今回向かってもらう特殊なワイルドスペースは、失伝ジョブの人々以外の人間は出入りする事が不可能なようなのです。そのため、この作戦に参加できるのは、失伝ジョブを持つケルベロスだけになるのです」
 クーリャはそう注意を促すと、続けてワイルドスペース内の状況を伝えてくる。
「失伝ジョブの人々は、残霊の一般人を本物と誤認しているのです。そして、彼らを救うことが敵わない状況に追いやられ、絶望を与え続けられているのです」
 守るべき人々を見捨てなくてはならない無力さ。その絶望を与えられ続けている。
 彼らを絶望から救い上げるには、残霊の一般人を救出し、失伝ジョブの人々に希望を与えてあげる必要がある。
「残霊のオークが十体。残霊の一般人を捕らえるオーク達を倒し、希望をもたらしてあげて欲しいのです」
 オーク達は触手を用いた攻撃を多用してくる。残霊である以上その戦闘能力は低いが気を抜く必要はない。
 最後にとクーリャは資料を置き、番犬達に目を向ける。
「特殊なワイルドスペースに長く居ると、閉じ込められている人々と同様、皆さんも悲劇に飲み込まれて、悲劇の登場人物のように誤認させられてしまう可能性があるのです。戦闘終了後は速やかに撤退するようにしてくださいです」
 またワイルドスペースの中で発生している悲劇は、実際に起きた過去の悲劇が残霊化したものだと思う、とクーリャは言う。救出対象者以外の一般人などは全て残霊になるので、助ける事はできない。残念だ。
「こんな、悲劇を乗り越えて戦い続けてきた、失伝ジョブの先達の為にも、必ず救出してあげてほしいのです。どうか、皆さんのお力を貸してくださいっ!」
 一礼したクーリャは、番犬達を送り出した。


参加者
ドゥリッサ・クロイセル(ドラゴニアンのワイルドブリンガー・e44108)
サラ・マンリー(シャドウエルフの妖剣士・e44121)
ジルベルタ・ラメンタツィオーネ(宵月が照らす白・e44190)
不動・大輔(風来忍者・e44308)
ブランシュ・スノードロップ(甘きブランネージュ・e44535)
水町・サテラ(サキュバスのブラックウィザード・e44573)
海野・めぐみ(希望を胸に・e44608)
藤宮・冰女(罅鏡荒水・e44663)

■リプレイ

●救いの手
 予知されたワイルドスペースへと侵入した番犬達。その顔は一様に不安と緊張、そして気合いが入り交じっている。
 番犬となって初めての依頼。それが自分達と同じ失伝に関わる者ならば、必ず救わなくてはならないと、気合いが入っていた。
「まずは深呼吸。……はぁ、皆頑張りましょう!」
 水町・サテラ(サキュバスのブラックウィザード・e44573)が緊張する仲間達に声をかける。一息つき、少し落ち着きを取り戻した気がした。
 ワイルドスペースを進むと、荒廃した街並みが広がっているのが見えてくる。
「ひどい……」
「こんな場所に囚われるなんて、辛すぎるね」
 辺りの風景を見た海野・めぐみ(希望を胸に・e44608)が皆の気持ちを代弁する。
 風化した建物、瓦礫の広がる地面の至る所に血濡れの後がある。想像を絶する環境に、囚われた人達への想いが胸を突く。
「敵がいつ出てくるかわからないわ、注意して進みましょう」
 一番戦闘経験のあるサテラが仲間達を先導しながら進む。
 できるだけ音を立てぬように、周囲の建物内を探索しながら進む事数分。どこか近くから緊張をもたらす音が聞こえた。剣戟の音。戦闘の音だ。
「聞こえた?」
「うん、聞こえたよ! 近くだね!」
 ドゥリッサ・クロイセル(ドラゴニアンのワイルドブリンガー・e44108)の問いかけにブランシュ・スノードロップ(甘きブランネージュ・e44535)が応える。
「無事でいてくれよ……!」
「急ごう」
「私を助けてくれた、あの人の思いに報いる為にも……今度は私が、助けて見せる!」
 不動・大輔(風来忍者・e44308)とジルベルタ・ラメンタツィオーネ(宵月が照らす白・e44190)が仲間達に促す。サラ・マンリー(シャドウエルフの妖剣士・e44121)が恩人の顔を思い浮かべ、誓いを立てた。
 周囲への警戒を厳としながら、音がした方角へと進む番犬達。
 近づくにつれ、激しい戦いの音が響き渡る。
「見つけた――!」
