●戻る蓄音機の針
竜骨を被る兵士達が刃を振るうほど、血飛沫が舞い、ヒトだったものが放物線を描いて地面に転がる。
「あ、ぁ、あああぁぁ」
泣き顔を引き攣らせる少年は声を震わせ、若い女性が顔を顰める。
「こんな時、『彼ら』がいてくれたらデウスエクスなんて――」
女性の呟きに壮年の男は感情的に睨みつける。彼も焦燥しきって余裕がないことが窺える。
「誰のことだよ!! そんな『都合のいい連中』がどこにいるってんだ!?」
「……あ、れ?」
なぜ自分はそんな事を口にした? ――そんな『ご都合主義な存在』なんて、居たのだろうか?
「よしな、こんな状況じゃ気が狂っちまうってもんさ……坊やも気をしっかり持ちな」
初老の女性も蒼褪めた顔で叱咤する。
なんの共通点も感じられない4人だが、その装いは貴族を思わす豪奢なもの。
屍が増えるほど増す死臭、むせ返るほどの血煙……それが少年達の力を『呼び覚ます』。
「う、ぅぅ……わああああああああああああああ!!!」
少年の悲鳴に呼応して湧き上がる暗黒の鎖、ブラックホールのような球体が殺戮を繰り返す竜牙兵達を飲み込んでいく。
死の香りこそ、囚われた少年達に力を与えているかのような……凄惨な光景だった。
「ったく、胸糞悪ィぜ! なんでこんな、人死にが出ねぇと力が出ねぇんだよ!!?」
苛立つ男の暴言に誰も口出しはしない。それは一様に感じる疑問だから。
――これは夢。緑の魔女の悪しき夢。
現実と『誤認』してしまうほど、鮮烈で凶悪な夢なのだ。
「お初目にかかります。私は皆様を戦地へ導くヘリオライダーの一人、オリヴィアですわ。先に行われた『寓話六塔戦争』に勝利したことで、皆様のように失われた力に目覚めた方々を救出することが出来ました」
オリヴィア・シャゼル(貞淑なヘリオライダー・en0098)は瀟洒なドレスを翻し、ヒールを鳴らす。
「さらに、救出が叶わなかった失伝ジョブの覚醒者の情報も得られました。予知によりますと『ポンペリポッサ』が用意した、特殊なワイルドスペースに閉じ込められており、大侵略期の残霊(ゴースト)によって引き起こされる悲劇を、繰り返し体験させられているようですわね」
終わりなき悲劇、果てのない血路――それを「ただひたすら心を砕く為の拷問場」とオリヴィアは例える。
「絶望させることで反逆ケルベロスに仕立てる作戦だったと思われますが、『寓話六塔戦争』に勝利した結果、彼らが反逆ケルベロスに堕ちる前に、救出することが可能になりました――劇とは結末あってのものです」
ポンペリポッサの残した特殊なワイルドスペースに乗り込み、繰り返される悲劇に終止符を。
そして閉じ込められた人々を救出することが今回の任務となる。
「このワイルドスペースが特殊たる所以は『失伝ジョブの人々以外、出入りが出来ない』ということですわ。そのため本作戦に参加できるのは、失伝ジョブのケルベロスのみとなります」
初めての任務としてはやや荷が重いかもしれないが、失伝ジョブの継承者でなければ救い出すことが出来ない。頼みの綱は失伝ジョブのケルベロスのみ。
「まず、囚われの失伝ジョブ関係者は4名。竜牙兵5体が無抵抗の市民10名を虐殺する様子を何度も見せられているようですわね……ですが、この竜牙兵も被害者達も残霊(ゴースト)ですわよ」
残霊の竜牙兵は本来の竜牙兵より大幅に弱体化しているため、経験の浅いケルベロスでも勝利できる見込みは充分ある。
戦闘に対して十分な心構えと作戦を立てれば攻略も難しくないだろう。
しかし、問題は失伝ジョブの関係者達だ。
「囚われた関係者は『ブラックウィザード』の資質をお持ちですが、死の気配がなければ力を使えない制約があるため、ケルベロスが介入した時点で力を使うことが出来ません……一般人と変わりない、と思って下さいませ」
そして彼らは心に酷いダメージを負って、いつ絶望してもおかしくない状態にある。
「絶望させないためにも、一般人の残霊を殺させないことで彼らに『希望』をもたせてください。彼ら自身は『大侵略期の人間である』と誤認しており、悪夢に囚われていることすら気付いていません、皆様が光ある希望をもたらすことで、彼らとの対話も可能になるはずです」
