星と命と永遠の証

作者:犬塚ひなこ

●飾る想い
 クリスマスを祝って街の広場に置かれたツリーには様々な装飾が施されていた。
 今年は少し特別で、ツリーのオーナメントの数々はすべて街の人達の手作り。思いを込めた品を飾ることで聖なる夜を素敵なものにしよう、という企画らしい。
 そうして飾り付けが施された、とある夜。
 深夜なので人気もなく、しんと静まり返った広場に招かれざる者達が訪れた。
「妙な装飾で飾られたクリスマスツリーなど愚の極み!」
 高らかに叫んだのは鳥の姿をしたデウスエクス、ビルシャナだ。その周囲には教義に賛同しているらしき男達が数人並んでいる。
「樹はそのままでも十分に美しい。ありのままこそが真理である!」
 己の主義を言葉にしたビルシャナに対し、信者達はそうだそうだと相槌を打つ。どうやら彼等はクリスマスツリーを飾ることをよしとしない者達らしい。
 ビルシャナは広場に立つ大きなツリーを見上げ、忌々しげな視線を向けた。そして――。
「よって、このようなものは即刻壊すべし!」
 宣言された言葉と共に街の人々が作り上げた倖せの形は無残に壊された。

●聖夜に光を
 ヘリオライダーの予知で視えたのはビルシャナが出現する未来。
 花道・リリ(合成の誤謬・e00200)は未来視されたという状況を仲間達に語る。
 額に手を当てるその様子は呆れているかのようだったが、彼女は特に表立った感情を悟らせなかった。
「……気に入らない輩ね。リルリカ、後はお願い」
 そして、リリはそれだけを告げると隣に座っていた雨森・リルリカ(花雫のヘリオライダー・en0030)に話を振る。はいっ、と答えた少女はリリが予見したクリスマスの手作りオーナメントがビルシャナに狙われる事件について話し出す。
「場所は街の広場です。敵が現れるのは真夜中なので、街の人はいない状況です」
 だが、敵は敢えてそれを狙って出現したという。
 目的は信者を集わせてツリーを壊し、自らの教義を暴力で行使しようとしている。其処で破壊が行われる前に駆けつけてビルシャナを倒して欲しいというのが今回の依頼だ。
 話に耳を傾けながら腕を軽く組み、ラウンジの壁に凭れかかっているリリをちらりと見て微笑んだ後、リルリカは更に続けてゆく。
 敵はビルシャナが一体。
 そして、教義に感化されたクリスマス嫌いの男信者が五人。ビルシャナはデウスエクスであり間違うことなき敵だが、男達は一般人だ。
「男の人達は戦闘になるとビルシャナを守るように参戦してきますです。でも、普通の人なのでケルベロスの皆さんが相手をするとすぐに倒れて……」
 死んでしまいます、と告げたリルリカは出来るだけ彼等を攻撃しないで欲しいと願った。今は破壊行為に手を貸そうとしているが男達も感化されているだけ。そのうえ、彼等はツリーに飾られたオーナメントの数々が街の人の手作りだと知らない。
「戦いの前に、または戦いながら説得をしてあげてください。皆さんの言葉が届けば男の人達は我に返ってビルシャナの味方をやめてくれるはずでございます」
 彼等も人の心がないわけではない。誰かの思いが籠ったものばかりなのだと知れば何人かは元に戻るだろう。後は飾られたツリーの良さなどを真摯に伝えてやれば良い。

 信者を無力化したら後はビルシャナを倒すのみ。
 敵は閃光や孔雀炎、氷輪などを用いて応戦してくるが全員でしっかりと連携を重ねれば怖い相手ではない。リルリカは、皆さまならだいじょうぶ、と拳を握ってめいっぱいの応援の姿勢を取った。
 言葉での返答はなかったが、リリはそっと頷いて期待に応える。
「説明は終わったわね。行きましょう」
 仲間をヘリオンに誘う声は短く素っ気ないように思えたが、彼女をよく知る者はちゃんと理解していた。リリもまた、皆と同様に幸せのかたちであるツリーを壊される未来を許すことができないのだ、と。
 常緑の樹は永遠を表し、生きる命を意味するもの。
 天辺の星は導きの光。ベルは祝いの喜ばしい音を告げるもの。世界を照らす光と言われるキャンドル、知恵の実を象徴する赤いオーナメントに、贈り物をいれる靴下。
 リースは終わりのない円を示し、永遠の愛のかたちとなる。
 そんなたくさんの尊い意味が込められたクリスマスツリーは聖夜に輝いているべきだ。
 そして、ケルベロス達を乗せたヘリオンは戦場に向けて出発した。


