除夜のクレーシャ事件~ゆく酉来る鳥

作者:質種剰

●暮れる酉年
 大晦日の深夜。
 この日ばかりは、こぢんまりとした寺の境内もにわかに参詣客で賑わっていた。
「除夜の鐘を聞いて、年が明けたら初詣に行こうね」
「うん、深夜の初詣って良いわね、楽しみだわ」
 仲睦まじく語らうカップルや、参詣待ちで列に並ぶ人々、へそ石の側で記念写真を撮る家族連れなどなど、皆思い思いに過ごしていた。
 しかし。
 ごぉーーー……ん。
 除夜の鐘が鳴り始めた頃、突如、境内が騒がしくなった。
「酉年を終わらせてなるものか!」
 と豪語するビルシャナが現れて、除夜の鐘を打ち鳴らす住職を背後から襲撃。
「うっ……!」
「フハハハハ! 除夜の鐘は我が制圧した! これ以上鳴らさせてなるものか!」
 何と、除夜の鐘を占拠して居座ってしまったのだ。


「赤鉄・鈴珠(ファーストエイド・e28402)殿が予想なさっていらっしゃいましたが、大晦日に除夜の鐘を狙うビルシャナが出現すると、予知にて判明したであります」
 小檻・かけら(清霜ヘリオライダー・en0031)が複雑そうな面持ちで説明する。
 それらのビルシャナの目的は『除夜の鐘を占拠して鳴らさせない事によって、酉年が終わるのを阻止する』というものらしい。
「ビルシャナは除夜の鐘の制圧を狙っている為、参拝客を襲う事は無いでありますけれど、参拝客の方々が慌てて逃げられて将棋倒しになる可能性もあります」
 ビルシャナは、どのような障害があっても除夜の鐘を制圧するという強い意志を持っている為、たとえ除夜の鐘を突いているのが『ケルベロス』だとしても襲撃をかけてくるだろう。
「お寺さん側のご協力は既に得ました。除夜の鐘の周囲へ参拝客さんが近づかないようにする事、また除夜の鐘を鳴らすのをケルベロスに任せて頂ける事を約束して下さいました」
 つまり、除夜の鐘を鳴らして誘き寄せたビルシャナを迎撃するといった作戦が可能だ。
「ビルシャナは、ビルシャナ閃光と浄罪の鐘で攻撃してくるであります」
 理力に満ちた破魔の光である閃光は、複数の相手にプレッシャーをもたらす遠距離攻撃。
 敏捷性を活かした浄罪の鐘は、射程が長い上に複数人へダメージを与え、時にトラウマを具現化させる。ちなみにどちらも魔法攻撃だ。
「また、祝詞を唱えながら硬化した翼で斬りかかる『酉年弥栄祈願』も使ってきます。多くのダメージを与えて射程が長く、頑健さに優れた斬撃でありますが、酉年様と違って単体にしか当たりません♪」
 ビルシャナは『除夜の鐘の制圧』を目的としているのに加えて、戦場周辺は参拝客の立ち入りを制限している為、除夜の鐘を含むお寺の施設を攻撃される心配は無い。
 そのため、ケルベロスは戦闘に集中できる筈だ。
「ビルシャナは配下となる信者なども連れていませんし、戦闘力も弱めでありますから、皆さんでしたら苦戦なさらないでありましょうね」
 かけらはそう請け負ってから、
「このビルシャナは、除夜のクレーシャなるビルシャナの配下なのでありますよ」
 今回の事件の親玉についても補足した。
「除夜のクレーシャは除夜の鐘を武器とするビルシャナであります。日本全国の除夜の鐘を制圧した上に自らの持つ除夜の鐘と共鳴させる事で、日本各地にて酉年終わるの絶対許さない明王を出現させるのが野望みたいであります」
 除夜のクレーシャ本体の撃破には、別のケルベロスのチームが向かっている。
「それ故、酉年のビルシャナ事件は今回で最後になるでありましょう」
 かけらは説明を締め括ってから、ケルベロス達を激励した。
「折角ですから、戦闘後は除夜の鐘を皆さんでお突きになるのも良いやもしれませんね。それに、近所の神社へ初詣に行かれるのもお薦めでありますよ」


参加者
鵺咬・シズク(黒鵺・e00464)