万が一、殺害されても希望をもたせることは出来るだろうが、よほど巧妙な話術でなければ難しい。『誰も殺させない』ことが最優先だ。
そしてこのワイルドスペース自体が、失伝ジョブのケルベロス達にとっても危険なモノであるとオリヴィアは警告する。
「滞在時間が長すぎると、皆様も悲劇に飲み込まれて正気を失ってしまうかもしれませんわよ。失伝ジョブの関係者を保護したら速やかに脱出してくださいませ……皆様を助け出したケルベロス達のように、今度は皆様の番ですわよ」
参加者 | |
---|---|
シュエメイ・ヤン(幼艶騒威・e44195) |
琥玖蘭・祀璃(サキュバスのブラックウィザード・e44204) |
長谷堂・柊二(何処ぞの分厚い小説とは無関係・e44377) |
ララ・フリージア(ヴァルキュリアのゴッドペインター・e44578) |
九段下・恵弾芽(知らなかった方が良かった・e44590) |
ベリリ・クルヌギア(不帰の国の女王・e44601) |
ミレニア・リンクロウト(陰れど呈す朔の月・e44618) |
東瀬・和真(果て無き悪夢の囚人・e44657) |
●冥府魔道
そこはナポリかローマか、はたまたミラノか。
近世ヨーロッパを想起させる街並みは、石畳と石造りの建物が軒を連ね、常夜を思わす薄暗がりに包まれていた。
市街には数多の悲鳴が響き、ケルベロス達は声のほうへと駆けだした。
――失われた伝承。消失していた異能は現代に蘇った。
新たな力の担い手として4人の伝承者達を絶望から引き上げる――!
「いたぞ、あそこじゃっ」
ララ・フリージア(ヴァルキュリアのゴッドペインター・e44578)の指し示す先に、多数の人影。それを追随する竜骨頭の亡霊達。
「おぬしらの相手はわらわ達がしてやろぅ――そぉれ!」
身の丈ほどの絵筆を振りおろし溢れ出る油彩が竜牙兵達を鮮やかに塗りたくる。
ベリリ・クルヌギア(不帰の国の女王・e44601)も突出しながら、アルティメットモードを発動させる。
「夢、だ?騙された、だぁ?……否っ! 否否否ぁっ!! 断っじてっ違うっ!」
闇色の翼は勇ましく咲き誇る華が如く。地を跳ね天を舞うように翼を広げ、神域を指し示す魔術を言の葉に乗せる。
「……愚者共よっ! 心を折られ膝を屈し、自らを閉ざした腑抜け共よ! 貴様らは見たはずだ、幼き稚児が血溜まりに伏すのを!貴様らは聞いたはずだ、立ち向かう戦士が泣きながら塵と化すのを!」
そこに『現実』があるなら目を逸らすな! その胸に走る『痛み』を忘れるな!
吠え猛る叫びに呼応し、7つの門が開かれる――其は冥府に至る光無き獄門なり!
「これが現実、これこそが真実!さぁ見惚れるが良い――我ら、ケルベロスの“力”をっ!」
豪胆な啖呵を切ってベリリは竜牙兵達に漆黒の獣達をけしかける。
防衛役の残霊が獣達を身体で押し返そうと一歩飛び出し、装甲に僅かな傷を増やしていく。
数の上ではケルベロスが上、通路で塞き止めてしまえば容易に市民を攻撃することはないだろう。
長谷堂・柊二(何処ぞの分厚い小説とは無関係・e44377)もティアドロップ型の黒曜石に目覚めたばかりの力を付与していく。
「これはお前達が虐げてきた人々の怒りだ、報いを受けろ!」
宝珠を通して無数の悪霊が姿を現す。柊二の怒りに同調するように、暗黒の幻霊達は次々と竜骨の兵士へ襲い掛かる――その光景は伝承者達も知り得ぬ、けれど近しいモノを感じさせていた。
「あいつら、デウスエクスとやり合おうってのかい!? ――みんな、急いで隠れちまいな!」
叫ぶ老女と同じように他の伝承者達は思わぬ事態に動揺するが、好機だと慌てて建物や物陰に身を潜めた。
救済の光すら見えぬ暗夜の街で、琥玖蘭・祀璃(サキュバスのブラックウィザード・e44204)の放つ光の粒子は一等強く輝く。
『ご都合主義』ならここにあると。新たな担い手を導くために、彼女達はやってきたのだから!