参加者
花道・リリ(合成の誤謬・e00200)
メイア・ヤレアッハ(空色・e00218)
ギヨチネ・コルベーユ(ヤースミーン・e00772)
泉本・メイ(待宵の花・e00954)
疎影・ヒコ(吉兆の百花魁・e00998)
角行・刹助(モータル・e04304)
野々宮・イチカ(ギミカルハート・e13344)
ルト・ファルーク(千一夜の紡ぎ手・e28924)

■リプレイ

●籠められた想い
 真夜中、クリスマスツリーに宿る淡い光がちいさく煌めく。
 平和と幸せを願う想いが込められた樹。その傍には今、大切な思いや心の籠った飾りを壊そうと狙う不届き者がいる。
「妙な装飾で飾られたクリスマスツリーなど愚の極み!」
 予知された未来では街のツリーは無残に壊されることになっていた。
 だが、今宵の運命は駆け付けた番犬達によって変革される。
「――よって、このようなものは即刻壊……」
「そこまでよ」
 ビルシャナの叫びを遮るようにして響いたのは花道・リリ(合成の誤謬・e00200)の凛とした一声。驚いたビルシャナは振り向き、その周囲にいた信者達も声の方向に視線を向ける。其処にはリリをはじめとしたケルベロスが集っていた。
 メイア・ヤレアッハ(空色・e00218)と泉本・メイ(待宵の花・e00954)は先ず信者達の目を覚まさせるべきだと考え、真剣な瞳を男達に差し向ける。
「そうね、この樹ももちろんすてきよ?」
「うん、樹はそのままでも綺麗だよ。でもね……」
「ここにあるものはどの飾りも手作りなんだよ。ね、ね! ほらこれとか、よく見て」
 メイ達の言葉を継ぐようにして野々宮・イチカ(ギミカルハート・e13344)はツリーの装飾達を指さした。少し歪な赤い実のオーナメント、可愛い飾りがたくさんつけられたリース、可愛いサンタ人形。
 信者達はそれを知らなかったのだろう。一瞬だけ戸惑いが見えた様子をルト・ファルーク(千一夜の紡ぎ手・e28924)は見逃さなかった。
「分かるだろ。この飾りは全部、この街の人達の思いが籠ってるんだ」
 その一つひとつが、聖夜をとびっきり素敵な一日にしようと心を込めて作った想いの結晶。ルトが蝋燭の飾りを見遣ると、ギヨチネ・コルベーユ(ヤースミーン・e00772)も淡く宿る光を見つめながら告げてゆく。
「これは神の子が世に齎す光であると云われている、とのこと。あなた方にも、私共にも、等しく闇を払う光で照らしてくださっているのでしょう」
 ギヨチネの静かで穏やかな言葉が紡がれていく中、ビルシャナは反論する。
「何を! そのような稚拙なもので光が齎されるものか!」
「そ、そうだそうだ!」
 敵の主張に信者達は賛同を見せた。しかし、その心は揺らぎはじめている。疎影・ヒコ(吉兆の百花魁・e00998)は肩を竦めて思いを語った。
「あと何日、と指折り数える中でツリーの飾り付けは重要な仕事だぜ。当日のワクワクを思い乍ら飾り付けた事は無いか?」
 問いかけたヒコの声に何人かがたじろぐ。おそらく幼い頃を思い出したのだろう。
 更に角行・刹助(モータル・e04304)がゆっくりと言葉を紡ぐ。
「景観に余計な装飾が無粋だという主張を否定はしないが。お前達の誤解は解きたい」
「誤解……?」
 否定しないと宣言した刹助の声に男が首を傾げる。
 聖夜の夜。一年に一度の催しで、喜びの気持ちを誰かと分かち合いたいと願う想いは皆同じのはず。それは親しい間柄以外の相手とでも構わない。通りすがりの誰かを華やかに飾られたツリーで笑顔にしたい。
 その誰かの中には信者達も含まれているのではないだろうか。
「このツリーは、見ず知らずの他人同士を繋げるかすがいだと俺は思う」