 海野・めぐみ(希望を胸に・e44608)が指さしたその先に、オークの群れに襲われ今にも殺されそうになっている者達が見つかる。
 数は四人。一人がオークの攻撃をその身に受けながら仲間達を守っている。残り三人は――一般人を庇うようにして身動きがとれなさそうだった。
 オークの触手が鞭のように撓り、仲間を守る男を叩く。
「くそっ――!」
 血だらけの男は悔しそうに声を荒げる。
「ごめん、ごめんなさい! 私が助けようなんていうから――!」
 四人は一般人に襲いかかるオークの一匹を止めようと立ち向かったはずだった。しかし気がつけば仲間を呼ばれ取り囲まれてしまっていた。
「ああ――もうここまでなのか……」
 絶望に瞳が揺れる。何もかもが無駄だったのだと、頭が理解してしまう。
 そうして絶望の底に辿り着く直前――救いの手が差し伸べられた。
 オークの群れに「混沌の砲弾」が打ち込まれる。立ち上る爆煙にオーク達が取り乱した。
「諦めるな! 俺たちケルベロスがいる!」
「済まぬ! 待たせたかの、待ちに待った加勢じゃぞ!」
 大輔と藤宮・冰女(罅鏡荒水・e44663)が声を上げながら四人を守るようにオークの群れに割って入った。仲間達も次々に集まり、武器を構えた。
「ケルベロス……?」
「な、なに……? 助けてくれるの……!」
 突然割って入った乱入者に呆然とする四人。本当に助けが来たのか半信半疑で頭を振る。
「お前らは一人じゃない! 共に戦う俺たちがいるぜ!」
 一歩踏み出し、声を高らかに叫ぶ大輔。その力強い声が、荒廃した街に響き渡る。
「もう大丈夫だよ」
 めぐみが手を差し伸べながらヒールグラビティを迸らせ、四人の失伝者達を癒やす。
「ああ……本当に……」
 癒やされていく身体。救いはあったのだと――四人は安堵の溜息を漏らす。
「なんだブゥ、お前ら何なんだブゥ!」
 突如割り込まれ楽しみを奪われたオークが激昂し、涎を飛ばしながら声を荒げる。
「私達? 私達は――」
「お前達デウスエクスを殺す者」
「――地獄の番犬、ケルベロスだ!」
 救いの手を差し伸べる者達。失伝者達はその八人の背中を目に刻み込む。
 今、絶望を打ち払う時が来た――。

●そして絶望は打ち払われた
「全く、悪趣味だね」
 ジルベルタの言葉はオーク達に向けられた言葉だ。
「なにがケルベロスだブフゥ! くたばるブヒィ!!」
 オークの群れが襲いかかる。
 そのうねうねと嫌らしく伸びる触手を躱しながら、番犬達の反撃が始まった。
「残霊って戦闘力は高くないみたいだけど……よりによってオーク、ね。うう……、オークってなんか嫌だわ」
 燃え盛る火の弾でオーク達を燃やすのはサテラだ。オークが女性を襲うのは有名な話だが、サテラはその話を耳にしていたのか、オークへの嫌悪感が強い。
「早いところ片付けてしまいましょう」
 早期決着を目指し、次から次へと攻撃を加えていくサテラ。
 その隙を縫ってオークの触手が迫る。
「ひっ……ぬめっとしてて気持ち悪い!」
 ファミリアに魔力を籠めて飛ばし、触手をはじき返すと、凍結光線を発射しオークを凍り漬けにしていく。
 オークから離れるように位置取りを変えると、遠距離からの攻撃を主軸にしていった。
「絶望させて反逆ケルベロスにするか――実に不愉快だ!」
 暴走にもほど近い怒りを内包するドゥリッサは、その押さえ込んだ怒りを解き放ちオークへとぶつけていく。
「はぁぁ――ッ!」
 撓る触手鞭を躱し、左半身を覆い尽くす『混沌』を解き放ち波を持って敵群を凍り付かせる。
 続けて、手にした扇を鞭のように変化させると、手近の敵群に向け撓らせた。打ち据えられたオークの傷跡にさらなる氷が生み出されていく。
「ブ、ブヒィ! なんだ、こいつら強いブヒィ!」
 オークが怯えるように声を上げた。
 その怯え竦んだ心の隙を、大輔は逃がさない。
「引き裂き、切り裂け! 乱れ牙!」
 グラビティをその身に纏った大輔が、素早くオークに接近すると相手を引き裂くように何度も斬りつけていく。
 そこに別のオークが襲いかかるが、その一撃を紙一重で躱すと、拳に『零の境地』を載せ一打で殴り倒す。
「オォォ――!」
 大輔の動きは止まらない。怒りと共に噴出した血液が禍々しい紋様となって全身を覆うと、流れるように次の獲物へ向け飛びかかり、二つの鉄爪で怒濤の連撃を加え、オークの一体を微塵に切り裂いた。