「あなた達の運命を切り開く希望に、私達ケルベロスがなってみせるわぁ!もう大丈夫よぉ……この悪夢はすぐに終わらせるから!」
(「初めての任務、責任重大だけど……何としても助け出さないと!」)
九段下・恵弾芽(知らなかった方が良かった・e44590)も飛来する星辰の波動に傷つけられながら、大きく息を吸い込んだ。
スカイクリーパー。希望の為に走り続ける者への歌。
恵弾芽の聖歌が響く中、東瀬・和真(果て無き悪夢の囚人・e44657)は竜牙兵と鍔迫り合う。
(「どいつが一番弱ってんのか解らねぇけど、守りを打ち抜きゃこっちのもんだ!」)
しかし、想定した行動と活性化したグラビティが全く噛み合っていない――ならば確実な一撃に重きを置く!
強引に押し飛ばしてから和真が喰霊刀を握り直すと、袈裟斬りから返す刀で追撃し、シュエメイ・ヤン(幼艶騒威・e44195)も二つの九尾扇をしならせる。
「待たせてすまんの――みせてやるわ、『希望』というやつを!」
舞うように放たれる十八の光線と、怒りを込めた雷の魔弾が周囲を巻き込みながら鳴り響く。残霊とはいえ竜牙兵も対処しない訳ではない。
星座の紋様を石畳に描くと、鈍りかけた動きが一斉に精彩を取り戻す。
一歩出遅れるミレニア・リンクロウト(陰れど呈す朔の月・e44618)にも凶刃が向けられる。
「っ、セイラディアさん!」
遊撃手のポジションに就いたが、ミレニア以上に竜牙兵達の動きは素早かった。振り下ろされた大鎌をオルトロスのセイラディアが受け止めたものの、その一撃は深手というに相応しい威力を発揮する。
「質量を持った残霊(ゴースト)……この世界って、本当に不思議ですねっ!」
黒兎の健脚は空を切り、別方向から飛ばされた大鎌に脇腹を大きく裂かれた――残霊とはいえ秀逸な戦術でもない限り、実力差が大きければ戦闘不能になる危険性は非常に高かった。
「…………なんなの、これ」
物陰に潜む女性は信じられないものを見るように目を見開く。少なくとも、有り得ざるものだと。
自分達と似通った異能をなんのリスクも負わずに行使する者達――大侵略期を過ごしていると思い込む者達にとってどれだけ特異に映っただろう。
●八条の光
「死死死ッ!たわけとはいえ妾が同胞を誑かしたこの罪。代償は高くつくぞ? ――クソ骨共っ!」
突出してくる竜牙兵と刃を交えるベリリは高笑いをあげるが、内心は今にも泣き叫びたかった。
(「勢いに任せてとんでもない啖呵切っちゃったァァァっ!!? 冥府(お家)帰りたい、お布団被りたい、引きこもりたいぃぃ!!」)
4人とて好んでこんな修羅場に居座っていた訳ではない。どれだけの死体を、どれだけの惨劇を耐えてきたかすら解らない。
それでも挫けるなと、叱咤の言葉をかけたかったから叫んだ――そのことに一切の悔いはない。
ベリリの鋭い剣筋に沿い、ララの放つ大量のペンキがべしゃりと重い水音をあげ、シュエメイが怒涛の光線乱舞で戦線をさらに掻き乱す。
「ほれほれぃ! もっと下がらぬか残霊どもっ、誰一人として傷つけさせんぞぅ!」
「……というかじゃな、わしとララとベリリで喋り口調が被っとるではないか!!」
戦線を押し上げようとララの塗料に紛れたオウガメタルも呼応し、黒き太陽で敵兵の身を焦がしていく。
ぶすぶすと瘴気に似た黒煙をあげる5体のうち、一体の肩部装甲が崩れて地べたで砕け散る。
「あいつから、落とす――!!」
想定通りに動けぬ和真だが、なんとか続行しようと前のめりに飛び出す。
二合、三合と切り結ぶ隙を狙って別の竜牙兵が刃を振りかぶり、すかさず柊二が割り込んだ。
(「落ち着け、僕は大丈夫……亡き人々が僕達に力を与えてくれるのですから!」)
これが戦場、これが死合!