 刹助が樹を見上げると男達も自然と同じ方向に目を向けた。だが、ビルシャナが黙ってはいない。
「ええい、耳を貸すな。戯言だ!」
 敵が怒りのままに翼を大きく振るったことによって飾られていた天使のオーナメントが地面に落ちた。リリはころりと転がって来たそれを拾いあげ、そっと掌で撫でる。
「そうね。この不細工な天使は幼い子が作ったのかしらね」
「きっとそうだ。クリスマスに思いを馳せた子供たちが作った物ばかりだろうな。そんな大切でかけがえのない宝物を、自分たちのエゴで壊し、踏みにじるつもりなのか?」
「壊して良いものでないことくらいアンタらにも分かるでしょう」
 迷いを見せる信者にルトが疑問を投げかけ、リリも言葉で畳みかけてゆく。
 ツリーを壊す気でいた男達は明らかに迷っている。メイアはもう一押しだと感じて、ふわりと微笑んだ。
「樹だってきっと嬉しいと思うの。普段は足も止めず気にされることも少なくなりがちだけれど、皆の祈りと願いに飾られて、皆が思い思いに足を止めて……」
 そして、思いの篭った瞳で見上げられる。
 樹の思いを考えるならば嬉しくない訳がない。そのとき、メイアの想像に感化されたらしき信者の一人が静かに頷いた。
 その間にイチカはツリーに歩み寄り、リリから受け取った天使を飾り直す。改めて近くで見ると、どれも手作りでがんばって作ったのだろうとわかるものばかり。
「こんなに一生懸命につくられたものでも、妙なの?」
「妙に決まっているだろう!」
 対するビルシャナが口を挟むが、首を振ったイチカは最後の問いかけを投げる。
「特別な日に、少しだけ木にもおしゃれさせるだけだよ! それでもダメ?」
「……駄目ではないな」
「ああ、それくらいなら良いよな」
 すると、その言葉によって信者達が目を覚ます。メイは彼らが戦う気を失くしたと気付き、えへへ、と笑った。
「そうだよね、飾り付けの一つ一つに想いが籠ってる。クリスマスが楽しい日になりますようにって、笑顔が溢れますようにって」
 メイはふと、いつもツリーを家族で飾り付けすることを思い返す。大好きなお父さんとお母さんと弟と、そしてみんなが元気なことに感謝する。だからメイにとってツリーの灯は家族の温もりそのもの。
 少女の微笑みに頷き、ギヨチネは信者達に此処から去るよう示した。
「神の姿は見えないかも存じませんが、恐らくあなた方を護ることの出来るよう、私共も力を与えられたのかも存じませぬ」
 無益な戦いにあなた達を巻き込みたくはないのだと告げた後、ギヨチネはビルシャナを見据える。イチカや刹助も敵を瞳に映し、メイアは男達がこの場から逃げる様を見送った。
 さて、とビルシャナに視線を移したヒコは改めて告げる。
「きらめく『特別』にだって意味はある。シンプルも大切だが、彩り飾った人の想いも考えてみるクリスマスも悪かないぜ」
 尤もお前には届かない言葉だろうが、と零したヒコは軽く息を吐いた。
 ルトは信者に見限られたビルシャナを睨み付け、強い思いを言の葉に変えてゆく。
「クリスマスが嫌いだから否定する。それはお前の勝手だ。でも、そこに篭められた想いまで否定するのは間違ってると思うぜ」
「ぐぬぬ……貴様ら……!」
 怒りの籠った声から戦いの始まりを悟ったルトは敵の動きに注視した。
 刹那、ビルシャナが激しい孔雀炎を解き放つ。
 リリは自分を狙う炎を敢えて受け止め、その衝撃を軽くいなした。ふとリリの裡に浮かんだのは卑怯な手を使って幸せを壊そうとした敵への思い。
「ここへ来るならば、こんな闇討ちまがいなことではなく、聖夜に紛れなさい」
 そして――冷たく落とされた言葉と同時に、反撃の一閃が放たれた。