「こんな傷なんでもないよ、彼らの絶望に比べれば」
 仲間へと襲いかかる攻撃をその身で受け止めながら戦うのはジルベルタだ。無表情ながら、静かな怒りを露わにする。
「……鎖される苦しみは、よく分かるよ」
 膝を付き行く末を見守る失伝者達を見ながら、ジルベルタは呟いた。
 よく分かる――だからこそ、自分達番犬は何があっても彼らを助けるのだ。
 ――どうか、絶望に沈み切ってしまわないで。
 祈るような想い。そうならないように、今、自分達が頑張らなくてはいけないのだ。
 乱れ打たれるオークの鞭を躱しながら大鎌を飛ばし、敵の防御を突き崩す。
「よそ見はいけないよ。君の相手は僕だろう?」
 血液を操り鎖状に変化させ、失伝者に向かうオークを拘束し、自分へと意識を強制する。逃れられない血の呪いだ。楽しそうに無表情のジルベルタは言うと、さらに血を操り、傷ついた仲間へと飛ばし癒やしをもたらした。
「さぁて、ここからはボクらケルベロスの出番だ! 偉大な先人のためにも、ここは負けられないね……!」
 めぐみはドゥリッサの身体に格好いいペイントを施すと、癒やしと共に破壊力を上昇させる。
 さらに何もない空間にテンションの上がる背景を描き出すと、仲間達の士気を高めていく。
 回復役がやっかいとみたオークがめぐみに襲いかかる。
 唸る触手を紙一重で回避しながらグラビティを操り様々な絵を描き出していく。
「……ちゃんと運動しておけば良かったな、まったく。でも、戦闘中はイイ絵が描けるんだよね……!」
 そうして描き出されるのは動物やピエロなど、楽しげな物のオンパレード。次々と生み出されていくその絵が仲間達を癒やし、敵に痛みを与えていく。
「これが希望さ! 不死を殺す、それがケルベロス!」
 失伝者達へと呼びかけるめぐみ。目の前で起こる状況に、失伝者の四人は拳を握る。
 そして、そのうちの一人が、重い腰を上げた。
「俺も戦うぞ……! いまこそこの怒りをぶつけるときなんだ!」
「わ、わたしも! やってやりましょう!」
 失伝者達が次々立ち上がり、戦意を高める。
 番犬達の力強さと、皆を守り抜くという強い意志が失伝者達の心を突き動かしたのだ。
 ――戦いは、一気に番犬達有利に傾いていく。
「ふん、数さえ対等以上ならば斯様手合いに遅れは取らぬさ!」
 腕をワイルドウェポンで覆い巨大刀を生み出した冰女が声を上げた。
 オーク達を力任せにたたき伏せながら、前線で大立ち回りを繰り広げる。
「ブッフゥゥ! シネェェ!」
 背後からの奇襲――しかし読み切っている。
 オークの蠢く触手を躱すと、呪詛を解き放ち、美しい軌跡を描く斬撃を放ち一刀の元に斬り伏せた。
「わしらならばどんな敵が来ても倒してみせる。お主らもわしらと共に戦ってくれること嬉しく思うぞ」
 冰女は失伝者達を鼓舞するように語りかけながら、腕を大型砲台に変形させ、連携を取ろうとするオークの群れに混沌の砲弾を撃ち込んでいく。爆煙に包まれ、オーク達が混乱した。
「お菓子の魔法使いブランシュ、いっくよー!」
 巨大なフォークの形をしたペイントブキを持つブランシュは、オーク達の足下に白いクリーム状の塗料を撒き散らす。グラビティによって生み出されたクリーム塗料がオーク達の足を掴み動きを鈍らせていく。
「シャーベットになってみるのはどう? 美味しくなさそうだけどね」
 さらに巨大フォークをくるくると回し、巨大な星座のオーラを描き出すと、そのオーラをオーク達へと飛ばす。オーラに包まれたオーク達が凍り付いていった。
 ブランシュは動きを止めず、大輔と冰女が追い詰めている敵に卓越した技量からなる一撃を放ち、息の根を止める。
 まだ完璧な連携とは言えないが、徐々に仲間同士の連携が取れ始めてきていた。
「みんな、援護は任せて!」
 ブランシュは仲間に声を掛けながら、戦場を駆けた。
「止まらない苦痛も、終わらない地獄も無い、それは私自身が良く知ってる。……だから、貴方達も諦めないで!!」
 失伝者達に声を駆けながら、サラが黒き影の弾を放ち、追い詰めたオークに視認困難な斬撃を見舞う。
 流れる水のように掴み所無く動き続けながら打ち込む一撃は、灼けた鉄の如き『熱』を持っている。
 身体の中に滾る『熱』は戦いの高揚感だけとは言いがたい。サラは熱い吐息を漏らしながら高まる気持ちのまま戦闘を続ける。