シル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)
愛柳・ミライ(宇宙救済係・e02784)
レベッカ・ハイドン(鎧装竜騎兵・e03392)
テレサ・コール(黒白の双輪・e04242)
ガロンド・エクシャメル(災禍喚ぶ呪いの黄金・e09925)
宇原場・日出武(偽りの天才・e18180)
マティアス・エルンスト(次世代非力かわいい第二代団長・e18301)

■リプレイ


 大晦日も後1時間半で終わる寺の境内。
「除夜の鐘を妨害したところで、時は過ぎ新年になるというに……」
 そう抑揚の無い声音で呟くのは、マティアス・エルンスト(次世代非力かわいい第二代団長・e18301)。
「折角の年末年始を休暇返上で働かなければならないとは……文句を言っても仕方ないか」
 大人びた風情で苦笑いするものの、普段は年齢にそぐわないほど純粋かつ好奇心旺盛な、まさに少年の心を持ったレプリカントの青年だ。
「いつも以上に迷惑なビルシャナは、とっとと倒して皆と初詣に行こう」
 かように初詣を楽しみにしているマティアスは、いかにも普通の参拝客のフリをして、除夜の鐘近くの参道をうろついていた。
「ここがあの……、来るのは初めてです」
 レベッカ・ハイドン(鎧装竜騎兵・e03392)も、有名な観光スポットに興味を惹かれる様子で視線を巡らせている。
 見た目に違わずクールな性格だが、恋人への愛情表現はさらりとこなす、大人の余裕溢れるお姉さんだ。
「あ、はい、ケルベロスですよ。写真とかは撮ってもいいけど、危ないから近づかないようにしてくださいね」
 今も、遠巻きに手を振って話しかけてくる一般人達へ、レベッカは愛想良く対応していた。
「ゆっくり寝ていたいところだが、そうもいかんか。インソムニアで眠気はなしだ」
 と、防具特徴の力を借りて睡魔を撃退しているのは、ガロンド・エクシャメル(災禍喚ぶ呪いの黄金・e09925)。
 日頃からのんびりしていて泰然自若はかくやという人柄ながら、言うべき事ははっきり言える意思の強さも持ち合わせた、頼りになる竜派ドラゴニアンの男性である。
「さて、どこからお出ましになるつもりなのか……」
 そんなガロンドは翼を活かしてふわりと浮き上がり、除夜のクレーシャ配下が果たしてどこから襲い掛かって来るか見極めようと、目を光らせていた。
 その真下では。
「新しい年を迎えるために、今年の汚れは、今年のうちに」
 シル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)が、大掃除の極意のような事を呟きながら、深呼吸をして精神を集中させていた。
 蒼く長い髪と澄んだ大きな瞳が可愛らしい、ちょっと幼い雰囲気のシャドウエルフの少女。
 左手薬指に嵌めた約束の指輪も、爽やかな色調で纏めた服装と互いをよく引き立てて、シルを少しばかり大人っぽく見せている。
「そして、なにより、ビルシャナに新年を邪魔されてたまるかっ!」
 くわっと気合いを入れると同時に、シルの全身から強い殺気が広がっていく。一般人を戦場からより遠ざける為の殺界形成だ。
 さて。
「除夜の鐘鳴らすの初めてです」
 テレサ・コール(黒白の双輪・e04242)は、神妙な面持ちで除夜の鐘と厳かに向かい合っていた。
 いつもと変わらぬアンニュイな空気を醸し出しているものの、その無表情が微かに強張っているのは緊張のせいだろう。
 緊張と言ってもビルシャナの襲撃に対してでは無い。除夜の鐘を上手くつけるかが心配なのだ。
 何せ、生まれて初めて鳴らす除夜の鐘に今からワクワクの止まらないテレサ。
 傍らではライドキャリバーのテレーゼが、主を護ろうと懸命に周囲を警戒している。
「参ります!」
 テレサはふぅぅとゆっくり息を吐いてから、力を込めて鐘を突いた。
 ごぉーーー……ん!!