焦りに似た昂ぶりを抑えるように柊二は死霊魔法を詠唱する。大地に染み込む惨劇の記憶を魔力に変換し、周囲へ押し広げて和真達の負傷を癒す。
しかし、治癒される前に耐久できる状況に至らなかった者もいる。
既にセイラディアは戦線を離脱。ほぼ正確な命中精度で一撃を加えられていたミレニア自身も肩で息をしていた。
「……なんで私を見るんですか、見るのなら私ではなく」
せめて一矢報いてやろう――天上を差せば遥か彼方、混沌たる海より黒い斬撃が生じる。ララと恵弾芽の重ね続けた足止めの影響も大きかっただろう、ようやく一撃を与えた。
――だが、仕留めるには威力が足りない。
『QQQQOOOAAAAAAAA!!!』
雄叫びをあげる残霊の剣はミレニアを大きく切り裂き、噴き出した血によって石畳に赤い海が生じていく。
「ミレニアちゃん、無理は禁物よぉ!」
紫炎燃ゆる翼を翻し、祀璃が後退を支援しようと濃密なフェロモンで止血を施し、足元から舞いあがる花びらは戦場を吹き抜ける。
その間もシュエメイと柊二が5体同時攻撃を図り、損傷を少しずつ増やしていくものの、護方陣によってほぼ相殺されていた。
複数攻撃の利点は列内に残存する戦力に一斉攻撃を仕掛けられる反面、力を分散する為火力不足は否めない。
これは回復面においても同じことが言える。
各個撃破を狙うなら、一撃に対する火力の底上げを図るか、あるいは単体攻撃でグラビティを一点集中させたほうがスムーズに仕留めやすかっただろう。
覚醒して間もない者達は自らの能力に翻弄されまいと、残霊相手に戦局を押し上げにかかる。
「死死死ッ! 骨頭に相応しき大煉獄へ送ってやろう……妾の魔術でのぅ!!」
柊二と和真が剣戟を防ぐ間にベリリがネクロオーブを構える。
不可視の球体は竜牙兵の四肢を球状に食い破り、実体を保てなくなった竜牙兵のゴーストは瞬く間に霧散していく。
「だいぶ精彩を欠いておるのぅ、ここはひとつ重く行くとするか」
ララが魔道機構を操作すると、ガジェットは彼女の意志に従って姿を変える。三角錐状の鋭い回転衝角は甲高い駆動音をあげ、まっすぐ竜牙兵の胸部へ――!
「その装甲、撃ち抜くのじゃっ」
削岩機のごときダイレクトな一撃は竜牙兵の胸部を的確に捉える。そして、微かな亀裂は一気に押し広がるとドリルで内部を掻き乱されながら消失した。
「期待はしとらんかったが機械のひとつも落とさなそうじゃのぅ」
「あと三体か、前に出るヤツからぶっ潰すぞ!」
恵弾芽の支援を受けながら和真が気合を込めて柄を握りしめる。
柊二は独鈷杵を九官鳥に変身させて指先に乗せ、
「キューちゃん、お願いします!」
足場代わりさせて飛び立たせる。鉤爪や嘴で装甲に傷を増やしているうちに、和真が射程内まで接近していた。
最上段から振りかぶる一振りは呪詛を纏い、妖しき刀身を光らせる。
(「二度とこの世に足を踏み込ませねぇよう、徹底的に潰し消す……!」)
美しく鋭い軌道で十文字を刻み込めば、膝をつきながら竜牙兵は灰塵と成り果てた。残す2体はどちらも大鎌を手に、カラカラと骨を揺らしながら戦闘続行にかかる。
「もうちょっとだね、私もお手伝いするよ!」
恵弾芽がベリリの背に秀麗なイラストを完成させ、禁じられた歌を歌いだす。奇蹟を請い願う歌声を止めようと竜牙兵は大鎌を投擲しようと振りかぶるが、すかさずシュエメイが雷撃を放つ。
「静聴することも出来ぬとは、情緒の欠片もない連中じゃな」
「私も一発ぶちかますわよぉ――覚悟なさい!」
攻勢に打って出るべく、流体金属を足に纏う祀璃が大きく踏み込んだ。
勢いを乗せて石畳に両手をつくと、左翼の紫焔を乗せた一撃が、竜牙兵の首元に叩き込まれ態勢をふらつかせる。
時間がかかったものの厄介な防護役さえ潰れてしまえば、あとは堅実に攻め込むことで戦局を優勢に傾けることが出来た。
残る2体が四散していくのを見届けると、シュエメイ達は隠れる者達に安全が確保されたことを告知する。
●新たな光へ