●光の導き
 リリが撃ち込んだ竜槌の一撃が敵を穿ち、その身を揺らがせる。
 信者が去った今、ビルシャナは一体きり。油断や慢心さえしなけれ勝てる相手だ。負けないの、と気合いを入れたメイアは相棒竜を呼び、仲間の援護にまわる。
「コハブ、わたくしと一緒に守りを固めてね」
「こっちからも行くぜ」
 其処へヒコが薄く笑み、宙に掌を掲げた。
 メイアとヒコが織り成すのはまるで空から降る雪のように舞う紙兵達。ひらひらと躍る守りの一手に加え、コハブが施す竜の力がリリを包み込む。
 その間にギヨチネが天空高く飛び上がり、その身に虹を纏った。
「覚悟して頂きましょう」
 冷静に相手の動きを見極めたギヨチネはビルシャナを鋭く穿つ。それによって怒りを覚えた敵は彼を狙い打つようになった。
 ギヨチネが標的を引き付けてくれている最中にメイは星の力を紡ぐ。
「クリスマスを悲しいものにしては駄目だよね。あのツリーには、大好きの気持ちがキラキラ輝いてるんだもん」
 きっと、どんなツリーも温もりに満ちている。
 見上げた時に心が温かくなるのは皆の大切な想いが伝わってくるからだから、とメイは懸命な思いを力に変えた。
 そして、次の瞬間。耀く銀漢が光の奔流となって敵に浴びせかけられる。
「小癪な、憎きケルベロス共め!」
「させないよ!」
 痛みを堪えたビルシャナは身を翻して閃光を放ち返した。だが、その動きを逸早く察知したイチカが雷壁を張り巡らせながら仲間を守りに駆ける。それによって自分が受けるはずだった衝撃が肩代わりされ、ルトはイチカに礼を告げた。
 敵を強く見据えたルトは地面を蹴り、夜闇の狭間に飛翔する。
「オレは人の心を踏みにじる、お前みたいなデウスエクスが大嫌いだ」
 翼をはためかせて勢いを付けたルトは真っ直ぐに言い放ち、流星を思わせる蹴撃で以てビルシャナを穿った。
 それを見た刹助は、見事だ、と少年の一撃に賞賛を送る。
「俺はシングルベルの予定だからまあいいんだが、悪事は看過できなくてな」
 そして、刹助は怪力乱神を解放した。霊薬を散布することによって仲間達に加護が宿り、攻防は幾度も巡ってゆく。
 暗く苦しい世の中だからこそ、懸命に生きる人々の営みに心が暖まることもある。
 それを守りたい、と行動で示した刹助の思いをギヨチネは肌で感じ取っていた。其処から彼は理力を籠めた星の力を放ち、続いたヒコが更なる援護に入る。
「主張だけで済めば良かったんだがな」
 残念だ、と好戦的かつ挑発を込めた眼差しを向けたヒコは彩りに満ちた翼を大きく伸ばし、極光の癒しを広げていった。
 自分の所に届いた力を感じ、イチカはそっと笑む。ヒコの気遣いは言葉を交わさずとも解る。そして、イチカは敵に狙いを定めた。
「ありのままなのも飾ったところも、どっちも好きになったらいいのになあ」
 だが、目の前の存在はそうすることが出来なかったのだろう。
 イチカが放った心電図めいた焔から頼もしさを感じたメイアは神鳴の雷獣を呼び、メイも截拳撃を与えに向かう。
「ライちゃんにコハブ、それにメイちゃんとリリちゃんも一緒に」
「うん、合わせていくよ!」
 メイ達に機を合わせたリリも容赦はしないと決め、魔力を解放する。
「着飾ったツリーってのは、彼らの幸せや笑顔の種なのよ。それを潰す権利があると思って?」
 熱の悴みを敵に齎すリリが幾らか饒舌なのは、おそらく信頼に値する仲間達が傍にいるからだ。刹助も其処に続き、再び霊薬の力を拡げていった。
「ツリーに輝きを灯す彼等の真心から、喜びを分けてもらっているのさ」
「ああ、その思いや心を壊させはしない」
 刹助の言葉に同意を示したルトは負ける気がしないと感じる。そして、ルトは腰に携えたジャンビーアを構えて鍵のように回転させた。
「皆、今だ。終わらせてやろうぜ!」
 凛とした声が響き渡った刹那、雷鳴が轟く漆黒から終焉を呼ぶ一撃が放たれる。
 ――夕映え輝く空に、燦たる不浄の断末魔を識る。
 敵が揺らいだ隙にギヨチネが結界を張り巡らせ、死の瞬間をビルシャナに魅せた。
「ぐ……こんな所で、私は……」
「さあ、此処に終幕を」
 苦しげに呻く敵を一瞥したギヨチネは短く告げ、お願いします、と仲間に願う。その言葉を受けたヒコは涅槃の西風を戦場に吹かせてゆく。
「おやすみ。善き眠りを」
 次はも少し寛容に楽しく生きられるようになると良い。そんな思いを込めて放たれた風は慕情にも似た甘き痺れとなり、敵に終わりを齎した。