 重々しくも澄み切った高音が、辺りに響き渡った。
「ああいう煩悩塗れの奴を清める為にこそ、除夜の鐘が必要なんだろうな」
 それを聞きつつ、納得した様子で頷くのは、鵺咬・シズク(黒鵺・e00464)。
 しなやかな金のポニーテールと意思の強そうな赤い瞳が印象的な、刀剣士の少女。
 性格は短気で負けん気が強く男勝りな傍若無人。加えて『粋』なものを好む江戸っ子気質。
 但し、命を賭した勝負事だけは決して熱くならずクールに振る舞うそうな。
「さぁて……どこからでもかかって来やがれ!」
 気風の良い姐御肌なシズクは、口の中で呟きつつ除夜の鐘の周りを警戒、広い敷地を散策していた。
「酉年を褒める歌もありますが……日付変わりますから!」
 愛柳・ミライ(宇宙救済係・e02784)は、すっかり参拝客気分でうろうろと砂利道を歩き回っていた。
「……信じてる? so、信じてる。私も。口に出さずともわかってる、けれど、声になると嬉しい。絆、だから」
 ごぃーーー……ん!!
 酉年讃頌やら何やら小さく口ずさむ彼女の声を、タイミングよくテレサ渾身の除夜の鐘の音が掻き消していく。
「ポンちゃん、びっくりしました? 除夜の鐘、荘厳ですよね☆」
 驚いて身を竦ませるボクスドラゴンのポンちゃんの頭を撫で、楽しそうに微笑むミライだ。
「ああ、もうこのトシになると誕生日迎えたくないトシ取りたくないと思えば、確かに酉年終わらせたくないってのもちょっとはわかる気がする」
 宇原場・日出武(偽りの天才・e18180)は、除夜のクレーシャへ勝手な共感をして納得顔であった。
「まあ、たぶんわたしの意図とビルシャナの意図は違うような気はしておりますがねえ」
 げにもっともである。
 ツルツルに禿げ上がった頭と立派過ぎる腹を誇る、地球人のウィッチドクターな日出武。
 温厚そうに思えるのは見かけだけで本当は傲慢な性格、態度も常に他人を見下しているが、それは己のコンプレックスを隠す為であり、非常に打たれ弱いのだとか。
「ビルシャナも、どうせ襲うならバカップルにしておけバカップルに!!」
 日出武は偽らざる本音をぶちまけつつも、他の仲間同様に参道をうろついて、いつでも除夜の鐘へ駆けつけられるよう備えていた。


 ごぉーーー……ん!!
「鐘をつくテレサ、楽しそうだ……俺もやってみたくなってきた」
 除夜の鐘を聞いたマティアスが羨ましそうに洩らした、その時。
「酉年を終わらせてなるものかー!! 除夜の鐘は我が制圧するッ!!」
 除夜のクレーシャ配下のビルシャナが、砂煙を立てそうな勢いで、除夜の鐘目掛けてまっしぐらに突撃してきた。
「能く此の悪世に於いて、常しえに潰えぬ酉年を説く!!」
 配下ビルシャナ渾身の斬撃を食らったテレサは、無表情ながら羽毛一枚も通さない気迫で除夜の鐘を守っている。
「当たれっ!!」
 そして、反撃とばかりにジャイロフラフープ・オルトロス内の弾丸を撃ち出した。
 反動が大きい分高威力の弾が、配下ビルシャナの脇腹を容赦なく貫く。
 テレーゼもテレサと息を合わせて炎に覆われた車体を突進、配下ビルシャナに火傷を負わせた。
「攻撃フェーズ移行、戦闘を開始する」
 マティアスの声に無機質さが増すと同時に、Air Schuhe "Feder"を履いた足が地面を離れる。
「ゲフゥッ!?」
 光の尾を引き重力を宿した跳び蹴りが、ビルシャナのこめかみを正確に捉えて、その平衡感覚を奪った。
「ただでさえ人出の多い初詣がますます混雑しちまうからな。さっさと片をつけてやる!」
 シズクは威勢良く言い放って、二振りの斬霊刀を掲げる。
「遅いぜ、手羽野郎!」
 配下ビルシャナの懐に飛び込んで胸部を斬りつけ、空の霊力帯びし刃で傷口を正確に抉り広げた。
「除夜の鐘を盗んだぐらいで復活するとは……随分と安い命だな? 死神は通せんぼしてないのか?」
 と、至極真面目な顔で冗談を言うのはガロンド。
「ま、お前に聞いても分からんか」
 ——ザクッ!