「……マジで倒しちまったのかよ」
伝承者の男は呆然としながら祀璃達を注視する。
「おいお前等。なに自分達が悲劇の主人公・ヒロインみたいなツラしてんだ? お前達の体に宿ってる命は刈り取られるだけに存在してんのか?」
ぶっきらぼうな物言いの和真に男が猛抗議し、大人しそうな女性は慌てて制止する。
「……死人が出なきゃなーんにも出来ないババア達が、好きでそんなツラしてると思うのかい?」
老女の皮肉混じりな疲れきった微笑にそれ以上なにも言えなかった。
彼女達は悲劇の渦中に居たが、望んだものではない。むしろ巻き込まれた被害者でしかないのだ。
「やれ、貴族の人間ならしっかりしないといかんであろう?」
「えっと……あの、僕達、貴族って訳じゃないです……」
ララの一言に少年は「気づいたらこのような格好をしていた」と付け加える。
(「そういえば現代日本の者じゃったな、貴族制度なんか存在せんのじゃから当然じゃのぅ」)
「皆さん、これまでよく耐えてくださいました。僕達はあなた達と同じ、失われた権能を受け継ぐケルベロスなんです」
柊二はまず耐え抜いたことを労うと自分達が同じ能力者であることを語る。それは彼らも目撃していたこと、疑う余地は一切ない。
「貴方方も行使される死霊と関わる魔術は、本来は祖霊を祀り、亡き魂や追慕する生者を慰めるもので……決して忌まわしい力ではありません」
「ここまで辛かったのう。じゃがもう悪夢は仕舞いじゃ……そしてお主らの力もまた、『希望』になり得るのじゃぞ?」
「そう、私たちケルベロスはデウスエクスを倒せる『ご都合主義な存在』なのよ!」
恵弾芽とシュエメイも『まだ諦めるのは早い』と彼らに呼び掛けた。
誰一人死ぬことなく、この場を切り抜けさせた事実も彼らにとっては心強い現実。
祀璃の手当てを受けていたミレニアもそっと口を開く。
「ずっと、辛いものを見たんですよね。……私も、一度仲間を失いました」
自分の無力さ、あの時の歯痒さを思い出すと傷よりも深い場所が痛むような錯覚を覚える。今は押し殺すように、それを飲み下す。
「それでも、私は前を向きます。この技術を残すために、世界を救うために」
その為にも一人でも多くの伝承者が必要だと、彼らの存在を世界が求めているのだと伝えた。現状は継承できるだけの人員があまりにも少ない。
「もう、誰かが犠牲になる必要はない……んですよね?」
「死死死ッ、その目で見たじゃろう? 妾達の雄姿、それこそが確固たる証左じゃ!」
「私達も最近目覚めたばかりなんだけどぉ、もしあなた達が協力してくれるならとっても心強いわぁ」
女性の確認にベリリは自分達が証拠であり、証人であり、動かぬ事実だと胸を張る。祀璃も戦力不足であると告げると、4人は互いの顔を見合わせ小さく頷いた。
「よーし、それじゃあ脱出ね。急いで外に出るわよ!」
恵弾芽は危険な雰囲気があると、やんわり長期滞在の危険性を伝えつつ、元来た道へミレニア達と4人を連れて走りだす。
先ほどの戦闘で手間取ってしまった分、早々に突破しようとワイルドスペースの境界線めがけて飛び込む。
――空は青。中天に輝く日輪が祝福するようにシュエメイ達を照らす。
脱出した4人の服装は作業着や制服などに変わっており、こっちが本来の姿だろう。
「ひゃぁ~、無事に済んでよかったわねぇ……っととぉ!?」
祀璃は腰が抜けたように尻もちをついた。
自分が思っていた以上に緊張していたことを改めて実感するが、これはまだ始まりに過ぎない。
彼らの戦いはこれからも続いていくのだから。
作者:木乃 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年12月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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