●倖せの形
 こうしてビルシャナは倒れ、街のクリスマスツリーは護られた。
「何とか終わったな」
「呆気ない最期ではありましたが、冥福を願います」
 ルトは短剣を腰の鞘に戻し、ギヨチネも竜槌を下ろす。これで事件が解決できたのだと実感したヒコも翼を折り畳んで戦闘態勢を解いた。
 そして、仲間達は樹の輝きに目を向ける。
 明滅するやさしい光は平穏の証のように見え、刹助は僅かに双眸を細めた。
 其処にふと、先程の男達が戻ってきていることに気付いた刹助は彼らの元へと歩み寄った。破壊に加担しようとしたことは気にするなと告げ、刹助は語る。
「お前達の人生は未だ半ば。少なくとも、俺よりは長生き出来るだろう。これから先の未来に、幸いが在る事を祈っている」
「なんと優しい……」
「兄貴と呼ばせてください! 一生付いていきます!」
「いや、遠慮する。もう帰れ」
 感銘を受けたらしき男達は感動を伝えたが、刹助は静かに首を横に振った。
 そんなやりとりを眺めながら、リリはメイア達にお疲れさま、と労いの言葉を掛ける。イチカも不思議なおかしさを覚えつつ、皆に笑顔を向けた。
「ねえねえ。ツリー、ちょっとだけ一緒に見てこうよ!」
 仲間達を呼んだイチカは、戦いの中ではちゃんと見れなかったから、と言って樹の近くへと駆けていく。其処に続いたメイはもちろん、と笑ってツリーの傍に寄る。
「わあ、優しい光なの」
 飾られている物もどれもがあたたかく感じられ、メイはちいさな幸せを感じる。
 皆の大事な想いや心も聞けて嬉しい。仲間達の言葉を思い出したメイは楽しい気持ちがいっぱいになっていくことを感じた。
「わたくし、クリスマスツリー好きよ。きらきらできれいで、思いと願いに彩られて……」
 ね、コハブ、と匣竜を抱いたメイアは淡く微笑む。
 そしてメイアはそっと願う。わたくしたちの想いや街の人たちの想いが、ちゃぁんと通じますように、と。
 イチカは暫しオーナメントを眺め、この中にたくさんの心が籠められているのだと感じる。永遠は信じていない。またたく間、このときこそがすべて。
 だけどそれが続くなら、積み上げていったなら、きっとそれは、もしかしたら――。
 ルトも聖夜に思いを馳せ、幸せが満ちる日を思う。
「踏み躙られなくて良かったな。きっとさ、こういうものが俺達が護るべきものなんだ」
 そういって明るく笑ったルトの表情は快かった。
 ヒコもその通りだと答え、暫しツリーを眺める穏やかな時間を過ごす。
「遅くなる前にそろそろ戻るか」
 この時期はどこも綺麗に飾り付けられているだろう。帰り道も楽しみだと零したヒコは皆を誘い、帰路を示した。
 ギヨチネは頷き、最後に、とツリーに仲間の平穏な日々を祈る。そうして、ギヨチネは小さな星飾りをこっそりと樹に飾った。
 星の存在に気付いたリリも同じ事を考えていた。去る間際に彼女が飾ったのは紅い実が付いたち愛らしいリースだ。
 独りだった過去を思い、現在と比べてみる。昔との違いは上手く言葉にすることが出来なかったが、リリは今も悪くはないと感じていた。
「……メリークリスマス、なんてね」
 そして、リリは先を行く仲間の元に歩き出す。
 未来を照らす星の煌めき、命を示す常緑の樹、そして環になる永遠のかたち。
 聖なる夜に込められた想いは、きっと――何よりも尊い。

作者:犬塚ひなこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 0
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