 振り下ろした栄華を呑みし黄金牙が、奴の厚い鳩胸をも無慈悲に斬り割き、激痛を齎した。
 ミミックのアドウィクスも主の意思に忠実に、ビルシャナの太ももにガブリと食らいつき、動きを鈍らせようと奮闘している。
「うん、今年最後にまた通常営業なビルシャナが。迷惑なんでさっさと倒してしまいましょうね」
 冷静に呟くレベッカは、速攻撃破を目指して折り畳み式アームドフォートの主砲を向ける。
 ドドドドド——!!
 一斉発射された砲弾が吸い込まれるかのようにビルシャナの腹部へ全て命中、少なくない衝撃を与えた。
「立つ鳥後を濁さず……って、知ってるでしょう、に! ……いえ、例えケルベロスが相手でも引かないその根性だけは、立派だとは思うのですが」
 クッキーちゃんから『物質の時間を凍結する弾丸』を精製して、しっかりと狙い澄ますのはミライ。
「方向を間違えたのでは、鐘は、鳴りませんよっと!」
 ミライの手を離れた時空凍結弾は配下ビルシャナの顔面を撃ち貫き、何が起きたか理解していない表情のまま、そこだけ抜き出したたかのように凍りつかせた。
 その傍ら、ポンちゃんは清浄な翼を羽ばたかせて、テレサの怪我を治癒している。
「……ミライさん、信じてるからねっ♪」
 スナイパーとして攻撃に専念すべく、身軽に跳び上がるのはシルだ。
 ぱっかーーん!
 白銀戦靴『シルフィード・シューズ』で思いっきりビルシャナの後頭部を蹴り抜き、体力だけでなく機動力をも削ぎ落とした。
「やれやれ、さっさと全力で殴ってフルボッコにしますかねえ」
 日出武は、物言いだけなら悠然とした風情で、配下ビルシャナへ肉薄。
 パイルバンカーの螺旋力をジェット噴射させた勢いのまま、奴の丸い腹部を一息にぶち抜いた。
「さっさと倒して除夜の鐘を打つのじゃ!」
 氷点下の不思議な炎を放ち、配下ビルシャナを凍てつかせるのはマリー。
 ガイバーン・テンペスト(洒脱・en0014)も、フレイムグリードを放って、後方から体力を削っている。


 ごぉーーー……ん!!