「これでも喰らうブフゥ!」
 嫌らしく伸ばされる触手。ねっとりとした体液滴るそれを、サラは一息に斬り捨てると、オークの身体にその刃を突き刺した。
「ブヒィィ!?」
 刃から伝わる呪詛がオークの魂を汚し壊していく。サラは刃を抜き放ちオークを切り倒すと、声高らかに歌を紡ぐ。――『悠久のメイズ』。奇蹟を請願する外典の禁歌が、残るオーク達を捕縛していった。
 ――所詮は残霊だ。経験不足とはいえ番犬達の敵ではない。失伝者達の協力もあり、一気呵成の勢いで次々にオークを撃破していった。
 十体いたオーク達は気がつけば残り一体を残すのみとなった。
「もう少しじゃ! 無辜の民草を救うのが儂らじゃろう?」
 冰女が声を上げた。
 その声に応えるようにサテラが燃え盛る火の弾を投げつけ、その醜く肥え太った身体を燃やすと、ファミリアを射出し気を逸らさせる。
 そこにドゥリッサが疾駆し、一気に肉薄すると、左腕を大きく振るう。
「喰らい尽くせ!」
 巨大な顎と代わった左腕がオークの頭から喰らいつき、生命力を貪った。
 そうして、幾度か顎が動き終わると、千切れたオークはその身体を横たえ消えていった。
「勝った、のか……」
 失伝者の男が呟く。
「ええ、私達の勝利よ」
 頷く番犬達は笑顔で振り返った。
 力強い番犬達。不死の魔物デウスエクスに死をもたらす事のできる存在。そんな者達が存在するのならば――この世界は救える!
 失伝者達の顔が歪んでいく。いや、忘れていた笑顔を取り戻したのだ。
 今、確かに絶望は打ち払われた――。

●脱出
「つまりこの者らは残霊――もう生きてはいないのじゃよ」
「そうか……くっ」
 冰女から助けた一般人達が残霊であることを知らされると、失伝者の四人は悔しそうに顔を歪めた。
「……さ、行くよ。ボクらの居場所はここじゃない……未来はまだまだ続いてるんだからさ」
「もう悪夢は終わりました、一緒に帰りましょう」
 ここに来た事情も話してある。長居は無用だ。
 全員が顔を見合わせ頷くと、一路脱出へ向け移動を開始した。
 サテラがアルティメットモードで救世主たる姿を見せながら先導していく。ドゥリッサは内から溢れる怒りを抑えきれず、苦虫を噛みつぶしたような表情で苦しそうだった。
 本当に抜け出せるのか。失伝者の四人は不安げだった。
「大丈夫」
 ジルベルタが不安げな四人の手を取る。
「外は広くて、きっと明るいよ」
 ジルベルタの言葉を信じるように、四人は覚悟を決めて頷いた。
 ――そうして。
 不快な粘液から抜け出るようにワイルドスペースからでた番犬達は穏やかな冬の陽射しに迎えられた。
「ここは……、俺たちは……」
 見れば四人の服装が、一般人のような普通の服装に変わっている。悪い魔女が仕掛けた大侵略期の呪いから解き放たれ、拉致された時の格好に戻ったのだ。
「へっ……冬晴れだな。良い天気だ」
 大輔が陽射しに目を細めながら笑った。
 ヘリオンが迎えに来るまでまだ時間はある。もうしばらくこのまま待機が続きそうだった。
 所在なさげに立つ四人にブランシュが声を掛ける。
「キミたちも困ってる人を見捨てられなかったでしょ? 一緒に戦おう!」
「これからはデウスエクスに死を与える事ができるわ。一緒に行きましょう!」
 サテラも一緒になって手を差し伸べた。
「わたしたちにできるかな……」
 少しの逡巡。不安げな四人は顔を見合わせた。
 それでも――。
 あの時、自分達を守るように現れた背中。絶望を打ち払ったこの人達のようになれたなら――そうなりたいと思えた。
 四人がゆっくりと手を伸ばす。その手をジルベルタが力強く引くと、その上から番犬達が手を重ねていく。
「ヘリオンが来た。……さあ、一緒に行こう。外の世界が、君たちを待ってるよ」
「うん、ありがとう――」
 失伝者達からの感謝の言葉を聞きながら、番犬達と新しい仲間の四人は歩き出す。これが始まりの第一歩なのだと感じた。
 新たな力を持った者達の戦いは、ここから始まるのだ――。

作者:澤見夜行 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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