 戦闘の合間にもテレサは鐘突きを忘れず、二度三度と時を告げる。
「……相手を見て喧嘩を売る事だ」
 マティアスは瞬時にプログラムを組み上げて、中空から出現させた無数の大剣を配下ビルシャナへ嗾ける。
 周りを囲んで集中的に降り注ぐ剣の雨は斬れ味鋭く、奴を逃がさず追尾して正確に斬り刻んだ。
「……大切なあの子から教えてもらったこのグラビティ。初めて使うけど、不安なんてどこにもない」
 恋人の事を思い浮かべながら、六芒増幅術(ヘキサドライブ)で自己強化するのはシル。
「離れていても一緒にいくよっ!!」
 練り上げた気と魔力を配下ビルシャナへ蹴りつけると共に解放、龍の形を成した気が配下の尻にしっかと喰らいつく様を見届けた。
「では撃ちますよ。勿論外しません」
 レベッカは慣れた手つきでニードルガトリングガンを連射。
 爆炎の魔力が篭った大量の弾丸を全て命中させて、配下ビルシャナを炎に包んだ。
「戌年は、無くさせません」
 除夜の鐘突きよりも戦闘の方が緊張しないらしいテレサは、不退転の覚悟で堂々と配下ビルシャナへ臨む。
 すらっと伸びた手足からミサイルポッドを出して、配下ビルシャナ目掛け大量のミサイルを放射した。
「どんなに願っても 涙は枯れはしない ゼロを1に変える魔法が 生まれたときから君に掛かってる」
 ミライは、『願望こそ、人類の原動力たることを証明する歌』を歌って、日出武の負傷を回復させた。
「消し飛びやがれ、この手羽野郎!」
 と、二刀を交差させるかの如く虚空を切り裂いて、剣風を飛ばすのはシズク。
「新しい秘孔の究明だ」
 日出武は、配下ビルシャナの急所と思われる箇所へ拳やら指やらをテキトーに叩き込んでいく。
 上手くやれば体内から破壊せしめる事ができるようで、配下ビルシャナも何語か判らない悲鳴を上げては、その死ぬ程の激痛に耐えかねて地面をのたうち回った。
 アドウィクスの武装具現化で、怨念の籠もった『ちーさいガロンドくん』を精製するのはガロンド。
 その特製ぬいぐるみ、通称チーガロくんは日頃の怨念を適当に纏うや、配下ビルシャナの懐に飛び込んで派手に自爆。
「やったか」
 かーーーん!
 配下ビルシャナを巻き込んだ盛大な爆発と同時に、辺りへ良い銅鑼の音が鳴り響いた。
 黒焦げになって地面へ倒れ臥したビルシャナの息は、絶えている。


 ごぉーーー……ん!!
「せっかくだから御籤でも引いてみるかな」
 シズクは、除夜の鐘突きをテレサから引き継いで力一杯鳴らすと、御神籤を1本引きに向かった。
『中吉……願望早く叶いて喜びあり。旅行いずれに行くも損なし。争事騒がずとも自ずから勝つ』
 新年から幸先の良い結果である。
 その後、除夜の鐘を突き終わったタイミングで、
「新年明けましておめでとうございます。折角ですから早速初詣に行きませんか?」
 マティアスの号令にて、皆して寺から程近い神社へ初詣に繰り出した。
「どんないわれがあるかは分からんが、黄金をわざわざ鳥居にするんだから、何かしら強い思いがあったんだろう」
 と、黄金の鳥居を見上げて感慨に耽るのはガロンド。
「願い事……願い事……? ま、僕の周りが無事ならそれで」
 一方。
「今年も、素敵な一年になりますように……」
 シルは、本堂のお賽銭箱へ5円玉を投げ入れて、真剣に手を合わせている。
「そして、あの子といつまでも一緒に、ね」
 彼女の脳裡を占めるのはいつも、愛しい恋人の事である。
 今回だって、恋人直伝の幸家・亢龍(六芒増幅術)があればこそ、最後まで戦い抜けた気もしているシルだから、恋人の幸せも入念にお祈りしたのだった。
 シルの次に参拝しに来たのはミライ。
「……神様嫌いの私が初詣にきてしまった。いえ、信じてはいます、が!」
 なんとなく空気を読み、流されるままに神社へ来てしまった自分が信じられない心地で、思わずぶんぶんと首を横に振ってしまう。
「べ、別に何も頼まないのです……!」
 神様のおわす本堂を前にして、まるでツンデレのようなセリフを吐けるミライの胆力というのも、なかなかのものだ。
「ただ……神様としてじゃなくて、先人として、見守っていてほしい、と」
 ミライは、すっごく恥ずかしそうに顔を赤らめて、静かに手を合わせた。
「私は、まぁ、いいですから、……皆が元気に過ごせますように」
 彼女の足元で、ポンちゃんが主に倣って神妙に頭を下げているのが、何とも微笑ましい光景である。
「さ、お願いも終わったし、折角だから何か食べていかない? わたし、屋台のご飯って好きなんだ~♪」
「いいですね~☆ 私も屋台で買い食いするの、大好きです、よ!」
 シルはミライを誘って屋台巡りに繰り出す。
 お好み焼きやたこ焼き、イカ焼き、玉子焼き、一銭洋食など、粉物フェスとでも言うべきラインナップの屋台達が、2人を待っていた。
 他方。
「おまたせ」
「ベッカ、おつかれさま」
 レベッカは、鳥居の前で待ち合わせていた連の肩を叩く。
「怪我してない? 本当に大丈夫?」
「まあこんなもんですよ、全く問題なしです」
 レベッカは笑顔で応じながら、自分を心配してくれる恋人を見つめる。
 浅黄色が主の振袖に襟巻きを巻いて、手に巾着袋を提げた連は、普段の快活さに和装ならではの艶やかさを添えたような、明るい華やかさに満ちていた。
「どうかな? 似合ってる?」
「うん、振り袖姿にあってますよ、可愛いですね」
 手放しで褒めるレベッカ自身は、シンプルに白のロングコートを纏っている。
 時間的に振り袖着る余裕もなかったですしね——と苦笑するも、充分デートに通用するようなシックでお洒落な装いに見えた。
「うん、ベッカは何着ても似合うねぇ。ちょっとエキゾチックなところがいいな」
 連はご機嫌でレベッカと腕を組み、参道を歩いて屋台を冷やかす。
 人混みに紛れてそっとキスも交わした。
「ああ、これが黄金の鳥居? 神道ってもっと質素なものだと思ってたけど、こういうド派手なものもあるんだね」
「ええ、なかなか珍しいですねえ。まあ神社もいろいろあるからこういう変わり種もあるんでしょうね」
「まあ、日本古来のものに金閣寺がある時点で、今更か」
 2人揃って見上げる黄金の鳥居は、夜空に映えてより金色が眩しく感じる。
「ここの御利益は、当然金運向上だよね」
「うん、それじゃ何かご利益ありそうなものを……財布でも買っていきましょうか」
「そうだね。ケルベロスな以上お金には困らないけど、被害者救済のための寄付するにしたって、元手は必要だもんね」
 仲睦まじく社務所のお守り売り場へ向かうレベッカと連。
 同じ頃。
 テレサは、皆で過ごす初めての初詣に期待を膨らませて、キラキラと目を輝かせ石段を登っていた。
「神様仏様眼鏡様……早く立派な眼鏡メイドになりたい、です。どうかなれますように見守っていて下さいませ眼鏡様……!!」
 お賽銭を奮発して願掛けする内容は、いかにもテレサらしくて、テレーゼがやれやれとデモ言いたそうにエンジンを吹かした。
 その後、初挑戦した射的の屋台では、しっかりおもちゃのサングラスをゲットしたテレサである。
「初詣、やはり賑やかだな……良いことだ」
 マティアスは、旅団員達と出かけて以来2年ぶりの初詣という事で、やはり気分が浮き立っている。
「さて、何を願おう……婚約者との平穏を願うか」
 始終御縁がありますように、と45円お賽銭をあげて祈るは、ゆるふわな雰囲気が可愛いレプリカントの事だ。
 その傍らでは、
「初詣の願い事は当然。わたしが天才である事を世に広く知らしめる事!!」
 真剣に手を擦り合わせて念じている日出武の姿があった。
 初詣の願掛けも人それぞれである。
「そのために賽銭も奮発して万札を……」
 日出武は吊りズボンのポケットからくしゃくしゃの万札を取り出すも、
「……………………やっぱ5円で」
 結局奮発する勇気は出なかったようである。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月9日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 3
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